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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示命令申立却下異議求事件(2)
【年月日】令和7年2月19日
 知財高裁 令和6年(ネ)第10070号 発信者情報開示命令申立却下決定に対する異議請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第70648号)
 (口頭弁論終結日 令和7年1月22日)

判決
控訴人 甲
同訴訟代理人弁護士 矢部陽一
同 政平亨史
同 渡邉遼太郎
被控訴人 XCorp.
同訴訟代理人弁護士 平津慎副
同 小原丈佳


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 東京地方裁判所令和5年(発チ)第10045号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和5年10月4日にした決定を取り消す。
3 被控訴人は、控訴人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等(略語は、特記しない限り原判決に従う。)
1 事案の要旨
 本件は、控訴人が、被控訴人の運営するX(インターネットを利用してメッセージ等を投稿することができる情報ネットワークに係るサービスであり、変更前の名称は「ツイッター」である。本件サービス)において、氏名不詳者(本件氏名不詳者)が行った別紙投稿記事目録記載の投稿(本件投稿)により、別紙動画目録記載の動画(本件動画)に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)並びに本件動画に録画された実演に係る控訴人の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことは明らかであり、本件氏名不詳者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(本件発信者情報)の開示を受けるべき正当な理由があるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項及び8条に基づき、本件発信者情報の開示を求める発信者情報開示命令の申立てをしたが、東京地方裁判所が同申立てを却下する決定(原決定)をしたため、法14条1項に基づき、原決定の取消しを求める事案である。
 原判決は、本件投稿により本件動画に係る控訴人の著作権、著作者人格権及び実演家人格権が侵害されたことが明らかとはいえないとして、原決定を認可したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提事実
 前提事実は、原判決の「事実及び理由」第2の2に記載のとおりであるから、これを引用する。
 同第2の2(3)記載のとおり、本件投稿は、本件画像及び本件他の画像と共に別紙投稿記事目録の「投稿内容」欄記載の内容の記事(本件記事)が本件サービスに投稿されたものである。本件画像は、別紙画像目録記載の画像のうち、左側に表示されている画像(ヒアルロン酸注入施術の様子を撮影したものであり、赤枠を付した画像)であり、本件他の画像は、別紙画像目録記載の画像のうち、右側に表示される画像2枚(バッカルファット除去施術の様子を撮影したもの。)である。
 本件画像及び本件他の画像は、控訴人が開設するYouTubeチャンネル(原告チャンネル)における動画(本件動画)から切り出された画像であるところ、これらの画像の左上隅には、いずれも、上段に「甲′」、下段に「甲」との二段の表示(これらの二段の表示が本件表示)が付されていた。本件投稿において、本件他の画像では本件表示が付されている様子を見ることができるが、本件画像では、本件サービスの仕様である機械的な処理により、左部及び右部がトリミング(切除)された形になっているため、本件表示を見ることができなくなっている。もっとも、本件投稿を閲覧する者は、本件画像をクリックすることにより、本件表示を含む左部及び右部がトリミングされる前の元の画像(本件元画像)を閲覧することができる。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点及び争点に関する当事者の主張は、後記2のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の3及び4に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における当事者の補充主張
(1)控訴人の主張
ア 本件投稿による本件画像の引用が適法な引用に当たらないこと
 原判決は、本件元画像と本件他の画像の合計3枚が一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常であること、本件他の画像には本件表示及び「バッカルファット除去」との記載があること、本件記事の本文に「6本木クリニック」と記載されていることから、本件投稿に当たり、本件画像の出所が表示されていないともいえない旨を判断する。
 そもそも、SNSにおいてインターネット上に公開されている著作物を引用して利用するに当たっては、当該著作物に係るURLを明示することにより出所を表示することが公正な慣行に合致するものであるが、仮に、公正な慣行との関係で、URLにより出所を表示することまでは求められないとしても、本件投稿が批評目的で行われたとしたら、引用に当たっては、閲覧者がその批評の正当性・妥当性等の検討のため引用される著作物にたどり着くことができるよう、動画タイトル、チャンネル名、投稿日時等により著作物の出所を一義的に特定することが必要である。
