| 判例全文 | ||
| 【事件名】SNS投稿の名誉棄損事件(2) 【年月日】令和7年11月6日 知財高裁 令和7年(ネ)第10044号 各損害賠償等請求控訴事件、同附帯控訴事件 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第15310号(原審第一事件)、同6年(ワ)第5142号(原審第二事件)) (口頭弁論終結日 令和7年9月9日) 判決 控訴人兼附帯被控訴人(原審第二事件被告) Y 同訴訟代理人弁護士 斉藤雄祐 被控訴人兼附帯控訴人(原審第一事件・第二事件原告) X 同訴訟代理人弁護士 小野淳史 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 本件附帯控訴に基づき、原判決主文第1項及び第2項のうち控訴人兼附帯被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。 3 控訴人兼附帯被控訴人は、被控訴人兼附帯控訴人に対し、21万円およびこれに対する令和4年8月15日から支払済みまで年3%の割合による金員(20万円及びこれに対する同日から支払済みまで年3%の割合による金員の限度では原審第一事件被告Aと連帯)を支払え。 4 被控訴人兼附帯控訴人のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用は、第一、二審を通じて15分し、その14を被控訴人兼附帯控訴人の負担とし、その余を控訴人兼附帯被控訴人の負担とする。 6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 本判決において用いる略語は、次のとおりである(原判決で定義している略語は、概ね、そのまま用いている。)。
1 控訴の趣旨 (1)原判決中、被告Y敗訴部分を取り消す。 (2)同敗訴部分に係る原告の請求を棄却する。 2 附帯控訴の趣旨 (主位的附帯控訴) (1)原判決中、原告敗訴部分を取り消す。 (2)本件を東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に差し戻す。 (予備的附帯控訴) (1)原判決中、原告敗訴部分を取り消す。 (2)被告Yは、原告に対し、280万円及びこれに対する令和4年8月15日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 (1)本件は、原告が、被告Yらによるツイッター上の本件各投稿が、原告の名誉感情、プライバシー権、著作権及び著作人格権を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、300万円及びこれに対する各不法行為の後である令和4年8月15日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 (2)原審第一事件は、原告が原審被告A、原審被告B及びCに対し共同不法行為に基づき損害賠償金の連帯支払を求める事件であり、原審第二事件は、原告が被告Yに対し共同不法行為に基づき損害賠償請金の支払を求める事件である。両事件は、併合審理され、原審第一事件のCに対する請求に係る部分は、原審における訴えの取下げにより終了した。 (3)原審は、被告Y及び原審被告Aに対する各請求について、連帯して20万円及びこれに対する令和4年8月15日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で認容し、その余の請求を棄却し、原審被告Bに対する請求については全部棄却した。被告Yは、敗訴部分を不服として本件控訴をしたが、原審被告Aは控訴しなかった。原告は附帯控訴して被告Yに対する請求を全額認容するよう求めた。 (4)したがって、当審における審理の対象は、原告の被告Yに対する請求全部である(ただし、原告は、原審被告A、被告Y及びCが意思を通じ合って原告に対する侮辱その他の不法行為を行った旨主張しているので、その限度では、本件各投稿のうち原審被告A及びCが行った各投稿も審理の対象となる。)。なお、原告は、原審においては、著作者人格権侵害の内容として、同一性保持権のみならず、公表権侵害も主張していたが、当審において、同一性保持権侵害のみを主張する旨、その主張を変更した。 2 前提事実 前提事実は、原判決の「事実及び理由」中の第2の1(原判決2頁16行目から3頁7行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。なお、引用文中「別紙」とあるのは、原判決別紙の趣旨である。 3 争点 (1)本件各投稿による権利侵害(名誉感情、プライバシー権、著作権及び著作者人格権)の有無及び共同性 (2)損害額 4 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は、以下のとおり補正し、後記5のとおり当審における補充主張を追加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第2の3(1)及び(3)(原判決3頁14行目から4頁26行目まで(同頁13行目から21行目までを除く。))記載のとおりであるから、これを引用する。なお、引用文中「争点(3)」とある部分は「争点(2)」と読み替える。 (原判決の補正) (1)原判決3頁17行目から20行目末尾までの「原告の著作物である原告の料理の写真を無断で転載したものであり、公表権を侵害し、また、「まずそうな料理」「虫が入っている料理」と理解できるような形で掲載したものであり、同一性保持権を侵害している。」を「原告の著作物である原告の料理の写真を無断で、かつ、侮辱的なコメントを付して転載したものであり、著作者人格権(同一性保持権)及び著作権(複製権及び公衆送信権)の侵害に該当する。」と改める。 (2)原判決4頁24行目の「被告らの不法行為に対する慰謝料としては300万円が相当である」を「原告は、被告Yに対し、それぞれの慰謝料額として、名誉感情侵害に基づき100万円、プライバシー侵害に基づき30万円、同一性保持権侵害(著作者人格権侵害)に基づき70万円、複製権・公衆送信権侵害(著作財産権侵害)に基づき100万円の支払を求める」と改める。 5 当事者の補充主張 (1)控訴理由(被告Y) ア 投稿の違法性について 本件各投稿のうち、原判決が被告Yの投稿の違法性を認めた部分についての被告Yの主張は、対照表1の「被告Yの主張」の項記載のとおりである。すなわち、原審が違法と判断した被告Yの各投稿は、@原告を名指しで侮辱的な表現で断言したものではなく他人の投稿の意味合いを確認する程度でしかないこと、Aお弁当の具の評価に関する個人的な願望の表現でしかないこと、B生活保護という侮辱ではなく、むしろお嬢様の家柄であるかのように称賛する表現であることから、いずれも社会通念上許される限度を超える侮辱ではない。 イ 損害賠償額について 原告は、損害賠償請求において証拠として提出するために、ブロックしていた被告Yの投稿をあえて見たものである(乙44)。このような経緯は、仮に被告Yの各投稿が侮辱に当たる場合でも、損害賠償額算定に当たり考慮すべきである。 (2)控訴理由に対する原告の反論 ア 投稿の違法性について 対照表1の「被告Yの主張」に対する原告の反論は、対照表1の「原告の反論」の項記載のとおりである。本件の被告Yの投稿は、いずれも日常的に使われている表現ではなく、被告Yは、執拗に何度も同じような揶揄を繰り返していた。しかも、被告Yを含むグループの複数の者が互いに呼応しあって、原告に対する侮辱をエスカレートさせていた。原告は、一人の主婦にすぎず、被告Yの目的は、公益目的や客観的な評論ではなく、ただ原告を揶揄して、自分自身のストレスを発散しようという不当なものである。したがって、被告Yの投稿は、社会通念上、受忍限度を当然超えるものである。 イ 損害賠償額について 侮辱において、被害者がその表現を見に行ったからといって、加害者の行為の違法性が緩和されることはない。むしろ、本件の被告Yのように、閲覧可能者の範囲を限定せず、原告が見に来ることや原告に伝わることを期待して、誹謗中傷投稿を繰り返していた場合には、違法性が緩和されたり、損害賠償額が減少されたりすることはあり得ないというべきである。 (3)附帯控訴理由(原告) ア 判断遺脱について 原判決は、著作権侵害の主張について、仮に番号44から50までの各投稿が著作権侵害に当たるとしても、名誉感情の侵害による慰謝料を超える損害が発生するとは認められないから、判断を要しないと判示した。しかし、著作権侵害に基づく慰謝料請求権と名誉感情侵害に基づく慰謝料請求権とは、訴訟物を異にし、一方が成立すれば、他方について成立を要しないという関係にはない。したがって、著作権侵害の成立について全く判断をしなかった原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。第一審で審理すべきであったのに、審理されなかった事項を控訴審で審理するのは、審級の利益を害するから、原判決を破棄し、東京地裁に差し戻すべきである。 イ 写真の著作物該当性について 被告Yが番号44から50までの各投稿において投稿した画像は、いずれも原告が自ら作った料理を撮影し、ツイッターに投稿していた写真(以下「本件写真」という。)の画像であって、立体的な対象物である料理を平面的に表現したものであり、その表現過程には、陰影や奥行きの表現などにおいて思想や感情の移入行為が介在している。したがって、本件写真は、いずれも著作物に該当する。 ウ 著作権法違反について 以下のとおり、被告Yが番号44から50までの各投稿において、原告に無断で本件写真を投稿するとともに、侮辱的なコメントを付した行為は、同一性保持権(著作権法20条1項)、複製権(同法21条)及び公衆送信権(同法23条)を侵害する。なお、複製権及び公衆送信権の侵害に対し、被告Yは、引用(同法32条1項)の要件を充足する主張をしていない。 (同一性保持権侵害について) 本件写真は、原告が作った独創的な料理という以外の意味はない。それにもかかわらず、被告Yが、本件写真に付したコメントは、「美味しい」ということを伝えるのではなく、一般読者が見て、「美味しくない」と言いたいのだと理解するものになっている。事実と異なる説明の下に写真を掲載することも同一性保持権侵害になるところ(仙台高裁平成9年1月30日判決・判タ976号215頁)、被告Yの行為は、「著作者の意に反して著作物の変更、切除、その他の改変をした」(同法20条1項)ものとして、同一性保持権侵害に該当する。 (複製権侵害について) 被告Yは、前記各投稿において、本件写真をダウンロードし、新たな画像ファイルを作成したから、複製権侵害に該当する。 (公衆送信権侵害について) 被告Yは、本件写真を、不特定多数の者に受信されることを目的としてツイッターに投稿したから、公衆送信権侵害に該当する。 エ 投稿の違法性について 本件各投稿のうち、原判決が被告Yの投稿の違法性を否定した部分についての原告の主張は、対照表2の「原告の主張」の項記載のとおりである。 なお、名誉棄損とは異なり、名誉感情侵害は、その性質上、対象者がその表現をどのように受け止めるのかが決定的に重要であり、対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得る。このことは、同定可能性のみならず、投稿の趣旨の理解についても妥当するというべきである。 (4)附帯控訴理由に対する被告Yの反論 ア 判断遺脱について 争う。原審では、著作権侵害の争点についても双方が主張立証し、審理されているから、本件を東京地裁に差し戻す必要はない。 イ 写真の著作物性について 本件写真は、被写体である料理を単に説明・記録する目的で撮影されたにすぎず、構図、陰影、光の加減等において、ありふれた域を出るものではないから、撮影者たる原告の思想又は感情が創作的に表現されたものとは認められない。したがって、本件写真は著作物には該当しない。 ウ 著作権法違反について 以下のとおり、仮に、本件写真の著作物性が認められたとしても、著作権法違反は成立しない。 (同一性保持権侵害について) 被告Yのコメントは、画像データ自体を変更、切除、改変するものではない。当該コメントは、写真とは別個のテキスト情報として投稿されたものであり、著作物の「改変」には当たらない。原告が引用する仙台高裁の判決は、写真に「事実と異なる説明」を付した事案であり、本件のような主観的感想を付す行為とは異なる。 (複製権侵害及び公衆送信権侵害について) 被告Yは、本件写真を引用し、批評したにすぎないから、複製権侵害・公衆送信権侵害は成立しない。 エ 投稿の違法性について 対照表2の「原告の主張」に対する被告Yの反論は、対照表2の「被告Yの反論」の項記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について 争点(1)についての当裁判所の判断は、当事者の補充主張を踏まえ、原判決の番号15、26〜35、44〜51、55〜61の各投稿に関する判断部分を後記(1)のとおり補正し、後記(2)のとおり当事者の補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の1(原判決5頁2行目から15頁20行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。なお、引用文中「被告A」とある部分は「原審被告A」と読み替えるほか、原判決別紙主張整理表の番号55に対応する「投稿内容」項の「あの伝説の料理人の?」を「あの伝説の料理人?」に、「記載内容」項の「証拠」中の「甲17」を「甲15の1」に改める。 (1)原判決の補正 ア 原判決7頁4行目冒頭から13行目末尾までを次のとおり改める。 「番号15、26〜35、51、55〜61の各投稿も、番号44〜50の各投稿と同様、原審被告Aと被告Yとのやり取りの中で、皮肉的表現又は反語的表現を用いたり、否定的評価を表す顔文字を付したりするなどして、原告の料理やそのような料理の写真を掲載する原告の人格を揶揄し、否定的な評価や感想を伝えるものである。 これらの投稿の内容は、一見すると、原告がツイッター上に公開していた本件写真の料理を対象とし、意見や感想を述べるものにすぎない。「食べかけのせる人?」(番号26)「鴨のローストらしきものを運動会のお弁当に入れる人?」(番号57)等にみられる「〜人?」という表現も、それ自体は、あくまで具体的な料理の内容について原告を揶揄するものであり、また、「隠し味の虫かな?」との投稿(番号51)や、「マヨネーズは自分でかけたかった」(番号59)等の投稿も、その表現上は、あくまでも原告の料理に対する意見や感想の範疇のものである。 しかしながら、原審被告Aの番号15の投稿、被告Yの番号44〜51の各投稿は、令和4年6月5日から13日にかけて、両者が呼応する形で行われたものである(甲14の1から7まで)。被告Yは、同じ13日に、原告が「太りすぎ」であることを意味する内容の投稿(番号43、甲13の9)をし、さらに、原審被告Aと呼応して、原告がデブで風呂にも入らない人間であるという人格攻撃(番号17、18、62、63)を行っている(甲16)。