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【事件名】タオルのライセンス契約事件(2) 【年月日】令和7年3月26日 知財高裁 令和6年(ネ)第10049号、同第10066号損害賠償(本訴)請求控訴、同(反訴)請求附帯控訴事件 (原審・東京地裁令和元年(ワ)第30628号、令和2年(ワ)第27477号) (口頭弁論終結日 令和6年12月19日) 判決 控訴人兼附帯被控訴人(一審本訴原告・一審反訴被告) 株式会社カボ企画(以下「一審原告会社」という。) 控訴人兼附帯被控訴人(一審本訴原告・一審反訴被告) X(以下「一審原告X」といい、 一審原告会社と併せ「一審原告ら」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 福井健策 同 伊藤真 同 平井佑希 同 丸田憲和 同 石井あやか 被控訴人兼附帯控訴人(一審本訴被告・一審反訴原告) 一広株式会社(以下「一審被告一広」という。) 被控訴人兼附帯控訴人(一審本訴被告・一審反訴原告) 株式会社タオル美術館(以下「一審被告タオル美術館」という。) 被控訴人兼附帯控訴人(一審本訴被告・一審反訴原告) Y1(以下「一審被告Y1」という。) 被控訴人兼附帯控訴人(一審本訴被告・一審反訴原告) Y2(以下「一審被告Y2」といい、 一審被告一広、一審被告タオル美術館及び一審被告Y1と併せ「一審被告ら」という。) 上記4名訴訟代理人弁護士 木下雅之 同 上谷佳宏 同 松宮慎 同 末吉亙 同 佐藤安紘 主文 1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。 2 一審原告らの控訴に係る控訴費用は一審原告らの負担とし、一審被告らの附帯控訴に係る附帯控訴費用は一審被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 一審原告らの控訴の趣旨 (1)原判決中一審原告ら敗訴部分を取り消す。 (2)一審被告らは、一審原告Xに対し、連帯して、5億円並びにこれに対する一審被告タオル美術館及び一審被告Y2については令和元年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし、これに対する令和元年11月29日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で一審被告一広及び一審被告Y1と連帯して)並びに一審被告一広及び一審被告Y1については令和元年11月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)一審被告タオル美術館、一審被告Y1及び一審被告Y2は、一審原告会社に対し、連帯して、3億円及び、うち2672万3642円に対する平成25年8月1日から、うち741万5465円に対する平成26年2月1日から、うち4102万9755円に対する平成26年8月1日から、うち1032万7929円に対する平成27年2月1日から、うち3794万7190円に対する平成27年8月1日から、うち1121万8299円に対する平成28年2月1日から、うち2907万6262円に対する平成28年8月1日から、うち757万0067円に対する平成29年2月1日から、うち2869万1391円に対する平成29年8月1日から、うち1億円に対する、一審被告タオル美術館及び一審被告Y2については令和元年11月28日から(ただし、令和元年11月29日から支払済みまで年2割5分の割合による金員の限度で一審被告Y1と連帯して)、一審被告Y1については令和元年11月29日から、各支払済みまで、年2割5分の割合による金員を支払え。 (4)訴訟費用は第1、2審及び本訴・反訴を通じて一審被告らの負担とする。 (5)仮執行宣言 2 一審被告らの附帯控訴の趣旨 (1)原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。 (2)一審原告らは、一審被告らに対し、連帯して1億0487万6957円及びこれに対する令和2年11月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 (3)訴訟費用は第1、2審及び本訴・反訴を通じて一審原告らの負担とする。 第2 事案の概要(略語は原判決の表記に従う。なお、原判決に「別紙」とあるのは「原判決別紙」と読み替える。) 1 一審原告Xの制作に係る著作物(当該著作物を商品化したものを、ATSUKOMATANOブランド〔以下「AMブランド」という。〕に関する商品をいうものとして、以下「AM商品」と総称する。)の権利を管理する一審原告会社は、一審被告タオル美術館との間で、平成10年1月1日、上記著作物の使用を許諾するマスターライセンス契約(以下「基本契約」という。)を締結し、一審被告タオル美術館は、一審被告一広に対し、上記基本契約に基づき、著作物の使用に係るサブライセンス契約を締結し、一審被告らは、AM商品を製造販売した(以下、一審被告ら製造販売に係るAM商品を「一審被告商品」という。)。 しかし、一審原告会社と一審被告タオル美術館は、平成29年12月27日、一審被告タオル美術館に違法コピー等の重大な契約違反があったとして、同月31日、基本契約を合意解約した。その上で、一審被告らは、一審原告らとの間で、平成30年4月27日、違法コピー等に係る損害賠償金の一部弁済として、3億円の支払義務があることを認め、これを一括して支払うとともに、違法コピー等の問題を解決するために、損害賠償金の総額等の決定等につき、別途協議する旨の合意をした。 本件の本訴は、一審原告らが、上記にいう3億円を超える損害があると主張して、以下の2に掲げる請求をする事案であり、本件の反訴は、一審被告らが、一審原告において上記合意に違反する行為があると主張して、以下の3に掲げる請求をする事案である。 2 本訴 (1)一審原告Xの請求 一審原告Xが、一審被告らに対し、一審被告タオル美術館及び一審被告一広(以下、併せて「一審被告会社」という。)による原判決別紙「被告商品の数量等目録」記載の各商品(以下、同目録の目録番号に合わせて、一審被告商品1−1ないし471といい、これらを併せて「一審被告商品1」という。)の製造及び販売は、一審原告Xの著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)、著作者人格権(同一性保持権)及びパブリシティ権を侵害する共同不法行為を構成するとともに、取締役である一審被告Y1及び一審被告Y2による任務懈怠責任を構成するとして、一審被告会社については民法719条1項、709条及び著作権法114条2項に基づき、一審被告Y1及び一審被告Y2については会社法429条1項に基づき、逸失利益74億0607万6691円、慰謝料390万円及び弁護士費用相当損害金4億5901万2544円の一部請求として、24億9929万円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(一審被告タオル美術館及び一審被告Y2については令和元年11月28日、一審被告一広及び一審被告Y1については同月29日)から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(各一審被告への請求範囲が重なる部分に限り連帯支払)を求めるもの (2)一審原告会社の請求 ア 一審原告会社が、一審被告タオル美術館、一審被告Y1及び一審被告Y2に対し、一審原告Xの著作権等を侵害する一審被告商品1が製造、販売されたことは、一審被告タオル美術館による契約上の管理義務違反並びに一審被告Y1及び一審被告Y2による任務懈怠責任を各構成するとして、一審被告タオル美術館については債務不履行に基づき、一審被告Y1及び一審被告Y2については会社法429条1項に基づき、一審被告タオル美術館受領に係るオーバーロイヤリティ相当額6億2330万0904円の支払を求めるもの イ 一審被告タオル美術館が、一審原告会社に対し数量報告を行わずに一審被告商品(以下、未報告に係る当該商品を総称して「一審被告商品2」という。)を製造及び販売したことは、一審被告タオル美術館による契約上の報告義務違反及び管理義務違反並びに一審被告Y1及び一審被告Y2による任務懈怠を構成するとして、一審被告タオル美術館については債務不履行に基づき、一審被告Y1及び一審被告Y2については会社法429条1項に基づき、一審被告タオル美術館受領に係るオーバーロイヤリティ(ミニマムロイヤリティを超える額で折半すべきもの)相当額15億2598万1680円の一部請求として、11億円の支払を求めるもの ウ 原判決別紙「遅延損害金一覧表」記載の各金員(支払対象期間に応じて、上記ア及びイを合計したオーバーロイヤリティ相当額)に対する各起算日(契約所定の支払期限の翌日)から、各支払済みまで契約所定の年2割5分の割合による遅延損害金の支払(各一審被告への請求範囲が重なる部分に限り連帯支払)を求めるもの 3 反訴 一審被告らが、一審原告らは、一審被告らとの間で中間合意をし、同合意3条1項に基づき、一審被告会社が基本契約解除後から継続的に販売していた在庫商品全てに対し、ライセンサーとして権利行使をしてはならない不作為義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、売上げのうち75%がAM商品の違法コピーである旨主張して3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、上記不作為義務に違反し、また、一審原告らは、一審被告らとの間で中間合意をし、同合意7条に基づき、いわゆる違法コピー問題の解決に向けて、在庫の販売期間の延長等に関し、一審被告らと協議すべき義務があったにもかかわらず、中間合意締結後、在庫の販売期間の延長等に関し一切協議を行わず、かえって3億円の支払によって販売許諾が成立していた在庫商品の範囲を不当に制限し、更に一審被告らに100億円を超える多額の損害金を請求するなどして、在庫の販売期間の延長等に関する協議義務に違反したと主張して、債務不履行に基づく損害賠償請求として、1億0487万6957円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和2年11月21日から支払済みまで商事法定利率(平成29年法律第45条による廃止前のもの)年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 4 原判決 原審は、@一審被告商品は、一審原告X制作の絵柄と共通し実質を同じくする本件絵柄部分と、それ以外の部分である本件タオル部分から成るところ、本件タオル部分には著作物性が認められない、A本件絵柄部分については、一審被告会社において、その使用について販売期間の制限のない許諾を得ている、B原判決別紙「侵害類型分類一覧表」の侵害類型番号(以下「類型番号」という。)1、3及び23の1の一審被告商品については本件絵柄の著作権侵害が成立するが、その余の権利侵害、債務不履行の主張についてはいずれも理由がない、C一審原告Xにつき著作権法114条2項は適用されない、D上記Bの3類型についての著作権法114条3項の損害額は、一審被告商品1について331万9647円、一審被告商品2について4274万1223円である、E損害については一審被告らによりなされた3億円の支払により弁済されている、F反訴についてはいずれも理由がない、として本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却する判決をしたところ、一審原告らが、一審原告らの控訴の趣旨記載の不服の限度で本件控訴を、一審被告らが一審被告らの附帯控訴の趣旨記載のとおり附帯控訴を提起した。 5 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記6のとおり当審における一審原告らの主な補充主張を、後記7のとおり当審における一審被告らの主な補充主張をそれぞれ付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中(以下、引用及び補正するのは原判決の「事実及び理由」中の記載である。)