| 判例全文 | ||
| 【事件名】「説得力アップブック」事件(2) 【年月日】令和7年11月19日 知財高裁 令和7年(ネ)第10038号 損害賠償請求、債務不存在確認請求控訴事件、投稿記事削除請求反訴控訴事件 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第33644号、令和4年(ワ)第16981号) (口頭弁論終結日 令和7年9月29日) 判決 控訴人 X 同訴訟代理人弁護士 太田真也 被控訴人 A法律事務所ことY1(以下「被控訴人Y1」という。) 同訴訟代理人弁護士 Y2 被控訴人 Y2(以下「被控訴人Y2」という。) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決主文第2項、第3項及び第7項(ただし、第7項については、下記(1)及び(2)の債務不存在確認請求のうち原判決主文第2項及び第3項で認容された部分以外の請求を棄却する部分)を次のとおり変更する。 (1)控訴人の被控訴人Y1に対する原判決別紙認定額一覧の表1(1)の「債務の内容」欄記載の各債務は、存在しないことを確認する。 (2)控訴人の被控訴人Y2に対する原判決別紙認定額一覧の表2の「債務の内容」欄記載の各債務は、存在しないことを確認する。 2 原判決主文第5項及び第8項(ただし、第8項については、インターネット上への掲載の差止請求のうち原判決主文第5項で認容された部分以外の請求を棄却する部分)を次のとおり変更する。 (1)控訴人は、自ら又は第三者をして、原判決別紙投稿記事目録記載2、3及び5から11までの各投稿記事(ただし、同3の投稿記事については原判決別紙削除対象の記載部分に限る。)若しくはその原稿の全部又は一部の複製として、「親子の引き離しで金儲けをしている」、「発展途上離婚弁護士」、「発展途上弁護士」、「ウソをつくようにそそのかす」、「ウソのつき方マニュアル」、「面会交流を制限するノウハウの販売ビジネスで収入を得ている」、「面会交流阻止マニュアル販売業」、「面会交流制限マニュアルのネット販売業」、「面会交流制限ビジネス」を営む、「面会交流制限マニュアル販売業者」、「親子引離しによるDVや児童虐待のノウハウを手ほどきしていた」、「残念弁護士」、「途上弁護士」の表現を用いた相手方に関する記事をインターネット上に掲載してはならない。 (2)被控訴人らのその余のインターネット上への掲載の差止請求を棄却する。 3 訴訟費用は第1、2審を通じて、被控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要(略語は原判決の表記に従う。なお、原判決に「別紙」とあるのは「原判決別紙」と、「別添」とあるのは「原判決別添」とそれぞれ読み替える。) 1 本件の本訴は、「法曹倫理委員会」と題し、URLをhttps://legal-ethics.info/とするページをトップページとするウェブサイト(本件サイト)の管理及び運営をする控訴人(一審本訴原告・反訴被告)が、①被控訴人(一審本訴被告・反訴原告)らに対し、本件サイトに被控訴人らに関する記事を掲載したことに関し、不法行為に基づく損害賠償債務の不存在の確認を求めるとともに(原判決本訴請求の趣旨(1))、②被控訴人Y1に対し、被控訴人Y1が同人のウェブサイトに記事を掲載したことが不正競争防止法(不競法)2条1項21号の不正競争に当たるとして、同法4条に基づき、損害賠償金150万円及びこれに対する不正競争行為以後の日である令和4年3月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める(原判決本訴請求の趣旨(2))事案である。 本件の反訴は、①被控訴人らが控訴人に対し、人格権に基づく侵害排除又は侵害予防請求として本件記事2ないし4の各記事の削除を求め(原判決反訴請求の趣旨(1))、②被控訴人Y1が控訴人に対し、人格権に基づく侵害排除又は侵害予防請求として本件記事5ないし11の各記事の削除を求めるとともに、被控訴人らが本件記事2及び3、被控訴人Y1が本件記事5ないし11の全部若しくは一部又は同各記事の原稿の全部若しくは一部の複製のインターネット上への掲載の差止め(原判決反訴請求の趣旨(2)及び(3))を求め、③被控訴人Y1が控訴人に対し、本件記事5ないし11の各記事の掲載が不法行為に当たるとして、慰謝料160万円(一部請求)及びこれに対する不法行為以後の日である令和5年5月22日(同各記事の最後掲載日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める(原判決反訴請求の趣旨(4))事案である。 原審は、①本件記事18の掲載による不法行為に基づく損害賠償請求債務の不存在確認に係る請求(原判決本訴請求(1)オ)は、訴訟物の特定として不十分であり、②原判決別紙著作物目録記載2のウェブページをPDF化したファイルを本件サイトに掲載したことによる、同ウェブページの著作権(公衆送信権)侵害を理由とする、被控訴人Y1に対する不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求、③原判決別紙投稿記事目録記載15の記事(ただし、令和4年10月18日時点のもの)の掲載による、被控訴人Y1の名誉権及び名誉感情侵害を理由とする、控訴人の被控訴人Y1に対する不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求、④原判決別紙投稿記事目録記載5から10まで及び12から16までの各記事(ただし、令和4年10月18日時点のもの)の掲載による、被控訴人Y2の名誉権及び名誉感情侵害を理由とする、控訴人の被控訴人Y2に対する不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認請求については、即時確定の利益があるということはできないとして、本訴に係る訴えの一部(原判決別紙却下部分)を却下した。 そして、その余に係る本訴請求の一部を認容し、その余の本訴請求をいずれも棄却し、反訴請求の一部を認容し、その余の反訴請求をいずれも棄却する判決をしたところ、控訴人が、前記第1控訴の趣旨記載の範囲で本件控訴を提起した。 被控訴人らは、原判決言渡し後に原審に提出し、当審において陳述した準備書面により、本訴に対する本案前の主張の一部(原判決別紙認定額一覧表1(1)及び表2の「債務の内容」欄記載の各債務についての本案前の主張(訴えの適法性に関する主張))を撤回した。 2 前提事実並びに争点及び争点に対する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の1ないし3(原判決4頁20行目から23頁13行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(以下、原判決を引用する場合は、「事実及び理由」との記載は省略する。)。 (1)原判決7頁18行目の「ア、」を削り、「ウ~オ」を「ウ~オ(ただし、ウの債務のうち本件記事12~14、16及び17に係るもの、エの債務のうち本件記事11及び17に係るものをそれぞれ除く。)」と改める。 (2)原判決7頁23行目の「しない」の次に、「(本訴請求(1)アの債務、同ウの債務のうち本件記事12~14、16及び17に係る債務、同エの債務のうち本件記事11及び17に係る債務をそれぞれ除く。後記ウに係る主張、同エのよって書きについても同じ。)」を加える。 3 当審における控訴人の主な補充主張 (1)原判決主文第5項について 原判決主文第5項に示されたように、「別紙投稿記事目録記載2、3及び5から11までの各投稿記事(ただし、同3の投稿記事については別紙削除対象の記載部分に限る。)の全部又は一部の複製をインターネット上に掲載してはならない」(主文中の「別紙」は原判決別紙を指す。)ということになれば、その「一部」については何らの限定も付されていないことから、例えば「岐阜県」とか「弁護士」といった単語や、「て」、「に」、「を」、「は」といった助詞すら、「別紙投稿記事目録記載2、3及び5から11までの各投稿記事」の「一部」であるから、およそすべての日本語で記載された投稿記事については余すところなくインターネット上に掲載してはならないということになりかねない。 仮に複製の単位を言葉や文字ではなく文章を単位とすると解釈しても、例えば「岐阜県にY1という弁護士がいる」といった全く何の問題もない表現まで制限されてしまうことになり、極めて広範に、控訴人の表現の自由を制限することになるため、不合理極まりない。 したがって、上記の「各投稿記事(ただし、同3の投稿記事については別紙削除対象の記載部分に限る。)の全部又は一部の複製」という規制の仕方は、「一部」について何らの限定もなされていないという点において、極めて広範な制限を認容し得る表現となっており、このままでは、控訴人の一切の表現行為が不可能となってしまう。 したがって、原判決主文第5項については、控訴の趣旨第2項(1)記載のように具体化して特定することを求める。 なお、名古屋高等裁判所令和5年(モ)第1035号保全異議申立事件において、同裁判所は、上記のように特定する旨の決定をしている(甲11)。 (2)著作権侵害について ア 著作物といえないこと 本件主張書面案(原判決別紙著作物目録記載1の主張書面案)は、その「主張書面案」という表題に示されているとおり、自らの主張したいことを記載した書面の案にとどまり、この主張書面案は、面会交流を制限したい立場の当事者において一般的に主張し得る事柄を列挙したものであるため、内容については概ね定型的に定まっているものといえる。本件主張書面案は、このような面会交流を制限したい立場の当事者であれば一般的に主張し得る定型的な記載事項を記載しているだけであるから、この点において創作性は認められない。 また、本件主張書面案は、面会交流を制限したい立場の当事者が、面会交流を制限するために主張すべき内容を記載したものであるが、そのような場合に、面会交流を制限するために主張すべき具体的な内容については、その当事者の置かれた状況や権利関係により自ずと定型的に定まった内容となるため、誰が表現しても同じような、ありふれた表現を記載したものとなり、創作性は認められない。 以上によれば、本件主張書面案は、誰が表現しても同じようなものになる、ありふれた、定型的な表現を記載したものに過ぎず、著作権法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」とはいえないため、著作物とはいえない。 そして、本件主張書面案が著作物とはいえない以上、控訴人の行為が著作権や著作者人格権の侵害となることはない。 イ 適法引用に当たること 本件各記事における本件主張書面案の掲載は、著作権法32条1項の適法引用に当たるため、著作権(公衆送信権)の侵害とはならない。以下、適法引用の要件に沿って検討する。 (ア)主従関係が明確であること 本件主張書面案が掲載されていた投稿記事についてみると、本件主張書面案の全部が掲載されているものの、本件主張書面案の掲載部分の前には、控訴人が創作した文章が記載されており、控訴人の主張内容を根拠付ける証拠として本件主張書面案が掲載されているという形がとられている。 したがって、投稿記事においては、控訴人の創作した文章が主で、掲載されている本件主張書面案が従であることから、主従関係が明確である。 (イ)引用部分が他と区別されていること(明瞭区分性) 本件各記事についてみると、引用部分となるのは、掲載されている本件主張書面案の部分であり、控訴人の創作した文章の部分とはっきり区別されているといえる。 (ウ)引用する必要性があること(必要性) 本件各記事は、本件主張書面案について紹介した上で、批判や否定的意見・感想を述べるという内容のものであるため、その前提として、本件主張書面案の内容がどのようなものであったか明らかにする必要があり、本件主張書面案を引用する必要性がある。特に、控訴人が、本件主張書面案のうち、自分に都合のよい部分だけを取り出して、批判や否定的意見・感想を述べているのではないことを明らかにするため、本件主張書面案の全部を引用することが必要であるといえる。 (エ)出典元が明記されていること 本件各記事についてみると、本件主張書面案の題名や来歴が記載されていることから、出典元が明記されている。 (オ)改変していないこと 本件各記事において掲載されているのは、本件主張書面案の全部であり、本件主張書面案の内容を寸分違わず忠実に反映しているものであるため、改変していないといえる。 (カ)小括 以上のことから、本件各記事における本件主張書面案の掲載は、引用としての公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであるといえるから、適法引用であり、著作権(公衆送信権・送信可能化権)の侵害とならない。 ウ 時事の事件の報道といえること 本件各記事の掲載は、著作権法41条の「時事の事件の報道」であり、「時事の事件の報道のための利用」であるから、著作権(公衆送信権・送信可能化権)の侵害とならない。 本件各記事が掲載されている「法曹倫理委員会」との本件サイトは、親子の引き離し問題を中心として、その時々で話題となっている弁護士や議員の言動や行動について事実を報道し、その事実に対する控訴人の意見論評を公衆に伝達することを主目的としたサイトである。 そして、本件主張書面案を掲載している投稿記事についても、それぞれ「被控訴人Y1が本件メールの内容のメールマガジンを配信した事実」、「被控訴人Y1が本件主張書面案を含む『面会交流制限マニュアル』ともいうべき内容の書籍を3万円で販売している事実」、「被控訴人Y1が本件ウェブページの記載内容により『面会交流制限マニュアル』ともいうべき内容の書籍の販売促進を図っている事実」といった事実や出来事について報道するとともに、それらの事実や出来事に関して控訴人の意見論評を述べている内容となっている。 したがって、上記の各事実や出来事について報道した上で、批評・意見・感想を述べるという内容である本件サイトにおける各投稿記事の掲載は、「時事の事件の報道」といえる。 そして、各投稿記事が上記の内容のものであることに鑑みれば、本件主張書面案は、まさに、「当該事件を構成する著作物」といえるし、そのような事実や出来事を公衆に伝達して紹介するためには、本件主張書面案の内容がどのようなものであったか明らかにする必要があるため、本件主張書面案を掲載することは、報道の目的上正当な範囲内に含まれるものといえる。 したがって、本件サイトにおける各投稿記事の掲載は、「時事の事件の報道」といえるため、本件主張書面案の掲載は、「時事の事件の報道のための利用」に当たり、著作権(公衆送信権・送信可能化権)の侵害とならない。 (3)名誉権及び名誉感情侵害について ア 本件記事10については、原審で主張(原審に提出した第5準備書面(令和5年11月24日付け)「本件記事10について」)したとおり、その内容は真実であり、又は説得力アップブック(甲9)の内容や販売方法についての意見・論評であり、それにより被控訴人らの人格的価値に対する社会的評価が低下するとはいえないから、名誉権や名誉感情の侵害とはならない。 イ 本件記事12は、本件サイトに届いた応援メッセージの内容をそのまま掲載し、応援メッセージが届いたことを記載したものであるため、内容は、真実であり、被控訴人Y1の社会的評価を低下させる記載ではないため、名誉権や名誉感情の侵害とはならない。 なお、本件記事12には、被控訴人Y2についての記載はないため、被控訴人Y2に対する名誉権や名誉感情の侵害ともならない。 ウ 本件記事13は、いずれも被控訴人Y1に対して向けられたものというよりは、あくまで、説得力アップブック(甲9)の内容及び販売方法についての意見・論評ということになるため、その言葉により、被控訴人Y1の人格的価値に対する社会的評価が低下するとはいえないので、名誉権や名誉感情の侵害とはならない。 また、被控訴人Y2に関する記載については、被控訴人Y2が、岐阜地方裁判所民事第2部合議A係に係属中の令和3年(ワ)第616号損害賠償請求事件の代理人を務めていること等からも、真実であることは明らかであり、被控訴人Y2の社会的評価を低下させる記載でもないため、名誉権や名誉感情の侵害ともならない。 エ 本件記事14は、いずれも被控訴人Y1に対して向けられたものというよりは、あくまで、説得力アップブック(甲9)の内容及び販売方法についての意見・論評ということになるため、その言葉により、被控訴人Y1の人格的価値に対する社会的評価が低下するとはいえないので、名誉権や名誉感情の侵害とはならない。 なお、本件記事14には、被控訴人Y2についての記載はないため、被控訴人Y2に対する名誉権や名誉感情の侵害ともならない。 オ 本件記事16は、全体としてみれば、いずれも被控訴人Y1に対して向けられたものというよりは、あくまで、説得力アップブック(甲9)の内容及び販売方法についての意見・論評ということになるため、その言葉により、被控訴人Y1の人格的価値に対する社会的評価が低下するとはいえないので、名誉権や名誉感情の侵害とはならない。 なお、本件記事16には、被控訴人Y2についての記載はないため、被控訴人Y2に対する名誉権や名誉感情の侵害ともならない。 カ 本件記事17は、全体としてみれば、いずれも被控訴人Y1に対して向けられたものというよりは、あくまで、説得力アップブック(甲9)の内容及び販売方法についての意見・論評ということになるため、その言葉により、被控訴人Y1の人格的価値に対する社会的評価が低下するとはいえないので、名誉権や名誉感情の侵害とはならない。 また、被控訴人Y2に関する記載については、前記のとおり、被控訴人Y2が、岐阜地方裁判所令和3年(ワ)第616号損害賠償請求事件の代理人を務めていること等からも真実であることは明らかであり、被控訴人Y2の社会的評価を低下させる記載でもないため、名誉権や名誉感情の侵害ともならない。 (4)違法性阻却事由について ア 真実性 説得力アップブック(甲9)には、「このブックは、面会交流を拒否・制限したいとき、調停の場で効果のある『話し方』を弁護士Y1の経験に基づいて、効果の高い順番で述べていきます。」と記載されているし、この説得力アップブックには、被控訴人Y1作成の「主張書面」(面会交流制限用)といった主張書面集まで添付されている。 これらの内容を見れば、被控訴人Y1は、「面会交流阻止の方法」を記載したマニュアルを販売しており、「親子引き離し」を業務として行っていることは明らかである。 そして、被控訴人Y2は、被控訴人Y1の上記行動について認容し、積極的に協力していることから、被控訴人Y1と協力して「面会交流阻止の方法」を記載したマニュアルを販売しており、「親子引き離し」を業務として行っていることは明らかである。 