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【事件名】医療用画像管理システム事件 【年月日】令和7年2月17日 大阪地裁 令和5年(ワ)第11871号 著作権確認等請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年12月23日) 判決 原告 X 訴訟代理人弁護士 黒田修一 同 大塚慎也 被告 一般財団法人大阪府結核予防会代表者代表理事 訴訟代理人弁護士 奥野祐希 主文 1 原告と被告との間において、原告が、別紙1記載1の論文(後記本件作品1)について著作権及び著作者人格権を有することを確認する。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する(主位的請求・予備的請求)。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 (本判決で用いる用語) 1 本件作品1:「比較による相対化を基にした画像診断の方法」と題する別紙1記載1の論文。なお、本件作品2及び同3を含んでいる。 2 本件作品2:「読影・判定支援のフローチャート」と題する、別紙1記載2の作品 3 本件作品3:別紙1記載3のコンピューター・タブレットシステムの画面レイアウト 4 本件各作品:本件作品1、同2及び同3を総称したもの 5 本件システム:後記前提事実(3)記載の、被告において用いられている医療用システム 6 本件覚書:別紙2「秘密保持および知的財産権・著作権についての覚書」と題する覚書 第1 請求の趣旨 1 原告と被告との間において、原告が、本件各作品について著作権及び著作者人格権を有することを確認する。 2 被告は、本件各作品を改変、複製、頒布又は翻案してはならない。 3 被告は、本件各作品を使用してはならない。 4 被告は、本件各作品に基づき原告が構築した本件システムを使用してはならない。 第2 事案の概要 1 原告の請求(訴訟物) (1)請求の趣旨1項 本件作品1、同2及び同3が、いずれも著作物であり、かつ原告がその著作権者であることを前提とする、被告に対する、各作品の著作権及び著作者人格権(以下「著作権等」という。)の確認請求 (2)請求の趣旨2項及び3項 (1)記載の原告の著作権等に基づく被告の各著作物の改変、複製、頒布又は翻案及び使用の差止め請求 (3)請求の趣旨4項の主位的請求 (1)記載の原告の著作権等に基づく、本件各作品を利用した本件システムの使用の差止め請求 (4)請求の趣旨4項の予備的請求 本件システムについてされた、原告が定めたルールに基づき原告の許諾を得て使用する旨の原被告間の合意に被告が違反し、本件システムを継続使用していることが不法行為であるとする、不法行為に基づく差止請求 2 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠(枝番含む。以下同じ)並びに弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) (1)当事者等 ア 原告は、内科医師であり、平成6年3月から令和4年2月まで、被告に勤務し、被告が大阪市●●区に開設している相談診療所の副所長及び診療部長を兼務していた。また、原告は、平成14年頃、被告に医療用画像管理システムを導入する際の中核メンバーとなり、平成16年11月26日、被告の「医療情報システムグループ」のアドバイザーに就任した。(甲13) イ 被告は、結核を主とし、その他の疾病の予防及び診断・治療に関する事業を行うことを目的とする一般財団法人である。 (2)原告は、平成21年4月22日、文化庁に対し、本件作品1(別紙として本件作品2を含むもの)の著作権者として、第一発行年月日の登録を申請したところ、同年6月5日、原告の申請に係る登録がされた(登録番号第33648号の1)。なお、被告は、原告が同申請を行うことについて異議を述べなかった。また、原告が、本件作品1及び同2を製作したことは争いがない。(甲2) (3)被告は、平成15年頃から、被告の医療情報室(原告は、そのアドバイザーであった。)を中心に、株式会社日立ソフト(以下「日立ソフト」という。)に委託して、本件作品1に記載された画像診断用のソフトウェア及びこれを起動させるためのタブレット等(本件システム)を開発し、臨床現場において使用していた(甲1)。 (4)原告及び被告は、平成17年7月6日、本件システムについて、本件覚書を交わした。本件覚書の内容は、別紙2のとおりである。(甲9) (5)原告は、令和元年、本件システムに、原告の経験則に基づく画像解析結果を自動的に出力する「Aボタン」と称する機能を搭載した。 (6)原告は、令和4年2月10日、被告に対し、同月25日付で被告を退職すると告げた。その際、原告は、被告に対し、本件システムについて、一切の知的財産権が原告に帰属していることを確認し、デザインや機能を含め、一切の改変を加えるときには原告の承諾を得ることを内容とする覚書案への署名捺印を求めるとともに、同月20日までに署名捺印がない場合は、Aボタンを含む一切の機能について使用できない状態とする旨告げた。