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【事件名】“関ケ原検定事業”事件B 【年月日】令和7年3月28日 東京地裁 令和5年(ワ)第70582号 著作権侵害(不法行為)による損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 令和7年1月27日) 判決 原告 A 被告 関ケ原町(以下「被告関ケ原町」という。) 被告 Bi(以下「被告Bi」という。) 被告 Ci(以下「被告Ci」という。) 被告 Di(以下、「被告Di」といい、被告Bi及び被告Ciと併せて「被告Biら」という。) 上記4名訴訟代理人弁護士 池田智洋 主文 1 被告関ケ原町は、別紙著作物目録記載2ないし5のデザインを複製し、同デザインを利用した物品を頒布してはならない。 2 被告関ケ原町は、別紙著作物目録記載2ないし5のデザインを利用した物品を廃棄せよ。 3 被告関ケ原町は、原告に対し、20万円及びこれに対する令和5年10月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告関ケ原町の負担とする。 6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告関ケ原町は、原告に対し、347万4000円及びこれに対する令和5年10月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告関ケ原町は、原告の名誉を回復するための措置をせよ。 3 被告らは、別紙著作物目録記載のデザインを複製し、同デザインを利用した物品を頒布してはならない。 4 被告らは、別紙著作物目録記載のデザインを利用した全てのコピー物品を廃棄せよ。 5 被告らは、別紙商標目録記載の商標や呼称を使用した商品の販売に関する情報の提供、書類の複製、文書または電磁テープのファイリング、コンピュータデータベースへの情報編集、セミナー・検定事業の企画、書籍の制作、興行の企画・運営または開催、教育研修のための施設の提供、検定試験の企画・運営、検定試験の実施を行うことを禁ずる。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、被告関ケ原町が実施していた関ケ原検定(以下「関ケ原検定」という。)において、被告らが、別紙著作物目録記載の各デザイン(以下「本件各デザイン」という。)及び別紙商標目録記載の各登録商標(以下、同目録の項番に従って「原告商標1」ないし「原告商標4」といい、これらを併せて「原告各商標」という。)を原告の許可を得ることなく使用しており、このような行為は本件各デザインに係る著作権(複製権又は翻案権、公の伝達権)及び原告各商標に係る商標権(以下「原告各商標権」という。)を侵害するものであると主張して、被告関ケ原町に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害金347万4000円(著作権法114条3項により算定される額)及びこれに対する訴状送達日の翌日である令和5年10月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め、著作権法115条に基づき、原告の名誉を回復するための措置を求めるとともに、被告らに対し、同法112条1項及び2項に基づき、本件各デザインの複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め並びに同物品の廃棄を、商標法36条1項に基づき、原告各商標の使用の差止めを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実、当裁判所に顕著な事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等 ア 原告は一級建築士の資格を持つデザイナーである(甲19)。 イ 被告関ケ原町は公共団体であって関ケ原検定の実施主体であり、被告Biは関ケ原町歴史民俗学習館の館長、被告Ciは被告関ケ原町の地域振興課の係長、被告Diは被告関ケ原町の町長である。 (2)関ケ原検定の実施等 ア 被告関ケ原町は、地域振興のための企画として関ケ原検定を実施することとし、関ケ原検定は、プレ検定の実施を経て令和3年4月から実施された(乙4、6、弁論の全趣旨)。 イ 被告関ケ原町は、関ケ原検定の実施のために、別紙著作物目録記載2ないし5のポスター、実施概要、賞状及び合格カード(以下、それぞれ「本件ポスター」、「本件実施概要」、「本件賞状」及び「本件合格カード」といい、これらを併せて「本件ポスター等」という。)