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【事件名】ユーチューブ動画のパブリシティ権侵害事件(2)
【年月日】令和7年8月28日
 知財高裁 令和6年(ネ)第10085号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和6年(ワ)第70287号)
 (口頭弁論終結日 令和7年7月8日)

判決
控訴人 株式会社GRAN
同訴訟代理人弁護士 宮本武明
被控訴人 株式会社ariu(以下「被控訴人会社」という。)
被控訴人 A(以下「被控訴人A」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 辻居弘平
同 加藤尚敬
同 吉沢洋介
同 山田耕平


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1)控訴人は、被控訴人会社に対し、220万円及びこれに対する令和4年12月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2)控訴人は、被控訴人Aに対し、22万円及びこれに対する令和4年12月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その3を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。
3 この判決は、第1項(1)及び(2)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、インターネット上の動画サイトYouTube(以下「YouTube」という。)で人気ユーチューバーとしてチャンネルを開設する被控訴人A(1審原告)と、同人のタレント活動のマネジメント等を行う会社である被控訴人会社(1審原告)が、ホストクラブを運営する控訴人(1審被告)により、別紙著作物目録記載1及び2の動画(以下、項番の順に「本件動画1」、「本件動画2」といい、併せて「本件動画」という。)を無断で使用されたとして、控訴人に対し、不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案である。
2 被控訴人らの請求
(1)控訴人は、被控訴人会社に対し、660万円及びこれに対する令和4年12月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2)控訴人は、被控訴人Aに対し、110万円及びこれに対する令和4年12月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
【被控訴人らの請求の法的根拠】
・上記(1)の請求について
・主請求:不法行為(本件動画1につきパブリシティ権侵害、本件動画2につき著作権侵害)に基づく損害賠償請求
・附帯請求:遅延損害金請求(起算日は不法行為後の日、利率は民法所定)
・上記(2)の請求について
・主請求:不法行為(本件動画2につき被控訴人Aの名誉毀損及び著作者人格権侵害)に基づく損害賠償請求
・附帯請求:遅延損害金請求(起算日は不法行為後の日、利率は民法所定)
3 控訴人は、原審において、口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかったため、控訴人において請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして自白したものとみなされ、被控訴人らの請求が全部認容されたところ、これを不服として控訴した。
第3 前提事実
 以下の前提事実は、当事者間に争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
1 当事者
(1)被控訴人会社は、インターネットを利用した各種情報処理サービス及び情報提供サービス、動画投稿者、芸能タレント、音楽家などの育成及びマネジメント、動画の企画、制作及び販売などを目的とする株式会社である(甲1)。また、被控訴人会社は、被控訴人Aのタレント活動に関するマネジメント等を行う会社であり、同人からそのパブリシティ権の譲渡を受けた(甲6、弁論の全趣旨)。
(2)被控訴人Aは、YouTubeで「Rちゃん」という名でチャンネルを開設して動画を配信するいわゆるユーチューバーであり、そのチャンネル登録者数は84万人を超えている(甲2)。
(3)控訴人は、飲食店を経営している会社であり、東京都新宿区歌舞伎町において「AGENT」というホストクラブ(以下「本件ホストクラブ」という。)を運営している。
2 本件動画の概要
(1)本件動画1の概要