、第2の5ないし7(原判決7頁11行目ないし41頁2行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 なお、一審被告らは、原判決が本件絵柄の著作権侵害を認定した類型番号別の個別争点1、3及び23の1について、その認定及び判断を認める趣旨ではないものの、争点とはしないとする。 (1)原判決8頁16行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「(カ)なお、平成27年7月1日から平成31年3月31日までの間は、一審被告Y2のほか、Aも旧タオル美術館の代表取締役を務めていた(甲3)。小原については、平成27年7月1日から令和元年9月30日までの間は、一審被告Y1のほか、Aが代表取締役を務めており、同年10月1日からは一審被告Y1のほか、一審被告Y2も代表取締役を務めるに至った(甲5)。」 (2)原判決8頁23行目から同9頁15行目までを次のとおり改める。 「ア 基本合意(1条1項ないし5項) (ア)一審原告会社と一審被告タオル美術館は、マスターライセンス契約を締結する。但し、一審原告会社は現在ライセンス契約を締結している株式会社ワコール、レック株式会社及び有限会社ら・むりーず(以下『ら・むりーず』という。)については、直接一審原告会社がその契約を承継していく。(1項) (イ)許諾商品の種類(アイテム)については、その都度、一審原告会社と一審被告タオル美術館の両者間で協議して決定し、その範囲を定めない。(2項) (ウ)一審被告タオル美術館がサブライセンス契約を締結する場合は、その契約条件及び許諾商品について書面にて提示し、一審原告会社と一審被告タオル美術館が協議し一審原告会社が許諾した場合に限り、その際、覚え書きを締結し、一審原告会社一審被告タオル美術館各記名捺印のうえ各一通宛保有する。(3項) (エ)一審原告会社は、一審原告Xの制作に係る著作物(以下、基本契約を通じて『著作物』という。)を一審被告タオル美術館に対して継続的に供給し、一審被告タオル美術館は、その著作物を使用した商品(以下、基本契約を通じて『許諾商品』という。)を日本国内外で製造し国内外で販売する権利を被許諾者(サブライセンシー)に対して付与する。(4項) (オ)(エ)において、『使用』とは、著作物を構成するタイトル名、サブタイトル名、登場キャラクター、コレクションの名称、形状、シンボル、ストーリー、プロット等を、許諾商品の使用価値を高めるために捺染、印刷、彫塑、撮影その他の技法を用いて、許諾商品に具現化することをいう。(5項) イ 許諾商品の企画(2条1項、2項) 一審原告会社は、前条に定める許諾商品について、そのデザイン、生地等の材料及び著作物の使用方法等について、著作物の使用が最も適切に行われるような商品企画を行う。一審原告会社が特に要求した場合、一審被告タオル美術館はそのサブライセンシーに対して基本契約に基づく商品企画を立案・策定することを要求し、一審原告会社の意思を可能な限り尊重する。(1項) 許諾商品の種類(アイテム)は、著作物毎に1条1項(前記ア(ア))に定める範囲以内で一審原告会社・一審被告タオル美術館協議の上で決定することとし、特定の著作物についてその許諾商品の範囲を後日一審被告タオル美術館が変更しようとする時は、一審原告会社の承諾を得るものとする。(2項)」 (3)原判決9頁18行目及び同11頁2行目の各「原板」をそれぞれ「原反」と改める。 (4)原判決11頁22行目の末尾を改行し、次のとおり加える。 「ウ ライセンス契約の内容(5条) 百貨店を販売ルートとするAMブランドについて今後ライセンス契約を積極的に進めて行く。 但し、ライセンスの相手方は厳選し、事前に企画及びデザインのコンセプト等を説明し理解が得られない場合は取り組まないものとする。 特に配色、素材、レイアウト等についての拘りを予めサブライセンシーに対し明確に説明し了解してもらう。 エ サブライセンス契約についての一審原告会社と一審被告タオル美術館の協議(6条) 一審被告タオル美術館が他社とサブライセンス契約を締結する場合、一審被告タオル美術館は一審原告会社と事前に条件等について協議し両者が納得した上で契約を進める。 また、契約の結果についても一審原告会社に報告するものとする。 オ 一審被告タオル美術館への役員参加(7条) 一審原告会社の代表取締役B(当時)は一審被告タオル美術館の役員として参加しライセンス事業が円滑に取り組めるように協力する。」 (5)原判決11頁23行目から同12頁2行目までを次のとおり改める。 「(4)サブライセンス契約(乙7、22(3頁)、112〔甲48も同旨〕) 一審被告タオル美術館と一審被告一広は、平成10年1月1日、基本契約に基づき、一審被告タオル美術館が一審原告会社から使用許諾された著作物に係る商品の製造及び販売について、一審被告タオル美術館が一審被告一広に対し、次に掲げる内容で、再許諾する旨のサブライセンス契約(以下『サブライセンス契約』という。)を締結し、契約期間である3年が経過するごとに同旨の契約を更新した。 一審被告タオル美術館は、平成10年7月1日、同旨のサブライセンス契約を川辺株式会社(以下『川辺』という。)との間で締結した。 平成15年以降、一審被告タオル美術館と継続してサブライセンス契約を締結していたのは、一審被告一広、川辺のほか、株式会社アセット(以下『アセット』という。)及び株式会社サロンジェ(以下『サロンジェ』という。)であった。」 (6)原判決12頁21行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「ウ 承認義務(9条。なお、平成14年以降に締結された一審被告一広以外との同旨契約については、10条以降に規定が置かれたり、なお書(尚、かかる一審原告Xによる承認は不合理に留保されないものとする。)及びただし書(但し、かかる一審原告Xによる最終承認は不合理に留保されないものとする。)が置かれるなどしているものもあるが、概ね同旨である。) 一審被告一広は、契約商品を発表する前に、一審被告タオル美術館を経由して、一審原告Xによる承認を以下のとおり、得なければならない。 (1)一審被告一広は、契約商品のデザイン・品質・形状等について、一審原告Xの書面による承認を得なければならない。また一審被告タオル美術館は、承認を得られなかった場合には、一審被告一広に対し不承認の理由を示すものとする。 (2)一審被告一広は、一審原告Xが書面により要求した契約商品の見本ないし写真を一審原告Xへ提出し、一審原告Xによる最終承認が得られるまで、繰り返し修正作業を行うものとする。」 (7)原判決13頁6行目ないし7行目の「改善嘆願書(甲22の1)」を「『改善嘆願書』と題する書面(以下『改善嘆願書』という。甲22の1)」と改める。 (8)原判決13頁22行目ないし同14頁1行目を次のとおり改める。 「(7)基本契約等の合意解約 一審原告会社と一審被告タオル美術館は、平成29年12月27日、一審被告タオル美術館の重大な契約違反行為(一審被告タオル美術館が基本契約に基づきライセンス許諾をした一審被告一広による行為も含む。)を理由として、同月31日をもって基本契約を合意解約し、基本契約の終了に伴い、一審被告タオル美術館が、一審被告一広、川辺、アセット、サロンジェ、株式会社サンエース、西川産業株式会社(以下『西川』という。)及びアスワン株式会社との間で締結したサブライセンス契約が同日に終了することを確認する旨の合意をした(甲29)。 そして、一審原告会社において、平成30年1月1日以降、前記サブライセンシーのうち、一審被告一広及び川辺を除く、アセット、サロンジェ、株式会社サンエース、西川及びアスワン株式会社との間で、一審原告Xの創作した著作物等の使用許諾に係るライセンス契約を締結し、ライセンス事業を継続することとされた。」 (9)原判決14頁9行目ないし10行目の「損害賠償金(以下『本件賠償金』という。)」を「損害賠償金(以下、中間合意を通じて『本件賠償金』という。)」と改める。 (10)原判決14頁20行目ないし同15頁2行目を次のとおり改める。 「ウ 製造禁止(4条2項) 一審被告ら、小原、大連一広及び一広ベトナムは、AM商品及びタオルアート作品に関して一審原告らより提供された資料、電子データ、ソフトウェア、サンプルその他一切の情報及びその写し(川辺を介して受領したものを含む。)を、一審原告らの指示に基づき自らの費用で一審原告らに返却又は廃棄しなければならない。ただし、返却時期及び返却方法等の詳細については別途協議の上、定める。 エ 協議(7条) 一審原告ら及び一審被告らは、中間合意締結後、違法コピー問題の解決に向けて、本件賠償金の総額等の決定、在庫の販売期間の延長、その他中間合意に定めた別途協議事項に関し、協議する。 オ 準拠法(8条) 中間合意及び違法コピー問題に関する準拠法は、日本法とする。 (9)一審原告会社のライセンス契約締結等の状況 一審原告会社と川辺とは、中間合意2条に基づき、ライセンス契約を締結した(乙107〔平成31年2月5日付け調停事件答弁書〕、4頁)が、その後終了し、一審原告会社は、その他の元サブライセンシーとの間で、直接ライセンス契約を締結した(令和3年1月8日付け原審における反訴答弁書、3頁)。 (10)一部弁済 一審被告らは、前記(8)の中間合意と同日であり同ア(ア)に定める期日である平成30年4月27日、一審原告会社に対し、中間合意に基づき、3億円を支払った(弁論の全趣旨)。」 (11)原判決15頁3行目の「(10)」を「(11)」と改める。 (12)原判決21頁15行目の「川辺株式会社(以下『川辺』という。)」を「川辺」と、同24頁13行目の「4つの」を「四つの」とそれぞれ改める。 (13)原判決28頁9行目の「被告らの主張」を「一審被告タオル美術館、一審被告Y1及び一審被告Y2の主張」と改める。 (14)原判決35頁4行目冒頭から5行目末尾までを「74億0607万6691円である。」と改め、同頁16行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「(オ)一部請求 上記合計額の一部請求として、一審原告Xは、24億9929万円及び遅延損害金の支払を求める。」 (15)原判決37頁26行目ないし同38頁1行目の「有限会社ら・むりーず(以下『ら・むりーず』という。)」を「ら・むりーず」と改め、同38頁4行目の「(被告らの主張)」を「(一審被告らの主張(一審被告商品2については一審被告タオル美術館、一審被告Y1及び一審被告Y2の主張))」と改める。 6 当審における一審原告らの本訴の争点(争点1ないし7)についての主な補充主張 (1)争点1−1(著作物性の有無)及び1−3(利用許諾の有無)について 一審被告らの行為が、著作権の本来的内容に関する合意、条件に違反するものであるか否かという観点で本件を検討すると、一審原告らは、一審原告らの指示通りに作られた完成品サンプルに対して、商品化申請デザイン承認書を取り交わすことで販売承認(すなわち複製及び譲渡の許諾)をしているのであって、そのことは、基本契約6条からも明らかであるし、本件14柄発覚時の外部調査(甲20)のヒアリングにおいて一審被告らも述べているとおりであって、当事者間に争いはない。 それにも関わらず、その合意に違反して販売承認された完成品とは異なる一審被告商品を複製、譲渡する行為は、一審被告らも自認した債務不履行(甲20や21でも一審被告らは明確に契約違反を認めている。)を構成することは当然として、許諾対象となった完成品とは異なるタオルの複製及び譲渡が行われているのであるから、複製権及び譲渡権の侵害を構成する。 原判決が一度販売承認を得た完成品を無断改変したタオルを販売することが許されるとしたのは誤りであり、一審被告らの改変行為は、管理義務違反として基本契約の債務不履行を構成するのはもちろん、著作権侵害を構成することは明らかである。 一審原告らは、原審において、一審原告らが許諾をしたのは、商品化申請デザイン承認書に明記された販売許諾期間内であり、これを超えて商品を製造、販売することは、一審原告らの許諾の範囲を逸脱しており、許されないと主張した。