| 判例全文 | ||
| 【事件名】KDDIへの発信者情報開示命令異議申立事件C(2) 【年月日】令和7年10月20日 知財高裁 令和7年(ネ)第10028号 発信者情報開示命令申立てについての決定に対する異議の訴え控訴事件 (原審・東京地裁令和6年(ワ)第70312号) (口頭弁論終結日 令和7年9月8日) 判決 控訴人 KDDI株式会社 同訴訟代理人弁護士 今井和男 同 小倉慎一 同 山本一生 同 望月光彦 被控訴人 株式会社EXstudio 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 大塚直 同 河田隆克 同 清水聡 同 畠山晃 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 東京地方裁判所令和5年(発チ)第10183号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年6月20日にした決定を取り消す。 3 被控訴人の上記事件に係る申立てをいずれも却下する。 第2 事案の概要等(略語は、特記しない限り原判決に従う。) 1 事案の要旨 被控訴人は、氏名不詳者(本件発信者)が、BitTorrentネットワークを介して原判決別紙動画目録記載1の動画(本件動画)の複製物である電子データを送信可能化し、また現実に公衆送信したことによって、本件動画に係る被控訴人の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件発信者に対する損害賠償請求のため、電気通信事業を営む控訴人が保有する原判決別紙発信者情報目録記載の各情報(本件発信者情報)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号。令和6年法律第25号による改正後の題名は特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律。以下「情報流通プラットフォーム対処法」という。)5条1項に基づき、控訴人に対し、本件発信者情報の開示を求める申立てをした(東京地方裁判所令和5年(発チ)第10183号)。同裁判所は、令和6年6月20日、本件発信者情報の開示を命じる旨の決定(甲1。以下「原決定」という。本判決では、特記しない限り、書証番号の掲記に際して枝番号の表記を省略したものは枝番を含む。)をした。 本件は、控訴人が、情報流通プラットフォーム対処法14条1項に基づき、原決定に対する異議の訴えを提起した事案である。 原審が原決定を認可したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。 2 前提事実 前提事実及び争点は、原判決の「事実及び理由」第2の1及び2(2頁14行目〜4頁25行目)に記載のとおりであるからこれらを引用する(なお、以下、原判決中の「プロバイダ責任制限法」は「情報流通プラットフォーム対処法」と読み替える。)。 第3争点に関する当事者の主張 1 争点に関する当事者の主張は、後記2のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3(原判決4頁26行目〜7頁1行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 当審における当事者の補充主張 (1)控訴人の補充主張 ア 被控訴人は、原判決別紙動画目録の「ハッシュ」欄記載の値が、本件調査において本件システムが接続したピアからダウンロードした侵害動画データ(以下「本件侵害動画データ」という。)に係るハッシュ値であることを裏付ける客観的な証拠を提出していない。そうすると、本件侵害動画データは、本件調査とは別の機会にダウンロードされた可能性があるから、本件動画の公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。 イ 原判決別紙動画目録の表番号37記載の通信(以下「本件通信37」という。)に関し、同目録記載の「発信時刻」と、再生試験結果報告書(乙21の37)に記載された「日時」との間には、3秒の差異がある。 原判決は、ハードディスクの書き込み終了までには、他に実行しているタスク等の影響で一定の時間が掛かり得るとして、本件通信37と再生試験結果報告書に記載された通信との同一性を肯定しているが、そのようなハードディスクの書き込み遅延が生じる原因となる具体的事実関係が存在したことの主張及び立証はないから、本件通信37により本件動画の公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。 (2)被控訴人の補充主張 ア 原判決別紙動画目録の「ハッシュ」欄記載の値は、トレントファイル内の情報をハッシュ関数によりハッシュ化した値であり、一般に「インフォハッシュ」と呼ばれるものである。これは、トレントファイルが示すデータを特定しダウンロードし、また、正しくダウンロードされているかを確認するためのものであって、ファイルの一致を判断するために用いられるハッシュ関数とは異なる。 そして、トレントの仕組みそのものによると、同じインフォハッシュを通じてダウンロードされたという事実により、元のファイルとピースが対応していることが保証されているというべきであるから、本件通信により送信されたピースが、本件侵害動画データの一部であることは明白である。 仮にそのような推論が成り立たないとしても、被控訴人が提出した本件侵害動画データのうち、乙9は証拠提出のために圧縮したデータであり、乙30は原判決別紙動画目録記載の「ハッシュ」欄記載の値によって特定されるデータであって圧縮していないものであるが、そのいずれも、被控訴人が著作権を有する本件動画(乙8)と、その映像内容が同一であることは明らかである。更に念のため、Pythonコマンドを用いて全てのピース(乙31)と乙30とのバイナリ照合を行い、一致することを確認した(乙32)。 したがって、本件通信によるピースの流通によって、本件動画の著作権が侵害されたことが明らかである。 