 本件動画1は、令和3年11月2日から、YouTube上の「ヘラヘラ三銃士」という名称のチャンネルに投稿されたものである。本件動画1は、Rちゃん及び「ヘラヘラ三銃士」の出演者が出演し、本件ホストクラブを体験する中で、自身の体験や感想等を述べる内容の動画になっている。
(2)本件動画2の概要
 本件動画2は、令和4年8月16日から、被控訴人Aが「Rちゃん」のチャンネル内に投稿した動画であり、本件ホストクラブを体験する中で、自身の感想等を述べているものである。
 被控訴人Aは、被控訴人会社に対し、本件動画2の著作権を譲渡した(甲6、弁論の全趣旨)。
3 控訴人による本件動画の使用
(1)本件動画1の使用
 控訴人は、令和3年11月頃から、本件ホストクラブの店頭設置モニターの映像として、本件動画1を使用した。
(2)本件動画2の使用
 控訴人は、令和4年8月頃から、本件ホストクラブの店頭設置モニターの映像として、本件動画2を使用した。
第4 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点
 本件の争点は以下のとおりである。
(1)控訴人によるパブリシティ権侵害
(2)黙示の許諾
(3)損害の発生及び額
2 争点に関する当事者の主張
(1)控訴人によるパブリシティ権侵害
【被控訴人らの主張】
 本件動画1は、Rちゃんが本件ホストクラブを体験する動画となっており、本件ホストクラブの広告としての性質を有する。このため、控訴人が本件動画1を無断で使用した行為は、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的」とするものであり、被控訴人会社の保有するパブリシティ権を侵害し、不法行為となる。
【控訴人の主張】
 控訴人は本件動画1を使用したが、これは本件動画1の出演者の認知集客の向上のため、あるいは、来客者に対して本件ホストクラブの雰囲気を伝えるために行ったものである。放映対象も店舗前の通行人に限られ、期間も短期であったから、控訴人は、被控訴人Aの顧客吸引力を用いて商品等の販売を図るような営利的行為として行ったものではなく、パブリシティ権侵害は成立しない。
(2)黙示の許諾
【控訴人の主張】
 被控訴人Aは、本件ホストクラブに来店して控訴人の協力の下で撮影を行い、いわゆるシャンパンコールを含む高額の飲食をしたにもかかわらず、その代金は一切請求されていない。しかも、本件動画1の外の出演者は、その映像の利用を明確に承諾していた(乙1)。これらの事情からすれば、控訴人と被控訴人Aとの間には、本件動画の商業的利用を想定した協力関係があり、被控訴人Aは、控訴人が本件動画を利用することについて、少なくとも黙示の許諾をしていたというべきである。
【被控訴人らの主張】
 控訴人が主張する黙示の許諾については否認する。肖像権に由来するパブリシティ権については、本来被控訴人A固有の権利であり、同人ないしこれを譲り受けた被控訴人会社のみが使用の可否を判断できるところ、被控訴人らと控訴人との間に取り決めなどは一切ない。控訴人が提出する乙第1号証は、本件動画1の出演者の一人である「ありしゃん」が、本件動画とは別の動画(タイトルは「逃酒中」)について使用の確認をしたことを示すものにすぎず、このような事情をもって本件動画についても黙示の許諾があったということはできない。
(3)損害の発生及び額
【被控訴人らの主張】
ア 本件動画1について
 パブリシティ権侵害によって発生した損害の額については、広告使用許諾料を基準に算定すべきであるところ、被控訴人会社が所属タレントRちゃんの動画の使用を許可する場合、1クール(3か月)当たり300万円の使用料を設定している(甲9)。控訴人による本件動画1の使用期間は不明であるため、少なくとも1クール分の使用許諾料300万円が、本件動画1の無断使用によって被控訴人会社に生じた損害といえる。
イ 本件動画2について
 著作権法114条3項によれば、著作権の行使につき受けるべき金銭に相当する額が損害になる。本件動画2の使用料は上記同様1クール(3か月)当たり300万円であり、本件動画2は、控訴人によって令和4年8月頃から同年10月15日(被控訴人会社担当者の申入れによって控訴人が使用を停止した日)までの約2か月にわたり無断で使用されている。よって、被控訴人会社には、本件動画2についても1クール分300万円の損害が生じたといえる。
ウ 被控訴人Aに生じた損害
 本件動画2については、控訴人により「【豪遊】Rちゃん」というテロップが付され、被控訴人らが予期しない形で公衆の面前で公開されていた(甲5)。控訴人は、勝手にテロップを加えて動画を放映するとともに、「豪遊」との文言を使用することで、被控訴人Aが、本件ホストクラブで過剰に金銭を支出し、派手に遊んでいるような印象を持たせ、被控訴人Aの社会的信用を低下させた。
