判例全文 line
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【事件名】“マークゴンザレス”ブランドのライセンシー事件B
【年月日】令和7年7月25日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70127号 債務不存在確認等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和7年4月25日)

判決
原告 株式会社SHIFFON訴訟承継人株式会社SHIFFON
同訴訟代理人弁護士 成川弘樹
同 金子禄昌
同 葛谷滋基
同 遠藤賢祐
被告 サクラインターナショナル株式会社(以下「被告会社」という。)
被告 Ai(以下「被告個人」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 田中圭祐


主文
1 被告会社が、原告に対し、原告が別紙著作物目録記載の著作物を複製、翻案、譲渡、展示、公衆送信又は送信可能化することにつき、同目録記載の著作物の著作権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことを確認する。
2 被告会社が、原告に対し、原告が別紙著作物目録記載の著作物を複製、翻案、譲渡、展示、公衆送信又は送信可能化することにつき、著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
3 被告会社が、原告に対し、原告が別紙標章目録記載の各標章を、別紙被告商標目録記載の各商標権の指定商品又はその包装に付し、別紙標章目録記載の各標章を付した別紙被告商標目録記載の各商標権の指定商品を、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出又は輸入することについて、別紙被告商標目録記載の各商標権の侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことを確認する。
4 被告会社が、原告に対し、原告が別紙標章目録記載の各標章を、別紙被告商標目録記載の各商標権の指定商品又はその包装に付し、別紙標章目録記載の各標章を付した別紙被告商標目録記載の各商標権の指定商品を、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出又は輸入することについて、別紙被告商標目録記載の各商標権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
5 被告会社は、文書、口頭又はインターネットを通じて、原告が別紙著作物目録記載の著作物及び別紙標章目録記載の標章について第三者にライセンスをする権限を有しないとの事実を告知し、又は流布してはならない。
6 被告会社は、原告に対し、110万円及びこれに対する令和5年5月11日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は、これを5分し、その3を原告の負担とし、その余を被告会社の負担とする。
9 この判決は、第5項及び第6項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項ないし第4項と同旨。
2 被告らは、文書、口頭又はインターネットを通じて、原告が別紙著作物目録記載の著作物及び別紙標章目録記載の標章について第三者にライセンスをする権限を有しないとの事実を告知し、又は流布してはならない。
3 被告らは、原告に対し、連帯して、金1100万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告らは、別紙謝罪広告目録第1記載の謝罪広告を、別紙謝罪広告目録第2記載の要領をもって掲載せよ。
第2 事案の概要等
1 本件に至る経緯等
(1)被告会社は、株式会社バイタルジャパン(以下「バイタルジャパン」という。)が、令和4年9月に開催されたイベント(以下「本件イベント」という。)において、別紙著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)及び別紙標章目録記載1ないし3の各標章(以下、これらの標章を併せて「本件各標章」という。)を使用した製品を展示したことについて、バイタルジャパンに対し、同製品を製造、陳列する行為は、被告会社が有する本件著作物の著作権(以下「本件著作権」という。)及び別紙被告商標目録記載1ないし4の商標(以下、同目録記載の番号に応じて「本件商標1」などといい、これらを併せて「本件各商標」という。)に係る商標権(以下、同目録記載の番号に応じて「本件商標権1」などといい、これらを併せて「本件各商標権」という。)を侵害するものであるとして、上記行為の差止め及び製品の廃棄を求めるとともに、応じない場合には損害賠償を含む法的措置を講じる用意がある旨の書面(以下「本件警告書」という。)を送付した。
(2)本件は、本件イベント開催当時バイタルジャパンの取引先であった株式会社SHIFFON(平成16年6月16日に設立され、令和7年3月1日に原告に吸収合併され消滅した。以下では、「原告」と表記する場合、特に記載がない限り、吸収合併消滅会社である株式会社SHIFFONも含む。)が、本件警告書に記載された警告対象となった製品は、原告が、スケートボーダー兼アーティストとして活躍するBi(以下「Bi」という。)のブランド管理会社であるTULUMIZEINC.(以下「TULUMIZE」という。)との間の契約に基づき、マスターライセンシーとして製造、販売等するものであり、被告会社は、本件警告書により、原告に対して著作権侵害又は商標権侵害を理由として権利行使する意向を表明していることは明らかであるところ、被告会社は、本件著作権を有しておらず、また、本件各商標は商標法4条1項7号に該当し無効であるか、原告に対する本件商標権に基づく権利の行使が権利濫用又は商標法29条に該当し、被告会社は原告に対して本件各商標権に基づく権利を行使することができないと主張するとともに、本件警告書の送付が、被告らと競業関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するものであり、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争に該当し、かつ、被告個人による被告会社の代表取締役としての職務行為上の不法行為に該当すると主張して、被告会社に対しては、次項(1)及び(2)の各損害賠償請求権等の不存在確認(以下、順次「著作権侵害債務不存在確認」及び「商標権侵害債務不存在確認」といい、両者を併せて「本件各債務不存在確認」という。)、被告らに対しては、同(3)の不競法3条1項に基づく差止め、同(4)の不競法4条又は不法行為に基づく損害賠償及び同(5)の不競法14条に基づく信用回復の措置を求める事案である。
2 本件請求
〈1〉著作権侵害に基づく損害賠償請求権及び著作権に基づく差止請求権の不存在確認請求(著作権侵害債務不存在確認に係る請求)
 原告が、被告会社に対し、原告が本件著作物を複製等することにつき、被告会社が著作権侵害に基づく損害賠償請求権及び著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるもの。
〈2〉商標権侵害に基づく損害賠償請求権及び商標権に基づく差止請求権の不存在確認請求(商標権侵害債務不存在確認に係る請求)
 原告が、被告会社に対し、原告が本件各標章を本件各商標権の指定商品に付すことなどにつき、被告会社が商標権侵害に基づく損害賠償請求権及び商権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるもの。
〈3〉不競法3条1項に基づく差止請求
 原告が、被告らに対し、同法3条1項に基づき、原告が本件著作物及び本件各標章について第三者にライセンスをする権限を有しないとの事実を告知し、又は流布することの差止めを求めるもの。
〈4〉不競法4条又は不法行為に基づく損害賠償請求
 原告が、被告らに対し、被告個人に対しては不競法4条又は民法709条に基づき、被告会社に対しては不競法4条又は会社法350条に基づき、連帯して1100万円(無形損害1000万円及び弁護士費用100万円)及びこれに対する本訴状送達の日(被告会社につき令和5年5月10日、被告個人につき同月27日)の翌日から各支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるもの。
〈5〉不競法14条に基づく信用回復の措置請求
 原告が、被告らに対し、不競法14条に基づき、被告らの不正競争により害された原告の営業上の信用を回復するため、別紙謝罪広告目録第1記載の謝罪広告を、別紙謝罪広告目録第2記載の要領をもって掲載することを求めるもの。
3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠(以下、特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)等
〈1〉当事者等
ア 吸収合併消滅会社である株式会社SHIFFON(令和4年9月1日以前の商号は「株式会社志風音」であった。)は、平成16年6月16日に設立された株式会社であり、衣類等について、輸出、輸入やその代理業務並びに卸、小売業等を行っていた。
イ 吸収合併存続会社である原告は、令和6年12月10日に設立され、令和7年3月1日に吸収合併消滅会社である株式会社SHIFFONを合併し、同社の権利義務を承継した株式会社であり、衣類等について、輸出、輸入やその代理業務並びに卸、小売業等を行っている。原告は、令和7年4月8日に、吸収合併消滅会社である株式会社SHIFFONが提起した本訴訟の訴訟手続につき受継の申立てをした。
