| 判例全文 | ||
| 【事件名】インスタグラムの動画著作権侵害事件 【年月日】令和7年7月9日 東京地裁 令和6年(ワ)第70505号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 令和7年5月9日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 藤井智裕 被告 B 主文 1 被告は、原告に対し、47万9000円及びこれに対する令和4年6月13日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し、その4を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、235万9066円及びこれに対する令和4年6月13日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、原告が被告に対し、被告がインターネットを利用して画像等を投稿することができる情報ネットワークであるインスタグラムにおいて別紙投稿記事目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)をしたことにより、別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたと主張して、不法行為に基づき、損害金合計235万9066円及びこれに対する不法行為の日である令和4年6月13日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)原告は、令和4年6月5日、本件動画を制作し、その頃、原告のインスタグラムアカウントに投稿した。(甲4、10) (2)被告は、令和4年6月13日、本件動画をスクリーンショットした画像(以下「本件画像」という。)を、被告のインスタグラムアカウントに投稿した(本件投稿)。本件投稿において、本件画像の著作者として原告の氏名の表示はない。(甲1の3、4) 3 争点(損害額)及びこれに関する当事者の主張 (原告の主張) 本件投稿は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものであり、原告は、被告による不法行為により、以下の損害を被った。 (1)著作権侵害による損害 14万円 原告が本件動画の著作権の行使について受けるべき金銭の額に相当する額は月5000円であるから、本件投稿が行われた月である令和4年6月から令和6年10月までの28か月分の合計14万円が、原告が著作権侵害により受けた損害額となる。 (2)著作者人格権侵害による慰謝料 80万円 誰でも閲覧できるインスタグラムにおいて著作者人格権が侵害されたことにより、原告は無形損害を被ったのであり、このような無形損害を金銭評価すると80万円を下らない。 (3)発信者情報開示の費用 120万4605円 原告は、本件投稿の投稿者を特定するため、弁護士に対し、発信者情報開示請求の手続を依頼し、弁護士報酬等として120万4605円(税込)を支払った。これは、損害賠償請求をするために必要不可欠な費用であるから、その全額について被告の不法行為と相当因果関係がある。 (4)弁護士費用 21万4461円 (被告の主張) 著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害は争う。 原告の主張(1)及び(2)は否認し、原告の主張(3)及び(4)は不知。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実、証拠(甲4〜9)及び弁論の全趣旨によれば、本件動画は、原告が、写真を選択して拡大してトリミングし、過去を振り返るというイメージからスタートし、未来に向かって歩いていく想いを示すようエフェクトを施し、動画の再生速度、再生時間及び写真が表示される順番等を決め、第2の人生の幕開けを意味する「Chapter2oflife」という文章及びリスタートできたことの想いを示す「YouAreTheReason」という題名の音楽を挿入するなどして制作されたものであることが認められ、本件動画は、過去を振り返るところから未来に向かって歩いていくこと、また、第2の人生の幕開けや、リスタートできたことの想いを表現するように、視聴覚的効果が生ずる方法を工夫して、制作されたものであるといえる。 そうすると、本件動画は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり、映画の著作物として著作物性を認めるのが相当である。 そして、本件動画をスクリーンショットした本件画像には、原告が写真に施したエフェクト及び「Chapter2oflife」との文章が映し出されており(甲1の3)、本件動画の本質的特徴を感得することができるものといえる。 したがって、被告は、本件動画から本件画像をスクリーンショットし、被告のインスタグラムアカウントに投稿(本件投稿)し、その際、著作者として原告の氏名を表示しなかったことにより、本件動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものといえる。 また、以上に照らし、被告には、著作権及び著作者人格権侵害についての故意が認められるから、被告は、原告に生じた損害を賠償する義務を負う。 2 損害額 (1)著作権侵害による損害 8万4000円 公衆送信権の侵害期間は令和4年6月13日から令和6年10月31日までであると認められる(弁論の全趣旨)。本件動画の制作経過、本件動画の性質及び被告による本件動画の利用の態様に照らせば、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、月額3000円と認めるのが相当である。 そうすると、著作権侵害による損害額は、8万4000円であると認められる(著作権法114条3項。なお、侵害期間は、原告の計算方法に従って1か月に満たない日数を切り捨てた。)。 (計算式)3000円/月×28か月=8万4000円 (2)著作者人格権侵害による慰謝料5万円 以上に認定した事実のほか、本件画像が投稿された被告のインスタグラムアカウントのフォロワー数が24人であること(甲1)、本件画像は、原告がインスタグラムにアップした本件動画をスクリーンショットした静止画で、本件動画のごく一部であることを含む一切の事情を勘案すると、著作者人格権侵害による慰謝料額は5万円と認めるのが相当である。 (3)発信者情報開示の費用 30万円 原告は、本件投稿の投稿者を特定するため、弁護士に委任して、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示の仮処分を申し立て、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求の訴えを提起して、被告を特定し、同弁護士に対し、合計120万4605円を支払った(甲2、3)。 発信者情報開示の仮処分及び訴訟を適切に遂行するために専門的知識を有する弁護士に委任することはやむを得ない場合があるといえることから、発信者情報開示の費用については、社会通念上相当な範囲において、被告による不法行為と相当因果関係のある損害として認められる。そして、発信者により侵害されたとする権利の内容、上記各手続の性質を勘案すると、発信者情報開示の費用のうち30万円については、社会通念上相当な範囲として、被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 (4)弁護士費用 4万5000円 被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、4万5000円と認めるのが相当である。 第4 結論 よって、原告の請求は、47万9000円及びこれに対する令和4年6月13日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の部分は理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 ●(はしごたか)橋彩 裁判官 西山芳樹 裁判官 瀧澤惟子 別紙 投稿記事目録 (記載省略) 以上 別紙 動画目録 (記載省略) 以上 |
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