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【事件名】海賊版サイト「漫画村」再審請求事件(刑) 【年月日】令和7年2月19日 福岡地裁 令和5年(た)第9号 著作権法違反、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反再審請求事件 判決 主文 本件再審請求を棄却する。 理由 第1 請求の趣旨及び理由 本件請求の趣旨及び理由は、弁護人ら作成の再審請求書及び各意見書に記載のとおりであるが、要するに次の2点である。 1 請求理由1 (1)本件判決は、大要、次のように判示している。 Aは、平成29年5月11日頃(以下、平成29年中の出来事については年の表記を省略する。)、「丙516話丁」の1ページから8ページまでの画像データ(以下「丙516話」という。)を、Bと称するウェブサイトのサーバーコンピューターに記録保存(以下「アップロード」という。)した。Bにおいては、5月17日の時点(以下「本件時点」という。)で、丙516話が閲覧可能な状態となっていた。他方で、同月23日の時点(以下「5月23日時点」という。)において、Bのキーワード検索の結果には丙516話が表示されなかったが、特に事情がない限り、アップロードされたデータが削除されたり非表示にされたりする理由はない。他方で、Bのウェブサイト内に設置された「人気漫画ランキング」(以下「人気漫画ランキング」という。)には、5月23日時点で丙516話のサムネイル画像が現に表示されているので、丙516話は5月23日時点でも表示可能であったといえる。したがって、5月23日時点のキーワード検索で丙516話が検索結果に表示されなかったのは、丙516話が非表示や削除されたこととは別の原因によると理解するほかない。 (2)しかし、新証拠によれば、本件判決が説示するような「別の原因」は考えられない。丙516話は、リバースプロキシ(Bのサーバーコンピューターにはデータを保存せず、第三者サーバーに記録保存されたデータをBで表示させる方法のことをいう。以下同じ。)によって表示された可能性がある。本件時点で閲覧可能な状態となっていた丙516話が、Bのサーバーコンピューターにアップロードされたものであることについては合理的な疑いが残るので、刑事訴訟法435条6号に該当する事由がある。 2 請求理由2 本件判決が認定した犯罪収益について、その前提として、請求人の行為が著作権法違反に該当すると認定したことは、法令の解釈、適用を誤ったものである。 第2 当裁判所の判断 1 請求理由1について (1)証拠の新規性について 本件請求で提出された証拠は、コンピューター技術者であるC氏作成に係る、ウェブサイトの管理マネジメントシステムであるWordPress(以下「ワードプレス」という。)でのキーワード検索時の処理に関する意見書2通(以下「本件証拠」という。)である。本件証拠の内容は、ワードプレスでキーワード検索を行った際に、ワードプレスの内部でどのような処理が実行され、検索結果が表示されるかについてであるが、要するに、任意の文字列でキーワード検索を行った場合、その任意の文字列を検索結果から漏らすことはないというものである。確定審の記録によれば、上記内容を示す本件証拠は、裁判所による実質的な証拠価値の判断を経ていない証拠であるといえるから、証拠の新規性が認められる。 (2)証拠の明白性について 本件判決が、AがBに丙516話をアップロードしたと認定した中心となる実質証拠は、同人の供述調書(確定審甲45)である。その上で、本件時点でBからダウンロード可能であった丙516話のURLの末尾10桁の数字(確定審甲41)について、これがユニックスタイム(コンピューターにおける時刻の表記方法の一種)とよばれるものであって、そのファイルがアップロードされたものである場合には、アップロードされた時刻を示しているとし、このユニックスタイムが表す時刻と、Aが更新終了を報告した時刻とが近接していることから、本件時点においてBからダウンロード可能であった丙516話は、上記Aがアップロードしたものと同一であることが推認されるとした。他方で、5月23日時点においては、Bのキーワード検索機能で「丙」の語を検索した際の検索結果では丙516話が表示されていないものの、人気漫画ランキングには丙516話のサムネイル画像が表示されていることから(確定審甲11)、丙516話は、5月23日時点のBで表示可能であって、Bにおいて丙516話が表示できない状態にあったことを前提とする確定審弁護人の主張は採用できないとした。