したがって、各投稿記事の内容については真実性が認められる。 イ 公共性・公益目的 各投稿記事の内容は、親子の引き離し問題を中心として、その時々で話題となっている弁護士や議員の言動や行動についての事実を報道し、その事実に対する控訴人の意見論評を公衆に伝達することを主目的としたものである。 また、各投稿記事の内容は、「被控訴人らが『面会交流制限マニュアル』ともいうべき内容の書籍を3万円で販売して、『親子引き離し』を業務として行っている事実」を報道するとともに、それらの事実や出来事に関して控訴人の意見論評を述べている内容となっている。 したがって、各投稿記事の内容については、公共性・公益目的性が認められる。 以上のことから、本件については、仮に被控訴人らの名誉権や名誉感情の侵害となるとしても、違法性阻却事由が認められる。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の本訴に係る訴えのうち、原判決主文第1項で却下された部分については、訴えの利益がなく却下すべきであり、控訴人の本訴請求及び被控訴人らの反訴請求についてはいずれも原判決の認容した限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正するほかは、原判決第3の1ないし5(原判決23頁15行目から61頁11行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決23頁26行目の「ア、」を削り、「ウ及びエ」を「ウ及びエ(ただし、ウの債務のうち本件記事12~14、16及び17に係るもの、エの債務のうち本件記事11及び17に係るものをそれぞれ除く。)」と改める。 (2)原判決26頁23行目の「に関しては、」から、同27頁1行目の「方、」までを、「以外の、」と改める。 (3)原判決27頁1行目の「債務については」を「債務について」と改める。 (4)原判決27頁5行目の「①本訴請求」から同頁8行目の「適法であるが、」までを削る。 (5)原判決56頁3行目の「認められること、」の次に「これらの記事においては、被控訴人らの名誉権を侵害する表現が随所に多数掲載されていること、」を加える。 2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断 (1)控訴人は、前記第2の3(1)のとおり、原判決主文第5項について、広範な制限を容認し得る表現であり、控訴人の表現行為を不可能とするものであるなどと主張し、控訴人の主張の趣旨に沿う決定例(名古屋高等裁判所令和6年(ラ)第281号同年12月25日決定・保全異議決定に対する保全抗告事件、甲11)を証拠として提出する。 しかし、補正の上で引用した原判決第3の3(2)(原判決55頁24行目から57頁8行目まで)のとおり、原判決主文第5項は、当該記事の一部であることが分かる程度の範囲、すなわち意味のある文章を残し当該記事と同一の趣旨の記事であることが分かる程度のものの掲載を禁止することを意味し、控訴人の主張するような「岐阜県」、「弁護士」、「て」、「に」、「を」、「は」などの文字の掲載にまで差止めの効力を及ぼすものでないことは明らかであることから、原判決の主文第5項の内容は相当である。なお、控訴人の提出する証拠は、事前差止仮処分に係るものであるなどの点で(甲11、8頁)、本件とは事件の性質を異にする。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (2)控訴人は、前記第2の3(2)アのとおり、本件主張書面案に創作性は認められないから、著作権等の侵害となることはない旨を主張する。 しかし、引用した原判決第3の2(1)(原判決27頁16行目から28頁20行目まで)のとおり、本件主張書面案は、子の別居親が子との宿泊付き面会交流及び多数回・長時間の面会交流を求める面会交流審判事件において、相手方である同居親が提出することを想定した主張書面の例を示すものであり、相手方である同居親が相当と考える面会交流の回数・内容について、それまでに行われてきた児童館での月1回の面会交流を維持する旨の主張をすることを例とし、その理由につき、そこに至る過去の具体的な経緯も踏まえて詳細に説明する内容となっており、主張の根拠となる事情や判断に当たり考慮すべき事情等として記載する事項の取捨選択及びそれぞれの具体的表現等には、広い選択の余地のある中で被控訴人Y1の個性が表れており、思想又は感情を創作的に表現した著作物に当たると認められる。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (3)控訴人は、前記第2の3(2)イのとおり、本件各記事における本件主張書面案の掲載は、適法引用に当たる旨を主張する。 