判例全文 | ![]() |
|
![]() |
【事件名】GMOインターネットへの発信者情報開示請求事件J 【年月日】令和7年3月7日 東京地裁 令和6年(ワ)第70278号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年12月17日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 弦巻充樹 同 江嵜宗利 同 山●(たつさき)俊吾 同 須貝周平 同 志村翼 被告 GMOインターネットグループ株式会社 同訴訟代理人弁護士 川●(たつさき)友紀 同 八木優大 同 松井将征 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介して、インターネット上の電子掲示板にされた投稿において、原告が配信した動画を複製した動画ファイルを無料でダウンロードすることができるウェブページのURLが公開されたことによって、原告の営業活動上の利益及び著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づく発信者情報の開示を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。以下において、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。) (1)当事者 ア 原告は、インターネット上の動画共有サイトであるYouTube、ツイキャス等において、「B」との名称で活動し、ツイキャスにおいては、「C」(アカウント名:(記載省略))との名称のチャンネル(以下「本件チャンネル」という。)を運営する者である(甲1、3)。 イ 被告は、インターネットの接続に関する業務等を営む株式会社である。 (2)原告による動画の配信 原告は、(日付記載省略)、動画(以下「本件配信動画」という。)を制作し、(日時記載省略)から、本件チャンネル上で本件配信動画を配信した(甲10、11)。 (3)電子掲示板への投稿 ア 氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、別紙投稿記事目録の「投稿日時(JST)」欄記載の日時に、同目録の「IPv6アドレス」欄記載のIPアドレスを使用して、同目録の「接続先IPアドレス」欄記載のIPアドレスに接続し、同目録の「スレッドタイトル」欄記載の「D」のスレッドに、同目録の「投稿内容」欄記載の記事(以下「本件記事」という。)を投稿した(甲7、14、15)。 イ 本件記事中の「https://以下省略」とのURL(以下「本件URL」という。)は、無料の大容量ファイル転送サービスである「ギガファイル便」のウェブページのURLである。本件URLにアクセスすることにより、本件配信動画の一部を複製した動画ファイル(以下「本件動画ファイル」という。)をダウンロードすることができた。(甲7〜9、11?13、19〜21) (4)発信者情報の保有について 被告は、別紙発信者情報目録記載の発信者情報を保有している。 2 争点(侵害情報の流通によって権利が侵害されたことが明らかであるといえるか)及び争点に関する当事者の主張 (1)営業活動上の利益の侵害(争点1) (原告の主張) 原告は、本件チャンネルにおいて、本件チャンネルのメンバーシップに登録している有料会員から月額料金の支払を受けることによって収益を上げるとの営業活動を行っていた。そして、原告は、本件チャンネルの有料会員に限定して、本件配信動画を配信した。 本件記事は、本件動画ファイルをその内容に取り込むものである。本件動画ファイルは、本件配信動画の大部分を録画したものであり、これを無料で閲覧することができるようにする本件記事の投稿は、不正競争に準ずる重大な権利侵害行為であり、かつ、原告の収益の大幅な減少を招く行為である。 したがって、本件記事の投稿は、原告の営業活動上の利益を侵害するものであることが明らかである。 (被告の主張) 本件配信動画が、本件チャンネルの有料会員に限定して配信されたものであるかは明らかでない。 本件投稿者は事業者であるとはいえないから、本件記事の投稿が不正競争に準ずる重大な権利侵害行為に該当するとはいえない。また、本件動画ファイルは、原告が本件チャンネル上で配信した動画全体のごく一部にすぎないから、本件記事の投稿によって、原告の収益の大幅な減少を招くとまではいえない。 (2)本件配信動画に係る著作権の侵害(争点2) (原告の主張) ア 本件投稿者がギガファイル便に本件動画ファイルをアップロードした者と同一人物である場合には、その者は、本件動画ファイルのアップロード及び本件記事の投稿により、本件動画ファイルを、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の「公衆送信用記録媒体」であるギガファイル便のサーバー上に「記録」した上、本件URLを公開することによって、本件動画ファイルを送信可能化したものであるから、原告の本件配信動画に係る著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかである。 