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【事件名】経理管理プログラムの職務著作事件
【年月日】令和7年11月20日
 大阪地裁 令和7年(ワ)第389号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 令和7年9月25日)

判決
原告 A
被告 エデュ・プラニング株式会社
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 財前昌和


主文
1 被告は、原告に対し、19万4527円及びこれに対する令和7年1月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを30分し、その29を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
【主位的請求】
1 被告は、原告に対し、56万9500円及びこれに対する令和7年2月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、158万6786円及びこれに対する令和7年1月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告は、原告の許諾なく、別紙1「著作物目録」記載の著作物を使用してはならない。
4 被告は、原告に対し、295万円及びこれに対する令和7年2月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
5 被告は、原告に対し、440万6286円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
【主位的請求第4項に対する予備的請求】
1 被告は、原告に対し、229万円及びこれに対する令和7年2月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 原告の請求
(1)請求の趣旨第1項
ア 主位的請求
 原告及び被告の間の労働契約に基づく、令和5年9月分、令和6年3月分及び同年9月分の未払賞与合計56万9500円及び同額に対する本訴状送達の日の翌日である令和7年2月8日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求
イ 予備的請求
 被告代表者が、原告との間の信頼関係を裏切り、被告の財産を散逸させるような背任行為をし、原告に精神的損害を被らせたとして、民法710条又は民法709条及び会社法429条(法人代表者たる被告代表者の行為によって原告に生じた損害の賠償を求めていることから、会社法350条に基づく請求とも解される。)に基づく損害賠償56万9500円及び同額に対する本訴状送達の日の翌日である令和7年2月8日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求
(2)請求の趣旨第2項
 原告及び被告の間の労働契約に基づく、令和4年1月から令和6年11月11日までの時間外労働及び休日労働に対する未払割増賃金(以下「未払残業代」という。)計158万6786円及び同額に対する賃金支払日より後の日である令和7年1月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求
(3)請求の趣旨第3項
 原告が、別紙1「著作物目録」記載の著作物の著作権者であるとして、著作権法112条に基づく、同著作物の使用差止め請求
(4)請求の趣旨第4項
ア 主位的請求
 前記(3)記載のとおり、原告が、別紙1「著作物目録」記載の著作物の著作権者であることを前提とし、被告が、令和5年10月から令和6年12月まで、原告に対し、何ら対価を支払わないままこれを使用したばかりか、その権利行使を妨害する不法行為をしたとして、民法709条及び710条に基づく、同著作物の使用料相当額225万円及び慰謝料70万円の計295万円並びに同額に対する本訴状送達の日の翌日である令和7年2月8日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求
イ 予備的請求1
 被告が、何ら対価を支払うことなく、原告が作成した別紙1「著作物目録」記載の物を使用し、その便益を享受する一方で、原告に対し、上記ア記載の使用料相当額225万円の損害を被らせたとして、民法703条に基づく不当利得225万円及び前記アの不法行為に基づく慰謝料70万円の合計295万円並びに同額に対する本訴状送達の日の翌日である令和7年2月8日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求
ウ 予備的請求2
 原告と被告の間で、別紙1「著作物目録」記載の物を作成することを約する請負契約が成立したとして、民法632条に基づく報酬159万円及び前記アの不法行為に基づく慰謝料70万円の合計229万円並びに同額に対する本訴状送達の日の翌日である令和7年2月8日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求
(5)請求の趣旨第5項
 労働基準法114条に基づく、上記(1)ア記載の未払賞与56万9500円、同(2)記載の未払残業代158万6786円及び同4(1)ア記載の未払使用料225万円の計440万6286円の付加金並びに同額に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求
2 前提となる事実(証拠については枝番を含む。以下同じ)
(1)当事者
ア 原告は、令和3年12月13日から被告の従業員として勤務していた「(以下、原告及び被告の間における労働契約を「本件労働契約」という。)。
イ 被告は、教育教材の作成、学習塾、予備校、文化教室等の運営及び講師派遣等を目的とする会社である。なお、被告代表者は、原告が被告に就職してからは変わっていない。
(2)原告の被告における労働条件及び給与の支払状況等
