判例全文 line
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【事件名】「説得力アップブック」事件
【年月日】令和7年3月14日
 東京地裁 令和3年(ワ)第33644号 損害賠償請求、債務不存在確認請求事件、
 令和4年(ワ)第16981号 投稿記事削除請求反訴事件
 (口頭弁論終結日 令和6年12月24日)

判決
原告(反訴被告) A(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 太田真也
被告(反訴原告) B法律事務所ことC(以下「被告C」という。)
同訴訟代理人弁護士 D
被告(反訴原告) D(以下「被告D」という。)


主文
1 本訴請求の訴えのうち、別紙却下部分記載の請求に係る部分を却下する。
2 原告の被告Cに対する別紙認定額一覧の表1(1)の「債務の内容」欄記載の各債務は、同「認定額」欄記載の額を超えては存在しないことを確認する。
3 原告の被告Dに対する別紙認定額一覧の表2の「債務の内容」欄記載の各債務は、同「認定額」欄記載の額を超えては存在しないことを確認する。
4 原告は、別紙投稿記事目録記載2から11までの各投稿記事(ただし、同3の投稿記事については別紙削除対象の記載部分に限る。)を削除せよ。
5 原告は、自ら又は第三者をして、別紙投稿記事目録記載2、3及び5から11までの各投稿記事(ただし、同3の投稿記事については別紙削除対象の記載部分に限る。)の全部又は一部の複製をインターネット上に掲載してはならない。
6 原告は、被告Cに対し、100万円及びこれに対する令和5年5月22日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8 被告らのその余の請求をいずれも棄却する。
9 訴訟費用は、本訴・反訴を通じこれを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
10 この判決は、6項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴請求
(1)原告の被告C又は被告Dに対する以下の各債務が存在しないことを確認する。
ア 別紙投稿記事目録記載1の記事(ただし、令和4年3月6日時点で削除済みのもの)の掲載による、別紙著作物目録記載1の主張書面案の著作権(公衆送信権)侵害を理由とする、原告の被告Cに対する不法行為に基づく損害賠償債務
イ 別紙著作物目録記載2のウェブページをPDF化したファイルを掲載したことによる、同ウェブページの著作権(公衆送信権)侵害を理由とする、原告の被告Cに対する不法行為に基づく損害賠償債務
ウ 別紙投稿記事目録記載12から17までの各記事(ただし、令和4年10月18日時点のもの)の掲載による、被告Cの名誉権及び名誉感情侵害を理由とする、原告の被告Cに対する不法行為に基づく損害賠償債務
エ 別紙投稿記事目録記載5から17までの各記事(ただし、令和4年10月18日時点のもの)の掲載による、被告Dの名誉権及び名誉感情侵害を理由とする、原告の被告Dに対する不法行為に基づく損害賠償債務
オ 別紙投稿記事目録記載18の記事(ただし、令和4年3月6日時点で削除済みのもの)の掲載による、別紙著作物目録記載3の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)侵害を理由とする、原告の被告Dに対する不法行為に基づく損害賠償債務
(2)被告Cは、原告に対し、150万円及びこれに対する令和4年3月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 反訴請求
(1)原告は、別紙投稿記事目録記載2から4までの各投稿記事を削除せよ。
(2)原告は、別紙投稿記事目録記載5から11までの各投稿記事を削除せよ。
(3)原告は、自ら又は第三者をして、別紙投稿記事目録記載2、3及び5から11までの各投稿記事の全部若しくは一部又は各投稿記事の原稿の全部若しくは一部の複製をインターネット上に掲載してはならない。
(4)原告は、被告Cに対し、160万円及びこれに対する令和5年5月22日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本訴は、「E」と題し、URLをhttps://以下省略とするページをトップページとするウェブサイト(以下「本件サイト」という。)の管理及び運営をする原告が、@被告らに対し、本件サイトに被告らに関する記事を掲載したことに関し、不法行為に基づく損害賠償債務の不存在の確認を求めるとともに(本訴請求の趣旨(1))、A被告Cに対し、被告Cが同人のウェブサイトに記事を掲載したことが不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争に当たるとして、同法4条に基づき、損害賠償金150万円及びこれに対する不正競争行為以後の日である令和4年3月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める(本訴請求の趣旨(2))事案である。
 反訴は、@被告らが原告に対し、人格権に基づく侵害排除又は侵害予防請求として別紙投稿記事目録記載2から4までの各記事の削除を求め(反訴請求の趣旨(1))、A被告Cが原告に対し、人格権に基づく侵害排除又は侵害予防請求として同目録記載5から11までの各記事の削除を求めるとともに、同目録記載2、3及び5から11までの各記事の全部若しくは一部又は同各記事の原稿の全部若しくは一部の複製のインターネット上への掲載の差止め(反訴請求の趣旨(2)及び(3))を求め、B被告Cが原告に対し、同目録記載5から11までの各記事の掲載が不法行為に当たるとして、慰謝料160万円(一部請求)及びこれに対する不法行為以後の日である令和5年5月22日(同各記事の最後掲載日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める(反訴請求の趣旨(4))事案である(以下、請求の趣旨の項数に応じ、「本訴請求(1)」などということがある。)。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者
ア 原告は、令和3年以前から現在に至るまで本件サイトの管理及び運営をする者である。
イ 被告Cは、B法律事務所を経営する弁護士であり、被告Dは、F法律事務所に所属する弁護士である。被告Cと被告Dは夫婦である。
(2)被告らによる文書の作成
ア 被告Cは、令和3年9月3日以前に、別紙著作物目録記載1の主張書面案を作成した(乙6。以下「本件主張書面案」という。)。
イ 被告Cは、「説得力アップブック面会交流制限編」(A4、全82頁。以下「説得力アップブック」という。甲9)を作成し、別紙著作物目録記載2のとおり、被告Cが開設する「B法律事務所弁護士Cブログ」(以下「被告サイト」という。)に、説得力アップブックを紹介し、販売するウェブページを設けた(以下「本件ウェブページ」という。甲8の1)。
ウ 被告Dは、別紙著作物目録記載3の仮処分命令申立書を作成した(以下「本件申立書」という。甲3の1)。
(3)原告による記事の掲載等
ア 原告は、本件サイトに、別紙投稿記事目録記載の各記事(以下、同目録記載の各記事をその番号に応じ、「本件記事1」などといい、本件記事1〜18を併せて「本件各記事」という。)を掲載した。本件各記事は、別紙投稿記事目録に記載の各URL(以下「本件各URL」という。)に掲載されたものであり、その内容は別添1〜17のとおりである(なお、本件記事18の内容は明らかではない。)
 本件記事1は本件主張書面案の全文を含むものであるが、原告は、本件主張書面案を掲載するにあたり、被告Cの許諾を得ていない。
 原告は、本件サイトに掲載された記事を随時改訂しているため、本件各URLに掲載されている記事の内容は、時点によって異なることがある。(乙5、6)
イ 本件サイトは、令和5年5月22日に、メンテナンス中である旨の表示がされ、記事を閲覧することができなくなった。
(4)被告らによる仮処分の申立て等
 被告らは、令和3年、岐阜地方裁判所において、訴外GMOペパボ株式会社(以下「訴外GMO」という。)や原告を債務者として、本件サイトに掲載された記事(本件各URLの一部と同じURLに掲載されたもの)及び本件ウェブページをPDF化したファイル(以下「本件PDFファイル」という。)について、仮の削除等を求める仮処分を申し立てるとともに、原告に対し、本件サイトへの記事の掲載(本件各URLの一部と同じURLへの掲載)等について、不法行為に基づく損害賠償金の支払を求める訴えを提起した。(甲2、3の1、2、3、乙1〜4)
(5)被告Cによる記事の掲載
 被告Cは、令和3年11月6日、被告サイトに「インターネットによる著作権侵害をやめさせるには?裁判所での削除仮処分」という記事を掲載した(以下「甲5記事」という。)。(甲5)
2 争点
(1)訴えの適法性(本案前の争点)(本訴請求(1))
(2)本件各記事及び本件PDFファイルの掲載による不法行為の成否(争点1)(本訴請求(1)、反訴各請求)
(3)本件記事2〜11の削除並びに本件記事2、3及び5〜11の掲載の差止めの必要性(争点2)(反訴請求(1)〜(3))
(4)原告の本件記事1及び5〜18並びに本件PDFファイルの掲載により被告らに生じた損害の額(争点3)(本訴請求(1)、反訴請求(4))
(5)甲5記事の掲載による不正競争の成否(争点4)(本訴請求(2))
(6)不正競争により原告に生じた損害の額(争点5)(本訴請求(2))
3 争点に対する当事者の主張
(1)本案前の争点(訴えの適法性)について(本訴請求(1))
(原告の主張)
ア 本件各記事の特定は十分であり、本訴請求(1)の不存在確認請求の対象である債務(以下「本件各債務」ということがある。)は特定されている。
イ 被告らは、本件サイト内の記事が著作権侵害や名誉権侵害等に当たると主張して、いくつかの記事について削除を求める仮処分命令の申立てをしているから、原告に対し、本件各記事等に関し、著作権侵害や名誉権侵害等の不法行為に基づく損害賠償請求をすることが予想され、原告は、法的に不安定な状態にある。したがって、原告には、本件各記事及び本件PDFファイルを本件サイトに掲載したことに係る不法行為に基づく損害賠償債務の不存在について即時確定の利益がある。
ウ 被告らは、本訴について準備を整えることが困難であるなどと主張するが、これまでに複数の仮処分事件及び損害賠償請求訴訟を提起しているのであるから、既に本件サイトの全記事を読み込み、分析をしているはずである。被告らから複数の仮処分申立てや訴訟提起を受け、原告が、法的に不安定な地位を解消するために本訴を提起したことは正当な行為である。
エ よって、本訴請求(1)に係る訴えは適法である。
(被告らの主張)
ア 本訴請求(1)ア、ウ〜オについて、原告は、同じURLに掲載された記事を改訂しているから、記事が掲載されたURLを特定するだけでは、債務不存在確認の対象の特定としては足りない。
イ 被告らは、原告に対し、本件各債務に係る請求をしたことがないから、即時確定の利益がない。もっとも、被告らが原告に対し、本件各債務について、請求をしないとの主張はしない。
ウ 多数の記事に関してなされた本訴の訴えは、被告らに大量の記事を読み込み主張立証を尽くすことを強いるもので、訴権の濫用に当たり不適法である。原告は頻繁に記事を書き換えるので、被害者である被告らが準備を整えることが著しく困難であり、被害者の救済及び正義に反する。
エ よって、本訴請求(1)に係る訴えは不適法である。
(2)争点1(本件各記事及び本件PDFファイルの掲載による不法行為の成否)について(本訴請求(1)、反訴各請求)
(被告らの主張)
ア 被告らに対する著作権又は著作者人格権侵害の成否(本訴請求(1)ア、イ、オ)
(ア)本件記事1の掲載による被告Cの本件主張書面案の著作権侵害(本訴請求(1)ア)
 原告は、本件記事1において、令和3年9月9日から令和4年2月2日頃まで、本件主張書面案の全文を掲載し、被告Cの著作権(公衆送信権及び送信可能化権)を侵害した。
 このような全文の転載が著作権法により許容されることはない。
(イ)本件サイトへの本件PDFファイルの掲載による被告Cの本件ウェブページの著作権侵害(本訴請求(1)イ)損害賠償債務の存否に関する主張はしないこととする。
(ウ)本件記事18の掲載による被告Dの本件申立書の著作権及び著作者人格権侵害(本訴請求(1)オ)
 本件記事18の内容は不明である。損害賠償債務の存否に関する主張はしないこととする。
イ 被告らに対する名誉権及び名誉感情侵害による不法行為の成否(本訴請求(1)ウ、エ、反訴請求(1)〜(4))
(ア)本件記事2〜4による被告らの名誉権侵害及び被告Cの名誉感情侵害(反訴請求(1)(3))
 以下のとおり、本件記事2〜4は被告らの名誉権を侵害し、被告Cの名誉感情も侵害する。
a 本件記事2はイラストを含む全体により、被告らが、別居親と子との面会交流について、同居親の都合で不当に断念させる面会交流阻止や親子引き離しを業として行い、それによって利益を得ているとの事実を摘示するもので、被告らの名誉権を侵害し、被告Cの名誉感情も侵害する。
b 本件記事3は、被告らが「面会交流阻止マニュアル」を販売し、また、親子引き離しをビジネスとして行っているとの事実を摘示するもので、被告らの名誉権を侵害し、被告Cの名誉感情も侵害する。
c 本件記事4は、被告Cが、子の利益に反して面会交流を妨害する内容のマニュアルを販売し、被告Dがこれに協力しているとの事実を摘示するもので、被告らの名誉権を侵害し、被告Cの名誉感情も侵害する。
(イ)本件記事5〜11による被告らの名誉権及び名誉感情侵害(本訴請求(1)エ、反訴請求(2)〜(4))(反訴請求との関係では被告Cのみ)