しかし、引用した原判決第3の2(1)(原判決27頁16行目から28頁20行目まで)のとおり、本件記事1(乙6の1ないし6の5)は、被控訴人Y1において「審判でも上手なウソをつけるように、主張書面のサンプルまで公開しています」などとした上で、「ウソの主張に注意を促し、理由なく親から引き離される子供を一人でも減らすために、その内容を以下に公開します」などとして本件主張書面案の全文を掲載しているものであって、本件主張書面案の内容についての報道や批評を具体的にしているものではないから、主張書面案の全文を引用する必要があるとはいえず、公正な慣行に合致するものとはいえない。また、控訴人の主張する主従関係について、量的な比較のみについてみても、控訴人作成の文章よりも、本件主張書面案の方が圧倒的に多い分量であり、控訴人の主張するような本件主張書面案を従とするような主従関係があるものとも認められないから、引用の目的上正当な範囲内で行われているともいえない。そうすると、著作権法32条に定める適法引用に当たるものとは認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (4)控訴人は、前記第2の3(2)ウのとおり、本件各記事への本件主張書面案の掲載は、時事の事件の報道に当たり許される旨を主張する。 しかし、引用した原判決第3の2(1)(原判決27頁16行目から28頁20行目まで)のとおり、本件記事1は、「偽証をするように推奨しつつ、同時にこのような具体的な主張書面まで提供している」、「ウソの主張に注意を促し、理由なく親から引き離される子供を一人でも減らすために、その内容を以下に公開します」(乙6の1ないし6の5)などとして本件主張書面案の全文を掲載しているものであり、被控訴人Y1が面会交流事件において同居親側の支援をする活動を行うことを論難するための記事であるから、その掲載が「時事の事件の報道」に当たるとは認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (5)控訴人は、前記第2の3(3)のとおり、本件記事10、12~14、16及び17につき、被控訴人Y2及び被控訴人Y1について名誉権侵害及び名誉感情侵害は成立しない旨を主張する。 しかし、引用した原判決第3の2(2)イ(カ)(原判決42頁12行目から43頁13行目まで)、同ウ(原判決46頁17行目から52頁1行目まで)のとおり、本件記事10、同12〜14及び16は、被控訴人Y1の社会的評価を低下させるものとして被控訴人Y1の名誉権を、本件記事17は、被控訴人らの社会的評価を低下させるものとして被控訴人らの名誉権を、それぞれ侵害するものと認められる。 なお、原判決は、控訴人が上記で主張する記事について、被控訴人らの名誉感情侵害を認定していない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (6)控訴人は、前記第2の3(4)のとおり、違法性阻却事由が認められる旨を主張する。 しかし、引用した原判決第3の2(2)エ(原判決52頁2行目から53頁21行目まで)のとおり、説得力アップブック(甲9)の記載は、裁判所に対して説得的な理由を説明するよう勧めるものに過ぎず、裁判所に対して虚偽の説明をすることを勧めるものではないし、同居親が希望するだけでは面会交流を制限したり拒否したりすることはできないこと、裁判所が面会交流を実施することを原則として考えていることなども説明されており、控訴人の主張するような、被控訴人らにおいて、面会交流阻止の方法を記載したマニュアルを販売し、親子引き離しを業務として行っているとの事実は認められない。そうすると、控訴人の指摘する各記事において摘示された事実が真実であるということはできず、意見・論評の前提となる事実の主要な部分について真実性の証明があったということもできないから、控訴人の主張する違法性阻却事由は認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 3 以上の認定及び判断は、当審における控訴人のその余の補充主張によっても左右されない。 4 よって、その余の点について判断するまでもなく、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 中平健 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則 |
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