 また、本件動画2の著作者は被控訴人Aであるところ、上記のように動画を修正し、かつ、被控訴人Aの社会的信用を低下させたのであるから、控訴人は、被控訴人Aの著作者人格権(同一性保持権、名誉声望保持権)も侵害し、被控訴人Aは多大な精神的苦痛を受けた。被控訴人Aの損害は、少なく見積もっても100万円は下らない。
エ 弁護士費用
 被控訴人らは、本件訴訟の追行を弁護士に依頼したところ、その弁護士費用は、上記アからウまでの請求額合計700万円の1割に相当する70万円となる。
オ まとめ
 よって、被控訴人会社の損害額合計は660万円であり、被控訴人Aの損害額合計は110万円である。
【控訴人の主張】
 被控訴人らの主張する損害額については争う。仮に、本件において控訴人による本件動画の使用に違法性が認められるとしても、被控訴人らの損害発生の事実は客観的に立証されていない。本件動画の使用も短期間にとどまり、その使用態様も軽微であるから、賠償額は極めて限定的であると解されるべきである。
第5 当裁判所の判断
1 当裁判所は、控訴人に本件動画1についてパブリシティ権侵害が認められ(争点1)、被控訴人らによる黙示の許諾は認められず(争点2)、被控訴人らに生じた損害は、被控訴人会社について220万円、被控訴人Aについて22万円である(争点3)と判断する。その理由は、以下のとおりである。
2 争点1(控訴人によるパブリシティ権侵害)について
(1)前記前提事実1(2)によれば、被控訴人Aは、YouTubeでチャンネル登録者数が84万人を超えるいわゆるユーチューバーであるところ、その登録者数からすると、同人の肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有すると認めるのが相当である。そうすると、被控訴人Aは、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利であるパブリシティ権を有するものといえ、被控訴人会社は、被控訴人Aから本件動画1についてのパブリシティ権の譲渡を受けていると認められる(前提事実1(1)、弁論の全趣旨)。
 よって、被控訴人Aの肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的として当該肖像等を無断で使用する行為は、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法になると解される。
(2)そして、控訴人は、本件動画1を、本件ホストクラブの店頭設置モニターで放映しているところ(前提事実3(1))、本件動画1の内容が、被控訴人Aらが本件ホストクラブでの体験を伝えるものであることからすると(前提事実2(1))、控訴人は、本件ホストクラブの営業(顧客吸引)のために、専ら被控訴人Aの肖像等の有する顧客吸引力を利用すべく上記放映をしたと認めるのが相当である。
(3)これに対し、控訴人は、上記放映は、本件動画1の出演者の認知集客の向上のため、あるいは、来客者に対して本件ホストクラブの雰囲気を伝えるために行ったものであると主張する。
 しかし、控訴人は、単に、本件動画1が撮影された本件ホストクラブを運営する主体であるにすぎず、被控訴人Aとの間に何らかの個人的な関係も認められないから、あえて被控訴人Aの認知集客の向上を図る必要性は認められない。また、控訴人が主張する来客者に対する本件ホストクラブの雰囲気を伝えるとの点は、本件ホストクラブの営業促進の目的にほかならない。
 仮に、控訴人が主張するように、放映を見たのが通行人であり、放映期間が短期間であったとしても、上記(2)の判断は何ら左右されるものではない。
 よって、控訴人の主張は、採用することができない。
(4)そして、後記3で判断するとおり、本件動画1の利用につき被控訴人らの黙示の許諾があったとは認められないから、控訴人は、本件動画1について、被控訴人会社が有するパブリシティ権を侵害したと認めるのが相当である。
3 争点2(黙示の許諾)について
 控訴人は、本件動画の利用について、被控訴人らが黙示の許諾をしていた旨主張する。
 しかし、控訴人が主張する飲食代不請求の事実だけから、被控訴人らが控訴人に対して本件動画の利用まで黙示に許諾していたとは推認できない。控訴人は、乙第1号証を提出し、本件動画1に出演した「ありしゃん」が、本件動画とは別の動画について許諾していた事実も指摘するが、被控訴人Aとは別人による別の動画に対する許諾にすぎないから、やはり、本件動画について黙示の許諾があったとは推認できない。
 よって、控訴人の主張は採用することができない。
4 争点3(損害の発生及び額)について
(1)被控訴人会社に生じた損害について