ア 原告は、令和3年11月24日、被告に雇用されることに先立ち、要旨、以下の内容が記載された労働条件通知書(以下「本件通知書」という。)を受け取り、同記載の内容を承諾する旨が記載されていた欄に署名し、本件労働契約の内容として承諾した(乙15。ただし、賞与の権利性に係る合意内容については争いがある。)。また、被告が同年9月21日に公共職業安定所において掲載していた求人票(以下「本件求人票」という。)には、賞与について「あり(前年度実績あり)年2回(前年度実績)賞与月数計2.00ヶ月分(前年度実績)」と記載されていた(甲1)。
(ア)契約期間
 期間の定めなし
(イ)従事すべき業務の内容
 小・中・高向け教材(英・国・数/算・理・社)の教材編集/執筆その他これらに付随する業務全般
(ウ)始業、終業の時刻、休憩時間、所定時間外労働の有無に関する事項
 午前9時始業、午後6時終業、休憩時間60分
 所定時間外労働及び休日労働いずれもあり
(エ)休日
 土曜日、日曜日、国民の祝日、夏期、年末年始
 夏期及び年末年始については、毎年、被告が指定する。
(オ)休暇
 法定の年次有給休暇のほか、会社規則による
(カ)賃金
 基本給 月額32万円
 諸手当交通費:合理的最短経路による実費を支給。ただし、3万円を上限とする。
(キ)時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金率
 法定超25%、法定休日35%、深夜25%
(ク)賃金締切日10日
(ケ)賃金支払日当月末日
(コ)賃金の支払方法本人が指定する口座への振込
(サ)労使協定に基づく賃金支払時の控除なし
(シ)昇給4月。本人及び会社の業績を総合勘案する。
(ス)賞与9月、3月。本人及び会社の業績を総合勘案する。
(セ)退職金なし
イ 原告の基礎賃金は、以下のとおりであった(いずれも支給月である。以下同じ)。また、原告の月平均所定労働時間は160時間40分であった。
(ア)令和4年1月から同年5月まで月32万円
(イ)同年6月から令和5年4月まで月33万円
(ウ)同年5月から令和6年11月まで月33万5000円
ウ 原告は、令和5年1月から、被告の総務部に所属することとなった。
エ 被告は、令和6年9月11日、大阪中央労働基準監督署から、常時10人以上の労働者を使用しているにもかかわらず、就業規則を所轄労働基準監督署長に届け出ていないこと、賃金規定を労働者に周知していないことなどを含む違反事項を是正する旨、勧告された(甲2)。その後、被告は、同年10月22日、同労働基準監督署長に対し、就業規則(以下「本件就業規則」という。)を届け出た「(甲28)。同就業規則の内容のうち、本件に関係するもの(上記ア記載の内容と同旨のものを除く)は、要旨、以下のとおりである。なお、届け出られた同就業規則には、令和5年4月1日から施行するとの記載があった。(乙3)
(ア)所定外労働及び休日出勤(第54条)
a 所定外労働及び休日出勤は、所属長の命令に基づき行うことを原則とする。ただし、従業員が業務の遂行上必要と判断した場合は、事前に会社又は所属長に申請をし、許可を受けて行うことができる(同条4項)。
b 前項にかかわらず、事前に許可をうけることができないときは、事後直ちに届け出てその承認を得なければならない(同条5項)。
(イ)賃金(第73条)
 賃金については別に定める規程による。
(ウ)(職務著作に関する)著作権の帰属(第119条)
 会社の発意に基づき、従業員が職務上作成し、会社名義の下に公表した著作物(プログラムを除く。)及びプログラム著作物は、職務著作としてその権利は会社に帰属するものとする。
オ 本件就業規則73条に係る賃金規程(以下「本件賃金規程」という。)の内容は、要旨、以下のとおりである。なお、同賃金規程には、令和5年4月1日から施行するとの記載があった。(甲3)
(ア)賃金の構成(第4条)
 賃金の構成は、@基本給、A職務手当、B通勤手当、C時間外勤務割増賃金、D休日勤務割増賃金、E深夜勤務割増賃金とする。
(イ)割増賃金(第10条)
 割増賃金は、次の算式により計算して支給する。ただし、就業規則(適用除外)に該当する者(パートナー社員及び嘱託)は、以下の時間外、休日に関する割増賃金は適用しない。
a 時間外割増賃金(法定労働時間を超えて労働させた場合)
(基本給+諸手当)÷1か月平均所定労働時間×(1+0.25)×時間外労働時間数
 ただし、1か月の時間外労働が60時間を超えたときは、前項第1号の算式中「0.25」とあるのを「0.5」と読み替える。
b 休日割増賃金(法定の休日に労働させた場合)
(基本給+諸手当)÷1か月平均所定労働時間×(1+0.35)×法定休日労働時間数
c 深夜割増賃金(午後10時から午前5時までの間に労働させた場合)
(基本給+諸手当)÷1か月平均所定労働時間×0.25×深夜労働時間数
(ウ)賞与(第18条)
a 会社は、会社の業績、従業員各人の査定結果、会社への貢献度等を考慮して、原則として年2回、3月と9月の会社が定める日に賞与を支給する。ただし、会社の業績状況等により支給時期を延期し、又は支給しないことがある。
b 前項の賞与の算定対象期間は次のとおりとする。
 賞与支給月3月 前年9月1日から当年2月末日まで
 賞与支給月9月 当年3月1日から当年8月31日まで
c 賞与は、支給日当日に会社に在籍し、かつ通常に勤務していた者について支払うものとする。
カ 被告は、原告に対し、令和5年9月分として月額基礎賃金の0.8ヶ月分の、令和6年9月分として月額基礎賃金の0.5ヶ月分の賞与を支給した一方、令和6年3月分としての賞与は支給しなかった。
(3)原告は、令和5年9月20日頃、別紙1「著作物目録」記載の、表計算ソフトであるエクセル上で作動する経理業務に用いるためのプログラム(以下「本件プログラム」という。)を作成した。
(4)原告は、令和6年5月27日、被告に対し、弁済期を同年10月31日とし、無利子で1200万円を貸し付けた「(甲5。以下「本件貸付け」という。)。
3 争点
(1)未払賞与等関係の争点(争点A)
ア 年2回(3月及び9月)、合計基本給2ヶ月分の賞与を支給するとの本件労働契約上の合意が存在したか(争点A1)
イ 被告代表者が、被告の財産を浪費する等の背任行為を行い、原告の法益を違法に侵害したか(争点A2)
ウ 原告に生じた損害及びその額(争点A3)
(2)未払残業代関係の争点(争点B)
ア 原告の時間外労働時間及び休日労働時間(争点B1)
イ 未払残業代の額(争点B2)