 以下のとおり、本件記事5〜10は被告Cの名誉権及び名誉感情を、本件記事11は被告らの名誉権及び名誉感情を侵害する。本訴請求(1)エとの関係で、被告Dは、本件記事5〜10が被告Dの名誉権及び名誉感情を侵害するものであるか否かについては、主張しない。
a 本件記事5には、被告Cが、面会交流を不当に断念させるような行為をして報酬を得ているという事実、裁判所に対して虚偽の主張をするよう助言し、その結果、自己の利益に反して親との交流を制限された子が複数存在するとの事実、被告Cが、子が利害関係者であることを忘れ、不当に親子の関係を絶たせているとの事実が摘示されており、被告Cの名誉権及び名誉感情を侵害する。
b 本件記事6には、被告Cが、面会交流を断念させて子の権利を侵害する内容のマニュアル(説得力アップブック)を作成したとの事実、面会交流を不当に制限する方法を指南したり、面会交流を不当に制限したりすることによって収入を得ているとの事実、被告Cが同居親の都合により面会交流を実施しなくてもかまわないとの思想を有しているとの事実が摘示されており、被告Cの名誉権及び名誉感情を侵害する。
c 本件記事7には、被告Cが、面会交流を不当に制限することによるDVや児童虐待のノウハウを手ほどきし、助長しているとの事実や、相手(別居親)にダメージを与えたいという同居親からの依頼を受けて、それを実現するために面会交流の禁止という手段を提示しているとの事実や、被告Cの面会交流禁止の成功報酬が66万円であり、子の利益を損ない、多額の報酬を得ているとの事実が摘示されており、被告Cの名誉権及び名誉感情を侵害する。
 また、本件記事7のタイトルにある「残念弁護士のC氏」との記載も、被告Cの名誉感情を侵害する。
d 本件記事8には、「岐阜県の“発展途上離婚弁護士”」である被告Cが、面会交流制限マニュアルの販売を再開したとの事実や、面会交流制限マニュアルの販売にB法律事務所の複数のスタッフが関与しており、親子引渡しのDV行為、児童虐待に組織的にかかわった者とみなされる可能性があるとの事実が摘示されており、被告Cの名誉権及び名誉感情を侵害する。
e 本件記事9には、「C“発展途上離婚弁護士”」が面会交流制限マニュアルの販売を再開したことや、親子の引き離しの手法をマニュアルの形で公開していること等が記載されており、本件サイトでは、面会交流を不当に制限することによって金を稼いでいる弁護士を“発展途上離婚弁護士”と呼んでいることも踏まえれば、上記記載は、被告Cが子の利益に反する活動をしている弁護士であるとの事実を摘示するものであって、被告Cの名誉権及び名誉感情を侵害する。
f 本件記事10には、被告Cが、子供達が親と会える時間を減らすため裁判所を騙すノウハウを販売し、別居親への気持ちの配慮をしていないとの事実や、原告が本件サイトに掲載した「岐阜の“発展途上離婚弁護士”・Cが3万円で販売中『面会交流制限マニュアル』公開」と題する記事について、必要な反論もせず自分自身を憐れむばかりであったとの事実が摘示されており、被告Cの名誉権及び名誉感情を侵害する。
g 本件記事11は、被告Cが、面会交流を同居親の都合で断念させる方法をマニュアルの販売により教えたり、依頼者にアドバイスをしたりしており、単なる倫理観が低いだけの“発展途上離婚弁護士”とは別格の、親子の引き離しがなぜ悪いことであるのか理解できていないほどの弁護士であるとの事実を摘示しており、被告Cの名誉権及び名誉感情を侵害する。
 また、本件記事11には、被告Dが、子の利益に適う面会交流を、同居親の都合で不当に断念させる方法を教えるとの発言をし、そのマニュアルを販売しているという事実や、そのような否定的な評価を受ける行為をして利益を得ているとの事実が摘示され、被告Dの名誉権及び名誉感情を侵害する。
 加えて、本件記事11には、強欲で胡散臭く悪巧みしているような被告らの似顔絵が掲載されており、被告らの名誉感情を大きく侵害する。
(ウ)本件記事12〜17による被告らの名誉権及び名誉感情侵害(本訴請求(1)ウ、エ)
 以下のとおり、本件記事12〜14及び16は被告Cの名誉権を、本件記事17は被告らの名誉権及び被告Dの名誉感情を侵害する。被告らは、本件記事15が被告らの名誉権及び名誉感情侵害をするものであるか否かについて、被告Dは、本件記事12〜14及び16が被告Dの名誉権及び名誉感情を侵害するものであるか否かについて主張しない。
a 本件記事12には、被告Cから説得力アップブックを購入してメールでやり取りをし、失望感を抱いた者がいるとの事実が摘示されており、被告Cの名誉権を侵害する。
b 本件記事13には、被告Cが、子の利益に適う面会交流を、同居親の都合で断念させる方法を記載したマニュアルを作成・販売しているという事実、被告Cが子供の人権を軽視しているという事実、子供への権利侵害で金を儲けているという事実が摘示されており、被告Cの名誉権を侵害する。
c 本件記事14には、被告Cが、同居親の都合で面会交流を断念させる方法を記載した情報商材を作成・販売し、子供の利益を軽視しているという事実、同情報商材に関し不適切な宣伝をしたことを自認したとの事実が摘示されており、被告Cの名誉権を侵害する。
d 本件記事16には、被告Cが、子の利益に適う面会交流を、同居親の都合で断念させる方法を記載したマニュアルを作成・販売しているという事実が摘示されており、被告Cの名誉権を侵害する。
e 本件記事17には、被告らが、子の利益に適う面会交流を、同居親の都合で不当に断念させる方法を記載したマニュアルの販売を増やそうとしているとの事実や、子の利益に反して面会交流を断念させることで金を稼いでいるとの事実が摘示されており、被告らの名誉権及び被告Dの名誉感情を侵害する。
(エ)原告の主張する違法性阻却事由について
 被告らは、「面会交流阻止の方法」を記載した面会交流阻止マニュアルを販売しているものではなく、「親子引き離し」を業務として行っているものではないから、本件記事2〜17(本件記事15を除く。)に記載された事実は真実ではない。また、本件記事2〜17(本件記事15を除く。)に記載された事実は被告らの弁護士業務に関する事項であって公共の利害に関する事実ではない。
 本件サイトは、原告の元妻の代理人弁護士を中傷する記事や、同代理人弁護士の原告に対する損害賠償請求訴訟において、同代理人弁護士の代理人をした弁護士を誹謗中傷する記事を掲載するなどしていたところ、被告Cについては、説得力アップブックの販売に関して、「岐阜の悪徳離婚弁護士・Cが3万円で販売中「面会交流制限マニュアル公開」」と題する記事(本件記事5に相当するもの。ただし、掲載当初の記述は本件記事5とは若干異なる。)を掲載したことが始まりで、執拗な加害文言を使用したり、被告Cの情報をわざわざ収集して暴露したりして、被告Cやその周囲の者を攻撃する内容の記事を複数掲載している。被告Dについては、被告Cの代理人として、本件サイト上の記事を引用したSNSへの書き込み(原告以外の者によるもの)について削除請求をしていたところ、原告が本件サイトに「悪徳弁護士・Cの著作権を守るために奔走するDZ弁護士会会長の「言い分」」と題する記事(本件記事6に相当するもの。ただし、本件記事6とは題名その他の記述が異なる部分がある。)を掲載したことが始まりで、執拗な加害文言を用いたり、被告Dの情報をわざわざ収集したりして、被告Dを誹謗中傷する記事を掲載している。これらの経緯からして、原告が、被告C、被告D又は被告らを攻撃する意図で本件記事2〜17(本件記事15を除く。)を掲載したことは明らかであるから、「もっぱら公益を図る目的に出た場合」に当たらない。
(原告の主張)
ア 被告らに対する著作権又は著作者人格権侵害の成否(本訴請求(1)ア、イ、オ)
(ア)本件記事1の掲載による被告Cの本件主張書面案の著作権侵害(本訴請求(1)ア)
 本件主張書面案はありふれた定型的な表現であり、著作物に当たらない。
 また、本件サイトへの本件主張書面案の掲載は、著作権法32条の「引用」や、同法41条の「時事の事件の報道のための引用」に当たるから、著作権侵害とはならない。
(イ)本件サイトへの本件PDFファイルの掲載による被告Cの本件ウェブページの著作権侵害(本訴請求(1)イ)本件PDFファイルは、被告CのウェブページをPDF化したものであるが、被告Cのウェブページは、ウェブページ制作業者を利用して作成したものであるので、被告Cが著作権を有するものではない。
 また、著作権法32条や41条に該当するので著作権侵害とはならない。
(ウ)本件記事18の掲載による被告Dの本件申立書の著作権及び著作者人格権侵害(本訴請求(1)オ)
 本件記事18に掲載された本件申立書は、ありふれた定型的な表現であり、著作物に当たらない。
 また、本件サイトへの本件申立書の掲載は、著作権法32条の「引用」や、同法41条の「時事の事件の報道のための引用」に当たるから、著作権侵害とはならない。
イ 被告らに対する名誉権及び名誉感情侵害による不法行為の成否(本訴請求(1)ウ、エ、反訴請求(1)〜(4))
(ア)本件記事2〜4による被告らの名誉権侵害及び被告Cの名誉感情侵害(反訴請求(1)(3))
a 本件記事2における「面会交流阻止」や「親子引き離し」等の表現は、それ自体中立的なものであって否定的な意味を有するものではなく、子から引き離される別居親から見た評価や意見を記載したものであって、必然的に、同居親側の弁護士について「親子の引渡しで利益を上げている」との否定的な評価となるのはやむを得ない。そして、被告らの人格に対する攻撃に及ぶようなものではなく、名誉権や名誉感情の侵害とはならない。
b 本件記事3及び4の「面会阻止マニュアルをネット販売していた」との表現は、あくまで、説得力アップブックの内容についての意見・論評であって被告らの社会的評価を低下させるものではない。その余の表現も前記aと同様に、名誉権や名誉感情の侵害に当たらない。
(イ)本件記事5〜11による被告らの名誉権及び名誉感情侵害(本訴請求(1)エ、反訴請求(2)〜(4))
a 本件記事5の記載のうち、被告Cが、「面会交流させたくないときの話し方の秘訣」と称して、調停委員や調査官との「話し方マニュアル」をネット販売していることや、マニュアルの販売ビジネスで収入を得ていることは真実であり、このこと自体が被告Cの社会的評価を低下させるものではない。また、「発展途上弁護士」という表現は中立的な意味しか有しないものであり、その余の記載も説得力アップブックの内容に対する意見・論評であって被告Cの人格に対する攻撃に及ぶものではなく、正当な意見・論評の範囲内にある。
 本件記事5には被告Dについての記載はない。
b 本件記事6における被告Cが「親子を引離すために作成・販売した「説得力アップブック面会交流制限編」という記載は、被告Cではなく説得力アップブックの内容についての意見・論評にすぎず、また、その余の記載も被告Cの社会的評価を低下させるものではない。
 本件記事6における被告Dに係る記載は、被告Dが岐阜地方裁判所令和3年(ワ)第616号事件(以下「616号事件」という。)で被告Cの訴訟代理人を務めていることに関連した意見・論評であり、被告Dの社会的評価を低下させるものではない。
c 本件記事7における残念弁護士、発展途上離婚弁護士との表現は、中立的な意味しか有しないものであり、別居親からみた評価や意見として正当な意見・論評の範囲内に含まれる。また、その余の記載も被告Cに向けられたものというよりは、説得力アップブックの内容に向けられた意見・論評であり、被告Cの社会的評価を低下させるものではない。
 本件記事7には被告Dについての記載はない。
d 本件記事8における発展途上離婚弁護士との表現は、被告Cについての意見・論評であり、中立的な表現であって正当な意見・論評の範囲内にある。その余の記載は、被告C自身ではなく、説得力アップブックの内容や販売方法についての意見・論評をするものであるなど、
 いずれも、被告Cの社会的評価を低下させるものではない。本件記事8には被告Dについての記載はない。
e 本件記事9における発展途上弁護士、発展途上離婚弁護士との表現は中立的な表現であり、正当な意見・論評の範囲内にある。その余の記載は、説得力アップブックの内容や販売方法についての意見・論評をするものであるなど、いずれも、被告Cの社会的評価を低下させるものではない。
 本件記事9には被告Dについての記載はない。
f 本件記事10における発展途上離婚弁護士との表現は被告Cの社会的評価を低下させるものではない。その余の記載は、被告Cが「私自身が人から攻められるという経験」と述べたことに対する意見・論評、説得力アップブックの内容についての意見・論評であって、いずれも被告Cの社会的評価を低下させるものではない。
 本件記事10には被告Dについての記載はない。
g 本件記事11に記載されているイラスト及び吹き出しの内容は真実であって被告らの社会的評価を低下させるものではない。その余の記載は、説得力アップブックの内容や販売方法についての意見・論評であり、被告らの社会的評価を低下させるものではない。
(ウ)本件記事12〜17(15を除く。)による被告らの名誉権及び名誉感情侵害(本訴請求(1)ウ、エ)
a 本件記事12は、本件サイトに届いた応援メッセージをそのまま掲載したもので、被告Cの社会的評価を低下させるものではない。
 本件記事12には被告Dについての記載はない。
b 本件記事13及び17の記載は、被告Cに向けたものというよりは、説得力アップブックの内容及び販売方法についての意見・論評であり、被告Cの社会的評価を低下させるものではない。
 本件記事13及び17における被告Dに係る記載は、同人が616号事件で被告Cの訴訟代理人を務めていることに関連した意見・論評であり、被告Dの社会的評価を低下させるものではない。
c 本件記事14及び16の記載は、被告Cに向けたものというよりは、説得力アップブックの内容及び販売方法についての意見・論評であり、被告Cの社会的評価を低下させるものではない。
 本件記事14、16には被告Dについての記載はない。
(エ)違法性阻却事由があること