 甲第9号証及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人会社は、自社作成の文書において、「Rちゃん・タイアップ費用」として、「YouTube動画投稿一本:300万円〜400万円(税抜)※要相談Short100万円(税抜)」と定め、「二次利用費:要相談」とも定めていることが認められる。
 そして、本件動画は、被控訴人Aが本件ホストクラブでの体験を他の出演者とともに語る内容となっているものであり(前提事実2)、特に被控訴人の意向に沿って作成された企画内容になっているものではないから、控訴人がYouTube上のチャンネルに投稿された本件動画を使用したことは、その二次利用ともいえるものである。しかも、本件において、本件動画が本件ホストクラブの店頭モニターで放映された期間や回数の詳細は不明である。そうすると、上記の被控訴人会社における「Rちゃん・タイアップ費用」の定めにも鑑みると、被控訴人らが主張するように、本件動画1及び2についてそれぞれ300万円の損害が生じたと認めることはできない。
 この他に、本件に現れた諸般の事情を考慮し、本件動画1の無断使用によって被控訴人会社に生じた損害を100万円、本件動画2の無断使用によって被控訴人会社に生じた損害を100万円と認めるのが相当である。
(2)被控訴人Aに生じた損害
 前記前提事実(2(2)、3(2))に加え、甲第5号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件ホストクラブの店頭モニターで、本件動画2の映像外の右側箇所に、縦書きで「【豪遊】Rちゃん」という文字を付し、左側箇所には、縦書きで2行にわたり「Bとホスト遊びしたらハマりそうでやばいwwwwww」という文を付して、本件動画2を放映していたことが認められる。そして、「豪遊」の文字が、一般に、金銭を惜しみなく使って派手に遊ぶことを意味するものであることを考慮すると、控訴人による上記の態様での本件動画2の使用は、本件動画2の題号(タイトル)を改変し、「Rちゃん」が「豪遊」していることを殊更に強調して、風俗店で派手に遊ぶような淫らな行為をする人物であることを知らしめるものであり、これは被控訴人Aの社会的信用を一定程度低下させ、また、その著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるといえる。
 もっとも、本件においては、本件動画2の映像内容が改変されたものではなく、本件動画2の元の題号にも「【豪遊】」の文字は入っていた(別紙著作物目録記載2参照)。また、本件動画2の映像自体によっても、被控訴人Aが本件ホストクラブで遊興していることが判明するのであり、映像自体の訴求力の強さからして、通行人等は、映像に大きな関心を寄せ、「【豪遊】」の文字にはさほど関心を寄せないであろうことも容易に推認される。そして、控訴人による本件動画2の具体的な使用期間も本件では不明である。
 以上のほかに、本件に現れた諸般の事情を考慮し、上記の態様での本件動画2の使用により被控訴人Aに生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額を20万円と認める。
(3)弁護士費用
 本件訴訟追行の難易度など、本件に現れた諸般の事情を考慮し、控訴人の不法行為と相当因果関係の認められる被控訴人らに生じた弁護士費用相当額の損害を、上記(1)及び(2)のそれぞれの金額の1割(被控訴人会社につき20万円、被控訴人Aにつき2万円)と認める。
(4)小括
 以上により、控訴人による本件動画の無断使用によって被控訴人らに生じた損害は、被控訴人会社につき220万円、被控訴人Aにつき22万円と認める。
5 結論
 よって、被控訴人らの請求は、主文第1項(1)及び(2)の限度で理由があるから認容すべきであり、その余の請求は理由がないから棄却すべきであるところ、これと異なり被控訴人らの請求を全部認容した原判決は失当であって、控訴人の本件控訴は一部理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 増田稔
 裁判官 岩井直幸
 裁判官 安岡美香子


(別紙)著作物目録
1 動画
 チャンネル名 ヘラヘラ三銃士
 タイトル 「ホストで暴れ過ぎてシャンパンタワー崩壊した【Rちゃん】」
 配信日 令和3年11月2日
 WEBアドレス https://youtu.be/HdDG8TkPKTs
2 動画
 チャンネル名 Rちゃん
 タイトル 「【豪遊】Bとホスト遊びしたらハマりそうでやばいwwwwww」
 配信日 令和4年8月16日
 WEBアドレス https://youtu.be/KCN3Kf0davA
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/