イ 本件調査では、ピースファイルを仮想サーバに保存していたところ、一般に書き込みの遅延が生じる原因を一つに特定することは困難である。そこで、被控訴人は、本件調査と同様の負荷環境を用意し、仮想サーバへの書き込みを再現したところ、実際に遅延が生じ得ることを確認した(乙28)。したがって、書き込み終了までに一定の時間が掛かり得るとする原判決の指摘は正当であって、本件通信37による本件動画の公衆送信権の侵害が認められる。 第4 当裁判所の判断 当裁判所も、原決定は認可されるべきものであって、控訴人の請求には理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。 1 争点1(権利侵害の明白性)について (1)権利侵害の明白性 ア 前提事実(引用した原判決の「事実及び理由」第2の1)によると、共有対象となる特定のファイル(以下「対象ファイル」という。)に対応して形成されたBitTorrentネットワークに、トレントファイルを使用してピアとして参加した端末は、他のピアとの間で通信を行って稼働状況やピース保有状況を確認した上、対象ファイルを構成するピースを保有するピアに対してその送信を要求してこれを受信し、また、他のピアからの要求に応じて自身が保有するピースを送信して、最終的には、いずれのピアも、対象ファイルを構成する全てのピースを取得し、対象ファイルそのものを共有することができる。 そして、証拠(乙3〜10、21、29〜32)及び弁論の全趣旨によると、本件発信者は、本件通信により、本件システムに対し、BitTorrentネットワークを介して個別のピースを送信したこと、当該個別のピースは、いずれも、本件動画の複製物であるデータに対応したインフォハッシュ値により特定されている上、その内容においても、本件動画の一部を構成していることがそれぞれ認められる。 そうすると、本件発信者は、本件動画に対応するトレントファイルを用いてBitTorrentネットワークに参加した上、本件動画の複製物であるデータのピースを送信することにより、他のピアのユーザーと互いに関連し共同して、BitTorrentネットワークを介して、本件動画全体の複製物であるデータを不特定の者の求めに応じて送信したものと評価できる。 したがって、本件通信に係る情報の流通により、被控訴人の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。 イ 控訴人は、被控訴人による著作権侵害調査の正確性に疑問がある、本件発信者には故意又は過失がないなどと主張するが、これらが採用できないことは、原判決の「事実及び理由」第4の1(2)イ及びウ(8頁26行目〜10頁8行目)のとおりであるからこれを引用する。 (2)当審における控訴人の補充主張に対する判断 ア 控訴人は、被控訴人が、原判決別紙動画目録の「ハッシュ」欄記載の値が本件侵害動画データに係るハッシュ値であることを裏付ける客観的な証拠を提出していないから、本件侵害動画データは、本件調査とは別の機会にダウンロードされた可能性があって、本件動画の公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとは認められないと主張する。 しかし、証拠(乙3〜6、10、21、29〜32)及び弁論の全趣旨によると、原判決別紙動画目録の「ハッシュ」欄記載の値は、トレントファイルに含まれるメタデータであって、他のピアから受け取るピースの正当性を確認するデータであるインフォハッシュを指すところ、本件侵害動画データに係るインフォハッシュの値と、本件通信により本件システムが受信した各ピースに係るインフォハッシュの値は一致することが認められる。他に、本件侵害動画データが本件調査とは別の機会にダウンロードされた可能性をうかがわせる事情は認められない。 したがって、控訴人の主張は採用することができない。 イ 控訴人は、本件通信37について、その発信時刻と、再生試験結果報告書(乙21の37)に記載された「日時」との間に3秒の差異があって、ハードディスクの書き込み遅延が生じる原因となる具体的事実関係が主張立証されていないから、本件通信37により本件動画の公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとは認められないと主張する。 しかし、本件通信37に係る情報(乙6)と再生試験結果報告書(乙21の37)の「日時」以外の情報を対比すると、IPアドレス、ポート番号、本件システムが当該ピアから最初のピースをダウンロードした時点までに当該ピアが所持していたピース数がいずれも一致するところ、再生試験結果報告書に記載されている日時は飽くまで本件調査会社の仮想サーバにピースファイルが書き込まれた日時であって、これが通信のタイムスタンプから数秒遅れることについても合理的に説明が可能である(乙24、27)。他に、通信の同一性を疑うべき事情は認められない。 したがって、控訴人の主張は採用することができない。 2 争点2(特定電気通信の該当性)について 原判決の「事実及び理由」第4の2(10頁9行目〜11頁10行目)に記載のとおりであるからこれを引用する。 3 小括 以上によると、本件発信者は、原判決別紙動画目録記載の発信時刻において、本件動画の複製物の少なくとも一部のファイルを送信することによって、本件動画に係る被控訴人の公衆送信権を侵害したものであり、権利侵害の明白性を認めることができる。 弁論の全趣旨によると、被控訴人は、本件発信者に対し、損害賠償請求等を行うことを予定しているから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 第5 結論 以上の次第であるから、原決定を認可した原判決は相当であって、本件控訴には理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 本多知成 裁判官 伊藤清隆 裁判官 天野研司 |
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