| 判例全文 | ||
| 【事件名】「木枯し紋次郎」事件(2) 【年月日】令和7年9月24日 知財高裁 令和6年(ネ)第10007号 著作権侵害差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第70139号) (口頭弁論終結日 令和7年6月18日) 判決 控訴人 亡A訴訟承継人X1(以下「控訴人X1」という。) 控訴人 亡A訴訟承継人X2(以下「控訴人X2」という。) 控訴人 亡A訴訟承継人X3(以下「控訴人X3」という。) 控訴人 亡A訴訟承継人X4(以下「控訴人X4」という。) 控訴人 株式会社スーン(以下「控訴人会社」という。) 上記5名訴訟代理人弁護士 椙山敬士 同 水上康平 同 曽根翼 被控訴人 株式会社一十珍海堂 同訴訟代理人弁護士 福井健策 同 田島佑規 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 (1)被控訴人は、別紙1「被控訴人商品目録」各項の「商品名」の箇所に記載された名称を有し、同各項に掲載された写真の容器又は包装を用いた商品を製造し、又は同商品の画像を公衆送信してはならない。 (2)被控訴人は、控訴人X1に対し、278万4193円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 (3)被控訴人は、控訴人X2に対し、278万4193円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 (4)被控訴人は、控訴人X3に対し、278万4193円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 (5)被控訴人は、控訴人X4に対し、278万4193円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 (6)被控訴人は、控訴人会社に対し、4518万2224円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 (7)控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 2 控訴人会社が当審において拡張した請求を棄却する。 3 訴訟費用は、控訴人X1、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4と被控訴人との間においては、第1、2審を通じてこれを5分し、その3を控訴人X1、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4の負担とし、その余を被控訴人の負担とし、控訴人会社と被控訴人との間においては、第1、2審を通じてこれを10分し、その9を控訴人会社の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 4 この判決は、第1項(1)ないし(6)に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、別紙1「被控訴人商品目録」記載の商品を製造し、譲渡し、引き渡し、同商品の画像を公衆送信し、又は同商品を譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。 3 被控訴人は、その占有する別紙1「被控訴人商品目録」記載の商品を廃棄せよ。 4 被控訴人は、控訴人X1に対し、2536万7280円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 5 被控訴人は、控訴人X2に対し、2536万7280円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 6 被控訴人は、控訴人X3に対し、2536万7280円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 7 被控訴人は、控訴人X4に対し、2536万7280円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 8 被控訴人は、控訴人会社に対し、4億1123万3069円及びこれに対する令和5年4月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 亡笹沢左保ことBは、「紋次郎」という名の渡世人を主人公とする「木枯し紋次郎」シリーズの小説(以下「本件小説」という。)を執筆し、本件小説を原作とする漫画、テレビドラマ及び映画が制作された。亡Aは亡Bの妻であり、控訴人X1及び控訴人X2は亡Bと亡Aの間の子であり、控訴人X3及び控訴人X4は亡Aの養子である。亡Bが有した本件小説の著作権は、亡Bが平成14年(2002年)10月21日に死亡した後は、遺産分割により亡Aが取得した。控訴人会社は、亡Aから、亡Bの著作物の独占的利用の許諾を受けた。 本件の第1審は、亡A及び控訴人会社が、被控訴人が原判決別紙「被告図柄目録」記載の図柄を、別紙1「被控訴人商品目録」各項の「商品名」の箇所に記載された名称を有し、同各項に掲載された写真の容器又は包装を用いた商品(以下、これらを併せて「被控訴人商品」という。)の外装(ラベル又は外袋)に付して製造販売し、同商品の画像をウェブサイトに掲載することは、亡Aが取得した本件小説、本件小説を原作とする漫画、テレビドラマ又は映画に係る著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権及び譲渡権)、控訴人会社の独占的利用許諾を受けた地位を侵害するとともに、被控訴人が上記図柄を付して被控訴人商品を製造販売することは、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に当たると主張し、被控訴人に対し、著作権法112条1項、2項又は不競法3条1項、2項に基づき被控訴人商品の製造販売等の差止め及び廃棄を請求するとともに、亡A及び控訴人会社各自に対し、不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求又は不競法4条本文に基づく損害賠償請求として、1億5126万1000円及びこれに対する不法行為の後である令和5年(2023年)4月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は亡A及び控訴人会社の請求をいずれも棄却したので、亡A及び控訴人会社が原判決を不服として控訴した。 当審係属中の令和6年(2024年)8月8日に亡Aが死亡し、その相続人である控訴人X1、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が亡Aの訴訟承継人となった(以下、これらの控訴人4名を併せて「控訴人亡A訴訟承継人ら」という。)。亡Aが有していた著作権は、遺産分割により控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が取得した。当審において、金銭請求につき、控訴人亡A訴訟承継人らは請求を減縮し、控訴人会社は請求を拡張し、各控訴人の請求金額は前記第1の4ないし8のとおりとなった。 2 前提事実(後掲の証拠等により容易に認められる。以下、書証は、特に枝番号を記載しない限り、すべての枝番号を含むものとする。) (1)当事者等 ア 亡Bは本件小説を執筆した。本件小説は、雑誌に連載された後、書籍にまとめられて出版された。亡Bは平成14年(2002年)10月21日に死亡した。(甲3、4、11の3、45) イ 亡Aは、亡Bの妻であり、亡Bの相続に係る遺産分割により、亡Bの著作物に係る著作権を取得した(甲11の1〜4、12)。亡Aは、令和6年(2024年)8月8日に死亡した(弁論の全趣旨〔控訴人ら代理人の令和7年1月16日付け上申書〕)。 ウ 控訴人X1及び控訴人X2は、亡Bと亡Aとの間の子である。控訴人X3及び控訴人X4は、控訴人X1の子であり、控訴人X4は令和5年(2023年)9月11日に、控訴人X3は同月12日に、亡Aと養子縁組した。亡Aの相続人である控訴人亡A承継人ら(控訴人X1、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4)は、令和7(2025年)年4月7日、被相続人亡Aの遺産分割協議を成立させ、亡Aが有していた上記イの著作権を控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が取得する(持分は控訴人X2が2分の1、控訴人X3及び控訴人X4が各4分の1)ことを合意した。(甲79) エ 控訴人会社は、広告代理店業、キャラクター商品の企画、制作、販売等を目的とする株式会社である。(甲1) オ 被控訴人は、食品の製造販売等を業とする株式会社である。(甲2) (2)テレビドラマの放映等 昭和47年(1972年)1月から5月まで、本件小説を原作とするテレビドラマ「木枯し紋次郎」(以下「本件テレビ作品」という。)が放映された。また、同年、本件小説を原作とした漫画(以下「本件漫画作品」という。)が雑誌に掲載され、その後単行本として出版された。さらに、同年、本件小説を原作とした映画(以下「本件映画作品」という。)が制作され、上映された。なお、木枯し紋次郎を主人公とするテレビドラマとしては、昭和47年(1972年)から昭和48年(1973年)3月まで「続・木枯し紋次郎」、昭和52年(1977年)10月から昭和53年(1978年)3月まで「新・木枯し紋次郎」も放映された。(甲6〜9、弁論の全趣旨) (3)被控訴人による商品の製造販売 被控訴人は、昭和47年(1972年)6月25日から、別紙1「被控訴人商品目録」記載1及び2の「商品名」の箇所に記載された名称(「紋次郎いか」)を有し、同各項に掲載された写真の容器を用いた商品を製造販売した。この「紋次郎いか」は、甘辛く煮たするめいかの足を竹の串に刺した食品を複数本容器に入れた商品である。「紋次郎いか」の容器に付されたラベルには、別紙2「被控訴人図柄目録」記載の図柄(以下「被控訴人図柄」という。)が付されていた。被控訴人は、その後、同目録記載3の「商品名」の箇所に記載された名称(「げんこつ紋次郎」)を有し、同項に掲載された写真の容器を用いた商品、同目録記載4及び5の「商品名」の箇所に記載された名称(「とんがりいか」)を有し、同各項に掲載された写真の容器を用いた商品にも、被控訴人図柄が付されたラベルを貼付した容器を用い、同目録記載6の「商品名」の箇所に記載された名称(「てっぽういか」)を有し、同項に掲載された写真の包装を用いた商品にも、被控訴人図柄が付された外袋の包装を用い、これらを製造販売した(以下、上記各商品については、商品名をもって商品を示す。)。(甲15、乙69) なお、原判決別紙「被告図柄目録」は、被控訴人図柄に「紋次郎」との語を付したものをもって、同別紙記載の図柄と特定していたとも解される。しかし、控訴人らは、文字が含まれない被控訴人図柄によって著作権が侵害されたと主張しており、また、別紙1「被控訴人商品目録」記載4の「とんがりいか」のラベルには、被控訴人図柄のみが表示され、「紋次郎」との語は表示されておらず、さらに、本件小説を原作とした本件テレビ作品の画像と対比されるべきは図柄であると解されることから、以下では、「紋次郎」との文字を含まない被控訴人図柄による著作権侵害の成否について検討する。 (4)亡Aと控訴人会社との間の基本契約 控訴人会社は、平成23年(2011年)11月3日、亡Aとの間で亡Bの著作物の著作権に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。本件基本契約により、亡Aは、控訴人会社に、亡Bの著作物について独占的利用を許諾した。本件基本契約には以下の内容の条項が含まれていた。(甲13) ア 本件基本契約は、亡Aが著作権を有する亡Bの著作に係る著作物一切(以下、本件基本契約において、これらの全部の著作物を総称して「本件全著作物」といい、個々の著作物を「本件著作物」という。)を利用して、世界における商品化の事業を営むこと(以下、本件基本契約において「本件事業」という。)を目的とする。(第1条1項) イ 本件事業には、下記の業務が含まれるものとする。(第1条2項) (ア)本件著作物に関するライセンス業務 (イ)本件著作物に関する管理業務 a (ア)記載のライセンス業務に伴う交渉、契約締結、使用許諾料の徴収、亡Aその他の権利関係者への配分 b 第三者による著作権侵害に対する対応 c 本件著作物に関連して著作権その他の権利を有する者との権利の調整 d 利用者等に関する情報収集及び分析 e 前各号に関連するその他の業務 ウ 亡Aは、本件基本契約の期間中、控訴人会社に、本件全著作物に関する著作権を独占的に利用許諾し、本件事業を独占的に遂行する権利を許諾する。(第2条) エ 本件著作物について具体的な商談が発生した場合は、亡Aと控訴人会社との間で適宜個別契約を締結し、金銭の支払その他の契約条件を定めるものとする。(第6条1項) オ 控訴人会社は、亡Aに対し、個別契約で定める対価を、個別契約で定める期日までに、亡Aの指定する銀行口座に支払うものとする。(第7条) カ 本件著作物に関する著作権その他の権利、利益等が第三者により侵害され又は侵害されるおそれがあることを発見した場合には、本件基本契約の当事者は直ちに相手方にその旨を通知するものとし、亡Aと控訴人会社は、協力して当該侵害等の予防、排除に必要なあらゆる措置を講じるものとする。