 本件記事2〜17(本件記事15を除く。)の内容は、事実の摘示又は論評に当たるが、摘示する事実又はその論評の元となる重要な事実は真実であり、親子の引き離し問題を中心として、話題となっている弁護士等に係る事実を報道し、それに対する原告の意見・論評を公衆に伝達することを目的としたもので公共性・公益性がある。
 したがって、本件記事2〜17(本件記事15を除く。)の掲載が名誉権又は名誉感情の侵害に当たるとしても、違法性阻却事由がある。
(3)争点2(本件記事2〜11の削除並びに本件記事2、3及び5〜11の掲載の差止めの必要性)について(反訴請求(1)〜(3))
(被告らの主張)
ア 本件記事2〜11の削除について(反訴請求(1)(2))
 前記(2)(被告らの主張)イ(ア)(イ)のとおり、原告は、本件記事2〜11を掲載したことにより被告Cの名誉権ないし名誉感情を、本件記事2〜4を掲載したことにより被告Dの名誉権を侵害した。そこで、人格権に基づく侵害排除請求又は侵害予防請求として、被告Cは本件記事2〜11の削除を、被告Dは本件記事2〜4の削除を求める。
 原告は、本件記事2〜11について現在記事の公開をしていないと主張するが、原告は、仮処分決定がされたことにより仮の削除をしたにすぎないから、本訴においては削除されていないものとして審理すべきである。
イ 本件記事2、3及び5〜11の全部若しくは一部又は同各原稿の全部若しくは一部の複製の掲載の差止めの必要性(反訴請求(3))
 原告は、岐阜地方裁判所令和3年(ヨ)第50号仮処分命令申立事件において、本件記事2〜4に相当する記事(乙15の2、16の2、17の2)の仮の削除を命じられたにもかかわらず、その複製を作成し、表現の一部を改変して新たなURLに掲載した(甲7の2〔86−93頁、272−273頁、399−405頁〕)。そうすると、本件において、本件記事2、3及び5〜11の削除が命じられたとしても、原告は、同様の行為に及ぶおそれがある。
 したがって、人格権に基づく侵害排除又は侵害予防請求として、本件記事2、3及び5〜11の全部若しくは一部又は同各記事の原稿の全部若しくは一部の複製をインターネット上に掲載することを差し止める必要がある。なお、上記各記事の原稿は、上記各記事とは内容が異なるものであるが、原稿の内容は特定できない。
(原告の主張)
 争う。いずれも被告らの名誉権又は名誉感情を侵害するものではない。
 また、本件記事2、3及び5〜11の一部又は同各記事の原稿の一部の複製についてまで掲載してはならないとすると、「岐阜県」や「弁護士」といった単語や、「て」「に」「を」「は」まで一部に当たり得ることとなって、およそ記事を掲載することはできなくなるので、不合理極まりない。
 本件記事2〜11について、現在、本件サイトで公開をしていない。
(4)争点3(原告の本件記事1及び5〜18並びに本件PDFファイルの掲載により被告らに生じた損害の額)について(本訴請求(1)、反訴請求(4))
(被告Cの主張)
ア 著作権侵害について
(ア)本件記事1の掲載による被告Cの本件主張書面案の著作権侵害(本訴請求(1)ア)
 本件主張書面案が、令和3年9月9日から令和4年2月2日頃まで、無断で本件サイトに掲載されたことにより、被告Cには著作権法114条3項の使用料相当額の損害が生じている。
 本件主張書面案は、説得力アップブックの購入者のみに提供している大切な特典である。そうすると、損害額は、@投稿記事を複製(プリントアウト又はファイル保存)した者(10人から1000人の間と予測)一人当たり4000円として算出した額(4〜400万円)とA110万円(上記掲載期間の掲載についての使用料)の合計額である。
 また、損害額の立証が困難なときは、著作権法114条の5に基づく損害額が算定されるべきである。
(イ)本件サイトへの本件PDFファイルの掲載による被告Cの本件ウェブページの著作権侵害(本訴請求(1)イ)
 被告Cの損害額について、主張しない。
イ 名誉権及び名誉感情侵害について
 被告Cは、令和4年10月18日時点のものとして特定される本件記事5〜17につき、同日より前であるその掲載時から令和5年5月22日までの損害の発生を主張するが、被告Cには上記各記事がいつから掲載されていたか不明であるから、一部請求に当たる令和4年10月18日から令和5年5月22日までの損害額を主張するものである。
(ア)本件記事5〜11(反訴請求(4))
 令和4年10月18日から令和5年5月22日まで本件記事5〜11が本件サイトに掲載されていたことによる被告Cの精神的苦痛に対する慰謝料額は、本件記事5〜10について各20万円、本件記事11について40万円である(合計160万円)。本件記事11については、似顔絵を用いることで名誉権・名誉感情侵害の効果が高められていることや、訴外似顔絵画家をして被告Cを悪い者に見えるような似顔絵を作成させていること、被告らが本件サイトの記事について削除の仮処分を申し立てた後に掲載されたものであることから、被告Cの精神的苦痛は拡大した。
(イ)本件記事12〜17(本訴請求(1)ウ)
 令和4年10月18日から令和5年5月22日まで本件記事12〜14、16及び17が本件サイトに掲載されていたことによる被告Cの精神的苦痛に対する慰謝料額は、本件記事12〜14、16及び17について各20万円である(合計100万円)。
 本件記事15に関しては、主張しない。
(被告Dの主張)
ア 著作権及び著作者人格権侵害について(本訴請求(1)オ)
 本件記事18の掲載による被告Dの本件申立書の著作権及び著作者人格権侵害による損害について、主張しない。
イ 名誉権及び名誉感情侵害について(本訴請求(1)エ)
 被告Dは、令和4年10月18日時点のものとして特定される本件記事11及び17につき、同日より前であるその掲載時から令和5年5月22日までの損害の発生を主張するが、被告Dには上記各記事がいつから掲載されていたか不明であるから、一部請求に当たる令和4年10月18日から令和5年5月22日までの損害額を主張するものである。
 令和4年10月18日から令和5年5月22日まで本件記事11及び17が本件サイトに掲載されていたことにより生じた被告Dの精神的苦痛に対する慰謝料額は、本件記事11について40万円、本件記事17について20万円である(合計60万円)。
 本件記事5〜10及び12〜16に関しては、主張しない。
(原告の主張)
ア 本件記事1による著作権侵害について、本件主張書面案は市場において販売されているものではなく、市場価値は0円としか評価し得ないものなので、著作権法114条3項による損害額は0円である。
イ 本件記事5〜17による名誉権及び名誉感情侵害が仮に認められるとしても、本件サイトの閲覧者数はそれほど多くなく、また、本件各記事の掲載により被告らの業務に何らかの影響が出たということもないから、慰謝料額は極めて軽微で0円に近い。
(5)争点4(甲5記事の掲載による不正競争の成否)について(本訴請求(2))
(原告の主張)
ア 原告及び被告Cは、いずれも、ウェブサイトを管理・運営して、離婚事件や面会交流事件などの法律問題等について意見・論評を行い、法律知識を不特定多数の読者に向けて配信するという役務を提供しているから、不競法2条1項21号所定の競争関係にある。
イ 被告Cは、被告サイトに掲載した甲5記事において、原告について、「裁判所の命令も聞かずに、違法行為を続けるサイト管理者は、私の弁護士業務に対する業務妨害とも言えますから、この点については、別途警察にも相談しようと思っています。」と記載した(甲5〔5頁〕)。裁判所が本件サイトの記事の削除の仮処分命令を出しているのは事実であるが、その相手方は訴外GMOであって原告ではないから、原告が裁判所の命令に違反しているという事実はないのであって、甲5記事の摘示する事実は虚偽である。
ウ したがって、被告Cが被告サイトに甲5記事を掲載した行為は、不競法2条1項21号の不正競争に当たる。
(被告Cの主張)
ア 被告Cが本件サイト管理者である原告と同種の役務を提供していることは認める。
イ 甲5記事及びこれが掲載されたウェブページ全体の記載からは、「サイト管理者」が原告であることを読み取ることはできない。
 被告Cは、訴外GMOを相手方として、本件サイトの記事の仮の削除を求める仮処分命令の申立てをし、同事件の審理過程において、訴外GMOからの意見照会を受けた原告は、本件サイトに用いるレンタルサーバーを訴外GMOのものから海外のレンタルサーバーに変更した。更に、原告は、訴外GMOから、上記仮処分事件において裁判所から記事の削除又は閲覧不可能とする措置をするよう命じられた旨の連絡を受けたにもかかわらず、裁判所から削除等の命令を受けた本件サイト内の記事について、削除又は公開中止をすることはなかった。この経緯からすると、原告が「裁判所の命令も聞かずに」著作権侵害の違法行為を継続したことは事実である。
ウ そうすると、甲5記事の内容は虚偽の事実ではないから、甲5記事の掲載は不正競争に当たらない。
(6)争点5(不正競争により原告に生じた損害の額)について(本訴請求(2))
(原告の主張)
 被告Cが甲5記事を掲載したことにより、原告の営業上の信用は著しく侵害され、その損害額は150万円を下らない。
(被告Cの主張)
 原告には営業上の信用はなく、損害の発生もない。
第3 当裁判所の判断
1 本案前の争点(訴えの適法性)について(本訴請求(1))
(1)訴訟物の特定について
 本訴請求(1)オは、本件記事18の掲載による不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求であるが、本件記事18は、掲載されたURL及び「令和4年3月6日時点で削除済みのもの」との特定によっている。
 しかしながら、原告が、本件各URLに掲載された記事を随時改訂しており(前記前提事実(3)ア)、原告が本件記事18として特定する記事の内容も不明であることからすれば、上記の特定では、債務不存在確認の対象となる損害賠償債務が特定されているとはいえず、訴訟物の特定として不十分である。
 よって、本訴請求(1)オに係る訴えは不適法である。
 被告らは、本訴請求(1)ア、ウ及びエについても、債務不存在確認の対象となる損害賠償債務の特定が不十分であると主張するが、これらの請求に係る記事の内容は特定されるに至っているので、訴訟物の特定に欠けるところはない。
(2)確認の利益について
ア 後掲各証拠によると、被告らは、これまでに、本件サイトに掲載された記事等に関し、以下のとおり、仮の削除等を求める仮処分の申立てをしたことが認められる。なお、本項及び後記イにおける本件各記事は、本訴における本件各記事と同一のURLに掲載された記事であるものの、その内容が本訴における本件各記事と完全に同一であるかは必ずしも明らかではない。
(ア)被告Cは、岐阜地方裁判所において、訴外GMOを債務者として、本件サイトに掲載された本件記事1及び10並びに本件PDFファイルについて、仮の削除又は閲覧不可能とする措置を求める仮処分を申し立て(同裁判所令和3年(ヨ)第39号。以下「39号仮処分事件」という。)、同裁判所は、令和3年11月1日、上記各記事及び本件PDFファイルについて仮の削除又は閲覧不可能とする措置を命ずる決定をした。(甲2)
(イ)被告Cは、同月10日、岐阜地方裁判所において、原告を債務者として、本件サイトに掲載された本件記事1及び10並びに本件PDFファイルについて、仮の削除を求める仮処分を申し立てた(同裁判所令和3年(ヨ)第47号。甲3の1)が、令和4年3月8日、同申立てを取り下げた。
(ウ)被告Cは、令和3年11月17日、岐阜地方裁判所において、原告を債務者として、本件記事2及び5〜10を含む本件サイト上の14個の記事について、仮の削除を求める仮処分を申し立てた(同裁判所令和3年(ヨ)第48号)。その後、申立ての趣旨の変更を経て、同裁判所は、令和5年5月9日、本件記事2、3及び5〜11を含む記事について仮の削除等を命ずる決定をした。被告Cが同決定を債務名義として、本件記事5〜11の削除につき間接強制の申立てをしたところ、原告は、同月22日、本件記事2、3及び5〜11を削除した。(甲3の2、乙23、25、26)
(エ)被告Dは、令和3年11月29日、岐阜地方裁判所において、原告を相手方として、本件記事2、3、15及び18(ただし本件記事3については一部)について仮の削除を求める仮処分を申し立てた(同裁判所令和3年(ヨ)第50号)。その後、対象とする記事を本件記事24に変更する申立ての趣旨の変更を経て、同裁判所は、令和4年6月29日、本件記事2〜4の仮の削除を命ずる決定をした。(甲3の3、乙18)
イ 後掲各証拠によると、被告らは、これまでに、本件サイトに掲載された記事に関し、以下のとおり、原告に対する訴えを提起したことが認められる。
(ア)被告らは、令和3年11月10日頃、岐阜地方裁判所において、原告が、被告Cが作成した「説得力アップブック」のPDFファイル、被告Cが作成したメール、被告Dが作成した39号仮処分事件の仮処分命令申立書を本件サイトに掲載したこと等が、被告らに対する著作権侵害等の不法行為に当たると主張して、原告に対し、被告Cにつき3317万0540円の、被告Dにつき41万円の損害賠償金の支払を求める訴え(616号事件)を提起した。(乙1、2)
(イ)被告らは、令和3年12月7日頃、岐阜地方裁判所において、原告が、同年11月4日から同月21日までの間、被告Cが撮影した動画から切り出した被告Cの容貌の画像及び中日新聞社カメラマンが撮影した被告Dの容貌の画像を本件サイトに掲載したことが、被告Cの著作者人格権及び被告らの肖像権を侵害すると主張して、原告に対し、被告Cにつき250万円、被告Dにつき200万円の損害賠償金の支払を求める訴え(同裁判所令和3年(ワ)第651号。以下「651号事件」という。)を提起した。同事件の訴状には、「本件サイトにおいて原告ら〔判決注:本訴被告ら〕に発生しているその他の損害については、別訴訟での請求を検討している。」との記載がある。(乙3、4)