これに対し、被告は、同月21日、同覚書案への署名捺印を拒否するとともに、本件システムは、被告の職務著作であると回答した。(甲10ないし12) (7)原告は、令和4年2月24日頃、被告に対し、本件システムは、原告の著作物であり、被告の職務著作には該当しない、これまで、原告は、被告に対し、無償で本件システムを使用することを許諾してきたが、信頼関係が破壊されたため、かかる使用許諾契約を一切解除する旨、通知した(甲12)。 3 争点 (1)本件作品1が著作物であるか(争点1・請求原因) (2)本件作品2が著作物であるか(争点2・請求原因) (3)本件作品3が著作物であるか(争点3・請求原因) (4)原告が本件作品3の著作者であるか(争点4・請求原因) (5)本件システムが原告の著作物に該当するか(争点5・請求原因) (6)本件各作品及び本件システムが職務著作に該当するか(争点6・抗弁) (7)本件各作品につき著作権侵害又はそのおそれがあるか(争点7・差止請求の主位的請求原因) (8)本件覚書に違反した不法行為に基づき、本件システムの使用等の差止めを求めることができるか(争点8・差止請求の予備的請求原因) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件作品1が著作物であるか)について 【原告の主張】 本件作品1は、原告の医師としての経験に基づき、画像診断の読影方法を体系化したものであり、原告独自の判定方法が記載されたものであるから、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり、著作物に該当する。 【被告の主張】 本件作品1は、画像読影や診断を定義し、判定作業の現状や判定支援の方法について説明する内容であり、いずれも事実又はアイディアを記載したにすぎない。また、具体的な表現も、客観的な叙述であり、創作性がない。 よって、本件作品1は、著作物に該当しない。 2 争点2(本件作品2が著作物であるか)について 【原告の主張】 本件作品2は、腹部超音波検査を題材に、画像診断時における、検査画像の読影方法、所見の判定方法、診断の確定方法及び診断内容の指示方法という4項目の診断過程について、原告自身の理論や経験則を図示したものであり、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであるから著作物に該当する。 【被告の主張】 本件作品2は、原告の判断事項を適宜取捨選択し、その判断事項を概ねイエス・ノーの二者択一で選択させ、その選択に従って、順次、次の判断に進んでいく構成をとっており、それ自体ありふれているし、判断結果や警告アラームの表示等もいずれもごくありふれた一般的な手法を用いているにすぎない。 よって、本件作品2は、著作物としての創作性や独創性を有さないから、著作物に該当しない。 3 争点3(本件作品3が著作物であるか)について 【原告の主張】 本件作品3は、原告の画像診断に係る理論や経験則に基づいてされる画像診断において比較検討すべき複数の情報を見やすく配置し、一つの画面上において容易に経時的な比較、解析ができるように工夫されたものである。また、分類項目をタップすれば、瞬時に画像や情報が表示されるデザインであり、これも、原告の発案に基づく画像診断を行うために工夫されたものである。 よって、本件作品3は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであるから著作物に該当する。 【被告の主張】 医療現場におけるシステムでは、医師等が迅速かつ正確に判断するための情報を把握するため、基本情報を含む複数の情報を一覧できる画面レイアウトとすることが求められる。そして、必要な情報を可能な限り同一画面に収めようとすると、配置は自ずから限られたものになり、本件作品3の配置のようなものとならざるを得ない。加えて、本件作品3は、従前から原告において使用していた所見用紙等を基礎に作成されたものである。 よって、本件作品3は、創作性がなく、著作物に該当しない。 4 争点4(原告が本件作品3の著作者であるか)について 【原告の主張】 本件作品3は、原告が発案し、日立ソフトがプログラム化したものであるから、原告が著作者である。 【被告の主張】 本件作品3は、原告が所属していた医療情報室の室員やその他の職員が関与した上で作成されたものであるが、実際に、同画面を作成したのは、被告が本件システムの開発を委託した日立ソフトである。 よって、本件作品3の著作者は、被告又は日立ソフトであり、原告ではない。 5 争点5(本件システムが原告の著作物に該当するか)について 【原告の主張】 本件システムは、原告の著作物である本件各作品を複合し、かつ、その背景にある原告の理論や経験則を利用して作成されたものである。 よって、本件システムは、原告が著作者であり、著作権者であるところ、被告は、原告の許諾なく、本件システムを使用している。 