(第13条) (5)本件訴訟提起 亡Aと控訴人会社は、令和5年(2023年)3月28日、本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点及び争点に対する当事者の主張(当審における主張を含む。) (1)著作権侵害の有無(争点1) 〔控訴人らの主張〕 ア 本件小説に登場する主人公の紋次郎は、@通常より大きい三度笠を目深にかぶり、A通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、B口に長い竹の楊枝をくわえ、C長脇差を携えた渡世人であるとの外観上の特徴を有している。 本件小説には、別紙3「控訴人らの著作物における具体的表現と被控訴人図柄の対比表」(以下「別紙3対比表」という。)の「控訴人らの著作物の具体的表現」の「1」に記載の表現が存在しており、この言語表現から、一般の読者は、主人公である紋次郎の外観的特徴を容易に思い描くことができる。 本件テレビ作品における紋次郎の画像の表現も、上記@ないしCの外観的特徴を有している。別紙3対比表の「控訴人らの著作物の具体的表現」の「3」に掲載の画像は、いずれも、本件テレビ作品に登場した紋次郎の画像であり、これを通じて感得できる本件テレビ作品における紋次郎の画像の表現は、上記@ないしCの特徴的部分をそのまま有している。 また、本件漫画作品における紋次郎の絵の表現も、上記@ないしCの特徴を有している。別紙3対比表の「控訴人らの著作物の具体的表現」の「2」に掲載の絵は、本件漫画作品に登場する紋次郎の絵である。さらに、本件映画作品における紋次郎の画像の表現も、上記@ないしCの特徴を有している。 以上のとおり、本件小説の紋次郎、本件テレビ作品の紋次郎、本件漫画作品の紋次郎及び本件映画作品の紋次郎は、上記@ないしCの外観上の特徴を有しており(以下、本件小説の紋次郎、本件テレビ作品の紋次郎、本件漫画作品の紋次郎及び本件映画作品の紋次郎に共通する、上記@ないしCの特徴を有するものとして描かれた紋次郎を「本件紋次郎」という。)、これら四つの特徴を備える渡世人の表現は、前例がなく、極めて独創性の高い表現であり、創作者の個性が十分表現されていて、著作権法上保護されるべき創作性が認められる。この点、上記@ないしCの特徴を個別に取り出して、それぞれが表現としてありふれているとして、創作的表現に当たらないと判断することは誤りである。 イ 被控訴人図柄は、これを見る者をして、通常よりも大きい三度笠をかぶり、通常よりも長い道中合羽を身に着けて、長脇差を携えた走行中又は歩行中の渡世人が、長い棒状のものを口にくわえているものであると認識させる図柄であり、三度笠、道中合羽及び棒状のもののサイズをより一層誇張している面はあるが、上記@ないしCの特徴を全て備えており、本件紋次郎の本質的特徴を感得でき、本件紋次郎を描いた図柄であることを知り得るものである。 複製又は翻案というためには、被控訴人図柄が紋次郎を描いたことを知り得るものであれば足り、被控訴人図柄と、本件小説の紋次郎、本件テレビ作品の紋次郎、本件漫画作品の紋次郎又は本件映画作品の紋次郎が同一性を有することは要しない。また、被控訴人図柄に描かれた渡世人のくわえている棒状のものが竹の楊枝であると直ちに認識し得えないとしても、この点は、被控訴人図柄が紋次郎を描いたものであることを知り得るか否かの判断においては全く重要でない。 ウ 被控訴人は、被控訴人図柄とともに、「紋次郎」の文字を用いており、被控訴人図柄が本件紋次郎に依拠していることは明らかである。 また、被控訴人は、甲14及び甲36(7頁8行目以下)において、本件テレビ作品に依拠したことを認めている。本件テレビ作品は、本件小説を原作とした二次的著作物であるから、被控訴人が直接的には本件テレビ作品に依拠したとしても、上記小説にも間接的に依拠しているというべきである。 エ 以上によれば、被控訴人図柄は、本件紋次郎の表現の複製又は翻案に当たる。 本件紋次郎が示されている本件テレビ作品、本件漫画作品及び本件映画作品は、いずれも亡Bが執筆した本件小説を原作とした二次的著作物であり、亡Bは、これらの二次的著作物の原作の著作権者として、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利、すなわち、本件テレビ作品、本件漫画作品及び本件映画作品についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)を専有していたものであり(著作権法28条)、亡B死亡後は、亡Aが遺産分割によりこれを取得し、亡A死亡後は、訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が遺産分割によりこれを取得したものである。 上記のとおり、被控訴人図柄は、本件紋次郎の表現の複製又は翻案に当たるから、亡B死亡後は、亡Aが、被控訴人が被控訴人図柄を付した被控訴人商品を製造販売したことにより、本件テレビ作品、本件漫画作品及び本件映画作品についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権)を侵害され、被控訴人がそのウェブサイトに被控訴人商品の画像を掲載して公衆送信したことにより、本件テレビ作品、本件漫画作品及び本件映画作品についての著作権(公衆送信権)を侵害された。亡A死亡後は、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が、被控訴人が被控訴人図柄を付した被控訴人商品を製造販売することにより、本件テレビ作品、本件漫画作品及び本件映画作品についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権)を侵害され、被控訴人がそのウェブサイトに被控訴人商品の画像を掲載して公衆送信することにより、本件テレビ作品、本件漫画作品及び本件映画作品についての著作権(公衆送信権)を侵害されることとなる。 〔被控訴人の主張〕 ア 被控訴人図柄が本件紋次郎の表現の複製又は翻案となるかを判断するためには、被控訴人図柄と本件紋次郎の表現との間で、著作権の対象となる創作的表現が共通するかどうかで判断すべきである。 原判決は、控訴人らが被控訴人図柄と本件紋次郎の表現との比較において共通点として主張する前記@ないしCの点が、著作権法で保護されるべき創作的表現であるかどうかの判断をしており、この判断方法は妥当なものである。 そして、原判決は、結論として、被控訴人図柄と同一性を検討し得る部分は、江戸時代の渡世人の姿というありふれた事実をありふれた記述でいうにとどまり創作的表現とはいえないこと、そもそも被控訴人図柄で記述された渡世人の姿は、三度笠の大きさが概ね背丈ほどもある巨大なものであり、江戸時代の渡世人の姿とは異なるものであること、口にくわえているものも顔の数倍程度あり、これを直ちに竹串であると認識し得るものとはいえず、被控訴人図柄の記述自体から、原判決別紙本件紋次郎表示目録のような江戸時代の渡世人を直接感得することはできないと判断し、著作権侵害を否定しており、この判断内容も妥当なものである。 控訴人らが主張する、前記@、A及びCの特徴は、過去に渡世人がこのような格好をしていたという歴史的事実であり、江戸時代の渡世人のごく一般的な表現であって、仮にこれらの要素が被控訴人図柄から感得できたとしても、著作権の対象となる創作的表現が共通しているとはいえない。 また、Bの特徴についても、江戸時代の楊枝は現代の爪楊枝と比べ相当長い種類のものも存在していたようであり、本件小説においても、主人公がくわえている楊枝の長さは「当時としてはそれが常識の長さ五寸、十五センチ以上」と記載されており、楊枝として常識の長さであり、亡Bが江戸時代における事実に沿って記載したにすぎない。こうした歴史的事実ないし極めてありふれた渡世人の姿に長い棒状のものをくわえさせるという点は、アイデアにほかならず、この点が共通していたとしても著作権の対象となる創作的表現が共通しているとはいえない。 イ 被控訴人図柄と、本件テレビ作品に描かれた紋次郎を比較すると、@の三度笠について、本件テレビ作品における三度笠は、一般的な三度笠の大きさ(乙35、36)である直径50cm以内程度であると思われるのに対し、被控訴人図柄の三度笠は概ね背丈ほどもある、誇張されたギャグ的な大きさで表現されており、具体的な表現が大きく異なる。 Aの道中合羽についても、本件テレビ作品では、臀部が隠れる程度の長さ(膝上程度の長さ)であるのに対し、被控訴人図柄では身体全てが隠れ、地面にひきずるほどの長さの道中合羽として表現されている。また、本件テレビ作品の道中合羽は、画像上は縦縞であると識別できない程度の細い縞であるのに対し、被控訴人図柄の道中合羽は太線によるはっきりとした黒白の縦縞模様であり、道中合羽の具体的な表現は大きく異なる。 Bの長い棒状のものを口にくわえている点について、被控訴人図柄では顔の2倍以上もある長い棒として表現されているのに対し、本件テレビ作品では必ずしもその有無及び長さは判然としないものの、到底上記のような長さでは表現されていない。 Cの刀を帯びている点について、本件テレビ作品では、いわゆる長脇差程度の長さのもの(50〜60cm程度と思われる)が使われているのに対し、被控訴人図柄では背丈とほぼ同程度で、これも誇張された地面に引きずりそうなほどの長さで描かれており、刀の長さに関する具体的表現も大きく異なる。 ウ 控訴人らが特定して主張する本件漫画作品の具体的表現と被控訴人図柄を対比して検討しても、共有する要素はいずれも創作的表現ではない部分にとどまる。 また、本件小説については、控訴人らが自認するとおり、そこで挙げられる被控訴人図柄との共通点は本件テレビ作品のそれに内包されており、既に述べたところで尽くされている。なお、長い畳針のようなものを口にくわえているというアイデアについて、長さが五寸、15cm以上という点は、前記のとおり江戸時代における歴史的な事実に沿って記述したにすぎず、独創性はなく、当該アイデアについても、亡Bが、「マカロニ・ウェスタンの時代もの」を書こうと考えてキャラクター付けしたものであり、極めて独創性の高いアイデアともいえない。 エ 被控訴人は、「紋次郎いか」という商品名の由来において、当時人気であった「木枯し紋次郎」からインスピレーションを受けたと伝え聞いているにすぎず、被控訴人図柄については、50年以上も前から使用されていたものであって、制作経緯等は不明である。また、被控訴人図柄で表現されている三度笠、道中合羽、脚絆に草履、刀を帯びているといった要素は、本件テレビ作品以前から既に多数の作品で表現されており、特に本件テレビ作品に依拠する必要はなく、被控訴人図柄の三度笠が異様に大きく、道中合羽の模様や長さの表現も異なることからすれば、被控訴人図柄を製作するに当たり、控訴人らが主張する本件テレビ作品の特定話に依拠したとは考えられない。 また、本件漫画作品の発行日は昭和48年(1973年)7月1日であり(甲5)、時系列からして、被控訴人図柄は本件漫画作品に依拠して製作されていない。 (2)不正競争該当性(争点2) 〔控訴人らの主張〕 ア 前記(1)〔控訴人らの主張〕アの@ないしCの特徴を備えた本件紋次郎の図柄又は写真に「紋次郎」という語を付した表示(以下「控訴人商品等表示」という。)は、これまでに本件小説、漫画、テレビドラマ、映画及びDVD等の商品又は営業において長年使用されてきたものであり、「木枯し紋次郎」シリーズの権利者による商品又は営業を表示するものとして広く知られている。 したがって、控訴人商品等表示は、控訴人亡A訴訟承継人ら及び著作権の独占的ライセンシーかつ商品化権者である控訴人会社の「商品等表示」(不競法2条1項1号又は2号)に当たり、著名であるか又は少なくとも需要者の間に広く認識されているものである。 イ 被控訴人図柄は、上記@ないしCの特徴を備え、紋次郎の名称が付されているから、控訴人商品等表示と同一又は類似である。 ウ 被控訴人が被控訴人商品を製造販売する行為は、控訴人らと被控訴人との間にライセンス関係があるなど同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると需要者に誤信させる行為であり、控訴人らの商品又は営業と混同を生じさせるものである。 〔被控訴人の主張〕 ア 控訴人らが主張する上記@ないしCの特徴は、キャラクター設定上の抽象的な特徴を文字として記述したものにすぎず、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」(不競法2条1項1号)ではない。 イ 控訴人商品等表示は、キャラクター設定上の抽象的な特徴を文字として記述したものにすぎず、そのような記述と被控訴人図柄とでは、外観、称呼において何ら共通性はなく、仮に何らかの観念が生ずるとしても、その記述は、被控訴人図柄の特徴の一部に関する説明文のように感じられるのみであり、具体的な取引の実情の下において、両者を出所の混同を生じさせるほど全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるとは、到底考えられない。 ウ 被控訴人商品は、「紋次郎いか」などの商品名称と共に、菓子等として販売されているものであり、これらを製造販売する行為が、小説や映像作品である「木枯し紋次郎」に関するライセンスビジネスを行う控訴人らの商品又は営業と混同を生じさせるものでないことは明らかである。 (3)亡B、亡A及び控訴人らの許諾の有無(争点3) 〔被控訴人の主張〕 ア 1970年(昭和45年)代から1980年(昭和55年)代にかけて被控訴人図柄を付した商品「紋次郎いか」が、全国的な人気商品として販売されており、亡Bが生活及び活動の拠点とした東京都においても広く流通していた。亡Bは、遅くとも控訴人商品が全国で20億円以上の規模で販売されていた1979年(昭和54年)頃には被控訴人商品の存在を知り、当該商品への被控訴人図柄の使用につき少なくとも黙示的に許諾を行った。仮にこれが認められないとしても、亡Bが亡くなる平成14年(2002年)までの間に何らの異議も述べなかったことにより、少なくとも黙示的に許諾を行ったと解するのが相当である。 イ 上記アの事情によれば、亡Aも少なくとも平成14年(2002年)の亡Bの相続時点において、被控訴人商品の存在を認識しており、その上で被控訴人図柄の使用につき少なくとも黙示に許諾していたと考えられる。また、「紋次郎いか」をはじめとする被控訴人商品は、2000年(平成12年)代になって再び人気を獲得し、2010年(平成22年)代には数々のメディアで取り上げられたことから、亡Aは、控訴人会社との間で本件基本契約を締結した平成23年(2011年)11月頃には、被控訴人商品の存在を認識していたはずであるが、その後も権利行使を行わなかった時点で、被控訴人商品の販売を少なくとも黙示的に承諾していた。乙24(本件テレビ作品で紋次郎を演じた俳優Cが被控訴人に送った葉書)、乙68(昭和53年(1978年)までに木枯し紋次郎の作者と被控訴人会社の間で「紋次郎いか」をめぐる紛争が解決された旨の被控訴人従業員の陳述書)によれば、亡B及び亡Aが上記のとおり被控訴人商品の存在を認識していたことが認められる。 ウ 控訴人会社は、平成23年(2011年)11月に亡Aと本件基本契約を締結し、業務として「木枯し紋次郎」のライセンス管理を行うことになったのであるから、契約締結時点で当然に「木枯し紋次郎」や「紋次郎」といった言葉でインターネット検索を行うなどすることで、紋次郎関連の市場での状況等について確認、調査を行ったはずであり、同月頃時点において上記検索をすれば、被控訴人商品が上位ヒットする状況であった。また、前記のとおり1970年(昭和45年)代から1980年(昭和55年)代にかけて「紋次郎」の名を冠して全国的に販売されていた大ヒット商品である「紋次郎いか」について、業務上のライセンス管理における調査の中で発見できないはずがない。したがって、控訴人会社においても、平成23年(2011年)11月時点において、被控訴人商品の存在を認識し、その後も権利行使をしなかった時点で被控訴人商品の販売を少なくとも黙示的に許諾していたことが考えられる。乙103(被控訴人商品の認知度調査の結果)によれば、被控訴人商品が高い認知度を有していたことが認められ、上記のとおり、亡B、亡A及び控訴人会社が被控訴人商品の存在を認識していたことが認められる。 エ 控訴人らは、控訴人X1が令和4年(2022年)1月頃に初めて「紋次郎いか」が販売されているのに気づいたことにより、被控訴人商品を初めて知った旨主張する。 しかし、控訴人X1は、令和4年(2022年)4月から同年11月にかけて、税務顧問契約を結ぶ法律事務所の弁護士34名から共済金の掛け金名目で計8700万円をだまし取った詐欺を被疑事実として、東京地検特捜部により、令和6年(2024年)6月5日に逮捕され、その後起訴され、さらに、別の法律事務所の弁護士ら11名への同種の詐欺事件により追起訴され、有罪判決を受けた。このように、令和4年(2022年)当時、控訴人X1は、顧問契約を締結している法律事務所の弁護士から上記金額を詐取しなくてはならないほど資金繰りに窮していたものである。昭和47年(1972年)の販売開始以降、「紋次郎いか」の名称で、全国規模の人気菓子として販売されていた商品について、「木枯し紋次郎」シリーズの著者の配偶者や長男が令和4年(2022年)1月頃まで全く認識していなかったというのは不自然であるし、上記のとおり、控訴人X1が、資金繰りに奔走する最中にたまたま、それまで約50年間の全国販売にもかかわらず著者と家族の誰ひとり気付かなかった被控訴人商品に、突然気付くなどという都合の良い偶然はあり得ない。 以上のとおり、控訴人らには、黙示の許諾の存在の認定を免れるために、被控訴人商品の認識時期について事実と異なる主張を行う動機が十分存在し、また、客観的な被控訴人商品の人気状況に照らしても、控訴人らがそのような主張をしているということができる。控訴人X1は、資金繰りに窮する中で、弁護士らへの詐欺を決意するのと相前後して、許諾や消滅時効の抗弁(後記(5))を免れるため、被控訴人商品を令和4年(2022年)1月頃に発見したと偽るに至ったものである。 控訴人X1の二人の実子である控訴人X3及び控訴人X4は、控訴人X1の上記犯行が発覚した後の令和5年(2023年)9月に、相次いで祖母である亡Aの養子になっている。これは、亡Aから相続する財産につき、相続税の負担及び控訴人X1が上記詐欺事件の被害者からの強制執行を免れるための、あからさまな資産隠しである。しかも、控訴人らは、令和6年(2024年)8月の亡Aの死亡について、令和7年(2025年)1月に至るまで、5か月以上にわたって裁判所にさえ告げず、その間本件訴訟は亡A生存を前提に進行していた。これらの事情は、目前の窮地を脱するためならば短絡的な手段に飛びつく控訴人X1の行動原理を示しており、本件訴訟における控訴人らの主張の信用性を著しく低下させる事実であって、被控訴人商品の発見時期に関する説明が虚偽であることは明らかである。 〔控訴人らの主張〕 控訴人X1は、令和4年(2022年)1月頃、東京都内の量販店で被控訴人の「紋次郎いか」が販売されていることに気づき、亡Aに許諾の有無を確認したところ、許諾した覚えはないとの回答を受け、亡Aの意を受けて、控訴人会社の代表者に対し、許諾の有無の確認及び以後の対応を依頼した。 控訴人会社は、被控訴人に同月20日付け書面(甲23)を送付した。 被控訴人の主張する内容は、単なる推測にすぎない。 (4)権利濫用又は権利失効の原則の適用の有無(争点4) 〔被控訴人の主張〕 著作権侵害訴訟において、ある著作物の無断利用が形式的には著作権侵害に該当し得るとしても、損害賠償請求権の権利者において権利を行使しないとの強い信頼を義務者側にもたらす行動を長年にわたってとり続けたことから、義務者において権利者が権利を行使するのであればとり得ないような重大な投資等をしたなど、権利者の権利行使が法的衡平や法的正義の観点から到底是認できないような特段の事情がある場合には、権利濫用又は権利失効の原則の観点から現在に至って権利主張することは許されないと解すべきである(知財高裁令和3年3月18日判決〔音楽教室事件・控訴審〕)。 被控訴人の商品である「紋次郎いか」は、昭和47年(1972年)から発売され、被控訴人図柄についても令和4年(2022年)5月30日までに50年にわたり商品のパッケージ上で継続的に使われ続けてきた。被控訴人は、被控訴人図柄につき、昭和48年(1973年)に商標出願を行い、昭和52年(1977年)に商標登録を受けて以降、更新料を支払って登録を維持し続け、営業努力により商品に対する消費者の信用を積み重ねてきたのであり、このような被控訴人図柄が、権利侵害の主張を受けることは到底想定できるものではなかった。亡Bは、昭和47年(1972年)以降、被控訴人商品が日本全国で広く販売されていたにもかかわらず、平成14年(2002年)に死亡するまで、一度も権利行使をしたことがなく、亡Aも、同年に著作権を相続して以降、20年にわたって権利行使をしなかったことからすれば、権利者において権利行使をしないとの強い信頼をもたらす行動をとり続けたものというほかない。被控訴人は、権利主張をされない長年の事実状態を信頼し、被控訴人商品に対する信用と実績を築いてきた。 本件は、こうした長年の信頼を無視し、前記(3)〔被控訴人の主張〕エのとおり動機も不透明な中で、事実関係を殊更に無視し、明示的な許諾を明確に示す資料がただちに見つからず、当時の関係者も多くが死去していることを逆手にとり、唐突に高額の使用料を請求してきた事案であり、このような請求が認められれば、被控訴人と従業員は極めて不当な損失を被り、その生活は破壊されてしまう。 したがって、現時点において、控訴人らが被控訴人に対して被控訴人図柄の使用につき損害賠償請求を行うことは、権利濫用に該当し、又は権利失効の原則の観点から、許されない。 〔控訴人らの主張〕 被控訴人の主張は争う。 (5)消滅時効(争点5) 〔被控訴人の主張〕 前記(3)〔被控訴人の主張〕のとおり、令和4年(2022年)1月頃に至って初めて被控訴人商品の存在を知ったとの控訴人らの主張は著しく信用性が低い。被控訴人商品は、2010年(平成22年)代に各種メディアに取り上げられており、亡A及び控訴人会社は、どんなに遅くとも、週刊誌「女性セブン」(乙63)などでも被控訴人商品が取り上げられた平成30年(2018年)には被控訴人商品の存在を認識していたといえ、この時点で亡A及び控訴人会社は、著作権侵害に関する損害及び加害者を知ったといえる。 したがって、控訴人らが主張する不法行為に基づく損害賠償請求については、仮にそれが認められるとしても、本件訴訟提起前3年についてのものに限られるべきである。 〔控訴人らの主張〕 被控訴人の主張は争う。 本件では、控訴人らは、本件訴訟提起日である令和5年(2023年)3月28日の20年前である平成15年(2003年)3月29日以降の不法行為及び不競法4条本文に基づく損害賠償請求権を行使するものであり、これらについては、不法行為時から20年の民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)における除斥期間が経過しておらず、消滅時効の成立もない。 (6)損害額及び控訴人らがそれぞれ請求できる金額(争点6) 〔控訴人らの主張〕 ア 使用料を乗じる対象となる販売額 (ア)著作権法114条3項にいう著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の算出は、対象期間において被控訴人図柄を付して販売された被控訴人商品の上代(小売店における販売金額)の総額に、相当な使用料率を乗じて算出すべきである。 被控訴人商品の希望小売価格は明らかにされておらず、また卸売店から小売店、ひいては消費者に対する最終販売価格は一定ではないようであるところ、最終販売価格は卸売額に問屋及び小売店の利益が加算された金額となることから、控えめにみても最終販売価格は卸売額の1.3倍と考えることができる。 (イ)被控訴人は、平成16年(2004年)2月1日から令和4年(2022年)5月31日(「てっぽういか」については同年6月30日)までにおける被控訴人商品の卸売額(売上金額)は、別紙6「売上一覧表」のとおりであり、合計50億5923万円であるとしている。 控訴人らによる損害賠償請求の始期であり、本件訴訟提起日の20年前である平成15年(2003年)3月29日から平成16年(2004年)1月31日までの被控訴人商品の卸売額が不明であるが、仮に2004年(平成16年)度における卸売額7403万円を基にして1年を365日とする日割り計算をすると、6267万円(千円以下切り捨て)となる(別紙5「控訴人ら主張損害」の第2の1@)。損害賠償請求期間(平成15年(2003年)3月29日から令和4年(2022年)5月31日(「てっぽういか」については同年6月30日)まで)における被控訴人会社の被控訴人商品の卸売額は、上記50億5923万円と上記6267万とを加えた金額であり、最終販売価格はこの1.3倍と考えることができる。 イ 相当な使用料率 「知的財産価値評価ガイド〜場面別・目的別価値評価ガイド〜」(甲64)、「2024GlobalLicensingIndustryStudy(2024年ライセンス業界調査報告書)」(甲65)、「2025年大阪・関西万博ライセンシングプログラムのご案内」(甲67)及びRody(イタリアのレードラプラスティック社で生まれた、馬をモチーフにした乗用玩具)の商品化ライセンスに関するパンフレット(甲68)によれば、ライセンス業界におけるキャラクターの図柄等の商品化における使用料率は、図柄の大きさにかかわらず、上代(商品化された商品の小売価格)の4.409%ないし6.5%が一般的な相場である。 そして、最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁(ポパイ事件)の原審判決が認定し、最高裁が結論として認容した7%の料率は、本件でも目安とすることができるから、著作権法114条3項における相当な使用料率を7%とするのが相当である。 ウ 控訴人亡A訴訟承継人ら4名の損害 (ア)亡Bが平成14年10月21日に死亡した後は、亡Aが遺産分割により本件テレビ作品の著作権を取得した(前記(1)〔控訴人らの主張〕エ)。本件訴訟提起日である令和5年(2023年)3月28日の20年前である平成15年(2003年)3月29日から、本件基本契約締結の前日である平成23年(2011年)11月2日までに、亡Aが有する本件テレビ作品の著作権が侵害されたことにより、亡Aは損害を受け、損害賠償請求権を取得した。