| 判例全文 | ||
| 【事件名】DMCAに基づくURL回復請求事件 【年月日】令和7年8月6日 東京地裁 令和6年(ワ)第70601号 DMCAカウンターノーティスに基づくURL回復請求事件 (口頭弁論終結日 令和7年6月19日) 判決 原告 A@ 被告 GoogleLLC 日本における代表者 グーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社 同訴訟代理人弁護士 赤川圭 同 白石佳壽朗 同 下田真央 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 民事訴訟法3条の2及び3を根拠法として、被告は、米国DMCA512条(g)(2)法定に基づき異議申立てから10日以上14日以内に削除申請者が訴訟を起こさなかった原告Webページ4581URLを回復しプリエンプティブ先手必勝削除を撤回しろ。 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告の管理、運営するインターネット上の検索サイトの検索結果に、原告の管理、運営するウェブサイトのURLを表示させない措置がとられたことから、被告に対し、米国デジタルミレニアム著作権法(以下「DMCA」という。)512条(g)項(2)節に基づき、上記URLを削除する措置を撤回して同URLの回復を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる。) (1)原告は、複数のウェブサイトを管理、運営する者である(以下、同ウェブサイトを「原告サイト」という。)。(甲7、弁論の全趣旨) (2)被告は、インターネット上で検索サイト(以下「本件検索サイト」という。)を管理、運営する米国法人である。 (3)被告は、ウェブサイトのコンテンツに著作権侵害の疑いがある場合に、権利者等が当該ウェブサイトのリンク先URLを本件検索サイトの検索結果から削除するよう申し立てることができる手続を設け、被告が審査の上削除すべきと判断したときは当該URLを削除し、本件検索サイトの検索結果に表示させない措置をとっている(なお、上記措置において、検索結果に一度も表示されることなく削除されるものは、プリエンプティブ(先手必勝)削除と呼ばれることがある。)。(甲4、20、弁論の全趣旨) (4)被告は、上記(3)の手続によりURLを削除された者による不服申立て手段として、再審査請求(「異議申し立て通知」とも呼ばれる。以下「異議申立て通知」という。)の手続を設けている。同手続及びその留意事項として被告が明らかにしているものの概要は、以下のとおりである。(甲21、乙1、弁論の全趣旨) ア 被告によるURLの削除に不服のある者は「異議申し立て通知フォーム」(以下「本件通知フォーム」という。)を用いて被告に対し異議申立て通知をすることができる。 イ 異議申立て通知を行う者(以下「異議申立人」という。)は、本件通知フォームで指定された異議申立人の住所等に係る情報(以下「連絡先情報」という。)を含む一定の情報を被告に提供することが求められる。 ウ 被告は、異議申立人の連絡先情報を、削除を申し立てた者(以下「削除申立人」という。)に転送する。被告に異議申立て通知をすることで、削除申立人が異議申立人に対し法的手続を開始する可能性がある。 エ 被告は、異議申立て通知を受領した後、内容を確認し、必要に応じて削除申立人に転送する。異議申立て通知の転送後10営業日以内に削除申立人が異議申立人に対して法的手続を開始せず、またリンク先のコンテンツが被告のポリシーに違反していない場合、異議申立人のURLは復元される。 オ 本件通知フォームの「誓約文」欄には、「私は、自身が居住する司法管轄区(または居住地が米国外である場合はカリフォルニア北部地区)を管轄する連邦地方裁判所の管轄権に服すること、および第(c)項(1)号(C)に基づき通知を行った人物または当該人物の代理人からの送達手続きに応じることに同意します。」との文言が記載されるとともに、該当(同意)する場合はチェックボックスをオンにすることを求める文言が記載されており、同チェックボックスにチェックを入れなければフォームを送信することができない仕様とされている。 (5)被告は、原告サイトに係るURLの削除が申し立てられたことを受け、令和6年3月29日までに、本件検索サイトにおいて表示される検索結果から別紙記載の各URL(以下、これらを併せて「本件URL」という。)を削除し、表示させない措置(以下「本件措置」という。)をとった。(甲7、弁論の全趣旨) (6)原告は、本件通知フォームを用いて、本件措置について異議申立て通知を行ったところ、被告は、令和5年12月から令和6年3月までの間に、原告に対し、本件URLを復元しないことを決定した旨通知した。(甲1、7、弁論の全趣旨)。 (7)原告は、令和6年12月13日に本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著) 2 DMCA512条 DMCA512条には、以下の規定がある。