【被告の主張】 著作権法は、表現を保護するものであり、アイディアそのものを保護するものではなく、本件システムそれ自体は原告の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから、本件システムが本件各作品に表象された原告のアイディアを踏まえたものであったとしても、原告が著作者となるものではない。 また、本件システムを開発したのは、被告又は被告から開発を委託された日立ソフトであるから、仮に著作権の対象であるとしても、著作権者はこのいずれかであり、原告ではない。 6 争点6(本件各作品及び本件システムが職務著作に該当するか)について 【被告の主張】 本件各作品及び本件システムの作成にあたり、原告が関与したことや、本件作品1を原告が執筆したことは認める。 しかし、これらは、原告のみで作成されたものではなく、被告の医療情報室のスタッフや他科の医師なども関与したうえで作成されており、被告の業務の中で作成されたものである。 原告と被告は、本件覚書を取り交わしたり、仕様変更の際に原告の承認を得ていたりしていたが、これは、当時、医療情報室のアドバイザーであった原告の職位に鑑み、被告における本件システムの使用上のルールを定め、これに則っていたにすぎず、原告固有の著作権を認めたものではない。 よって、本件各作品及び本件システムは、いずれも、職務著作であり、被告が著作権者となる。 【原告の主張】 本件各作品及び本件システムは、いずれも、原告独自の理論と経験則に基づいたものである。原告は、被告において医師として勤務しており、これらの著作物を創作すべき職責を負っていなかったし、被告が、原告に対し、これらの著作物を創作するように指示したこともない。 そうすると、本件各作品及び本件システムは、いずれも、職務著作には該当しない。 7 争点7(本件各作品につき著作権侵害又はそのおそれがあるか)について 【原告の主張】 被告は、原告の本件各作品の各著作権を否認した上で、これらを複合して作成された本件システムを、原告の監督及び確認がないまま使用し続けている。 よって、被告は、本件システムを使用し続けることで、原告の本件作品1に係る著作権を侵害し、また、将来にわたり侵害し続けるおそれがある。 【被告の主張】 争う。 8 争点8(本件覚書に違反した不法行為に基づき、本件システムの使用等の差止めを求めることができるか)について 【原告の主張】 被告は、本件覚書に基づき、本件システムを使用するためには、原告が定めたルールに基づき、原告の許諾を得て使用する義務を負っていた。しかし、被告は、原告が退職した後、原告の許諾を得ることなく本件システムを使用し続け、特に、原告独自の経験則が強く反映されていることから、原告が個別に結果を検証しなければ誤診のおそれがあるAボタンも使用し続けている。 このように、被告は、本件覚書に違反し、原告の許諾なく、誤診の危険を伴う画像診断を実施した不法行為があり、これを防止するために、本件システムの使用等を差し止める必要がある。 【被告の主張】 争う。 本件覚書は、前記6【被告の主張】のとおり、原告の職位に鑑み、被告における本件システムの使用方法について合意したのみであり、被告が、原告の許諾なく本件システムを使用することを禁止するようなものではない。 第4 判断 1 争点1(本件作品1が著作物であるか)について (1)本件作品1の内容は、別紙1記載1のとおりであり、最初に、画像診断の役割と「画像データ複合処理システム」構築の目的が述べられ、画像読影、画像診断、複合所見の統合化における医師の所為の実際や判断作用が述べられた後、判断作用の現状とシステムを用いた判断支援の方法を論じ、その資料として本件作品3が添付されている。次いで、腹部超音波検査における胆のうポリープと脂肪肝を例にとって上記判断作用と判断支援を説明するものである。次いで、本件作品2に係るフローチャートの説明がされている。また、末尾には「比較による相対化を基にした画像診断の方法」の概念及び要旨として、本文の要旨が添付されている。 (2)上記本件作品1の内容は、おおむね画像を経時的に用い、あるいは他のバイタル情報や検査結果等を総合して患者の状態を鑑別、診断するという、医師の判断過程を記述したものであるといえ、思想、内容自体はある程度普遍的なもの(少なくとも、原告固有の思想やアイディアとまではいえない。)とは言い得るものの、原告の医師としての経験に基づき、医療現場における画像診断の役割と現状の問題認識を明らかにし、診断過程を分析し、条件分岐による画像診断の手順を提案するものであって、また、本件作品1は、本件作品2を添付し、腹部超音波検査における診断方法を例示し、その内容を原告なりの表現で言語化するなど、表現上の工夫も認められるのであって、表現の選択の幅の中からこれらの表現を選択して構成し、全体としてまとまった記述をしたことには原告なりの個性が現れているということができる。 (3)よって、本件作品1は、(後記のとおり、創作性を欠く部分(本件作品2、同3)及び原告の創作によらないもの(本件作品3)も含まれるものの)これを全体としてみた限りでは、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであって、著作物であるといえる。 