控訴人亡A訴訟承継人ら4名は、上記期間に亡Aが取得した損害賠償請求権を法定相続分に応じて相続したものであり、各自、その法定相続分4分の1に応じた金額の損害賠償請求権を有する。 (イ)平成15年(2003年)3月29日から平成23年(2011年)11月2日までの被控訴人商品の卸売額は、別紙5「控訴人ら主張損害」第2の1Bのとおり、10億1367万7534円であり、これらの最終販売額(小売価格)は、この1.3倍である。 (ウ)相当な使用料率を7%とした上で、著作権侵害による損害額を著作権法114条3項に基づき算定すると、亡Aの被控訴人に対する損害賠償請求権の金額は、合計9224万4656円となる。 上記の損害に係る不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、922万4465円を下らない。 上記の損害額の合計は1億0146万9121円であり、これを控訴人亡A訴訟承継人ら4名が各4分の1ずつ相続していることから、各人が相続した損害賠償請求権は各2536万7280円となる。なお、被控訴人の不正競争により控訴人亡A訴訟承継人ら4名が取得する損害賠償請求権の金額も同じである。 エ(ア)控訴人会社は、本件基本契約により、本件テレビ作品の著作権を有する亡A(前記(1)〔控訴人らの主張〕エ)から、その独占的利用の許諾を受けたものであり、本件テレビ作品の著作権が侵害されたことにより、その独占的利用許諾を受けた地位が侵害され、それによって損害を受け、損害賠償請求権を取得する。控訴人会社は、独占的利用の許諾を受けた、本件基本契約締結の日である平成23年(2011年)11月3日以降の損害につき、損害賠償請求権を有する。 (イ)平成23年(2011年)11月3日以降における、被控訴人商品の卸売額は、別紙5「控訴人ら主張損害」第2の2のとおり、合計41億0822万2466円であり、これらの最終販売額(小売価格)は、この1.3倍である。 (ウ)相当な使用料率を7%とした上で、著作権侵害による損害額を著作権法114条3項に基づき算定すると、控訴人会社の被控訴人に対する損害賠償請求権の金額は、3億7384万8244円となる。 上記の損害に係る不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、3738万4824円を下らない。 したがって、控訴人会社が被控訴人に対して有する損害賠償請求権は、これらの合計4億1123万3069円である。なお、被控訴人の不正競争により控訴人会社が取得する損害賠償請求権の金額も同じである。 〔被控訴人の主張〕 ア 本件で万一著作権侵害が認められるとしても、二次的著作物である本件テレビ作品に対する著作権侵害であり、かつ、実際に被控訴人図柄と本件テレビ作品の類似性を基礎付けるとされるビジュアル上の創作的表現は、D監督、美術・小道具担当などをはじめとする本件テレビ作品における多数のスタッフの貢献によりなされたものである以上、原作者である亡Bが有した著作権に基づいてその侵害を主張する控訴人らに支払われるべき配分率(寄与度)は、二次的著作物である本件テレビ作品の著作権者が得ることになる損害額全体の50分の1ないし25分の1以下であるべきといえる。 イ 控訴人らが主張する使用料率は、キャラクタープリントTシャツのように、そのキャラクターデザインの創作的表現を用いることが商品の魅力の大部分を占めており、当該著作物の利用による商品の売上げへの寄与度が大きい場合のものである。これに対し、被控訴人商品は駄菓子・つまみ食品であり、こうした商品は味や価格設定が売上げの帰趨を決める。特に、被控訴人商品が人気を博した最大の要因は、その画期的な形状、味付けの良さや串刺しによる手軽さ、廉価でのばら売り等の点である。まして、原価率の低いアパレルの場合と異なり、駄菓子・つまみ食品は原価率が高く、利益率の点からも通常のキャラクター商品のような使用料率には及ばない。 また、被控訴人商品におけるメインビジュアルは、被控訴人図柄ではなく、それぞれ巨大ないか、げんこつ、猫などである。被控訴人商品のパッケージにおけるラベル又は外袋部分のうち、被控訴人図柄が占める面積割合は、0.36%から14.1%にすぎず、他のイラストの方がはるかに大きく目を引くように描かれており、販売開始順において後の商品になるほど被控訴人図柄が小さくなっていることからすれば、被控訴人図柄はその創作的な表現の魅力により売上げ増加に寄与するものではなく、売上げの増加への著作権的な意味での寄与度は極めて小さい。 本件訴訟提起前に控訴人会社が被控訴人に送った書面(甲33)においても、「当社の通例では、当初から正規のライセンスを受ける場合のライセンスフィーは売上の3パーセントとしております。」との記載が存在することからも、控訴人らが主張する使用料率が通常であるとの事実は存在しない。 控訴人らが挙げるポパイ事件の判決は、卸値の7%を基準として損害額を計算しており、卸値とは別に最終販売価格なるものを観念し、これに7%を乗じた事案ではない。しかも、同判決において具体的な損害額が認定された商品は、腕カバーというアパレル商品そのものに、人気漫画キャラクターであるポパイを同様にイラストで再現しようとした図柄等が直接使用された、典型的なキャラクターグッズであり、対象著作物が当該商品価値の枢要部分を決定づける場合であり、これと本件における被控訴人図柄の使用態様は全く異なる。 (7)差止め及び廃棄の必要性(争点7) 〔控訴人らの主張〕 被控訴人商品が存在すると、仮に食品等に「木枯し紋次郎」の表現や商品等表示を利用することを希望する企業があったとしても、無許諾利用者がいることが判明すれば利用申請を取りやめることになるのであり、その損害は計り知れない。したがって、被控訴人による著作権の侵害行為及び不正競争行為の停止又は予防のためには、被控訴人商品の製造、譲渡、引渡し、被控訴人商品の画像の公衆送信、及び被控訴人商品の譲渡又は引渡しのための展示を差し止め、被控訴人商品の在庫を廃棄する必要がある。 〔被控訴人の主張〕 控訴人らの主張は争う。 第3 当裁判所の判断 当裁判所は、控訴人らの請求は、主文第1項(1)ないし(6)の限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却すべきであるところ、これと異なる原判決を一部変更し、控訴人会社が当審において拡張した請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 著作権侵害の有無(争点1)について (1)認定事実 前記第2の2の前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 亡Bは、小説雑誌である「小説現代」(株式会社講談社)の昭和46年(1971年)3月号に、本件小説である「木枯し紋次郎」シリーズの第1話「赦免花は散った」を掲載し、同シリーズの連載を開始した。本件小説は、「木枯し紋次郎」シリーズとして、読み切りの複数の短編からなるものであり、その短編を5作品ずつ収載した文庫本(株式会社角川書店)が昭和48年(1973年)2月から順次出版された。例えば、上記文庫本のうち同年2月20日を初刷日とするものは、書籍名を「赦免花は散った」とし、「赦免花は散った」、「流れ舟は帰らず」、「湯煙に月は砕けた」、「童唄を雨に流せ」、「水神祭に死を呼んだ」の5作品を収載するものであり、同年4月10日を初刷日とするものは、書籍名を「女人講の闇を裂く」とし、「女人講の闇を裂く」、「一里●(塚に点)に風を断つ」、「川留めの水は濁った」、「大江戸の夜を走れ」、「土煙に絵馬が舞う」の5作品を収載するものであった。本件小説において主人公として描かれた「紋次郎」は、渡世人である男性であり、竹を削って両端をとがらせた楊枝をくわえていて、この楊枝は長さが約5寸、15センチメートル以上あるものであり、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、長脇差を携えていて、俗称として「木枯し紋次郎」と呼ばれている者として描写されていた。(甲3、4) イ 昭和47年(1972年)1月から5月まで、本件小説を原作として制作されたテレビドラマ「木枯し紋次郎」(本件テレビ作品)が放映された。本件テレビ作品において主人公として登場する「紋次郎」は、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、口に長い楊枝をくわえ、長脇差を携えた者として描かれていた。別紙3対比表の「控訴人らの著作物の具体的表現」の「3」の複数の画像は、いずれも、本件テレビ作品に登場した紋次郎の画像である。本件テレビ作品は、高い視聴率を獲得し、その後、紋次郎を主人公としたテレビドラマとして、昭和47年(1972年)11月から昭和48年(1973年)3月まで「続・木枯し紋次郎」が、昭和52年(1977年)10月から昭和53年(1978年)3月まで「新・木枯し紋次郎」が放映され、紋次郎の「あっしにはかかわりのないことでござんす」という台詞は流行語のようになった。本件小説を原作とする映画も制作され、昭和47年(1972年)6月及び同年9月に上映された。(甲6〜9、22、弁論の全趣旨) ウ 被控訴人は、昭和47年(1972年)6月25日、本件被控訴人商品のうち「紋次郎いか」の販売を開始した。この商品「紋次郎いか」は、醤油味に味付けをしたするめを竹串に刺したものを容器に複数本入れて販売されており、その容器に貼られたラベルに被控訴人図柄が付されていた。(甲14、15) エ 被控訴人は、被控訴人図柄について、昭和48年(1973年)3月1日に商標の登録出願をし、昭和52年(1977年)1月10日に商標登録を受けた。(乙20) オ 被控訴人は、平成19年(2007年)に本件被控訴人商品のうち「げんこつ紋次郎」の販売を開始し、平成22年(2010年)に「とんがりいか」の販売を開始した。これらの商品の容器に貼られたラベルにも被控訴人図柄が付されていた。また、被控訴人は、令和3年(2021年)から、それ以前より販売していた「てっぽういか」の外袋に被控訴人図柄を付すようになった。(乙69) カ 被控訴人は、被控訴人図柄を本件被控訴人商品のラベルに付していた時期において、被控訴人のウェブサイト中のウェブページに、「紋次郎いかの由来」として、「昭和47年(1972年)6月25日するめ足に串を刺した醤油味の珍味が誕生しやした。名前の由来は、その頃テレビで流行っていた木枯らし紋次郎がくわえていた長い楊枝(ようじ)を串に見立てたことによるようでござんす。」との文章を掲載していたことがある。(甲14) キ 控訴人会社は、令和4年(2022年)1月、被控訴人に対し、同月20日付け書面を送付して初めて連絡を取り、被控訴人商品に被控訴人図柄を用いていること、及び商品名に「紋次郎」の語を入れていることについてどのような権利によるのかを確認した。(甲23) (2)権利の帰属 ア 亡Bは、本件小説の著作者で、本件小説につき著作権を有しており、亡Bが平成14年(2002年)10月21日に死亡した後は、遺産分割により著作権を取得した亡Aが著作権を有しており、亡Aが令和6年(2024年)8月8日に死亡した後は、遺産分割により著作権を取得した控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が著作権(持分は控訴人X2が2分の1、控訴人X3及び控訴人X4が各4分の1)を有していた(前記第2の2(1)アないしウ)。 イ 本件テレビ作品は、亡Bの本件小説を原作として制作されたものであり(前記第2の2(2)、前記(1)イ)、本件小説を原著作物とする二次的著作物であるところ、原著作物の著作者である亡Bは、二次的著作物である本件テレビ作品の利用に関し、本件テレビ作品の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有し(著作権法28条)、本件テレビ作品については、亡Bの権利と、二次的著作物である本件テレビ作品の著作者の権利とが併存することとなった(最高裁平成12年(受)第798号同13年10月25日第一小法廷判決・集民203号285頁)。そのため、亡Bは、二次的著作物である本件テレビ作品の原作の著作者として、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利、すなわち、本件テレビ作品についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)を専有していたものであり(著作権法28条)、亡B死亡後は、亡Aが遺産分割によりこれを取得し、亡A死亡後は、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が遺産分割によりこれを取得したものである。 (3)依拠 前記(1)カのとおり、被控訴人は、被控訴人のウェブサイト中のウェブページに、「紋次郎いかの由来」として、昭和47年(1972年)当時テレビで流行っていた木枯し紋次郎がくわえていた長い楊枝(ようじ)を串に見立てたことによる旨記載しており、この事実によれば、「紋次郎いか」の名称が本件テレビ作品の主人公である紋次郎(木枯し紋次郎)に由来することが認められるとともに、被控訴人図柄が本件テレビ作品に依拠して作成されたものであると推認される。 他方、被控訴人が本件小説、本件漫画及び本件映画に接したことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人が被控訴人図柄を作成するに当たり、本件小説に直接依拠したとは認められず、本件漫画及び本件映画に依拠したとも認められない。 (4)複製又は翻案の成否 ア 前記(3)のとおり、被控訴人図柄は本件テレビ作品に依拠して作成されたものであると認められるから、被控訴人図柄が本件テレビ作品の画像の複製又は翻案であるかを検討することとなる。 複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁)。 また、翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 イ(ア) 別紙4「本件テレビ作品紋次郎」の画像(以下「本件画像」という。)は、別紙3対比表の「控訴人らの著作物の具体的表現」の「3」の画像のうち、「『川留めの水は濁った』より」とある一枚目の画像を拡大したものである。本件画像は、本件テレビ作品の第1話「川留めの水は濁った」の一場面の画像であり、本件テレビ作品において描かれた紋次郎が登場している(甲6の1)。紋次郎は本件テレビ作品の主人公であり、本件画像に示されたのと同じ装いをし、その特徴をすべて兼ね備えた紋次郎の画像が、すべての本件テレビ作品に表現されている(甲6、弁論の全趣旨)。このように、本件画像は、本件テレビ作品の紋次郎の画像を具体的に示すものであるから、本件画像を被控訴人図柄と対比することにより、本件テレビ作品の紋次郎の画像と被控訴人図柄の対比が明らかにされるものと認められる。そして、本件テレビ作品が本件小説の二次的著作物であることからすれば、このような本件テレビ作品の紋次郎の画像は、本件小説の二次的著作物であると認められる。 (イ)本件画像に登場する紋次郎は、股引に脚絆を付け、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、口に細長い楊枝をくわえ、長脇差を携えた男性であり、左向きで、顔は横顔が見えており、右足が地面につき、左足が上がっていて、歩いているか又は小走りをしている姿であると認められる。そして、かぶっている三度笠として、本件テレビ作品以外のテレビドラマや映画に登場する人物がかぶっている三度笠(乙3〜7、30〜34)よりも大きなものが用いられていると認められる。次に、道中合羽は、縦縞の模様であり、紋次郎の膝のあたりまで長さがあって、これも、本件テレビ作品以外のテレビドラマや映画等に登場する人物が身に着けている道中合羽(乙3、4、6、7、30〜34)よりも長いものが用いられていると認められる。楊枝については、本件小説では約5寸、15センチメートル以上あると描かれているが(前記1(1))、本件画像でも同程度の長さの楊枝が用いられていると認められる。 このように、本件画像の紋次郎は、@通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶり、A通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着け、B細長い楊枝をくわえ、C長脇差を携えているという特徴をすべて兼ね備える者として表現されている。 ところで、本件テレビ作品の放映前には、上記@ないしCの表現上の特徴の全てを兼ね備える人物が登場するドラマ、映画等が存在していたとは認められない(なお、上記@ないしCの特徴の全てを兼ね備える人物が登場する小説が、本件小説が書かれる前に存在したとも認められない。)。そのため、上記@ないしCの表現上の特徴をすべて兼ね備えるという点は、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる。 (ウ)他方、被控訴人図柄は、別紙2「被控訴人図柄目録」記載のとおりであり、人物の特徴を誇張して手で描かれた絵であり、俳優を実写した本件画像とは表現の方法が異なり、本件画像と比較して、手書きの絵であることによる新たな創作性が加えられているといえる。しかし、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、口に細長い棒状のものをくわえ、長脇差を携えた男性を描いたものであることは、被控訴人図柄を見た一般人が容易に理解することができると認められる。 そして、被控訴人図柄で描かれている人物は右向きで、顔は横顔が見えており、片方の足が地面につき、他方の足が上がっていて、歩いているか又は小走りをしている姿であると認められる。人物の顔は、口の周辺以外は三度笠で隠れており、三度笠は人物の顔に比べて非常に大きなものとして描かれている。道中合羽は太い縦縞の模様であり、人物の体の動きにより裾が空中に浮かび上がった状態で描かれているが、裾の部分を下におろした場合には地面に着くと思われるくらいの長さである。口にくわえている細長い棒状のものは、これが楊枝であるかどうかは被控訴人図柄を一見して明らかであるとまではいえないが、人物の横顔の幅よりもかなり長いものとして描かれている。 (エ)そこで、被控訴人図柄から、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる、前記@ないしCの表現上の特徴を感得し得るかについて検討する。 被控訴人図柄の人物は、三度笠をかぶっており、その三度笠は大きなものである。被控訴人図柄の三度笠は、人物の顔の大きさと比べたとき、本件画像の紋次郎のかぶる三度笠よりも更に大きなものであるが、これは、三度笠が大きいものであるという前記@の特徴を被控訴人図柄において強調して表現したことによるものであって、前記@の特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。そのため、被控訴人図柄から本件画像の前記@の表現上の特徴(通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶっていること)を直接感得することはできるものと認められる。 被控訴人図柄の人物は、道中合羽を身に着けており、その道中合羽は縦縞模様で長いものである。被控訴人図柄の道中合羽は、人物の身長と比べたとき、本件画像の紋次郎が身に着けている道中合羽よりも更に長いものであるが、これは、道中合羽が長いという前記Aの特徴を被控訴人図柄において強調して表現したことによるものであって、前記Aの特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。 また、本件画像の人物が身に着ける道中合羽は、縞が細いのに対し、被控訴人図柄の人物が身に着ける道中合羽は、それよりも縞が太く表されているが、これも、道中合羽が縦縞模様であるという前記Aの特徴の一部を被控訴人図柄において強調して表現したことによるものであって、前記Aの特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。そのため、被控訴人図柄から本件画像の前記Aの表現上の特徴(通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着けていること)を直接感得することはできるものと認められる。 本件画像の紋次郎は、細長い楊枝をくわえているのに対し、被控訴人図柄の人物は、細長い棒状のものをくわえているが、それが楊枝であることは、一見しては明らかでないともいえる。しかし、口にくわえている細長い棒状のものが楊枝であることは容易に推測されるから、それが楊枝であることが一見しては明らかでないとしても、その点は、前記Bの特徴を感得することを妨げるものとはいえない。そのため、被控訴人図柄から本件画像の前記Bの表現上の特徴(細長い楊枝をくわえていること)を直接感得することはできるものと認められる。 被控訴人図柄の人物も、本件画像の紋次郎も、長脇差を携えているから、被控訴人図柄から本件画像の前記Cの表現上の特徴(長脇差を携えていること)を直接感得することはできるものと認められる。 以上によれば、被控訴人図柄から、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる、前記@ないしCの表現上の特徴をすべて感得し得るものと認められる。そして、前記(ア)のとおり、本件画像は、本件テレビ作品の紋次郎の画像を具体的に示すものであり、本件画像を被控訴人図柄と対比することにより、本件テレビ作品の紋次郎の画像と被控訴人図柄の対比が明らかにされるから、被控訴人図柄から、本件テレビ作品の紋次郎の画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる、前記@ないしCの表現上の特徴をすべて感得し得るものと認められる。 ウ 上記(3)及びア、イによれば、被控訴人図柄は、人物の特徴を誇張して手で描かれた絵であり、俳優を実写した本件画像とは表現の方法が異なり、本件画像と比較して、手書きの絵であることによる新たな創作性が加えられた別の著作物であるから、本件テレビ作品の紋次郎の画像の複製には当たらない。しかし、被控訴人図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像に依拠し、その画像の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現したものであり、被控訴人図柄に接する者が本件テレビ作品の紋次郎の画像に係る表現上の本質的な特徴を直接感得することができるといえるから、被控訴人図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像の翻案であると認められる。 (5)被控訴人の主張に対する判断 ア 被控訴人は、前記第2の3(1)〔被控訴人の主張〕ア及びウのとおり、前記(4)イ(イ)の@、A及びCに係る特徴は、江戸時代の渡世人のごく一般的な表現であって、仮にこれらの要素が被控訴人図柄から感得できたとしても、著作権の対象となる創作的表現が共通しているとはいえず、同Bの特徴についても、極めてありふれた渡世人の姿に長い棒状のものをくわえさせるという点は、アイデアにすぎず、この点が共通していたとしても著作権の対象となる創作的表現が共通しているとはいえないと主張する。 しかし、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、長脇差を携えた江戸時代の渡世人の姿が過去に存在したとしても、本件画像の紋次郎は、上記@について、通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも三度笠が大きい、上記Aについて、道中合羽が、通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長いという特徴も有しており、これらの特徴が江戸時代の渡世人のごく一般的な表現であるとか、極めてありふれた渡世人の姿であると認めるに足りる証拠はない。 しかも、本件テレビ作品の紋次郎の画像は、上記@ないしCの表現上の特徴を全て兼ね備える人物として描かれており、この点において、それ以前の一般的な渡世人の姿との違いが認められるのであって、上記@、A及びCに係る特徴のみを取り出して、本件テレビ作品の紋次郎の画像に創作性がないと解することは相当でない。前記(4)イ(イ)のとおり、本件テレビ作品の放映前には、上記@ないしCの表現上の特徴を全て兼ね備える人物が登場するドラマ、映画等が存在していたとは認められない(なお、そのような特徴の全てを兼ね備える人物が登場する小説が、本件小説が書かれる前に存在したとも認められない。)ことから、上記@ないしCの表現上の特徴をすべて兼ね備えるという点は、本件画像に具体的に示されている本件テレビ作品の紋次郎の画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる。 また、本件テレビ作品の紋次郎の画像は、俳優が衣装を身に着けて演じることによって、上記@ないしCの表現上の特徴を全て有する人物として具体的に描写されているのであって、上記Bの特徴がアイデアにすぎないということはない。さらに、本件テレビ作品の紋次郎の画像は、上記@、A及びCの共通点に係る特徴を有する渡世人が、長い楊枝をくわえている姿として具体的に描かれており、その具体的に描写された姿が全体として創作性を有すると認められるのであるから、くわえている楊枝の長さが江戸時代の楊枝として通常の長さであるとしても、そのことをもって、本件画像に具体的に示されている本件テレビ作品の紋次郎の画像がありふれた表現であるとか、創作性を有しないということにはならない。 イ 被控訴人は、前記第2の3(1)〔被控訴人の主張〕イのとおり、本件テレビ作品に描かれた紋次郎の画像と、被控訴人図柄の人物とでは、三度笠の大きさ、道中合羽の長さ及び長脇差の長さが異なると主張する。 しかし、前記(4)イ(エ)のとおり、被控訴人図柄において、三度笠が本件画像の紋次郎がかぶっている三度笠より更に大きく、道中合羽が本件画像の紋次郎が身に着けている道中合羽より更に長い点は、本件画像の紋次郎の特徴を、被控訴人図柄において強調して表現したものといえ、本件画像の記(4)イ(イ)の@、Aの特徴を直接感得することを妨げるものではない。被控訴人図柄と本件画像とで、長脇差の長さに違いがあるとしても、それは、長脇差を携えているという同Cの特徴を共通にするものであって、これを直接感得することを妨げるものとは認められない。 ウ 被控訴人は、前記第2の3(1)〔被控訴人の主張〕エのとおり、被控訴人図柄は本件テレビ作品に依拠していないと主張する。 