ウ 被告会社は、衣料品繊維製品及び衣料用付属品の販売等並びに関連する業務として衣料品繊維製品に関連するライセンス事業を行う株式会社である。被告会社は、Biの創作に係る本件著作物を含むイラスト、デザイン等についてライセンス及びサブライセンス事業を展開してきた。被告個人は、被告会社の代表取締役である。
エ サクラグループ有限会社(以下「サクラグループ」という。)は、被告個人の配偶者が代表取締役を務める会社である。
オ Biは、米国に在住し、スケートボーダー兼アーティストとして活動する者である。
カ Ci(以下「Ci」という。)は、米国に在住し、スケートボーダー兼アーティストとして活動する者である。
キ CujoArtsandLiterature,Inc.(以下「Cujo」という。)は、BiとDi(以下「Di」という。)が平成12年(2000年)4月に設立し、Diが代表取締役を務める米国ネバダ州の会社である。Cujoは、平成20年(2008年)11月頃解散決議がされ、また、ネバダ州法の規定に基づく年次申告を行わなかったことなどにより、平成24年(2012年)5月1日、「永久失効」(PermanentlyRevoked)となった。(甲99、乙56、58、59)
〈2〉BiとCujoとの関係
 Biは、平成11年(1999年)10月1日、Cujoとの間で、雇用契約書(乙7。以下「本件雇用契約書」という。)を作成した。本件雇用契約書には、CujoがBiをエグゼクティブ・プロデューサーとして雇用し、BiがCujoに対してCujoのウェブサイト、アートワーク、出版、映画、スポーツ活動のためのコンテンツ開発及び制作に係るサービスを提供すること(1条)、CujoがBiに対して年俸5万ドルを支払うこと(3条)、Biが同契約終了後90日間はグアム州全域を含む地理的範囲において競業避止義務を負うこと(9条)、その他休暇の定め等が記載されている。(乙7、60)
〈2〉被告会社とCujo及びCiとの音楽契約
 被告会社は、平成12年(2000年)10月20日、Cujo及びCiとの間で、アーティスト(Cujo及びCiの総称)が、一定の音楽作品を制作し、また、それらのアルバムカバーアート等を創作するサービスを被告会社に提供するとともに、被告会社が、アーティストの宣伝目的等のために、カバーアート等を日本、米国、ラテンアメリカ及び欧州を含む全世界(以下「ワールドワイドベース」という。)でTシャツ等に複製し、販売する独占権を有することなどを内容とする契約(MUSICPRODUCTIONSERVICEAGREEMENT。以下「本件音楽契約」という。)を締結した。なお、本件音楽契約の契約書におけるCujoの署名欄には、「秘書」(ItsSecretary)としてBiが署名している。(乙1、75)
〈4〉本件著作物
ア 本件著作物は、「エンジェル」などと称されるキャラクター(以下、当該キャラクターを総称して「エンジェル」という。)を描いたイラストであり、Biは、平成13年(2001年)1月頃に来日した際、被告個人の求めに応じて本件著作物を制作した。
イ なお、別紙イラスト目録記載1のイラスト(以下「エンジェル1」という。)は、平成10年(1998年)5月に発行されたBiの作品集に掲載されている。(甲21)
〈5〉本件各商標
ア 被告会社は、平成15年3月17日、本件著作物と同様のエンジェルの図形を内容とする本件商標1及び2の出願を行い、これらの商標はいずれも同年10月24日に登録された。被告会社は、平成21年6月29日、サクラグループに本件商標権1及び2を移転し、サクラグループは、令和2年10月19日に、再び本件商標権1及び2を被告会社に移転した。(甲13、14、59、60)
イ 被告会社は、平成14年11月25日、Biの氏名を英字表記した本件商標3及び4の出願を行い、本件商標3は平成16年4月16日に登録され、本件商標4は同年5月14日に登録された。これらの商標の登録について、Biは、平成15年(2003年)8月26日付けの承諾書をもって、自らの氏名を商標として登録することを承諾していた。被告会社は、平成21年6月29日に本件商標権3及び4をサクラグループに移転し、サクラグループは、令和3年11月24日に、再び本件商標権3及び4を被告会社に移転した。(甲15、16、61、62、乙18)
〈6〉サクラグループとBiとのライセンス契約
 サクラグループは、平成22年(2010年)12月8日、Biとの間で、Biが、サクラグループに対し、衣類等の一定の商品にBiの名称、肖像及びBiが創作し所有するデザインを利用する独占権を付与することなどを内容とする契約(LICENSEINGAGREEMENT。以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。本件ライセンス契約締結の交渉は、被告個人が行っていた。(甲8)
〈7〉TULUMIZEと原告とのマスターライセンス契約
 Biが代表を務めるTULUMIZEと原告は、令和4年(2022年)1月4日、原告が、日本において、TULUMIZEに関連する著作権及び/又は商標権などの知的財産権を使用して商品を製造及び販売すること、並びに日本の商標法に基づく指定商品又は指定役務の範囲のうち第9類、第18類、第25類及び第35類の範囲内で、TULUMIZEの名称、デザインを使用して商品を製造及び販売することにつき、TULUMIZEが原告に対して許諾する旨の契約(以下「本件マスターライセンス契約」という。)を締結した。なお、上記知的財産権は、TULUMIZEがBiから譲渡された、Biの名前、署名、「エンジェル」のデザイン及び作品を含む、全ての知的財産権を意味するとされている。(甲3)
〈8〉BiとTULUMIZEとの権利譲渡契約
 BiとTULUMIZEは、令和4年(2022年)5月23日、Biが、TULUMIZEに対し、Biが作成し、保有する全作品の複製、展示、頒布及び貸与の権利を含む全ての著作権(ただし、二次的著作物を創作する権利を除く。)を譲渡する旨の契約を締結した。(甲4)
〈9〉被告会社とCiとの権利譲渡契約
 被告会社とCiは、令和4年(2022年)6月21日、Ciが、被告会社に対し、音楽制作物(楽曲及び歌詞)、録音物、カバーアートワークに関する全ての著作権及び関連する権利を含む、Ciの権利、権原、及び利益の全てを譲渡する旨の契約(RIGHTTRANSFERAGREEMENT)を締結した。(乙11)
〈10〉被告会社とCujoとの権利譲渡契約
 被告会社とCujoは、令和4年(2022年)8月7日、Cujoが、被告会社に対し、本件音楽契約に基づき被告会社に納入された音楽著作物(作曲、作詞)、録音物、ジャケット作品(アルバムジャケット、歌詞集)に関する全ての権利、及び本件音楽契約に関する全ての契約上の権利を譲渡する旨の契約(Cujo'sRightsTransferAgreement)を締結した。なお、当該権利譲渡契約第1条(2)B記載の「別紙2」には、本件著作物を含む著作物が掲載されている。(乙10)
〈11〉原告とバイタルジャパンとの有償支給取引契約
 原告とバイタルジャパンは、令和4年8月1日、@原告が、バイタルジャパンに対し、自身が商品の製造に関する権利を有する「MarkGonzales」のブランドを、バイタルジャパンが使用して商品を製造することを委託すること、Aバイタルジャパンは、製造した商品を原告に販売し、原告はその販売価格に使用料を加算してバイタルジャパンに販売することを内容とする有償支給取引契約を締結した。(甲12)
〈12〉本件イベントにおける製品の展示
 バイタルジャパンは、令和4年9月7日から同月9日にかけて東京ビッグサイトで開催された「第94回東京インターナショナルギフト・ショー秋2022」(本件イベント)において、本件著作物及び本件各標章を使用した「MarkGonzalesARTWORKCOLLECTION」ブランドの鞄などの製品(以下「本件製品」という。)を展示した。(甲10)
〈13〉本件警告書の送付
 被告会社は、バイタルジャパンに対し、令和4年9月14日付け本件警告書を送付した。本件警告書には、次のような内容が記載されている。(甲17)
ア 被告会社は、Biのブランドのライセンス事業を営んでおり、「MarkGonzales」との呼称は、被告会社の登録商標である。
イ Biのブランドを代表するエンジェルは、被告会社が著作権を保有するとともに、被告会社の登録商標である。
ウ バイタルジャパンは、「MarkGonzalesARTWORKCOLLECTION」と銘打って、エンジェルのマークを使用した手提げ鞄、リュック、ポシェット等の商品を多数製造し、本件イベントで陳列したが、これらの行為は、被告会社の商標権を侵害し、エンジェルに関する著作権(複製権、翻案権、展示権)等を侵害する違法な行為である。
エ バイタルジャパンは、原告からライセンスを受けていると主張するが、原告は正当な権利者である被告会社から許諾を得ていない。
オ 被告会社は、バイタルジャパンに対し、直ちに、被告会社の知的財産権を侵害する商品の製造等を停止し、製造済みの商品についても全て廃棄することを要求し、仮にこれに応じない場合には、商標権及び著作権侵害を理由として、商品の製造、販売の差止め及び損害賠償を請求するなど、法的措置を講じる予定である。
〈14〉原告は、本件警告書に記載された警告対象となった製品は、原告が、Biのブランド管理会社であるTULUMIZEとの間の契約に基づき、マスターライセンシーとして製造、販売等するものであり、被告会社は、本件警告書により、原告に対して著作権侵害又は商標権侵害を理由として権利行使する意向を表明していることは明らかであるなどと主張して、本件各債務不存在確認に係る請求を含む本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著な事実)
〈15〉本件各商標権に係る取得時効の援用
 被告会社は、本件第12回弁論準備手続期日(令和7年4月25日)において、被告準備書面(7)を陳述し、原告に対し、本件各商標権について、取得時効を援用する旨の意思表示をした。(当裁判所に顕著な事実)
