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| 【事件名】KDDIへの発信者情報開示命令異議申立事件D 【年月日】令和7年10月30日 東京地裁 令和7年(ワ)第70014号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え事件 (口頭弁論終結日 令和7年8月28日) 判決 原告 KDDI株式会社 同訴訟代理人弁護士 今井和男 同 小倉慎一 同 山本一生 同 小俣拓実 同 望月光彦 被告 有限会社プレステージ 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 大塚直 同 河田隆克 同 清水聡 同 畠山晃 主文 1 東京地方裁判所令和5年(発チ)第10137号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年12月13日にした別紙決定を次のとおり変更する。 (1)原告は、被告に対し、別紙動画目録(1)記載80、同目録(4)記載68、99及び154を除き、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 (2)被告の上記事件に係るその余の申立てを却下する。 2 訴訟費用は、これを100分し、その97を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 第1 請求 事実及び理由 当事者間の東京地方裁判所令和5年(発チ)第10137号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年12月13日にした別紙決定を次のとおり変更する。 被告の申立てをいずれも却下する。 第2 事案の概要 被告は、氏名不詳者がいわゆるファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙動画目録(1)から(4)まで記載の各動画(以下「本件動画」という。)と同一の内容の動画データを共有したことにより、被告の著作権(自動公衆送信権)を侵害したと主張して、電気通信事業等を行う原告に対し、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める申立てをした。 本件は、原告が、上記申立てを一部認容した決定に対し、法14条1項に基づき、異議の訴えを提起した事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠〔以下、枝番の記載は特に記載するものを除き省略する。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実をいう。) (1)当事者 ア 原告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、特定電気通信役務提供者(法2条4号)に該当する。 イ 被告は、主にアダルトビデオの制作、販売等を業とする有限会社である。 (2)被告が本件動画の著作権を有すること 被告は、本件動画に係る著作権を有する(乙1、7、弁論の全趣旨)。 (3)BitTorrentの仕組み等 BitTorrentとは、インターネット上においていわゆるP2P方式でファイルを共有するためのプロトコル(通信規約)の一つである。BitTorrentネットワークにおいては、共有されるデータファイルはトレントファイルと細分化されたファイル(以下「ピース」という。)に分解され、接続したクライアント間で必要なピースが交換され、最終的に再び合成される。BitTorrentを利用して対象ファイルを入手する方法は、以下のとおりである。(乙2、弁論の全趣旨) ア BitTorrentクライアントソフト(以下、単に「クライアントソフト」という。)を端末にダウンロードした上で、ウェブサーバ等からトレントファイルを取得する。 イ トレントファイルをクライアントソフトに取り込み、当該トレントファイルからトラッカーのアドレスを読み込んで、トラッカーに接続し、トラッカーから対象ファイルを保有している他のピア(ネットワークに参加しているコンピュータ)のIPアドレスを取得する。 ウ クライアントソフトは、入手した上記IPアドレスに基づいて、BitTorrentネットワーク上で他のピアに接続し、対象ファイルの送信要求を行い、当該ピアからファイルないしファイルのピースをダウンロードする。 (4)被告による著作権侵害調査 被告は、原決定に係る申立てに先立ち、株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)に依頼して、BitTorrentを使用した本件動画の著作権侵害に係る調査(以下「本件調査」という。)を実施した。本件調査は、本件調査会社が開発したBitTorrent監視システムver2(以下「本件システム」という。)を用いて行われた。その調査の概要は、次のとおりである。(乙3、4、5、10ないし12、20ないし23) ア 本件システムは、一般的なBitTorrentクライアントソフトにおいてライブラリとして使用されているLibtorrentを使用し、前記(3)のような経過によりファイルを実際にダウンロードすることで調査を行うものであるが、本件調査会社は、独自に作成した関数を使用して接続ピアの情報(IPアドレス及びポート番号)をデータベースに記録することが可能となるように機能を拡張している。