(3)著作権等関係の争点(争点C)
ア 本件プログラムがプログラム著作物に該当するか(争点C1)
イ 本件プログラムが被告における職務著作に該当するか(争点C2)
ウ 本件プログラムの使用を差し止める必要性があるか(争点C3)
エ 被告が、法律上の原因なく、原告の労務によって作成された本件プログラムによる利益を受けているか(争点C4)
オ 原告と被告の間で、原告が本件プログラムを制作することを約する請負契約が成立したか(争点C5)
カ 被告が本件プログラムを使用したことによって原告に生じた損害及びその額等(争点C6)
(4)付加金関係の争点(争点D)
ア 付加金支払の要否(争点D1)
イ 付加金を付する対象となる賃金の範囲及び相当な付加金の額(争点D2)
第3 当事者の主張
1 争点A(未払賞与等関係の争点)について
(1)争点A1(年2回(3月及び9月)、合計基本給2ヶ月分の賞与を支給するとの本件労働契約上の合意が存在したか)について
【原告の主張】
 原告は、被告に就職する際、毎年3月及び9月に、合計基本給2ヶ月分の賞与を支給することが記載された本件求人票を提示され、被告代表者からもそのとおり賞与を支払うと告げられた。
 被告は、原告が被告に就職した令和3年12月13日当時、就業規則を作成しておらず、本件就業規則及び本件賃金規程を労働基準監督署長に届け出ていないことを指摘された令和6年9月11日以降も、本件賃金規程を従業員に周知していない。また、本件通知書には、具体的な賞与の額の記載がない。
 そうすると、原告及び被告の間に存在する賞与に関する具体的な合意内容を示すものは本件求人票のほかなく、その内容が本件労働契約の内容となるから、同求人票記載のとおり、被告は、本件労働契約に基づき、原告に対し、年2回、合計基本給2ヶ月分の賞与を支払う義務を負う。
 それにもかかわらず、被告は、原告に対し、令和5年9月分として月額基礎賃金の0.8ヶ月分の、令和6年9月分として月額基礎賃金の0.5ヶ月分の賞与を支給したのみで、令和6年3月分としては賞与の支給自体をしなかった。つまり、被告は、原告に対し、年2回、合計基本給2ヶ月分の賞与を支給する義務を負うから、各期月額基礎賃金の1月分が支給されるべきものとして、合計月額基礎賃金の1.7ヶ月分(=(1−0.8)+1+(1−0.5))の賞与が支払われていないものであるところ、原告の当時の月額基礎賃金は33万5000円であるから、被告は、原告に対し、合計56万9500円(=33万5000円×1.7ヶ月)の未払賞与を支払う義務を負う。
【被告の主張】
 原告及び被告の間に、具体的な賞与の金額を定める旨の合意は存在しない。
 被告は、本件通知書及び本件賃金規程において、賞与制度が存在することを明らかにしているが、具体的な支給額は、被告の業績や従業員それぞれの勤務状況等を考慮して決定され、被告の業績が悪化したとき等には支給しないこともあり得るものとされ、実際、令和6年3月分は、経営状態が悪かったことから、原告を含む全従業員に対し、支給しなかった。
 本件求人票に記載されている、年2回、合計基本給2ヶ月分という支給額は、あくまでも、同求人票を掲載した前年度の実績に過ぎず、同額の賞与が支給されることが労働契約の内容となることを意味するものではない。実際、本件通知書には、賞与は、年2回(9月及び3月)、本人及び被告の業績を総合勘案して支給されると明記されており、原告は、その内容を理解したうえで、本件労働契約を締結している。
 このように、被告における賞与は、任意的恩恵的給付と解されるものであるから、原告の賞与支払請求権は、被告が具体的な賞与額を決定して初めて生じるのであり、そのような決定がない中で、当然に年2回、合計基本給2ヶ月分の賞与を請求できるとする原告の主張は、前提を誤ったものである。
(2)争点A2「(被告代表者が、被告の財産を浪費する等の背任行為を行い、原告の法益を違法に侵害したか)について
【原告の主張】
 令和6年3月頃、被告の経営状態は相当程度悪化していた。そこで、原告は、被告の事業資金に充てるため、被告代表者を信頼し、善意で、本件貸付けを行った。一方、被告代表者は、その頃、十分な調査や収支計算等を行うことなく、無謀な投資や事業展開をしたり、被告の財産を私的に費消したりするなどの背任行為を繰り返し、被告の財産を毀損し、その結果、従業員に対して賞与を支払うことができなくなっていた。
 このように、被告が賞与の額を減額したのは、専ら、被告代表者の背任行為に伴う経営状態の悪化が理由であるところ、このような被告代表者の行為は、原告の善意と信頼を裏切るもので、原告の法益を違法に侵害するものといえる。
【被告の主張】
 否認し争う。
 原告が主張するような背任行為は存在しないし、そもそも、原告の被告に対する具体的な賞与請求権が存在しないのであるから、原告の主張の前提とするような法律上保護に値する権利ないし利益が存在しない。
(3)争点A3(原告に生じた損害及びその額)について
【原告の主張】
 前記(2)の侵害行為により、原告は多大なる精神的損害を被った。その損害を金銭評価するならば、56万9500円を下回らない。
 また、仮にそのような慰謝料の発生が認められないとしても、原告は、被告代表者が前記(2)のような行為に及んでいないとの信頼のもとで、無利息にて本件貸付けを行ったものであるところ、本来的には少なくとも年利12パーセントの利息を付して貸し付けたはずであることを踏まえると、その半年分の利息62万3342円(=1200万円×12%×158日÷365日)に概ね相当する金額として、56万9000円分の損害が生じたものといえる。
【被告の主張】
 争う。
2 争点B(未払残業代関係の争点)について
(1)争点B1(原告の時間外労働時間及び休日労働時間)について
 当事者の主張は、別紙2「残業代主張整理表」に記載のもの(被告の業務上利用されていたコミュニケーションツールであるSlackに残されていた記録に基づく原告の時間外労働の主張と、これに対する被告の反論)のほか、以下のとおりである。
【原告の主張】
ア 原告は、被告において、膨大な量の事務を任されており、休憩時間も電話対応等をせざるを得ない状態であった。そのため、別紙2「残業代主張整理表」記載の時間外労働のほか、毎朝15分と休憩時間1時間の合計1時間15分の時間外労働を行った。その時間外労働時間は、以下のとおりである。