〈16〉外国法の規定
ア 米国著作権法101条
 「著作権の移転」とは、著作権又は著作権に含まれるいずれかの排他的権利の譲渡、モゲージ設定、独占的使用許諾その他の移転、譲与又は担保契約をいい、その効力が時間的又は地域的に制限されるか否かを問わないが、非独占的使用許諾は含まない。
 「共同著作物」とは、二以上の著作者が、各々の寄与物を分離できない又は相互に依存する部分からなる単一物に統合する意図をもって、作成する著作物をいう。
 「職務著作物」とは、以下のいずれかをいう。
(ア)被用者がその職務の範囲内で作成する著作物。
(イ)集合著作物の寄与物、映画その他の視聴覚著作物の一部分、翻訳、補足的著作物、編集著作物、教科書、試験問題、試験の解答資料又は地図帳として使用するために、特に注文または委託を受けた著作物であって、当事者が署名した文書によって職務著作物として扱うことに明示的に同意したもの。前段において、「補足的著作物」とは、序文、あとがき、挿し絵、地図、海図、表、編集後記、編曲、試験の解答資料、文献目録、付録、索引等、他の著作物を紹介し、終結させ、図解し、説明し、修正し、注釈し又はその使用を助けることを目的として、他の著作者が著作物の二次的付加物として発行するために作成する著作物をいう。また、「教科書」とは、組織的指導活動における使用を目的として発行を予定して作成する言語、絵画又は図形の著作物をいう。
イ 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)5条2項(抄)
 著作物の保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。
4 争点
〈1〉被告会社による本件著作権に基づく権利行使の可否(争点1)
ア 本件著作権がCujo及びCiに原始的に帰属するか(争点1−1)
イ 被告会社による本件著作権の取得の有無(争点1−2)
〈2〉被告会社による本件商標権に基づく権利行使の可否(争点2)
〈3〉不競法3条1項に基づく差止請求の可否(争点3)
〈4〉不競法4条又は不法行為に基づく損害賠償請求の可否(争点4)
〈5〉不競法14条に基づく信用回復措置請求の可否(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1−1(本件著作権がCujo及びCiに原始的に帰属するか)について
(被告らの主張)
(1)本件著作物は、平成13年(2001年)1月頃、別紙イラスト目録記載2のイラスト(以下「エンジェル2」という。)の納品を受けた被告個人からBiに対し、「もう少ししっかりした形のエンジェルが欲しい」等の要望を伝え、Biが作成したものであるところ、本件著作物は、本件音楽契約に係る絵画創作物であり、本件音楽契約に係る絵画創作物を含むコラボレーションアルバムは、Cujoの従業員兼役員であったBiとCiが共同で制作したものであり、イラスト、歌詞、デザイン、メロディーが一体となっており、分離不可能な性質のものである。仮に、分離可能であったとしても、両名のコラボレーションアルバムであり、BiもCiの楽曲にインスピレーションを受けてイラストを描いているのであって、相互依存性なくして作品は完成しない。したがって、本件著作物は、BiとCiの共同著作物である。
 そして、本件著作物は、Cujoに雇用されていたBiが、Cujoが締結した本件音楽契約につき創作したものであるから、本件著作物は職務著作物に当たる。
 以上によれば、本件著作物の著作者はBiとCiであって、その著作権はCujoとCiに原始的に帰属していた。
(2)Biが平成2年(1990年)頃に制作したとされる別紙イラスト目録記載3のイラスト(以下「エンジェル3」という。)と本件著作物は、羽の形、表情、胴体部分の描写等から一見して別であるから、本件著作物は他のエンジェルの複製や二次的著作物ではなく、新規の著作物である。
(原告の主張)
(1)本件著作物は、Biの「エンジェル」と呼ばれる作品の一つであり、Biは、平成7年(1995年)頃までに別紙イラスト目録記載4のイラスト(以下「エンジェル4」という。)を創作し、その後、平成10年(1998年)5月までにエンジェル4の二次的著作物としてエンジェル1を創作した。本件著作物は、平成13年(2001年)1月頃に被告会社からの求めに応じてBiが描いたものであるが、エンジェル1を有形的に再製したものにすぎないから、本件著作物は、遅くとも平成10年(1998年)5月までにBiが単独で創作したものである。上記の経緯からすれば、本件著作物は、Biの単独著作物であって、その著作権は制作者であるBiに原始的に帰属している。
(2)上記のとおり、本件著作物は、本件音楽契約とは無関係に、Biが単独で制作したものであるから、Ciは本件著作物の共同著作者ではない。また、Cujoは、Biの収入に対する課税を回避する目的で設立された法人であり、銀行口座の預金が唯一の資産であって、従業員を雇用することはもちろん、事業を行うことすら想定しておらず、Biの作品制作活動を管理していた事実もないから、本件著作物がCujoの職務著作に当たることもない。
2 争点1−2(被告会社による本件著作権の取得の有無)について
(被告らの主張)
 被告会社は、以下のとおり、本件著作権を取得した。
〈1〉本件音楽契約に基づく本件著作権の取得
ア 本件著作物は、本件音楽契約に係る絵画著作物であり、被告会社が、本件音楽契約2条3項により、一定の音楽作品に関連して創作された一切のカバーアート等をワールドワイドベースでTシャツ等に複製し、販売する独占権を取得したことに基づき本件著作権のうち使途に限定のある複製権及び頒布権は、譲渡又は原始取得により、被告会社に帰属する。また、同契約6条により、本件著作物の翻案権につき、これを申請する権利も、譲渡又は原始取得により、被告会社に帰属する。
イ 仮に、上記アの主張が認められないとしても、被告会社は、本件音楽契約2条3項により、本件著作物に係る独占権(exclusiverights)の保有者であるところ、これは独占的なライセンスの付与を意味するものであり、米国著作権法101条は独占的なライセンスの付与を「著作権所有権の移転」と定義しているから、被告会社は、その保有に係る原因行為が著作権の譲渡であるか独占的なライセンスの付与であるかにかかわらず、米国において著作権者として扱われ、排他的使用権、許諾権・処分権、排除救済権を有し、日本国においても著作権者と認定される。
〈2〉Cujo及びCiとの間の権利譲渡契約に基づく本件著作権の取得
 前記1(被告らの主張)のとおり、本件著作権はCujoとCiに原始的に帰属するものであるところ、被告会社は、Cujo及びCiそれぞれと権利譲渡契約を締結し、Cujo及びCiに残存した全ての権利を譲り受けているから、被告会社は、本件著作物の全ての著作権を有する。仮に、本件著作物につき、Ciとの共同著作が否定され、Cujoの職務著作とされる場合でも、被告会社はCujoから権利を譲り受けており、結論は変わらない。
 また、本件音楽契約に関し、Biが創作した著作物は、被告会社、Cujo、Ciを一体化したグループの職務著作物であり、その著作権は同グループに原始的に帰属していた。そして、被告会社は、Cujo及びCiそれぞれと権利譲渡契約を締結し、Cujo及びCiに残存した全ての権利を譲り受けているから、被告会社は、本件著作物の全ての著作権を有する。
(原告の主張)
 前記1のとおり、本件著作物は、本件音楽契約に基づいて制作されたものではなく、本件音楽契約とは無関係である。そして、本件著作物の著作権者であるBiは、本件著作物に関し、被告会社に著作権の譲渡をしていないし、何の許諾もしていない。
 被告らは、本件音楽契約を根拠に、Cujo及びCiから本件著作権の譲渡を受けたと主張するが、そもそも、本件著作物は本件音楽契約の対象ではないし、被告会社は、同契約2条3項により、音響作品とアーティストの広報のために、音響作品に関連して創作された一切のカバーアートをTシャツ等に複製し、販売することに関する独占的な権利(exclusiverights)を有するにすぎない。したがって、被告会社は、本件音楽契約に基づき本件著作権を取得していない。
 また、前記1で述べたとおり、CujoとCiは本件著作権を有していないから、被告会社とCi及びCujoとの間の権利譲渡契約により、被告会社が、本件著作権を取得することもない。
 以上によれば、被告会社は本件著作権を有していない。
3 争点2(被告会社による本件各商標権に基づく権利行使の可否)について
(被告らの主張)
 本件各商標権は被告会社に帰属しており、被告会社は、原告に対し、本件各商標権に基づき権利を行使することができる。
 本件各商標権が本件音楽契約及びBiによる商標登録への承諾に基づくこと
ア 本件商標1及び2について
 本件商標1及び2は、本件音楽契約の成果物であり、かつ、本件著作物であるから、前記2(被告らの主張)のとおり、被告会社がこれら商標の出願、登録、使用をする権限を有している。
イ 本件商標3及び4について
 被告会社は、本件音楽契約2条4項により「Biiの氏名使用権」を有することに加えて、平成15年(2003年)に、Biから自らの氏名を登録使用することの承諾を得ているから、本件商標3及び4を適法に出願、登録、使用することができる。
〈2〉原告の主張に対する反論
ア 被告会社及びサクラグループが、本件ライセンス契約に基づきライセンス事業を行っていたことは認めるが、本件各商標は、上記(1)のとおり、本件ライセンス契約とは無関係の本件音楽契約及びBiによる商標登録の承諾に由来するものであり、本件ライセンス契約の対象ではない。
イ そもそも、本件ライセンス契約においてBiがサクラグループに対して許諾した権利は、Biが創作し所有権を有する著作権の商品化権にすぎず、本件ライセンス契約11条に規定する登録は「著作権登録」である。また、本件ライセンス契約11条が定める返還義務は、「本件ライセンス契約期間中のサクラグループによる同契約の許諾対象物の登録」が前提条件であるが、本件各商標は、被告会社による本件ライセンス契約締結前の登録商標である。