具体的には、本件調査会社は、本件システムを起動し、本件システムによってトラッカーに接続し、他のピアと前記(3)ウの通信を行うが、他のピアからのピースのダウンロードが正常に完了したときに、上記情報をデータベースに記録する。 イ 本件システムは、本件調査の結果、別紙動画目録(1)から(4)まで記載のIPアドレス、ポート番号及び発信時刻をデータベースに記録した。 (5)被告によるピースの再生試験 本件調査会社は、本件システムが接続したピアからダウンロードした個々のピースについて、動画として再生可能か否かの再生試験を次のアないしウの手順で行っている。本件においては、別紙動画目録(1)から(4)まで記載のIPアドレス、ポート番号及び発信時刻で特定される各通信(以下「本件各通信」という。)によってダウンロードされたピースの全てについて個別再生試験を行った結果、いずれも、数秒程度、本件動画の内容と同一の内容の動画が再生された。(乙17ないし21) ア 別途ダウンロードした侵害動画を複製し、そのバイナリデータを加工して、対象となるピース及び動画の再生に必要なデータ(ftyp、mооv)のみを残し、その余の情報を削除する。 イ 加工した侵害動画と当該ピースの同一性を、それぞれのバイナリデータの数列を比較して確認する。 ウ 上記加工した侵害動画を再生し、再生した動画のスクリーンショットを撮影し、再生試験結果報告書(乙19)に添付する。 (6)原告による本件発信者情報の保有 原告は、別紙動画目録(4)記載68及び99に係る発信者情報を除き、本件発信者情報を保有している(甲1、弁論の全趣旨)。 (7)発信者情報開示手続 東京地方裁判所は、令和6年12月13日、別紙動画目録(4)記載68及び99に係る発信者情報を除く本件発信者情報の開示(一部開示)を命ずる決定をし(令和5年(発チ)第10137号)、原告は、同月16日、上記決定の送達を受けた(甲1、弁論の全趣旨)。 (8)異議の訴えの提起 原告は、令和7年1月14日、上記決定に対する異議の訴えを提起した(顕著な事実)。 2 争点 (1)権利侵害の明白性(争点1) なお、被告は、著作権侵害の構成として、送信可能化の構成については主張しないものとした(被告準備書面(3)参照)。 (2)特定電気通信の該当性(争点2) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(権利侵害の明白性)について (被告の主張) (1)自動公衆送信権侵害に当たること ア 本件各通信を行った氏名不詳者(以下「本件各発信者」という。)は、原告の提供するインターネット接続サービスを利用して、別紙動画目録(1)から(4)まで記載のIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、BitTorrentを通じて、本件動画と同一性を有する動画(乙8。以下「乙8侵害動画」という。)の全部又は一部を、送信リクエストがあった不特定のピアに対して現に送信した。したがって、本件各発信者は、本件各通信によって、主位的には本件動画全体の著作権(自動公衆送信権)を侵害するものである。 そうでないとしても、本件各発信者は、本件各通信によって、本件動画の一部分(個々のピースに相当する部分)の著作権(自動公衆送信権)を侵害するものである。 イ 本件動画の表現上の本質的特徴を感得できること (ア)原告は、ピース単体では、動画として再生することができないから、本件動画の表現上の本質的特徴を感得することができない旨主張する。しかしながら、本件各発信者によって送信されるデータが著作物性の認められる元のファイルの一部を構成するピースであり、かつ、これらのピースを集積することで元のファイルに復元・再生することが可能なシステムの一環としてピースの送受信が行われていると認められる場合には、当該ピースの送信をもって公衆送信権の侵害があったと評価すべきである(知財高判令和6年(ネ)第10011号参照)。したがって、本件各発信者によってアップロードされた個々のピースが動画として再生できることは必要ではないし、当該ピースがその一部を構成するファイルについて、本件動画の表現上の本質的特徴を感得できるものであれば足りる。そして、本件各発信者が送信したピースがその一部を構成するファイルは本件動画と同一のファイルであるから、本件動画の表現上の本質的特徴を感得することができる。 (イ)仮に、ピース単体で著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できることが必要であるとしても、いずれのピースも著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものである。これに対し、原告は、別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の各ピースについて、ロゴマーク及び風景が映っているのみで、著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができない旨主張する。しかしながら、ロゴマークは、一定のデザインが施されたものであり、ロゴマークのみが映された映像であったとしても、そこには著作権者である申立人の表現が具体的に表れているといえる。また、別紙動画目録(4)記載154のピースは、アダルトビデオに出演してくれる女性を探すために街に出ることを示すための描写として、車中から外の風景を撮影したシーンが映されたものであり、意味のないシーンではない。したがって、いずれも本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できないものではない。 (2)本件調査の信用性 本件システムは、本件各発信者からピースをダウンロードした際のIPアドレス及びタイムスタンプを記録しているから、ピースの送信と無関係の通信が検出及び記録されることはあり得ない。 本件システムが検出した別紙動画目録(1)から(4)まで記載の「発信時刻」と再生試験結果報告書の「日時」にずれがあるのは、前者は本件各発信者からピースがアップロードされた時刻を捉えたものであるのに対し、後者は当該ピースを本件調査会社のハードディスクに保存するための書込みが終了した時刻を捉えたものであるためである。ディスクの速度等によってハードディスクへの書込みに遅延が生じることはあり得るし、上記のような性質の異なる時刻にずれが生じていることをもって対象通信が異なるとはいえない。このことは、本件調査時に記録されたIPアドレス等の情報と再生試験結果報告書(乙19)で用いたピースのファイル名との対比によっても明らかである。 (原告の主張) (1)自動公衆送信権侵害に当たらないこと ア 被告は、本件各発信者が、本件動画と同一性を有する侵害動画(乙8侵害動画)の一部を本件各通信によって送信した旨主張するが、乙8侵害動画は本件調査とは別の機会にダウンロードされた可能性があり、本件各発信者が送信したピースが乙8侵害動画の少なくとも1つのピースを構成することが明らかとはいえない。したがって、本件各発信者によるピースの送信によって本件動画全体の著作権が侵害されたとはいえない。 イ 表現上の本質的特徴を直接感得することができないこと (ア)自動公衆送信権侵害が成立するためには、当該送信行為によって著作権者の創作的表現を侵害したといえなければならないから、ピース単体で再生可能であり、かつ、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できなければならない。被告が主張する再生方法を前提とすると、被告は、実際にダウンロードしたピースではなく、「侵害動画」のデータから、ftyp、mооv及び当該ピース以外の情報を削除して再生を試みたというのであるから、当該ピース単体で再生可能とはいえない。また、再生試験結果報告書によっても、3秒程度の極めて短時間の再生しかできず、その映像も出演者を映しているだけで焦点距離や撮影の位置、構図等の点ではありふれたものであり、製作者の個性が現れているとはいえない。 (イ)別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の各通信について 再生試験結果報告書によれば、上記各通信は、それぞれ風景と申立人のロゴマークと思われる標章が映し出されたピースを送信したにすぎず、当該再生部分に創作性はないし、著作物の表現上の本質的特徴を感得することは到底できない。 (ウ)以上によれば、本件各発信者が送信したピース単体で再生可能であるとはいえず、かつ、当該ピースから本件動画の表現上の本質的特徴を感得することはできない。 ウ 「公衆」送信行為に当たらないこと 後記2と同様の理由から、本件各通信は、「公衆によって直接受信されることを目的」とする無線通信又は有線電気通信の送信行為(著作権法2条1項7号の2)に当たらない。 (2)本件調査の信用性 被告は、本件システムによって検知されたIPアドレスとアップロードしたパソコンのIPアドレスとの同一性確認試験を行っているが、検証内容として不十分である。また、意見照会の結果、多数の契約者が身に覚えがないなどと回答している。さらに、本件各通信の「発信時刻」と、再生試験結果報告書に記載されている「時刻」にずれがある動画(別紙動画目録(1)記載23、24、57、78及び83)が複数あり、本件各通信と再生試験結果報告書記載の通信との同一性が不明である。 以上のとおり、本件各通信によって権利侵害が行われたことが明白であるとはいえない。 (3)故意過失を基礎付ける事実の不存在 被告は、上記事実について何ら立証していない。 2 争点2(特定電気通信の該当性)について (被告の主張) BitTorrentシステムにおいては、発信ピアは、不特定の受信ピアからダウンロードのリクエストがあれば、当該受信ピアに対して自動的にピースをアップロードするシステム設計となっている。したがって、本件各通信は、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」であるといえるから、「特定電気通信」(法2条1号)に当たる。 (原告の主張) 本件各通信は、特定のピアから特定のピアに対して1対1でピースを送受信するP2P通信にすぎず、「不特定の者によって受信されることを目的とする」とはいえないため、「特定電気通信」(法2条1号)には当たらない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(権利侵害の明白性)について (1)権利侵害の明白性 ア 法5条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、当該情報の区分により定められた同項各号の該当性に応じて、その開示を請求することができる旨規定している。同項が、特定電気通信上において匿名で発信された情報の流通により被害を受けた者に対して権利回復の手段を与える一方、発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との均衡を図る観点から、開示の対象を情報の流通による権利の侵害に係る発信者情報に限定した趣旨目的に鑑みると、同項にいう「権利の侵害」とは、侵害情報の流通によって権利の侵害を直接的にもたらしているものをいうと解するのが相当である(最高裁平成30年(受)第1412号令和2年7月21日第三小法廷判決・民集74巻4号1407頁参照)。 そして、発信者がBitTorrentを利用して著作物と同一のファイルの一部を構成するピースを送信した場合、当該ピースを受信する者は、当該ピースによって初めて上記著作物と同一のファイル全体を再生することが可能となることからすると、上記発信者は、BitTorrentにおいて上記著作物と同一のファイル全体の再生に必要不可欠な情報を入力するという、上記著作物全体の自動公衆送信の実現における枢要な行為をしているものといえる。 そうすると、上記発信者は、上記ピースの流通によって上記著作物全体の著作権の侵害を直接的にもたらしていると認めるのが相当である。 したがって、発信者においてBitTorrentを利用して送信した情報が著作物と同一のファイルの一部のみを構成する場合であっても、上記発信者が上記ファイル全体の送信を他のピアと共に完成させたときは、同項にいう「権利の侵害」は、上記著作物全体について成立するものと解するのが相当である。 これを本件についてみると、前記前提事実並びに証拠(乙7、19)及び弁論の全趣旨によれば、本件各発信者においてBitTorrentネットワークを利用して送信した個別のピースは、本件動画と同一のファイルの一部を構成するものと認めることができる。もっとも、本件全証拠及び弁論の全趣旨を踏まえても、本件調査会社は、本件調査の過程において個別のピースをダウンロードするにとどまり、本件動画全体に相当するファイルを現実にダウンロードしたものとは認めることができない。 そうすると、本件各発信者は、本件動画全体の送信を他のピアと共に完成させたものと認めることはできない。そして、証拠(乙19)によれば、本件各通信によって自動公衆送信された個々のピースは、本件動画の中の2秒から4秒程度に相当するファイルにすぎないことからすると、これをもって本件動画全体の表現上の本質的特徴を感得できるものといえないことは明らかである。 したがって、法5条1項にいう「権利の侵害」は、本件動画全体について成立するものと認めることはできない。 イ これに対し、被告は、予備的に、本件各通信によって本件動画の一部の著作権が侵害されたとも主張する。そこで検討するに、前記前提事実並びに証拠(甲3の1及び2、乙7、19)及び弁論の全趣旨によれば、本件各発信者が送信した個別のピースのデータは、いずれも本件動画のうち約2秒から4秒程度の動画と同一の内容のデータであること、少なくともこれらのピースのうち別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の通信に係るもの(甲3の1及び2、乙19の1の13、乙19の4の21)を除いたピースについては、これに対応する本件動画の一部分が、いずれも出演者の表情、動きなどが分かるような構図、角度から撮影されたものであること、他方、別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の通信に係るピースについては、いずれも風景やロゴマークが映し出されているにとどまること、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、本件各発信者が送信したピースに対応する本件動画の一部は、別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の通信に係るものを除き、いずれも出演者の表情、動きなどが分かるような構図、角度から一応撮影されたものであるから、これらの点において表現上の創作性があることを否定することはできず、他方、別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の通信に係るものは、風景又はロゴマークに関する映像にすぎず、当該映像における表現として明らかにありふれたものであるから、これらに表現上の創作性があるということはできない。 そうすると、本件各発信者は、別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の通信に係るものを除き、上記個別のピース自体の流通によって本件動画の一部に係る著作権侵害を直接的にもたらしたものと認めるのが相当である。 したがって、本件各通信のうち、別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154を除くものに限り、本件動画の一部について法5条1項にいう「権利の侵害」が成立するものと認めるのが相当である。 これに対し、原告は、自動公衆送信の客体であるピース単体で閲覧可能でなければ著作権の侵害に該当しないところ、ピース単体で再生可能であることの立証はない旨主張する。しかしながら、ピース単体で閲覧することが不能であったとしても、前記のとおりダウンロードされたピースが本件動画の一部を複製したものであることは動かない上、BitTorrentにおいては、通常、複数のピアからピースの送信を受けることで、最終的に当該特定のファイルを構成する全てのピースが取得、共有されることが当然に予定されている。そうすると、少なくとも全てのピースが取得、共有される段階において閲覧可能となるデータを送信したものと推認するのが相当であるし、現に再生に必要なデータ(ftyp及びmооv)があれば当該ピースの映像は再生されているのであるから、原告の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、採用することができない。 (2)その余の点に関する原告の主張に対する判断 ア 原告は、本件調査の結果が正確であるとはいえず、権利侵害通信とは無関係の通信が検出された可能性を否定できない旨主張する。しかしながら、前記前提事実及び証拠(乙12、20ないし23)並びに弁論の全趣旨によれば、本件システムは、一般的なBitTorrentクライアントソフトにおいてライブラリとして使用されているLibtorrentを使用して他のピアのIPアドレス等の情報を取得するものであり、このような過程自体は、一般的なBitTorrentクライアントソフトの動作と異なるものではないこと、接続ピアの情報をデータベースに記録過程についても、技術説明会等において一通りの説明がされているものであり、その説明の信用性に疑問を抱かせる具体的な事情はうかがわれないこと、本件システムについては、正確なIPアドレスが検出されるかどうかについての同一性確認試験も実施されていること、以上の事実が認められる。上記認定事実によれば、本件調査の結果には信用性があるものと認めるのが相当である。 イ 原告は、意見照会の結果、多数の契約者が発信者ではない旨の回答をしていることをもって、本件調査の正確性を争うものの、証拠(甲2)を踏まえても、かえって上記の回答内容自体、客観的な証拠によって裏付けられているものとはいえない。 ウ 原告は、再生試験結果報告書記載の「時刻」と別紙動画目録(1)から(4)まで記載の「発信時刻」にずれがあることをもって、個別再生試験の対象とされた通信と本件各通信との同一性を争っている。しかしながら、証拠(乙20、24)及び弁論の全趣旨によれば、再生試験結果報告書に記載された「時刻」は、本件システムが通信を捕捉したピースを本件調査会社のハードディスクに保存した時刻を表すものであることが認められる。そして、技術常識によれば、データをハードディスクに保存するには一定の時間を要する場合があることは否定できないところ、原告が指摘する上記時刻のずれは、最大でも1、2秒程度であり、この程度のずれをもって、本件各通信と個別再生試験の対象とされた通信とが同一であることの信用性が、直ちに否定されるものとはいえない。 エ 原告は、本件各通信は、本件各発信者と本件調査会社との間の二者間で行われる通信にすぎず、公衆によって直接受信されることを目的とするものではないから、公衆送信行為に該当しない旨主張する。しかしながら、本件各通信は、後記2のとおり、不特定の者に送信する行為であるというべきであるから、公衆送信行為に該当する。 オ 原告は、故意、過失を基礎付ける事実が存在しないことの立証がない旨主張する。しかしながら、故意、過失を欠く旨の原告の主張は、抽象的な可能性を指摘するにすぎず、原告の主張は、権利侵害の明白性を直ちに左右するものとはいえない。 2 争点2(特定電気通信の該当性)について (1)法2条1号は、特定電気通信につき、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいうものと規定している。そして、前記前提事実並びに証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば、BitTorrentの仕組みにおいては、発信者がBitTorrentによってその保有するファイルを送信する場合、上記発信者は、その送信の前にトラッカーに接続し、自己のIPアドレス等の情報及びファイルの保有に係る情報をトラッカーに通知した上、BitTorrentを利用してトラッカーから上記各情報を取得した不特定の者からの求めに応じ、自動的に上記ファイルを送信していることが認められる。そうすると、当該送信の主体である発信者からみると、その保有するファイルの受信者は、不特定の者に該当するから、上記送信に係る電気通信は、同号にいう特定電気通信に該当するものといえる。 そして、前記前提事実によれば、本件各通信についても、本件各発信者がBitTorrentによってその保有するファイルを送信した場合における通信であるから、本件各発信者は、BitTorrentを利用する不特定の者からの求めに応じ、その保有するファイルを自動的に送信したものと認めるのが相当である。 したがって、本件各通信は、同号にいう特定電気通信に該当するものといえる。 (2)これに対し、原告は、本件各通信が本件各発信者と本件調査会社との間の1対1の通信にすぎないから、特定電気通信に当たらない旨主張する。しかしながら、原告の主張は、上記認定に係るBitTorrentによる通信の仕組み全体を踏まえずに、その仕組みの一部のみを取り出して特定電気通信の該当性を否定するものである。したがって、原告の主張は、特定電気通信上において匿名で発信された情報の流通により被害を受けた者に対して権利回復の手段を与えるという法5条の趣旨目的に照らしても、採用することができない。 3 小括 以上によれば、原告は、別紙動画目録(4)記載68及び99に係る発信者情報を除き、本件発信者情報を保有していること、別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154を除く本件各発信者は、別紙動画目録(1)から(4)まで記載の発信時刻において、本件動画の一部と同一の内容のファイルを送信することによって、本件動画の上記一部について法5条1項にいう「権利の侵害」(自動公衆送信権侵害)を成立させたことが明らかであり、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。そして、被告は、本件各発信者に対し、損害賠償請求を行うことを予定しているから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 第5 結論 よって、被告による開示命令の申立ては、一部理由があるから、原決定を変更することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 武富可南 裁判官松川春佳は転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 中島基至 (別紙)令和5年(発チ)第10137号発信者情報開示命令申立事件 決定 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 相手方は、申立人に対し、別紙動画目録(4)記載68及び99に係るものを除く別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 申立人のその余の申立てを却下する。 3 手続費用は各自の負担とする。 理由 別紙理由の要旨記載のとおり 令和6年12月13日 東京地方裁判所民事第40部 裁判官 武富可南 (別紙)理由の要旨 1 本件は、申立人が、別紙動画目録(1)ないし(4)記載の各動画(以下「本件動画」という。)の流通によって著作権を侵害されたと主張して、相手方に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)8条、5条に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。 2 一件記録によれば、相手方は、別紙動画目録(4)記載68及び99に係る発信者情報を保有していないことが認められる。上記を除き、氏名不詳者は、ビットトレントネットワークを用いて、公衆からの求めに応じ、本件動画に係る細分化されたファイル(ピース)を送信したものと認められるから、本件動画についての申立人の自動公衆送信権を侵害したものといえ、申立ての原因事実はいずれも認められる。なお、個別の通信に関する権利侵害の明白性について次のとおり補足説明する。 (1)別紙動画目録(1)記載23、24、57、78及び83の通信について 相手方は、別紙動画目録(1)記載の23、24、57、78及び83の通信について、別紙動画目録記載の発信時刻と再生試験結果報告書(甲19〔枝番は省略する。〕)記載の「日時」にずれがあるとして、氏名不詳者が上記各通信によって本件動画に係るピースファイルを送信した事実を争う。しかしながら、一件記録によれば、再生試験結果報告書記載の「日時」は、調査会社がピースファイルの送信を受けた後、当該ピースファイルを調査会社のハードディスクに記録を完了した時刻を記載したものであり、そのずれの程度も数秒程度にとどまることが認められる。以上の事実によれば、別紙動画目録記載の発信時刻と再生試験結果報告書記載の「日時」にずれが生じること自体は何ら不合理ではないし、その程度も合理的な範囲内にとどまる以上、調査会社が行った調査の信用性に疑義を生じさせるものとはいえない。したがって、相手方の上記主張を採用することはできない。 (2)別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の通信について 相手方は、別紙動画目録(1)記載80及び同目録(4)記載154の通信に係るピースについては、風景や申立人のロゴマークが映し出されているにすぎず、著作物の表現の本質的特徴を感得することができない旨主張する。 しかしながら、一件記録によれば、BitTorrentは、個別のピースを集積することで元のファイルに復元再生することが可能なシステムの一環としてピースの送受信を行うものであり、発信者においてBitTorrentを利用して送信した情報が著作物の複製物の一部のみを構成する場合であっても、上記発信者は、上記著作物全体の侵害を直接的にもたらしていると解するのが相当である。これを本件についてみると、一件記録によれば、上記各通信によって送信されたピースは、侵害情報である本件動画の複製物の一部を構成することが認められる。そして、調査会社が受信した本件動画の複製物に係る情報(上記各ピースを含む。)は、本件動画の正規品のデータと同一であることが認められる。そうすると、個々のピースについて、本件動画の表現の本質的な特徴を直接感得することができるか否かを論ずるまでもなく、本件動画に係る著作権の侵害があったものと認められる。したがって、相手方の主張は、採用することができない。 3 以上によれば、本件申立てには主文掲記の限度において理由があるからこれを認容し、その余の申立ては理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり決定する。 以上 (別紙)当事者目録 申立人 有限会社プレステージ 同手続代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 大塚直 同手続復代理人弁護士 河田隆克 相手方 KDDI株式会社 同手続代理人弁護士 今井和男 同 小倉慎一 同 山本一生 同 小俣拓実 以上 (別紙)動画目録(省略) (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に相手方から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス 動画目録(1)82 動画目録(2)2、14、22、57 動画目録(3)107 動画目録(4)18、25、51、88、104、154 |
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