(ア)令和5年1月から同年4月まで97.5時間
 出勤日数78日×(1時間+15分)
(イ)同年5月から令和6年11日11日まで437.5時間
 出勤日数350日×(1時間+15分)
イ 被告は、原告が、被告において残業許可制が採用されていたにもかかわらず、本件訴訟で主張する時間外労働は、いずれも事前又は事後に残業の許可を申請しなかったものであり、そのような労働があったとはいえない旨主張する。この点、原告が、令和4年1月、同年8月から12月、令和5年2月から令和6年10月までの間、被告に対し、事前又は事後に残業許可申請をしなかったことは認めるが、被告は、残業申請をしなかった従業員に対して残業代を支払ったことがあるし、被告内で、残業許可制が厳格に運用されていたことはなかった。また、被告は、原告に対し、時間内では到底処理できない分量の業務を与えており、少なくとも、黙示的に残業を指示していた。
【被告の主張】
ア 原告は、毎日、朝及び休憩時間に就労していたと主張するが、否認する。
 また、被告は、原告に対し、その時間帯は電話対応等の業務に従事しないように指示していた。
イ 被告では、本件就業規則に基づき、残業をするときは、原則として事前に上役の許可を得る必要があり、やむを得ない場合は、事後に許可を得る必要があった。実際、原告を除く被告従業員は、この運用を実践していた。
 しかし、原告は、令和4年1月、同年8月から12月、令和5年2月から令和6年10月までの間、被告に対し、事前又は事後に残業許可申請をしなかったのであるから、その間について、被告の指揮監督下での時間外労働はなかったものというべきである。
 また、原告は、令和4年4月20日頃、被告に対し、同年2月と3月にした時間外労働に対する割増賃金が支払われていないと主張し、被告は、これに応じて、同年4月、原告が主張したとおりの未払時間外割増賃金を支払ったが、その他、原告が、未払時間外割増賃金があると主張したことはなく、令和6年11月頃、本件プログラムの著作権について原告と被告の間で紛争が生じるや、未払残業代があるなどと主張するに至ったものである。このような経緯に鑑みれば、原告が主張する時間外労働の有無及びその時間は信用できない。
 そして、原告が主張する業務内容は、いずれも短期間で処理可能なものであるし、原告が提出する証拠からは、被告事務所において業務をしたかが明らかではない。
(2)争点B2(未払残業代の額)について
【原告の主張】
ア 別紙2「残業代主張整理表」に記載のもの
(ア)令和4年1月から同年5月までのもの
a 月額基礎賃金 32万円
b 月所定平均労働時間 160時間40分
c 残業時間合計 3.1時間
d 割増率 25パーセント
e 残業代 7718円
32万円÷160時間40分×3.1時間×1.25
(イ)同年6月から令和5年4月までのもの
a 月額基礎賃金 33万円
b 月所定平均労働時間 160時間40分
c 残業時間合計 6時間
d 割増率 25パーセント
e 残業代 1万5405円
 33万円÷160時間40分×6時間×1.25
(ウ)同年5月から令和6年11月11日までのもの
a 月額基礎賃金 33万5000円
b 月所定平均労働時間 160時間40分
c 残業時間合計 時間外労働分 65時間
 法定休日労働分 1.3時間
d 割増率時間外労働分 25パーセント
 法定休日労働分 35パーセント
e 残業代 17万3071円
33万5000円÷160時間40分×「(65時間×1.25+1.3時間×1.35)
(エ)小計 19万6194円
イ 朝15分、休憩時間1時間分の残業代
(ア)令和5年1月から同年4月までのもの
a 月額基礎賃金 33万円
b 月所定平均労働時間 160時間40分
c 残業時間合計 97.5時間
d 割増率 25パーセント
e 残業代 25万0324円
 33万円÷160時間40分×97.5時間×1.25
(イ)同年5月から令和6年11月11日までのもの
a 月額基礎賃金 33万5000円
b 月所定平均労働時間 160時間40分
c 残業時間合計 437.5時間
d 割増率 25パーセント
e 残業代 114万0268円
33万5000円÷160時間40分×437.5時間×1.25
(ウ)小計139万0592円
ウ 合計158万6786円
【被告の主張】
 原告の月額基礎賃金及び月所定平均労働時間並びに割増率は認める。
 その余は争う。
3 争点C(著作権等関係の争点)について
(1)争点C1(本件プログラムがプログラム著作物に該当するか)について
【原告の主張】
 本件プログラムは、被告にエクセルで用いることができるプログラミング言語であるVBAの知識を十分に有している者がいない中、原告が、被告の業務フローや従来の業務上の課題を踏まえたうえで、創意工夫して作成したものである。
 よって、本件プログラムは、原告の表現上の創作性が認められる著作物に該当する。
【被告の主張】
 本件プログラムは、被告の業務フローを踏まえたうえで、エクセルにあらかじめ用意されているツールを用い、これを、単純に組み合わせることによって作成することが可能なものであり、プログラムの表現に関する選択の余地はほとんど存在しない。
 よって、本件プログラムは、原告の個性が現れる余地がほとんどないものであるから、著作物性が認められない。
(2)争点C2(本件プログラムが被告における職務著作に該当するか)について
【原告の主張】
 本件プログラムは、原告が自らの発意に基づき、被告の業務時間外に作成し続けてきたものである。上記(1)【原告の主張】のとおり、被告には、VBAを使いこなせる者がおらず、本件プログラムを制作するときに、創作的な関与をすることができる者はいなかった。また、原告は、前記2のとおり、被告において、長時間の時間外労働を強いられており、業務時間中に本件プログラムを制作することはできなかった。
 よって、本件プログラムは、原告の著作物であり、かつ、被告における職務著作には該当しない。
【被告の主張】
ア 被告では、日常的に取引先に対する見積書等を作成していたところ、令和4年11月頃、クラウドを利用したこれらの書類作成システムの導入に関する営業を受けた。しかし、費用が高かったことから、原告に対し、同種システムの調査を指示したところ、原告は、令和5年2月上旬、エクセルのVBAを用いる方法でスモールスタートを試してはどうか、と提案した。