これに対し、原判決は、個別の許諾期間を明記した商品化申請デザイン承認書(甲54)の記載を無視した独自の解釈に依拠し、一審原告会社が期間経過商品に対して明確に異議を述べた事実も見誤った結果、一審原告会社が、基本契約が終了するまでの間、本件絵柄の継続的な使用を許諾していたと認定した(原判決46〜48頁)。 しかし、原判決が認定するように、商品化申請デザイン承認書が「飽くまで、被告タオル美術館と被告一広の間で締結されたサブライセンス契約における取決め」に止まる(サブライセンス契約6条にいう「デザイン・プログラム」という位置付けに止まる)と考えたとしても、デザイン・プログラムでは「4.契約商品の販売期間」を定め、それが一審被告タオル美術館のサブライセンシーに与えた許諾内容となるのであるから、サブライセンシーの販売が適法となるための許諾範囲を逸脱していることは明白である。 (2)争点1−5(消尽の成否)について 本件で問題となっているのは、川辺や一審被告一広が自己の名義で適法に流通に置いた商品(つまり川辺の商品や一審被告一広の商品)を、小原が購入して転売したということではなく、小原が絵柄を流用して(川辺商品や一審被告一広商品とは異なる)小原の商品として製造させ、販売したことである。川辺の商品も一審被告一広の商品も小原の商品も、製造を行っているのは一審被告一広であるが、その段階で本来許諾がなされたサブライセンシー(例えば川辺)とは異なる会社(例えば小原)のシールやタグが付され、別会社の商品として流通に置かれるということは、一審被告らの間で横行していた。このような行為は、サブライセンシーに許諾した絵柄を、許諾を受けた者以外が無断で自らの商品として流用していることに他ならず、本来的に消尽が問題となるような転売事例とは事案として異なり、権利対象商品は適法に流通に置かれてなどいない。原判決は誤りである。 (3)類型番号別の個別判断について(原判決52頁ないし64頁) ア 類型番号4、5、21の1、同25及び26(ドロップ品) 基本契約によれば、完成品サンプルの提供、確認を経て(6条第1文)、商品化申請デザイン承認書を取り交わす(6条第1文、4条2項後段)ことで初めて販売許諾に至ることが明らかである。これらのプロセスを経ていないドロップ品を販売しても著作権侵害にならないというのは、ライセンスビジネスの根幹を揺るがすおよそ不合理な認定である。 イ 類型番号6(本件4柄タオル) 本件4柄タオルとは、平成26年(2014年)4月13日、一審原告会社のスタッフが、新宿の小田急百貨店のセールワゴンにて、「ATSUKOMATANO」のネーム付きで見覚えのない商品が販売されているのを発見し、調査したところ、一審原告著作物178と絵柄等は同じだが、ガーゼ地をパイル地に変更した承認外商品であることが判明したことに端を発する、合計5柄(一審被告商品1−143、169、178、233及び234)の承認外商品である。本件4柄タオルについて最終承認が得られていないことに争いはない(原判決55頁23行目ないし26行目)。一審被告らは改変を認め、改善嘆願書(甲22の1)を提出している。このうち一審原告絵柄143の例では、配色指示書及び配色指示図案のとおりに作成され、最終承認されたサンプルと、販売された一審被告商品とは、甲34のとおり全くの別物となっている。 原判決における、一審被告タオル美術館が提供を受けた絵柄を自由に複製・翻案してタオル製品化できる、との解釈が当事者の意思と異なる独自の解釈であることは明らかである。 また、原判決は、無断改変であっても新たな創作的表現を加えなければ許諾の範囲であるかのような判示をするが(56頁12行目ないし21行目)、著作権法の解釈及びライセンスビジネスの実態からしておよそ不合理である。 ウ 類型番号7(本件14柄タオル) 本件14柄タオルとは、平成29年(2017年)10月、一審被告Y2の言動に不信感を抱き、一審原告会社のスタッフが一審被告タオル美術館の店舗を調査したところ発覚した、一連の承認外商品である。本件14柄タオルは、商品化申請デザイン承認書における指定に反して、製造コストの高い無撚糸から安価なフルフィーコットンに素材が変更されていた(原審における令和2年6月1日付け一審原告準備書面(1)44ないし49頁「しっぽねこ」参照)。原判決は、絵柄を提供した以上、使用許諾契約が成立する、無断改変の内容が新たな創作的表現を加えるものでないから著作権侵害でない、として著作権侵害を否定するところ、これらは独自の誤った解釈である。 エ 類型番号8の2、9、10の1、2、11ないし13、15ないし17、21の3、24 これらの商品は、一審被告らが糸の選択や織り方を改変しており、商品化申請デザイン承諾書による最終承認がされていないことに争いはない。 原判決は、一審被告らにおいて改変が可能とするが、商品化申請デザイン承認書による許諾を得ていない以上、許諾を逸脱していることは、既に述べたとおりである。 オ 類型番号14の1 本商品は、一審被告らが無断でタオルサイズの変更をしたものであり、商品化申請デザイン承認書による最終承認がされていないことに争いはない。著作物の利用許諾条件に違反したことが著作権侵害なのであり、タオル部分に著作物性があるか否かと、本件絵柄部分の著作物の許諾がどのような行為に及ぶかとは全く別問題である。 原判決は、類型番号23の1では、「アイテム」について両者の合意事項であることを重く見て侵害と判断するが(原判決62頁20行目)、ここではタオルサイズについての商品化申請デザイン承認書による合意を無視した認定をしており、判断相互に矛盾が生じている。 加えて、承認取得済み商品の素材、サイズ等の変更には、その都度商品化申請デザイン承認書を提出する必要があったことは、本件14柄タオル問題の発覚当時の外部調査報告書に明記されている(甲20・2頁(3)13行目ないし15行目)。これは、一審被告ら関係者へのヒアリングをもとに弁護士が記載した書面である。原判決はここでも、訴訟前の一審被告らの認識を見落とし、独自の解釈をしている。 カ 類型番号14の2 本商品は、小原に許諾した商品を一審被告一広が中国で流用したものであり、一審被告らは、完成品について一審原告会社に提供してその承認を得たものでないことを自認している(原判決60頁12行目ないし15行目)。 一審原告会社の最終承認がない商品を販売できないことは繰り返し述べているところであり、原判決はこの点において誤っている。しかも、この類型も、一審被告らが自ら「ライセンス未承認」として侵害を認めて報告をしてきたものであり(大連未承認リスト。乙33の1)、原判決はこの点も見落としている。 キ 類型番号20の2 本商品は無断でのタオルサイズの変更があったものであるところ、類型番号14の1で述べたとおり、原判決は、タオルサイズも指定した許諾がされている点を見落としている。現に、他のサブライセンシーであるサロンジェは、Mサイズのみ許諾されていたエプロンについて、S、Lサイズの商品展開を求めて、別途アプルーブの申請を行っている(甲118・2項)。 ク 類型番号23の2 本商品は、特定の在庫生地を使用した商品についてのみ製造及び販売を認め、在庫外生地による製造(追加製造)は認めていない商品である。追加製造に当たること、追加製造について許諾を得ていないことに争いはない。 原判決は、ここでも絵柄を一審被告タオル美術館に提供した時点で使用許諾が成立するというが、これが契約解釈、アプルーブの実態、当時の当事者の意思解釈のいずれにも反していることは繰り返し述べるとおりである。特定の在庫生地を使用することは明確な許諾条件であり、この条件違反での製造が著作権侵害であることは明らかであり、原判決はこの点の解釈を誤っている。 (4)著作者人格権侵害について(原判決64頁ないし65頁。争点2) 一審原告らは、絵柄とともに配色指示書、配色指示図案も合わせて制作し、商品化申請デザイン承認書にてサンプルの承認をし、同サンプル通りの製造販売を許諾している(絵柄を一審被告らにおいて改変してよいとの認定はおよそ契約条項にも実態にも反する)。このように一審原告Xは、自身の著作物がタオルとなる際の表現について改変を認めない強い意思を持っており、それが契約内容となっていたことは明らかであり、このことは、当然一審被告らも認識していた。これは、一審被告ら関係者のヒアリングを経て作成された外部調査報告書(甲20)において、承認取得済み商品の素材、サイズ等の変更には、その都度商品化申請デザイン承認書を提出する必要があったとされていること(甲20・2頁(3)13行目ないし15行目)、この承認を欠いた本件14柄タオルについて、「特に、素材の変更は、X氏が創作した著作物に関連する改変行為であり、著作者であるX氏の人格権を侵害するものであるという認識が欠けていた」とされていることから明らかである(甲20・4頁1〜3行)。 そして、絵柄(図案)自体に変更がある場合に同一性保持権侵害となることはもちろんであるが、素材や織り方を変更することで絵柄の表現が全く変わることは明らかである。以上より、本件14柄タオルは、一審原告Xの同一性保持権を侵害している。 (5)パブリシティ権侵害について(原判決65頁ないし66頁。争点3) 本件絵柄に顧客吸引力があることと、「AtsukoMatano」の氏名に顧客吸引力があることはいうまでもなく両立する。一般に、著名デザイナーはおしなべて、その作品自体による魅力と共に、そのブランドネームによる顧客吸引力を持つものであり、絵柄に顧客吸引力があることが、「AtsukoMatano」の顧客吸引力を否定する論拠になるかのような原判決の論理は理解困難である。それは、一審被告らが「AtsukoMatano」の氏名の顧客吸引力を使用したことを否定する根拠にはならない。AMブランドは、大手百貨店でも繰り返しイベントが組まれ(甲89・21頁ないし28頁、原審における令和4年8月5日付け原告準備書面(13)60頁ないし65頁)、大手通販サイト「ベルメゾン」を運営する千趣会での数年にわたる「AtsukoMatano」の特集や、フランスの著名ファッションメディアにも取り上げられるほどであり(甲93の1・2)、一審被告ら自身、運営する巨大ミュージアム「タオル美術館ICHIHIRO」(入館者数は年間で数十万人に及んだ)では、最上階フロア全面(約900平方メートル)に、一審原告Xの常設展「AtsukoMatanoタオルアートコレクション」を設置し(甲110・48頁)、AM商品を購入できるアツコマタノギャラリーを併設させている(甲43の1〜3)。さらに、中国のECサイトにおけるタオル美術館グループのウェブページにおいて、一審原告Xが、作家、画家、プロダクトデザイナーとして多方面から多くの支持を集め、AMブランドは日本を風靡し、ファッションの象徴となったなどと自ら紹介し、「AtsukoMatano」の人気ぶりを認め、この顧客吸引力を明らかに利用している(甲110・88頁、甲110の3・4)。 原判決は、ネームタグの形状が小さいことや基本契約で著作権表示を求められていることから、ネームタグは著作権表示として付されたものと認定する。いうまでもなく、問題はネームタグの大きさではないし、ネームタグが著作権表示の代替物としても機能していたか否かでもない。社会通念として、ネームタグとは商品のブランド性を表象するものであり、同商品を「AtsukoMatano」の商品として販売していたことにほかならない。上記のとおり、「AtsukoMatano」はブランドとして確立し、そのことは一審被告ら自身が認めるのであり、このような一審被告らにおいて、「AtsukoMatano」の氏名を利用してAM商品として販売をしつつ、それが「AtsukoMatano」の顧客吸引力を使用していないというのは無理な認定である。 (6)ロイヤリティ未報告商品(一審被告商品2)について(原判決66頁ないし81頁、争点4) ア 本件は、2014年(平成26年)に20万枚以上の改変商品の未報告を認めて改善策を約束した(本件4柄タオル事件。甲22の1)にもかかわらず、45類番で管理していた同種商品のロイヤリティ未報告をその後も続けるなど、当事者間に争いがない事実だけでも多くの大規模な未報告が繰り返された事案である。 