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【事件名】ソネットへの発信者情報開示請求事件Q
【年月日】令和7年11月19日
 東京地裁 令和7年(ワ)第70137号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和7年9月18日)

判決
原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(以下「原告ソニー」という。)
原告 株式会社ワーナーミュージック・ジャパン(以下「原告ワーナー」という。)
原告 日本コロムビア株式会社(以下「原告コロムビア」という。)
原告 株式会社バンダイナムコミュージックライブ(以下「原告バンダイナムコ」という。)
原告 株式会社ポニーキャニオン(以下「原告ポニーキャニオン」という。)
上記5名訴訟代理人弁護士 笠島祐輝
被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 深沢篤嗣
同 堀田凌平


主文
1 被告は、原告ソニーに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告ワーナーに対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。
3 被告は、原告コロムビアに対し、別紙発信者情報目録記載3の各情報を開示せよ。
4 被告は、原告バンダイナムコに対し、別紙発信者情報目録記載4の各情報を開示せよ。
5 被告は、原告ポニーキャニオンに対し、別紙発信者情報目録記載5の各情報を開示せよ。
6 被告は、原告コロムビアに対し、別紙発信者情報目録記載6の各情報を開示せよ。
7 被告は、原告ポニーキャニオンに対し、別紙発信者情報目録記載7の各情報を開示せよ。
8 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項ないし第7項と同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、レコード製作会社である原告らが、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各発信者」という。)が、ファイル共有ネットワークであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を介して、別紙楽曲目録記載1ないし6の楽曲(以下、同目録記載の番号に応じて「本件楽曲1」などといい、これらを併せて「本件各楽曲」という。)に係る各レコード(以下、本件各楽曲の番号に応じて「本件レコード1」などといい、これらを併せて「本件各レコード」という。)を複製して作成した楽曲ファイルを、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態としたことにより、本件各レコードに係る原告らの送信可能化権(著作権法96条の2)を侵害したことが明らかであり、本件各発信者に対する損害賠償等を請求するため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載1ないし7の各情報(以下、これらを併せて「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(以下、単に「法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者
 原告らは、レコードを製作の上、これを複製して音楽CD、配信商品等として発売している株式会社である。
 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている株式会社である。
(2)本件各楽曲の発売
ア 原告ソニーは、令和6年10月6日、本件楽曲1の配信商品を日本全国で発売した。(甲3、30)
イ 原告ワーナーは、令和6年9月25日、本件楽曲2の商業用音楽CD(商品番号:WPCL−13606)を日本全国で発売した。(甲7、31)
ウ 原告コロムビアは、令和6年10月1日、本件楽曲3の配信商品を日本全国で発売した。(甲11、32)
エ 原告バンダイナムコは、令和6年7月24日、本件楽曲4の商業用音楽CD(商品番号:LACM−24607)を日本全国で発売した。(甲15、33)
オ 原告ポニーキャニオンは、令和6年10月2日、本件楽曲5の配信商品を日本全国で発売した。(甲19、34、35)
カ 原告コロムビアは、令和6年4月10日、本件楽曲6の商業用音楽CD(商品番号:COCC−18195)を日本全国で発売した。(甲23、36)
(3)株式会社Flow(以下「本件調査会社」という。)による音楽ファイルのダウンロード(甲2、3、6、7、10、11、14、15、18、19、22、23、26、27、弁論の全趣旨)
 原告らから依頼を受けた本件調査会社は、「P2PFINDER」という名称のシステム(以下「本件システム」という。)を利用して調査を行い、本件各レコードを複製した音楽ファイルをダウンロードした。
(4)被告による本件各発信者情報の保有
 被告は、本件各発信者情報を保有している。
(5)レコード製作者に係る条約
ア 実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(以下、下記イの条約と併せて「本件各条約」という。)11条には、次の規定がある。なお、同条約は、平成元年10月26日に、日本において効力を生じた。
「締約国は、レコードに関するレコード製作者若しくは実演家又はその双方の権利の保護の条件として国内法により一定の方式に従うことを要求する場合において、発行されたレコードの複製物であって市販されているもののすべて又はその容器に、保護が求められていることが明らかになるような適当な方法で最初の発行の年とともに(○にP)の記号が表示されているときは、その要求が満たされたものと認める。(後略)」