ウ また、本件ライセンス契約の許諾対象物は、「Biが創造し所有権を有する名前・写真・デザイン」に限定されるところ、Biは、平成15年(2003年)に被告会社に自らの氏名を登録使用することを承諾しているから、被告会社以外の者であるサクラグループに対し、「MARKGONZALES」の商標としての使用を許諾する権限を有しておらず、本件商標3及び4は本件ライセンス契約の許諾対象物には該当しない。
 さらに、被告会社は、平成12年(2000年)当時より、「MARKGONZALES」ブランドを展開しており、平成22年(2010年)の時点で、本件ライセンス契約を締結し、既に一定の顧客吸引力を有するブランド商標の無償譲渡ともいうべき返還義務に合意することには経済的合理性がなく、合理的意思解釈としても、本件ライセンス契約に本件商標3及び4は含まれない。
〈3〉本件各商標権の時効取得
 商標権についても、民法163条の適用が観念できるところ、以下のとおり、本件各商標については取得時効が完成しているから、これを援用する。
ア 本件商標権1及び2について
 被告会社は、本件音楽契約に基づき、本件商標1及び2の出願、登録を行っており、登録時点で自らに正当な権限が存在すると確信しており、善意、無過失であった。その後、被告会社は商標権者としてライセンス事業を営み、「自己のためにする意思をもって、平穏、かつ、公然と」本件商標権1及び2の準占有を行っており、平成25年3月16日に時効は完成している。仮に、善意、無過失が否定される場合も、令和5年3月16日に時効が完成している。
イ 本件商標権3及び4について
 被告会社は、Biの明確な承諾を得て、本件商標3及び4の出願、登録を行っており、善意、無過失で所有の意思をもって準占有を開始している。その後、被告会社は商標権者としてライセンス事業を営み、「自己のためにする意思をもって、平穏、かつ、公然と」本件商標権3及び4の準占有を行っており、平成24年12月18日に時効は完成している。仮に、善意、無過失が否定される場合も、令和4年12月18日には時効が完成している。
(原告の主張)
(1)被告会社は、下記アないしウにより、原告に対し、本件各商標権を行使することができない。
ア 本件各商標が商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当すること
@本件ライセンス契約11条は、サクラグループが、Biの要求に応じて、サクラグループが行った登録をBiに返却することを条件に、「GonzoCuntry」、「MarkGonzales」及びBiのデザインを保護するために登録することができるものとする旨定めているところ、被告会社は、サクラグループと一体的な存在であり、本件ライセンス契約の実質的当事者として、同契約11条に基づき、Biに対して本件各商標権の返還義務を負い、Biから再三にわたり返還を求められているにもかかわらず、これを怠っていること、A被告会社は、本件ライセンス契約終了により、同契約の対象であった知的財産を使用することができなくなっているにもかかわらず、これを知りながら、本件各商標を含む上記知的財産を使用して、Biの許諾の下で展開されていると一般消費者に誤認させるような態様でブランドを展開し続けていること、B被告会社は、Biや原告のライセンスビジネスを妨害する目的で、原告からライセンスを受けたライセンシーに対して、本件各商標権に基づき販売停止等を求める通知書を送付していること、C被告会社は、本件各商標のほかにも、エンジェルやBiの略称によって構成される商標を出願していること、D被告会社は、本件各商標の出願につき、本件音楽契約によって本件著作権が被告会社に譲渡され、Biの氏名の使用が許諾されており、その使用許諾に商標出願の許諾が含まれるため、Biから本件商標出願を許諾されている等の根拠のない主張を展開していること、E被告会社は、上記Cの商標の出願の根拠や、出願理由に関する原告からの質問への回答を拒否していること、FBiは、本件商標3及び4に関して返還請求や無効主張をするなど、これらの商標の出願登録につき与えた許諾を撤回していること、G被告会社は、Biや原告への嫌がらせとしてBi及び原告の訴訟代理人弁護士に懲戒請求を行っていること、H被告会社は、本件ライセンス契約に基づき、同契約の対象であった知的財産にかかるBiの権利を尊重し、Biが行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負うにもかかわらず、上記@ないしBの行為によってBiのライセンスビジネスの展開を妨げていること、I被告会社は、Biの訴訟代理人でもある原告の訴訟代理人を債務者として仮処分命令を申し立て、同事件においておよそ認められる余地のない非論理的な主張を多々展開し、弁護士の業務を妨害していることからすれば、本件各商標はBiに返還すべきものであり、被告会社には本件各商標の使用に関する固有の正当な利益が認められず、被告会社が不当な目的で商標登録を保持し、本件各商標を使用していることは明らかであるから、本件各商標は公序良俗に反する商標である。
イ 被告会社による原告に対する本件各商標権の行使が権利濫用であること
 上記ア記載の事情に加え、J知的財産高等裁判所は、令和6年8月8日、エンジェルやBiの名称によって構成される、本件各商標と類似する商標について、公序良俗に反する商標に該当し無効である旨の判決をしたこと、K本件各商標は、Biの信用が化体した商標であり、被告会社の信用が化体した商標ではないこと、L原告は、正当な権利者であるTULUMIZEから本件各標章の使用について許諾を得ていることからすれば、被告会社による原告に対する本件各商標権侵害を理由とする権利行使は権利濫用に該当し、許されない。
ウ 被告会社による本件商標権1及び2の行使が、TULUMIZE及びBiの有する本件著作権に抵触すること
 本件商標1及び2を構成する本件著作物の著作権は、TULUMIZE及びBiが保有していることから、商標法29条により、被告会社は、本件商標権1及び2を行使することはできない。
(2)被告らが主張する本件各商標権の時効取得についての反論
ア 商標権に準占有の規定は適用されないから、商標権の時効取得はそもそも観念することができない。仮に、商標権に準占有の規定が適用されるとしても、被告会社及びサクラグループは、本件各商標につき、本件ライセンス契約11条により、Biに対して返還義務があることを前提として使用していたものであるから、「自己のためにする意思」をもって本件商標権を行使していない。また、被告会社及びサクラグループは、善意、無過失ともいえないから、時効取得は成立しない。
イ 仮に被告会社が本件各商標権を時効取得したとしても、被告会社は、本件各商標権につき、本件ライセンス契約11条に基づく返還義務を負うから、被告らの主張は失当である。
4 争点3(不競法3条1項に基づく差止請求の可否)について
(原告の主張)
(1)原告と被告会社はともに、本件著作物や本件各標章等について、第三者にライセンスを付与するというライセンス事業を行っており、また、被告個人は被告会社の代表取締役として被告会社の業務を行っているから、原告と被告らは競争関係にある。
(2)被告会社は、バイタルジャパンに対し、令和4年9月14日付で本件警告書を送付したが、本件警告書は、被告個人が被告会社の代表取締役として送付したものであるから、被告らが送付したものといえる。そして、本件警告書には、本件製品を製造し、陳列した行為が、被告会社が保有する本件著作権及び本件商標権を侵害すること、及びバイタルジャパンのライセンサーである原告は正当な権利者である被告会社の許諾を受けていないことなどが記載されており、原告が本件著作物及び本件各標章に関して第三者にライセンスをする権限を有していないとの事実を告知するものである。
 しかし、本件著作権を有するのは、被告会社ではなくTULUMIZEであり、原告は本件マスターライセンス契約により本件著作権を使用して商品の製造又は販売をすることができるし、本件商標権は無効であるか、被告会社による本件商標権の行使は権利濫用であるから、本件各標章についてTULUMIZEは原告にライセンスをすることができ、原告もバイタルジャパンにライセンスをすることができるから、本件警告書は虚偽の事実を告知するものである。
(3)本件警告書により、原告は、バイタルジャパンから、本件著作物及び本件各標章の使用についてライセンスをする権限を有していないとの疑いを持たれることとなり、原告の事業上の信用が害されたものといえる。
(4)以上のとおり、本件警告書の送付は、不競法2条1項21号の不正競争に該当するから、原告は、被告らに対し、不競法3条1項に基づき、原告が本件著作物及び本件各標章の使用に関してライセンスをする権限を有していないとの事実及び流布の差止めを求める。
(被告らの主張)
(1)原告と被告らが競争関係にあることは認めるが、被告会社は、本件著作権及び本件各商標権を有しているから、本件警告書の送付は、虚偽の事実を告知するものではなく、不正競争に該当しない。
(2)被告会社は、本件著作権及び本件各商標権を20年以上にわたり正当に有し、かつ正当に使用し続けてきており、原告が被告会社の許諾なく本件著作物を使用し、ライセンスする行為は、被告会社の有する本件著作権及び本件各商標権を侵害する行為に該当するだけでなく、不正競争に該当する可能性が高いことから、被告会社が、保有する権利の限度において、原告が本件著作物のライセンスをする権限を有しないことを告知、流布等することは正当な防御行為であり、正当な権利行使の範囲内の行為であるといえるから、不正競争に該当しない。
5 争点4(不競法4条又は不法行為に基づく損害賠償請求の可否)について
(原告の主張)