被告は、本件作品1が事実又はアイディアを記述したものにすぎず、その表現上の工夫もないと主張するが、上記のとおり、本件作品1を全体として観察すると、単なる事実やアイディアを表現したものとまでは言えないというべきであって、被告の主張は採用できない。 2 争点2(本件作品2が著作物であるか)について 本件作品2は、別紙1記載2のとおりであり、本件作品1の「腹部超音波検査における読影・判断支援の方法」という部分に記された腹部超音波検査における診断過程を、フローチャートを用いてA3用紙1枚内に図示したものである。 この点、当該診断過程そのものは本件作品1に記載されており、本件作品2は、一般的なフローチャートの作成方法にしたがってこれを図示したにすぎないものである。そして、フローチャートは、用いる図形等にも制約があるなど、その性質上表現上の選択の余地に乏しいうえに、本件作品2を具体的に検討しても、原告の個性の表れとしての格別の表現上の工夫を見いだすことができない。 そうすると、本件作品2は、本件作品1の基となったアイディアを単にありふれた表現で図示したものにすぎないというべきであって、それ単体としては創作性を欠くものというべきである。 したがって、争点2における原告の主張は、理由がない。 3 争点3(本件作品3が著作物であるか)について 本件作品3は、別紙1記載3のとおりであって、本件作品1に記された原告の画像診断方法を実現するために必要な情報や患者の基本情報がコンピュータ・システムで管理されることを前提とし、当該情報のうち画面に表示されるものを所定のレイアウトに従って列挙したものである。全部で8画面分あるが、うち7画面は、同一画面の中にある臓器別に分かれたタブを切り替えたもので画面構成としては同じであり、実質的には2画面分のものである。 この点、コンピュータ・システムの画面における情報表示のあり方は、画面のサイズや必要な情報が決まれば、おのずと導き出されるものであり、またその配置に関しても、もともと選択の幅は限られるのであって、現に本件作品3においても、一般的な医療システムと比較して、原告の個性の表れとしての具体的な表現上の工夫を見いだし得ない。 そうすると、本件作品3は、本件作品1の基となったアイディアを単にありふれた表現でシステムの画面レイアウトに落とし込んだものにすぎないから、それ自体には創作性が認められず、著作物には該当しない。 争点3に係る原告の主張は、理由がない。 4 争点4(原告が本件作品3の著作者であるか)について 本件作品3の画面を実際に作成した者が日立ソフトであること、被告が、日立ソフトに本件システムの開発を委託したことについては、当事者間に争いがない。 そうすると、仮に本件作品3になんらかの創作性が認められるとしても、これを実際に創作したのは、日立ソフトであり、被告及び日立ソフト間の著作権の取扱いの定めによっては、被告が著作権を有することもあり得るが、少なくとも、原告が本件作品3の著作権者となる余地はない。 この点、原告は、本件作品3は、原告の理論や経験則が反映されているものであると主張するが、これは思想ないしアイディアそのものの保護を求めるものであって、採用の余地はない。 よって、原告は、本件作品3の著作者とは認められず、本件作品3に係る著作権者とは認められない。 5 争点5(本件システムが原告の著作物に該当するか)について (1)原告は、本件システムが、本件各作品を複合したものであり、原告の画像診断に関する理論や経験則が反映されたものであるから、著作物に該当すると主張する。 しかし、原告の主張は、本件システムに関する表現上の創作性をいうものではなく、単に、本件作品1に表象された原告の思想ないしアイディアの保護を求めるものである。 (2)また、前記4のとおり、本件システムを実際に作成した者が日立ソフトであること及び被告が日立ソフトに本件システムの開発を委託したことについては、当事者間に争いがない。そうすると、本件システムが著作物であるとしても、前記4と同様、その著作者は日立ソフト又は同社に委託した被告であり、原告は著作者とは認められない。著作権が法定の権利であることに照らし、本件覚書や被告の内部文書(甲8)に、著作者を原告とする旨の記載があるとしても、前記判断は左右されない。 (3)よって、本件システムにつき、原告は著作者と認められない。 6 争点6(本件各作品及び本件システムが職務著作に該当するか)について (1)前記1ないし5のとおり、本件作品2、同3及び本件システムは、いずれも、著作物に該当しないか、又は著作物に該当したとしても原告に著作権等が帰属するものではない。 (2)本件作品1について検討する。 本件作品1が、原告の単著論文であることには争いがない。そして、被告が、原告に対し、本件作品1の執筆を指示したとはうかがわれず、本件作品1にも、原告の肩書として被告における職位等は何ら記載されていない。一方、被告は、原告が、本件作品1につき、文化庁に著作権の登録をしたことについても是認している(甲2、5)。 