に基づき、ポスター等を制作した(以下、被告関ケ原町の制作したポスター等のことを「被告ポスター等」という。甲2ないし5、10、11、13、乙5ないし8、弁論の全趣旨)。 ウ 被告関ケ原町の職員は、関ケ原検定の広報等のために、原告が制作した別紙著作物目録記載1の「スタッフジャンパー画」(以下「本件ジャンパー画」という。)を利用したジャンパー(以下「本件ジャンパー」という。)を着用していた(乙3、弁論の全趣旨)。 (3)原告各商標権 原告は、別紙商標目録の「出願日」欄記載の各日に、原告各商標に係る商標登録出願を行い、同目録の「登録日」欄記載の各日に、原告各商標権の設定登録を受けた(甲6ないし9)。 (4)本件訴訟に至る経緯 ア 原告は、令和3年6月17日、被告Bi及び被告Ciに対し、関ケ原検定の実施に際して原告の著作権及び商標権を侵害した事実が存在する旨を記載した「知的財産侵害警告」と題する文書を送付した(甲20)。 イ 原告は、令和4年12月28日、被告Biらは原告の許可を得ることなく本件各デザインを使用しており、このような行為は本件各デザインに係る原告の著作権及び原告各商標権を侵害するものであると主張して、被告Biらに対し、不法行為に基づき、損害金347万4000円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、著作権法115条に基づき、原告の名誉を回復するための措置を、同法112条1項及び2項に基づき、本件各デザインの複製及び頒布の差止め並びに廃棄を、商標法36条1項に基づき、原告各商標の使用の差止めを求める訴訟(東京地方裁判所令和4年(ワ)第70145号著作権侵害(不法行為)による請求事件)を提起した。東京地方裁判所は、令和5年8月30日、原告の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。(乙9、弁論の全趣旨) ウ 原告は、令和5年9月26日、被告らに対し、本件訴訟を提起した。 エ 原告は、前記イの判決を不服として、その一部(原告の差止請求及び廃棄請求を棄却した部分)について控訴を提起した上(知的財産高等裁判所令和5年(ネ)第10092号著作権侵害(不法行為)による請求控訴事件。以下、前記イの第1審の訴訟と併せて「前訴」という。)、控訴審において、著作権法115条に基づく名誉回復の措置として、前記イの第1審の訴訟とは異なる措置を請求し、同請求は、控訴審における追加請求として扱われることとなった。 知的財産高等裁判所は、令和6年3月18日、原告の控訴及び控訴審における追加請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡し(控訴審の口頭弁論終結時は同年2月7日)、同判決は、同年4月5日に確定した(以下、確定した同判決を「前訴判決」という。)。 3 争点 (1)本件訴訟において、原告が被告Biらに対して同被告らの行為により本件各デザインに係る原告の著作権及び原告各商標権が侵害されていると主張することが、前訴判決の既判力に抵触し許されないといえるか(争点1) (2)著作権侵害の成否(争点2) ア 本件各デザインの著作物性(争点2−1) イ 本件各デザインに係る著作権の帰属(争点2−2) ウ 著作権侵害行為の有無(争点2−3) エ 故意又は過失の有無(争点2−4) オ 利用許諾の有無(争点2−5) (3)商標権侵害の成否(争点3) (4)損害の発生及び額(争点4) (5)差止め等の必要性(争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件訴訟において、原告が被告Biらに対して同被告らの行為により本件各デザインに係る原告の著作権及び原告各商標権が侵害されていると主張することが、前訴判決の既判力に抵触し許されないといえるか)について (被告Biらの主張) 原告は、本件訴訟において、被告Biらの行為は原告の著作権及び商標権を侵害すると主張して、被告Biらに対し、本件各デザインの複製の差止め等を求めているところ、これらの請求に係る訴訟物は、前訴と同一のものである。 そして、前訴判決は、原告の請求を棄却した判断を相当と認め原告の控訴を棄却したものであり、令和6年4月5日に確定しているところ、本件訴訟において原告が被告Biらに対して行っている主張は、いずれも前訴の控訴審の口頭弁論終結時より前の事由に基づくものにすぎない。 したがって、原告が被告Biらに対して同被告らの行為により原告の著作権及び商標権が侵害されていると主張することは、前訴判決の既判力に抵触し許されない。 (原告の主張) 否認ないし争う。 