一審被告らは、不正が発覚するたびに無断改変や未報告は発覚したものだけだと強弁を続けてきたが、本件訴訟における開示データから、さらに多数の未報告が判明している。すなわち、一審被告一広によるAM商品の製造数(一審被告一広が海外の製造工場から輸入したAM商品の数)とロイヤリティ報告数(2013年(平成25年)ないし2017年(平成29年))を比べたところ、後者は毎年数十万枚から百万枚以上も少ないことが判明した。5年間の累計では実に327万枚の差になる。 マスターライセンシーやサブライセンシーは、この差を合理的に説明できなければならないが、一審被告らは何ら説明できていない。これら累積327万枚もの差が在庫として残っていた形跡はなく、また焼却・大量廃棄がされた形跡もない。一審被告らは、輸入数と報告数の差を埋める説明として、「B品」は輸入数から控除して検証すべきなどと主張するが、一審被告ら自身「B品」は販売していたと認めているのであり、輸入数から「B品」を控除する理由は存しない。 なお、一審被告らの主張する「B品」は、製造時に不可避的に生じるわずかな不具合品ではなく、一審被告らが大規模に行っていた、許諾条件に違反する低クオリティのセール用商品を未報告で製造・販売していたことを隠蔽するために持ち出された概念であることが明らかになっている。 原判決は、このような輸入数と報告数の差に関する一審原告らの主張を正解せず、極めて不十分な理解のもと、輸入数と報告数の差(未報告品)は「B品」であるから問題ない、との不合理な判断をしている。 こうした多数の未報告があったことは、数々の開示データの不整合等から裏付けられる。すなわち、一審被告らは、販売実績データや在庫データについても、不合理な弁解により抵抗をしたり、不十分な開示を繰り返してきた。最終的に開示されたデータは十分とはいえないが、これらをみても、相互の不整合や販売実態との乖離、改ざんの形跡など数々の不審点があり、およそ信用することができない。 さらに、原判決は「UNIXデータの後日の改ざん可能性」がないとし、これをほぼ唯一の根拠としてロイヤリティ未報告はないとしたが、UNIXデータは全体の一部にすぎない上、「オハライッパン」などAM商品とわからない品名で計上されれば、UNIXデータの改ざんや、販売実績データにおける総販売数の改ざんとは無関係に、ロイヤリティの過小報告は可能である。 現に、一審被告らは指摘を受けるや未報告品の追加報告をするといったことを過去に再三繰り返してきた。 以上のとおり、輸入数とロイヤリティ報告数の差(約327万枚)が未報告と考えるほかないが、原判決はこの点の未報告を認定していない。 また、この輸入数とロイヤリティ報告数の差は、あくまで一審被告らの開示データから判明した未報告品の一部にすぎない。現に、平成15年(2003年)から平成29年(2017年)まで一貫して一審原告会社のライセンシーだった5社の発生ライセンス料を比較すると、他の4社の合計はこの間ほぼ一貫して増加し2003年比で5.42倍にも達したのに対して、一審被告一広のロイヤリティ報告額のみが下落・停滞を続け54.5%と約半減している。一審被告一広が他の4社と同様の推移をした場合と、実際の一審被告一広のライセンス料の不合理な差額は実に7億6299万0840円に及ぶ。数々のデータの不開示や不整合、一審被告らが未報告品の追加報告を重ねてきたことに照らしても、この差額7億6299万0840円がロイヤリティ未報告であると推認されるべきである。 仮にこのような推認がされずとも、前述のデータ不提出や不整合に照らせば、少なくとも、判明した輸入数とロイヤリティ報告数との差(比率)に応じた、過去の未報告が認められるほかない。この比率を計算すると、実際にロイヤリティ報告された枚数×0.55がロイヤリティ未報告数であるから、4億0514万6786円(一審被告一広の過去のロイヤリティ支払額7億3663万0520円×0.55)が、ロイヤリティ未報告額(一審被告商品2の損害)と認められるべきである。 イ 一審原告らが当審において提出する鑑定意見書(甲130)は、不正調査に関する専門家の意見書であり、甲130の指摘によれば、ロイヤリティ未報告額(一審被告商品2の損害)が認められるべきである。 (7)一審原告Xに生じた損害について(原判決81〜84頁。争点7) 一審原告Xとら・むりーずは、裁判例において認められた特許権者と日本における実施者の関係と同様、一審原告Xが著作権を保有し、ら・むりーずがそれを実施(著作権法で言えば複製及び譲渡)するという役割をそれぞれ担っており、一審原告Xの意思決定に従い、一体となって一審原告Xの著作権を利用した事業を遂行している。一審原告Xは、形式上は同社の役員ではないが、税務上のみなし役員として位置付けられている。このような一体的な関係を有することにより、仮に侵害品のタオルが販売されなかったならば、一審原告Xは、その意思決定に基づいて、ら・むりーずをして侵害品と市場において競合するタオルの製造、販売をさせることができたのであって(実際一審被告らとのライセンス契約終了後に同じ柄の商品をら・むりーずから販売していることは甲102のとおりである)、侵害者による侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が認められる。 一審原告X自身が持つ株式の比率や役員に名前が入っていないことを殊更に抜き出し、同居の家族で100%の株式を保有していたという簡明な事実や前述の運営の実態にあえて触れずに著作権法114条2項の適用を否定した原判決は、他の多くの箇所と同様に誤導的でさえあり、誤りである。 (8)一審原告会社に生じた損害について(原判決85頁ないし86頁。争点7) 未報告のロイヤリティ額は一審被告らが自認する額にとどまらない。一審被告らが指摘されるたびに未報告を認めてきたこと、それにもかかわらず上記の未報告が新たに判明していること、平成26年(2014年)以前の一審被告一広の販売実績データをはじめとする一審被告らのデータ不開示、及び開示データには数々の不整合、不審点が存在することからして、甲19で示される、他のサブライセンシーのロイヤリティ報告の遷移と一審被告一広のロイヤリティ報告の下落・停滞との差額分(約7億6299万円)が未報告金額であると推認するほかない。 仮にしからずといえども、一審被告一広が海外工場から輸入するAM商品の数と、ロイヤリティ報告されたAM商品の数とでは、年に100万枚以上の差が生じている。検証によると実際にロイヤリティ報告された数の1.55倍の輸入がされていたのであり、少なくとも、実際に受け取ったロイヤリティ額の0.55倍に当たる4億0514万6786円が未報告のロイヤリティ額として認められるべきである。 加えて、上記の未報告額はあくまで、一審被告タオル美術館が管理義務を果たすことでサブライセンシーのオーバーロイヤリティ額の半額を取得できると仮定した場合の、残る半額の数字である。一審被告タオル美術館は管理義務を全く果たしていないのであるから、この一審被告商品2のロイヤリティ未報告に対して一審被告タオル美術館は自身の取り分を控除することはできず、管理義務違反に基づき、上記未払額と同額の支払義務を負う。 この点、原判決は一審被告商品2に関する管理義務違反の部分について、判断を脱漏している。すなわち、原判決が認めた一審被告らの自認する未払ロイヤリティ4274万1223円は、売上額の3%(サブライセンシーが支払うロイヤリティ)に、タオル美術館の取り分として2分の1を乗じたものであり、原判決は、管理義務に基づき、未払ロイヤリティと同額の損害が生じるとの一審原告らの請求の認定を欠いている。 7 当審における一審被告らの反訴の争点(争点8)についての主な補充主張 (1)不作為義務違反(中間合意3条1項違反。争点8)について 原判決は、中間合意3条1項の「承認済み商品」の範囲を誤解している。原判決が48頁で認定するとおり、中間合意3条1項の「承認済み商品」については、中間合意直前に、代理人間で交渉が行われ、「承認済み商品」とは在庫リスト記載の商品である旨その範囲が確定されている。原判決が認定するとおり、中間合意が締結された当日の平成30年4月27日、一審原告らは、一審被告らに対し、メール(乙87)を送信し、一審被告らが提出した同年3月時点の在庫リスト(乙103の1〜105の3)記載の商品について、セール販売でなければ、これらを販売することを承認し(原判決48頁)、その結果、中間合意案の「承認済み商品」を、在庫リスト(乙103の1〜105の3)記載の商品とすることが双方によって確認された。 また、在庫リスト記載の商品の販売継続が代理人間で合意されていたことについては、中間合意締結前の平成30年4月2日に当時の一審原告ら代理人が一審被告ら代理人に対し、電子メールにて「在庫品の販売期間を12月まで延長するにも説得が大変でした。展示会に出展しないということをそのまま一審原告会社にも伝えると、『それでは売れない、売れないのであればそもそも12月まで延長する意味がない』、『セールを考えているに違いない』ということになりかねません。展示会に出展しなくても販売ができる内容の合理的な販売計画もあわせてお示しいただきますようお願いいたします。」と申し入れているが、このようなメールの文面からも明らかである。 以上のとおり、中間合意3条1項に定められた「承認済み商品」とは、平成30年3月時点の在庫リストに記載された商品であり、在庫リストに記載された商品は、基本契約解約後から継続的に販売していた在庫商品である(乙87・4頁)。 このように、一審被告らが、中間合意案の「承認済み商品」を、在庫リスト(乙103の1〜105の3)記載の商品とすることを繰り返し交渉・確認した上で中間合意の締結に至ったのは、この当時一審被告一広には在庫が約8億円分あり、在庫販売を継続させることが最優先事項であったからである(甲17・3条、乙17・3〜4頁)。すなわち、一審被告らとしては、損害額が3億円になることはないものの、その3億円を支払いさえすれば、それと引き換えに約8億円分の在庫の販売継続が可能になるため、そのような前提がある限りにおいては、一定の解決金を早期に支払って8億円もあった在庫品の販売を継続させる体制を整える方が一審被告ら全体にとってのメリットが大きいと判断したものである。このため、8億円もの在庫品の販売が不当に制限されるようなことがあるのであれば、一審被告らが3億円もの金員を支払うことになる中間合意を締結することはなかった。このことは、少なくとも中間合意の締結時点の一審原告ら代理人であったC弁護士らとの間では共通の認識事項であった(原判決も、一審原告らがこのような主張をし始めたのは、甲17の中間合意が成立した後のことである旨の認定をしている(47頁17行目ないし19行目)。)。 そうであるにもかかわらず、一審原告らは、中間合意の締結後になって、代理人をD弁護士らに変更し、唐突に、一審被告らに対してAM商品に係る売上げのうち75%が違法コピーである旨の主張をするようになった(乙50、126。一審原告らが主張する残り25%の「販売許諾商品」は、2017年(平成29年)SS(春夏シーズン。以下同じ)及びAW(秋冬シーズン。以下同じ)の商品である。)。この「75%」という数値の中には、一審原告らが本件訴訟で主張している「個別の著作物ごとの許諾期間の制限」に違反したものが含まれていたから(乙16添付資料1の「理由」の「販売期間外」との記載参照。)、一審原告らの上記主張は、上記の在庫リストに含まれていた商品についても、「個別の著作物ごとの許諾期間の制限」に違反したものは「承認済み商品」ではないために販売してはならない旨を主張していたものである。このような一審原告らの中間合意締結後の主張が上記で述べた「承認済み商品」という条文の文言及び合意締結の経緯・趣旨に反することは明らかであるが、そればかりではなく、本件では、原判決によって既に「個別の著作物ごとの許諾期間の制限」があるという一審原告らの主張自体が客観的に誤りであったことが認定判断されているのであるから(原判決47頁25行目ないし48頁3行目)、原判決の判示を前提にする限り、一審原告らは、中間合意締結後に、一審被告らに対して客観的事実に反する内容を殊更に主張して、一審被告らによる在庫販売を不当に妨害していたということになる。 