(1)被告会社がバイタルジャパンに対して本件警告書を送付した行為は、上記4のとおり、被告らの不正競争に当たる。また、被告会社による本件警告書の送付行為は、被告会社の代表取締役である被告個人が行ったものであり、被告個人の行為は、不正競争に該当するとともに、原告の権利又は法律上保護された利益を侵害するものとして不法行為にも該当する。
(2)原告は、本件マスターライセンス契約締結の事実をウェブページ等で対外的に公表しており、被告らも当然これを把握しているところ、原告に問合せ等を行うことなく、原告の営業上の信用を害することを意図して、あえて本件警告書を送付していることから、被告らに故意又は過失があることは明らかである。
(3)被告らの行為により、原告は営業上の信用を害されたものであり、原告には少なくとも1000万円の無形損害が生じた。また、弁護士費用として100万円につき、被告らの不正競争又は不法行為と因果関係がある。
(4)以上によれば、被告個人は、不競法4条又は民法709条に基づき、被告会社は、不競法4条又は会社法350条に基づき、原告に対し、連帯して、1100万円の損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
 否認ないし争う。
 本件警告書を送付した行為は、不正競争や不法行為に該当しない。
6 争点5(不競法14条に基づく信用回復措置請求の可否)について
(原告の主張)
 被告らの不正競争により侵害された原告の営業上の信用を回復するためには、別紙謝罪広告目録第1記載の謝罪広告を同第2の要領に従い掲載することが必要である。
(被告らの主張)
 否認ないし争う。
 本件警告書を送付した行為は、不正競争や不法行為に該当しない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実等並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)被告会社は、平成12年(2000年)10月20日、Cujo及びCiとの間で、本件音楽契約を締結した。
 本件音楽契約の具体的内容は、次のとおりである。(前提事実等(3)、乙1、75)
第1条 音楽制作
1.1アーティスト(Artists。Cujo及びCiの総称。以下本契約において同じ。)は、一定の音楽作品(MusicWork。作曲及び作詞をいい、以下「音楽作品」という。)及び音楽作品の演奏の録音物(SoundRecordings。以下「録音物」という。)を制作し、また、それらのアルバムカバーアート及び/又は写真(CoverArtwork。以下「カバーアート」という。)を創作するサービス(Services。以下「本サービス」という。)を被告会社に提供する。
第2条 権利
2.1 音楽作品及び録音物の著作権は、第4条(原文ママ)に定める納入物の納入時に被告会社に移転される。
(CopyrightsoftheMusicWorksandtheSoundRecordingsshallbetransferredto
SakuraatthetimeofdeliveryoftheDeliveryMaterialssetforthinArticle4.)
2.2 被告会社は、ワールドワイドベース(日本、米国、ラテンアメリカ及び欧州を含む全世界)において、その著作権の保護期間中、録音物の全部又は一部を、コンパクトディスク、音楽テープ、DVD及びその他の媒体(AudioWorksと総称されるもの。以下「音響作品」という。)により、複製、頒布、販売、上演、演奏、放送、インターネット等の通信ネットワーク等を利用した送信、その他の方法により利用する独占権(exclusiverights)を有する。
(Sakurashallhavetheexclusiverightstoreproduce,distribute,release,perform,
broadcast,transmitthroughtelecommunicationnetworksuchasInternet,andexploitinanyothermeans
theSoundRecordingsincompactdiscs,musictapes,DVDandanyothermedia(hereinafte“AudioWorks”),
asawholeorinpart,worldwide,including,butnotlimitedto,Japan,theUnitedStates,
LatinAmerica,andEurope(the“WorldwideBasis”)forthetermofprotectionforcopyrightsthereof.)
2.3 被告会社は、音響作品及びアーティストの宣伝目的のために、その著作権の保護期間中、音響作品に関連して創作された一切のカバーアートをワールドワイドベースでTシャツ等に複製し、販売する独占権を有する。
(Sakurashallhavetheexclusiverightstoreproduceandsellanyandallalbumcoverartworkand/
orphotographscreatedinconjunctionwiththeAudioWorksforTshirts,et
c.WorldwideBasisforpromotionalpurposeoftheAudioWorksandtheArtistsforthetermofprotectionforcopyrightsthereof.)
2.4 被告会社は、音響作品及びアーティストの宣伝目的のために、Bi及びCiの名前を使用する権利を有する。
(SakurashallhavetherighttousethenamesBiiandCiiforpromotionalpurposeoftheAudioWorksandtheArtists.)
第6条 制作管理
6.1 アーティストは、音響作品のリリースに併せて制作される全ての作曲、Tシャツ及び/又は宣伝資料に対し完全な制作管理権を保有する。
6.2 全ての商品デザインは、制作前に両アーティストの書面による承認を得なければならない。
6.3 アーティストがデザイン申請を受領してから30日以内に、アーティストの承認又は拒絶を得られなかった場合には、被告会社は、アーティストの承認なくデザインを制作する権利を有する。
第12条 一般条項
12.3 管轄
 本契約に起因又は関連する一切の紛争については、カリフォルニア州の裁判所が専属管轄権を有する。
12.6 準拠法
 本契約は、米国カリフォルニア州の法律に準拠する。
(2)Ciは、平成12年(2000年)11月頃、被告会社に対し、楽曲と共にエンジェル2の描かれたカバーアートワーク、CDを納品した。(甲48、乙32、45、弁論の全趣旨)
(3)Biは、平成13年(2001年)1月頃に来日した際、被告個人から、「エンジェル2よりももう少ししっかりした感じの鳥にして欲しい」と求められ、本件著作物を制作した。(乙45)
(4)被告会社は、平成15年(2003年)、ニューヨークの「BARNEYSNEWYORK」において、「MARKGONZALESブランド」のコーナーを設置してBiのアート作品を展示し、渋谷に「RE・UNITSマークゴンザレス店」をオープンするなど、本件著作権や「MARKGONZALES」の名称を用いたBiに関するブランドの展開を始めた。(乙45、弁論の全趣旨)
(5)サクラグループは、平成22年(2010年)12月8日、Biとの間で、本件ライセンス契約を締結した。本件ライセンス契約の締結は、サクラグループの承諾の下、被告個人が行っており、本件ライセンス契約の締結後、被告会社は、サクラグループと共に、本件ライセンス契約に基づきライセンス事業を行っていた。
 本件ライセンス契約の具体的内容は、以下のとおりである。(前提事実等(6)、甲8、乙41、45、弁論の全趣旨)
第1条 Biは、サクラグループに対し、本契約の条件に従い、平成23年(2011年)1月1日から1年間、衣類、アクセサリー、プロモーション、広告物並びに、履物及びその関連商品を除く全ての商品(Productsと総称されるもの。以下「本商品」という。)に、Biの名称、肖像及びBiが創作し所有するデザインを利用する独占権を付与するものとする。
第2条 Biは、サクラグループがBiの肖像、絵画、詩、物語並びに「GonzoCuntry」及び「MarkGonzales」という名称(Materialsと総称されるもの。以下「本素材」という。)を本商品に独占的に利用し、製造し、アジアの地域で配布・販売することを許諾する。ただし、サクラグループは、アディダスインターナショナルBV又はその関連会社、子会社、販売会社、ライセンシーが製造するものと同一又は類似の性質若しくはタイプのスポーツ及びレジャー用フットウェア、関連アクセサリーの販売のために本素材を利用することを特に禁じる。Biは、自身のオリジナル作品、及び、自身の作品展で限定版の記念品を販売することができる。
第4条 サクラグループは、許諾製品の製造、マーケティング、流通、販売を目的として、第三者への利用許諾を行うことができる。ただし、サクラグループが利用許諾を行うことができるのは、第3条に基づき承認された肖像及びデザインのみであり、当該第三者は、第2条に定める商品及び地域に限定され、本契約に定める全ての条件に従うものとする。
第5条 Biは、自分の新しいイメージ、デザイン、活動に関する情報をサクラグループに提供するものとする。保証義務はないが、新しいイメージやデザインを含むサクラグループの要求に応じるために、最善の努力をするものとする。
第6条 Biには、平成22年(2010年)12月15日までに、返金不可の4万ドルの利用料(以下「年間利用料」という。)が支払われるものとする。
第10条 サクラグループは、本契約と同一の条件で、最大10年間継続して本契約を更新するオプションを有するものとする。更新年度の契約条件(年間利用料の支払を含む。)は、各年度の開始前に、二者間の合意により友好的に変更することができる。