その上で、キーワード検索で丙516話が表示されなかったのは、丙516話が表示できない状態になっていたのとは別の原因によると理解するほかないとして、Aがアップロードした丙516話と、捜査機関が確認した画像データが同一のものであったことにつき疑いは生じない旨説示した(本件判決12頁から14頁まで)。 検察官は、確定審において、キーワード検索で、丙516話が表示されなかったことについて、Bでの検索の正確性に問題があったと主張していたが、本件判決は、検索の正確性については、何ら指摘することなく、上記の説示をしている。そして、一般的にも、コンピューターの検索は、正確で漏れのないものであり、少なくとも「丙」といった単純な語でキーワード検索を行った場合に、検索漏れが生じることはないのが通常であり、このことは、もはや経験則又は公知の事実であるといえる。したがって、本件判決が検索の正確性について何ら指摘することなく説示を行っていることは、Bでの検索の正確性や網羅性については問題がないことを当然の前提としていたことを示していると理解するのが相当である。そして、本件判決が検索の正確性や網羅性について問題がないことを判断の前提としていたという理解に立つ限り、本件判決は、検索の正確性や網羅性が肯定されてもなお、何らかの原因で丙516話が検索結果に表示されなかったと判断したと考える他なく、それを「別の原因」と称したのであるから、ワードプレスのキーワード検索機能の正確性を示す本件証拠は、本件判決と何ら矛盾抵触しない。本件判決における丙516話がAによりアップロードされたものであるとの事実認定に合理的な疑いを生じさせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠とはいえない。 また、弁護人は、丙516話がキーワード検索では表示されない一方で、人気漫画ランキングではそのサムネイルが表示されたことについて、人気漫画ランキングの機能はワードプレスの人気記事ランキングプラグインを利用して実装されており、このプラグインにはキャッシュ機能(直近に読み込んだデータを記憶装置に一時的に複製して保存し、次の読み込みを高速化する機能)があること、初期設定ではキャッシュの更新間隔は1日であることが理由である可能性がある旨主張する。すなわち、Aがアップロードした丙516話は、本件時点においてもBで表示されておらず(Bではアップロードされたファイルをあえて後から削除する理由がない以上、元から表示されていなかった。)、また、リバースプロキシ経由で表示されていたものについては5月23日時点で表示できない状態になっていたがキャッシュ機能によって人気漫画ランキングにはサムネイルが表示されていたとして、人気漫画ランキングに丙516話のサムネイルが表示されていたことは、丙516話が当時、Bで表示可能であったことを示すとはいえないというのである。しかし、人気漫画ランキングがワードプレスの人気記事ランキングプラグインを利用して実装されていたものであるのか否か自体、確定審の証拠からも、本件証拠からも明らかになっていない。仮にこの点をおくとしても、本件証拠は、ワードプレスでの検索時の処理の流れとワードプレスが検索時に発行するSQLに関するものであって、ワードプレスの人気記事ランキングプラグインの表示機構が弁護人の主張するような内容のキャッシュ機能を有していることや、上記丙516話のサムネイルがそのキャッシュ機能により表示されたものであったことを明らかにする内容は含んでいない。そのため、本件証拠によって、人気漫画ランキングの機能や挙動を根拠として、本件判決が認定した事実に合理的な疑いが投げかけられることはない。 いずれにしても、本件証拠によって、本件時点においてBで閲覧が可能になっていた丙516話が、Aによりアップロードされたファイルと同一であるとの本件判決が認定した事実に合理的な疑いが生じるものとはいえず、証拠の明白性は認められない。 (3)小括 以上によれば、請求理由1は、刑事訴訟法435条6号に該当せず、再審事由があるとはいえない。 2 請求理由2について 請求理由2は、単に本件判決が法令の解釈、適用を誤ったものであると主張するに過ぎず、刑事訴訟法435条各号に該当しないため、適法な再審事由に当たらない。 3 結論 よって、本件請求には理由がないから、刑事訴訟法447条1項により、主文のとおり決定する。 福岡地方裁判所第3刑事部 裁判長裁判官 岡本康博 裁判官 細川英仁 裁判官 ●(はしごたか)橋宏一 |
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