| 判例全文 | ||
| 【事件名】漫画無断配信取締役責任追及事件(2) 【年月日】令和7年8月28日 知財高裁 令和7年(ネ)第10015号 損害賠償請求控訴事件 (原審・東京地裁令和4年(ワ)第70097号) (口頭弁論終結日 令和7年6月24日) 判決 控訴人 X1(以下「控訴人X1」という。) 控訴人 X2(以下「控訴人X2」という。) 控訴人 X3(以下「控訴人X3」という。) 上記3名訴訟代理人弁護士 平野敬 被控訴人 Y 同訴訟代理人弁護士 細井大輔 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 (1)被控訴人は、控訴人X1に対し、19万8411円及びこれに対する令和5年3月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 (2)被控訴人は、控訴人X2に対し、80万1667円及びこれに対する令和5年3月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 (3)被控訴人は、控訴人X3に対し、671万7159円及びこれに対する令和5年3月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 (4)控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、控訴人X1と被控訴人との関係では第1、2審を通じてこれを5分し、その1を被控訴人の、その余を控訴人X1の各負担とし、控訴人X2と被控訴人との関係では第1、2審を通じてこれを5分し、その1を被控訴人の、その余を控訴人X2の各負担とし、控訴人X3と被控訴人との関係では第1、2審を通じてこれを5分し、その4を被控訴人の、その余を控訴人X3の各負担とする。 3 この判決は、第1項(1)ないし(3)に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 【略語】 略語は、特記するもののほか原判決の例による。 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人X1に対し、95万8869円及びこれに対する令和元年9月17日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人X2に対し、430万6596円及びこれに対する平成30年3月12日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 4 被控訴人は、控訴人X3に対し、793万4535円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、控訴人らが、被控訴人に対し、被控訴人又は被控訴人が代表者兼取締役として登記されているレッド社(米国ハワイ州の法律に基づいて設立された米国法人)が、インターネット上に開設された本件サイト(別紙1ウェブサイト目録記載の6サイト)に、控訴人らの著作物である本件漫画(別紙2著作物目録1、別紙3著作物目録2及び別紙4著作物目録3記載の全14作品)を許諾なく掲載し(以下、この掲載行為を「本件掲載行為」という。)、控訴人らの著作権(公衆送信権)を侵害したと主張して、民法709条(主位的請求)及び会社法429条1項(第1次予備的請求として現任の取締役としての責任、第2次予備的請求として退任した取締役としての責任)に基づく損害賠償として、控訴人X1につき、95万8869円(一部請求)及びこれに対する令和元年9月17日(本件漫画1に係る最後の掲載行為がされた日)から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害金、控訴人X2につき、430万6596円(一部請求)及びこれに対する平成30年3月12日(本件漫画2に係る最後の掲載行為がされた日)から支払済みまで同割合による遅延損害金、控訴人X3につき、793万4535円(一部請求)及びこれに対する令和3年4月15日(本件漫画3に係る最後の掲載行為がされた日)から支払済みまで同割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 原審は、被控訴人又はレッド社が本件掲載行為をしたとは認めるに足りず、仮にレッド社が本件掲載行為に関与していたとしても、被控訴人は、本件掲載行為当時、レッド社の業務に関与していた、あるいは業務執行状況や会計状況等を把握していたとは認められないから、取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとはいえないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴を提起した。 2 前提事実 前提事実は、原判決「事実及び理由」の第2の2(3)イ(4頁)の項の末尾に改行して以下の補正を加えるほかは、「事実及び理由」の第2の2(2頁〜)に記載するとおりであるから、これを引用する。 (原判決の補正) 「ウ 本件サイトに掲載された漫画の作品数の推計は、令和2年2月19日当時、本件サイト2につき1万1484作品、令和3年8月19日当時、本件サイト1につき1万2645作品、本件サイト3につき1427作品、本件サイト4につき1993作品、本件サイト5につき5469作品、本件サイト6につき1727作品であった(甲7の1〜6、甲21の2)。 エ 本件サイトには、いずれも同一のトラッキングID(ウェブサイトの訪問者数及びその属性を調査解析するために、ウェブサイトの運営者によって埋め込まれる識別子)が埋め込まれていた(甲33〜35、弁論の全趣旨)。」 3 争点 原判決「事実及び理由」の第2の3(5頁)に記載するとおりであるから、これを引用する。 第3 争点に関する当事者の主張 以下のとおり当審における当事者の補充的主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」の第2の4(5〜17頁)のとおりであるから、これを引用する。 1 争点1(不法行為の成否)について 【控訴人らの主張】 原判決は、被控訴人が、本件掲載行為にどのように関与したか不明であるとして不法行為責任を否定するが、被控訴人は、海賊版サイトの運営に必要不可欠な道具である本件口座を、唯一の署名権者として支配していた者であり、これによって本件サイトによる不法行為を助長促進していたのであるから、たとえ本件掲載行為をした者が別に存在するとしても、共同正犯あるいは幇助犯として不法行為責任を免れない。 【被控訴人の主張】 本件口座の管理者が本件サイトの運営、管理等に関与していたかどうか、レッド社が本件サイトの運営をしていたかどうか、いずれも不明であり、控訴人らの主張は憶測にすぎない。 2 争点2−1(現任の取締役としての責任の有無)について 【控訴人らの主張】 被控訴人は、設立以来現在に至るまで、レッド社の唯一の役員として登記されている者であり、かかる登記記載事項は反対証明のない限り真実であるとの推定を受ける。被控訴人が、被控訴人以外の者がレッド社を支配しているという事実について反証していない以上、被控訴人がレッド社の唯一の支配者であるという事実を前提として判断がされるべきであった。しかしながら、原判決は、被控訴人が自署であることを争っていないにもかかわらず、小切手(甲64)の署名者が被控訴人であることを否定し、第三者が被控訴人の転居先住所を特定してレッド社の取引先に伝えたという被控訴人でさえ主張していないストーリーを採用し、被控訴人がレッド社の実情を把握していたとは認められないとして、取締役としての責任を否定したが、会社を放置して業務や実情に無知・無関心であったことは、取締役の責任を何ら免責しない。 【被控訴人の主張】 レッド社が本件サイトの運営に関与していたかどうかは不明であるし、また被控訴人がレッド社の運営及び管理に関与していた証拠は一切なく、被控訴人に責任を負わせる理由はない。 3 争点2−2(退任した取締役としての責任の有無)について 【控訴人らの主張】 原判決が、被控訴人にレッド社取締役としての権利義務を認めつつ、レッド社を放置していたことを理由に免責するのは端的に矛盾であり、前記2で述べたとおり、放置したこと自体が重大な過失といわなければならない。 【被控訴人の主張】 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 当裁判所は、控訴人らの請求は、控訴人X1につき19万8411円及びこれに対する令和5年3月24日から支払済みまでの遅延損害金、控訴人X2につき80万1667円及びこれに対する同様の遅延損害金、控訴人X3につき671万7159円及びこれに対する同様の遅延損害金の各支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。 1 認定事実 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」の第3の1(17〜20頁)に記載するとおりであるから、これを引用する。 (原判決の補正) (1)原判決「事実及び理由」の第3の1(2)イ(19頁)を次のとおり改める。 「イ 小切手の振出 レッド社は、平成27年10月3日から令和6年1月12日にかけて、ファーストハワイアンバンクが発行した小切手合計29枚(以下「本件各小切手」という。)を振り出し、本件口座から、年次報告書の作成・提出に係る費用、確定申告に係る費用、基準調査対応に係る費用、ハワイ州徴税局に対する税金等の各支払のために、総額2万8126.23ドルを出金した(甲64)。 本件小切手には、いずれも被控訴人の自書による署名がある(原審における被控訴人本人尋問〔調書5、17頁〕)。」 (2)原判決「事実及び理由」の第3の1(3)ア(19頁)の末尾に、次のとおり加える。 「 どんぐり社が、本件口座に入金した広告料のうち、令和3年4月分は26万2578円(2327.82ドル)であった(甲13の2、65)。」 2 争点1(不法行為の成否)について (1)準拠法について 原判決「事実及び理由」の第3の2(1)(20頁)の説示のとおりであるから、これを引用する。 (2)被控訴人が本件掲載行為に関与したか否かについて ア 本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」の第3の1(2)ア及び同(3)アで認定した事実によれば、被控訴人が平成15年3月18日に開設したレッド社名義の本件口座に、令和3年以降、広告代理店であるどんぐり社から、本件サイトに係る広告料収入が入金された事実が認められる。一方、この広告料収入を被控訴人個人が収受したと認めるに足りる証拠はなく、その他、被控訴人が本件サイトの開設・運営に関与したことを具体的にうかがわせる事実は認められない。 イ また、レッド社の法人格は形骸化しておらず、レッド社の行為を代表者である被控訴人の行為と同視できないことは、原判決「事実及び理由」の第3の2(3)(21〜23頁)の説示のとおりであるから、これを引用する。 ウ したがって、被告訴人が、自ら、あるいは第三者と共謀して、本件掲載行為を行ったとは認めるに足りない。 3 争点2−1(現任の取締役としての責任の有無)について (1)準拠法について 原判決「事実及び理由」の第3の3(1)(23〜24頁)の説示のとおりであるから、これを引用した上で、末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「また、レッド社は、会社法2条2号所定の外国会社に当たるところ、同法429条1項には、外国会社に適用される旨が明記されていない。しかし、同条は、前記のとおり、会社と関係を有しない外部の第三者との間の関係を規律する点において不法行為に基づく損害賠償責任と変わるところはないから、通則法の規定により日本法が適用される場合には、民法709条と同様に、外国会社であるレッド社の取締役についても適用されると解するのが相当である。」 (2)レッド社が本件掲載行為に関与したか否かについて ア 本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」の第2の2(3)(3〜4頁)、同第3の1(3)ア(19頁)で認定した事実によれば、本件サイトは、@同人誌に収録された漫画等を掲載して無料で公開しており、掲載する作品数は、本件サイト1及び2につき各1万作品超、本件サイト3ないし6につき各1000作品超であったこと、Aいずれも同一のトラッキングID(ウェブサイトの訪問者数及びその属性を調査解析するために、ウェブサイトの運営者によって埋め込まれる識別子)が埋め込まれており、同一の運営者によって管理されていたこと、Bどんぐり社を広告代理店として広告を掲載していたことが認められる。 これらの事実によれば、本件サイトは、本件漫画を含む大量の漫画を無料で公開し、サイトの訪問者を増やすことによって、より高い広告料収入を得る目的で開設・運営されていたと推認することができる。そうすると、本件サイトに掲載された広告に係る広告料収入を得ていた者は、本件サイトの開設・運営に深く関与していたと推認できるところ、前記原判決第3の1(3)アのとおり、レッド社は、令和3年以降、広告代理店であるどんぐり社から、本件口座に入金させることによって、上記広告料収入を得ていたと認められる。 