(甲2) (c)使用者の指示によってシステム又はネットワークに常駐する情報 (1)総則−サービス・プロバイダによって又はそのために管理され又は運営されるシステム又はネットワーク上に、使用者の指示により素材を蓄積したことによって、著作権の侵害を生じた場合、サービス・プロバイダは、以下の条件を全て満たす場合には、著作権の侵害による金銭的救済又は、第(j)項に定める場合を除き、差止命令その他の衡平法上の救済につき責任を負わない。 (C)第(3)節に掲げる侵害主張の通知を受けた場合に、侵害に当たるとされる又は侵害行為の対象とされる当該素材を除去し又はアクセスを解除すべく速やかに対応すること。 (g)除去され又は利用不能にされた素材の復活及びその他の責任の制限 (1)削除の原則的無責任−第(2)節を条件として、サービス・プロバイダは、素材又は行為が侵害に当たると最終的に判断されるか否かにかかわらず、侵害に当たると主張される素材若しくは行為へのアクセスを善意誠実に解除し若しくはこれを除去したことに基づく請求、又は侵害行為が明白となる事実若しくは状況に基づく請求に関して、何人に対しても責任を負わない。 (2)例外−サービス・プロバイダによって又はその者のために管理又は運営されるシステム又はネットワーク上にサービス・プロバイダの加入者の指示により置かれた素材であって、サービス・プロバイダが第(c)項 (1)(C)に基づく通知に従って除去し又はアクセスを解除したものについては、第(1)節を適用しない。ただし、サービス・プロバイダが以下の条件を全て満たした場合を除く。 (A)サービス・プロバイダが、素材を除去し又はアクセスを解除したことを加入者に速やかに通知すべく、合理的な措置をとること。 (B)サービス・プロバイダが、第(3)節に掲げる反対通知を受領した際に、第(c)項(1)(C)に基づく通知を行った者に対して速やかに反対通知のコピーを提供し、かつ、10営業日以内に、除去された素材又はアクセスを復活させる旨を通知すること。 (C)サービス・プロバイダが、反対通知の受領後10営業日以後14営業日以内に、除去された素材及びアクセスを復活させること。ただし、その指定代理人が第(c)項(1)(C)に基づく通知を提出した者から、加入者に対してサービス・プロバイダのシステム又はネットワーク上の素材に関連する侵害行為の差止を命ずる裁判所命令を求める訴訟を提起した旨の通知を最初に受領した場合を除く。 3 争点及びこれに関する当事者の主張 〈1〉専属的国際裁判管轄合意の有無(争点1) (被告の主張) 原告と被告との間では、原告が、本件通知フォームを利用して本件措置に関する異議申立て通知を被告に送信した時点で、本件措置に関する紛争について、カリフォルニア北部地区を管轄する連邦地方裁判所を管轄裁判所とする旨の専属的国際裁判管轄合意が成立した。 原告の請求は、本件措置について、DMCA512条に基づき本件URLの再表示を求めるものであるから、上記合意により、カリフォルニア北部地区を管轄する連邦地方裁判所が管轄権を有しており、我が国の裁判所には管轄権がない。 (原告の主張) 争う。 〈2〉本件訴えが不当な蒸し返しであり、信義則に反する不適法なものであるか (争点2) (被告の主張) 原告は、被告との間の、東京地方裁判所令和6年(ワ)第6602号損害賠償等請求事件(以下「前訴」という。)において、本件と同様、被告により検索結果から除外された原告サイトのURLをDMCA512条に基づき回復するよう請求していたところ、前訴の裁判所は、令和7年1月31日、DMCA512条はURLを削除等されたサイトの運営管理者等に対し同サイトに係るURLの回復をサービス・プロバイダに求める権利を付与した規定であるとは解されない旨判断して原告の請求を棄却し、同判決はその後確定した。 原告は、前訴において、本件URLの回復も一緒に請求することができたものであり、同一の争点について紛争を不当に蒸し返すものであるから、訴訟上の信義則に反し、本件訴えは不適法である。 (原告の主張) 争う。 〈3〉URLの回復請求権の有無(争点3) (原告の主張) 本件措置は、本件URLの削除申立てがされたことを受けて被告が行ったものであり、原告はこれに対し異議申立て通知をしたのであるから、被告は、DMCA512条(g)項(2)節に基づき、削除申立人から一定期間反対通知に対する訴訟提起がされない場合は、削除された本件URLを回復する義務がある。 (被告の主張) DMCA512条(g)項は、あくまでサービス・プロバイダの行為準則や免責規定であって、原告を含むサービス利用者が被告に対して削除された対象物等の回復を求めることができる請求権を定めたものではないから、被告に本件URLを回復する義務は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(専属的国際裁判管轄合意の有無)について 前提事実(4)オ及び(5)のとおり、本件通知フォームの「誓約文」欄には、異議申立て通知を行う者の居住地が米国外である場合はカリフォルニア北部地区を管轄する連邦地方裁判所の管轄権に服する旨の文言が記載され、これに同意しなければ本件通知フォームを用いて異議申立て通知をすることができないところ、原告は本件通知フォームを用いて本件措置につき異議申立て通知を行っていることが認められるから、原告と被告との間には、異議申立て通知に係る紛争につき、カリフォルニア北部地区を管轄する連邦地方裁判所について国際裁判管轄合意が成立したとみる余地がある。 