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【事件名】ネット通販サイトの写真無断使用事件(釣り具)(2)
【年月日】令和7年6月2日
 知財高裁 令和6年(ネ)第10088号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第70611号)
 (口頭弁論終結日 令和7年4月9日)

判決
控訴人 株式会社TRYALL
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 吉永雅洋
同 蓮池純
同 鈴木勇輝
同 村松誠也
同 宝屋敷恭男
同 湯澤蓮
同 神崎建宏
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 片山眞洋
同 小林大輝


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、151万2500円及びこれに対する令和4年9月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。また、原判決中の「原告」、「被告」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」に読み替える。)
1 本件は、控訴人の販売する釣り具が撮影された原判決別紙著作物目録記載の写真9点(本件各写真)について著作権を有すると主張する控訴人が、被控訴人がインターネットオークションサイトに釣り具を出品した際、本件各写真を複製した画像9点を同サイト上に掲載したことにより、本件各写真に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたと主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、151万2500円及びこれに対する不法行為の後である令和4年9月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は、控訴人の請求のうち、36万8000円及びこれに対する令和4年9月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却したので、控訴人が原判決のうち控訴人敗訴部分を不服として控訴した。被控訴人は原判決の被控訴人敗訴部分に対して控訴も附帯控訴もしなかった。
2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」第2の1及び2(2頁10行目から5頁19行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当審における控訴人の補充主張(争点(3)(原告の損害)のうち発信者情報開示手続費用について)
 インターネット上に掲載された匿名の投稿によって権利を侵害された者は、発信者情報の開示を得なければ加害者を特定して損害賠償等の請求をすることができないが、発信者情報開示手続を専門的知識のない被害者自身が全て行うことは通常困難であるから、発信者情報開示手続に関する弁護士報酬は、当該加害者に対して損害賠償請求等をするために必要不可欠の費用であり、特段の事情がない限り、その全額を不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。上記費用の全額を回収できないとする規範を形成することは、被害者側に救済のためのコストを強いる結果となり、被害者救済の観点から相当でない。
 本件訴訟に先立つ本件開示手続は、ヤフーが複数の弁護士に委任の上、控訴人の主張を全面的に争っており、裁判所から発信者情報開示命令の発令を受けることが非常に困難な事案であり、また、控訴人が本件開示手続を実施せざるを得なかったのは、被控訴人が本件オークションサイトを利用したことがない旨の虚偽の回答をしたことによる。このような本件の具体的事情に照らしても、控訴人が支出した発信者情報開示手続費用の全額が被控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害と認められるべきである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の請求は、36万8000円及びこれに対する令和4年9月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で理由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、後記1のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3(5頁20行目から8頁19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の当審における補充主張に対する判断
 控訴人は、当審における補充主張として、発信者情報開示手続費用に関し、前記第2の3のとおり主張する。
 しかし、控訴人が挙げる事情は、いずれも、控訴人が本件開示手続に関して支出した費用の全てが被控訴人の不法行為と相当因果関係を有すると解すべき事情とはいえず、控訴人の主張を考慮しても、発信者情報開示手続の性質、内容等に照らし、控訴人が本件開示手続に関して支出した費用のうち20万円の範囲で被控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害と認めた、原判決の判断は相当である。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
2 結論
 以上によれば、控訴人の請求は、36万8000円及びこれに対する令和4年9月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で理由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却するのが相当であるところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 中平健
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 水野正則
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