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【事件名】「生長の家」著作物の出版権確認請求事件
【年月日】令和7年7月17日
 大阪地裁 令和6年(ワ)第11140号 出版権等確認請求事件
 (口頭弁論終結の日 令和7年6月12日)

判決
原告 公益財団法人生長の家社会事業団
同代表者代表理事
同訴訟代理人弁護士 内田智
被告 A


主文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 原告と被告との間で、別紙「著作物目録」記載の著作物につき著作権(出版権設定及び出版許諾を行う権利を含む。)が原告にあることを確認する。
第2 事案の概要
 本件は、別紙「著作物目録」記載の著作物(以下「本件著作物」という。)につき、著作権(出版権設定及び出版許諾を行う権利を含む。)が自らにあることを主張する原告が、これを否定する言論活動をしてきた被告を相手方当事者として、上記著作権が原告にあることの確認を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
(1)当事者
ア 原告は、創立者B(以下「B」という。)の日本救国・世界救済の宗教的信念に基づき、諸種の社会事情によって生じた要保護児童の収容及び生活指導並びに宗教的情操教育による児童の育成その他児童又は青少年の健全な育成を行うとともに、世界各国の宗教聖典等の収集、調査研究、編纂、保存、公開、各国語翻訳、著作権保護及び出版物の刊行普及等により、国際相互理解の促進、信教の自由の尊重及び社会文化の振興を図り、その他社会情勢の変遷に応じて社会の福利を図るための文化科学的研究の振興普及に寄与し、並びにこの法人の目的・事業に協賛する本邦及び世界各国団体との親善提携を促進し、もって社会厚生事業並びに社会文化事業の発展強化を図ることを目的とする公益財団法人である(甲1)。
イ 被告は、宗教法人「生長の家」に勤務した後、退職し、現在は、「光明の音信」と題する広報誌(以下、発刊号を問わず、「本件広報誌」という。)に論文等を掲載、編集及び発行等をしている自然人である。
(2)Bは、昭和7年1月1日、本件著作物について、著作権登録を行った。その後、昭和63年4月27日、同著作物に関する著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)が、昭和21年1月8日、Bから原告に譲渡された旨が登録された。(甲2)
(3)Bは、昭和22年8月1日、原告設立時の寄附行為として、昭和21年1月8日に本件著作物の著作権を原告に譲渡した旨の証明書を作成した(甲3、4)。
(4)原告は、平成21年から、本件著作物の著作権が自らに帰属することを主張する宗教法人、Bの遺族として本件著作物の著作者人格権に係る権利行使をするBの子などとの間で、本件著作物の権利関係などをめぐって民事訴訟による係争状態にあったが、東京地方裁判所は、平成23年3月4日、本件著作物の著作権が、Bから原告に譲渡された旨の判断を判決理由中で示しつつ、上記宗教法人からの本件著作物の著作権が同法人にあることの確認、上記宗教法人及び遺族からの出版差止等の請求をいずれも棄却するなどを内容とする判決を言い渡した。同判決に対しては、上記著作権確認請求、出版差止等請求を棄却する部分を含めて控訴ないし附帯控訴が提起されたが、知的財産高等裁判所は、平成24年1月31日、本件各控訴をいずれも棄却し、本件附帯控訴を棄却するとの判決を言い渡した。これに対し、上記宗教法人及び遺族などは、さらに上告及び上告受理申立てをしたが、最高裁判所は、平成25年5月27日、本件上告を棄却し、本件を上告審として受理しないとの決定をした。
 ただし、上記訴訟において、本件著作物の著作権が原告にあることの確認を求める請求はされておらず、その点について、主文で判断が示されたわけではなかった。(甲32〜34)
(5)原告は、平成30年1月28日、本件著作物について、平成29年7月1日、株式会社光明思想社(以下「光明思想社」という。)に対し、出版権の範囲を限定することなく、出版権を設定した旨の出版権設定証書を作成し、同証書をもって、平成30年3月22日、同出版権の設定の登録を行った(甲8〜10)。
(6)光明思想社は、平成24年1月1日から令和6年10月25日にわたり、「新編「生命の實相」」と題する書籍(全65巻)を発行した(甲11、25)。
(7)被告は、令和3年12月及び令和5年3月に発行した本件広報誌において、要旨、原告がBから譲り受けた本件著作物に関する権利は、あくまでも著作権収入たる印税を受け取ることができることに限定されており、出版権や出版権設定の権利を含めた著作権の譲渡を受けたものではない旨記載した(甲12、15)。
 原告は、被告に対し、上記令和3年12月発行分の本件広報誌における記載について、名誉棄損にあたるとして、損害賠償及び謝罪広告の掲載を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(同庁令和4年(ワ)第2229号。以下「前訴」という。)。同裁判所は、令和4年11月8日、同記載が、原告が、真実はBから本件著作物の印税収入のみを譲り受けたに過ぎず、著作権を譲り受けていないにもかかわらず、これを譲り受けたとして意図的に虚偽の事実を流布しているものと理解される記載であり、これによって原告の社会的評価が低下することが明らかである、被告が、Bが本件著作物の著作権の全部を原告に譲渡したものではないことを信じるに足りる相当な理由があるとは認められないとして、損害賠償請求を一部認容し、同判決(以下「前訴判決」という。」は確定した。(甲12ないし14)。