また、同日以降にされた原審被告Aの番号26〜35の各投稿、被告Yの番号55〜61の各投稿も、同月15日及び16日にかけて、両者が呼応する形で行われたものである(甲15の1及び2)。そして、同月16日の原審被告Aによる「ネグレ○ト」「ぎゃく○い」の各投稿(番号34、35。それぞれ「ネグレクト」「虐待」を意味すると解される。甲15の2)は、原告の料理を食べさせることは子に対するネグレクトや虐待に当たる旨を述べ、原告を侮辱するものであったと認められる。 すなわち、前記番号15、26〜35、44〜51、55〜61の各投稿は、原告の人格を侮辱する他の投稿と前後して、又は近接した時期に、かつ執拗に行われたものであるから、表面的には原告の料理に対する意見や感想を述べるようにみえても、その実質は、専ら原告の感情を傷つけ、不快感を与える内容を述べることを目的として行われたことが認められ、かつ、その意図が読者に伝わる内容の投稿と評価するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。そうだとすれば、これらの各投稿(被告Yの番号46の投稿に対し原審被告Aが「いぇあ」という肯定的な反応を示した番号14の投稿も含む。)は、これらを全体としてみて、社会通念上許される限度を超える侮辱にあたると認めるのが相当である。」 イ 原判決7頁14行目から16行目までを削除する。 ウ 原判決7頁25行目末尾に改行の上、次のとおり加える。 「次に、番号44〜50に係る著作権等の侵害について検討する。本件写真(甲14の1から7まで)は原告が撮影したものであるが、写真の構図や陰影等は一義的に決まるものではなく、原告の創意工夫があることが推認されるから、本件写真におよそ創作的表現が含まれていないということはできない。したがって、本件写真は、原告の著作物であり、これに反する被告Yの主張は採用することができない。 次に、著作者人格権(同一性保持権)侵害についてみると、弁論の全趣旨によれば、被告Yは、本件写真を原告の承諾なしに複製し、転載したことが認められるものの、転載に当たり、本件写真に改変を加えた事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、同一性保持権の侵害は認められない。原告の引用する仙台高裁平成9年1月30日判決は、歴史研究のために撮影された石垣の写真の撮影場所について真実と異なる説明が付された結果、当該写真が真実の被写体とは別の被写体の写真として表示されることになったという事案であるが、本件は、原告の料理の写真がそのまま原告の料理の写真として転載されたにすぎない。転載に当たり被告Yが原告の意に沿わないコメントを付したからといって、原告の料理の写真が変更、切除その他の改変を受け、著作物としての同一性が失われたと認めることはできない。これに反する原告の主張は採用することはできない。 他方、著作権(複製権、公衆送信権)侵害については、被告Yが本件写真を原告の承諾なしに複製し、インターネット上で転載したことが認められる以上、その侵害が成立することは明らかである。被告Yは、引用の抗弁(著作権法32条1項)を主張するが、前記のとおり、被告Yが専ら原告の感情を傷つけ、不快感を与える内容を述べることを目的として番号44〜50の投稿を行ったことが認められる以上、本件写真の引用は、「公正な慣行に合致」し、かつ、「引用の目的上正当な範囲内」で行われたものには該当しないというべきである。したがって、引用の抗弁は認められない。」 (2)当事者の補充主張に対する判断 ア 投稿の違法性について 被告Yは、対照表1の「被告Yの主張」のとおり主張するが、この点についての判断は、前記補正の上引用した原判決記載のとおりである。すなわち、番号43の投稿は、関連する前後の投稿を踏まえると、疑問文に仮託して、原告が太りすぎであると揶揄するものと解される。原告の料理に関する各投稿(番号44〜51、55〜61)は、同時期の他の本件各投稿とあいまって、全体として社会通念上許される限度を超える侮辱にあたると認められる。番号62の投稿は、前後する一連の投稿を踏まえると、疑問文に仮託して、原告を「デブ」「風呂にもろくに入れない」というものと解され、番号63の投稿は、そのような一連の投稿を踏まえ、原告がわざとらしく入浴をアピールしていると嘲笑するものと解される。番号66の投稿は、原告が生活保護者であると侮蔑、嘲笑するものであり、「お嬢様」が皮肉であることは明らかである。これらは、いずれも社会通念上許される限度を超える侮辱に該当するというべきであるから、被告Yの主張は採用することができない。 他方、原告は、対照表2の「原告の主張」のとおり主張するが、いずれも、その表現上、社会通念上許される限度を超える侮辱となるような表現とまでは認められないもの(番号67、52、54、69)又は客観的にみて原告に向けられた表現であると特定することができないもの(番号54、53、68)であり、原告において、これらの表現が主観的に自分に向けられたものとして理解し、名誉感情を傷つけられたというだけでは、侮辱による不法行為の成立を認めるに足りない。