ウ 本訴請求(1)に係る確認の利益について
@被告らは、著作権侵害、名誉権侵害等を理由として、本件サイトについて、記事の削除等の仮処分を申し立てたことがあること(前記ア)、A被告らは、原告に対し、本件サイト上の記事に関し、著作権侵害等を理由とする損害賠償請求の訴えを複数提起したことがあり、651号事件の訴状において、本件サイトにおいて被告らに生じたその他の損害については別の訴訟で請求をすることを検討している旨述べていること(前記イ)、B本件訴訟において、被告Cは、本件記事5〜11の掲載による名誉権及び名誉感情侵害に係る不法行為に基づく損害賠償請求をし(反訴請求(4)。原告は、本件訴訟において、反訴請求(4)に対応する債務不存在確認請求をしていたが、反訴請求(4)を受けて、同部分に係る訴えを取り下げた。)、被告らは、本件各債務の一部について侵害の事実及び損害額について主張していることの各事実があり、これらの事実を踏まえると、被告らが侵害の事実及び損害額を主張した各債務(本訴請求(1)アの債務、本訴請求(1)ウの債務のうち本件記事12〜14、16及び17に係るもの、本訴請求(1)エの債務のうち本件記事11及び17に係るもの)に関しては、原告と被告C又は被告Dとの間に、その存否について争いがあり、原告は、被告C又は被告Dから、上記各債務について請求されるおそれが現に存在するというべきであるから、その不存在を確認することにつき、即時確定の利益があるといえる。他方、その余の債務については、被告らは、その存否について何らの主張もしておらず、原告が、これらの債務について請求されるおそれが現に存在するとはいえないから、即時確定の利益があるということはできない。
(3)以上によれば、本件訴えのうち、@本訴請求(1)アの不存在確認請求、A本訴請求(1)ウのうち本件記事12〜14、16及び17に係る債務の不存在確認請求、B本訴請求(1)エのうち本件記事11及び17に係る債務の不存在確認請求に係る部分は、適法であるが、別紙却下部分記載の請求に係る部分は不適法である。
 被告らは、その余の理由により本訴請求(1)に係る訴えが不適法であるとの主張もするが、上記各請求の内容や対象記事の数その他の被告らの指摘する諸事情を考慮しても、上記で適法と判示した部分に係る訴えが不適法であるとはいえない。
2 争点1(本件各記事の掲載による不法行為の成否)について(本訴請求(1)、反訴各請求)
(1)本件記事1の掲載による被告Cの本件主張書面案の著作権侵害(本訴請求(1)ア)
 本件記事1は、乙6の1〜5のとおり、原告による表題や文章部分の複数回の改訂を経ながら本件サイトに掲載されたものであるが、改訂の前後を問わず、被告C作成の本件主張書面案の全文が含まれている。
 本件主張書面案は、子の別居親が子との宿泊付き面会交流及び多数回・長時間の面会交流を求める面会交流審判事件において、相手方である同居親が提出することを想定した主張書面の例を示すものであり、相手方である同居親が相当と考える面会交流の回数・内容を主張するとともに、その理由について過去の具体的な経緯も踏まえて詳細に説明する内容となっており、体裁こそ定型的なものであるものの、その内容は何らかの定型があるものではなく、主張の根拠となる事情や判断に当たり考慮すべき事情等として記載する事項の取捨選択及びそれぞれの具体的表現等には被告Cの個性が表れており、思想又は感情を創作的に表現した著作物に当たると認められる。
 原告は、本件主張書面案の掲載は、著作権法32条の「引用」に当たると主張するが、本件記事1(乙6)は、(被告Cが)「審判でも上手なウソをつけるように、主張書面のサンプルまで公開しています」、「ウソの主張に注意を促し、理由なく親から引き離される子供を一人でも減らすために、その内容を以下に公開します」などとして本件主張書面案の全文を記載しているものであって、本件主張書面案の内容についての報道や批評を具体的にしているものではないから、主張書面案の全文を引用する必要があるとはいえず、公正な慣行に合致するものとも、引用の目的上正当な範囲内で行われているともいえない。そうすると、同条の「引用」に当たるとは認められない。なお、本件記事1は、改訂の前後を通じ、文章は概ね同一であり、改訂にかかわらず、「引用」に当たらないことに変わりはない。
 原告は、本件主張書面案の掲載は、同法41条の「時事の事件の報道のための引用」に当たるとも主張するが、本件記事1は、被告Cが面会交流事件において同居親側の支援をする活動をすることを論難するための記事であって、「時事の事件の報道」に当たるとは認められない。
 したがって、原告が、本件サイトに本件主張書面案の全文を含む本件記事1を掲載したことは、被告Cの著作権(公衆送信権)侵害に当たる。
(2)名誉権及び名誉感情侵害による不法行為の成否(本訴請求(1)ウ、エ、反訴請求(1)〜(4))
ア 本件記事2〜4(反訴請求(1)(3))
 被告らは、本件記事2〜4は被告らの名誉権を侵害し、被告Cの名誉感情も侵害すると主張するところ、以下のとおり、本件記事2〜4は、被告らの名誉権を侵害するものと認められる。被告Cは、名誉感情の侵害の主張をするが、本件記事2〜4については、削除及び掲載の差止めが問題となっているので、名誉権の侵害に加えて名誉感情の侵害が成立するかについての判断はしない。
(ア)本件記事2(乙15の2)は、「Z弁護士会会長夫妻が販売する「面会交流制限マニュアル」」との表題の記事で、@「説得力アップブック」を手にした被告らの似顔絵が掲載され、同画像中の被告Dが「面会交流阻止の方法教えま〜す」と、被告Cが「3万2780円でーす!」と述べており、本文には、「C氏が「実行役」D氏は「批判を潰す役」」との項目の中に、A「D・C夫妻は、夫婦で役割分担をしながら、実質的に夫婦のファミリービジネスとして、夫婦で協力して親子引き離しを行い、利益を上げているわけです。」との記載があり、「弁護士会会長の行為は誰も監督できない」との見出しの本文に、B「C・D夫妻は今日も誰からもとがめられずに親子を引き離して収入を得ているのです。」との記載がある。
 本件記事2の表題の上部に「E」「親子の引き離しで収入を得ている「発展途上弁護士」(途上弁護士)の問題等について考えるサイトです」との記載があることや、本文の最初に「岐阜の“発展途上弁護士”・C氏(B法律事務所)が、子供を親から引き離すための法的ノウハウを記した「面会交流阻止マニュアル」を情報商材としてネット上で販売している問題について、本サイトでは何度か記事で取り上げてきました」との記載があり、続いて、「そして今回、・・Z弁護士会会長のD氏・・が、C氏の夫であることが判明しました」との記載があること、「弁護士会会長の行為は誰にも監督できない」の見出しの本文の最初には「弁護士による親子引き離し事業の営業は、民法766条やDV法、児童虐待防止法などに反する可能性があります。」との記載があることも踏まえると、上記@の絵及びABの記載は、被告Cが、民法その他の法律に違反して親子の引き離しにより収入を得るという違法な営業をしている弁護士であり、被告ら夫婦が協力して、違法な営業の一環として面会交流阻止の方法を教える面会交流阻止マニュアルともいうべき「説得力アップブック」を販売し、しかも被告DがZ弁護士会会長の地位にあるため、誰からも咎められることなく違法な行為を継続しているとの事実を摘示するものと認められる。これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告らの社会的評価を低下させるものであり、被告らの名誉権を侵害する。
 なお、本件記事2においては、説得力アップブックについて、「面会交流阻止マニュアル」との表現と、「面会交流制限マニュアル」との表現が用いられているが、証拠(甲9)によると、説得力アップブックは、面会交流に係る家事調停において、面会交流を拒否・制限したい同居親に対し、調停の流れ、面会交流についての考え方、裁判所の判断基準を説明するとともに、調停において効果の高い、裁判所の判断基準も踏まえた「話し方」を具体例とともに示すものであって、マニュアルと呼んでも遜色のない内容といってよく、これを「面会交流制限マニュアル」と呼ぶことが直ちにこれを作成した被告Cやこの販売に協力している被告Dの社会的評価を低下させるとはいい難い。もっとも、「面会交流阻止マニュアル」との呼び方については、「阻止」という表現には、自らにとって好ましくないものの実現を止めさせるという意味が含まれることとなり(乙14)、読者をして、被告らが「面会交流」自体を好ましくないものと考えて、面会交流の実現を阻止するマニュアルを作成・販売していると理解すると認められるところ、弁護士である被告らが面会交流自体を望ましくない制度と考えているとすれば、子の福祉に反する思想を有していると評価され得るから、被告らの販売する説得力アップブックを「面会交流阻止マニュアル」と呼ぶことは、被告らの社会的評価も低下させるといえる。
 そして、本件記事2の全体が、被告らが夫婦である事実が判明したことを述べた上で、被告ら夫婦が「面会交流阻止マニュアル」を販売する行為が違法であると論難することを目的とするものであるから、本件記事2の全体が被告らの名誉権を侵害するものと認めるのが相当である。
(イ)本件記事3
 本件記事3(乙16の2)は、「【2021年11月号】面会交流阻止報酬を受取る弁護士・“改心者”は累計12名」との表題の記事で、「新たに2名の“発展途上弁護士”が見つかりました。」との記載に続いて、@「面会交流阻止マニュアルをネット販売していたZ弁護士会会長夫妻(D・C)です。」とあり、さらに、A「2021年11月現在で、親子引離し請負業務を行っている“発展途上離婚弁護士”は次の18人になりました。」との記載があり、その下に「親子引き離し業務を行っている“発展途上離婚弁護士”一覧」との項目名が記載され、続いて18人の弁護士が記載した表中に、B「C(戸籍名:C´/B法律事務所/Z弁護士会)」「情報商材「面会交流阻止マニュアル」を3万2780円でネット販売」との記載や、C「D(F法律事務所/Z弁護士会)」「(Cの夫として「面会交流阻止マニュアル」販売協力)」との記載があり、同表に続いて「面会交流阻止報酬表示を消して表面上は“改心”した元・“発展途上離婚弁護士”」として、12人の弁護士をイニシャルで示した表が掲載され、その後に、「弁護士会に代わり本会が“発展途上弁護士”を「監視」」とする見出しの本文の最初に「親子引き離し業務の請負を行っている“発展途上弁護士”への監督・指導は本来、弁護士会が行うべきものです。」との記載があり、その3行下には、D「会長であるD氏が自ら、妻であるC氏の親子引き離しビジネスに加担していることも判明しました。」と記載されている。続く「面会交流阻止は、親子の人格的利益の侵害」との見出しの本文の最初には、E「以上に挙げた弁護士たちは、自分の事務所のHPに「面会交流を阻止することに“成功”すれば、その分の報酬をもらう」と表示するなど、親子の引き離しによって報酬を得ている弁護士たちです。」との記載があり、さらに続いて「面会交流の阻止は、親と子双方に対する利益侵害であることは明らかです。」、「親子の引き離しが一方の親により行われた場合、それは子供から引き離される親に対するDVであり、子供に対する児童虐待でもあります。弁護士が依頼者の要望であるからといって、面会交流の阻止に手を貸すようなことがあれば、それはDVや児童虐待を幇助していることになります」との記載や、児童虐待などの問題がある場合に面会交流が制限・禁止されるのは当然であるが、その場合でも第三者が立ち会うなどの方法で面会交流を実施する方法を模索すべきであり、報酬目的の弁護士や監護親の意向によって阻止されるべきではないとの記載がある。
 上記@〜Eの記載は、被告らが、報酬目的で、別居親と子との面会交流の場面において最も優先して考慮すべき子の利益とは関係なく、依頼者である監護親(同居親)の一方的な意向に応じて、面会交流を制限する理由もないのにそれを制限する方法を指南し、面会交流を阻止するための活動をすることで報酬を得ている者であるとの事実を摘示するものといえるところ、これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、被告らの社会的評価を低下させるものと認めるのが相当であり、被告らの名誉権を侵害する。
 なお、本件記事3は全体としては、面会交流阻止のための活動をして報酬を得ている弁護士がいるとして、このような活動をする弁護士を“発展途上離婚弁護士”などと呼んで批判をし、そのような弁護士の名前等を紹介することを目的とするものであって、その中で被告らも紹介されているにすぎないから、本件記事3全体が被告らの名誉権を侵害するということはできない。
(ウ)本件記事4
 本件記事4(乙17の2〔4頁〕)は、「なぜ家裁裁判官は争う父母に“燃料投下”してしまうのか」という表題の記事の一部であって、@「悪い弁護士を取り締まれない弁護士会」との見出しが記載され、その下の本文に、A「成功報酬を取って面会交流の阻止を請け負う“発展途上離婚弁護士”や「面会交流を制限する方法を記したマニュアルを3万2780円で買いませんか?」と情報商材をネットでセールスしているD・Z弁護士会会長夫妻のような“発展途上離婚弁護士”たちについては、これまで本サイトで取り上げてきた通りです。特にZ弁護士会のD会長は、弁護士会会長という立場にありながら、率先して弁護士の妻が行っている面会交流阻止マニュアルのネット販売に協力しているのですから、開いた口が塞がりません。」との記載があり、併せて、B被告Dの顔写真の画像が掲載され、同画像の下にはキャプションとして、C「面会交流阻止マニュアルのネット販売に協力しているZ弁護士会のD会長」との記載がある。
