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【事件名】NTTコムへの発信者情報開示請求事件AN
【年月日】令和7年4月25日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70325号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和7年2月21日)

判決
原告 株式会社バソキア
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 五島丈裕


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1及び2記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
 本件は、原告が、被告の提供するインターネット接続サービスを介して、ファイル共有ネットワークであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)において、別紙侵害著作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を複製した動画ファイルに係るデータが送信され、これにより、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、発信者情報の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。以下において、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。)
(1)当事者
 原告は、アダルトビデオの制作等をする株式会社である(甲18の1)。
 被告は、インターネット接続サービスを提供する株式会社である。
(2)発信者情報の保有
 被告は、別紙発信者情報目録1及び2記載の発信者情報(以下、本件発信者情報という。また、本件発信者情報に係る通信を「本件各通信」といい、本件各通信に係る発信者を「本件各発信者」という。)を保有している。
(3)ビットトレントの仕組み(甲4〜6、9、32)
 ビットトレントは、いわゆるP2P形式のファイル共有ネットワークである。
 ビットトレントのユーザは、ビットトレントの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得する。クライアントソフトにトレントファイルを読み込むと、端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、ダウンロードしようとするファイルを細分化した「ピース」と呼ばれるデータを保有している他の端末のIPアドレスを取得して、同他の端末と接続し、当該ピースのダウンロードを行う。クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構築に必要なデータに基づき、ダウンロードした各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
 目的のファイル(ピース)をダウンロードした端末は、自動的に「トラッカー」に登録され、他の端末からの要求に応じて当該ファイル(ピース)を送信する。
(4)原告による調査(甲1、4、5、7〜9、11、20、26、27、30〜32)
 株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)は、原告の依頼により、本件各動画を対象として、ビットトレントを利用したファイル共有について、概要、次のとおりの調査(以下「本件調査」という。)を行った。
 本件調査会社は、@インデックスサイトにおいて、本件各動画の品番により検索をしてトレントファイルをダウンロードし、A調査に用いるPC(以下「本件端末」という。)において、ビットトレントの制作会社によって管理されているビットトレントクライアントソフト「●(ギリシア文字。ミュー)Torrent」(以下「本件ソフトウェア」という。)を起動し、上記トレントファイルから、上記で検索した本件各動画に係るデータのダウンロードを開始し、Bその間、本件ソフトウェアにより、本件端末の画面上に、本件端末に対して上記データを送信しているユーザ(本件各発信者)に割り当てられたIPアドレスを表示させ、Cその画面を、画面上に表示した時間(日本標準時(JST))と共にキャプチャー画像(以下「本件キャプチャー画像」という。甲1)として記録し、D本件各発信者の送信(発信)元ポート番号を取得し、別紙発信者情報目録1及び2記載の各ポート番号を記録し、E本件端末にダウンロードした動画ファイルを再生して本件各動画と比較し、同一であることを確認した。
 本件キャプチャー画像をプリントアウトした詳細ログ(甲1)には、別紙発信者情報目録1及び2記載の各日時及び各IPアドレスが表示されている。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)原告が本件各動画の著作権を有するか(争点1)
(原告の主張)
 本件各動画のパッケージには原告の名称が記載されているか、第三者認証機関の認証マークと番号が記載されているから、著作権法14条により原告が著作者と推定される。本件各動画は、「素人ホイホイ」というレーベルで発表されているが、このレーベルは原告のものであり、原告が商標権も取得している(甲19)。
 また、本件各動画は、原告の発意に基づき、原告の業務に従業する者が企画し、製作したものであるから、著作権法15条により原告が著作権を有する。
 そうでない場合は、著作権法29条により原告が著作権を有する。
(被告の主張)
 本件各動画の販売に係るウェブページ(甲2)には原告の名称の記載はない。第三者認証機関が原告に対して審査終了の証明をしているとの事実については不知であるが、仮にこれが認められるとしても、審査を受ける者が著作権者であると推定されるものではない。
(2)本件各通信による情報の流通により原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるといえるか(争点2)
(原告の主張)
ア 本件ソフトウェアは、ビットトレントを管理する会社が提供するソフトウェアであり、ビットトレントを介して取得した情報を正確に提供しているから、本件調査は正確である。
 本件各通信時、本件端末の画面上には「ダウンロード中」との表示がされていたから、本件端末は、本件各動画に係るピースを、本件各発信者からダウンロードしていたものである。このように、本件端末が本件各動画に係るデータをダウンロードしたことからすれば、本件各発信者が、本件各動画に係るデータを本件端末に送信したものといえるから、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
