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【事件名】シャーペンのデザイン類似事件(2)
【年月日】令和7年7月28日
 知財高裁 令和7年(ネ)第10014号 損害賠償等、損害賠償請求控訴事件
 (原審・甲府地裁令和4年(ワ)第189号)
 (口頭弁論終結日 令和7年5月19日)

判決
控訴人 合同会社工房楔
同訴訟代理人弁護士 坪井晃一朗
同 井本敬善
同 稲垣美鈴
同 今尾昇平
同 佐々木滉
同 上杉研介
同 石原俊太
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 古井明男
同 近藤徹


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決主文第1項を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙被告商品目録記載のシャープペンシルを譲渡、引渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
3 被控訴人は、前項のシャープペンシルを廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、643万0852円及びこれに対する令和4年7月21日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。また、原判決中の「原告会社」、「被告Y」、「被告A」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」、「A」に読み替える。)
1(1)控訴人は、「ペンシル楔」という名称の木軸のシャープペンシル(本件原告商品)を製作、販売しており、被控訴人は、原判決別紙被告商品目録記載の木軸のシャープペンシル(本件被告商品)を製作、販売している。
 本件(原審第1事件)は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が本件被告商品を製作し、販売する行為は、@控訴人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用する不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当し、A控訴人が本件原告商品について有する著作権(複製権及び譲渡権)の侵害にも当たると主張し、以下のア及びイの請求をした事案である。
ア 不正競争防止法3条1項、2項又は著作権法112条1項、2項に基づき、本件被告商品の譲渡、引渡し又は譲渡若しくは引渡しのための展示の差止め及び廃棄の請求
イ 不正競争防止法4条又は不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求として、643万0852円及びこれに対する不法行為の後である令和4年7月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払の請求
(2)原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人が原判決のうち控訴人の請求を棄却した部分を不服として控訴した。
(3)なお、被控訴人は、控訴人の代表者であるAに対し、Aによるブログへの記事の掲載及びYouTubeへの動画の投稿等により、被控訴人の名誉が毀損されたと主張し、不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起し(甲府地方裁判所令和4年(ワ)第436号)、原審は、この事件(原審第2事件)を本件(原審第1事件)に併合して審理し、原判決において原審第2事件に係る被控訴人の請求を棄却した。被控訴人は、原判決のうち、原審第2事件に係る被控訴人の請求を棄却した部分に対して控訴しなかった。
2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」(以下、「事実及び理由」の記載を省略する。)第2の1及び2(1)(3頁20行目から11頁1行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当審における控訴人の補充主張
(1)本件原告商品の形状が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当することについて
ア 本件原告商品の形状(本件形状)は、前提事実(原判決第2の1)(2)ウのとおりであるが、このような木軸の形状は、天然の木材を削り出して作成する点、グリップ部分が最大径となっている点、杢目を美しく見せるためにできる限り太くしつつも、ペンとして使いやすい太さと形状としている点等で特徴的な形態を有している。
 また、本件原告商品は、バンド方式と呼ばれるクリップ(ペンをクリップのバンド部分で挟み込んで固定するタイプのクリップ)を採用しつつも、ノック機構の金属部分でバンド方式のクリップのバンド部分を挟み込み、ノック機構の金属部分の上部分、クリップのバンド部分及びノック機構の下部分の金属とが全く同じ太さになるように製作しており、ノック機構の金属部分とクリップのバンド部分とが一体化しているような統一感のある上品な外観となっている。
 本件原告商品のノック部分の外観は、あるメーカーが海外用に試作したが採用されなかったメカニズムを基に、Aのアイデアによる改良を加えたオリジナルのものであり、口金は使いやすくペン先が見えるようにデザインしたものである。
 以上のとおり、本件原告商品は、特徴的な木軸、クリップ部分、ノック機構等を有しており、これらの組合せからなるシャープペンシル全体としての形態は、同種商品と明確に区別し得る顕著な特徴を有している。このような本件原告商品の形状は、これを模倣した本件被告商品以外には見られない特徴である。
イ Aは、本件原告商品を平成28年頃から販売し、上記アのとおりの特徴を有する本件原告商品を長期間にわたって独占的に製造販売してきた。