 そこで、被告代表者は、原告に対し、VBAによる各種書類作成アプリケーションの作成を指示し、原告は、業務時間中に、被告の従業員パソコンを用い、そこにインストールされているエクセルを用いて本件プログラムを作成した。
 その後、原告が本件プログラムの素案を作成し、被告の総務課従業員の意見も取り入れて修正し、インボイス等への対応をし、マニュアルを作成した結果、令和5年2月末頃、本件プログラムが完成し、同年10月頃から被告の業務で使用することとなった。
イ このように、本件プログラムは、被告の発意に基づき、原告が職務上作成したものであるから、仮に、本件プログラムが著作物に当たるとしても、その著作権は被告に帰属する。
(3)争点C3(本件プログラムの使用を差し止める必要性があるか)について
【原告の主張】
 被告は、原告が著作権を有する本件プログラムを、原告の許諾なく使用し続けており、これによって、原告には損害が発生し続けているから、被告に対し、本件プログラムの使用の差止めを求める必要がある。
【被告の主張】
 争う。
(4)争点C4(被告が、法律上の原因なく、原告の労務によって作成された本件プログラムによる利益を受けているか)について
【原告の主張】
 被告は、原告が本件プログラムを作成するに際し、何ら、投資や協力をしなかったし、完成後も、何ら対価を支払わなかった。そのため、原告は、少なくとも、本件プログラムのライセンス料相当額の損失を被った。
 一方、被告は、本件プログラムを業務上利用することで、コストの削減等、市販のアプリケーションを導入したものと同等の利益を得た。
 よって、被告は、法律上の原因なく、原告の労務によって作成された本件プログラムを用いることで利益を受け、そのために原告に損失を及ぼしており、これによって得た利益は不当利得に当たるから、原告に返還すべき義務を負う。
【被告の主張】
 争う。
(5)争点C5(原告と被告の間で、原告が本件プログラムを制作することを約する請負契約が成立したか)について
【原告の主張】
 仮に原告が本件プログラムの著作権者であると認められなかったとしても、原告と被告の間には、原告が本件プログラムを完成させることを内容とする請負契約が成立していた。
 そして、原告は、本件プログラムを完成させたから、被告は、原告に対し、民法632条に基づき、相当報酬額を支払う義務を負う。
【被告の主張】
 争う。
 被告は、原告と、本件労働契約を締結しているが、本件プログラムに関する請負契約を明示的にも黙示的にも締結したことはない。
(6)争点C6(被告が本件プログラムを使用したことによって原告に生じた損害及びその額等)について
【原告の主張】
ア 使用料相当額(請求の趣旨第4項に係る主位的請求及び予備的請求1)
 被告が、本件プログラムと同等の機能を有する市販のアプリケーションを導入した場合、初期費用として15万円、月額使用料として月12万円が必要となる。一方で、被告が本件プログラムを使用せず、従来の業務フローを採用していた場合、少なくとも1.5人分以上の人件費(月約50万円)が必要となる。
 このような本件プログラムを使用することによって被告が得る利益に照らせば、本件プログラムの使用料相当額は月15万円を下回らない。
 そして、被告は、少なくとも令和5年10月から令和6年12月までの15ヶ月間、本件プログラムを使用していたのであるから、原告には、使用料相当額である225万円(=15万円×15ヶ月)の損害が生じた。
 また、同様の理由により、被告は同額を法律上の原因によらず利得し、原告は同額の損失を被ったともいえる。
イ 本件プログラムを完成させたことに対する相当報酬額(請求の趣旨第4項に係る予備的請求2)
 上記アのとおり、仮に本件プログラムを使用せず、市販のアプリケーションを導入した場合、初期費用として15万円、月額使用料として月12万円が必要となる。そうすると、原告に対して支払われるべき相当報酬額は、市販のアプリケーションを導入し、1年間使用した場合の使用料である159万円(=15万円+12万円×12ヶ月)を下回らない。
ウ 原告の精神的損害に対する慰謝料(請求の趣旨第4項に係る主位的請求及び各予備的請求に共通)
 被告が、原告に対し、何ら対価を支払うことなく、不誠実な対応を続けたまま、原告の許諾なく本件プログラムを使用し続けていることで、原告は、精神的損害を被った。その損害を金銭的に評価すると70万円を下回らない。
【被告の主張】
 争う。
4 争点D(付加金関係の争点)について
(1)争点D1(付加金支払の要否)について
【原告の主張】
 被告は、原告に対し、賞与、残業代等の支払を拒み続けたばかりか、本件プログラムを無断で使用し続けたり、原告に対する不当な懲戒処分を科したりするなど、不誠実な対応を繰り返した。また、そのような対応は現在も継続している。
 また、被告は、長期間、就業規則を所轄労働基準監督署長に届け出ていなかったなど、労働関連法規を遵守する意識に欠けている。
 このような被告に対しては、労働基準法により、未払賃金と同一額の付加金の支払を命じることが必要かつ相当である。
【被告の主張】
 争う。
 被告は、本訴訟にも誠実に応訴している。また、未払残業代については、残業許可制が採用されているにもかかわらず原告がこれを遵守しなかった結果、被告が、原告の労働時間の管理をすることが困難になったものである。
 そうすると、本件で、被告に対し、付加金の支払を命じる必要性も相当性も認められない。
(2)争点D2(付加金を付する対象となる賃金の範囲及び相当な付加金の額)について
【原告の主張】
 未払賞与は、実質的に役務の対価としての性質を有する。また、本件プログラムの使用料相当額も、原告の役務の対価としての性質を有する。
 よって、付加金を付する対象は、未払残業代にとどまらず、未払賞与及び本件プログラムの使用料相当額も加えた440万6286円(=未払賞与56万9500円+未払残業代158万6786円+使用料相当額225万円)とすることが相当である。
【被告の主張】
 争う。
 労働基準法114条により、原告が請求しているもののうち、付加金の対象となるのは、未払残業代のうち、割増部分のみである。
第4 判断
1 争点A(未払賞与等関係の争点)について