以上からすれば、一審被告らが従前の当事者の合意を一方的に反故にして「承認済み商品」に「個別の著作物ごとの許諾期間の制限」に違反した商品が含まれないなどという主張をするに至ったこと(乙50、乙16添付資料1)は、中間合意に基づく不作為義務に明らかに違反する。 なお、原判決48頁の括弧書きの「乙106において黄色で表示された商品」は、一審被告商品1−1〜1−469の中から、中間合意に基づき販売が認められたもの(乙103の1〜105の3に記載された商品)を拾い上げたものであるから(乙120・1頁)、「乙106において黄色で表示された商品」は、平成30年3月時点の在庫リスト記載の中の商品であるものの、一審原告らが許諾期間を経過していると主張していた商品とは一致しない。一審原告らが主張していた許諾期間経過商品は、2017年(平成29年)SS及びAW以外の全ての商品である(乙126)。 (2)協議義務違反(中間合意7条違反。争点8)について 原判決が認定するとおり、一審原告らの損害金の合計額は、一審被告商品1に係る損害額が331万9647円、一審被告商品2に係る損害額が4274万1223円、合計4606万0870円であり(原判決84、85頁)、これは、中間合意に基づき一審被告らが一審原告らに支払った3億円を大幅に下回る金額である。 前記(1)のとおり、一審被告らは、中間合意締結前から、損害額は3億円に満たないと主張して、3億円の支払と引換えに在庫の販売継続を求めており(乙17・3、4頁)、これら在庫の販売によって、実際の損害額と3億円との差額を回収しようとしていた。しかし、一審被告らが作成した販売計画によれば、当初合意されていた平成30年12月までに在庫の一部しか販売できない可能性が高く、3億円との差額を回収しようとすれば、平成30年12月以降も在庫販売を継続する必要があった。そのため、在庫の販売期間の延長に関する協議は、一審被告らにとって、中間合意の中でも極めて重要な条件であった。 この点、原判決は、平成30年11月7日に一審被告らが申し立てた調停は、令和元年7月4日に不成立となったものの、一審原告らはその調停期日にも出席等しており、誠実に対応し協議を重ねていたと認定しているが、調停申立てから1か月後の平成30年12月末日には、一審被告らは中間合意3条1項に基づき、在庫販売を終了しなければならなかったのであり、在庫販売終了によって百貨店からAM商品の棚がなくなってしまえば、仮に、その後、調停における協議によって在庫販売期間の延長が認められていたとしても、一審被告らが再びAM商品を百貨店に販売することは不可能であった。したがって、原判決が認定するように、一審原告らが調停に出頭していたからといって、中間合意7条の違反が認められないことにはならない。一審原告らは、平成30年12月末に在庫販売が終了すれば、その後、一審被告らがAM商品を再販売することができなくなることは認識していたのであるから、協議の結果にかかわらず、平成30年12月末に間に合うように、在庫の販売期間延長に関する協議を開始すべきであったといえる。しかし、一審原告らは、調停申立て前の示談交渉においても在庫販売期間の延長について一切協議に応じず、それどころか、中間合意において販売が合意された在庫リスト記載の商品を、それまで一度も一審原告らが主張していなかった2017年(平成29年)SS及びAWの商品へと不当に制限しようとしたのであるから、一審原告らが協議義務に違反したことは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、一審原告らの本訴請求及び一審被告らの反訴請求についてはいずれも理由がないものと判断する。その理由は、当審における当事者双方の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第4の1ないし10(原判決41頁3行目ないし同88頁11行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決41頁4行目を「1 争点1に関する判断の前提」と改め、同頁5行目の冒頭に「(1)」を加える。 (2)原判決41頁10行目の末尾に「(なお、以下、一審被告商品のうち、本件絵柄と共通しその実質を同じくする部分を『本件絵柄部分』といい、本件絵柄部分以外の部分を『本件タオル部分』という。)。」を加える。 (3)原判決41頁11行目から同42頁14行目までを次のとおり改める。 「(2)一審原告らと一審被告らとの一審被告商品の販売に係る契約関係とこれに関連する事実経過、本件の経緯等について、前記第2の5の前提事実、証拠(甲16の1、17、甲18の1ないし37、乙11、27、86、87、その他各摘記の証拠)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 一審原告会社は、一審被告タオル美術館との間で、平成10年1月1日、基本契約を締結し、これに基づき、一審被告タオル美術館は一審被告一広らとサブライセンス契約を締結した。また、一審原告会社と一審被告タオル美術館とは基本契約についての変更合意(前記第2の5(3))をし、これら契約関係に基づき、一審被告商品が制作された。 そのころから、改善嘆願書の提出までの間における、一審被告商品作成に係る事実関係は、一審原告らと一審被告らが改善嘆願書に記載された内容を共通認識としている(甲22の1、乙69の1・2)ことに基づき、大要、以下のとおり認めることができる。 一審原告Xは、一審原告Xの著作権管理を行う一審原告会社を通じ、その著作に係る絵柄を一審被告一広らに交付する。一審原告会社は、商品化に向けての、糸の選択、織り方、色及び絵柄の配置等に係る配色指示書等を送付する。一審被告一広らは、送付された配色指示書等を基に、サンプル品用の出稿表を作成してサンプル品を製造し、一審原告会社に提出する。サンプル品はサブライセンシーらの開催する展示会において展示され、その後、展示会での反応等を踏まえて商品化に向けた検討がされる。 展示会の後、一審被告一広らは、商品化に向けて、商品化申請デザイン承認書を作成して一審原告会社に提出し(甲22の1、乙69の1)、一審原告会社がこれを承認する場合には、最終承認欄に押印をする。 その後一審被告タオル美術館らも最終承認欄に押印し、一審原告会社、一審被告一広及び一審被告タオル美術館の3社で商品化申請デザイン承認書を保管するとともに、一審被告一広は、出稿表を作成する。一審被告タオル美術館のサブライセンシーは、一審被告一広に商品を発注し、同社は、工場に対する指示書を作成し、製品を作成する。一審被告一広から、各サブライセンシーに製品が納品され、販売される。一審被告一広から、一審被告タオル美術館に対し売上げ報告がされ、一審被告タオル美術館から一審原告会社に売上げ報告がされる。 イ 平成26年1月、前記第2の5(5)の本件4柄タオルに係る問題が発生し、一審被告Y2は、平成26年5月21日、一審原告Xに対し、改善嘆願書(甲22の1・2)を提出した。一審被告らは、改善嘆願書において、『作り込み(特価品)』につきロイヤリティ申請をして平成26年5月計上して精算すること、在庫品につき販売処理をすることを報告し、一審原告らは改善嘆願書に『少々難ありタグをつけてSALE』などと書き込みをした(乙69の1・2)。上記のとおり平成26年5月31日までのロイヤリティ報告書(乙85の26)において、未報告分の精算がされている。 改善嘆願書提出の後においては、商品化申請デザイン承認書を3社で保管し、各社から一審被告タオル美術館に発注がなされ、その後一審被告タオル美術館においてこれを監査して商品化申請デザイン承認書と照合し、その後一審被告タオル美術館から一審被告一広に発注がされることとされた。 ウ 平成26年頃に、前記第2の5(6)の無撚糸をフルフィーコットンに置き換えるなどの本件14柄タオルに係る問題が発生し、その後、同(7)のとおり、基本契約等の合意解約がされ、同(8)のとおり中間合意が成立し、中間合意成立日に、一審被告らから、一審原告らに3億円が振り込まれた。 中間合意成立の日である平成30年4月27日、当時の一審原告らの代理人であるE弁護士は、一審被告ら代理人に対し、販売期間中の中国での在庫の販売を認める方向である旨通知した(乙87)。 エ 中間合意成立から数週間が経過した平成30年5月22日、同合意成立に至るまで一審原告らの代理人であったC弁護士、E弁護士らは、一審原告らの代理人を辞任し、同年6月13日付け『辞任届』において、一審被告ら代理人に対しその旨通知した(乙20)。 その後、一審原告らの代理人として、D弁護士、F弁護士らが就任した。 一審被告ら及び小原は、一審原告らに対し、平成30年8月29日、同年9月30日限り、一審被告商品を製造するため必要なデザイン画等を廃棄する旨の『差入書』(乙1)を提出した。同日、一審被告ら代理人は、一審原告ら代理人D弁護士に対し、それまでにD弁護士から示された、在庫品の販売は2017年(平成29年)SS(春夏シーズン)及びAW(秋冬シーズン)商品のみであるとの主張に対し、『平成30年4月27日付け合意についての意見』と題する書面(乙15)において反論した。 平成30年9月18日、一審原告らの当時の代理人D弁護士は、一審被告商品については、商品化申請デザイン承認書記載の発売期間に記載された期間についてのみ販売を許諾されたものである旨の主張をするに至り、小原の販売する『ねこふんじゃった』(一審原告著作物170、目録番号1−170)、一審被告タオル美術館の販売する『ねこふんじゃったボーダー』(一審原告著作物203、目録番号1−203)を含む多数の一審被告商品は、販売期間外であり未承諾であって中間合意によっても販売することができないものであるとした(乙16)。 なお、一審被告らの所持していた一審被告商品に係る出稿表、デザイン画等は、中間合意に基づき、平成30年10月5日、廃棄され、その旨一審原告らに通知された(乙54の1〜3)。当時の一審原告代理人であるF弁護士からは、『全て、余すところなく処分していただきますよう、お願いいたします。』との指示がされている(乙54の1)。 平成30年10月30日、D弁護士らは、一審原告らの損害は104億円を超えるところ、その一部として33億円余りを書面到達後10日以内に支払うこと、支払われなければ中間合意で定めた在庫品の販売期間は終了したものとして訴訟によって解決する旨などを記載した内容証明郵便を一審被告ら代理人に送付した(乙18)。 これに対し、一審被告ら代理人は、平成30年11月8日、一審原告ら代理人の主張は、中間合意により3億円を受領した後は合意に従って協議を進める意思がなかったのではないかとの疑いさえ生じるものであるなどとして、東京簡易裁判所に調停を申し立てた旨の内容証明郵便を一審原告ら代理人のD弁護士らに送付した(乙19)。 平成30年12月17日、D弁護士、F弁護士らは一審原告ら代理人を辞任し、その旨調停裁判所に届け出た(乙21)。 その後、現在の一審原告ら代理人が就任した。 (3)商品化申請デザイン承認書の記載と一審被告商品との関係については、以下のとおり認められる。 『オリエンタルモチーフ』(一審原告著作物目録番号190)においては、一審原告Xが提供した絵柄の著作物は、訴状別紙原告著作物目録28頁番号190(原判決別紙原告著作物目録28頁番号190も同じ)のとおりのものであるとするところ、これを商品化する際の、商品化申請デザイン承認書のコメントには、『本番修正:WT、MHTのアップリケ刺繍(さかな)のレイアウトに変更が有ります。』とし、同承認書に示された画像では、上記WT等サイズの製品では、一審原告著作物目録番号190とは異なるさかなの刺繍がされている(甲54の190)。同様の例として、『猫ボーダー』(一審原告著作物目録187)のボーダーの本数(3本から2本に変更)及びアップリケ刺繍(カップ)のレイアウト(甲54の187)が変更されているもの、『まつげ猫』(一審原告著作物目録216)の猫型アップリケ位置が修正(甲54の216)されているものなどがある。 また、商品化申請デザイン承認書のコメント欄に、『本番修正で柄、色修正します。』