また、本判決で補正の上引用する原判決「事実及び理由」の第2の2(4)イ及び第3の1(1)で認定した事実によれば、被控訴人は、@レッド社の設立時(平成14年12月16日)、唯一の取締役として選任されるとともに、社長、副社長、財務役、秘書役及び執行役との役職を有する唯一の執行役員に選任され、令和5年3月16日時点においても、その旨登記されていたこと、A平成15年11月から令和4年12月にかけて、ハワイ州商業消費者省に対し、レッド社の執行役員及び取締役として、同社の各年分に係る年次報告書を提出したこと、B平成15年3月18日に、ファーストハワイアンバンクにレッド社名義の本件口座を開設し、平成27年10月3日から令和6年1月12日にかけて、レッド社名義の小切手合計29枚を振り出して、本件口座から総額2万8126.23ドルを出金したことが、それぞれ認められる。 これらの事実によれば、被控訴人は、レッド社の唯一の取締役として、その業務状況を把握し得る立場にあったとともに、本件口座の存在を認識し、どんぐり社から本件サイトに係る広告料の入金がされた令和3年当時も、本件口座からレッド社の業務に必要な支払をしていたと認められる。そうすると、被控訴人は、本件口座にどんぐり社から広告料が入金されていた理由が、仮にレッド社が本件サイトの開設・運営に関与していたこと以外にあるのであれば、それを主張・立証することが可能な立場にあるといえ、それにもかかわらず、何らこれを主張・立証していないのであるから、レッド社が本件サイトの開設・運営に深く関与していたとの上記推認は妨げられない。 したがって、レッド社は、自ら、あるいは第三者と共謀して、本件掲載行為を行ったと認めるのが相当である。 イ これに対し、被控訴人は、平成15年3月ないし8月頃にレッド社の代表者兼取締役を辞任により退任し、それ以降はレッド社には一切関与しておらず、本件口座を含むレッド社名義の預金口座を使用したこともない旨主張し、原審における本人尋問において、本件各小切手の署名は一度に記載したものであり、個々の振出行為には関与していない旨供述する(原審における被控訴人本人尋問調書18頁)。 そこで検討するに、被控訴人の、平成15年3月ないし8月頃にレッド社の代表者兼取締役を辞任により退任した旨の供述は、客観的裏付け及び具体性を欠いて採用することができないことは、原判決「事実及び理由」の第3の3(2)イ(イ)a(b)(29頁〜)記載のとおりであるから、これを引用する。 また、本件各小切手に記載された被控訴人の署名は、1枚の小切手上のその他の記載(支払先、日付、ただし書)とは同じ筆記用具を用いて記載されていると認められる一方、小切手同士を比較すると異なる筆記用具で記載されたと認められるものが複数存在しているから(甲64)、本件各小切手は振出しの都度、記入されたと認められ、被控訴人の上記供述は信用できない。 したがって、被控訴人の主張は採用できない。 (3)被控訴人がレッド社の取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったかについて 前記(2)イで述べたとおり、レッド社の取締役を辞任した旨の被控訴人の主張は採用できず、本件掲載行為が行われた平成27年8月15日から令和3年4月15日までの間、被控訴人はレッド社の取締役であったと認められる。 取締役は、会社に対し、善管注意義務を負い(会社法330条、民法644条)、会社の事業において第三者の著作権等の権利を違法に侵害しないよう注意する義務を負うところ、被控訴人が、レッド社による本件掲載行為(本件漫画に係る公衆送信権侵害行為)を防止する措置を何ら講じなかったことは、取締役としての任務懈怠に当たる。 また、前記のとおり補正した上で引用する原判決「事実及び理由」の第3の1(3)ア(19頁)によれば、本件口座に入金された広告料は、1か月分で26万2578円であり、年に換算する300万円近くに上ると推認されるところ、被控訴人が、レッド社のこのような多額の広告料収入につき、その広告掲載先である本件サイトを調査しなかったとすれば、少なくとも重大な過失が認められるというべきである。 したがって、被控訴人は、会社法429条1項に基づき、控訴人らに対し、損害賠償義務を負う。 4 争点3(控訴人らの損害の有無及びその額)について (1)逸失利益(著作権法114条1項に基づく算定) ア 本件漫画の譲渡等数量(侵害受信複製物の数量) 控訴人らは、本件サイト1及び本件サイト2については、本件漫画1(枝番を含む、以下同じ。)