(1)争点A1「(年2回(3月及び9月)、合計基本給2ヶ月分の賞与を支給するとの本件労働契約上の合意が存在したか)について
ア 前記前提事実によれば、被告には、年2回(3月及び9月)に賞与を支給する制度が設けられていること、具体的な支給額は、会社の業績や従業員の勤務成績等によって、被告が決定するものであることが認められる。
 そうすると、被告における賞与制度は、被告が上記事情を考慮して支給の可否や具体的な支給額を決定することができるものであり、そのような決定があって初めて具体的権利としての賞与支払請求権が発生するものと解されるから、原告が、被告が決定した金額を超える賞与の支払を求めることはできない。
イ 原告は、本件就業規則及び本件賃金規程の周知性を争った上で、本件通知書には、賞与について抽象的な記載しかないから、より具体的な本件求人票の記載内容が本件労働契約の内容になると主張する。
 しかし、まず、賞与の支給額は、必ずしもあらかじめ具体的に定められなければならないものではなく、その性質上、賞与の具体的支給の有無及び額について、各時点の業績や勤務状況などを踏まえた使用者の裁量に委ねることも、一般的に想定されるところである。
 そして、原告が具体的な賞与支払請求権の根拠とする本件求人票の記載を見ても、本件求人票は、令和2年度における実績として、年2回、計2か月分の支給があった旨を記載したにとどまるもので、同額の支給を予め確約する記載とはなっていない。他にも、原告と被告代表者間の個別の約束その他原告が主張するようなものも含め、原告と被告の間で、年2回、合計基本給2ヶ月分の賞与を支払うことが合意されていたと認めるに足りる証拠はない。
 よって、原告の主張は、前提を誤ったものであり、採用できない。
ウ 以上のとおり、原告及び被告の間には、年2回(3月及び9月)、合計基本給2ヶ月分の賞与を支給するとの本件労働契約上の合意その他具体的な賞与の支給額を定めた合意が存在していたとは認められず、そのことを前提とする未払賞与の請求に関する主張は、採用できない。
(2)争点A2(被告代表者が、被告の財産を浪費する等の背任行為を行い、原告の法益を違法に侵害したか)について
ア 原告は、被告代表者が原告の善意と信頼を裏切り、被告の財産を浪費する等の背任行為を行い、これにより、原告の法益を違法に侵害したと主張する。
イ しかし、仮に被告代表者が、原告の主張するような背任行為を行ったとしても、原告は、そもそも具体的な賞与請求権を有していないのであるから、賞与相当の損害を発生させるような法律上の保護に値する権利ないし利益及びその侵害を観念することができない。また、原告は、慰謝料ほか、本件貸付けに係る本来の利息相当分に関する主張をするが、損害の主張をするにとどまるものであって、損害賠償請求権発生の前提となる法律上の保護に値する権利ないし利益及びその侵害を、主張として構成することができているとはいえない。
 したがって、被告代表者の背任行為の有無などについて審理、判断するまでもなく、原告の主張するような損害賠償請求権が発生したものとは認められない(被告代表者による背任等を立証趣旨とする文書送付嘱託の申立てを却下したのは、このような理由による。)。
ウ よって、請求の趣旨第1項に係る予備的請求は、理由がない。
2 争点B(未払残業代関係の争点)について
(1)争点B1(原告の時間外労働時間及び休日労働時間)
ア 証拠(甲23、25)によれば、被告では、従業員間の連絡等のために、企業内コミュニケーションを用途とするグループウェアであるSlackが用いられており(そのため、業務に関する連絡を行った時刻とその内容が機械的かつ客観的に検証可能な状態で記録されている。)、その記録に基づけば、原告が、後記イの点を除き、別紙2「残業代主張整理表」の「原告の主張」欄記載の内容の業務を、同記載の時刻まで行っていたことが認められる。
 一方、原告は、Slackに記録されているもの以外にも、毎日平均して朝15分、休憩時間1時間の時間外労働をしていたと主張する。しかし、その主張は、Slackの履歴ほか客観的な裏付けを欠くもので、原告が現にそのような時間外労働をしていたとも、それが被告からの業務指示に基づくものであったとも認めるに足りる証拠はない。
 よって、原告の時間外労働時間及び休日労働時間は、別紙2「残業代主張整理表」記載のうち、後記イのとおり説示する部分を踏まえた、同別紙「裁判所の認定」欄記載の限度で認められ、これを給与支払期間で集計すると、別紙3「残業時間等集計表」記載のとおりとなる。
イ 原告は、令和6年4月5日、時間外に38分間、新規外注者の登録業務を行ったと主張する。しかし、同日のSlackの履歴には、被告従業員名義のメール本文が添付されているのみで、原告が、文面を作成したり、送信業務を担当したりしたなどとは認められないし、原告が主張する新規外注者の登録業務を行ったことが伺える記載もない。よって、原告が、同日、時間外労働をしたとは認められない。
ウ 一方、被告は、要旨、@被告では残業許可制が採用されているもので、原告からの同申請がなかったものは、真に残業がなされていたか疑わしい上、原告が令和4年4月20日頃に過去の時間外労働に対する賃金分を遡って支払うよう主張した際を含め、被告は、原告から申請のあった残業時間に対応する残業手当を支払ってきたもので、その他には、原告が、時間外割増賃金の請求をしたことはなかったから、原告の主張は信用できない、
A原告が主張する業務内容は、いずれも短期間で処理可能で、被告の事務所ではなく、自宅で数分程度作業すれば足りる程度のものであり、時間外労働時間があったとはいえない、などと主張するので、以下、検討する。
(ア)まず@の点については、残業許可制を採用したからといって、当然に、許可なくなされた時間外労働に対する賃金を支払わなくてよいことにはならず、労働基準法32条にいう労働時間としての実質、すなわち、使用者の指揮監督下にあったものと客観的にいえるかをもって、時間外割増賃金の対象となるかを判断することが相当である。