イ 許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約5条には、次の規定がある。なお、同条約は昭和53年10月14日に、日本において効力を生じた。
「締約国は、国内法令に基づきレコード製作者の保護の条件として方式の履行を要求する場合において、許諾を得て作成されたレコードの複製物であって公衆に頒布されたもののすべて又はその容器に最初の発行の年とともに(○にP)の記号が、保護の求められていることが明らかになるような適当な方法で、表示されているときは、その要求が満たされたものと認める。(後略)」
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)原告らが本件各レコードのレコード製作者に当たるか(争点1)
(原告らの主張)
 原告らは、それぞれ本件各楽曲を最初にレコードに固定した者であり、本件各レコードのレコード製作者に該当する。
(被告の主張)
 本件各レコードのパッケージには原告らの実名の記載はなく、原告らが本件各レコードのレコード製作者であることの十分な立証がない。
(2)本件各発信者情報が、本件調査会社が本件各発信者から本件各レコードを複製した音楽ファイルをダウンロードしたときのものか(争点2)
(原告らの主張)
 別紙発信者情報目録記載1ないし7の各日時は、本件調査会社が本件各発信者から本件各レコードを複製した音楽ファイルの一部をダウンロードした日時であり、同目録記載の各IPアドレス及び各ポート番号は、その際に本件各発信者に被告から割り当てられていたIPアドレス及びポート番号である。
(被告の主張)
 本件調査会社が、別紙発信者情報目録記載1ないし7の各日時に、各IPアドレス及びポート番号を使用していた者から、本件各レコードを複製した音楽ファイルをビットトレント上でダウンロードしたことにつき、十分な立証はない。
(3)送信可能化権侵害の有無(争点3)
(原告らの主張)
 本件各発信者は、ビットトレントネットワークにおいて、本件各レコードを複製した音楽ファイルを、不特定多数の他の利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたものであり、本件各レコードに係る原告らの送信可能化権を侵害した。
 法5条1項は、発信者の主観その他の原告らが関知し得ない事情まで原告らに主張立証責任を負わせるものではなく、また、原告らは、本件各発信者に対して損害賠償請求権及び差止請求権の行使のために本件各発信者情報の開示を求めているところ、差止請求権の行使については、本件各発信者の故意、過失は要件ではない。さらに、発信者の故意、過失の有無にかかわらず、著作隣接権の侵害は成立する。
(被告の主張)
 ビットトレントを利用してダウンロードしたファイルは、自動的に細分化されて他のビットトレントのユーザーによるダウンロードの対象となるものであり、本件各発信者は、本件各レコードを複製した音楽ファイルを主体的にアップロードが可能な状態とするための行為を行っているものではないことから、そのような複雑な技術的な仕組みを知らずに利用していた可能性は否定できず、本件各発信者の故意又は過失により原告らの送信可能化権が侵害されたことが明白とはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告らが本件各レコードのレコード製作者に当たるか)について
(1)本件レコード1について
 原告ソニーが本件レコード1を製作した旨の記載がある陳述書(甲3)、本件楽曲1の配信ウェブサイトには、本件各条約が定める(○にP)と同趣旨と解される(P)の記号と共に、西暦及び原告ソニーのアルファベット表記が記載されていること(甲30)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード1の音は原告ソニーによって最初に固定されたものと認められる。
 したがって、原告ソニーは本件レコード1のレコード製作者であり、本件レコード1につき送信可能化権を有する。
(2)本件レコード2について
 原告ワーナーが本件レコード2を製作した旨の記載がある陳述書(甲7)、本件楽曲2のCDには、本件各条約が定める(○にP)の記号と共に、西暦及び原告ワーナーのアルファベット表記が記載されていること(甲31)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード2の音は原告ワーナーによって最初に固定されたものと認められる。
 したがって、原告ワーナーは本件レコード2のレコード製作者であり、本件レコード2につき送信可能化権を有する。
(3)本件レコード3について
 原告コロムビアが本件レコード3を製作した旨の記載がある陳述書(甲11)、本件楽曲3の配信ウェブサイトには、本件各条約が定める(○にP)の記号と共に、西暦及び原告コロムビアのアルファベット表記が記載されていること(甲32)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード3の音は原告コロムビアによって最初に固定されたものと認められる。
 したがって、原告コロムビアは本件レコード3のレコード製作者であり、本件レコード3につき送信可能化権を有する。
(4)本件レコード4について
 原告バンダイナムコが本件レコード4を製作した旨の記載がある陳述書(甲15)、本件楽曲4のCDには、本件各条約が定める(○にP)の記号と共に、西暦及び原告バンダイナムコのアルファベット表記が記載されていること(甲33)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード4の音は原告バンダイナムコによって最初に固定されたものと認められる。
 したがって、原告バンダイナムコは本件レコード4のレコード製作者であり、本件レコード4につき送信可能化権を有する。
(5)本件レコード5について