イ また、公衆は、本件URLを知らない限り、本件動画ファイルにアクセスすることができないところ、本件投稿者は、本件記事を投稿し、本件URLを公開することによって、ギガファイル便のサーバー上に記録された本件動画ファイルを「自動公衆送信し得るようにすること」を行い、本件動画ファイルを送信可能化したものであるから、原告の本件配信動画に係る著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかである。 ウ さらに、本件投稿者は、本件配信動画が原告の著作物に該当することを認識し、かつ、少なくとも本件記事の投稿により原告の本件配信動画に係る著作権が侵害される蓋然性が高いことを認識、認容しながら、本件記事を投稿したことにより、公衆が本件URLにアクセスすることができる状況を作出し、本件動画ファイルの自動公衆送信を促進したものであるから、原告の本件配信動画に係る著作権(公衆送信権)の侵害を幇助したことが明らかである。 (被告の主張) ア 本件投稿者は、本件動画ファイルをアップロードした者から何らかの手段によって本件URLを伝えられた可能性があるから、本件投稿者が本件動画ファイルをアップロードした者と同一人物であるかは明らかでない。 イ 本件投稿者が本件動画ファイルをアップロードした者と同一人物でない場合には、本件動画ファイルがギガファイル便のウェブサイト上にアップロードされた時点又は本件URLが本件動画ファイルの投稿者によって第三者に公開された時点で、本件動画ファイルの送信可能化はされているから、本件記事の投稿によって重ねて本件動画ファイルの送信可能化がされたとはいえない。 ウ また、本件URLは本件動画ファイルをアップロードした者によって第三者に公開されている可能性があるから、本件投稿者が、本件動画ファイルの自動公衆送信を促進し、原告の本件配信動画に係る著作権(公衆送信権)の侵害を幇助したことが明らかであるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1)本件チャンネルの仕組み及び本件配信動画の配信について ア 原告は、ツイキャスにおいて、本件チャンネルを運営し、動画配信を行っていた。本件チャンネルにおいては、無料で視聴することができる動画とともに、本件チャンネルのメンバーシップに登録している有料会員のみが視聴することができる有料会員限定の動画が配信されていた。(甲3〜6、18) イ 原告は、(日時記載省略)から、本件チャンネル上で、本件チャンネルの有料会員に限定して、本件配信動画を配信した。本件チャンネルの有料会員は、同日から約3週間、本件チャンネルにおいて、本件配信動画を視聴することができた。(甲18、22、23、28、29) (2)ギガファイル便のサービスについて ギガファイル便の大容量ファイル転送サービスを用いたファイルの送信の仕組みは、以下のとおりである(甲19〜21)。 ア ファイルを送信しようとする者(以下「ファイルの送信者」という。)が、ギガファイル便のウェブサイトにおいて、アップロードしようとするファイルをアップロードすると、アップロードしたファイルをダウンロードすることができる固有のウェブページ(以下「ダウンロードページ」という。)のURLが表示される。 イ ファイルの送信者は、ファイルを受信しようとする者(以下「ファイルの受信者」という。)に対し、ダウンロードページのURLを伝え、ファイルの受信者は、ダウンロードページのURLからダウンロードページにアクセスし、ファイルをダウンロードすることができる。 ウ ギガファイル便のウェブサイトにおいては、アップロードされたファイルのファイル名等から、ダウンロードページのURLを検索する仕組みは設けられていない。 (3)本件記事の投稿及び本件URLについて ア Dの「(記載省略)」というスレッドに投稿された本件記事には、「(記載省略)」との記載の後に、本件URL(https://以下省略)が記載されていた(甲7)。 イ 本件URLは、ギガファイル便のウェブサイトにおける本件動画ファイルのダウンロードページのURLであり、ダウンロード期限である令和6年4月8日までの間、同ダウンロードページにアクセスすると、「ダウンロード開始」のボタンから、本件動画ファイルをダウンロードすることができた(甲8、9、13)。 2 争点2(本件配信動画に係る著作権の侵害)について (1)本件配信動画は、原告が、視聴者のコメントや動画内で取り上げる題材に関する情報を映しながら原告の見解を発信するもので、一定の創作性を有し、原告が制作し、録画した動画であるから(甲10、11)、映画の著作物(著作権法10条1項7号)に当たり、著作権者は原告であると認められる。 (2)本件動画ファイルに係る動画は、本件配信動画の大部分を録画したものであり、表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が本件配信動画の本質的な特徴を直接感得することができるものといえる(甲10?12)。 (3)前記認定事実(2)によれば、ギガファイル便のサービスを用いてファイルをダウンロードするためには、ファイルのダウンロードページのURLが必要であるところ、ダウンロードページのURLは、ファイルをギガファイル便にアップロードした者にしかわからない仕組みとなっているといえる。本件動画ファイルについても、本件URLを知らなければ、これをギガファイル便からダウンロードすることはできなかったものと認められるところ、本件記事が投稿された時点までに、本件URLについて、インターネット上で公開されるなど、不特定の者や多数の者に知られていたことはうかがわれない。 また、前記認定事実(1)イ及び同(3)アによれば、本件記事は、@本件チャンネルのアカウント名を示す「(記載省略)」の記載、A本件配信動画の配信日時を示す「(日時記載省略)」の記載、B「(記載省略)」として、本件配信動画の●●分前後で原告が「(記載省略)」と述べた(甲12)ことを示す記載及びCドメイン名自体からギガファイル便のウェブページのURLであることが分かる本件URLの記載がされ、著名な電子掲示板上の本件チャンネルに関するスレッド上に投稿されたものである。そうすると、本件記事は、これに接した者が、本件URLから本件チャンネルの動画をダウンロードすることができると理解し得るように記載されたものといえる。 以上によれば、ギガファイル便にアップロードされた本件動画ファイルについては、本件記事の投稿の前には、不特定又は多数の者からの求めに応じ自動的に送信されることはなかったものであるが、本件記事の投稿によって、不特定又は多数の者がダウンロードすることができるようになり、自動公衆送信されるにいたったものというべきであり、これを左右するに足りる証拠は見当たらない。 本件投稿者が本件動画ファイルをギガファイル便にアップロードしたか否かには争いがあり、これを認めるに足りる証拠はない。もっとも、以上に認定したところ及び本件記事の内容に照らせば、本件投稿者は、本件動画ファイルをギガファイル便にアップロードした者から本件URLを知らされるなどして、本件記事を投稿したことが推認される。また、本件動画ファイルは、本件チャンネルで配信された動画の複製物であることが明らかなものであり、これを自動公衆送信するためには著作権者の許諾を要するところ、本件動画ファイルをギガファイル便にアップロードした者も、本件投稿者も、著作権者である原告の許諾は得ていない(弁論の全趣旨)。 (4)以上の事実関係を前提とすれば、本件記事の投稿は、不特定又は多数の者によって直接受信されることを目的として、不特定又は多数の者からの求めに応じ本件動画ファイルを自動的に送信することを可能としたというべきであるから、本件投稿者は、本件配信動画に係る著作権(公衆送信権)を侵害したものといえる。 そうすると、本件記事の投稿は、原告の著作権(公衆送信権)侵害を直接的にもたらしているということができるから、「侵害情報の流通によって」原告の本件配信動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるといえる。 3 弁論の全趣旨によれば、原告は本件投稿者に対して損害賠償請求権等を行使する予定であることが認められ、そのために、別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を受ける必要があるといえるから、原告には、「当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)がある。 第4 結論 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については相当ではないから、これを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 ●(はしごたか)橋彩 裁判官 勝又来未子 裁判官 吉川慶 (別紙)発信者情報目録 別紙投稿記事目録記載のIPv6アドレスを同目録記載の投稿日時に使用し、同目録記載の接続先IPアドレスに接続した契約者に関する以下の情報 1 氏名又は名称 2 住所 3 電話番号 4 メールアドレス 以上 (別紙)投稿記事目録 (記載省略) 以上 |
![]() 日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |