| 判例全文 | ||
| 【事件名】TikTokへの発信者情報開示命令異議申立事件 【年月日】令和7年10月16日 東京地裁 令和7年(ワ)第70067号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え事件 (口頭弁論終結日 令和7年8月21日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 中村得郎 同 延時潤一 同 田中理莉子 被告 TikTokPte.Ltd. 同訴訟代理人弁護士 伊東啓 同 角田龍哉 同 福王広貴 同 唐美佳 同 宮関貴臣 同 森愛美 主文 1 東京地方裁判所令和6年(発チ)第11447号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和7年2月3日にした別紙決定を認可する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 東京地方裁判所令和6年(発チ)第11447号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和7年2月3日にした決定を次のとおり変更する。 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載2ないし4の情報を開示せよ。 2 原告のその余の申立てを却下する。 第2 事案の概要 原告は、氏名不詳者が原告の撮影した動画を無断で複製し、インターネット上の動画投稿サイト「TikTok」(以下「本件サイト」という。)にアップロードしたことにより、原告の著作権(複製権、公衆送信権及び頒布権)を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める申立てをした。 本件は、原告が、上記申立ての一部を却下した決定に対し、法14条1項に基づき、異議の訴えを提起した事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠〔以下、枝番の記載は省略する。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実をいう。) (1)当事者 ア 原告は、ユーザーネーム「B」、アカウント名B´というアカウントを用いて、動画投稿サイトYoutubeなどに動画投稿を行っている者である。(甲4、7、8、9、弁論の全趣旨) イ 被告は、本件サイトの管理運営を行っている会社であり、特定電気通信役務提供者(法2条4号)に該当する。(争いがない) (2)原告による動画投稿 原告は、令和5年9月14日、「[Vlog]とあぴーくんコラボ!嬉しい出会い」と題する12分程度の動画をYoutubeに投稿した。(甲8) また、原告は、令和6年3月2日、「[Vlog]2歳と行くディズニーシー(2024年2月)」と題する30分程度の動画(以下、原告が投稿した甲7と甲8の動画を併せて「原告投稿動画」という。)をYoutubeに投稿した。(甲7) (3)氏名不詳者による動画投稿 氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、本件サイトにおいて、別紙投稿記事目録記載のアカウントURL、ユーザーネームで特定されるアカウント(以下「本件TikTokアカウント」という。)を用いて、以下の動画タイトルで2分ないし3分程度の動画を投稿した(以下「本件投稿」という。)。なお、本件投稿は、遅くとも令和6年10月8日には削除された。(甲1、2) ア 別紙投稿記事目録記載1の投稿(甲1) 投稿日時 令和6年6月20日 動画タイトル「Vlog2歳と行くディズニーシー2024年2月_part11」 イ 別紙投稿記事目録記載2の投稿(甲2) 投稿日時 令和6年7月2日 動画タイトル「Vlogとあぴーくんコラボ嬉しい出会い_part4」 (4)発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報のうち、別紙発信者情報目録記載2の情報(電子メールアドレス)は保有しているが、その余の情報は保有していない旨回答した。(弁論の全趣旨) (5)原決定及び本件訴訟に至る経緯 ア 東京地方裁判所は、令和7年2月3日、本件発信者情報のうち電子メールアドレスに限り開示を命じ、その余の申立てを却下する旨の決定をした。(甲6) イ 原告は、令和7年2月27日、上記決定に対し、異議の訴えを提起した。(顕著な事実) 2 争点及びこれに関する当事者の主張 (1)権利侵害の明白性(争点1)について (原告の主張) 原告投稿動画は、原告が原告の子どもの日常を創作的に映像にしたものであるから、原告の著作物に該当する。本件発信者は、原告投稿動画の全部又は一部を無断でダウンロードして投稿(本件投稿)をしたものであるから、本件投稿は、原告の原告投稿動画に対する複製権、公衆送信権及び頒布権を侵害する。 (被告の主張) 原告投稿動画が著作物に該当すること、原告が著作権者に該当することは、否認又は争う。また、本件投稿が、原告の複製権、公衆送信権及び頒布権を侵害することは、不知又は否認する。 (2)被告による発信者情報の保有の有無(争点2)について (原告の主張) 本件TikTokアカウントは、被告から報酬を得ており、その報酬はPayPalを通じて対象者の銀行口座に支払われているから、被告は、PayPalから本件TikTokアカウントの保有者の氏名及び住所の情報を受領しているはずである。また、本件サイトにおいて報酬を得るためには、公的な身分証明書による年齢確認が必要であることに加え、被告は報酬を受領しているアカウント保有者に対して支払調書を発行しているはずである。したがって、被告は、本件発信者情報のうち氏名及び住所の情報を保有している。 (被告の主張) 否認ないし争う。 被告は、本件サイトに係るアカウントとPayPalのアカウントが連携される際に、PayPalから、APIを通じてPayPalアカウントに関する特定の情報を自動的に受領する。しかしながら、この際に、氏名及び住所を情報として受領することはなく、本件TikTokアカウントについても、氏名及び住所の情報は受領していない。この点を措くとしても、被告が上記の過程でPayPalから受領する情報は、本件発信者による動画投稿や関連するログインやログアウトの過程で把握された情報ではなく、侵害通信との関連性も不明であるから、「権利の侵害に係る発信者情報」(法5条1項本文)に該当しない。したがって、被告は、本件発信者情報のうち氏名及び住所の情報をいずれも保有していない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(権利侵害の明白性)について 前記前提事実に加え、証拠(甲1、2、5、7、8)及び弁論の全趣旨によれば、原告投稿動画は、原告自身が原告の子どもの日常生活を撮影、編集したものであり、子ども以外の人物の顔が入り込まないように配慮しつつ、子どもの愛らしい表情や様子を十分に映し出せるような構図、角度から撮影されていること、原告投稿動画は撮影時の状況に関するテロップが付されるよう工夫されたものであること、本件投稿は原告投稿動画の一部と同一の内容を投稿したものであること、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、原告投稿動画は、いずれも原告が撮影、編集したものであり、かつ、撮影対象の構図、角度等の撮影方法や編集に係る工夫に創作性を認めるのが相当であるから、原告の著作物であるといえる。そして、上記認定事実によれば、本件投稿は、原告投稿動画の一部を切り取ってそのまま投稿されたものであるから、原告の原告投稿動画に係る著作権(複製権及び自動公衆送信権)を侵害するものと認めるのが相当である。 これに対し、原告は、本件投稿は頒布権侵害に当たるとも主張するが、本件発信者は原告投稿動画に係るデータをアップロードしたにすぎず、複製物の譲渡又は貸与をしたものではないから、上記主張は採用の限りではない。 したがって、本件投稿は原告の著作権(複製権及び自動公衆送信権)を侵害するものであり、かつ、本件投稿について違法性阻却事由があるとうかがわれるような事情も認められない以上、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。 2 争点2(被告による発信者情報の保有の有無)について (1)証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 本件サイトにおいては、一定の基準を満たすユーザは、報酬付与制度であるCreatorRewardsProgram(以下「本件プログラム」という。)への参加を申し込むことができ、これに参加した場合には、被告から報酬を受けることができる。 イ 本件プログラムの参加者は、報酬の支払方法を設定する必要があり、国によってはPayPalが決済方法となる。TikTokアカウントにPayPalアカウントを連携するためには、TikTokアプリ上にポップアップされたPayPalのウェブページ上でPayPalアカウントへのログインを行い、認証を行う必要がある。正常に認証されると、PayPalアカウントが支払方法として紐付けられる。 そして、被告は、この際、PayPalからAPIを通じて、以下の(ア)ないし(エ)の5点の情報の全部又は一部を自動的に取得するが、それ以外に追加の情報を取得することはない。なお、「ホルダー名」は、PayPalアカウント登録者が自由に設定することが可能な名称である。 (ア)PayPalアカウント登録者が所在する国名 (イ)PayPalアカウント登録者が登録したPayPal上の「チャネルホルダー名」及び「ホルダー名」 (ウ)PayPalに登録したメールアドレス (エ)PayPalアカウント登録者によるPayPalアカウントへの銀行口座情報の登録の有無 ウ 本件TikTokアカウントは、本件プログラムに参加しており、PayPalアカウントが支払方法として紐付けられている。そして、被告は、本件TikTokアカウントについて、PayPalからAPIを通じて「ホルダー名」及び「電子メールアドレス」の情報を受領したものの、それ以外の情報は受領しなかった。なお、被告は、上記の電子メールアドレスとは別に、本件TikTokアカウントの停止時に登録されていた電子メールアドレスの情報を保有している。 (2)前記認定事実によれば、被告は、PayPalから、本件TikTokアカウントについて、PayPalアカウントに登録されていた「ホルダー名」及び「電子メールアドレス」の情報を受領したにすぎず、また、「ホルダー名」はPayPalアカウントの登録者が自由に設定可能なものにすぎないことが認められる。そうすると、被告は、氏名及び住所の情報を受領したものと認めることはできず、被告は、本件発信者情報のうち氏名及び住所のいずれの情報も保有しているとは認めるに足りない。 これに対し、原告は、PayPalが本人確認書類をもって本人確認を行っている以上、被告はPayPalから氏名及び住所の情報提供を受けて保有しているはずであるし、また、被告は、上記のように支払情報としての氏名及び住所を保有しているのに、発信者情報としての氏名及び住所と、支払情報としての氏名及び住所を区別した上、支払情報としての氏名及び住所は発信者情報に当たらないという独自の解釈に基づいてこれを保有していないと回答しているにすぎないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、被告は、PayPalから、氏名及び住所の情報のいずれも提供自体を受けているとは認めるに足りないのであるから、原告の主張は、その前提を欠くものである。 