イ 本件調査会社は、本件キャプチャー画像の撮影時に、取得したダウンロードファイルが再生されることを確認しており(甲8)、本件調査会社が、少なくとも当該ファイルの一部を取得しているのであるから、本件各発信者が著作権侵害に加担したことは明らかであり、他の発信者がいたとすれば当該他の発信者と共同で、原告の著作権侵害を行ったといえる。
(被告の主張)
ア 本件調査会社による調査は、一般社団法人テレコムサービス協会が認定する監視ソフトウェア等の信頼性のあるものを用いたものではなく、違法アップロードの検知を目的とするソフトウェアによる調査ですらない。そして、本件ソフトウェアを使用する過程で行われる通信には、ファイルのデータに係る通信以外の通信もあるから、本件調査で得られたIPアドレスが、本件各動画に係るデータを送信した際に本件各発信者の通信に割り当てられたものであると特定することはできない。かえって、本件キャプチャー画像をみると、データのダウンロード及びアップロード(送信)の進行を示す「下り速度」及び「上り速度」の双方が明確に確認できるものは一件(甲1の1)しかなく、双方ともに表示がないものが相当数あり、その時点において本件各動画に係るデータが当該IPアドレスの割り当てられたユーザから送信されていたものではないことがうかがわれる。
イ 仮に、本件各通信により、本件各動画に係るデータが送信されたものであるとしても、公衆送信権の侵害が認められるためには、送信されたデータ(ピース)により本件各動画の表現の本質的特徴を感得できる必要があるが、本件各発信者が送信したデータ(ピース)が、本件各動画の表現の本質的特徴を感得できる程度のものであるかは不明である。
 したがって、本件各通信によって、原告の公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告が本件各動画の著作権を有するか)について
 本件各動画は、映画の著作物(著作権法10条1項7号)に当たるところ、@原告が企画し、その費用負担により、原告の役員及び従業員により製作され、原告のレーベル名で発表されたものであるか(甲1、甲18の1、甲19)、又は、A原告が企画し、必要に応じて外部の監督その他の製作関係者に依頼して製作されたものであることが認められる(甲18の1)。そうすると、本件各動画は、製作関係者が原告の役員及び従業員である場合には職務著作に当たるからその著作権は原告に帰属し(著作権法15条1項)、監督その他の製作関係者が外部の者である場合は、これらの者が、原告に対し、本件各動画の製作に参加することを約束していたものと推認されるから、本件各動画の著作権者は原告であると認めるのが相当である(同法29条1項)。
2 争点2(本件各通信による情報の流通により原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるといえるか)について
(1)前記前提事実のとおりのビットトレントの仕組み及び本件調査の内容によれば、本件各発信者は、ビットトレントのネットワークにおいて、同一の動画に係るデータ(ピース)を保有する他のユーザと共同して、本件各動画に係るデータ(ピース)のダウンロードを要求するユーザという不特定の者によって直接受信されることを目的として、不特定の者である本件調査会社の求めに応じ、本件各動画に係るデータ(ピース)を、本件各通信により自動的に送信したことが認められ、本件各通信によるデータの送信は、自動公衆送信に当たる。
 そして、本件端末が本件各通信によりダウンロードしたファイルは、それまでにダウンロードした本件各動画に係るデータと併せて再生可能であり、この再生可能なファイルは、冒頭のレーベル名が映し出された部分等が切除されるなどしてはいるものの、本件各動画を複製したものと認められる(甲7、8、17、20)。
 以上によれば、本件各通信による情報の流通によって、原告の本件各動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。
(2)被告の主張について
 被告は、本件ソフトウェアが一般社団法人テレコムサービス協会の認定する監視ソフトウェアではなく、違法アップロードの検知を目的とするソフトウェアでもないことを指摘し、本件調査の正確性に疑問がある旨主張する。しかしながら、本件各通信時、本件端末の画面上に「ダウンロード中」と表示されていたところ(甲1)、この表示は、ダウンロードの対象ファイルである本件各動画に係るデータ(ピース)のダウンロードが進んでいる状態を表すものと認められる(甲26)。本件ソフトウェアを用いて行われた本件調査の正確性を疑わせる具体的な事情はうかがわれず、上記被告の主張は採用することができない。
 被告は、本件キャプチャー画像に「上り速度」及び「下り速度」の表示がないものがあると指摘するが、本件調査の手法では、目的の動画のデータを現にダウンロードしている場合であっても、これらの表示がされないことがあるものと認められるから(甲14)、被告の指摘する上記事実は、前記認定を左右しない。
 さらに、被告は、本件各通信によって送信されたデータ(ピース)について、本件各動画の表現の本質的特徴が感得できる程度のものであるか不明であると指摘する。しかしながら、本件各発信者が、同一の動画に係るデータ(ピース)を保有する他のユーザと共同して、本件端末に、本件各動画の全部又は一部に係るデータを送信したものであるのは前記(1)のとおりであり、仮に、本件各通信の時点において送信されていたデータ(ピース)が、非常に小さなデータであるなどしても、当該データ(ピース)の送信をもって、本件各動画に係る公衆送信権が侵害されたと評価することを妨げないものというべきである。
(3)弁論の全趣旨によれば、原告は本件各通信を行った者に対して損害賠償請求権等を行使する予定であることが認められ、そのために、本件各通信の発信者に係る情報の開示を受ける必要があるといえるから、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(プロバイダ責任制限法5条1項2号)があるといえる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 ●(はしごたか)橋彩
 裁判官 勝又来未子
 裁判官 吉川慶は差支えにより署名押印できない。
裁判長裁判官 ●(はしごたか)橋彩


(別紙発信者情報目録1及び2 省略)
(別紙侵害著作物目録 省略)
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