 もともと、Aは、ハンドメイドの木軸ペンの作り手として、業界の中でもトップ3に入る人物として知られていた。控訴人ないしAの作品は、複数の雑誌等に取り上げられ、ペンシルを取り上げたテレビ番組や、テレビドラマに登場するペンシルとしても採用されている。そして、本件原告商品は、文具系のYouTuberとして昔からカリスマ的存在である「B」氏が取り上げたことにより、木軸ペンの大きなブームを牽引する存在としてさらに広く知られるようになった。
 このように、本件原告商品は、一見して同種製品と明確に区別し得る形態的特徴を有し、かつ、長期的にA及び控訴人が独占的に製造販売したことや、「B」氏のYouTubeに取り上げられたことなどにより、需要者の間において、本件原告商品が有する上記アの形態的特徴が控訴人の商品のものであると広く認識されるようになっている。
ウ 上記ア及びイによれば、本件原告商品は不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当する。
(2)本件原告商品が著作物に当たることについて
ア 前記(1)アのとおり、本件原告商品は、木軸、クリップ及び口金の形態が、外形上の特徴として、同種製品と区別し得る形態的特徴を有している。特に、天然木の削り出しで作成し、杢目を美しく見せつつも人間工学的に使いやすいデザインの木軸部分、ノック部分と一体化した統一感のあるバンド方式のクリップのバンド部分、他に採用されたことのない外観のノック機構は、同種商品とは大きく異なる強い特徴を有する部分である。このような木軸の杢目の美しさや各部分の美しさはもちろん、それらの組合せからなる全体の形態によって、ペンシル全体としての美しさが表現される。
 このように、本件原告商品は、自然の杢目の美しさを生かして、これを最大限美しく見えるように加工された木軸を有し、ペンシル全体としての美しさを有するものであり、美しさを鑑賞し、所有できるものであって、単なる文房具ではなく、美術工芸品といえるから、著作物性を有する。
イ 美術工芸品に当たらない応用美術であっても、思想又は感情を創作的に表現したものであること(著作権法2条1項1号)を満たせば著作物性が認められると解すべきであり、応用美術に限って、他の著作物と異なる加重要件を要求すべきではない(知財高裁平成27年4月14日判決〔TRIPPTRAPP事件〕)。
 前記(1)ア及び上記アのとおりである本件原告商品の形態的特徴には、控訴人代表者であるAの個性が発揮されているから、本件原告商品が美術工芸品に当たらないとしても、応用美術に当たり、著作物性が認められる。
 被控訴人は、本件原告商品と似たような木軸のペンシルが多数存在するとして、複数の写真を証拠として提出しているが、これらの写真からは、撮影されたペンシルの各部の大きさが明らかでなく、本件原告商品と同様の外観を有しているのか不明であるし、金具の形状や溝等の有無、木軸の形状、木軸とペン先の金具との段差の有無、装飾部分の有無といったいずれかの点に違いがあり、このように外観が異なっていることは、本件原告商品に十分な個性が発揮されていることを示す。
ウ 仮に、応用美術に著作物性が認められるためには、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できることが必要であると解するとしても、実用性を離れて、思想又は感情を創作的に表現したものと同視できる部分があれば、「美的鑑賞の対象となる美的特性」を有しており、著作物性が認められると解すべきである。
 そうであるとすれば、本件原告商品は、前記(1)ア及び上記アのとおり、同種製品と明確に区別し得る形態的特徴を有しており、単なるシャープペンシルとしての実用性を離れた部分を認識し得るから、著作物性が肯定される。
 「美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる」か否かについて、美術の範囲だけを殊更に取り出して判断すべきであると解したとしても、本件原告商品の特徴や、その美しさが評価されて雑誌やYouTube等で評価されていることからすれば、ペンシル全体や杢目の美しさといった美術的な特性が肯定され、これが創作的表現(十分な個性の発揮)であるから、やはり本件原告商品の著作物性は認められる。
エ 原判決は、「実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる」か否かとの判断基準を採用しておきながら、実際には、単に実用性との分離だけを必要とするのではなく、「独自の特徴」や、「美観を向上させるためにされた工夫」を超えるものを要求している。これは、実質的には美術工芸品にのみ著作物性を認めるものであって、相当でない。しかも、「美観を向上させるためにされた工夫」は、正に美的鑑賞の対象となり得る部分であり、この点においても不当である。
 また、本件原告商品の販売価格は、1万円程度のものから、5万円以上のものまである。シャープペンシルは、実用性のみであれば、どれほど高性能なものでも、千円から二千円程度で購入できる。それにもかかわらず、本件原告商品が上記価格で販売できているのは、本件原告商品が、単に実用的なペンよりも数千円から数万円程度高く支出をしても購入したいと思わせる魅力があるからであり、このような魅力は、ペンとしての実用性を超えた美しさである。つまり、本件原告商品が上記価格で販売できている事実自体が、本件原告商品に、実用目的に必要な構成と分離して美的鑑賞の対象となる美的特性が備わっていることの証左である。そして、本件原告商品は、実用性だけでなく、その美しさから、雑誌やYouTubeに取り上げられ、コラボ商品ともなっており、このようなことからも、一般的に、本件原告商品が美的鑑賞の対象とされていることが明らかである。