しかし、前記(1)カのとおり、被控訴人は、そのウェブサイトにおいて、「紋次郎いかの由来」として、「昭和47年(1972年)6月25日するめ足に串を刺した醤油味の珍味が誕生しやした。名前の由来は、その頃テレビで流行っていた木枯らし紋次郎がくわえていた長い楊枝(ようじ)を串に見立てたことによるようでござんす。」との文章を一時期掲載していたと認められる。上記の記載は「紋次郎いか」の商品名の由来として記載されているが、これによれば、被控訴人が、「紋次郎いか」を販売する前に、本件テレビ作品が放映されているのを認識していたと認められ、この事実に加え、商品名に「紋次郎」の語を入れていることからすれば、被控訴人は、本件テレビ作品の紋次郎を基に、前記(4)イ(エ)のとおり本件テレビ作品の紋次郎の画像の本質的特徴を直接感得させる被控訴人図柄を製作したものと推認することができる。 エ したがって、被控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。 (6)著作権侵害の有無 ア 本件テレビ作品についての翻案権、公衆送信権は、亡Bの生前は、亡Bが有し、亡B死亡後は亡Aが有していたものであり、亡A死亡後は、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が有しているものである(前記(2))。 被控訴人は、容器のラベル又は外袋に被控訴人図柄を付した被控訴人商品を製造することにより、本件テレビ作品についての翻案権を侵害したものと認められる。また、被控訴人は、容器のラベル又は外袋に被控訴人図柄を付した被控訴人商品の写真を、被控訴人のウェブサイトに載せていたと認められ(甲15)、これにより、本件テレビ作品についての公衆送信権を侵害したものと認められる。 著作権法26条の2第1項の譲渡権は、著作物を原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利であるから、著作物を翻案したものの譲渡によって同項の譲渡権が侵害されたとは認められない。前記(4)ウのとおり、被控訴人図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像の複製とは認められず、翻案に当たると認められるにとどまる。したがって、容器のラベル又は外袋に被控訴人図柄を付した被控訴人商品を譲渡し、引き渡しても、本件テレビ作品についての譲渡権の侵害は認められない。 なお、控訴人会社は、亡Aから本件基本契約により亡Bの著作物の独占的利用を許諾されていたものであるから(亡A死亡により、本件基本契約上の亡Aの地位は、相続人に承継されたものと認められる。)、被控訴人による著作権侵害により、その独占的利用許諾を受けた地位が侵害されたものと認められる。 イ そして、上記著作権侵害の内容や、侵害が長期にわたったことに加え、被控訴人は、本件テレビ作品の放映後ほどなくして被控訴人図柄の商標登録出願をして登録を受けており(前記(1)エ)、知的財産権について理解があると考えられることなど、本件で認められる事情によれば、被控訴人には、著作権侵害につき、過失があったものと認められる。 2 不正競争該当性(争点2)について 控訴人らは、前記第2の3(2)〔控訴人らの主張〕のとおり、@通常より大きい三度笠を目深にかぶり、A通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、B口に長い竹の楊枝をくわえ、C長脇差を携えた渡世人であるとの特徴を備えた本件紋次郎の図柄又は写真に「紋次郎」という語を付した表示(控訴人商品等表示)は、これまでに本件小説、本件小説を原作とする漫画、テレビ作品、映画及びDVD等の商品又は営業において長年使用されてきたものであり、控訴人亡A訴訟承継人ら及び控訴人会社の「商品等表示」(不競法2条1項1号又は2号)に当たり、かつ、著名であるか又は少なくとも需要者の間に広く認識されているものであるとした上で(前記第2の3(2)〔控訴人らの主張〕ア)、被控訴人図柄は、上記@ないしCの特徴を備え、紋次郎の名称が付されているから、控訴人商品等表示と同一又は類似であって(同イ)、被控訴人が被控訴人商品を製造販売する行為は、控訴人らの商品又は営業と混同を生じさせるものである(同ウ)と主張する。 しかし、本件小説については、その主人公である紋次郎が上記@ないしCの特徴を有する人物として文字で表現されているとしても、これが紋次郎の図柄であるとはいえないし、本件小説において紋次郎の描写とともに「紋次郎」の文字が一体として表示されているとも認められない。本件漫画作品において、本件漫画作品に描かれた紋次郎が上記@ないしCの特徴を有するとしても、やはり紋次郎の絵とともに「紋次郎」の文字が表示されているものではない。本件テレビ作品、映画及びDVD等に描かれた紋次郎が上記@ないしCの特徴を有しているとしても、「木枯し紋次郎」と題するテレビ作品、映画及びDVD等において、これらの特徴を有する主人公である紋次郎が登場するにすぎず、紋次郎が登場する場面において「紋次郎」の文字が表示されているものではない。本件漫画、本件テレビ作品等には、「木枯し紋次郎」という題号が付されたものもあるが、そこにおいては、「木枯し紋次郎」という文字は、漫画又はテレビ作品等の題号を表示するにとどまるものである。そうすると、本件小説、本件小説を原作とする漫画、テレビ作品、映画及びDVD等において、特定の主体の商品又は営業を表示するものとして、本件紋次郎の図柄又は写真に「紋次郎」という語を付した表示である控訴人商品等表示を具体的に特定することはできず、そのようなものが「他人の商品等表示」(不競法2条1項1号)又は「他人の著名な商品等表示」(同項2号)として存在すると認めることはできない。そのような商品等表示が、控訴人亡A訴訟承継人ら及び控訴人会社の「商品等表示」(不競法2条1項1号又は2号)に当たること、及びそれらが周知又は著名であることも認められない。 したがって、控訴人らが主張する不競法2条1項1号及び2号違反の主張は理由がない。 以上のとおり、争点2に関する控訴人らの主張は採用することができない。 3 亡B、亡A及び控訴人らの許諾の有無(争点3)について (1)被控訴人は、前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕のとおり、亡Bは昭和54年(1979年)頃、亡A及び控訴人会社は平成23年(2011年)11月頃までにいずれも被控訴人図柄を付した被控訴人商品の存在を認識していたはずであり、これに対して異議を述べず権利行使をしなかったのであるから、被控訴人商品に被控訴人図柄を使用することについて、少なくとも黙示的に許諾を行った旨(前記第2の3(3)〔被控訴人の主張〕アないしウ)、控訴人X1が令和4年(2022年)1月頃に初めて「紋次郎いか」が販売されていることに気づいたという説明は虚偽である旨(同エ)主張する。 (2)ア しかし、まず、亡Bが被控訴人商品の存在及びこれに被控訴人図柄が付されている事実を認識したこと、又は亡Aが令和4年(2022年)1月より前に上記事実を認識したことを認めるに足りる証拠はない。 被控訴人は、被控訴人商品、特に「紋次郎いか」が全国的な人気商品であり、被控訴人商品が昭和54年(1979年)の時点で全国で20億円以上の規模で販売されていたとして、これらの事情からすれば亡Bや亡Aが上記事実を認識していた旨主張する。しかし、「紋次郎いか」を含む被控訴人商品は、いわゆる珍味に属する食品であり、このような珍味に属する食品に関心を有する者は比較的限られているといえる上、被控訴人商品についてどのような広告宣伝がされていたのかも明らかでないから、被控訴人商品が全国で販売されていて、珍味に属する食品としては高い売上げがあったとしても、そのことをもって、亡Bや亡Aが被控訴人商品を認識していたと推認することはできない。 乙24は、本件テレビ作品で紋次郎を演じた俳優Cが被控訴人に送った葉書であり、被控訴人は、この葉書は平成17年(2005年)頃に送られたものであって、被控訴人の当時の代表者がCに被控訴人商品を贈呈したことに対するものであるとする。しかし、乙24の葉書の送付時期や趣旨が被控訴人の主張するとおりであるとしても、被控訴人の代表者がCに被控訴人商品を送ったためにCが被控訴人商品を認識したと認められるにすぎず、乙24をもって亡Bや亡Aが被控訴人商品を認識していたと認めることはできない。 乙68は、被控訴人の従業員であった人物であるという●●●●名義の陳述書であり、同人が被控訴人に入社した昭和53年(1978年)の時点で、「紋次郎いか」に関しては過去に木枯し紋次郎の作者との間で問題になったが、弁護士を立てて話をし、既に解決済みであると聞いている旨の記述がある。しかし、この記述内容を裏付ける客観的証拠はなく、この記述内容を信用することはできない。その他、乙68に記載されている内容は、「紋次郎いか」は広く知られていた商品であるから亡Bも知らなかったはずがないという趣旨のものであるが、これが認められないことは前記のとおりである。したがって、乙68に基づいて、亡Bや亡Aが被控訴人商品を認識していたと認めることはできない。 被控訴人は、被控訴人商品のうち「紋次郎いか」の認知度調査の結果とされるものを証拠として提出するが(乙103)、その結果は、50代以上の男性を対象に、「紋次郎いか」を知っているか尋ねたところ、有効回答数505人のうち、186人(37.0%)が知っていると回答し、319人(63%)が知らないと回答したというものである。この結果によっても、一般の消費者の間で「紋次郎いか」の認知度が極めて高かったということはできず、むしろ、一般の消費者の大半が「紋次郎いか」を認識しているわけではないともいうこともでき、この調査結果に基づいて、亡Bが被控訴人商品の存在を認識していたと認めることはできないし、亡A又は控訴人会社が平成23年(2011年)頃までに被控訴人商品の存在を認識していたと認めることもできない。 イ 控訴人会社について、被控訴人は、インターネットにおいて「紋次郎」の語で検索すれば被控訴人商品を容易に発見することが可能であり、控訴人会社はこのような検索を行ったはずであるから、令和4年(2022年)1月より前に被控訴人商品の存在及び被控訴人図柄が使用されていた事実を認識していた旨主張する。 しかし、控訴人会社が亡Aと締結した本件基本契約において、控訴人会社は、亡Bの著作物に関する著作権が第三者により侵害され又は侵害されるおそれがあることを発見した場合には、亡Aにその旨を通知し、亡Aと協力して侵害等の予防、排除に必要なあらゆる措置を講じるものとされているが(本件基本契約第13条。前記第2の2(4)カ)、第三者が上記著作権を侵害し、又は侵害しているおそれがないかを探索し発見する業務を行うものとする旨の規定は存在しない。そうすると、控訴人会社が、被控訴人の主張する内容の検索を実施しなかったことが不自然とまではいえない。 この点に加え、乙103の認識度調査の結果(上記ア)に照らしても、控訴人会社の代表者その他の関係者が、「紋次郎いか」を含む被控訴人商品を令和4年(2022年)1月まで知らなかったとしても不自然とはいえない。 したがって、被控訴人の主張は、採用することはできない。 (3)証拠(乙64〜67)及び弁論の全趣旨によれば、税理士である控訴人X1は、令和4年(2022年)4月から同年11月にかけて、税務顧問契約を結んでいた法律事務所に所属する34名の弁護士に対し、実際には加入させる意図がないにもかかわらず、節税目的での小規模企業共済制度及び中小企業倒産防止共済制度への加入を促す虚偽の電子メールを送信し、掛金として合計約8732万円を詐取し、同年4月から同年12月にかけて、別の法律事務所に所属の弁護士11名に対し、上記と同様の態様により掛金として合計約2584万円を詐取し、これらの犯罪行為により令和6年(2024年)に逮捕、起訴され、その後懲役6年の実刑判決を受けたこと、控訴人X1が上記犯罪行為に及んだのは、控訴人X1が資金繰りに苦しんでいたためであり、控訴人X1は令和4年(2022年)3月時点で3億円を超える負債を抱えていたことが認められる。 しかし、控訴人X1が、令和4年(2022年)の時点で上記のとおりの莫大な負債を抱えており、詐欺の犯罪行為に手を出すほどの状況にあったことをもって、控訴人X1が、同年1月より前の時点で被控訴人商品に被控訴人図柄が付されている事実を認識していたが、同年に至って同事実を基に被控訴人から金銭の支払を受けることを思い立ち、控訴人会社を通じて被控訴人に対して金銭請求をするようになったと推認することはできない。 控訴人X1の上記犯罪行為よりも後の時期に、控訴人X1の2人の実子が亡Aの養子となった事実によって、令和4年(2022年)1月頃に控訴人X1が被控訴人商品の存在及びこれに被控訴人図柄が付されている事実を認識したとの主張が虚偽であると認められることにもならない。亡Aが令和6年(2024年)8月8日に死亡した事実については、控訴人ら代理人弁護士が令和7年(2025年)1月16日付け上申書を提出してようやく当裁判所に明らかになったが、控訴人X1が被控訴人商品を認識した時期に関する控訴人らの主張が虚偽であると認められる根拠とはならない。 そして、乙103の認識度調査の結果は上記(2)アのとおりであり、これに照らしても、控訴人X1が、「紋次郎いか」を含む被控訴人商品を令和4年(2022年)1月まで知らなかったとしても不自然とはいえない。 