及び同2につきマイページに登録された数を、本件サイト3ないし6については、本件漫画3が閲覧された総回数の10分の1を、それぞれ侵害受信複製物の数量とすべきであると主張する。 そこで検討するに、著作権法114条1項1号が定める「侵害者が行った侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物(中略)の複製物」(侵害受信複製物)とは、その文言上、受信者が公衆送信された電磁データをダウンロードして作成した複製物を意味すると解するのが相当であり、受信者が公衆送信された電磁データを閲覧するのみでは、複製物を作成したということはできない。証拠(甲7〜10)によれば、本件サイトは、掲載された漫画作品を閲覧する際に、これをダウンロードする仕組みを備えておらず、本件漫画がダウンロードされた事実は認め難い。 一方、当該著作物に係る電磁データを、公衆が望むときにいつでも受信して閲覧できる状態で公衆送信することは、公衆にとって、当該電磁データをダウンロードして手元に置くことと大差のない状況を作出し、著作権者による正規品の販売を阻害する点で、当該電磁データの複製物が作成された場合と変わるところはない。これに加え、同法114条の趣旨が、著作権者による損害額の立証の負担の軽減を図る点にあることからすれば、同条を類推適用して、当該著作物が掲載されたウェブページの閲覧数等の一定割合をもって「侵害受信複製物」の数量とすることができると解するのが相当である。 (ア)本件サイト3ないし6について a 本件漫画3の1か月平均PV数 SimilarWeb社による推計結果(甲18)によれば、本件サイト3ないし6の、令和3年5月から同年7月までの3か月間の平均訪問数及び1訪問当たりの閲覧ウェブページ数(PV)は、別紙5「(a)訪問者数(3か月平均)」欄及び「(c)1訪問当たりのPV数」欄に各記載のとおりである。これらによれば、本件サイト3ないし6の1か月平均のPV数は、同別紙「(d)PV数(1か月平均)」欄に各記載のとおりである。 また、証拠(甲7の3〜6)によれば、令和3年8月19日時点における、本件サイト3ないし6の1頁に掲載された作品数及び総頁数は、別紙5「(e)1頁当たりの掲載作品数」欄及び「(f)サイト内の総頁数」欄に各記載のとおりである。これらによれば、本件サイト3ないし6に掲載された作品数は、同別紙「(g)サイト内掲載作品数」欄に各記載のとおりである。 さらに、本件サイト3ないし6に掲載された1作品当たりの月平均PV数は、別紙5「(h)1作品当たりの平均PV数/月」欄に記載のとおりである。 b 本件漫画3の総PV数 証拠(甲10)によれば、本件サイト3ないし6に本件漫画3の掲載が開始されたのは、別紙6−3「(a)掲載開始日」欄記載のとおりであり、令和4年12月末日までの掲載期間(単位:月)は同別紙「(b)R4.12.31までの掲載期間(月)」欄記載のとおりである。 これに、上記aで算出した本件漫画3の1作品当たりの平均PV数/月(別紙5「(h)1作品当たりの平均PV数/月」欄記載の数値)を乗じれば、掲載期間を通じた1作品当たりの総PV数が算出され、その結果は、別紙6−3「(d)掲載期間総PV数」欄記載のとおりである。 c 侵害受信複製物の数量 上記bのとおり算出した本件漫画3の総PV数は、SimilarWeb社が推計したPV数、及び一時点(令和3年8月19日)における掲載作品数を基に、全掲載作品を平均して算出したものであり、実際のPV数は、作品や時期によるばらつきがあったと認められる。また、本件サイトは漫画を無料で閲覧させるものであり、作品を購入する意図なく、その内容を閲覧する需要者も少なくなかったと考えられる。 以上の事情に照らすと、本件漫画3の侵害受信複製物の数量は、総PV数の5%と認めるのが相当であり、その具体的な数量は、別紙6−3「(e)侵害受信複製物の数量」欄記載のとおりである。 (イ)本件サイト1について a 本件漫画1及び2がマイページに登録された数 証拠(甲8の1〜5、甲9、19)によれば、本件サイト1には、訪問者が掲載された作品のうち気に入ったものをマイページに登録する機能が存在し、本件漫画1及び2のマイページ登録数は、別紙6−1及び2「(a)マイページ登録数」欄に各記載のとおりである。 b 侵害受信複製物の数量 本件漫画1及び2をマイページに登録した者は、同作品に対する愛着が強く、何度も読み返したいという欲求を有していたといえるから、本件漫画1及び2が本件サイト1にて無料で公開されていなかった場合には、マイページに登録せずに閲覧した者に比して、本件漫画1及び2の正規品を購入した可能性が高いといえる。 