2 争点2(著作権侵害の成否)について (1)争点2−1(本件各デザインの著作物性)について (原告の主張) 本件各デザインは、いずれも思想又は感情を創作的に表現したものといえるから、著作権法上保護される著作物に当たる。 (被告らの主張) 否認ないし争う。 (2)争点2−2(本件各デザインに係る著作権の帰属)について (原告の主張) 原告は、本件各デザインの創作的表現に実質的に関与しており、本件各デザインの著作者といえる。 したがって、本件各デザインの著作権は原告に帰属している。 (被告らの主張) 否認ないし争う。 (3)争点2−3(著作権侵害行為の有無)について (原告の主張) ア 被告らは、本件ポスター等と同様の内容の被告ポスター等を制作した上で、それらをインターネット上で公表する、本件ジャンパー画を利用した本件ジャンパーを使用するなどしていた。 このような被告らの行為は、本件各デザインに係る原告の著作権(複製権又は翻案権、公の伝達権)を侵害するものである。 イ これに対し、被告らは、本件ジャンパー画に係る著作権侵害行為について、被告関ケ原町は原告に対して本件ジャンパーの代金を支払って、それを使用していただけであると主張するが、原告が本件ジャンパーの代金を受領した事実はない。 (被告らの主張) 否認ないし争う。 原告の主張のうち本件ジャンパー画に係る著作権侵害行為について、被告らは、垂井日之出印刷所を通して、原告に対し、本件ジャンパーの代金を原告が関ケ原検定のために制作した手形ノートやステッカー(以下、それぞれ「本件手形ノート」、「本件ステッカー」という。)の代金と併せて支払った上で、本件ジャンパーを使用しているだけであるから、被告らは本件ジャンパー画に係る複製権又は翻案権、公の伝達権を侵害する行為をしていない。 (4)争点2−4(故意又は過失の有無)について (原告の主張) 被告らが、本件各デザインが原告の制作したものであることを知りながら、前記(3)(原告の主張)の著作権侵害行為をしていることからすれば、被告らには著作権侵害についての故意があるといえる。 そうではないとしても、被告らは、制作された被告ポスター等が他人の著作権を侵害しているか否かを確認すべき義務を負っているから、少なくとも著作権侵害についての過失があるといえる。 (被告らの主張) 否認ないし争う。 (5)争点2−5(利用許諾の有無)について (被告らの主張) ア 本件ポスター等について 関ケ原検定は、被告関ケ原町の企画として実施されたものであり、その実施に際して制作されたポスター等は、被告関ケ原町において自由に利用できることが当然の前提になっていた。 そのような前提の下で、原告は、被告Biや被告関ケ原町の職員と打合せを行いながら本件ポスター等を完成させたものであるから、被告関ケ原町が被告ポスター等を制作する行為(以下「本件制作行為」という。)については、原告の許諾が存在する。 イ 本件ジャンパーについて 前記(3)(被告らの主張)のとおり、被告関ケ原町は、原告に対し、本件ジャンパーの代金を支払っているから、被告関ケ原町による本件ジャンパー画を利用した本件ジャンパーの使用については、原告の許諾が存在する。 (原告の主張) ア 本件ポスター等について 被告らは、本件ポスター等は被告関ケ原町において自由に利用できることが前提になっていたと主張するが、そのような事実はなく、原告が本件制作行為に係る許諾を行った事実はない。 イ 本件ジャンパーについて 前記(3)(原告の主張)のとおり、原告が本件ジャンパーの代金を受領した事実はないから、被告らの主張は、その前提を欠いており、理由がない。 3 争点3(商標権侵害の成否)について (原告の主張) 被告らは、被告ポスター等において、原告各商標を使用しており、これらの被告らの行為は、原告各商標と同一又は類似の商標を、原告各商標の指定役務と同一又は類似する役務において使用しているものであるから、原告各商標権を侵害する行為である。 (被告らの主張) 原告商標1については、被告ポスター等では使用されておらず、被告らが原告商標1を使用した事実はない。 また、原告商標2ないし4について、これらの商標に係る商標権の設定登録日は、最も早いものでも令和3年9月27日であるところ、関ケ原検定は、同年7月16日以降、実施されておらず、被告らは、上記設定登録日以降、原告商標2ないし4を使用していない。 したがって、被告らによる商標権侵害行為は存在しないから、原告の商標権侵害に基づく請求は理由がない。 4 争点4(損害の発生及び額)について (原告の主張) 本件において、著作権法114条3項に基づいて算定される著作権侵害に係る損害額は別紙損害額計算表のとおりであり(同計算表の@ないしHは、別紙著作物目録記載の番号に対応している。)、損害額の合計は347万4000円となる。 (被告関ケ原町の主張) 否認ないし争う。 5 争点5(差止め等の必要性)について (原告の主張) 本件における被告らの行為等からすれば、被告関ケ原町に対しては、著作権法115条に基づき、原告の名誉を回復するための措置を命じる必要があり、被告らに対しては、同法112条1項及び2項に基づき、本件各デザインの複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め並びに同物品の廃棄を、商標法36条1項に基づき、原告各商標の使用の差止めを、それぞれ命じる必要がある。 (被告らの主張) 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件訴訟において、原告が被告Biらに対して同被告らの行為により本件各デザインに係る原告の著作権及び原告各商標権が侵害されていると主張することが、前訴判決の既判力に抵触し許されないといえるか)について前提事実(4)イ及びウ、証拠(乙9)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟の提起より前に、被告Biらに対して前訴を提起しているところ、前訴及び本件訴訟の原告の被告Biらに対する請求において主張されている実体法上の権利の内容及び被告Biらによる侵害行為の内容はいずれも同一であることが認められるから、前訴及び本件訴訟の訴訟物は同一であるといえる。 そして、前提事実(4)エのとおり、前訴判決は、原告の請求を棄却した判断を相当と認め原告の控訴を棄却し、原告の控訴審における追加請求を棄却したものであって、令和6年4月5日に確定しているところ、弁論の全趣旨によれば、本件訴訟において、原告が被告Biらに対する請求に関して行っている主張は、いずれも前訴の控訴審の口頭弁論終結時(令和6年2月7日)以前の事由に基づくものであり、同時点より後の事由に基づく主張は存在しないことが認められる。 そうすると、本件訴訟において、原告が、被告Biらに対して、被告Biらの行為によって本件各デザインに係る原告の著作権及び原告各商標権が侵害されていると主張することは、前訴判決の既判力に抵触し許されない。 したがって、原告の被告Biらに対する請求はいずれも理由がないものというべきである。 2 争点2(著作権侵害の成否)について (1)争点2−1(本件各デザインの著作物性)について 証拠(甲1ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、本件各デザインは、関ケ原検定の内容や魅力を伝えるために、イラスト、文字及び色彩等を選択し、その配置等を調整して制作されたものであることが認められる。 そうすると、本件各デザインは、いずれも、制作者の個性が表れたものであるから「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認められ、かつ、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と認められるから、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当する。 (2)争点2−2(本件各デザインに係る著作権の帰属)について 証拠(甲1ないし9、被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、本件各デザインの創作的表現については、いずれも原告のみによって創出されたものであると認められる。 したがって、本件各デザインの著作者は原告であり、その著作権は原告に帰属するものと認められる。 (3)争点2−3(著作権侵害行為の有無)について ア 本件ポスター等について 前提事実(2)イのとおり、被告関ケ原町は、関ケ原検定の実施のために、本件ポスター等に基づき被告ポスター等を制作していた。そして、証拠(甲2ないし5、10、11、13、乙5ないし8、被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、本件合格カードと被告関ケ原町が制作した合格カードは同一の内容であること、その余の制作物については、本件ポスターでは、左上に「2021スタート」と、左下に「岐阜県関ケ原町公式HP」と記載されているのに対し、被告関ケ原町が制作したポスターでは、左上に「2021.4月本番」と、左下に「関ケ原検定実行委員会」と記載され、かつ、同委員会の住所、電話番号及びURLが記載されている点、被告関ケ原町が制作した実施要領では、その下部に問合せ先及び関ケ原検定の申込用紙に係る記載があるのに対し、本件実施要領にはその記載がない点等が相違しているものの、それ以外の部分は同一であることが認められる。