控訴人X1及び控訴人会社以外の控訴人ら(控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4)について、被控訴人商品の存在及びそれに被控訴人図柄が付されている事実を令和4年(2022年)1月より前に認識していたと認めるに足りる証拠はなく、この事実を推認させる根拠となる事情も認められない。 (4)以上によれば、亡Bが被控訴人商品の存在及びこれに被控訴人図柄が付されている事実を知っていたとは認められないし、亡A及び控訴人らが、令和4年(2022年)1月より前に被控訴人商品の存在及びこれに被控訴人図柄が付されている事実を認識していたとも認められない。したがって、争点3に関する被控訴人の主張は、いずれも採用することができない。 4 権利濫用又は権利失効の原則の適用の有無(争点4)について 前記3に説示したとおり、亡Bが生前に被控訴人商品の存在及びこれに被控訴人図柄が付されている事実を認識していたとは認められず、亡A及び控訴人らが令和4年(2022年)1月より前に上記事実を認識していたとも認められないのであり、これらの事情の下では、亡B、亡A及び控訴人らが、同年に至るまで、被控訴人に対して被控訴人商品に被控訴人図柄を付さないように求めなかったことをもって、権利者において権利行使をしないとの強い信頼をもたらす行動をとったとは認められず、本件訴訟の提起による控訴人らの被控訴人に対する権利行使が法的衡平や法的正義の観点から是認できないような特段の事情に当たるとは解されず、控訴人らの被控訴人に対する権利行使が権利濫用であるとか、権利失効の原則により認められないと解することはできない。 そして、他に、控訴人らの被控訴人に対する権利行使について、これが権利濫用であるとか、権利失効の原則により認められないと解すべき根拠となる事情は認められない。 したがって、争点4に関する被控訴人の主張は、採用することができない。 5 消滅時効(争点5)について 前記3のとおり、亡B、亡A及び控訴人らが、令和4年(2022年)1月より前に、被控訴人商品の存在及びこれに被控訴人図柄が付されている事実を認識していたとは認められない。平成30年(2018年)に週刊誌「女性セブン」(乙63)などで被控訴人商品が取り上げられたとしても、それによって亡A及び控訴人らが、被控訴人商品の存在及びこれに被控訴人図柄が付されている事実を認識したとは認められない。亡A及び控訴人会社が本件訴訟を提起したのは令和5年(2023年)3月28日であるところ、その時点で、亡A及び控訴人会社において、著作権侵害の不法行為に係る損害及び加害者を知った時から3年を経過していたとは認められない。 他方、本件訴訟の提起日である令和5年(2023年)3月28日の時点で、不法行為の時から20年を経過していたものについては、除斥期間の経過又は消滅時効により損害賠償請求権が消滅したと認められるが(平成29年法律第44号による改正の施行日である令和2年(2020年)4月1日までに20年が経過していた不法行為については除斥期間の経過であり、同日時点で20年が経過していなかったが、令和5年(2023年)3月28日までに20年が経過した不法行為については、時効による消滅である。平成29年法律第44号附則第35条1項。)、控訴人らは、本件訴訟提起日において不法行為の時から20年を経過していない、平成15年(2003年)3月29日以降における被控訴人による著作権侵害の不法行為の損害賠償を請求しているから、控訴人らが行使している損害賠償請求権について、消滅時効の成立又は除斥期間の経過によってその一部が消滅したとは認められない。 したがって、争点5に関する被控訴人の主張は、採用することができない。 6 損害額及び控訴人らがそれぞれ請求できる金額(争点6)について (1)使用料を乗じる対象となる販売額 ア 小売店における販売額か被控訴人の販売額(卸売額)か 控訴人らは、被控訴人の著作権侵害による損害額を、著作権法114条3項に基づいて算出している。 そして、控訴人らは、同項にいう著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の算出方法について、対象期間において被控訴人図柄を付して販売された被控訴人商品の上代(小売店における販売金額)の総額に、相当な使用料率を乗じて算出すべきであると主張する。 しかし、証拠(乙87、95)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人商品については、「紋次郎いか」において過去に希望小売価格の設定がされたことがあるものの、現在では「紋次郎いか」を含めて希望小売価格の設定はないこと、被控訴人商品は珍味に属する菓子類であり、小売店における販売価格は各小売店が決めるものであって、小売店ごとにまちまちであり、商品ごとに統一的な価格で販売されているものではないことが認められ、被控訴人が小売店における販売価格を把握しているとは認められず、卸先から小売店への販売価格も不明であって、被控訴人の卸に対する販売額(卸売額)から小売店における販売額を推認することは困難である。他方、本件においては、被控訴人の卸に対する販売額(卸売額)の総額は、証拠によりその実額を認定することが可能である。 したがって、一般的に、小売店における販売額を明らかにし得る場合には、その金額に使用料率を乗じて相当な使用料を算出することもあるが、本件においては、上記のような事情があることから、被控訴人商品の製造による著作権侵害について、著作権法114条3項にいう著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、対象期間において被控訴人図柄を付して販売された被控訴人商品についての、被控訴人の卸に対する販売額(卸売額)の総額に、相当な使用料率を乗じて算出するのが相当である。 イ 損害賠償請求期間の被控訴人の販売額 (ア)始期と終期 被控訴人は、昭和47年(1972年)から、被控訴人商品のうち「紋次郎いか」の容器のラベルに被控訴人図柄を付して販売し、その後、他の被控訴人商品の容器のラベル又は外袋にも被控訴人図柄を付して販売したが(前記第2の2(3))、前記5のとおり、本件訴訟において控訴人らが損害賠償請求権を行使できるのは平成15年(2003年)3月29日以降の著作権侵害についてであり、控訴人らは被控訴人による同日以降の著作権侵害について損害賠償を請求している。 他方、証拠(乙69)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、控訴人会社からの連絡を受けた(前記1(1)キ)後である令和4年(2022年)5月30日以降の納品分から、製造販売する商品の外装(容器のラベル又は外袋)を、被控訴人図柄を付していないものに変更しており(ただし、「てっぽういか」のみ、同年6月27日の納品分から上記変更をした。)、現在被控訴人が製造、販売している商品は、その外装に被控訴人図柄を付していないものであることが認められる。被控訴人は、被控訴人商品の売上として、令和4年(2022年)5月31日(「てっぽういか」については同年6月30日)までの売上額を開示しており(別紙6「売上一覧表」)、同日までの売上が、著作権を侵害する行為による被控訴人商品の販売額であると認められる。 (イ)全期間の販売額 証拠(乙70〜74)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の平成16年(2004年)度以降(各年度は、その年の2月1日から翌年1月31日まで)、令和4年(2022年)5月31日まで(「てっぽういか」については、同年6月30日まで)における被控訴人商品の販売額(被控訴人が卸に販売した金額)は、別紙6「売上一覧表」のとおりであると認められる(乙70。平成16年(2004年)度から平成22年(2010年)度までは、商品別売上実績(乙72)に記載の金額であり、平成23年(2011年)度から令和4年(2022年)度までは商品別売上順位表(乙71)に記載の金額の千円未満を四捨五入したものである。)。 別紙6「売上一覧表」(乙70)記載の被控訴人の販売額は平成16年(2004年)2月1日以降のものであり、平成15年(2003年)3月29日から平成16(2004年)年1月31日までの309日間の販売額(この期間に販売されていた被控訴人商品は、「紋次郎いか」のみである。)が含まれていない。控訴人らは、上記309日間の販売額について、平成16年(2004年)度(365日間)の売上高(7403万円)を基に、この金額を309日分に日割り計算した金額を用いるとしているが(令和7年3月27日付け控訴人準備書面9)、この方法は相当と解され、この方法により平成15年(2003年)3月29日から平成16年(2004年)1月31日までの販売額を算出すると、6267万円(7403万円×309日/365日、千円以下切り捨て)(これは別紙5「控訴人ら主張損害」第2の1@記載の金額と同じである。)となる。 (2)相当な使用料率 相当な使用料率について検討する。 ア(ア)被控訴人は、長年にわたり、被控訴人図柄を付した被控訴人商品を製造してきたものである。前記1(4)のとおり、被控訴人図柄は本件テレビ作品の紋次郎の画像の翻案であるところ、本件テレビ作品は昭和47年(1972年)1月から5月にかけての放映時において高い視聴率を上げた人気番組であったものであり(前記1(1)イ)、被控訴人図柄を被控訴人商品に付したことは、被控訴人商品の売上げに一定の寄与をしたと認められる。 (イ)他方、本件テレビ作品が放映されたのは昭和47年(1972年)1月から5月にかけてであり(前記第2の2(2)、前記1(1)イ)、「紋次郎いか」の販売開始も同年であるところ(前記第2の2(3))、控訴人らが請求する損害賠償の対象となる被控訴人の著作権侵害は平成15年(2003年)3月29日以降のものであり、同日の時点で既に昭和47年(1972年)から30年以上が経過している。木枯し紋次郎のテレビドラマは、昭和47年(1972年)11月から昭和48年(1973年)3月まで、及び昭和52年(1977年)10月から昭和53年(1978年)3月までの期間にも放映されたが(前記1(1)イ)、これらの放映からも25年以上の時間が経過している。 そうすると、平成15年(2003年)3月29日以降の時期において、被控訴人商品の需要者に対する本件テレビ作品の影響力は相当程度低下していたと推認され、被控訴人図柄が付されていることが「紋次郎いか」の販売に寄与する程度も低下していたものと考えられる。他方、「紋次郎いか」は販売開始から30年以上にわたって販売が継続しており、このような同商品の販売の実績が、同日以降において、同商品の小売店における取扱い及び需要者の購入に大きく寄与したものと考えられる。 「紋次郎いか」以外の被控訴人商品についても、被控訴人図柄が付されていたことよりも、長期にわたる「紋次郎いか」の販売実績を基に、「紋次郎いか」と同じ被控訴人の商品であるとして、小売店が取り扱うようになり、需要者が購入するようになったものと考えられる。 (ウ)被控訴人図柄が付されたラベル及び外袋を用いた被控訴人商品の外観は、別紙1「被控訴人商品目録」各項に掲載の写真のとおりであるが、いずれの商品においても、ラベルや外袋の大きさに比べて、被控訴人図柄の占める割合は小さい。「紋次郎いか」のラベルでは、いかの絵の上に商品名である「紋次郎いか」の文字が記載された図柄が、ラベル全体の大きな割合を占めており、この図柄に比べると被控訴人図柄はかなり小さいものといえる。 そして、「紋次郎いか」以外の被控訴人商品の容器のラベルにおける被控訴人図柄は、「紋次郎いか」のラベルの被控訴人図柄に比べて更に小さいものであって、特に「とんがりいか」のラベル及び「てっぽういか」の外袋に描かれた被控訴人図柄は極めて小さいものである。また、いずれの商品においても、被控訴人図柄以外の絵もラベルに使用されており(「げんこつ紋次郎」のラベル上のげんこつの絵、「とんがりいか」のラベル上のいかの絵、「てっぽういか」の外袋上の猫の絵)、被控訴人図柄以外の絵の方が被控訴人図柄よりも大きい。 (エ)以上によれば、損害賠償請求の対象期間(平成15年(2003年)3月29日から令和4年(2022年)5月31日(「てっぽういか」については同年6月30日)まで)において、被控訴人図柄を被控訴人商品に付したことの売上げへの寄与は、かなり限定的なものであるといえ、著作権法114条3項による損害の算出に際して用いる相当な使用料率も、小さな割合にとどまると認められる。 イ 日本弁理士会知的財産価値評価推進センターが作成した「知的財産価値評価ガイド〜場面別・目的別価値評価ガイド〜」(甲64)には、地方自治体が採用した「マスコットキャラクター」の使用許諾を与える場合のライセンス料率についてはこれをいわゆる上代の3%としている地方自治体が多いように思われ、調査した範囲では、最高6%、最低2.5%であったこと、マスコットキャラクターとして有名な「ひこにゃん」でも3%とされていること、マスコットキャラクター自体の使用と、マスコットキャラクターを使用することによる付加価値が生じる商品とで使用料率が異なる場合もみられ、前者では6%、後者では3%とされている事例があることが記載されている。 また、甲64には、「ライセンスキャラクター名鑑2012」に基づいて、グループで整理したキャラクターの分野別のライセンス料率の平均値が示されているところ、テレビ関係が4.573%、映画系が5.286%などであり、平均で約5%の使用料率とみることができるとの記載もある。 