そうすると、仮に本件作品1が職務著作に該当するとしても、少なくとも、被告は、原告が本件作品1の著作権者とすることを認めていたものと認められる(著作権法15条1項は、個別の著作物についてなお被使用者に著作権を留保することを否定するものではない。)。 被告は、上記のような取扱いや、本件覚書等は、原告の被告における職位に合わせた対応をしたのみであり、著作権者であることを認めたものではないと主張する。しかし、将来の改変に際し、原告の許諾を要するかを検討する場合は別段、一度公にすればその段階で内容が変更されることのない本件作品1について原告名義での著作権の登録を是認していたことに鑑みれば、少なくとも本件作品1に関する限りでは、被告の主張は採用できない。 よって、本件作品1は、職務著作に該当するか否かにかかわらず、原告が著作権等を有するものと認められる。 7 争点7(本件各作品につき著作権侵害又はそのおそれがあるか)について 原告は、被告が本件システムを使用し続けることが、本件作品1の著作権を侵害し、又は将来にわたり侵害するおそれを生じさせるものであると主張する。しかし、原告が本件システムにつき何ら著作権法上の権利を有しておらず、原告の主張は畢竟アイディア自体の保護を求めるにすぎないことは前判示のとおりであって、原告の主張は失当である。 そして、原告は、本件作品1につき、被告がいかなる態様で著作権(支分権)を侵害するのかを再三の釈明にもかかわらず特定できていないのであって、この点からも、本件作品1について、著作権侵害又はそのおそれがあるとは認められない。 8 争点8(本件覚書に違反した不法行為に基づき、本件システムの使用等の差止めを求めることができるか)について (1)そもそも、不法行為の効果として差止請求権の発生を観念することはできないから、原告の主張はそれ自体失当であるが、原告の主張は本件覚書を根拠とするもののようにも解されるため、念のため検討する。 (2)原告は、本件覚書に基づき、被告が本件システムを使用し、改変するためには、その都度、原告の承諾を得なければならない義務を負っていると主張する。 この点、本件覚書には、被告において、本件システムの改変を行うとき等には、原告の許可を得るべきことが記載されており、現に、原告が退職するまでは、本件システムの改変に際し、少なくとも原告の確認を得る運用があったことが認められる(甲7の1ないし8、8)。 一方、本件システムの開発や運用は、被告が主体的に行ったことからすれば、本件システムの管理権限や運用によって生ずる責任は被告に帰属するものであり、また、医学、医療機器の進歩や不具合等に対応するための改修までもが永久に原告の許可がないとできないとすることは余りに不合理であって、そのような合意をしたものとは解されない。そうすると、前記の運用は、原告が、被告の医療情報室のアドバイザーであり、かつ、本件システム開発に関与した中心的人物であり、独自の見解に基づき著作権等を主張したことから、原告がその職位にある場合における被告内における本件システムの改修につき確認を求めていたものと解することが相当である。 そうすると、(原告が被告を退職した現時点においてなお、)被告が、本件覚書に基づき、本件システムの使用や改変に際し、原告の承諾を得るべき義務(承諾を得ない限り改変してはならない義務)を負うものとは認められない。原告が、被告を退職するに際し、本件システムに関する覚書を締結しようとしたが、被告がこれに応じなかったこと(甲11、原告本人)は、このことを裏付けるものである。 (3)また、原告は、原告の独自の経験則等に基づく診断結果を表示するAボタンについて、原告の経験則に強く依拠するものであるから、これを使用し続けることは、誤診のおそれを招くものであり、そのような危険な状態で本件システムを使用することが不法行為に該当すると主張しているとも解される。 しかし、医師の診断といえども一定の客観性を備えるべきことは自明である上、システムによる画像診断は、あくまでも医師の診断をサポートする補助的なツールであって、最終的な診断を行うのは、これを使用する医師自身である。このことは、原告自身、被告に在籍していたときに配布していた本件システムの使用申請書に明記していることである(甲5、6)。 原告の主張は、独自の見解をいうものであって、被告が本件システムの利用をすることが何らかの不法行為を構成する余地はない。 第5 結論 以上の次第で、原告の請求は、原告及び被告の間で、本件作品1について著作権及び著作者人格権を有することを確認する限度で理由がある(被告が本件作品1について著作物であることを争うこと等から、この限度では確認の利益も認められる。)からこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないので全部棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法64条ただし書、61条を適用して、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 西尾太一 別紙1 別紙2 |
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