との記載があるものもあり(これについての修正内容は不明である)、これにつき一審原告会社及び一審被告タオル美術館は、いずれも承認して押印している(甲54の278)。商品化申請デザイン承認書のコメント欄に、『展示会サンプル4配色から3配色に絞りました。本番修正:下糸の色変更が有ります。』等の記載がある(甲54の179の1・2)ことなどからして、展示会サンプルから変更して商品化申請デザイン承認書が作成され、さらに本番修正も加わることが窺える商品もある。 このように、一審原告Xが提供した絵柄については、その後商品化される過程で、一審原告ら及び一審被告ら了解のもと、その絵柄と一部異なるものとして商品化されているものもある。前記(2)のとおり、商品化申請デザイン承認書は一審被告一広が作成して一審原告会社に提出し、一審原告らが承認するのであればその最終承認欄に押印するものであるから、一審原告らが一審原告著作物として主張するものと、商品化申請デザイン承認書に記載されたものが異なるのであれば、その違いは一審被告らによりもたらされたもので、上記商品化申請デザイン承認書の押印によれば、それらは一審原告らの了解のもとになされたことが窺える。」 (4)原判決43頁18行目冒頭から24行目の「前提を欠く。」まで、同44頁7行目の「したがって、」から11行目末尾までを削る。 (5)原判決44頁15行目から26行目末尾までを次のとおり改める。 「上記のとおり本件タオル部分に著作物性を認めることはできないから、その著作者を認めることはできない。」 (6)原判決46頁21行目の「継続的に」から22行目の「明記されていないこと」までを「継続的に供給される本件絵柄について、許諾期間に係る記載がないこと」と改める。 (7)原判決47頁15行目の「長年にわたり、」の次に「ロイヤリティ報告書とともにその商品名、販売価格及び販売数量等を記載した明細書の提出を受け(乙9、22、85の1〜35)、これにつき」を加え、同49頁12行目の「本合議」を「本合意」と改める。 (8)原判決51頁3行目の「基本契約において本件絵柄の個別の許諾期間を」を「基本契約ないしそれまでにも極めて多数作成され一審原告会社も保管していた商品化申請デザイン承認書記載の販売期間を本件絵柄の個別の許諾期間として」と改める。 (9)原判決51頁9行目の末尾を改行し次のとおり加える。 「(エ)一審原告らは、一部例外的に定番商品が存在する旨(令和6年9月4日付け控訴人第1準備書面25頁)や、『例外的にシーズンを超えて継続販売する商品は、定番継続、年間定番などと呼ばれ、原告Xはこれを個別的に許諾していた』(原審における令和4年10月28日付け一審原告ら準備書面(16)5頁)旨を主張する。 しかし、これら『定番商品』等はいかなる手続を経たどの商品をいうのかについて一審原告らは何ら主張立証をしておらず(甲118の20頁ないし23頁は、特定の商品を定番商品等とするものではない)、商品化申請デザイン承認書に販売期間等の記載されていない相応の数にのぼる商品等(甲54の126ないし132、甲54の133の1ないし10、甲54の134、137の1)の販売期間との関係も明らかではない。 加えて、前記アFのとおり、一審原告らは、一審原告Xが平成21年頃にロングセラーである旨表明した『ねこふんじゃったボーダー』(著作物番号203)について、商品化申請デザイン承認書(甲54の203)記載の発売期間である2008年(平成20年)8月から2009年(平成21年)1月の半年のみが販売期間であると主張していた(原審における令和2年12月7日付け一審原告ら準備書面(5))ことも、一審原告らの上記『定番商品』等に係る主張が後付けのものであることを窺わせるものである。 なお、この点に関連し、前記1(2)エのとおり、一審原告らは、平成30年9月18日付け『ご連絡』と題する書面(乙16)で、小原の販売する『ねこふんじゃった』についても販売期間外であり未承諾であるとしたところ、そこでは、小原の販売に係る『ねこふんじゃった』(BT、FT、WT)の販売期間は、同書面における『6』の分類、すなわち平成26年6月1日から同年11月30日までであるとしている。これは、上記一審原告らの本件訴訟の準備書面における主張(上記商品は2006年(平成18年)8月1日から2007年(平成19年)1月31日までを販売期間とする)とは異なるので、この点についてみると、上記『ご連絡』(乙16)では、ロイヤリティ報告書の添付販売数量に記載があり、かつ当該期間に対応するカタログに掲載されていた商品については未承諾品としては扱わないこととした(乙16、9頁)、とした上で上記乙16記載の許諾期間の主張をしていることから、『ねこふんじゃった』については、少なくとも平成26年6月1日以降の販売に係る一審被告らのカタログに掲載され、そのカタログを一審原告らが受領し、かつ、ロイヤリティ報告書の添付書類にその販売の事実が記載され、これらを通じて一審被告らによる『ねこふんじゃった』の販売の事実を認識していたこと、ひいては一審被告らが商品化申請デザイン承認書(甲54の170の1)記載の販売期間(2006年(平成18年)8月1日から2007年(平成19年)1月31日まで)を超えてこれら商品を販売している事実を認識し認容していたことが明らかといえる。 したがって、個別の絵柄についての許諾期間に係る一審原告らの主張は採用することができない。」 (10)原判決51頁10行目の「(エ)」を「(オ)」と改め、同55頁9行目、同57頁10行目及び同58頁21行目の各「タオル美術館」の次にそれぞれ「ら」を加え、同59頁1行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「このうち、類型番号13、15及び16は、一審原告会社の承認を得た上で製造及び販売していた商品であり、一審原告会社に対しては、ロイヤリティ報告書とともに一審被告一広から商品名、販売価格及び販売数量等を記載した明細書が提出されており(乙9、22、85の1〜35)、これについてのロイヤリティも支払われ、一審原告会社はこれを受領している。 また、類型番号15の一審被告商品1−203(前記『ねこふんじゃったボーダー』)について、前記3(2)アのとおり、一審原告X自身が、『許諾期間』の終期とする平成21年1月を超えた平成21年7月9日に、ブログに写真を掲載し、『…こんな写真が送られてきました・・・このピアノのタオル…これもたぶん、記録的なロングセラーへの道をまっすぐに歩いています。』と紹介しており(甲54の203、乙11)、同商品は、商品化申請デザイン承認書のシーズン欄に「08AW」と記載され、平成20年秋冬のシーズン商品であると解されるところ、一審原告らが商品の販売はシーズンに対応して半期と定められていたとする主張と、上記紹介の内容は矛盾することについても既に述べたとおりである。 加えて、類型番号12の『ストライプひょっこり』(目録番号1−178)の一部については、その在庫品から『アップリケ』及び『ネーム』を外して販売することについて一審原告らの許諾があるものと認められる(改善嘆願書、甲22の1)。」 (11)原判決59頁19行目及び同60頁17行目の各「タオル美術館」の次にそれぞれ「ら」を加え、同59頁23行目及び同60頁23行目ないし24行目の「1条4条」を「1条4項」に改め、同61頁1行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「加えて、類型番号14の2については、中国で販売された商品についても、ロイヤリティ報告書において『中国販売分』と記載され、商品の名称、単価及び販売数量等を報告し、商品の名称には絵柄の名称も記載されており、これについてのロイヤリティの支払もなされ、一審原告会社はこれを受領している(乙85の18ないし34)。」 (12)原判決61頁12行目及び14行目の各「タオル美術館」の次にそれぞれ「ら」を加え、同66頁1行目の「商品」を「商品の絵柄」と改める。 (13)原判決73頁7行目の「(原告タオルアート291)」を削る。 (14)原判決74頁16行目ないし23行目を次のとおり改める。 「しかしながら、一審原告らが一審被告らのデータに改ざんがあるとして主張する『MEMEボーダー』(一審原告著作物291)(原審における令和4年8月5日付け一審原告ら準備書面(13)27頁)は、そもそも一審原告らがデータの改ざん等を主張する『品番36−279』(同準備書面34頁)とは別の商品である。 一審原告著作物291の『MEMEとボーダー』(目録番号1−291、一審原告著作物291、商品化申請デザイン承認書は甲54の291〔柄名の記載は『MEMEボーダー』〕、商品番号36−2103300等)は、一審被告タオル美術館から一審原告会社に対し『ロイヤリティ報告書』で報告されていた販売数量によれば、平成25年8月頃の発売当初(甲54の291)こそ好調に販売されていたものの(乙85の25)、平成27年6月1日から同年11月30日の販売については返品数量が記載され(乙85の29)、同年12月1日から平成28年5月31日の販売については、多数の返品が記載されている商品である(乙85の30)。 一方、これと異なる商品で、一審被告らがデータを改ざんするなどして販売実績を偽っていると一審原告らが主張する『MEMEボーダー』(商品番号36−2793350等。甲110、38頁、乙68の2、2頁)は、上記『MEMEとボーダー』(目録番号1−291、一審原告著作物291、商品化申請デザイン承認書甲54の291)とは、絵柄も品番も別の商品である(絵柄の構成要素は類似する)。 一審原告らは、この『MEMEボーダー』(商品番号36−2793350等。甲110、38頁、乙68の2、2頁)に関する商品化申請デザイン承認書や関連する証拠等を提出していないから、一審原告らの許諾に係る内容は不明である(一審原告らの提出する甲46の13によれば、小原は、2017年(平成27年)の春夏シーズンの新商品の展示会において、『MEMEボーダー』(商品番号36−2793350等。甲110、38頁)と同じ商品を展示していたというのであるから、これについては、一審被告らにおいて、一審原告らから許諾を受けて販売していた別商品であることが明らかである。)。 これらの点を措くとしても、この『MEMEボーダー』(商品番号362793350等)は、平成29年2月の販売開始以降、しばらくは好調な販売実績を示しているが、その後は、はかばかしい販売実績を示していない(乙85の32)。上記のとおり、絵柄も品名も類似する先行商品『MEMEボーダー』が既に発売され、多数の返品によりその販売実績は収束していたものであることに加え(上記ロイヤリティ報告書により一審原告らにその旨は報告されている。)、一審被告らは、これら商品は一般的には3色展開で十分であるところ、同商品は一審原告Xらの6色展開で行うようにという強い指示を断れずなされたものであり、一審被告らにおいては、在庫リスクを最小限にするため3色ずつ取扱い店舗を分けることとしたとしている(乙97)。実際、タオル美術館ICHIHIRO以外の店舗においては、この商品は3色ないし4色展開であり、イエロー等は置かれておらず(原審における令和4年8月5日付け一審原告ら準備書面(13)26ないし32頁、甲45。異なる商品のイエローが置かれている。)、一審被告らの主張に沿う内容となっている。 また、一審原告らが『MEMEボーダー』は好調な売上げを示しており、一審被告らの販売数量の主張は虚偽であるとして提出する証拠(甲91)も、西川の販売する寝具『MEMEボーダー』に係るものであるところ、色はブルーとピンクの2色展開である。そうすると、『MEMEボーダー』に係る販売実績として一審被告らの主張するところに特段の疑義はなく、一審原告らの主張は採用することができない。加えて、証拠(乙97、113)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告ら主張に係る上記『MEMEボーダー』は、販売現場では必ずしも人気がある商品ではなかったものと認めるのが相当である。そうすると、仮に一審被告らの店舗で山積みされていたとしても、一審被告らが主張するように単に売れ残っている事実を示す可能性があるなど、直ちに現実の販売数量が多かったことを客観的に示すものとまでいえず、販売実績データに関するUNIXデータ(生データ)が改ざんされたものとまで認めるに足りない。」 (15)原判決79頁25行目ないし26行目の「西川産業株式会社(以下『西川』という。)」を「西川」と改める。 (16)原判決85頁15行目の各「乙」(三か所)をいずれも削り、同87頁5行目の「継続的」の次に「に」を加える。 2 当審における一審原告らの本訴の争点についての主な補充主張に対する判断 (1)争点1−1及び争点1−3について 一審原告らは、前記第2の6(1)のとおり、争点1−1及び争点1−3について、商品化申請デザイン承認書で販売承認がされた商品と異なる商品を作成し、同承認書に記載された許諾の期間を超えて販売することは一審原告Xの著作権を侵害する旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の1、2、3(1)及び(2)のとおり、基本契約に個別の絵柄の許諾期間についての定めがないことや、かえって、後に、その絵柄(著作物)を使用した許諾商品の種類(アイテム)の範囲を一審被告らが変更しようとする場合には一審原告会社の承諾を得る旨のみが定められていること(補正の上で引用した原判決第2の5(2)イ)などからして、本件絵柄につき個別の許諾期間を定めていなかったものと認められる。 この点につき、目録番号1−170(「ねこふんじゃった」。類型番号15(小原期間外、許諾を逸脱)、8の2(一審被告提出データ))について、一審原告らは、その許諾期間は平成18年(2006年)8月1日から平成19年(2007年)1月31日である旨主張するところ(原審における令和2年12月7日付け原告ら準備書面(5)別紙)、その商品化申請デザイン承認書(2004年6月16日付け。甲54の170の1。サブライセンシー一審原告会社)には、「柄名ねこふんじゃった」、シーズン「06AW」、「発売時期06AW」、「発売期間2006年8月〜2007年1月」と記載され、これに続く商品化申請デザイン承認書(2009年1月13日付け。甲54の170の2。サブライセンシー一審被告一広)には、「柄名ねこふんじゃった」、シーズン「2009SS」、「発売時期2009SS」、「発売期間2009年2月〜2009年7月」と記載され、「コメント」には、「・06W『ねこふんじゃった』の追加配色です。」、「・ブルー/ブラック/ピンク/レッドの4配色展開になります。」と記載されている。これらの記載によれば、この一審被告一広製造に係る「ねこふんじゃった」(3サイズ(BT、FT、WT)、それぞれの品番は36−0243250、36−0241050、36−0242100)は、2006年(平成18年)8月から、最初の商品化申請デザイン承認書(甲54の170の1)記載の期間を超えて販売されていたことが一審原告ら及び一審被告らの共通認識であったことが推認される。この点、最初の商品化申請デザイン承認書記載の販売期間を超える2009年(平成21年)SS(春夏シーズン)に、一審被告らが、ら・むりーずに対し「ねこふんじゃった」のブルー、ブラック及びピンクの3色に加わるものとして、新色レッドを納入していた(乙14)こともその裏付けとなるというべきである。 そして、この「ねこふんじゃった」については、平成18年6月1日から同年11月30日の「ATSUKOMATANOロイヤリティ報告書」(乙85の11)に、小原の販売に係る「ねこふんじゃった」として、規格、小売価格、売上金額等が記載され、その記載は、その後の平成23年12月1日から平成24年5月31日の同報告書(乙85の22)まで、及び、平成26年6月1日から同年11月30日までの同報告書(乙85の27)から、平成27年6月1日から平成27年11月30日までの「ATSUKOMATANOロイヤリティ報告書」(乙85の29)まで、それぞれ続いている(これを一審原告会社が受領していることについて補正の上で引用した原判決第4の3(2)イ(エ)のとおりである)。これらによれば、一審原告らがその販売期間として主張する商品化申請デザイン承認書記載の販売期間を超えて、一審被告商品が販売されていたことを一審原告らにおいて認識していたことが認められるというべきである。 一審原告らは、一審被告タオル美術館が一審原告会社へのロイヤリティ報告の際に、更に微細な文字で個別商品の明細がある自社(一審被告タオル美術館)の受領書類を添付していたとしても、一審原告会社はそれらを個別に照合はしていないし、それ以前に、そこにはどのシーズン(販売期間)の商品を販売しているかの記載はなく(乙85参照)、当該ロイヤリティ報告を受け取っていたことは販売期間の合意がなかったことを何ら根拠づけない旨主張する(令和6年5月31日付け控訴理由書69頁)。 しかし、そもそも上記ロイヤリティ報告書は、一審原告会社の指定した書式で作成されたものであり(補正の上で引用した原判決第2の5(2)ク)、しかも、平成26年6月1日から同年11月30日の「ATSUKOMATANOロイヤリティ報告書」(乙85の27)、平成26年12月1日から平成27年5月31日の「ATSUKOMATANOロイヤリティ報告書」(乙85の28)、平成27年6月1日から同年11月30日の「ATSUKOMATANOロイヤリティ報告書」(乙85の29)には、いずれも小原の販売に係る「ねこふんじゃった」として、一審被告一広に係る「ねこふんじゃった」の3サイズ(BT、FT、WT)、それぞれの品番(36−0243250、36−0241050、36−0242100)が記載されているものである。 以上によれば、商品化申請デザイン承認書の記載により販売期間が定められ、そこに記載のない商品については、販売期間の記載のある他の商品化申請デザイン承認書のある商品と同様に、販売期間は半年である旨の一審原告らの主張は、採用できない。 一審原告らは、一審原告会社の関係者の陳述書を証拠として提出するが、そこにおいて、一審原告会社が一審原告Xの著作権をライセンシーとの関係でどのように適正に管理してきたかについては全く述べるところがない。一審原告会社としては、上記のとおり、基本契約により一審原告会社が指定した書式に従って一審被告らからロイヤリティ報告書が提出され、そこに品番・品名等も記載されていて、ロイヤリティの受領を長年続けてきたことに加え、一審被告らからカタログの送付も受けてきたところ、これらをどのように管理し、半年とする短い販売許諾の期間の中で、商品の売れ行き等をどのように把握し、それを新商品の開発にどのように生かしたのかなど、重要な点において一審原告会社の管理体制が不明である。ロイヤリティ報告書やカタログに掲載され、ロイヤリティを受領してきた商品についても、一審原告会社において承諾をしていないとするのは、およそ一審原告Xの著作権を管理することを目的とする会社として合理的な内容とは言い難い。 一審原告らは著作権ビジネスが成り立たなくなる旨の主張をするが、仮に一審原告らの主張するとおり、承諾がない商品について、一審原告会社の指定した書式でのロイヤリティ報告や商品のカタログの送付を受けて、長年にわたりロイヤリティもそのまま受領し続け、特段の措置も取らずにきたのであれば、問題はむしろ一審原告Xの著作物についての一審原告会社の管理体制にあるというほかない。 したがって、一審原告らの上記主張は採用することができない。 (2)争点1−5(消尽の成否)について 一審原告らは、前記第2の6(2)のとおり、小原が絵柄を流用して小原の商品として製造させ、販売したのであるから、サブライセンシーに許諾した絵柄を、許諾を受けた者以外が無断で自らの商品として流用しているので、消尽は成立しない旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(3)のとおり、小原は一審被告一広及び川辺から商品を購入したことが認められるから、本件絵柄の譲渡権については消尽している。問題とされた商品につき、川辺は、2015年(平成17年)4月に「今治CI」から小原に宛て出荷したとされているところ(乙109の1・2)、川辺は今治に支所を有するから(今治センター。乙122)、商流が不自然とはいえない。加えて、小原は類型番号2、19の1、19の2の商品を、予定通り高島屋に(当事者間に争いがない)、類型番号8の1、18、20の1の商品を、予定通り三越伊勢丹ないしイトーヨーカドーにそれぞれ販売しているのであって、一審被告らにおいて債務不履行に当たるとする事情もない。 したがって、一審原告らの上記主張は採用することができない。 (3)類型番号別の個別判断についてのア(類型番号4、5、21の1、同25及び26(ドロップ品))について 一審原告らは、前記第2の6(3)アのとおり、上記の類型番号4、5、21の1、同25及び26(ドロップ品)について、完成品サンプルの提供、確認を経て(基本契約6条第1文)、商品化申請デザイン承認書を取り交わす(基本契約6条第1文、4条2項後段)ことで初めて販売許諾に至ることは、基本契約の解釈上も明らかであり、これらのプロセスを経ていないドロップ品を販売しても著作権侵害にならないというのは、ライセンスビジネスの根幹を揺るがすおよそ不合理な認定である旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(4)ウのとおり、商品化申請デザイン承認書は、絵柄の交付、配色指示書の送付を受けてサンプル品が製造されて、商品展示会での展示を経た後に制作され、確認・押印されるものであるところ、上記類型番号記載の商品は、目録番号1−124(「ケロケロモダン」。甲56の124)と同様に、一審被告らにおいて一審原告会社から絵柄の提供を受けて商品を製造したものであり、本件絵柄の使用についての一審原告らの許諾があったものといえる。 したがって、一審原告らの主張は採用することができない。 (4)類型番号別の個別判断についてのイ(類型番号6(本件4柄タオル))について 一審原告らは、前記第2の6(3)イのとおり、上記(本件4柄タオル)について、一審被告らは改変を認め、改善嘆願書を提出しており、原判決における、一審被告タオル美術館が提供を受けた絵柄を自由に複製・翻案してタオル製品化できる、との解釈が当事者の意思と異なる独自の解釈であり誤りである旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(4)エのとおり、一審被告らにおいて一審原告らから絵柄の提供を受けており、使用の許諾があったものといえ、その許諾の範囲内でなされたものということができるから、債務不履行の問題が起こり得るのは別として、著作権を侵害するものとはいえない。 したがって、一審原告らの主張は採用することができない。 (5)類型番号別の個別判断についてのウ(類型番号7(本件14柄タオル))について 一審原告らは、前記第2の6(3)ウのとおり、上記(本件14柄タオル)について、使用許諾契約が成立する、無断改変の内容が新たな創作的表現を加えるものでないから著作権侵害でない、として著作権侵害を否定する原判決は誤りである旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(4)オのとおり、一審被告らにおいて、一審原告らからこれら絵柄の提供を受けていたものであり、その使用について、一審原告らの許諾があったといえるものである。加えて、本件14柄タオルに関し、一審原告らが著作権侵害等につき主張する対比表(原審における令和4年9月9日付け一審原告ら準備書面(15)別紙3)において、くまのアップリケがこげ茶色であるはずのものがライトブラウンに変更されているとする部分については、そもそも商品化申請デザイン承認書(甲54の130)に、くまのアップリケそのものが示されていない。かえるのアップリケとするものについても、一審原告著作物130として示されているかえるのアップリケと、侵害品とされるものとの異同は明らかではなく、そもそも上記対比表で「オリジナル」として侵害品と対比されているものと、一審原告著作物130自体が、同一であるとも認め難いことなどの問題もある。 したがって、一審原告らの主張は採用することができない。 (6)類型番号別の個別判断についてのエ(類型番号8の2、9、10の1、2、11ないし13、15ないし17、21の3、24)について 一審原告らは、前記第2の6(3)エのとおり、これらの商品は、一審被告らが糸の選択や織り方を改変しており、商品化申請デザイン承諾書による最終承認がされていないことに争いないから、許諾を逸脱し著作権を侵害するものである旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(4)カのとおり、織り方や糸について商品化申請デザイン承認書に記載のものと異なるものが商品に使われていたとしても、許諾を受けた絵柄について、著作権侵害となることはない。 したがって、一審原告らの主張は採用することができない。 (7)類型番号別の個別判断についてのオ(類型番号14の1)について 一審原告らは、前記第2の6(3)オのとおり、本商品は、一審被告らが無断でタオルサイズの変更をした商品であり、商品化申請デザイン承認書による最終承認がされていないことなどから、著作権を侵害し、原判決の判断は類型番号23の1における判断とも矛盾する旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(4)キのとおり、許諾を受けた絵柄におけるタオルのサイズの変更について、著作権侵害となることはない。加えて、基本契約においては、補正の上で引用した原判決第2の5(2)イのとおり、許諾商品の範囲を変更する際には一審原告の承諾を得ることが定められているが、そのサイズ等の変更について特段の定めはないことから、サイズの変更について、特段許諾を受ける必要があったものとは解されない。なお、類型番号23の1についての判断(補正の上で引用した原判決第4の3(4)サ)は、そもそも許諾に係る商品(タオル)とは異なる種類(アイテム)の商品(巾着等)を販売した場合に係るものであるから、類型番号14の1の場合とは異なる。 したがって、一審原告らの主張は採用することができない。 (8)類型番号別の個別判断についてのカ(類型番号14の2)について 一審原告らは、前記第2の6(3)カのとおりであり、本商品は、小原に許諾した商品を一審被告一広が中国で流用したものであり、一審被告らは、完成品について一審原告会社に提供してその承認を得たものでないことを自認していて、著作権を侵害する旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(4)クのとおりであるほか、一審原告らは一審被告らからロイヤリティ報告書において報告を受け、ライセンス料についても受領していたものであるから、これらにつき著作権侵害が成立することはない。ライセンス料を受領したことが承諾とはならない旨の一審原告らの主張については、既に述べたとおり、採用の限りでない。 したがって、一審原告らの主張は採用することができない。 (9)類型番号別の個別判断についてのキ(類型番号20の2)について 一審原告らは、前記第2の6(3)キのとおり、本商品は無断でのタオルサイズの変更があったものであるところ、原判決は、タオルサイズも指定した許諾がされている点を見落としており、誤りである旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(4)クのとおり、許諾を受けた絵柄の使用であり、著作権侵害となることはない。加えて、基本契約においては、補正の上で引用した原判決第2の5(2)イのとおり、許諾商品の範囲を変更する際には一審原告の承諾を得ることが定められているが、そのサイズ等の変更について特段の規定はないことから、サイズの変更について、特段許諾を受ける必要があったものとは解されない。 したがって、一審原告らの主張は採用することができない。 (10)類型番号別の個別判断についてのク(類型番号23の2)について 一審原告らは、前記第2の6(3)クのとおり、本商品は、特定の在庫生地を使用した商品についてのみ製造及び販売を認め、在庫外生地による製造(追加製造)は認めていない商品であり、著作権を侵害する旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の3(4)シのとおりであり、生地について商品化申請デザイン承認書に記載のものと異なるものが商品に使われていたとしても、許諾を受けた絵柄について、著作権侵害となることはない。 したがって、一審原告らの上記主張は採用することができない。 (11)争点2(著作者人格権侵害)ついて 一審原告らは、前記第2の6(4)のとおり、一審被告らの行為は著作者人格権を侵害する旨を主張する。 しかし、本件14柄タオルにつき、一審原告Xが著作した絵柄それ自体証拠として提出されておらず、一審原告らの本件14柄タオルの対比の主張には前記(5)のとおりの問題があり、対比の前提を欠くことに加えて、補正の上で引用した原判決第4の4のとおり、一審原告ら主張に係る部分は、絵柄自体の改変とは言い難いものであり、商品が商品化申請デザイン承認書ないし配色指示書に記載された素材や織り方とは異なるものとしても、それ自体は著作物に係る創作性と関係するものともいえない。 したがって、一審原告らの上記主張は採用することができない。 (12)争点3(パブリシティ権侵害)について 一審原告らは、前記第2の6(5)のとおり、一審被告らは一審原告Xのパブリシティ権を侵害する旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の5のとおりであり、それら表示の形状、大きさや基本契約の内容からして、本件ネームタグは、専ら一審被告商品の絵柄の著作者名を示す目的で使用されたものといえる。 したがって、一審原告らの上記主張は採用することができない。 (13)争点4(ロイヤリティ未報告商品(一審被告商品2))について 一審原告らは、前記第2の6(6)のとおり、輸入数と報告数との間に約327万枚もの差があり、UNIXデータも全体の一部にすぎない上、ロイヤリティの過小報告は可能であり、一審被告一広が他の4社と同様の推移をした場合と、実際の一広のライセンス料の不合理な差額は実に7億6299万0840円に及ぶから、この差額7億6299万0840円がロイヤリティ未報告であると推認されるべきである、一審原告らが当審において提出する不正調査に関する専門家の意見書である「鑑定意見書」(甲130)によればロイヤリティ未報告額(一審被告商品2の損害)が認められるべきであるなどと主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の6のとおり、一審被告らにおいて書類を偽造したと認めるに足りる証拠はなく、一審被告らにおいて報告義務違反を認める部分を除き、ロイヤリティ未報告商品についての主張には理由がない。一審原告らは、他のライセンシーとの売上げ比較をもって一審被告らの売上金額がおかしい旨も主張するところ、一審原告らが絵柄の使用を許諾したとみられる「MEMEボーダー」商品につき、既に述べたとおり、商品展開やその販売数量について、一審被告らが主張し、その提出する証拠(乙97)に沿う内容となっているところ、そこに示されるように(補正の上で引用した原判決第4の6(3)イ(ウ))、遅くとも平成29年頃までには、一審被告らと一審原告らとの間で営業上の意思疎通に欠ける場面があったことからすると、一審被告らが他のライセンシーと同様に売上げを伸ばしていないとしても、それが直ちに一審被告らの虚偽報告によるものということはできない。 また、一審原告らが当審において証拠として提出した上記専門家の意見書である「鑑定意見書」(甲130)は、一審被告らの「言動や弁解には、原データの改竄・隠蔽する余地が多分にあ」るなどとするが(2頁)、一審被告らが原審において開示したCSVデータ及びUNIXデータ(その経緯につき原判決第4の6(1)アないしウ、(2)ア)を解析したものではないうえ、原審における調停委員意見書は、販売実績データ、在庫データ等を検討した上で、それらの信用性に特段の疑義はないとしたものであり、その信用性に影響を与えるものとはいえない。そして、上記調停委員意見書は、B品の出荷リスト等を確認したところ、その販売数とロイヤリティ報告数との間に大幅な乖離は認められないとしている。 したがって、一審原告らの上記主張は採用することができない。 (14)争点7のうち、一審原告Xに生じた損害について 一審原告Xは、前記第2の6(7)のとおり、ら・むりーずは、一審原告Xの意思決定に従い、一体となってXの著作権を利用した事業を遂行しているから、侵害者による侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が認められ、著作権法114条2項の適用を否定した原判決は誤りである旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の7(1)アのとおり、ら・むりーずと一審原告Xとを一体とみるべき事情もないから、一審原告Xの損害について、著作権法114条2項は適用されるものではない。 したがって、一審Xの上記主張は採用することができない。 (15)争点7のうち、一審原告会社に生じた損害について 一審原告会社は、前記第2の6(8)のとおり、未報告のロイヤリティ額は一審被告らが自認する額にとどまらず、他のサブライセンシーのロイヤリティ報告の遷移と一審被告一広のロイヤリティ報告の下落・停滞との差額分(約7億6299万円)が未報告金額であると推認するほかなく、この一審被告商品2のロイヤリティ未報告に対して一審被告タオル美術館は自身の取り分を控除することはできないから、管理義務違反に基づき、上記未払額と同額の支払義務を負う旨などを主張する。 しかし、一審原告ら主張に係る部分は、原審における第11回弁論準備手続調書等に顕れた原審における訴訟経過(一審原告らは、「請求の拡張をしているものの、訴訟物としては、訴状に記載したものに限る。」と陳述した。)に照らせば、本件訴訟の対象とはなっていないものである。その他、補正の上で引用した原判決第4の7(2)のとおりである。 したがって、一審原告会社の主張は採用することができない。 3 当審における一審被告らの反訴の争点についての主な補充主張に対する判断 (1)一審被告らは、前記第2の7(1)のとおり、不作為義務違反についての原判決の認定及び判断は誤りである旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の1(2)エ、同3(2)アEのとおり、中間合意が成立し、3億円の支払がされ、後に一審原告ら代理人が辞任して交代し、その後に至って初めて許諾期間が経過しているとして、在庫品の販売が制限される旨を一審原告らが主張した経過が認められるものの、原判決第4の10(1)のとおり、中間合意において販売を可能とする商品について「承認済み商品」に限ると規定されたことからしても、一審被告らの主張する中間合意締結後に、一審原告らが上記「承認済み商品」に当たるか否かについて主張をすることが、直ちに中間合意に反するものと解することはできない。 したがって、一審被告らの上記主張は採用することができない。 (2)一審被告らは、前記第2の7(2)のとおり、協議義務違反についての原判決の認定及び判断は誤りである旨を主張する。 しかし、補正の上で引用した原判決第4の10(2)のとおり、一審被告らによる調停申立て及びそこにおける話合いの経緯等に鑑みると、一審原告らにおいて協議義務違反があるとまで認めることはできない。 したがって、一審被告らの上記主張は採用することができない。 4 以上の認定及び判断は、当審における一審原告ら及び一審被告らのその余の補充主張によっても左右されるものではない。 5 よって、その余の点について判断するまでもなく、原判決は結論において相当であり、本件控訴及び附帯控訴は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 中平健 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則 |
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