第11条 Biは、本素材及び本商品に関する全ての知的財産権を保持するものとする。サクラグループは、許諾された全ての商品にBiが作者であることを明示し、各商品に「(c)MarkGonzales」との表示を行うものとする。サクラグループは、Biの要求に応じて、サクラグループが行った登録をBiに返却することを条件に、「GonzoCuntry」、「MarkGonzales」及びBiのデザインを保護するために登録することができるものとする。
第12条 本契約で明確に譲渡されない全ての権利は、Biに留保されるものとする。
第15条(その他の規定)
e 準拠法。本契約は、米国ニューヨーク州で実行、遂行及び実施されることを意図しており、その州の法律に従って解釈及び施行されるものとする。
f 管轄。本契約は、米国ニューヨーク州ニューヨークで締結されたものとみなされる。本契約に何らかの形で関連する紛争は、米国ニューヨーク州ニューヨークの連邦裁判所又は州裁判所で解決されるものとする。
(6)Biは、平成26年(2014年)3月31日、サクラグループに対し、サクラグループがBiとの契約に違反したのみならず、意図的にアディダスとの関係を妨害してきたことなどを理由として、本件ライセンス契約を同年5月1日付けで解除する旨通知し、サクラグループにおいて、同日までに、Biの名前、画像、デザイン、絵、詩、物語並びに「GonzoCuntry」及び「MarkGonzales」の名称の使用を停止することを求めた。(甲127)
(7)Biは、令和2年(2020年)3月2日、サクラグループに対し、本件ライセンス契約が同年12月31日をもって終了することを確認した上、同契約11条に基づきサクラグループが商標登録したBiの氏名及びデザインに関する商標権を、全てBiに返還することを求めるとともに、平成26年(2014年)から令和元年(2019年)までのロイヤリティの支払を求めることなどを記載した書面を送付した。(甲49)
(8)Biは、令和2年(2020年)3月6日、サクラグループに対し、被告個人が本件ライセンス契約は令和3年(2021年)12月31日に終了すると主張しているが、同契約が令和2年(2020年)12月31日に終了することは、同契約10条が「10年を限度として更新できる」とされていることからも明らかであるなどと記載した書面を送付した(甲50)
(9)サクラグループとBiは、本件ライセンス契約のロイヤリティの支払について協議し、Biは、令和2年(2020年)7月17日、サクラグループに対し、本件ライセンス契約が令和3年(2021年)12月31日まで有効であることを記載した上で、本件ライセンス契約のロイヤリティ32万米ドルの支払を求める書面を送付した。被告会社は、これに先立つ令和2年(2020年)7月6日、Biに対し、32万米ドルを支払った。(甲51、乙34)
(10)Biは、令和3年(2021年)4月12日、サクラグループに対し、本件ライセンス契約が令和2年(2020年)12月31日の有効期限を過ぎても更新されなかったために同契約が同日をもって終了したこと、残りの在庫品については12か月間のセルオフ期間が設けられているが、サクラグループは、令和3年(2021年)1月1日以降、残りの在庫品についても、Biの知的財産権を使用することはできないこと、サクラグループがアジア諸国内で登録した「MarkGonzales」の商標権の放棄を求めることなどを記載した書面を送付した。(甲64)
(11)サクラグループは、令和3年(2021年)4月27日、Biに対し、本件ライセンス契約が同年12月31日まで存続すること、令和2年(2020年)に契約が終了したというBiの主張は矛盾するものであり、商標の返却や放棄を行う理由がないことなどを記載した書面を送付した。(甲65)
(12)Biは、令和3年(2021年)9月6日、被告会社及びサクラグループに対し、被告会社及びサクラグループの名義で行われているエンジェルのデザイン及びBiの署名の商標登録及び出願を直ちに放棄し、Biに権利を返還することを求める書面を送付した。(甲67)
(13)Biは、令和3年(2021年)11月、被告会社又はサクラグループのライセンシーに対し、令和4年(2022年)1月1日以降、Biの画像、知的財産等を用いた製品の販売等を停止するよう求めた。(甲68、69、乙36、37)
(14)被告会社は、遅くとも令和3年12月頃から、日本国内において、ライセンシーを通じて、「MarkGonzales」に加え、BiとCiが平成13年(2001年)に作成したアルバムのタイトルである「(whatitiSNt)」を用いたブランドを展開している。(甲74、75、129〜140、147、148)
(15)被告会社は、バイタルジャパンを販売元とする「MARKGONZALES」の文字やエンジェルが付された鞄などを販売する株式会社タカハシに対し、令和5年12月14日付け「ご通知」と題する書面を送付し、同書面において、上記商品は被告会社の商標権や著作権を侵害するものであること、これらの権利については原告と係争中であるが、商標権が20年以上前から被告会社に帰属することは揺るぎない事実であることなどを告知した。(甲149)
(16)被告会社は、原告と連携して「MarkGonzales」の文字やエンジェルが付された商品を製造する株式会社水野鞄店に対し、令和6年2月26日付け「ご通知」と題する書面を送付し、同書面において、「MarkGonzales」との呼称は被告会社の登録商標であること、エンジェルのマークも被告会社の登録商標であり、かつ被告会社が著作権を保有していること、被告会社は株式会社水野鞄店及び原告に対して商標権や著作権の利用を許諾していないこと、これらの権利はBi及び原告との間で係争中であるが、商標権が20年以上前から被告会社に帰属することは揺るぎない事実であることなどを告知した。(甲150)
(17)知的財産高等裁判所は、令和6年8月8日、Biが請求した本件各商標の無効審判につき、本件各商標を無効とすることはできないとした特許庁の審決の取消しを求める訴訟(同裁判所令和5年(行ケ)第10128号等)において、特許庁の判断を維持し、Biの請求を棄却した。(甲163)
(18)東京地方裁判所は、令和7年1月30日、被告会社及びサクラグループとBiとの間の訴訟(同裁判所令和3年(ワ)第32244号、同6年(ワ)第70389号)において、被告会社に対し、Biへの本件各商標権の移転登録手続を命じる旨の判決をした。被告会社は、同訴訟において、本件ライセンス契約の当事者が被告会社も含むものとして判断されることについて異議はない旨を述べていた。(甲94、乙74)2 被告会社による本件著作権に基づく権利行使の可否について(争点1)
(1)争点1−1(本件著作権がCujo及びCiに原始的に帰属するか)
ア 共同著作物性について
(ア)準拠法
 ベルヌ条約5条2項は、著作物の保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる旨規定しているところ、法の適用に関する通則法は、上記範囲及び方法を単位法律関係とする規定を、上記と別異に設けるものではない。
 そうすると、著作物の保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法という法律関係に適用される準拠法は、当該著作物の保護が要求される同盟国の法令(以下「保護国法」という。)をいうものと解するのが相当である。
 そして、共同著作者性という法律の性質は、当該著作物に係る権利の帰属主体及び範囲をいうものであるから、上記にいう「著作物の保護の範囲」に該当すると解するのが相当である。
 したがって、これらの法律関係には、保護国法として、日本で保護される著作権については日本法が、米国で保護される著作権については米国著作権法が、それぞれ適用されると解するのが相当である。
(イ)共同著作物性についての判断
 認定事実(3)のとおり、本件著作物は、Biが、平成13年(2001年)1月頃に来日した際、被告個人から「エンジェル2よりももう少ししっかりした感じの鳥にして欲しい」と求められたことに応じて作成したものであり、その制作過程においてCiが関与したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 なお、Ciは、令和4年(2022年)6月24日付けの宣誓供述書(乙12)において、本件著作物が描かれたカバーアートワークを含む本件音楽契約に係る著作物につき、CiとBiとの共同作品として制作されたこと、CiとBiは、作曲、歌詞、イラスト、言葉遣い、色付け、データ変換等の役割を担当したこと、Ciが、著作物によって生じる一部又は全ての権利について一定のシェアを受ける権利を有する旨を述べているが、その一方で、同年11月7日付けの宣誓供述書(甲98)においては、本件音楽契約に係るカバーアートワークについて、全てBiが単独で制作し、Ciは一切制作に関与していないこと、カバーアートについては、レイアウト、フォーマット、色付け、サイズ変更以外に関与していないことを述べており、その供述が大きく変遷していることからすれば、カバーアートワークをBiと共同で制作した旨のCiの陳述は直ちに信用することができない。
 そうすると、本件著作物の創作にCiが関与したとは認められず、共同著作物を定めた著作権法2条1項12号の規定によっても、米国著作権法101条の共同著作物の規定によっても、本件著作物がBiとCiの共同著作物であるとは認められない。
イ 職務著作性について
(ア)準拠法
 著作物の保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法という法律関係に適用される準拠法は、保護国法をいうものと解されることは、上記アで説示したとおりである。
 そして、職務著作性という法律関係の性質は、共同著作者性と同様に、当該著作物に係る権利の帰属主体及び範囲をいうものであるから、上記にいう「著作物の保護の範囲」に該当すると解するのが相当である。
 そうすると、これらの法律関係には、日本で保護される著作権については日本法が、米国で保護される著作権については米国著作権法が、それぞれ適用されるものと解するのが相当である。