上記の相違点に係る変更等は、その態様からすると、主に形式的な内容調整のために行われたものといえ、新たに思想又は感情を創作的に表現するものであるとは認められない。 したがって、被告関ケ原町が被告ポスター等を制作する行為(本件制作行為)は、本件ポスター等に依拠して、これと同一のものを作成する行為であるか、又は具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるものを作成する行為というべきである。 以上によれば、本件制作行為は、本件ポスター等に係る原告の著作権(複製権)を侵害するものと認められる。 なお、原告は、被告関ケ原町が被告ポスター等をインターネット上で公表しており、これによって原告の有する公の伝達権(著作権法23条1項又は2項)が侵害されていると主張する。しかしながら、本件全証拠によっても、被告関ケ原町が被告ポスター等をインターネット上で公表しているという事実を認めることはできないから、原告の上記の主張はその前提を欠くものであって採用できない。 イ 本件ジャンパー画について 前提事実(2)ウ、証拠(乙1、2、11ないし15、被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、被告関ケ原町は、原告から本件ジャンパー画を利用した本件ジャンパーを購入した上で、本件ジャンパーを使用していたことが認められるが、本件全証拠によっても、被告関ケ原町が本件ジャンパー画の複製又は翻案等の著作権侵害に相当する行為をしたという事実を認めることはできない。 そうすると、被告関ケ原町が本件ジャンパー画に係る原告の著作権を侵害したとは認められない。 (4)争点2−4(故意又は過失の有無)について 前記(2)で説示したとおり、本件各デザインの創作的表現については、いずれも原告のみによって創出されたものであるところ、証拠(被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、被告関ケ原町は、本件各デザインの制作経緯を認識していたにもかかわらず、前記(3)アの著作権侵害行為に至ったものと認められる。 そうだとすれば、被告関ケ原町には、上記著作権侵害行為について、少なくとも過失があるというべきである。 (5)争点2−5(利用許諾の有無)について 被告らは、本件制作行為に原告の許諾が存在すると主張する根拠として、本件ポスター等が関ケ原検定の実施に際して制作されたものであるから、被告関ケ原町においてそれを自由に利用できることが前提となっていたことを指摘する。 しかしながら、関ケ原検定において本件ポスター等を自由に利用できることが前提になっていたという事実が認められるとしても、その事実をもって、原告が本件制作行為を許諾していたことが直ちに根拠付けられるものではない。 そして、前提事実(4)アのとおり、原告が、令和3年6月17日、被告Bi及び被告Ciに対し、関ケ原検定の実施に際して原告の著作権及び商標権を侵害した事実が存在する旨を記載した「知的財産侵害警告」と題する文書を送付しており、本件制作行為に対する抗議を行っていることを踏まえると、本件全証拠によっても、被告らの主張する利用許諾の事実を認めることはできないというべきである。 3 争点3(商標権侵害の成否)について (1)原告商標1について 証拠(甲11ないし15、乙1ないし8、被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、被告ポスター等においては原告商標1が使用されていないものと認められ、本件全証拠によっても、被告関ケ原町が原告商標1を使用していた事実を認めることはできない。 (2)原告商標2ないし4について 前提事実(3)のとおり、原告商標2ないし4に係る商標権の登録日は、最も早いものでも令和3年9月27日であるところ、証拠(甲6ないし15、乙1ないし8、被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、関ケ原検定は、同年7月16日以降、実施されておらず、被告関ケ原町は、上記の商標権の登録日以降、これらの商標を使用した役務を行っていないことが認められる。 (3)小括 したがって、被告関ケ原町による商標権侵害行為があったと認めることはできないから、商標権侵害に係る原告の主張は理由がない。 