 本件投稿では、バッカルファット除去手術との関係では、「その様子をYouTubeにアップ」と記載されている一方、ヒアルロン酸注入との関係ではYouTubeにアップされた動画の写真である旨の記載がないこと、本件画像は控訴人がヒアルロン酸注入を行っている写真である一方、本件他の画像は控訴人がバッカルファット除去手術を行っている写真であり、本件画像と本件他の画像は別の動画から切り出されたとの合理的な推認が働くことからすると、閲覧者にとっては本件画像がYouTubeにアップされたものか全く判然としないのであるから、閲覧者が控訴人のヒアルロン酸注入に関する状況を確認しようとした場合に、YouTubeチャンネルである原告チャンネルにたどり着くことは困難である。
 また、仮に閲覧者が原告チャンネルにたどり着くことができたとしても、原告チャンネルにおいて、「ヒアルロン酸」や「ヒアルロン酸注入」と検索すると、タイトルに「ヒアルロン酸」等と記載されている動画だけでも、令和6年4月の時点において、10個程度がヒットするのであり(甲13)、この中から本件動画を検索することは極めて困難であるし、今後も控訴人がタイトルに「ヒアルロン酸」との記載がある動画をアップロードするごとに、更に原告チャンネルの中から本件動画を検索することは困難になる。加えて、仮に、閲覧者が、原告チャンネルにたどり着いた上で、「バッカルファット除去」と検索しても、タイトルに「バッカルファット」等と記載されている動画だけでも、同年10月の時点において、3個程度がヒットするのであり(甲15)、やはり本件動画を検索することは極めて困難である。
 以上のとおり、本件投稿においては、URLが表示されているか否かにかかわらず、本件画像の出所が一義的に特定されていないことから、本件投稿による本件画像の引用は公正な慣行に合致したものとはいえない。
イ 著作者人格権(氏名表示権)及び実演家人格権(氏名表示権)侵害について原判決は、「一体として投稿された本件画像及び本件他の画像は、いずれも一つの動画から切り出されたものと理解されるのが通常」などと判断するが、このような経験則が成り立つとする根拠が全く不明であるし、逆にこのような経験則が全く認められないことは、本件サービスを少し利用してみれば容易に理解できることである。
(2)被控訴人の主張
ア 「本件投稿による本件画像の引用が適法な引用に当たらないこと」に対する被控訴人の反論
 控訴人は、本件画像と本件他の画像は別の動画から切り出されたとの合理的な推認が働くなどと主張する。しかし、むしろ、一人の患者に対して施術後のバランスに鑑みて複数の施術をまとめて行うことが珍しくない美容外科の実務に照らすと、施術単位ではなく患者単位に焦点を当てて動画を作成し、複数の施術を一つの動画で扱うという動画構成は一般的であり、控訴人が主張する「異なる施術なので別の動画から切り出されたなどと認識するのが通常である」という経験則があるとは必ずしもいえない。
 また、控訴人は、本件記事の本文について、バッカルファット除去手術との関係では「その様子をYouTubeにアップ」と記載されているのに対し、ヒアルロン酸注入との関係ではYouTubeにアップロードされた動画の写真である旨の記載がないとの指摘をするが、一般的に、推こうなどをせずに投稿されることが通常である本件サービスにおいて、投稿者が意識的に各画像の引用元となる著作物がアップロードされたサイトごとに表現ぶりを書き分けていると理解し、1個の投稿記事にまとめてアップロードされた各画像の出所がそれぞれ異なると深読みすることの方が不自然である。
 さらに、第三者が本件投稿に含まれる情報を元にYouTubeの検索機能や控訴人が作成した施術動画リストを利用すれば、控訴人のチャンネルや控訴人のチャンネルにおいて公開されている本件動画を特定することは容易であり、本件元画像及び本件画像の出所は、著作権法が出所の表示を求める趣旨を満足させる程度に十分表示されている。具体的には、YouTubeの検索機能を用いて、本件記事の本文に含まれる「6本木クリニック」「甲″」という文言や、本件他の画像の左上に記載されている「甲」といった文言を組み合わせて検索することにより、控訴人のYouTubeチャンネルがトップに表示され、原告チャンネルにアップロードされた動画のうち本件記事の本文に含まれる「ヒアルロン酸」及び「バッカルファット」という文言が唯一タイトルに含まれる本件動画が引用元であることは、少なくともあえて批評の妥当性等についての検討を行おうとする者にとっては十分特定可能である。原告チャンネルにアップロードされた施術動画リスト(乙11)のうち、「ヒアルロン酸注射」という文言をタイトルに含む動画は、施術動画のリストの通し番号5番及び8番(本件動画)の2本しか存在せず、さらに、実際にヒアルロン酸注入及びバッカル切除手術を行った施術動画は、通し番号8番の本件動画しか存在しない。
 以上のことから、本件元画像及び本件画像の出所は明示されている。
イ 「著作者人格権(氏名表示権)及び実演家人格権(氏名表示権)侵害について」に対する被控訴人の反論
 控訴人が主張するような閲覧者の認識は通常の認識とはいえない一方で、本件画像及び本件他の画像が一つの動画に基づいて作成された画像であると理解可能である旨を判断した原判決は正当である。