また、原告は、被告が本件プログラムの参加の可否を判断する際にアカウント保有者に対する年齢確認を行っていることや、支払調書を発行していることを挙げて、被告が独自に氏名及び住所の情報を取得し、保有している旨主張する。しかしながら、被告は、年齢確認の際に氏名や住所といった情報を取得していることや、支払調書の発行を行っていることを明確に否認しているところ、この点に関する原告の立証はない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。 なお、被告は、「権利の侵害に係る発信者情報」(法5条1項本文)とは、発信者による権利の侵害の過程やそれに関連する通信の過程で把握された情報であると限定して解釈すべきであるから、原告が指摘するような経過で取得した情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる余地はない旨主張するものの、「発信者情報」とは、「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう」(法2条10号)と規定されており、法は、発信者情報について、情報の取得の目的や取得の方法、保有の形態等によって、発信者情報に当たるか否かを区別していない。したがって、被告の上記解釈は、採用することができない。 3 小括 以上によれば、被告は、本件発信者情報のうち、電子メールアドレスについてのみ保有するものの、その余の情報についてはこれを保有するものとは認めるに足りないから、原告の請求は、電子メールアドレスの開示を求める限度で理由があり、その余は理由がない。 第4 結論 よって、原告による開示命令の申立ては、別紙発信者情報目録記載2の情報の開示を求める限度で適法であり、かつ、理由があるから、原決定を認可することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 武富可南 裁判官 松川春佳は転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 中島基至 (別紙)令和6年(発チ)第11447号 発信者情報開示命令申立事件 決定 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 相手方は、申立人に対し、別紙発信者情報目録記載2の情報を開示せよ。 2 その余の本件申立てを却下する。 3 手続費用は各自の負担とする。 理由 別紙理由の要旨記載のとおり 令和7年2月3日 東京地方裁判所民事第40部 裁判官 武富可南 (別紙)理由の要旨 1 本件は、申立人が、別紙投稿記事目録記載の各投稿(以下「本件投稿」という。)の流通によって著作権を侵害されたと主張して、相手方に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律8条、5条に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。 2 一件記録によれば、申立ての原因事実のうち、権利侵害の明白性及び開示を受けるべき正当な理由に係る事実はいずれも認められる。 一件記録によれば、相手方は、別紙発信者情報目録記載2の情報を保有していることが認められるが、その余の情報を保有していると認めるに足りる証拠はない。 これに対し、申立人は、本件投稿の発信者(以下「本件発信者」という。)は本件投稿による収益を受領するために銀行口座等の個人情報をアカウントに登録しているはずであるから、相手方は別紙発信者情報目録記載3及び4の情報も保有している旨主張する。 しかしながら、一件記録によれば、TikTokのアカウント保有者は、一定の要件を満たせば、報酬付与制度であるCreatorRewardsProgramに参加を申し込むことが可能であることが認められ、改めて氏名、住所等の情報をアカウントに登録する必要があるとは認めるに足りない。また、一件記録によれば、上記プログラムに参加した者は、報酬の受取方法としてPayPalアカウント又は銀行口座をアカウントに紐づける必要があるが、これによって相手方がいかなる情報を取得するかは不明であり、仮に本件発信者が上記プログラムに参加していたとしても、その事実を根拠として、相手方がその余の発信者情報を保有しているとは認めるに足りない。したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 3 以上によれば、本件申立ては、主文掲記の限度において理由があるからこれを認容し、その余の申立てには理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり決定する。 以上 (別紙)当事者目録 申立人 A 同手続代理人弁護士 中村得郎 同 延時潤一 同 田中理莉子 相手方 TikTokPte.Ltd. 同手続代理人弁護士 伊東啓 同 角田龍哉 同 福王広貴 同 唐美佳 同 宮関貴臣 以上 (別紙)発信者情報目録 別紙投稿記事目録記載のアカウントに登録されている以下の各情報。ただし、当該情報が合理的に入手可能であるものに限る。 1 電話番号 2 電子メールアドレス 3 氏名 4 住所 以上 (別紙)投稿記事目録(省略) (別紙)発信者情報目録 別紙投稿記事目録記載のアカウントに登録されている以下の各情報。ただし、当該情報が合理的に入手可能であるものに限る。 5 電話番号 6 電子メールアドレス 7 氏名 8 住所 以上 (別紙)投稿記事目録(省略) |
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