したがって、原告の主張は採用することができない。 イ 著作権侵害について 前記補正の上引用した原判決記載のとおり、本件写真は著作物であるから、原告の承諾なしに転載した被告Yは、著作権法違反(複製権、公衆送信権)となり、引用の抗弁も認められない。なお、著作者人格権である同一性保持権の侵害は認められないことも前記のとおりである。 2 争点(2)について ア 侮辱の不法行為による損害について 侮辱の不法行為に係る損害の慰謝料についての判断は、原判決の「事実及び理由」の第3の3(原判決15頁25行目から18頁7行目まで)のとおりであるから、これを引用する。なお、引用文中「争点(3)」とあるのは、「争点(2)」と読み替える。 イ 著作権法違反の不法行為による損害について 本件写真(合計7枚と認められる。)の複製権、公衆送信権侵害による著作権侵害の損害額について、具体的な主張立証はなく、原告は、個人が投稿して反応を楽しむSNSのような場合には一般に財産的損害はなく、無断転載による精神的苦痛があるから、SNSにおける無断転載においては慰謝料請求を認めるべきである旨主張している(原審原告準備書面(2)6頁)。そこで検討するに、著作財産権侵害による精神的損害と著作物人格権侵害による精神的損害とは両立し得るものであって、両者の訴訟物は別である旨の最高裁昭和58年(オ)第516号昭和61年5月30日第二小法廷判決・民集40巻4号725頁の判示の趣旨に照らすと、著作財産権侵害により精神的損害が発生することは否定されない(民法710条参照)。本件において、原告は財産的損害の発生について具体的な主張立証をしていないが、もともと本件写真の著作物としての財産的価値は乏しいと考えられるから、著作財産権の侵害に係る慰謝料の額もこれに応じたものになるはずである。そして、本件写真の内容、引用の態様その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件における著作権(複製権、公衆送信権)侵害により原告が受けた精神的損害を慰謝するための慰謝料としては、1万円をもって相当と認める。 また、本件において著作者人格権(同一性保持権)の侵害が認められないことは前記のとおりであるから、結局、著作権法違反による原告の損害額は1万円の限度で認められる。 ウ 当事者の補充主張について 被告Yは、原告は損害賠償請求において証拠として提出するためにブロックしていた被告Yの投稿をあえて見たのであるから、このことを損害賠償額の算定に当たり考慮すべきである旨主張する。しかし、仮にそのような事情があるからといって、被告Yは、原告を含め誰もが読むことができる方法で投稿したのであり、現に原告がそれを読んで名誉感情が侵害された以上、当該事情は被告Yが行った侮辱による損害賠償の額を減額する理由にはならないというべきである。被告Yの主張は、採用することができない。 3 原告のその他の補充主張について 原告は、原判決は、著作権侵害について判断しなかったのであるから、原判決を破棄し、東京地裁に差し戻すべきである旨主張する。著作財産権侵害による損害賠償請求と侮辱による損害賠償請求とは別の訴訟物であり、両者が選択的併合の関係にあったと認められない以上、原判決が著作権侵害によっても、名誉感情の侵害を超える慰謝料が発生しないことを理由に著作権侵害について判断を要しない旨の判断をしたことは相当ではなかったということができる。しかし、原判決は法の解釈適用を誤ったものの、訴えを不適法却下したわけではないから、民事訴訟法307条の必要的差戻し事由には該当しない。本件写真の無断転載による原告の著作権侵害の成否については、原審において、引用の抗弁の成否も含め、口頭弁論が行われており、原判決を取り消す場合でも、この点につき、さらに弁論をする必要があるとまでは認められない。したがって、本件を東京地裁に差し戻すべきである旨の原告の主張は採用することができない。 4 まとめ 原告の被告Yに対する請求は、侮辱による不法行為による慰謝料として20万円、著作権侵害による慰謝料として1万円、合計21万円及びこれに対する令和4年8月15日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 第4 結論 以上によれば、原告の被告Yに対する請求は、21万円及びこれに対する令和4年8月15日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきところ、これと異なる原判決は相当でないから、本件附帯控訴に基づき、原判決中被告Yに関する部分を主文第3項、第4項のとおり変更することとし、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判官 菊池絵理 裁判官 頼晋一 裁判長裁判官 清水響は、退官のため署名押印することができない。 裁判官 菊池絵理 (別紙)当審補充主張対照表1(控訴理由と反論)
(別紙)当審補充主張対照表2(附帯控訴理由と反論)
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