 したがって、本件他の画像に控訴人の氏名を表す本件表示がされていることをもって、本件画像について著作者名及び実演家名である控訴人の氏名表示がされていると認めることができる。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も、争点1(控訴人の「権利が侵害されたことが明らかである(法5条1項1号)」か)について、@本件投稿における本件元画像及び本件画像の利用が、著作権法32条1項所定の適法な引用に当たらないと認めることができず、本件動画に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとはいえないし、また、A本件投稿により、本件画像について著作者名及び実演家名である控訴人の氏名が表示されていないと認めることはできず、本件動画に係る控訴人の著作者人格権(氏名表示権)及びその実演に係る実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたとは認められないから、本件控訴は理由がなく、控訴を棄却すべきと判断する。その理由は原判決の「事実及び理由」の第3の1及び2記載のとおりであるからこれを引用する。
2 控訴人の当審における補充主張について
(1)控訴人は、本件投稿では、バッカルファット除去手術との関係でのみ「その様子をYouTubeにアップ」と記載されていること、本件画像と本件他の画像が異なる手術等の写真であって別の動画から切り出されたとの推認が働くことから、閲覧者が原告チャンネルにたどり着くことは困難であることや、仮に閲覧者が原告チャンネルにたどり着くことができたとしても、原告チャンネルにおいて、「ヒアルロン酸」や「ヒアルロン酸注入」と「バッカルファット除去」をそれぞれ検索すると、複数の動画が検索にヒットするため、本件動画を検索することは極めて困難であることをもって、本件投稿においては、本件画像の出所が一義的に特定されていないことから、本件投稿による本件画像の引用は公正な慣行に合致したものとはいえない旨を主張する。
 しかしながら、証拠(甲1の1〜3)によると、本件投稿においては、本文に「バッカル除去手術でも帽子は被らない。その様子をYouTubeにアップ。ヒアルロン酸はもちろん髪の毛を垂らしたまま施術を行う」と記載されるとともに、本件画像1枚と本件他の画像2枚が接する形で合わせて投稿されている。このうち、本件他の画像は、バッカルファット除去との表示が付され、同除去施術の様子を示す一方、本件画像は、ヒアルロン酸注入施術の施術中の様子であると見て違和感のないものである。加えて、本件元画像の左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像が本件他の画像とは異なる動画から切り出されたものであることをうかがわせる記載等がない。
 以上によると、本件投稿を閲覧した者は、本件記事の本文の記載と併せ読むことにより、これらの画像のいずれも、施術者が一連の施術を行っていることを示すものとして、YouTubeにアップロードされた一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常であるといえるから、控訴人の上記主張のうち、本件画像と本件他の画像が異なる手術等の写真であって別の動画から切り出されたという推認が働くとの主張は採用できない。
 また、証拠(乙11)によると、原告チャンネルにおいて動画タイトルに「ヒアルロン酸」及び「バッカルファット」の文言が両方含まれている動画を特定することができることからすると、控訴人の上記主張のうち、本件動画を検索することが極めて困難であるとの主張も採用できない。
(2)控訴人は、原判決が、一体として投稿された本件画像及び本件他の画像は、いずれも一つの動画から切り出されたものと理解されるのが通常などと判断したことにつき、このような経験則が成り立つとする根拠が全く不明である等と主張する。
 しかしながら、一体として投稿された本件画像及び本件他の画像は、いずれも一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常であることは上記(1)に説示したとおりであるから、控訴人の上記主張は理由がない。
3 結論
 以上のとおり、控訴人の請求は理由がなく、原決定を認可した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 遠山敦士
 裁判官 天野研司


(別紙)発信者情報目録
1 アカウント情報
 別紙投稿記事目録記載の記事を投稿したアカウントに登録されている電話番号及び電子メールアドレス
2 侵害関連通信に関する情報
 別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件侵害情報」という。)を投稿したアカウントに関する以下の各情報
(1)アカウントの作成に使用されたIPアドレス(本件侵害情報の送信より前のものに限る)
(2)本件侵害情報の投稿前のログインに使用されたIPアドレスのうち、保有するものの中で本件侵害情報の投稿と時間的に最も近接したもの
(3)上記(1)及び(2)のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備から、被控訴人の用いる電気通信設備へ各IPアドレスを用いた通信が送信された年月日及び時刻
以上

(別紙)投稿記事目録●(省略)●

(別紙)画像目録●(省略)●

(別紙)動画目録
題名:【アンチエイジング】1日で10歳若返る手術を大公開!【ヒアルロン酸/ボトックス/スレッドリフト/バッカルファット/脂肪溶解注射/クマ取り脱脂】
時間:7分58秒
 以上
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