こうした点を考慮すると、本件漫画1及び2の侵害受信複製物の数量は、マイページ登録数の10%と認めるのが相当であり、その具体的な数量は、別紙6−1及び2「(b)侵害受信複製物の数量」欄記載のとおりである。 (ウ)本件サイト2について 証拠(甲7の2、8の6)によれば、本件サイト2には、本件サイト1と同じくマイページに登録する機能が存在したが、マイページに登録された数は明らかではなく、また令和3年8月までに閉鎖されたため、PV数を推計することもできない。 一方、本件サイト1と本件サイト2は、掲載された作品数の規模(約1万作品超)、作品の種類(女性向けの作品であること)が共通しているから(甲7の1、7の2)、本件サイト2に掲載された本件漫画1−1のマイページ登録数は、本件サイト1に掲載された本件漫画1−1のマイページ登録数を下回らないものと認めるのが相当である。 したがって、本件漫画1−1の侵害受信複製物の数量は、本件サイト1におけるマイページ登録数の10%と認めるのが相当であり、その具体的な数量は、別紙6−1「(b)侵害受信複製物の数量」欄記載のとおりである。 イ 本件漫画に係る単位数量当たりの利益額 (ア)卸値 証拠(甲1〜3、23)によれば、控訴人らは、本件漫画を同人誌用書店に委託して販売しているところ、本件漫画が売れた際に、書店から控訴人らに支払われる金額(卸値)は、販売価格の70%であると認められる。 証拠(甲1〜3)によれば、本件漫画の販売価格(税抜)は、別紙7「(a)販売価格」欄記載のとおりであり、この70%である卸値は、同別紙「(b)卸値」欄記載のとおりである。 (イ)1冊当たりの印刷費 証拠(甲1〜3)よれば、本件漫画の印刷費(税抜)及び印刷部数は、別紙7「(c)印刷費」及び「(d)印刷部数」欄記載のとおりであり、本件漫画1冊当たりの印刷費は、同別紙「(e)1冊当たりの印刷費」欄記載のとおりである。 (ウ)単位数量当たりの利益額 以上によれば、本件漫画の1冊当たりの利益額は、別紙7「1冊当たりの利益額」欄記載のとおりである。 ウ 逸失利益額 本件サイト1ないし6に掲載された本件漫画(全14作品)に係る、それぞれの侵害受信複製物の数量(上記ア)に、1冊当たりの利益額(上記イ)を乗じると、その金額は、別紙6−1ないし3「損害額(円)」欄記載のとおりであり、控訴人ごとの合計額は、控訴人X1につき3万3706円、控訴人X2につき58万2122円、控訴人X3につき595万9842円となる。これらの金額を、著作権法114条1項1号に基づき、控訴人らが受けた損害の額と認める。 エ その他、控訴人らは、著作権法114条3項に基づく損害額として、本件漫画のPV数に書籍の販売価格(税込)の90%に相当する額を乗じた金額を、同項の「著作権(中略)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」であると主張する。 しかしながら、控訴人らが、本件漫画をインターネットで閲覧させた場合、一度の閲覧につき書籍の販売価格の90%に相当する金銭を得られたことを裏付けるに足りる証拠はなく、かえって同人誌用書店が同人誌を買い取って販売する場合の買取価格が販売価格の60%であったこと(甲23)からしても、控訴人らの上記主張は採用できない。 また、控訴人らは、著作権法114条の5の適用も主張するが、上記アのとおり、PV数及びマイページ登録数の一定割合を侵害受信複製物の数量とすることにより、同法114条1項に基づく損害額を算定することは可能であるから、「損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるとき」には該当しない。 (2)ディスカバリー費用相当額の損害 控訴人らは、本件口座に係る情報を入手するため、令和6年1月19日、米国ハワイ連邦地方裁判所において証拠開示命令を申し立て、開示命令に基づいてファーストハワイアンバンクから本件各小切手及び本件口座に係る電子送金に関する情報等の開示を受け、その費用として、220万円を支払ったと認められる(甲62〜66)。 本件が海外の匿名性の高いサイトを通じて著作権侵害行為がされた事案であり、請求原因を立証するための証拠収集には困難が伴うこと、被控訴人の応訴態度、及びその他本件に現れたすべて事情を勘案すれば、その2割である44万円(控訴人X1につき14万6668円、控訴人X2及び控訴人X3につき各14万6666円)の限度で、被控訴人の任務懈怠との間に相当因果関係がある損害と認める。 (3)弁護士費用 本件事案の内容、本件訴えに至る経過等に照らすと、本件訴えに係る弁護士費用については、控訴人らの各損害金の1割(控訴人X1につき1万8037円、控訴人X2につき7万2879円、控訴人X3につき61万0651円)をもって、被控訴人の任務懈怠との間に相当因果関係がある損害と認める。 5 遅延損害金について 控訴人らは、本件サイトに本件漫画が掲載された最終の日から、それぞれ遅延損害金の支払を求めている。 しかしながら、会社法429条1項に基づいて取締役が負う損害賠償債務は、履行の請求を受けたときに遅滞に陥ると解するのが相当である(最高裁平成元年9月21日第一小法廷判決・集民157号635頁)。控訴人らは、原審における第1準備書面において、会社法429条1項に基づく予備的請求に係る請求原因を主張し、被控訴人は、遅くとも令和5年3月23日までに同準備書面を受領したと認められるから(弁論の全趣旨)、遅延損害金の起算日はその翌日とするのが相当である。 6 小括 以上によれば、控訴人らの請求は、被控訴人に対し、控訴人X1につき19万8411円及びこれに対する令和5年3月24日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払、控訴人X2につき80万1667円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合の遅延損害金の支払、控訴人X3につき671万7159円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合の遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。 第5 結論 よって、控訴人らの請求は、前記第4の6記載の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと異なり、控訴人らの請求を全部棄却した原判決は相当でなく、本件控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 増田稔 裁判官 岩井直幸 裁判官 安岡美香子 (別紙1)ウェブサイト目録 1 名称 「BL図書館」 URL http://bl-library.info 2 名称 「BL工房みんと」 URL http://bl-koubou.com 3 名称 「同人ドルチ」 URL http://doujin-dolci.com 4 名称 「同人ナイト」 URL http://doujin-night.com 5 名称 「萌え萌えアニメログ」 URL http://doujin-eromanga.com 6 名称 「誰得エロ漫画」 URL http://daretoku-eromanga.info 以上 (別紙2)著作物目録1 1 表題 『Owl&Cat手コキ特集』 発行日 2014年12月28日 2 表題 『魔性のカツ丼』 発行日 2016年12月30日 3 表題 『眩暈』 発行日 2015年10月18日 4 表題 『夢うつつ』 発行日 2017年5月4日 以上 (別紙3)著作物目録2 1 表題 『俺の担当看護師の職場事情』 発行日 2015年8月15日 2 表題 『べろべろゆるゆるたのしいせっくす』 発行日 2015年12月29日 3 表題 『俺の担当看護師が患者のチ●ポを食い漁るクソビッチだった件について。2』 発行日 2014年12月28日 以上 (別紙4)著作物目録3 1 表題 『画礫』 発行日 2019年8月12日 2 表題 『BOTTOMoftheSKYVictimGirls 総集編』 発行日 2019年12月31日 3 表題 『VictimGirls26 マスターvsメスチャイルド』 発行日 2018年12月31日 4 表題『VictimGirls25 デカ父低身長種族♀の角を折る話』 発行日 2018年8月12日 5 表題 『VictimGirls22 女王鹿島の調教日誌』 発行日 2016年12月31日 6 表題 『VictimGirlsR 痴漢撲滅運動』 発行日 2017年8月13日 7 表題 『VictimGirls16CHILDRENoftheBOTTOM』 発行日 2013年12月31日 以上 (別紙5)
(別紙6−1) (控訴人三輪)
(別紙6−2) (控訴人宮原)
(別紙6−3) (控訴人土方)
(別紙7)
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