 本件記事4(上記@〜C(画像を含む))は、被告らが、面会交流を阻止するマニュアルを販売している「発展途上」すなわち未熟な弁護士であり、かつ、本来であれば弁護士会により取り締まられるべき悪い弁護士であるとの事実を摘示するものと認められ、これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、被告らの社会的評価を低下させるものであり、その全体として被告らの名誉権を侵害する。
イ 本件記事5〜11(本訴請求(1)エ、反訴請求(2)〜(4))
 被告らは、本件記事5〜10は被告Cの名誉権及び名誉感情を、本件記事11は被告らの名誉権及び名誉感情を侵害すると主張するところ、以下のとおり、本件記事5〜10は被告Cの名誉権を、本件記事11は被告らの名誉権を侵害するものと認められる。被告Cは、本件記事5、6、810による名誉感情の侵害について、名誉権侵害を超える具体的な主張をしておらず、以下のとおりの名誉権侵害に加えて名誉感情の侵害は認められない(本件記事7及び本件記事11による名誉感情侵害が認められないことについては後記(ウ)及び(キ)において個別に判断する。)。
(ア)本件記事5
 本件記事5(甲7の1〔268−271頁〕)は、「岐阜県で「面会交流制限マニュアル販売業者」Cが発見される」との表題の記事で、「調停で本心を話すと面会交流を制限できません」との見出しの下に、@「これまでに本サイトでは、たくさんの、親子の引き離しで金儲けをしている“発展途上離婚弁護士”たちを取り上げてきました。今回取り上げるのは、「面会交流させたくないときの話し方の秘訣」と称して、調停委員や調査官との「話し方マニュアル」を3万2780円でネット販売している、岐阜県・B法律事務所のCという“発展途上弁護士”です。」との記載があり、被告Cの似顔絵が掲載されるとともに、キャプションに、A「面会交流制限マニュアル販売ビジネスで収入を得ている“発展途上離婚弁護士”のC氏」と記載され、また、本文中に、B「C氏は、子供を相手の親と会わせないため、本心(嫌いな相手だから会わせたくない)を隠してウソをつく(「子供にとっても幸せな選択である」と言う)ようにそそのかすことまでしています。」との記載があり、さらには、C「C氏により親との面会交流を制限される子供たち」との見出しがあり、その見出しの本文には、D「C氏による“そそのかし”により、裁判所が客観的な判断を誤り、本来会える親子が会えなくなる可能性があります。面会交流に関して、弁護士は依頼人に事実を話すよう助言するべきなのであって、面会交流を制限するために話す内容を取捨選択したり、ウソの主張をしたりすること(偽証)を助言すべきではありません。」、E「これまでこのマニュアルにより、何人の子どもたちが、Cという“発展途上離婚弁護士”によって親との面会交流を制限され、会えなくなったのでしょうか」との記載があり、その次の「弁護士は「何でも屋」であってはいけない」との見出しの本文には、F「もしかするとC氏は「裁判所で、父母が自分に都合のいい主張をするのはお互い様」とでも考えているのでしょうか。・・(中略)・・しかし、面会交流に関しては、最大の利害関係者が、裁判には参加できない子供であることを忘れてはいけません。」との記載があり、続く「3万2780円で販売中の「面会交流制限マニュアル」」との見出しの本文には、G「Cという人間が、面会交流を制限するノウハウの販売ビジネスで収入を得ているという事実を世に伝え、彼らによって親との関係を断たれる子供を一人でも減らす目的で、そのファイルを公開します」との記載がある。
 上記@〜Gの記載は、被告Cが、未熟な「発展途上」の弁護士であるとの事実や、同居親に対し、面会交流に係る調停において虚偽の発言をすることを勧める内容の「面会交流制限マニュアル」を販売して利益を得ているとの事実を摘示し、これらの事実を前提として意見・論評をするものといえるところ、これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものと認められる。
 そして、本件記事5の全体が、被告Cが、裁判所に対して虚偽の発言をすることにより面会交流を制限させるという内容のマニュアルを販売していること及びその事実を前提として被告Cの行為が未熟で不相当であると論難することを目的とするものであるから、本件記事5の全体が、被告Cの名誉権を侵害するものと認めるのが相当である。
(イ)本件記事6
 本件記事6(甲7の2〔59−62頁〕)は、「「面会交流制限マニュアル」の“売り子”になったDZ弁護士会会長」との表題の記事で、被告Dの顔写真画像の下にキャプションとして、@「C弁護士が親子を引離すために作成・販売した「説得力アップブック面会交流制限編」の著作権を守るために奔走中のD・Z弁護士会会長」との記載があり、記事の本文中には、A「離婚の際に親子の面会交流を制限する方法を指南して収入を得ている、岐阜県多治見市の離婚弁護士・C氏」との記載や、B「本来ならば、D氏は、弁護士自治の責任がある弁護士会の会長として、C氏による面会交流制限マニュアル販売ビジネスを注意しなければならない立場であるはずです。」との記載があり、被告Cの似顔絵の下にキャプションとして、C「岐阜県多治見市で面会交流制限マニュアル販売業を営むC氏」との記載があり、本件記事6の作成者が被告Dにインタビューを行ったという形式で、被告Dが被告Cの代理人としてSNS上の記事の削除請求を行ったことに関連した質問とそれに対する被告Dの回答を掲載した後、地の文として、D「Z弁護士会会長のD氏も、C氏と同類の、子供にとって大切な親と会う機会を制限することによって金を稼いでいる“発展途上離婚弁護士”である可能性が高いということです。」との記載、E「「面会交流制限マニュアル」には、「父母の離婚の際には、一方の親の意向にもとづいて子供と他方の親を会わせなくても構わない」という“発展途上離婚弁護士”・Cの思想が表現されているということです。」との記載、及びF「「面会交流制限マニュアル」は、国連子供の権利条約で保障された、子供の親と会う権利に反するマニュアルです。これを公開して報道しなければ、Cの行為を世に問うことはできません。」との記載がある。
 本件記事6の全体をみると、本件記事6は、被告Cの同意なく本件サイト上において公開されていた説得力アップブックの電子ファイルを引用したSNS上の記載について、被告Dが、被告Cの代理人として、削除するよう要請しているとの事実を踏まえ、被告Dへのインタビュー記事を掲載するとともに、被告Cの説得力アップブックが違法な内容を含むものであるにもかかわらず、被告Dがこれを注意するどころか、逆の行為をしているとして被告らを非難するものである。このうちの上記@〜Fの記載は、被告Cが、未熟な「発展途上」の離婚弁護士であって、違法な内容のマニュアルを販売しており、その行為を世に問うために原告が本件サイトで同マニュアルを公開していたにもかかわらず、被告Dを代理人として、本件サイト上に公開していた同マニュアルを引用するSNS上の記事の削除請求をしたとの事実を摘示するものといえるところ、これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものである。
 そして、本件記事6は、その全体が、被告Cが、違法な内容のマニュアルを販売しているとの事実を前提として、被告らの行為が未熟かつ不当であると論難することを目的とするものであるから、本件記事6の全体が、被告Cの名誉権を侵害するものと認めるのが相当である。
(ウ)本件記事7
 本件記事7(甲7の2〔332−337頁〕)は、@「残念弁護士のC氏が「面会交流制限マニュアル」の販売を中止」との表題の記事で、記事中には、A「親子引離しによるDVや児童虐待のノウハウを手ほどきしていた残念弁護士のC氏」が、本件サイトにおける批判を受け、「面会交流制限マニュアル」の販売を中止したこと、B「C氏に、DVや児童虐待を助長する「面会交流制限マニュアル」のネット販売を停止させたこと」が本会(本件サイト)の活動の成果であること、本件ウェブページにおける「面会交流を禁止できることの価値はプライスレス」との表現を引用した上で、これについての解釈として、C「相手にダメージを与えたいと考えている依頼者にとって、面会交流の禁止という手段は、特に子供を大切にしている相手に行う場合に“プライスレス”になる場合があるわけです」との記載があり、D「ところが、“発展途上離婚弁護士”は、お金を払う依頼人には“寄り添い”などと称して言いなりになる一方で、お金を払えない子供に対しては突然冷淡になり、子供を親の付属物のように考え、親と一体化させて扱おうとします。それは、次のような言葉にも象徴的に現れています。「離婚が成立するまで子どもも私も落ち着かない、離婚が成立するまで面会交流させたくない」B法律事務所HP『弁護士Cが検証した面会交流させたくないときの話し方の秘訣』」との記載や、E「「面会交流禁止の成功報酬66万円」を納得させる“口上”」との見出し、F「C氏がこのような高額な弁護士報酬を得ているのは、依頼人との間で「面会交流制限に成功したら、着手金33万円に加えて報酬金33万円をもらいます」といった成功報酬の契約をしているからなのでしょうか。もしそうであれば、C氏はマニュアル販売だけでなく、通常の面会交流調停の受任においても、面会交流制限、すなわち親子の引離しによって子供の利益を損ない、多額の利益を得ているということになります。」との記載、G「ここに“発展途上離婚弁護士”の「夫婦の争いを煽れば煽るほど、弁護士は儲かる」というカラクリがあります。」との記載、H「C氏には今後、親子の面会交流制限によって売上を上げようという姿勢をあらため、子供の権利や立場を中心に考えて離婚事件を扱う弁護士になっていただきたいと思います。」との記載がある。
 上記@〜Hの記載は、被告Cが、DVや児童虐待に当たる行為を助長する内容のマニュアルを販売していたが、本件サイトで批判されたことによりその販売を中止したこと、被告Cが、面会交流調停の代理人として活動する場合に、子の利益を考えていないこと、自らの儲けのために依頼者の夫婦の争いを煽っていること、未熟な「発展途上」の離婚弁護士であることの各事実を摘示するものであり、これらの事実を前提として被告Cについて「残念」な弁護士であるとの論評をするものといえる。
 そして、これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものである。
 また、本件記事7は、被告Cが、DVや児童虐待を助長する内容のマニュアルを販売しているとの事実を前提として、被告Cの行為が未熟で、残念であるなどと論難することを目的とするものであるから、本件記事7の全体が、被告Cの名誉権を侵害するものと認めるのが相当である。
 なお、被告Cは、上記@の表題の「残念弁護士のC氏」との表現が被告Cの名誉感情を侵害すると主張するが、この表現は、本件記事7に適示された事実を前提とする論評であるとして名誉権侵害に当たるのは以上に説示したとおりであり、これに加えて名誉感情の侵害に当たるとはいえない。
(エ)本件記事8
 本件記事8(甲7の2〔318−319頁〕)は、「C氏が面会交流制限マニュアルの販売を再開」との表題の記事で、「購入者の素性を確認したうえで販売」との見出しの本文に、@「岐阜県の“発展途上離婚弁護士”・C氏・・が、本会からの指摘を受けて一旦販売を中止した「面会交流制限マニュアル」について、販売を再開したことがわかりました。」との記載や、A「C氏は、不適切なマニュアル販売が公になることを防ぐため、事前のメルマガ登録や電話でのやりとり等により、購入者の素性を確認したうえで販売する方式に変更した模様です。親子の引き離しといった行為の“法の抜け道”を探している依頼人など、C氏の行為を漏らす恐れがない相手に限定してマニュアルを販売することにしたのであると考えられます。なお、C氏は、マニュアルの販売方法を変更した理由について「面会交流制限マニュアルが違法アップロードされることを避けるため」と釈明していますが、販売方法を変更しても、アップロードを避けることはできないため、その真意は不明です。」との記載があり、「組織的に行われている行為」との見出しの本文に、B「C氏による面会交流制限マニュアルの販売に「B法律事務所」の複数のスタッフが関与していることもわかりました。C氏による親子引離しが認定された場合には、マニュアル販売に関与しているこれらのスタッフも、親子引離しというDV行為、児童虐待行為に組織的に関わった者とみなされる可能性があります。」との記載がある。
 上記@〜Bの記載は、被告Cが、不適切なマニュアルを、法の抜け道を探している依頼者らに販売する行為をしているとの事実、事務所とのスタッフと共に組織的に親子引離しというDV行為、児童虐待行為をしているとの事実を摘示するものと認められ、これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものである。
 また、本件記事8は、その全体が、被告Cが、DVや児童虐待を助長する内容のマニュアルを販売しているとの事実を前提として、被告Cの行為を論難することを目的とするものであるから、本件記事8の全体が、被告Cの名誉権を侵害するものと認めるのが相当である。
(オ)本件記事9
 本件記事9(甲7の2〔3−4頁〕)は、「“離婚ゴロ弁”もC氏を支持しない理由」との表題の記事で、「鳴り止まない批判の声」との見出しの本文に、@「C“発展途上弁護士”が「面会交流制限マニュアル」を再開したことは、既にお伝えした通りです。」との記載があり、被告Cの似顔絵の下にキャプションとして、A「「面会交流制限マニュアル」を3万2780円で販売しているC“発展途上弁護士”」との記載があり、「なぜC氏は「貴重」なのか」との見出しの本文に、B「C氏は、“同志”である“発展途上離婚弁護士”達に言わせれば、単に「空気が読めない人」」という記載や、C「別の見方をすれば、C氏は、離婚の際に親の都合で子供が親と会えなくなること、すなわち親子の引離し問題を考えるうえでは貴重な存在であるとも言えます。なぜなら、親子の引離しは、弁護士と依頼人の間の密室でのやりとりで行われることが多いため、証拠が残らず、露見しにくいものだからからです。C氏は、普通なら公にならない手法を、マニュアルの形で公開し、自分の行為の内容をわざわざ証明してくれているのです。」との記載がある。