 原告ポニーキャニオンが本件レコード5を製作した旨の記載がある陳述書(甲19)、本件楽曲5の配信ウェブサイトには、本件各条約が定める(○にP)の記号と共に、西暦、原告ポニーキャニオンのレーベル及び原告ポニーキャニオンのアルファベット表記が記載されていること(甲34、35)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード5の音は原告ポニーキャニオンによって最初に固定されたものと認められる。
 したがって、原告ポニーキャニオンは本件レコード5のレコード製作者であり、本件レコード5につき送信可能化権を有する。
(6)本件レコード6について
 原告コロムビアが本件レコード6を製作した旨の記載がある陳述書(甲23)、本件楽曲6のCDには、本件各条約が定める(○にP)の記号と共に、西暦及び原告コロムビアのアルファベット表記が記載されていること(甲36)及び弁論の全趣旨によれば、本件レコード6の音は原告コロムビアによって最初に固定されたものと認められる。
 したがって、原告コロムビアは本件レコード6のレコード製作者であり、本件レコード6につき送信可能化権を有する。
2 争点2(本件各発信者情報が、本件調査会社が本件各発信者から本件各レコードを複製した音楽ファイルをダウンロードしたときのものか)について
(1)前提事実、証拠(甲2、3、6、7、10、11、14、15、18、19、22、23、26、27、29)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有ネットワークである。ビットトレントネットワークで特定のファイルをダウンロードしようとする者は、インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトにおいて、当該ファイルの情報が記載されたトレントファイルを取得した後、ビットトレントのクライアントソフトに読み込むことで、当該ファイルを所有するユーザーの情報を取得し、当該ユーザーから当該ファイルの全部又は一部をダウンロードすることができる。
イ 本件調査会社は、本件システムを用い、次のとおり、本件各発信者情報を特定した。
(ア)本件調査会社は、インデックスサイトにおいて、本件各楽曲の楽曲名及び実演家名をキーワードとして、当該キーワードをファイル名に含む特定のファイル(以下「対象ファイル」という。)に係るトレントファイルを探索して取得した。
(イ)本件調査会社は、上記トレントファイルに記載された情報に基づき、対象ファイル全体を公開しているユーザーのIPアドレスを特定して対象ファイルの一部をダウンロードし、当該ダウンロードを行った日時、その際のユーザーのIPアドレス及びポート番号を記録した後、対象ファイル全体をダウンロードして取得した。
(ウ)別紙発信者情報目録記載1ないし7の各情報は、本件調査会社が、同目録の番号に対応する本件各レコード(ただし、本件レコード5は、同目録7にも対応している。)を複製した音楽ファイルをダウンロードした際に記録したものである。
(2)以上によれば、本件各発信者情報は、本件調査会社が本件各発信者から本件各レコードを複製した音楽ファイルをダウンロードしたときのものであると認めることができる。
 これに対し被告は、本件各発信者情報につき、本件調査会社が、本件各レコードを複製した音楽ファイルをダウンロードした時のものであることについて十分な立証がないと主張する。しかし、証拠(甲29)によれば、本件システムは、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会の認定を受けたシステムとして、P2Pを利用したユーザーのIPアドレス等を特定する方法についての信頼性が認められるのに対し、被告はその信頼性を損なうべき具体的な事情を何ら主張立証しないから、被告の上記主張は採用することができない。
3 争点3(送信可能化権侵害の有無)について
 上記1及び2によれば、原告らは本件各レコードに係る送信可能化権を有するところ、本件各発信者が本件各レコードを複製したファイルを不特定多数のビットトレント利用者からの求めに応じ自動的に送信し得る状態にしたことが認められるから、これにより本件各レコードに係る原告らの送信可能化権が侵害されたことは明らかである。
 これに対し被告は、本件各発信者は、本件各レコードを複製した音楽ファイルを主体的にアップロードが可能な状態とするための行為を行っておらず、ビットトレントの複雑な技術的な仕組みを知らずに利用していた可能性は否定できないから、本件各発信者の故意又は過失により原告らの送信可能化権が侵害されたことが明白とはいえないと主張する。しかし、被告の主張は抽象的な可能性をいうものにすぎず、これを裏付ける具体的な事情を何ら指摘するものではないから、権利侵害の明白性を左右するものとはいえない。
 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
4 原告らの開示請求について
 前提事実並びに上記2及び3によれば、本件各発信者情報を保有する被告は、法2条11号の「開示関係役務提供者」に該当すると認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件各発信者に対し、本件各レコードに係る送信可能化権侵害を理由として、損害賠償請求及び差止請求を準備していることが認められるから、原告らには本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
 したがって、原告らは、被告に対し、法5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求めることができる。
第4 結論
 以上によれば、原告らの請求は理由があるからいずれも認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 澁谷勝海
 裁判官 本井修平
 裁判官 塚田久美子

(別紙発信者情報目録 省略)
(別紙楽曲目録 省略)
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