(イ)職務著作性についての判断
 BiとCujoとの関係については、前提事実等(2)のとおり、本件雇用契約書が存在するところ、Cujoの法人所得税申告書(乙9)にはBiに役員報酬として2万8448米ドルが支払われた旨の記載があるほか、Cujoの代表者であるDiが、在職証明書(乙8)及び権利譲渡契約(乙10)において、BiがCujoの従業員であった旨やBiが作成した著作物が職務著作物であると記載していることが認められる。
 しかし、上記在職証明書や権利譲渡契約の記述に関しては、他方で、Diが、令和5年(2023年)8月22日付け宣誓供述書(甲101)において、平成11年(1999年)から平成16年(2004年)までBiと婚姻関係にあったところ、Cujoは、平成12年(2000年)4月19日頃、BiのアートワークのライセンスとBiの税金を節約する目的で設立されたこと、Biは、Biが制作したアートワークについて、Cujoから指示も監督も受けておらず、Bi個人の名義でアートワークを制作、発表し、その一部について、Cujoがライセンスを与えることを許諾していたことを供述しており、上記在職証明書や権利譲渡契約におけるDiの記述を直ちに信用することはできない。
 そして、Biは、令和5年(2023年)4月21日付けの宣誓供述書(甲100)において、CujoはBiの収入のタックスシェルターとして設立されただけであり、Cujoに銀行口座以外の資産はなく、ペン、鉛筆、紙、机、椅子、電話、コピー機などの設備や備品はなかったこと、Biに勤務時間はなく、特定の場所に出勤する必要もなく、仕事の内容ややり方を教えてもらったことも、材料や備品、機器を提供してもらったこともないこと、Biの作品について承認や管理をされたことも、制作について口を出されたこともなく、完全に自律して、自由に作品を作っており、Cujoに限らず、誰に対しても作品のライセンスを与えることができた旨を述べるとともに、Cujoに対して、Biの知的財産に関するいかなる権利も譲渡又は移転したことはないと供述している。
 以上に加え、本件雇用契約書、上記在職証明書及び権利譲渡契約によっても、具体的なBiの勤務状況やCujoの事業実態は明らかではないことからすれば、BiとCujoとの間で本件雇用契約書が作成され、Cujoの法人所得税申告書にBiに対して役員報酬が支払われた旨の記載があることを考慮しても、Cujoは、Biの収入に関する節税目的で設立された会社であり、事業の実態はなく、Biに対する指揮、監督もなく、Biは独立してアートワークを制作したものと認めるのが相当である。
 そうすると、Biは、Cujoの従業員であるとは認められず、本件著作権について、BiがCujoの従業員として作成したものと認めることはできないから、職務著作物を定めた著作権法15条の規定によっても、米国著作権法101条の職務著作物の規定によっても、本件著作物が職務著作物であると認めることはできない。
 なお、被告らは、本件著作物が被告会社、Cujo及びCiのグループの職務著作物であるなどとも主張するが、同主張を認めるに足りる証拠はなく、採用することができない。
ウ 小括
 以上によれば、Cujo及びCiが本件著作権を原始的に取得したとの被告らの主張は採用することができない。
(2)争点1−2(被告会社による本件著作権の取得の有無)
 上記(1)のとおり、Cujo及びCiが本件著作権を原始的に取得したとは認められないものの、被告らは、本件音楽契約又はCujo及びCiとの権利譲渡契約に基づき、譲渡又は原始取得により、被告会社が本件著作権を取得した旨を主張するので、この点について判断する。
ア 本件音楽契約に基づく本件著作権の取得について
(ア)準拠法
 契約による著作権譲渡の成否という法律関係の性質は、当該契約の効力をいうものであるから、単位法律関係としては、法の適用に関する通則法7条にいう「法律行為の成立及び効力」に該当する。そして、同条によれば、上記法律関係には、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法が適用されることになるから、本件音楽契約において指定されたカリフォルニア州法が適用されると解するのが相当であり、著作権に関しては、同法に優先する連邦法である米国著作権法が適用される。
(イ)本件音楽契約に基づく本件著作権の取得についての判断
 認定事実(1)のとおり、本件音楽契約2条3項は、被告会社は、音響作品及びアーティストの宣伝目的のために、その著作権の保護期間中、音響作品に関連して創作された一切のカバーアートをワールドワイドベースでTシャツ等に複製し、販売する独占権を有するというものであるところ、同項の文言を字義通り読めば、音響作品とアーティストのプロモーションという限定された目的の範囲で、被告会社に、音響作品に付随して制作されるアルバムジャケットのアートワーク及び写真をTシャツなどに複製、販売する独占的な権利があるとされているだけであり、被告会社に対し著作権ないしその一部が譲渡されることを定めたものと解することはできない。このことは、本件音楽契約2条1項において、音楽作品及び録音物の著作権が、納品時に被告会社に対して移転される旨が明確に定められていることと比較しても明らかであり、同条3項により被告会社に著作権ないしその一部の譲渡がされたと解釈する余地はなく、また、同項により被告会社に著作権ないしその一部が原始的に帰属するとも認められない。同項は、その文言に照らし、被告会社に対する上記目的及び行為の範囲内での独占的なライセンスの付与を定めたものというべきである。
 被告らは、本件音楽契約2条3項が被告会社に対する独占的なライセンスの付与を定めたものであるとしても、米国著作権法101条において、独占的なライセンスの付与も著作権の移転と定義されており、被告会社は著作権者としての権利を有する旨主張するところ、前提事実等(16)のとおり、同条は、「「著作権の移転」とは、著作権又は著作権に含まれるいずれかの排他的権利の譲渡、モゲージ設定、独占的使用許諾その他の移転、譲与又は担保契約をいい、その効力が時間的又は地域的に制限されるか否かを問わないが、非独占的使用許諾は含まない。」として、著作権の譲渡(assignment)と独占的使用許諾(exclusivelisence)とを明確に区別しており、特定の目的及び行為の範囲内で独占的なライセンスを付与されただけの被告会社に著作権そのものが帰属するものと解釈することはできない。
 したがって、本件音楽契約2条3項に基づき、被告会社が本件著作権を取得したとの被告らの主張は採用することができない。
イ Cujo及びCiとの間の権利譲渡契約による本件著作権の取得について
 上記(1)のとおり、Cujo及びCiが本件著作権を原始的に取得したとは認められず、その他、Cujo及びCiが本件著作権を取得したことを認めるに足りる証拠はないから、被告会社とCujo及びCiそれぞれとの間の権利譲渡契約により、被告会社が本件著作権を取得したとの被告らの主張は採用することができない。
ウ 小括
 以上によれば、被告会社が本件著作権を有するとは認められず、原告が、本件著作物を複製、翻案、譲渡、展示、公衆送信又は送信可能化することにつき、被告会社の原告に対する著作権侵害に基づく損害賠償請求権及び著作権に基づく差止請求権を認めることはできないから、原告の著作権侵害債務不存在確認に係る請求には理由がある。
3 被告会社による本件各商標権に基づく権利行使の可否について(争点2)
(1)本件各商標は被告会社が出願し、登録されたものであり、本件各商標権が被告会社(ただし、平成21年にサクラグループに移転され、令和2年又は令和3年に再び被告会社に移転している。)に帰属するものであることは、前提事実等(5)のとおりである。原告は、これを前提に、被告会社は本件ライセンス契約11条に基づき、Biに対し本件各商標権を返還しなければならない義務を負うなどとして、もはや本件各商標権に基づき原告に対し権利行使をすることはできない旨を主張することから、以下、この点について検討する。
(2)前提事実等(6)及び認定事実(5)によれば、本件ライセンス契約は、Biが、サクラグループに対し、アジアにおいてアディダスインターナショナルBV等が製造する商品と競合しない限度で、Biの肖像、絵画、詩、物語並びに「GonzoCuntry」及び「MarkGonzales」という名称(本素材)を利用することができる独占的な権利を与えるものであり、サクラグループは、Biの要求があればBiに返還することを条件として、「GonzoCuntry」、「MarkGonzales」及びBiのデザインを保護するために商標登録をすることができるものとしたことが認められる。なお、被告らは、本件ライセンス契約11条が規定する登録は「著作権登録」であると主張するが、認定事実(5)のとおり、本件ライセンス契約11条は、Biは、本素材及び本商品に関する全ての知的財産権を保持するものとするなどとして、Biの有する知的財産権全般について取り決めるものであり、著作権に限定されるものと解することはできない。
 そして、本件各商標が、Biの氏名のほか、Biのデザインを代表するエンジェルについてのものであり、本件ライセンス契約11条において、保護のために商標登録することが認められた対象であることからすれば、本件各商標は、本件ライセンス契約にいう「本素材」に該当するというべきである。