4 争点4(損害の発生及び額)について 証拠(乙11ないし16、被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和2年11月1日付けで、被告関ケ原町に対し、本件ジャンパー10着、本件手形ノート200冊及び本件ステッカー1200コマ並びにこれに係るデザイン料として14万0470円(送料及び消費税込み)を請求していること、原告は、令和3年3月24日にも上記に係る費用の請求をしており、その際は、グッズ代金(本件ジャンパー、本件手形ノート及び本件ステッカーの購入代金に相当するもの)15万6090円に加えて企画・デザイン費として49万7640円を請求し、被告関ケ原町は、原告に対し、上記グッズ代金に相当する15万6090円を、垂井日之出印刷所を通して支払っていることが認められ、上記の支払をもって、本件ジャンパーの代金は既に支払われていたということができる。 そして、証拠(甲2ないし5、10、11、13、乙13、被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、本件ポスター等は、本件ジャンパー画と併せて作成されたものであって、本件ポスター及び本件賞状には、本件ジャンパー画と共通する「みっちゃん」及び「やっくん」という人物のイラストが存在し、同イラスト以外の部分については、関ケ原検定の名称やその客観的内容に関する表現が多いことが認められ、これらの部分に係る著作権が高い価値を有しているとは認められない。 また、証拠(乙13、16、被告Bi)及び弁論の全趣旨によれば、関ケ原検定は、令和3年4月から同年7月頃まで実施されていたが、その受験者数は合計45人、受験者から受領した受験料の合計は17万1000円であったことが認められる。 以上の事情に加え、前提事実(4)及び弁論の全趣旨によれば、関ケ原検定が令和3年7月16日以降に実施されていないのは、本件各デザインに係る著作権侵害等の問題が発生したことが原因であったことと認められ、被告関ケ原町による著作権侵害行為がなければ、関ケ原検定は、同月以降も継続できた可能性があること、著作権侵害があった場合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、通常の使用料に比べて高額となること、原告のこれまでの使用料率に関する立証の程度など本件に現れた諸事情を総合考慮すると、前記2(3)アの著作権侵害行為に係る著作権(複製権)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、20万円と認めるのが相当である。 5 争点5(差止め等の必要性)について (1)差止め及び廃棄の請求について 本件各デザインの複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め並びに同物品の廃棄に係る請求については、前記2(3)アで説示したとおり、被告関ケ原町は、本件ポスター等を利用して被告ポスター等を制作しており、そうだとすれば、本件においては、別紙著作物目録記載2ないし5のデザインの複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め並びに同物品の廃棄の必要性が認められる。 他方、前記2(3)イで説示したとおり、被告関ケ原が本件ジャンパー画に係る著作権侵害行為をしたとはいえないから、別紙著作物目録記載1のデザイン(本件ジャンパー画)に係る差止め及び廃棄の必要性は認められない。 (2)名誉回復等の措置に係る請求について 著作権法115条に基づく名誉回復等の措置に係る請求については、原告が同措置の前提となる著作者人格権侵害に関する具体的な主張をしていないこと、本件全証拠によっても、原告が著作者であることを確保し、又は訂正その他著作者の名誉若しくは声望を回復するための措置を実施する必要性があるとは認められないことからすれば、原告の請求は理由がないというべきである。 第5 結論 以上によれば、原告の請求は、被告関ケ原町に対し、別紙著作物目録記載2ないし5のデザインの複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め並びに同物品の廃棄を求め、20万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年10月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 よって、原告の請求は上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判官 間明宏充 裁判官 木村洋一 裁判長裁判官 國分隆文は、差支えにつき署名押印することができない。 裁判官 木村洋一 (別紙著作物目録 省略) (別紙商標目録 省略) (別紙損害額計算表 省略) |
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