 したがって、独自の理論により、本件原告商品が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていないとした原判決は誤りである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、後記2のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほか、原判決第3の1ないし3(14頁11行目から18頁20行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 原判決の補正
(1)原判決14頁13行目から18行目までを次のとおり改める。
 「商品の形態は、商標等とは異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではなく、当然には不正競争防止法2条1項1号の『商品等表示』に該当しないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、同号の『商品等表示』に該当するためには、@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)が必要であると解される。」
(2)原判決15頁7行目から8行目にかけての「特別な作業であるということはできない。」を「木軸の太さや形状が本件原告商品と全く同じシャープペンシルが他になかったとしても、本件原告商品と他のシャープペンシルとの差異は、美感を備えつつ実用性を有する製品を作成する上で一般的に行われる調整、工夫の結果の範囲内にとどまるものであり、本件原告商品の顕著な特徴を構成するとは認められない。」に改める。
(3)原判決15頁9行目から10行目にかけて、同頁15行目から16行目にかけて及び同頁20行目から21行目にかけての「本件原告商品の独自の特徴とはいえない」をいずれも「客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有するものであるとはいえない」に改める。
(4)原判決16頁9行目から14行目までを次のとおり改める。
 「エ 以上によれば、本件原告商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとは認められず、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっているとも認められない。」
(5)原判決16頁24行目から26行目までを次のとおり改める。
 「前提事実及び証拠(甲27、28、原審における控訴人代表者尋問の結果)によれば、本件原告商品は、木軸のシャープペンシルであり、木軸の部分は1本ずつ手作業により木材を加工して作られるが、金属の部品は同一の型のものが用いられ、各部分の長さや直径は決まっており(本件形状)、木軸部分が本件形状に合うように木材が加工されて本件原告商品が作り出されることが認められ、この事実によれば、本件原告商品が一品制作の美的実用品であるとは認められない。」
(6)原判決18頁10行目から16行目までを次のとおり改める。
 「ウ よって、本件原告商品が著作権法2条1項1号の『著作物』に当たるとは認められず、被控訴人による本件被告商品の製作、販売が控訴人の著作権を侵害するとも認められない。」
3 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)控訴人は、前記第2の3(1)のとおり、本件原告商品は、特徴的な木軸、クリップ部分、ノック機構等を有しており、これらの組合せからなるシャープペンシル全体としての形態は、同種商品と明確に区別し得る顕著な特徴を有していると主張する。
 しかし、本件原告商品の木軸が天然の木材を削り出して作られるとしても、そのことをもって本件原告商品が同種商品とは異なる顕著な特徴を有するとはいえず、グリップ部分が最大径であるとか、杢目を美しく見せるために木軸を太くしつつもペンとして使いやすい太さや形状にしているとしても、本件原告商品の形状について同種商品とは異なる顕著な特徴を有すると認められないことは、補正の上で引用した原判決第3の1(2)ア(ア)のとおりである。
 ノック部分の外観について、あるメーカーが海外用に試作したが採用されなかったメカニズムを基に、Aのアイデアによる改良を加えたオリジナルのものであるとの事情や、口金は使いやすくペン先が見えるようにデザインしたものであるとの事情が存在するとしても、このノック部分の外観自体が、他の木軸のシャープペンシルの外観と明確に区別し得る顕著な特徴を有すると認められないことは、補正の上で引用した原判決第3の1(2)ア(イ)のとおりである。
 本件原告商品のクリップについても、これがバンド部分でノック機構の金属部分を挟み込み、かつ、バンド部分とその上下に位置する上記金属部分との間に段差が生じないように製作されていることは認められる(原判決第3の1(2)イ)ものの、本件原告商品全体においてクリップの箇所が占める割合は小さく、クリップの上記特徴をもって、本件原告商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有するとまではいえない。
 そして、控訴人が主張する本件原告商品の形態に係る特徴を総合しても、本件原告商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有すると認めることはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)控訴人は、前記第2の3(1)イのとおり、需要者の間において、本件原告商品が有する形態的特徴が控訴人の商品のものであると広く認識されるようになっていると主張する。
 しかし、控訴人又はAが文房具に関する雑誌で複数回紹介されたことは認められるが(甲8の1〜16、甲18)、その雑誌は「趣味の文具箱」(甲8の1〜15、甲18)又は「STATIONERYmagazine」(甲8の16)であり、多様な媒体で取り上げられたとは認められない上、その記事のほとんどが本件原告商品(ペンシル楔)を掲載していない。本件原告商品を写真付きで紹介した記事(甲8の14、甲18)は、他の複数の木軸のペンやシャープペンシルとともに紹介しているにすぎず、かつ、本件形状に関する具体的な説明が記載されているとは認められない。