 そうすると、Biは、サクラグループに対し、本件ライセンス契約11条に基づき、本件各商標権の返還を求めることができるところ、認定事実(7)ないし(12)で認定したとおり、Biは、令和2年(2020年)3月頃から、サクラグループに対し、再三にわたり、本件各商標権の返還を要求しているにもかかわらず、サクラグループはこれに応じず、同年10月には本件商標権1及び2を、令和3年(2021年)11月24日には本件商標権3及び4をそれぞれ被告会社に移転し、本件ライセンス契約が終了したことが明白である令和4年(2022年)4月1日以降も、被告会社が本件商標権を保持し、被告会社及びサクラグループにおいて、ライセンシーを通じて「MarkGonzales」やエンジェルが付された商品を販売等していることが認められる。そして、被告会社は、本件ライセンス契約の直接の当事者ではないものの、サクラグループの代表者が被告個人の配偶者であること、被告個人が本件ライセンス契約に係る交渉を行っていたこと、被告会社がサクラグループと共に本件ライセンス契約に基づきライセンス事業を行っていたことに加え、被告会社とサクラグループの間での本件各商標権の移転の経緯や時期などにも照らせば、被告会社が、本件各商標権を保有し続けていることを奇貨として、本件マスターライセンス契約により、Biのブランド管理会社であるTULUMIZEからエンジェルやBiの名前の使用許可を得ている原告に対し、本件各商標権に基づき差止めや損害賠償を請求することは、その余の事情を考慮するまでもなく、権利の濫用に当たるというべきである。
(3)被告らは、本件各商標は、本件音楽契約に由来するものであり、本件ライセンス契約の対象外であると主張する。
 しかし、本件商標1及び2については、本件著作物を内容とする商標であるところ、上記2で説示したとおり、本件音楽契約により被告会社に認められた権利は、音響作品とアーティストのプロモーションという目的の範囲で、音響作品に付随して制作されるアルバムジャケットのアートワーク及び写真をTシャツなどに複製、販売することができる独占的な使用権にすぎず、本件音楽契約に本件商標1及び2の登録に関する条項があると認めることはできないから、本件商標1及び2の登録が本件音楽契約に基づくものであると認めることはできない。
 また、本件商標3及び4については、Biの氏名を内容とする商標であるところ、本件音楽契約2条4項では、音響作品及びアーティストの宣伝目的のために、被告会社がBiの氏名を使用できることが定められているにすぎず、Biの氏名につき、被告会社を権利者として商標登録をすることまで約定したものであると認めることはできない。
(4)被告らは、本件ライセンス契約11条が定める返還義務は、「本件ライセンス契約期間中のサクラグループによる同契約の許諾対象物の登録」が前提条件であるとも主張するところ、確かに、本件各商標は本件ライセンス契約の締結よりも前に、本件商標3及び4についてはBiの承諾も得た上で、被告会社により出願、登録されたものである。しかし、本件各商標権は、本件ライセンス契約の締結時には、被告会社から本件ライセンス契約の当事者であるサクラグループに譲渡されており、登録後の商標を後に契約の対象とすることはあり得ることであるから、当該契約が遅れてされたからといってその対象に含まれないということにはならない。このことは、本件ライセンス契約11条において改めて「MarkGonzales」の商標登録をすることができると確認されていることからも明らかである。
(5)なお、被告らは、被告会社が本件各商標権を時効取得したなどと主張するが、仮にかかる主張が認められたとしても、上記(2)で説示した事情からすれば、被告会社による原告に対する本件各商標権に基づく権利の行使は権利濫用に当たるというべきであるから、同主張は失当である。
(6)小括
 以上によれば、被告会社は、原告に対し、本件各標章を本件各商標権の指定商品又はその包装に付し、本件各標章を付した同指定標品を、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出又は輸入することにつき、商標権侵害に基づく損害賠償請求権及び商標権に基づく差止請求権を行使することはできないから、原告の商標権侵害債務不存在確認に係る請求には理由がある。
4 不競法3条1項に基づく差止請求について(争点3)
(1)原告と被告らが競争関係にあることは、当事者間に争いがなく、少なくとも原告と被告会社はそれぞれBiに関するブランドのライセンス事業を展開していることからしても、原告と被告会社との間には競争関係があると認めることができる。
(2)前提事実等(13)のとおり、被告会社がバイタルジャパンに送付した本件警告書には、@被告会社が本件著作権及び本件各商標権を保有していること、Aバイタルジャパンが本件イベントにおいて陳列した本件製品は、これら被告会社の権利を侵害するものであること、Bライセンサーであると主張する原告は正当な権利者である被告会社から許諾を得ていないこと、C被告会社の権利を侵害する商品の製造等の差止め及び廃棄を求め、これに応じない場合は、法的措置を講じる予定であることが記載されている。
 しかし、上記2で説示したところによれば、本件著作権はBiに原始的に帰属していたことが認められ、被告会社は本件著作権を有しておらず、また、上記3で説示したところによれば、本件各商標権はBiに帰属すべきものであることが認められ、原告に対する本件各商標権に基づく権利行使は権利濫用に該当することからすれば、原告から本件各標章の許諾を受けたバイタルジャパンに対しても同様に、本件各商標権に基づく権利行使は認められないというべきである。そうすると、本件警告書中、被告会社が、本件著作権を有していることや、本件製品の製造、陳列等につき本件各商標権を行使できることを前提に、前提事実等(7)のとおり、TULUMIZEとの間でBiの知的財産権について本件マスターライセンス契約を締結している原告に、本件著作物や本件各標章の使用につき許諾する権限がないことを指摘することは虚偽の告知に当たり、原告の営業上の信用を害するものといえる。他方で、被告個人については、本件警告書の内容に照らしても、本件警告書の送付について、被告会社の代表取締役としての職務から離れた個人としての行為があるとはいえず、その他、被告個人による不正競争があることを認めるに足りる証拠はない。
(3)被告らは、本件警告書を送付した行為が正当な権利の行使であると主張するが、Biが、令和3年(2021年)11月、被告会社やサクラグループのライセンシーに対し、令和4年(2022年)1月1日以降、Biの画像、知的財産等を用いた販売等を停止するよう求めていることからすれば、被告会社は、同年9月14日付けの本件警告書を送付する以前に、本件著作権や本件各商標の帰属について争いがあることは十分に認識していたものと認められる。そして、エンジェルの著作権については、被告会社が自身に著作権があると主張する拠り所である本件音楽契約について、およそ被告会社に著作権の帰属を認めた規定と解することができないことは上記2で説示したとおりであり、また、本件各商標権についても、令和2年(2020年)以降、度々Biから返還を求められていた上、遅くとも令和4年(2022年)4月1日には本件ライセンス契約が終了していたことからすれば、被告会社において本件各商標権を保持し続けることの根拠に欠けていたことは明らかというべきである。そうすると、本件警告書の送付が被告会社による正当な権利の行使であるとは認められない。
(4)上記(2)で認定した被告会社の不正競争の内容に加え、認定事実(15)及び(16)で認定したとおり、被告会社が、本件著作物及び本件各標章を付した商品を取り扱っている原告又はバイタルジャパンの関係先に対し、原告と係争中ではあるものの、自身が本件著作権及び本件各商標権を有している旨を警告する書面を送付していることからすれば、被告会社が、文書、口頭又はインターネットを通じて、原告が本件著作物及び本件各標章について第三者にライセンスをする権限を有しないとの事実を告知し、又は流布することを差し止める必要性が認められる。
(5)したがって、原告の被告会社に対する不競法3条1項に基づく差止請求には理由があり、被告個人に対する同請求は、被告個人の不正競争が認められないから理由がない。
5 不競法4条又は不法行為に基づく損害賠償請求の可否について(争点4)
 上記4で認定したとおり、本件警告書中、原告に本件著作物及び本件各標章の使用について許諾する権限がないことを指摘する点は被告会社による不正競争に該当するところ、上記4(3)で説示したところによれば、被告会社には少なくとも過失が認められるから、被告会社は、原告に対し、不競法4条に基づく損害賠償責任を負う。他方で、被告個人については、上記4(2)で説示したとおり、不正競争があるとは認められず、その他、被告個人に不法行為があったことを認めるに足りる証拠はないから、被告個人が不法行為責任を負うとまでは認められない。
 そうすると、被告会社についてのみ上記損害賠償責任が認められるところ、被告会社の不正競争により原告に生じた無形損害は、本件警告書の内容等からすれば、100万円と認めるのが相当である。また、弁護士費用として10万円につき、被告会社の不正競争と相当因果関係を認める。
 したがって、被告会社は、原告に対し、110万円及びこれに対する被告会社に対する訴状送達日の翌日である令和5年5月11日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金を支払う義務がある。
6 不競法14条に基づく信用回復措置請求の可否について(争点5)
 本件警告書の送付が被告会社による不正競争に該当することは上記4で説示したとおりである。しかし、本件における被告会社の不正競争が、バイタルジャパンに対する本件警告書の送付のみであることに鑑みれば、原告の信用回復措置として謝罪広告の掲載まで行う必要性は認められない。
 したがって、原告が、被告らに対し、不競法14条に基づき、信用回復の措置を求める請求は理由がない。
第5 結論
 よって、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、仮執行宣言は主文第1項ないし第4項については相当ではないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 澁谷勝海
 裁判官 本井修平
 裁判官 塚田久美子


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