 そして、原告が、令和4年1月、同年8月から12月、令和5年2月から令和6年10月までの各月の給与支給に対応する期間分について、被告に対し、事前又は事後に残業許可申請をしなかったことは当事者間に争いがない一方、被告における残業許可制の運用を見ると、同制度に従い、残業許可申請を実践しているという被告従業員の一般的な様子がうかがわれるもので(乙22、23)、原告も、上記以外の期間において、所定の手続による残業許可申請をし、これに則った時間外労働に係る賃金の支給実績があることは確かである(乙17、25〜29)。しかし、被告においては、令和6年度でも、勤務時間管理を要する従業員が時間外労働をしたにもかかわらず残業申請をしない場合もあるものとうかがわれ(甲31、乙36)、本訴訟で原告が主張する時間外労働について、残業許可申請がなかったということをもって、直ちに時間外労働があったことを否定することは困難というべきである一方、上記のSlackの履歴からは、原告が被告の業務を当該時刻に行っていたことが客観的に裏付けられるのみならず、これについて、被告から異論が唱えられたことはうかがわれず、むしろ、勤務時間外に、原告に対しての指示や依頼が出されたり、原告の勤務時間外の投稿や業務に対して、謝意を示す投稿がされたりしたこともあることを読み取ることができる。
(イ)また、被告は、上記Aのとおり、原告が時間外に行ったと主張する業務内容は、いずれも短期間で終わるものであり、残業をする必要性がなかったとも主張するが、例えば見積書等を作成し、保存し、場合によってはタイムスタンプを付し、送信する作業という一事を見ても、相応の時間を要することがうかがわれるところであり、その他原告が主張する業務が終業時間内に終わらせられる程度のものであったと認めるに足りる証拠はない。
(ウ)以上からすると、上記アで認定の限りにおいて、原告は、残業許可申請をしていなかったものではあるものの、被告の指揮監督の下で時間外労働をし、被告は、その労働の成果を享受していたといえるから、時間外労働及びこれに伴う賃金の発生を否定する被告の主張はいずれも採用できない。
(2)争点B2(未払残業代の額)について
ア 上記(1)のとおり、被告は、原告に対し、別紙2「残業代主張整理表」の「裁判所の認定」欄記載の時間外労働に対する割増賃金を支払う義務を負うところ、その金額は、同別紙及び別紙3「残業時間等集計表」の各記載並びにイで補足するとおり、合計19万4527円であると認められる。
(ア)時間外勤務割増賃金合計 19万0821円(別紙3記載のとおり)
(イ)休日勤務割増賃金 3706円
 令和6年7月7日勤務分 1時間19分(79分)
 同月分基礎賃金 33万5000円
 月平均所定労働時間 160時間40分
 割増率 35%
 休日勤務割増賃金 3706円(33万5000円÷160時間40分×79分×1.35)
(ウ)合計 19万4527円
イ 原告は、令和4年1月から5月まで(基礎賃金が32万円の期間)の時間外労働時間が3.1時間、同年6月から令和5年4月まで(基礎賃金が33万円の期間)の時間外労働時間が6時間、同年5月から令和6年11月11日まで(基礎賃金が33万5000円の期間)の時間外労働時間が法定休日労働時間を含め66.3時間であり、各期間分の残業代を計算するときは、各期間に応当する月額基礎賃金を基礎とするべきであると主張する。
 ここで、原告が主張する、令和4年6月から令和5年4月までの時間外労働時間6時間とは、別紙2「残業代主張整理表」のうち、令和4年5月6日から令和5年4月25日までの時間外労働時間計5時間59分を意味するものと解される。
 しかし、本件賃金規程によると、被告では、毎月10日までの労働に対する賃金が、当月末日に支払われるから、時間外割増賃金を算定するときも、その給与計算期間に従って計算すべきである。そうすると、原告の3つの月額基礎賃金の各期間に対応する時間外労働時間は、別紙3「残業時間等集計表」記載のとおり、月額32万円のときについて3時間33分、月額33万円のときについて4時間43分、月額33万5000円のときについて法定休日労働時間1時間19分を除き計65時間11分を基礎として計算すべきである。
ウ よって、未払残業代の額は、19万4527円であると認められる。
3 争点C(著作権等関係の争点)について
(1)争点C2(本件プログラムが被告における職務著作に該当するか)について
ア 所論に鑑み、本件プログラムの著作物性(争点C1)についての判断に先行して、仮に本件プログラムの著作物性が認められたとしても、これが被告における職務著作に該当するかを検討する。
イ 証拠によれば、@令和5年1月27日頃、被告における経理業務の効率化を目的とする被告社内での検討の中で、市販のアプリケーションを購入、導入する案の一方で、エクセルでの情報処理に通じている原告が、いわば内製として、VBAを用いたエクセルファイルで被告の業務に適したプログラムを作成し、これで運用する案を提案したことをきっかけに、原告が、本件プログラムの作成に着手したこと、A原告が、業務時間中に、必要な情報や画像等を、被告代表者等とSlack上でやり取りをしながら収集し、本件プログラムを作成したこと、B本件プログラムを含むエクセルファイルが、同年2月6日頃、被告の従業員用パソコンで作成されたこと、C原告が、同年9月22日、業務時間中に本件プログラムのマニュアルを作成し、被告代表者等に内容の確認を依頼したこと(乙19ないし21、30ないし34)が認められる。
ウ 上記イの事実に鑑みれば、本件プログラムは、原告が所属する総務部においても使用される経理システムを導入するとの被告の判断に基づく各種検討の中で、原告が、被告における業務として、被告の従業員用パソコンを利用して作成したものであることが認められるから、本件プログラムは、その著作物性があると仮定した場合でも、被告の発意に基づきその従業員が職務上作成したプログラムの著作物であると認められ、著作権法15条2項又は本件就業規則第119条に基づき、その著作権は、被告に帰属するものと認められる。
 原告は、被告社内にはVBAに関する知識を有する者がいなかったなどと主張するが、本件プログラムの具体的内容の創作がもっぱら原告によるものであったとしても、職務著作該当性を否定する事情とはいえず、その主張は採用できない。
エ 以上のとおり、仮に、本件プログラムに著作物性が認められるとしても、被告の職務著作に該当するから、本件プログラムの著作権は被告に帰属するものと認められる。よって、原告が本件プログラムの著作権者であることを前提とする差止め及び損害賠償の請求はいずれも理由がない。