ウ 前記(1)アのとおり、被控訴人商品の製造による著作権侵害については、いわゆる上代を基礎として著作権法114条3項の損害を算出することは困難であり、立証の内容も考慮すると、被控訴人が卸の業者に販売した販売額(卸売額)を基礎として算出するのが相当であって、その分、上代を基礎とする場合に比して相当な使用料率は高くなると考えられる。また、相当な実施料額の算定に当たっては、著作権者が自己の著作権の侵害があったことを前提として著作権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該著作権者が得ることとなる対価を考慮すべきである(著作権法114条5項参照)。さらに、キャラクターの使用料率については前記イのような資料が存在する。 しかし、相当な使用料率は、著作物の性質、内容、使用態様等により異なるものと認められ、これまで述べた事情に加え、本件テレビ作品に関し、亡Bは原著作物の著作者であり、二次的著作物である本件テレビ作品について著作権を有する者が別に存在することも考慮すると、本件で著作権法114条3項の損害を算出するに際して用いる相当な使用料率は、これを1%とするのが相当と認められる。 控訴人らは、前記第2の3(6)〔控訴人らの主張〕ア、イのとおり、被控訴人商品の卸売額を1.3倍した金額をその最終販売価格(小売価格)と推定した上で、相当な使用料率を7%として、著作権法114条3項に基づく損害を算出すべきである旨主張する。しかし、控訴人らの挙げる例については、被控訴人図柄に係る前記アのような事情があるとは認められず、本件とは事案が異なるから、控訴人らの主張は採用することができない。そして、その他、控訴人ら及び被控訴人が主張する内容を考慮しても、相当な使用料率を1%とするのが相当であるとの結論は左右されない。 (3)控訴人亡A訴訟承継人ら4名の損害 ア 請求の根拠となる権利 前記1(2)のとおり、亡Bが平成14年(2002年)10月21日に死亡した後は、遺産分割により亡Bの著作権を取得した亡Aが、本件テレビ作品についての著作権(翻案権、公衆送信権)を有していた。そして、本件の損害賠償請求における被控訴人による著作権侵害の対象期間の始期は平成15年(2003年)3月29日であり、他方、前記第2の2(4)のとおり亡Aと控訴人会社が平成23年(2011年)11月3日に本件基本契約を締結するまで(同日の前日の同月2日まで)は、被控訴人による本件テレビ作品の著作権侵害(前記1(6))という継続的不法行為により、亡Aの著作権が侵害されてそれによる損害が生じ、亡Aが被控訴人に対する損害賠償請求権を取得していったものと認められる。 そして、亡Aが被控訴人に対して取得した不法行為に基づく損害賠償請求権は、可分債権である金銭債権であって、亡Aの死亡時に、法定相続分に従って分割され、亡Aの共同相続人である亡A訴訟承継人ら4名に4分の1ずつ確定的に帰属したものと認められる。控訴人亡A訴訟承継人ら4名は、亡Aの死亡後に、亡Aの遺産に係る遺産分割協議を成立させたと認められるが(前記第2の2(1)ウ)、控訴人らの提出した甲79(遺産分割協議書写し)は、著作権の帰属に関する合意部分以外は黒塗りとされており、甲79を含む本件の全証拠によっても、上記遺産分割協議において、上記損害賠償請求権について、控訴人亡A訴訟承継人ら4名の取得割合を法定相続分である各4分の1から変更する旨の合意が成立したとは認められない。 イ 対象期間(平成15年(2003年)3月29日から平成23年(2011年)11月2日まで)の被控訴人商品の販売額 平成15年(2003年)3月29日から平成16年(2004年)1月31日までの被控訴人商品の販売額は、前記(1)イ(イ)のとおり6267万円である。 平成16年(2004年)2月1日から平成23年(2011年)1月31日まで(平成16年度から平成22年度まで)の販売額の合計は、7億8435万円(7403万円+7504万円+7480万円+9397万円+1億3666万円+1億6095万円+1億6890万円)である。 平成23年(2011年)2月1日から同年11月2日まで(275日)の販売額は、平成23年度(平成23年2月1日から平成24年1月31日までの365日)の売上高である2億2120万円を日割り計算し、1億6665万7534円(2億2120万円×275日/365日、小数点以下四捨五入)と算出される。 以上の各金額を合計すると、10億1367万7534円(6267万円+7億8435万円+1億6665万7534円)(これは別紙5「控訴人ら主張損害」第2の1B記載の金額と同じである。)となり、これが、平成15年(2003年)3月29日から平成23年(2011年)11月2日までの被控訴人商品の販売額であると認められる。 ウ 損害額 上記イの対象期間の販売額及び前記(2)の相当な使用料率を前提に計算すると、平成15年(2003年)3月29日から平成23年(2011年)11月2日までの著作権侵害について亡Aが取得した損害賠償請求権の金額は、10億1367万7534円(上記イ)の1%(前記(2))である1013万6775円と認められる。 控訴人亡A訴訟承継人らは、亡Aの死亡により、上記損害賠償請求権を法定相続分に応じて4分の1ずつ相続によって取得しており(前記ア)、その金額は253万4193円(1013万6775円×1/4、小数点以下切り捨て)である。 また、本件の事案の内容等に照らし、被控訴人の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、控訴人亡A訴訟承継人ら4名それぞれについて、25万円と認めるのが相当である。 したがって、控訴人亡A訴訟承継人ら4名それぞれが被控訴人に対して有する損害賠償請求権の金額は、278万4193円(253万4193円+25万円)と認められる。 (4)被控訴人会社の損害 ア 請求の根拠となる権利 前記第2の2(4)のとおり、亡Aと控訴人会社は、平成23年(2011年)11月3日、亡Bの著作物に関する本件基本契約を締結した。控訴人会社は、本件基本契約により、前記1(2)のとおり本件テレビ作品についての著作権(翻案権、公衆送信権)を有していた亡Aから、その独占的利用の許諾を受けたものであり、被控訴人による本件テレビ作品の著作権侵害(前記1(6))という継続的不法行為により、控訴人会社は、その独占的利用許諾を受けた地位を侵害され、それによって損害を受け、損害賠償請求権を取得するものと認められる。 なお、前記(1)イ(ア)のとおり、被控訴人は、令和4年(2022年)5月30日以降の納品分(「てっぽういか」については同年6月27日の納品分)から、製造販売する商品の外装(容器のラベル又は外袋)を、被控訴人図柄を付していないものに変更しており、同年5月31日(「てっぽういか」については同年6月30日)までの販売額が、著作権を侵害する行為による被控訴人商品の販売額であると認められるから、控訴人会社は、同日までの損害につき、損害賠償請求権を取得する。 イ 対象期間(平成23年(2011年)11月3日から令和4年(2022年)年5月31日(「てっぽういか」については同年6月30日)まで)の被控訴人商品の販売額 平成23年(2011年)11月3日から平成24年(2012年)1月31日まで(90日)の販売額は、平成23年度(平成23年2月1日から平成24年1月31日までの365日)の販売額である2億2120万円を日割り計算し、5454万2466円(2億2120万円×90日/365日、小数点以下四捨五入)と算出される。 平成24年(2012年)2月1日から令和4年(2022年)5月31日(「てっぽういか」のみ同年6月30日)までの販売額は、40億5368万円(2億5748万8000円+2億8031万3000円+2億9037万5000円+3億7239万7000円+3億4838万9000円+3億8116万2000円+4億2525万円+4億5773万5000円+5億1713万9000円+5億2780万円+1億9563万2000円)である。 以上の各金額を合計すると、41億0822万2466円(5454万2466円+40億5368万円)(これは別紙5「控訴人ら主張損害」第2の2記載の金額と同じである。)となり、これが、著作権侵害により控訴人会社に損害が生じた平成23年(2011年)11月3日から令和4年(2022年)5月31日(「てっぽういか」のみ同年6月30日)までの被控訴人商品の販売額であると認められる。 ウ 損害額 上記イの対象期間の販売額及び前記(3)の相当な使用料率を前提に計算すると、平成23年(2011年)11月3日から令和4年(2022年)5月31日(「てっぽういか」については同年6月30日)までの著作権侵害について、控訴人会社が取得した損害賠償請求権の金額は、41億0822万2466円(上記イ)の1%(前記(3))である4108万2224円(小数点以下切り捨て)である。 本件の事案の内容等に照らし、被控訴人の不法行為と相当因果関係のある控訴人会社の弁護士費用の損害は、410万円と認めるのが相当である。 したがって、控訴人会社が被控訴人に対して有する損害賠償請求権の金額は、4518万2224円(4108万2224円+410万円)と認められる。 7 差止め及び廃棄の必要性(争点7)について (1)被控訴人による著作権侵害の行為の内容、著作権侵害行為が長期間にわたり継続した事実に加え、被控訴人が本件訴訟において著作権を侵害していないと主張していることも考慮すれば、被控訴人が、被控訴人商品(別紙1「被控訴人商品目録」各項の「商品名」の箇所に記載された名称を有し、同各項に掲載された写真の容器又は包装を用いた商品)を製造するおそれがあると認められ、これを差し止める必要性が認められる。 また、被控訴人は、自社のウェブサイトを運営しており(甲15、弁論の全趣旨)、宣伝のために被控訴人商品(別紙1「被控訴人商品目録」各項の「商品名」の箇所に記載された名称を有し、同各項に掲載された写真の容器又は包装を用いた商品)の画像を公衆送信する蓋然性が高いといえるから、これを差し止める必要性も認められる。 (2)被控訴人の行為によって侵害された著作権の支分権は、翻案権及び公衆送信権であり、譲渡権の侵害があったとは認められず(前記1(6)ア)、差止めについても、翻案権及び公衆送信権の侵害に当たる前記(1)の各行為の限度で必要性が認められ、譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示の差止めの請求は、理由がない。 また、前記6(1)イ(ア)のとおり、被控訴人は、令和4年(2022年)5月30日以降の納品分から、被控訴人商品の外装(容器のラベル又は外袋)を、被控訴人図柄を使用していないものに変更しており(ただし、「てっぽういか」のみ、同年6月27日の納品分から上記変更をした。)、現在被控訴人が製造、販売しているのは、その外装に被控訴人図柄を使用していないものであることが認められ、これらの事実によれば、被控訴人が、現在、外装に被控訴人図柄を付した被控訴人商品を保管しているとは認められないから、被控訴人に対し、被控訴人商品の廃棄を命ずる必要性は認められない。 (3)著作権を侵害するおそれがある者に対し、その侵害の予防を請求することができるのは、著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者である(著作権法112条1項)。本件では、亡Aからの相続に関し、遺産分割協議により、亡Bの著作物に関する著作権の持分を取得した控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が、差止請求権を有する。上記遺産分割協議により著作権の持分を取得しなかった控訴人X1、及び著作物の独占的利用を許諾された控訴人会社は、差止請求権を有しない。 したがって、上記(1)の差止請求は、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4の請求に基づいて認められるものである。 8 その他、当事者双方が主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断は左右されない。 9 結論 以上によれば、控訴人らの請求は、主文第1項(1)ないし(6)の限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却すべきであるところ、これと異なる原判決は一部失当であり、控訴人らの本件控訴は一部理由があるから、原判決を変更することとし、控訴人会社が当審において拡張した請求は理由がないから棄却することとする。 よって、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 中平健 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則 別紙1 被控訴人商品目録 1 商品名 紋次郎いか 2 商品名 紋次郎いか 3 商品名 げんこつ紋次郎 4 商品名 とんがりいか 5 商品名 とんがりいか 6 商品名 てっぽういか 別紙2 被控訴人図柄目録 別紙3 控訴人らの著作物における具体的表現と被控訴人図柄の対比表 別紙4 本件テレビ作品紋次郎 別紙5 控訴人ら主張損害 別紙6 売上一覧表 |
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