 上記@〜Cの記載は、本件記事9中に「面会交流制限マニュアル」(説得力アップブック)の説明内容について、「親子の面会交流の制限で子供を犠牲にして離婚を有利に進める手法」であって弁護士が依頼人にこっそり教える法の抜け道であるとの記載がされていることも踏まえると、被告Cが、未熟な「発展途上」の離婚弁護士であり、子供を犠牲にして離婚を有利に進めるために親子の面会交流を制限するという不適切な手法を記載したマニュアルを販売しているという事実を摘示するものと認められ、これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものである。
 また、本件記事9は、その全体が、被告Cが子供を犠牲にして離婚を有利に進める手法を記載したマニュアルの販売を再開したが、これを支持する他の弁護士は被告Dのみであるなどと述べて、被告Cによる説得力アップブックの販売行為を論難することを目的とするものであるから、本件記事9の全体が、被告Cの名誉権を侵害するものと認めるのが相当である。
(カ)本件記事10
 本件記事10(甲7の2〔445−446頁〕)は、「面会交流制限マニュアル販売業者のC氏「本日モ反省ノ色ナシ」」との表題の記事で、被告Cの似顔絵の下にキャプションとして、@「子供達が親と会える時間を減らすため裁判所を騙すノウハウの販売を続けている“発展途上離婚弁護士”のC氏」との記載があり、本文で、被告Cがメールマガジンを配信したことを紹介し、同メールの本文の一部を引用した上で、A「ここでC氏が「私自身が人から責められるという経験」と述べているのは、本サイトが9月4日に配信した記事「岐阜の“発展途上離婚弁護士”・Cが3万円で販売中『面会交流制限マニュアル』公開」を指しているようです。」との記載や、B「C氏によって親と会う時間を奪われた子供たちの気持ち、子と会う時間を奪われた親の気持ちへの配慮はありません。」との記載があり、被告Cが被害者を装おうとしているなどと述べるものである。
 上記@〜Bの記載のうち@及びAの記載は、被告Cが、裁判所を騙すノウハウを記載した「面会交流制限マニュアル」の販売を業とする者であるとの事実や、被告Cが未熟な「発展途上」の離婚弁護士であるとの事実を摘示しているもので、Bの記載は、その前後の「批判された自分自身を憐れむばかり」、「反省するどころか、・・被害者を装おうとしています。」との記載も踏まえれば、被告Cが、自らの活動により被害を受けた依頼人の子や相手方の気持ちに配慮することなく、被害者を装おうとしていると事実を摘示するものと認められ、これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものである。
 本件記事10は、その全体が、被告Cが裁判所を騙すノウハウを記載したマニュアルの販売について反省していないとして、被告Cの行為や認識を論難することを目的とするものであるから、本件記事10の全体が、被告Cの名誉権を侵害するものと認めるのが相当である。
(キ)本件記事11
 本件記事11(甲7の2〔440−446頁〕)は、「面会交流制限マニュアル販売業者・C/D弁護士の主張に見える“倫理観”」との表題の記事で、@「説得力アップブック」を手にした被告らの似顔絵画像で、吹き出し部分以外は同一の画像が上下2枚掲載されており、上の画像中の被告Dが「面会交流阻止の方法教えま〜す」と、被告Cが「3万2780円でーす!」と述べ、下の画像中の被告Dが「面会交流制限の方法教えま〜す」と、被告Cが「3万2780円でーす!」と述べており、同画像の下には、被告らに関する問題の続報であるなどとして文章が記載されており、「本サイト記事の消去を画策」との見出しの本文に、A「ところがついに、親子の引離しがなぜ悪いことであるのかすら理解できておらず、本サイトからの指摘に対して“居直る”弁護士が、岐阜県で見つかりました。それがC・D弁護士夫妻です。C・D夫妻は、「面会交流制限マニュアル」を販売して利益を上げている行為が不適切であることを、本サイトから本年9月に指摘されたにもかかわらず、その後も、コソコソ隠れて「面会交流制限マニュアル」を販売して利益を上げ続けていることが確認されています。」との記載があり、続いて、B「“生きた教材”としてのC・D夫妻」との見出しと、これに続く本文に、C「これは、C・D弁護士夫妻が、単に倫理観が低いだけの“発展途上離婚弁護士”とは別格の、「親子を引離して利益を得るのは悪いことだ」と説明されても理解できないほどの弁護士であることを示しています。」との記載があり、「面会交流制限マニュアル販売に“三分の理”はあるか」との見出しの本文に、D「C氏は「子と同居している親がアドバイスを必要としていた」などと言い訳をして、面会交流制限マニュアル販売を正当化する主張をしています。しかし、弁護士が依頼人へ泥棒の方法をアドバイスをするのが悪いことであるのと同じように、弁護士が依頼人に対し、親の都合で面会交流を制限する方法をアドバイスをするのも悪いことです。・・またC氏は「配偶者なのだから、他方の親から子を奪っても構わない」あるいは「親の幸せが子の幸せなのだから、親は子から自分の配偶者を奪っても構わない」とも考えているようにも見受けられます。」との記載がある。
 上記@の似顔絵は、被告らが、説得力アップブックの販売により、面会交流阻止の方法を教えているという事実を摘示するものということができ、上記A〜Cの記載は、被告らの販売する説得力アップブックの内容が子の利益に反する不適切なものであるとの事実、被告らが本件サイトにおいてその旨指摘されたのにもかかわらず理解することができず、コソコソと販売を継続したとの事実が摘示されているということができ、また、上記Dの記載は、被告Cが「子と同居している親がアドバイスを必要としていた」ことを理由として説得力アップブックの販売を継続したとの事実を前提として、説得力アップブックの販売は、窃盗犯に窃盗するよう助言することと同様に悪いことであるとの意見や、被告Cが、依頼者である同居親が、別居親から子を、子から別居親を奪っても構わないと考えているようであるとの意見・論評をするものということができる。
 一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、上記のうち、被告らが、説得力アップブックの販売により「面会交流阻止」の方法を教えているという事実、説得力アップブックの内容が不適切であるとの事実、その旨指摘されたのに理解できずコソコソと販売を継続したとの事実は、弁護士である被告らの社会的評価を低下させるものである。また、説得力アップブックの販売は、窃盗犯に窃盗するよう助言することと同様の行為であるとの意見は、被告らが犯罪行為をアドバイスしているとするもので、弁護士である被告らの社会的評価を低下させるものというべきであり、被告Cが、依頼者である同居親が、別居親から子を、子から別居親を奪っても構わないと考えているようであるとの意見・論評は、被告Cには弁護士としての倫理観を欠くとの評価をするものであるといえ、被告Cの社会的評価を低下させるものである。
 そして、本件記事11は、被告らによる説得力アップブックの販売及びその継続について述べるものであり、上記記載のほか、歴史的には、親から子を奪おうとする行為は「危険思想」や「カルト」であるとの記載や、第三者の立場でありながら、離婚に乗じて親子を会わせないことにより利益を得ようとする弁護士達がおり、本件サイトが複数の弁護士に指摘をしてきたが、「訴えるぞ」と脅しながらも訴える者はおらず、「胸を張れる行為ではない」と認識する倫理観は持ち合わせていたのに、被告らは、なぜ親子の引離しが悪いことであるのかすら理解していない「別格」の弁護士であり、法曹倫理について考えるための生きた教材として使っていきたいなどとも記載していることからすると、本件記事11は、被告らが、面会交流を不当に阻止するためのマニュアルの販売を継続していることを論難することを目的とするものであって、本件記事11の全体が被告らの名誉権を侵害するものとであると認めるのが相当である。
 被告らは、上記@の似顔絵が、強欲で胡散臭く悪巧みしているようなものであり、被告らの名誉感情を侵害すると主張するが、似顔絵の男女は、弁護士として特段の違和感を感じさせない身なりの男女であり、その人相も、一般的な戯画化された似顔絵の範囲内であって、被告らの人格的価値についての主観的評価を傷つけるものとして社会生活上受忍すべき限度を超えて違法となるものとまではいえず、名誉感情の侵害は認められない。なお、名誉権を侵害する記事において似顔絵を用いていることは、その態様によって、慰謝料額の算定において考慮するのが相当な場合があるというべきであり、この点については、後記4(2)において判断する。
ウ 本件記事12〜17(本訴請求(1)ウ、エ)
 被告らは、本件記事12〜14、16は被告Cの名誉権を、本件記事17は被告らの名誉権及び被告Dの名誉感情を侵害すると主張するところ、以下のとおり、本件記事12〜14及び16は被告Cの名誉権を、本件記事17は被告らの名誉権を侵害するものと認められる。被告Dは本件記事17による名誉感情の侵害について、名誉権侵害を超える具体的な主張をしておらず、以下のとおりの名誉権侵害のほかに名誉感情の侵害は認められない。
(ア)本件記事12
 本件記事12(甲7の2〔303−304頁〕)は、「C“途上弁護士”の記事への応援メール」との表題のもと、本件サイトの被告Cに係る記事に対する応援メッセージを匿名で紹介するという形式で記述された記事であり、応援メッセージ中に、@「連れ去りを受けて右も左もわからなかった時、Googleの検索やYouTubeで出てきたC弁護士を拝見し、「説得力アップブック」を特別価格という名目で購入し、メールでのやり取りを何度か行った方だったからです。」、A「正直、このような方に頼った自分が不甲斐なく悔しいです」などとする記載があり、応援メッセージに続いて、本件記事12の作成者である原告の文章として、「記者にも身に覚えがあります」、「ググって出てきた連れ去り弁護士のところ」に行き、その後、「何となく信頼していた弁護士の一部が、実は邪悪であることに慄然とさせられるのですよね」などと記載されている。上記@及びAの記載は、応援メッセージの作成者が、被告Cとのやり取りを通じ、同人を信頼したことを後悔したとの事実を摘示するものであり、それに続く原告の文章は、被告Cが子の「連れ去り」をするような活動をしている弁護士であることを前提として、邪悪であると論評するものであって、本件記事12の読者をして、被告Cは、子の「連れ去り」をするような活動をしている邪悪な弁護士で、信頼するに値しないとの印象を抱かせるものであるから、被告Cの社会的評価を低下させ、被告Cの名誉権を侵害する。
(イ)本件記事13
 本件記事13(甲7の2〔313−317頁〕)は、「C弁護士が我が子の発達障害をネットで大公開している件」との表題の記事で、「C・D氏に“倫理”が芽生える日」との見出しの本文に、@「本サイトでは、親子の面会交流阻止マニュアルを3万2780円でネット販売している岐阜県の弁護士、C氏(B法律事務所)の問題について取り上げています。その結果、C(本名:C´)氏や、その夫で面会交流阻止ビジネスを手伝っているZ弁護士会会長のD氏が、毎日のように本サイトの記事を熱心に読んでくれていることが判明しました。」との記載があり、A「C氏とD氏が本サイトの記事を読んで「面会交流阻止マニュアルの販売は、弁護士としてしてはいけないことだ」ということを勉強し、倫理観を養っていただけるなら、本サイトの本望です。」との記載の後、被告Cが、母親が子を別人格として尊重できるかという点について否定的な見解をメールマガジンで述べていたなどと指摘した上で、B「C氏が「面会交流阻止マニュアル」を販売することの倫理的な問題に気が付かないのも、C氏が、子供の人格や利益を尊重することができていないからであると考えられます。」との記載があり、被告Cが、面会交流について親の利益ばかりを強調し、これにより、面会交流阻止マニュアルの販売で利益を得ているとし、C「C氏による子供の人格軽視によって被害を受けているのは、「面会交流阻止マニュアル」によって親と会えなくなった子供達だけではありません。」との記載があり、被告Cがブログで子の病歴を公開していることを批判し、D「C氏が、「面会交流阻止マニュアル」のネット販売によって依頼人の子供の利益や権利を侵害していること」との記載があり、このことと自分の子の病歴を公開することは、子の人格を尊重するという倫理観が不足しているという共通の原因があるなどとしている。上記@〜Dの記載は、被告Cが「面会交流」を不当に阻止するためのマニュアルを販売しているとの事実や、被告Cが子の人格や利益を尊重していないとの事実、被告Cの説得力アップブックの販売により、子供達が親と会えなくなるという被害を受けたとの事実を摘示し、これらの事実を前提として、被告Cが説得力アップブックの販売を継続して子の権利を侵害し、その問題点に気が付かないのは、被告Cの倫理観が不足しているからであるとの意見・論評をするものと認められる。これらの事実及び論評は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものであり、被告Cの名誉権を侵害する。
(ウ)本件記事14