もっとも、上記「誓約文」欄の文言は、米国裁判所の管轄権に「服する」というものでしかなく、米国における特定の裁判所が管轄権を有する旨定めるものではあっても、我が国の法定管轄権を排除する趣旨は明らかにされていないし、本件通知フォームのその他の記載上も同趣旨をうかがわせる文言は見当たらないことからすると、原告と被告との間に専属的国際裁判管轄合意があると認めることはできない。 したがって、被告の主張は採用することができない。 2 争点2(本件訴えが不当な蒸し返しであり、信義則に反する不適法なものであるか)について (1)証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告との間の前訴において、本件検索サイトの検索結果から本件URLとは別の原告サイトのURL(以下「前訴URL」という。)が削除されたことを理由に、DMCA512条に基づき前訴URLを復活させるよう請求していたこと、前訴の裁判所は、令和6年12月13日に口頭弁論を終結し、令和7年1月31日、DMCA512条は、URLを削除等されたサイトの運営管理者等に対し、同サイトに係るURLの回復をサービス・プロバイダに求める権利を付与した規定であるとは解されない旨判断して原告の請求を棄却し、同判決がその後確定したことが認められる。 (2)上記(1)の認定事実によれば、前訴と本訴の請求は、被告により本件検索サイトの検索結果から削除された原告サイトのURLを復活ないし回復するよう求めるものであり、いずれの訴訟もDMCA512条に基づき被告にURLの回復義務が認められるかという点で争点を共通するものである。しかし、本件URLと前訴URLが異なるものである以上、両訴訟は訴訟物を異にするのであって、争点を同じくすることで原告による本件訴訟の提起が不当な蒸し返しとなるものではない。 また、前提事実(6)のとおり、本件URLを復元しない旨の被告の回答が令和5年12月から令和6年3月にされていることからすれば、原告は前訴において本件URLの回復をも併せて求めることが可能であったといえる。しかし、裁判所に権利救済を求める範囲の選択は原告の判断に委ねられるべきものであって、争点が共通であることを考慮したとしても、前訴において請求可能であったことで原告による本件訴訟の提起が前訴の不当な蒸し返しとなるものではない。 以上のほかに、被告において原告による本件訴訟の提起が信義則に反することを基礎付ける事実の主張立証はない。 したがって、被告の主張は採用することができない。 3 争点3(URLの回復請求権の有無)について 原告の請求は、DMCA512条(g)項(2)節に基づき、被告に本件URLの回復義務があることを前提とするものであるから、この点について検討する。 前記第2の2によれば、DMCA512条(g)項は、サービス・プロバイダが、侵害に当たると主張される素材又は行為へのアクセスを解除し又はこれを除去した場合のサービス・プロバイダの責任について定めた規定であり、同項(1)節において、素材又は行為が最終的に侵害に当たると判断されるか否かにかかわらず、善意で行ったアクセス解除又は除去については責任を負わない旨を規定し、同項(2)節において、サービス・プロバイダが、侵害主張の通知に基づいて行ったアクセス解除又は除去については、原則として同項(1)節の適用がないことを定めるとともに、例外として一定の条件を全て満たした場合に同節の適用が認められるとして、同項(2)節(A)号ないし(C)号の各条件を規定するものである。 以上によれば、DMCA512条(g)項(2)節の規定は、サービス・プロバイダが削除申請に基づいて素材等を除去等した場合に、責任を免れるための条件を定めたものであって、サービス・プロバイダに一定の義務が発生することを定めたものであると解することはできない。 原告は、DMCA512条(g)項(2)節(C)号に相当する事情、すなわち、削除申立人が、被告の異議申立て通知受領後10営業日以後14営業日以内に、原告に対し侵害行為の差止を求める訴訟を提起しなかったことが認められれば、原告に対する関係でも、被告には削除したURLの回復義務が認められる旨主張するようであるが、同号の条件について原告主張のように解すべき根拠は見当たらず、原告の主張は失当といわざるを得ない。 そうすると、原告の被告に対するDMCA512条に基づく本件URLの回復請求は前提を欠くものであって、その余を検討するまでもなく理由がない。 第4 結論 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 澁谷勝海 裁判官 本井修平 裁判官 浅川浩輝 (別紙 省略) |
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