 また、「B」の名称でYouTubeに動画投稿する者が、控訴人又はAに関する動画を複数回投稿したことがあり、その中には、動画の題名によれば本件原告商品を取り扱ったことが窺われる動画もあるが(甲10、11)、「B」以外に控訴人又はAをYouTubeの動画で取り扱った者がいるとは認められず、限られた者によって紹介されたにすぎない上、本件原告商品を取り扱った動画において、本件形状についてどのように紹介されたのかも明らかでない。
 さらに、本件の全証拠によっても、テレビ番組において、本件原告商品について、本件形状を含めて具体的に紹介されたことがあると認めるに足りない。
 そして、他に、本件原告商品の形態が、控訴人によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていると認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件原告商品の形態について、周知性の要件を満たすとは認められず、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3)控訴人は、前記第2の3(2)のとおり、本件原告商品は著作物である旨主張する。
ア しかし、まず、著作権法2条2項の「美術工芸品」は、一品制作の美的実用品をいうものと解すべきところ、前記2(5)のとおり補正の上で引用した原判決第3の2(1)のとおり、本件原告商品の木軸は1本ずつ手作業により木材を加工して作られているが、木軸の各部分の長さや直径は本件形状のとおりに決まっており、本件形状に合うように木材が加工されて本件原告商品が作り出されるものであることからすれば、これを一品制作の美的実用品であると認めることはできない。
イ 控訴人は、前記第2の3(2)イのとおり、美術工芸品に当たらない応用美術であっても、思想又は感情を創作的に表現したものであること(著作権法2条1項1号)を満たせば著作物性が認められると解すべきであると主張する。
 しかし、実用的なデザインも含めておよそ何らかの形で美感が表わされていれば著作物に該当するということはできない。実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、実用目的を達成するための機能とは無関係に自由に創作された表現が客観的に存在するといえるから、「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」に該当するということができる。他方、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できないものについては、実用目的を達成するための機能に制約された形態等が存在するのみであり、機能と無関係に自由に創作された表現が客観的に存在するとは認められないから、「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」に該当するということはできない。
 そうすると、原判決第3の2(2)アのとおり、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができるものでなければ、著作権法2条1項1号の著作物として保護されないと解すべきである。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 控訴人は、前記第2の3(2)ウ及びエのとおり、本件原告商品は、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できると主張する。
 しかし、本件原告商品の木軸、ノック機能、口金及びクリップの形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有すると認められないことは、補正の上で引用した原判決第3の1及び前記(1)のとおりである。これらについて、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性が備わっているとは認められない。
 本件原告商品の木軸について、木材の杢目の美しさを感じることができるとしても、これはシャープペンシルの構成要素である軸を木軸としたことによるものであって、木軸の形状、寸法、材質等は、美感を考慮しつつも、実用目的に必要な構成として決定されていることからすれば、杢目が美感の向上に資する面があるとしても、本件原告商品について、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することはできない。
 雑誌やYouTubeにおいて、本件原告商品その他の控訴人の木軸ペンに美しさがある旨の記事や発言があることや、本件原告商品の販売価格が1万円を超えるものであることをもって、本件原告商品について、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できると認められることにはならない。
 以上のとおり、本件原告商品について、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められないとの原判決の判断は相当である。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
4 その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。
5 結論
 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 中平健
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 水野正則
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