 本件記事14(甲7の2〔348−354頁〕)は、「祝・民法改正10周年「面会交流は子の利益優先で」」との表題の記事で、「親子が会うことを阻止する“仕事”?」との見出しの本文に、民法改正により、片方の親による面会交流の制限や禁止が困難になったため、それを実現するための法的ノウハウが価値を持つようになったことや、離婚後に親権を有する親は、面会交流の際に相手に親権を奪われるのではないかと強いストレスを感じ、自分の利益を優先するため、子の利益に反して、面会交流はできるだけしない方が良いと考えるので、そのような依頼者等に対し、面会交流を制限する方法を教えることは、弁護士にとって収入を得る近道であるなどと説明した後、「「面会交流禁止の価値は1000万円以上」?」との見出し(甲7の2〔352頁中段〕)以降において、@「岐阜県多治見市のC弁護士を例に見てみましょう。」などとして、被告Cについての記載をし、A「「説得力アップブック面会交流制限編」という情報商材の集客をしていた宣伝ページは、現在、C弁護士の事務所のHPでは確認できていません。本サイトから指摘を受けた直後に消去されたようです。本サイトの記事により、このような内容の宣伝ページが削除されたのであれば、それは本サイトの報道による大きな成果の一つであったと考えています。」との記載がある。
 上記@及びAの記載は、本件記事14全体の記載も踏まえてみると、被告Cが、子供が親と会うことを阻止することを仕事とする弁護士であり、そのような弁護士としての活動は子の利益に反するものであるとの事実や、被告Cが説得力アップブックを販売していたが、本件サイトの記事での指摘を受け、その宣伝ページを削除したとの事実を摘示するものと認められる。これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものであり、被告Cの名誉権を侵害する。
(エ)本件記事16
 本件記事16(甲7の2〔5−6頁〕)は、「「『毎日かあさん』の娘問題」と「面会交流阻止業者問題」の共通点」との表題の記事で、被告Cの似顔絵画像の下にキャプションとして、@「岐阜県で面会交流阻止マニュアル販売業を営むC氏(B法律事務所)」との記載があり、本文には、漫画「毎日かあさん」について、作者の娘が個人情報を晒されたと訴えたとの話題を紹介し、「思想、病歴、出自」などは親であっても身勝手にネタにすることはできないとの某弁護士による解説を紹介した後、A「親子の面会交流阻止で収入を得ている弁護士は、ネットで自分の子の病歴を堂々と公開しています。その一人は、岐阜県で面会交流阻止マニュアル販売業を営むC氏(B法律事務所)です。」との記載がある。上記@及びAの記載は、被告Cが「面会交流阻止マニュアル販売業」を営み、面会交流阻止で収入を得ている弁護士であるとの事実や、子の病歴を公開するという不適切な行為をしているとの事実を摘示するものと認められる。これらの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告Cの社会的評価を低下させるものであり、被告Cの名誉権を侵害する。
(オ)本件記事17
 本件記事17(甲7の2〔274−276頁〕)は、「Z弁護士会前会長が公言できない「婚姻関係」と「売上高」」との表題の記事で、被告Dの似顔絵画像の下にキャプションとして、@「面会交流制限マニュアル販売業者の夫で代理人のD弁護士(F法律事務所)」との記載があり、本文には、A「親子の引き離しで一攫千金を狙う弁護士たちにとっては、面会交流制限ビジネスの先駆者であるC氏がどの程度の収入を得ているのかは、関心があるところでしょう。」との記載や、B「D氏は、本サイトに掲載されている批判記事を消して、面会交流阻止マニュアルの売上高を更に伸ばすことができれば、家計を同じくする妻を通じて金銭的利益を得られる立場にあります。」との記載があり、一方の親の意向や都合で他方の親と子を引離すことは子に対する児童虐待であり、親に対するDVであるとした後に、C「C・D夫妻のように、面会交流阻止マニュアルの販売によって得た収入で、美味しいものを食べたり、いい家に住んだりしようとする人間がいることを、当会は決して容認することはできません。」との記載があり、さらに、D「Dのような男、つまり、親子を引き離す面会交流阻止ビジネスから金銭的な恩恵を受けて、そのビジネスを守るためにエネルギーを注いでいるような残念な男」との記載がある。
 上記@〜Dの記載は、被告Cが、面会交流制限ビジネスの先駆者であり、面会交流制限マニュアル又は面会交流阻止マニュアルの販売業者であるとの事実、被告Dが、被告Cの夫として、被告Cの面会交流制限ビジネスから金銭的利益を得ているとの事実、被告らが、面会交流阻止マニュアルを販売して収入を得ているとの事実、被告Dが、面会交流阻止ビジネスを守ることにエネルギーを注いでいるとの事実を摘示し、また、これらの事実を前提として、被告Dが「残念な男」であるとの意見論評をしているものと認められる。これらの事実及び意見論評は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、弁護士である被告らの社会的評価を低下させるものであり、被告らの名誉権を侵害する。
エ 本件記事2〜17(15を除く。)について違法性阻却事由の有無原告は、本件記事2〜17(15を除く。)で摘示した事実は真実であり、意見・論評についてはその元となる重要な事実が真実であると主張するので検討するに、本件記事2〜17(15を除く。)の記事内容は前記ア〜ウのとおりであるところ、これらの記事中に摘示された事実は、被告C作成の「説得力アップブック」が、子の利益を考慮することなく、面会交流を阻止する方法を教えるいわば「面会交流阻止マニュアル」であるとの事実や、DVや児童虐待を助長する違法な内容であるとの事実や、裁判所に対して虚偽の説明をすることを勧めたり、子を犠牲にして離婚を有利に進める手法を記載するなどした不適切な内容であるとの事実を摘示し、被告Cがこのような不適切又は違法な内容の説得力アップブックを作成し、被告らが協力してこれを販売しているとの事実や、被告らが子の利益に反して面会交流を阻止するような活動をしているとの事実を摘示し、又はこれらの事実を前提として被告らについて「残念」であるなどと意見・論評するものである。
 しかしながら、「説得力アップブック」(甲9)をみると、面会交流の視点となる考え方として、裁判所は「子の利益」を重視するので、「あなたの利益よりも子の利益が優先する」ということや、「子の利益」は言い換えると「子どもの幸せ」であることといった説明がされた上で、「調停で話をするときには、あなたの希望が「子供を幸せにする(子の利益になる)」と言えるかどうかを意識しましょう。単にあなた自身が嫌いな相手だから会わせたくないというのでは、説得力がありません。「子どもにとっても」幸せ(利益)な選択であることを話すように意識しましょう。」と記載されており、当該記載は、その文言及び前後の記載に照らしても、裁判所に対して、説得的な理由を説明するよう勧めるものにすぎず、裁判所に対して虚偽の説明をすることを勧めるものではない。また、説得力アップブックのその余の記載をみても、同居親が希望するだけでは面会交流を制限したり拒否したりすることはできないことや、子の利益を意識すべきであることについても説明がされ、さらには、裁判所が面会交流を実施することを原則として考えていることや、面会交流を一切拒否するのはとても難しいこと、離婚前で面会交流させる心の余裕がないという場合でも、面会交流を制限する理由としては重視されないことが多いことなどが説明されるとともに、面会交流を制限したい理由別に具体的な説明内容の例が示されたり、裁判所に調査官の調査を希望したり、調査官立ち会いの下での「試行的面会交流」の制度があるといった説明もされており、いずれの記載をみても、子の利益に反して別居親との面会交流を阻止する方法や子を犠牲にして離婚を有利に進める方法を記載しているなどと認めることはできない。そして、そのほかに、被告らが、弁護士として、子の利益に反して又は子を犠牲にして、不当に面会交流を制限したり阻止したりするような活動をしていると認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、本件記事2〜17(15を除く。)の摘示する事実が真実であるということはできず、また、意見・論評の前提となる事実の主要な部分について真実性の証明があったということもできないから、その余の点につき判断するまでもなく、本件記事2〜17(15を除く。)の掲載につき違法性阻却事由があるとの原告の主張には理由がない。
オ よって、@本件記事2及び4の全部、本件記事3の一部が被告らの名誉権を侵害し、A本件記事5〜10の全部が被告Cの名誉権を、本件記事11の全部が被告らの名誉権を侵害し、B本件記事12〜14及び16は被告Cの名誉権を、本件記事17は被告らの名誉権を侵害する表現を含むものと認められる。
3 争点2(本件記事2〜11の削除並びに本件記事2、3及び5〜11の掲載の差止めの必要性)について(反訴請求(1)〜(3))
(1)本件記事2〜11の削除の必要性について(反訴請求(1)(2))
 人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当といえるところ、侵害行為の差止めが認められるか否かについては、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決し、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを認めるべきである(最高裁平成13年(オ)第851号、同(受)837号同14年9月24日第三小法廷判決参照)。被告らは本件記事2〜4の削除を、被告Cは本件記事5〜11の削除を求めるところ、前記2(2)のとおり、本件記事2及び4の全部並びに本件記事3の一部が被告らの名誉権を侵害し、本件記事5〜11の全部が被告Cの名誉権を侵害するものであり、これらの掲載が継続されることにより、被告らの弁護士としての社会的評価が下落することとなり、また、これらの記事を被告らの依頼者が読んだ場合には、別居親側の立場から発言している者から誹謗中傷されている弁護士であることを知って懸念を抱くことは想像に難くないから、弁護士としての活動に有形無形の影響が生じるおそれがあることが明らかであって、被告らにとって上記各記事の掲載が継続されることの不利益は大きい。他方、証拠(甲1、甲7の2、乙5〜10、15〜17、19〜22、27、28、30〜34、37〜39)によると、本件サイトは、原告が、親子の面会交流についての考え方や面会交流に係る調停等の手続について、別居親の立場から様々な問題点を指摘したり、面会交流に関連するニュース等を紹介したり、対立当事者となる同居親側の代理人として活動している弁護士を紹介したりして、批判するなどするものであるところ、原告は、上記各記事のように、被告らの活動について真実ではない事実や、真実ではない事実を前提とした論評をしなくとも、被告らを含め同居親側の立場で活動をする弁護士について、その活動内容や活動方針に対する意見を述べることは可能である。上記を踏まえ、これらの記事が削除されることによる原告の不利益と、これらの記事の掲載が継続することによる被告らの不利益を比較衡量すると、本件記事2及び4〜11の全部並びに本件記事3の一部については削除を認めるのが相当である。
 したがって、被告らは本件記事2及び4について、被告Cは本件記事5〜11について、人格権に基づき、削除を求めることができるというべきである。本件記事3については、前記2(2)ア(イ)に判示するとおり、記事全体が被告らの名誉権を侵害するものとまではいえないことから、被告らは、本件記事3のうち、別紙「削除対象」記載の記載部分について、人格権に基づき、削除を求めることができるとするのが相当である。
 原告は、本件記事2〜11は現在公開していないと主張するが、前記1(2)アのとおり、原告は、岐阜地方裁判所から本件記事2〜11について削除等を命ずる仮処分命令を受けているから、その後に原告が本件記事2〜11について非公開とする処理をしたことは、仮処分命令の履行として行われたもので、仮の履行状態が生じているにすぎないと認めるのが相当であり、本件記事2〜11が公開されていない状態を前提として本案請求の当否を検討するべきではない。
(2)本件記事2、3及び5〜11の掲載の差止めの必要性について(反訴請求(3))
 証拠(甲1、甲7の2、乙5〜10、15〜17、19〜22、27、28、30〜34、37〜39)によると、原告は、本件サイトにおいて、被告らに関する記事を多数掲載しており、被告らを非難するための記事を様々な角度から作成し、複数掲載していることが認められること、後記5にあるように、原告は、仮処分命令の執行を逃れるためにレンタルサーバーを変更してほぼ同一の内容の記事の掲載を継続したことがあること、原告は、令和6年5月10日の第9回弁論準備手続において、少なくとも口頭弁論終結時までについては、本件記事5〜17を再掲載しないとの意向を表明したことの各事実に照らすと、原告は、本案判決により本件記事2、3及び5〜11についての削除命令がされたとしても、記事内容に細かな訂正を加えたり、URLを変更することによって、上記各記事とは異なるものであるなどと称して、ほぼ同一の内容の記事の掲載を継続するおそれが十分あるものと認められる。そうすると、本件記事2、3及び5〜11の削除命令を実効あらしめるためには、これら記事の削除に加えて、本件記事2、3及び5〜11の全部又は一部を新たにインターネット上に掲載することについても差止めを認める必要があるというべきである。もっとも、本件記事3については前記(1)と同様に、別紙「削除対象」記載の各記載部分に限られる。
 なお、被告Cは、本件記事2、3及び5〜11の原稿についてインターネット上に掲載することの差止めをも求めるが、上記原稿の内容が特定されておらず、その内容が被告Cの人格的利益を侵害するものであるかを判断することができないから、原稿の掲載についての差止請求を認めることはできない。もっとも、上記原稿の内容が上記各記事と同一性を有するものなのであれば、原稿の全部又は一部をインターネット上に新たに掲載することは、上記各記事の全部又は一部をインターネット上に掲載することに当たることになるから、格別に上記各記事の原稿の掲載を差し止めなくとも、本件記事2、3及び5〜11の削除命令を実効あらしめるに足ると考えられる。