 また、被告による本件プログラムの利用は、その著作物性を仮定した場合も、自らの著作権に基づくものといえるから、法律上の原因を欠いた利得があるともいえず、不当利得返還請求も理由がない。
(2)争点C5(原告と被告の間で、原告が本件プログラムを制作することを約する請負契約が成立したか)について
 原告は、被告との間で原告が本件プログラムを制作することを約する請負契約が成立したと主張する。しかし、前記(1)の検討に照らせば、原告は、被告との間の労働契約のもとで、その労務の提供の一環として、本件プログラムを制作したと認められ、その対価は賃金に含まれていると解される「(なお、著作権法においては、特許法35条の職務発明対価制度に相当する規定は存在しない。)もので、被告との間で、別途の報酬を発生させるような請負契約が成立していたとは認められない。
 よって、原告の上記主張は採用できない。
4 争点D(付加金関係の争点)について
(1)争点D1(付加金支払の要否)について
 原告は、被告の悪質性等に鑑みれば、未払賃金と同一額の付加金の支払を命じることが必要かつ相当であると主張する。
 しかし、前記のとおり、被告においては、原告を含めた従業員の労働時間の管理として、残業許可制を採用していたもので、原告との関係においても、原告が被告での勤務を開始してから間もない令和4年1月18日分以降の時間外労働で、事前又は事後に原告から所定の手続に則って残業の申請があった分については、その申請に基づく残業手当を支給してきたことが認められる(乙17、24ないし29)ものである。他方で、結果として、原告の時間外労働に対する賃金につき、前記のとおりに一部不払があったことは確かであるものの、いずれも原告からの事前又は事後の所定の手続に基づく申請がなかった分であり、被告が、殊更に、賃金の不払いをしていたとはいえない。
 また、原告は、令和6年9月11日、大阪中央労働基準監督署から、就業規則の未届や賃金規程の周知不備等を是正勧告書によって指導されたことを指摘する。しかし、被告は、遅くとも令和5年4月1日には本件就業規則や本件賃金規程を定めていたものと認められるし、令和6年10月22日には、同労働基準監督署署長に対し、本件就業規則の届出を含む、同是正勧告に対する報告を行っている(甲3、28、乙3。なお、原告は、同指導後初めて本件就業規則及び本件賃金規程を作成した、同報告内容は虚偽であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)もので、少なくとも被告に対する上記一部不払の悪質性を根拠づけるものとはいえない。
 その他、本件の訴訟経過等を踏まえても、被告に対し、未払残業代の支払を命じるほか、さらに付加金の支払を命じる必要があるとは認められない。
(2)以上のとおり、裁判所は、被告に対し、付加金の支払を命じないから、争点D2については判断を要さない。
5 以上のとおりであるから、原告の請求の趣旨第1項、第3項ないし第5項に係る請求はいずれも理由がなく、同第2項に係る請求は、未払残業代19万4527円及び同額に対する賃金支払日より後の日である令和7年1月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分に限り理由があることとなる。
第5 結論
 よって、原告の請求は、本件労働契約に基づき、未払残業代19万4527円及び同額に対する賃金支払日より後の日である令和7年1月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、請求認容部分について申立てにより民訴法259条1項を適用して仮執行をすることができることを宣言することとし、訴訟費用の負担について民訴法64条本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 松川充康
 裁判官 島田美喜子
 裁判官 西尾太一


(別紙1)著作物目録
名称 「エデュ経理システム」
構成 「「エデュ経理システム」は、「「エデュ・プラニング発注明細システム」、「エデュ・プラニング見積請求システム」、「見積請求システム(入力用)」、「支払調書システム」の4つのVBA(Microsoftビジュアルベーシック)を用いてプログラミングされたエクセルファイルからなるソフトウェアである。
内容 「エデュ経理システム」は、従来からエデュ・プラニング合同会社において行われてきた経理業務に適応するように開発されたソフトウェアである。「エデュ経理システム」は、Microsoft「Windows「PCにおいて、動作することができる。
@「エデュ・プラニング発注明細システム」は、Google「Gmailアプリ、Adobe「Acrobatアプリと連携し、slack(グループウェア)のチャンネルにアップしたテキスト形式の発注申請を取り込み、発注書を発行し、外注者に向けて添付メールを発信することができる。また、「エデュ・プラニング発注明細システム」は、月毎に明細書を発行し、外注者に向けて添付メールを発信することができる。さらに、「エデュ・プラニング発注明細システム」は、月次資料、明細一覧、年間資料(部署別または外注者別)など資料を作成することができる。
A「エデュ・プラニング見積請求システム」は、各部署に配布している「見積請求システム(入力用)」、Adobe「Acrobatアプリと連携し、slack(グループウェア)を介して、見積書並びに請求書をタイムスタンプ付与の状態で発行することができる。また、「エデュ・プラニング見積請求システム」は、月次資料、年間資料(部署別売上、クライアント別売上、部署別クライアント売上)、支払確認資料など資料を作成することができる。
B「支払調書システム」は、Google「Gmailアプリ、Adobe「Acrobatアプリ、「エデュ・プラニング発注明細システム」と連携し、年末に支払調書及び徴収簿を発行し、外注者に向けて添付メールを発信することができる。また、「支払調書システム」は、外注費支払・源泉一覧資料を作成することができる。
 以上

※別紙2「残業代主張整理表」及び別紙3「残業時間等集計表」は掲載省略
line
 
日本ユニ著作権センター
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