 さらに原告は、令和5年4月10日、東京地方裁判所にて、被告を債務者として、債務者が、本件広報誌に、債権者は本件著作物の著作権を有していないこと、債権者はBから本件著作物の印税(著作権収入)を寄付されただけであり著作権を託されていない、譲渡されていないこととの事実を記載して発行又は頒布してはならないとの命令を求める仮処分を申し立てた。原告と被告との間では、同手続において、同月28日、被告が原告に対し、本件広報誌に、原告が本件著作物の著作権をBから寄付された事実はないとの記載をしないことを約する和解が成立した。(甲44、45)
(8)被告は、その後も、本件広報誌上において、原告が本件著作物の構成を改変した出版を行っており、Bの著作者人格権を侵害しているため、その出版を取りやめるべきである旨の記載を続けている(甲21〜24)ほか、本件訴訟においては、本件著作物について原告が有する著作権は、完全・完璧なものではなく、印税を寄付する手続として著作権譲渡の形式をとった条件付きのものであり、出版権を含むものではない旨の主張を行っている。他方、被告は、本件著作物の著作権が、被告に帰属することを主張しているものではない(第2回弁論準備手続期日)。
2 本案前の主張(確認の利益について)
(原告の主張)
 被告が、前訴判決の前後を通じ、また、前訴判決において被告の主張が否定されたにも関わらず、なお、原告が有する本件著作物に関する権利が完全なものではないとの主張に拘泥し、かつ、その旨を公言して憚らないほか、前記仮処分申立事件において、本件広報誌に、原告が本件著作物の著作権をBから寄付された事実はないとの記載をしないことを約する和解が成立した後も、本件広報誌上で、原告による出版活動を否定する言説を継続しているところ、かかる状態は、将来における被告からの名誉棄損行為や原告による著作権行使に対する妨害行為等を具体的に予見させ得るものである。このような紛争を一体的かつ根本的に解決するためには、原告及び被告の間で、本件著作物に関する著作権について既判力ある判断を求める必要がある。仮に、既判力ある判断が得られないこととなると、被告は、そのことを奇貨として、自説の展開を正当化し続けるし、被告に対する刑事処罰等を求めることもできなくなる。
3 争点(原告は、Bから本件著作物の著作権を譲り受けたか。)
(原告の主張)
 原告は、前記前提事実(2)(3)記載の経過のもと、本件著作物の著作者にして著作権を有していたBからその著作権の全てを譲り受けたものであり、そこには出版権及び出版権設定の権利が含まれている。
(被告の主張)
 原告がBから譲り受けた本件著作物の著作権は、完全・完璧なものではなく、印税を寄付する手続として著作権譲渡の形式をとった条件付きのものであり、出版権や出版権設定の権利を含むものではない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、以下、判示するとおり、原告の請求には確認の利益が認められないから、原告の訴えは不適法であり、却下を免れないものと判断する。
2 原告の主張に対する判断
(1)確認の利益が認められるかは、原告被告間で原告の権利や法律上の地位に現に危険や不安が生じており、これを除去するために確認判決を得ることが必要かつ適切であるかによって判断することが相当である。
(2)被告は、本件著作物の著作権が、原告ではなく被告に帰属するなどと主張しているものではなく、本件著作物そのものに法的な利害関係を有するわけではない立場から、その著作権の移転及び帰属ないしその権利範囲等に関する意見表明をしてきたにとどまる。かかる意見表明が名誉棄損等に該当するか否かはともかく、本件著作物に関する権利そのものをめぐって、原告と被告が相争う関係に立つものではないから、被告の行為によって、原告の同権利そのものについて、現実の危険ないし不安が生じているとはいい難い。
 また、本件訴訟で確認対象とされている権利は、本件著作物に関する著作権であるところ、被告の言論行為は、著作権侵害行為に該当するものではないし、仮に、被告の言論行為が、原告被告間の和解条項に違反したり、名誉棄損等に該当したりするのであれば、その法的救済手段は、別途のものが想定されるところである(なお、当裁判所は、被告の言論が原告に対する名誉毀損等に該当するか否かについては何らの判断をしているものではない。)。結局のところ、原告が問題視をして是正を求める被告の行為は、あくまで著作権によって直接規律できるわけではない言論行為なのであるから、本件訴訟において原告の著作権の存否を確認したとしても、その既判力をもって原告が主張するような危険を除去し、その目的が達成されるわけでもない。
(3)そうすると、原告被告間で、本件著作物に関する著作権そのものについて、被告の存在やその行為によって、原告の権利や法律上の地位に危険や不安が生じているとも、原告が主張するような危険、不安を解消するために本件訴訟において本件著作物に関する著作権の帰属を確認することが必要かつ適切であるとも認められないから、原告の請求については、確認の利益が認められない。
(4)よって、原告の訴えは、不適法なものであり、却下を免れない。
3 以上の次第であり、原告の訴えは確認の利益を欠く不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 松川充康
 裁判官 島田美喜子
 裁判官 西尾太一


(別紙)
1 著作物の題号
 生命の實相
2 著作者の氏名
 B
著作物目録
3 著作物の最初の公表の際に表示された著作者名
 B
4 著作物が最初に公表された年月日
 昭和7年1月1日
5 著作物の種類及び内容又は体様
(1)著作物の種類
 論文
(2)著作物の内容又は体様
 生長の家の教義の根本を説いた宗教哲学書で、人間=神の子の教えを基本に序論、実相篇、生活篇、教育篇に分けて人間生活のあらゆる分野にあらわれた宇宙の真理を説いたもの
以上
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