 ところで、原告は、記事の「一部」についてまで掲載の差止めがされると、あらゆる記載が差止対象である記事の「一部」に当たるとして本件サイトに掲載できなくなるので不合理であると主張するが、記事の「一部」の複製であるとして掲載の差止めがされる場合とは、当該記事の「一部」であることがわかる程度の範囲において、すなわち意味のある文章を残し当該記事と同一の趣旨の記事であることがわかる程度のものを掲載する場合を意味するのであって、「弁護士」や「岐阜県」などの単語や「て、に、を、は」などの文字に対して掲載差止めの効力が及ばないのは明らかであるから、上記原告の指摘は当たらない。
4 争点3(原告の本件記事1、5〜14、16及び17の本件サイトへの掲載により被告らに生じた損害の額)について(本訴請求(1)及び反訴請求(4))
 前記2によれば、@本件記事1の掲載による被告Cの著作権侵害、A本件記事5〜14、16及び17の掲載による被告Cの名誉権侵害、B本件記事11及び17の掲載による被告Dの名誉権侵害が認められるから、これらによる損害の発生及び額について検討する。
(1)本件記事1の掲載による被告Cの本件主張書面案の著作権侵害(本訴請求(1)ア)
 本件記事1には、著作権者である被告Cに無断で、本件主張書面案の全文が掲載されているところ、本件主張書面案の分量や内容、掲載期間が令和3年9月9日から令和4年2月2日頃までの約5か月間に及ぶこと(弁論の全趣旨)、本件主張書面案が、被告Cが3万2780円で販売する「説得力アップブック」の購入者に対して特典として提供されているものであること、本件サイトの性質及び目的からして、被告Cが本件主張書面案の本件サイトへの掲載を許諾するとは考えられないこと、他方で、本件サイトの閲覧者が多いとはいえないと推測されること等の諸事情を総合すると、本件における本件主張書面案の使用料相当額は50万円であると認めるのが相当である。
(2)本件記事5〜14、16及び17(名誉権及び名誉感情侵害)
ア 被告Cの慰謝料額(本件記事5〜14、16及び17)
 本件記事5〜14、16及び17の内容が前記2(2)イ、ウのとおりであること、令和4年10月18日から令和5年5月22日まで上記各記事が本件サイトにおいて公開されていたこと(弁論の全趣旨)その他の事情を総合すると、被告Cの精神的損害に対する慰謝料額は、本件記事6〜10、12、14及び16について各10万円、本件記事5、13及び17について各20万円、本件記事11について30万円と認めるのが相当であり、そのうち反訴請求(4)に係る慰謝料額は本件記事5〜11に係るもので、合計100万円である。
 本件記事5は、被告Cが面会交流調停において虚偽の説明をするように助言しているとの具体的に弁護士としての倫理観を欠く行為をしている旨の表現がされていること、本件記事11は、被告らの似顔絵まで用いて視覚的に訴え、泥棒の方法をアドバイスするかのような行為をしているなどと犯罪行為に手を貸し、さらには危険思想を有しているかのような表現がされていること、本件記事13は、被告Cとその子の関係にまで言及する不相当な内容であること、本件記事17は被告Cの弁護士としての活動のみならず、被告ら夫婦の日常生活までをも揶揄する内容であることから、他の記事に比べ慰謝料額を加算した。
イ 被告Dの慰謝料額(本件記事11及び17)
 本件記事11及び17の内容が前記2(2)イ、ウのとおりであり、本件記事11は被告らの似顔絵まで用いて視覚的に訴え、泥棒の方法をアドバイスするかのような行為をしているなどと犯罪行為に手を貸し、さらには危険思想を有しているかのような表現がされていること、本件記事17は、被告Dの似顔絵を掲載した上で、被告Dの被告Cの訴訟代理人としての活動のみならず、被告ら夫婦の日常生活までをも揶揄するものであること、令和4年10月18日から令和5年5月22日まで上記各記事が本件サイトにおいて公開されていたこと(弁論の全趣旨)その他の事情を総合すると、被告Dの精神的損害に対する慰謝料額は、本件記事11について30万円、本件記事17について20万円であると認めるのが相当である。
(3)小括
 以上をまとめると、被告らの損害額は、別紙認定額一覧の各表の「認定額」欄に記載するとおりである。
 なお、被告らは、上記(2)のうち本訴請求(1)ウ及びエの債務不存在確認の対象となる債務(被告Cにつき本件記事12〜14、16及び17に係る債務、被告Dにつき本件記事11及び17に係る債務)に関し、令和4年10月18日時点のものとして特定される上記各記事につき、同日より前である掲載時から最後掲載日である令和5年5月22日までの損害の発生を主張し、損害の一部である令和4年10月18日から令和5年5月22日までの損害額を主張するものであるとする。しかしながら、上記各記事の掲載日は不明であるところ、被告らは、上記各記事の掲載日及び実際の掲載期間に基づく損害額について、具体的な主張立証をしないから、上記各記事の掲載による不法行為に基づく損害賠償債務が上記金額を上回るものであるとは認められず上記債務不存在確認の対象となる債務が上記(2)の金額を上回ることはない。
5 争点4(甲5記事の掲載による不正競争の成否)について(本訴請求(2))
(1)被告Cは、被告サイトにおいて、「インターネットによる著作権侵害をやめさせるには?裁判所での削除仮処分」との表題の記事(甲5記事)を掲載している(前記前提事実(5))。同記事は、自らの著作物(本件主張書面案を含む。)についてインターネット上で著作権侵害がされたので、代理人弁護士に依頼して、削除の仮処分命令の申立てをし、仮処分が認められたとの趣旨の文章を掲載し、同文章中に、著作権侵害をしているサイトが使用していたレンタルサーバー運営会社に対して削除請求をしたが削除されなかったこと、刑事告訴をしたこと、裁判所に対し、レンタルサーバー会社を相手方として削除等の仮処分の申立てをしたこと、裁判所が本件主張書面案等について著作物として保護の対象となると認めて決定を出したこと、レンタルサーバー会社に対する削除請求は認められたが、サイト管理者が回避する方法はあり得るので、裁判所の命令に従わない加害者であれば、この方法だけでは解決できないことなどを記載し、さらに、「裁判所の命令も聞かずに、違法行為を続けるサイト管理者は、私の弁護士業務に対する業務妨害とも言えますから、この点については、別途警察にも相談しようと思っています。」とするものである(甲5)。
(2)原告は、甲5記事について、裁判所は訴外GMOに対して削除の仮処分命令を出したのであって、原告に命令をしているものではないから、被告Cは虚偽の事実を流布したと主張する。そこで検討するに、証拠(甲2)によると、裁判所が39号仮処分事件において、当時、本件サイトが使用していたレンタルサーバーの管理者である訴外GMOに対し、本件サイト上の記事について削除するよう命ずる決定をしたことが認められるものの、この決定は要するに、裁判所が、本件主張書面案等の被告Cの著作物を原告が本件サイトに掲載していることが著作権侵害の不法行為に当たると判断したということにほかならない。そして、証拠(乙10〜12)によると、原告は、39号仮処分事件の審理過程において訴外GMOから意見照会を受け、同事件の記録の閲覧謄写の申請をしたこと、訴外GMOが仮処分命令を受け、同社のレンタルサーバー上の本件サイト全体を閲覧不可能とする措置をとったが、それよりも前に、原告が本件サイトの使用するレンタルサーバーを変更し、本件サイトの公開を継続したことが認められる。
 これらの経緯に照らすと、原告は、39号仮処分事件について裁判所が被告Cの主張を容れる決定をしたことを十分認識し得たにもかかわらず、裁判所の判断に配慮することなく、レンタルサーバーの変更をしてまで、主張書面案等の掲載という、裁判所によって著作権侵害であると判断された行為を継続したことは事実であり、これをもって、裁判所の命令も聞かずに違法行為を続ける、と表現することは甲5記事の読者の通常の読み方からすれば真実といって差支えないものといえるから、39号仮処分事件の命令の直接の名宛人が原告ではなく訴外GMOであったことを踏まえても、甲5記事の内容が虚偽であると認めることはできない。
(3)そうすると、甲5記事の掲載は不競法2条1項21号の不正競争に当たらないから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告Cに対する不競法違反を理由とする損害賠償請求には理由がない。
第4 結論
 以上のとおり、本訴請求については、@その訴えのうち、別紙却下部分記載の請求に係る部分は不適法であるからこれらを却下し、Aその余の債務不存在確認請求について別紙認定額一覧の表1(1)及び表2の「認定額」欄記載の額を超えては存在しないことの確認を求める限度で理由があるからその限度で認容し、Bその余の請求には理由がないからこれらを棄却し、反訴請求については、@被告らが、本件記事2、4については記事全部につき、本件記事3については別紙削除対象記載の範囲で削除等を求め、A被告Cが、本件記事5〜11の記事全部につき削除を求め、本件記事2及び5〜11並びに本件記事3(ただし、上記の範囲)の複製の全部又は一部の掲載の差止めを求める請求には理由があるからこれらを認容し、B被告Cの原告に対する損害賠償請求については、100万円及びこれに対する最後の不法行為の日である令和5年5月22日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余の請求にはいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 ●(はしごたか)橋彩
 裁判官 勝又来未子
 裁判官 吉川慶


別紙 却下部分
1 別紙著作物目録記載2のウェブページをPDF化したファイルを本件サイトに掲載したことによる、同ウェブページの著作権(公衆送信権)侵害を理由とする、原告の被告Cに対する不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求
2 別紙投稿記事目録記載15の記事(ただし、令和4年10月18日時点のもの)の掲載による、被告Cの名誉権及び名誉感情侵害を理由とする、原告の被告Cに対する不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求
3 別紙投稿記事目録記載5から10まで及び12から16までの各記事(ただし、令和4年10月18日時点のもの)の掲載による、被告Dの名誉権及び名誉感情侵害を理由とする、原告の被告Dに対する不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求
4 別紙投稿記事目録記載18の記事(ただし、令和4年3月6日時点で削除済みのもの)の掲載による、別紙著作物目録記載3の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)侵害を理由とする、原告の被告Dに対する不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求

別紙 著作物目録
1 被告C作成に係る主張書面案(乙6の1の2頁「C氏作成「主張書面」(面会交流制限用)」から10頁までに掲載された主張書面部分)
2 被告Cの開設したウェブサイトにおける、被告C作成に係る「説得力アップブック面会交流制限編」を紹介、販売するウェブページ(甲8の1)
3 被告D作成に係る岐阜地方裁判所令和3年(ヨ)第47号仮処分命令申立事件における仮処分命令申立書(甲3の1)

別紙 投稿記事目録(本件記事1〜18)
(投稿記事目録省略)

別紙 認定額一覧
表1(1) 原告の被告Cに対する債務(本訴請求)
債務の内容 認定額
原告の別紙投稿記事目録記載1の記事
(ただし、令和4年3月6日時点で削除済みのもの)の掲載による、
別紙著作物目録記載1の主張書面案の著作権(公衆送信権)侵害を理由とする、
不法行為による損害賠償債務
50万円
原告の別紙投稿記事目録記載12〜14、16及び17
(ただし、令和4年10月18日時点のもの)の掲載による、
被告Cの名誉権及び名誉感情侵害を理由とする不法行為による各損害賠償債務
12 10万円
13 20万円
14 10万円
16 10万円
17 20万円
表1(2) 原告の被告Cに対する債務(反訴請求)
債務の内容 認定額
原告の別紙投稿記事目録記載5〜11の掲載による、
被告Cの名誉権及び名誉感情侵害を理由とする不法行為による各損害賠償債務
5 20万円
6 10万円
7 10万円
8 10万円
9 10万円
10 10万円
11 30万円
表2 原告の被告Dに対する債務(本訴請求)
債務の内容 認定額
原告の別紙投稿記事目録記載11及び17
(ただし、令和4年10月18日時点のもの)の掲載による、
被告Dの名誉権及び名誉感情侵害を理由とする、
不法行為による各損害賠償債務
11 30万円
17 20万円

別紙 削除対象
本文中の次の記載部分
 「しかし、残念ながら、新たに2名の“発展途上弁護士”が見つかりました。面会交流阻止マニュアルをネット販売していたZ弁護士会会長夫妻(D・C)です。そのため、2021年11月現在で、親子引離し請負業務を行っている“発展途上離婚弁護士”は次の18人になりました。」
 「今回の調査では、会長であるD氏が自ら、妻であるC氏の親子引き離しビジネスに加担していることも判明しました。」

 「親子引き離し業務を行っている“発展途上離婚弁護士”一覧」と題する表中の次の記載部分
 「C(戸籍名:C´/B法律事務所/Z弁護士会)」
 「情報商材「面会交流阻止マニュアル」を3万2780円でネット販売」
 「D(F法律事務所/Z弁護士会)」
 「(Cの夫として「面会交流阻止マニュアル」販売協力)」
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/