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【事件名】NTTコムへの発信者情報開示請求事件AO
【年月日】令和7年3月7日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70463号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和6年12月26日)

判決
原告 インフォメディア株式会社
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 飯田耕一郎
同 中尾匡利
同 兼松勇樹
同 新井雄也


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙作品目録記載の各動画(以下、これらを総称して「本件各動画」という。)をそれぞれ複製して作成した動画ファイルを、公衆からの求めに応じ自動的に送信したことによって、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償等の請求のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者(弁論の全趣旨)
 原告は、アダルト動画の企画及び制作を行う株式会社である。
 被告は、インターネット接続サービスを提供するプロバイダである。
(2)ビットトレントの仕組み(甲4ないし6、9、弁論の全趣旨)
ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコルである。
 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末。「クライアント」とも呼ばれる。)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。
 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。
イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする者は、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアント用のソフトウェア(以下「クライアントソフトウェア」ということがある。)に当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。
 上記の手順によってピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認するための通信を行い、当該他のピアがこれに応答することを確認した上、当該他のピアが当該ピースを保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。
(3)株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲1、5、7ないし9、弁論の全趣旨)
 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件各動画の品番等に基づいて、本件各動画と同一であることが疑われる動画ファイルに対応するトレントファイルを入手した。
 本件調査会社は、ビットトレントに対応するクライアントソフトウェアである「(●ギリシア文字。ミュー)Torrent」(以下「本件ソフトウェア」という。)に、入手したトレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応する動画ファイルをダウンロードし、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報を、端末のタスクバーに表示された時刻及び時刻表示ソフトウェアを用いて画面の右上に表示させた時刻とともに、スクリーンショットにより撮影した(以下、同スクリーンショットにより撮影された画像(甲1)を「本件各スクリーンショット」という。)。
 本件調査会社は、ダウンロードした上記各動画ファイル(甲8、以下「本件各ファイル」という。)を再生して表示される映像と、原告が本件各動画の正規品であると主張する動画(甲7)とを比較して、その同一性を確認した。
(4)本件各動画の著作物性
 本件各動画は著作権法2条1項1号の「著作物」である(甲7の14、7の15)。
(5)本件各発信者情報の保有
 被告は、本件各発信者情報を保有している。
3 争点
(1)特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か(争点1)
(2)本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について
(原告の主張)
(1)原告に本件各動画の著作権が帰属すること等
 本件各動画を収録した商品のパッケージには、いずれも「企画・製作・著作株式会社ML Works」と表記されており、株式会社ML Worksの商号が著作者名として通常の方法により表示されているから、著作権法14条により、株式会社ML Worksは本件各動画の著作者と推定される。原告は、同社を平成31年2月1日に吸収合併し、その権利を承継したから、本件各動画の著作権は原告に帰属する。
 また、別紙作品目録記載19及び22の動画が、原告が正規品と主張する動画(甲7の15)であることは、別紙作品目録記載19及び22の動画を販売しているウェブサイトに公開されている同動画の無料サンプル動画に甲第7号証の15の動画と同一部分が含まれていることから明らかである。
(2)本件調査会社による調査結果は信用性を有すること
 本件調査会社は、本件ソフトウェアを利用して、機械的に別紙発信者情報目録記載の各IPアドレス等を取得しており、そこに恣意が介在する可能性はない。また、把握したIPアドレス等の正確性の検証もされている。
 したがって、本件調査会社による調査結果は信用性を有する。
(3)本件各氏名不詳者により本件各動画が自動公衆送信されたこと
ア ビットトレントネットワークにおいて共有されているファイルは、公衆の用に供されている電気通信回線であるインターネットに接続された他の者の管理するパソコン等の記録媒体に記録されたものであり、不特定のその他の者の求めに応じて自動的に送信される。そして、本件ソフトウェアは、他のピアから特定のファイルに係るピースをダウンロードしている際、実行画面の当該特定のファイルに係る「状態」欄に「ダウンロード中」との表示が、それ以外の場合には「ダウンロード中」以外の表示が、それぞれされる仕様となっている。また、本件ソフトウェアの実行画面に複数のピアが表示される場合、当該複数のピアの全てからファイルを構成するピースをダウンロードすることが確認できている。
イ 本件調査会社が、調査に当たって、ビットトレントネットワークを介して本件各ファイルを取得する際、本件調査会社の管理するピアで実行している本件ソフトウェアの画面には、本件各ファイルについて「ダウンロード中」と表示されていた。
 したがって、本件調査会社の管理するピアが、別紙発信者情報目録記載の各日時において、各IPアドレス等により特定される本件各氏名不詳者の管理するピアから本件各ファイルを構成するピースをダウンロードしていたこと、すなわち、本件各氏名不詳者が、同日時において、公衆からの求めに応じ、本件各ファイルを構成するピースを自動的に送信したことは、明らかである。
ウ 被告が指摘する、本件各スクリーンショットにおいて、「下り速度」、「上り速度」、「アップロード量」及び「ダウンロード量」の欄がいずれも空欄となっていること、フラグの欄に「U」又は「D」が表示されていないこと、同一IPアドレスが割り当てられたピアから同じ品番の動画を時間を置いてダウンロードした際に撮影されたスクリーンショット(甲1の19及び1の22)をみると、2日間以上経過しているにもかかわらず、ダウンロードの進捗率を示す数値が変わっていないこと、本件各スクリーンショットからは、本件各氏名不詳者が実際に何をどの程度アップロードしたのか明らかでないことは、いずれも本件調査会社が本件各氏名不詳者から本件各ファイルをダウンロードしたことを否定する事情とならない。また、本件各氏名不詳者が利用しているクライアントソフトウェア(本件各スクリーンショットの「クライアント」の欄に表示されるソフトウェア、以下「本件各クライアントソフトウェア」という。)は、オープンソースソフトウェアであるものの、ユーザーが設定を変更するには、知識や能力が必要とされるから、本件各氏名不詳者が、単にオープンソースソフトウェアを利用していることをもって、アップロードを制限する設定をしている可能性があるということはできない。
(4)本件各氏名不詳者による本件各動画の自動公衆送信に係る通信は特定電気通信に当たること
 本件ソフトウェアを利用すれば、誰でも本件各ファイルをダウンロードすることができるから、別紙発信者情報目録の各日時及び各IPアドレス等により特定される通信は、いずれも「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)、すなわち、特定電気通信に当たる。
(5)違法性阻却事由の不存在
 本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。
 被告は、原告が本件各氏名不詳者から高額な和解金を取得する目的で本件各動画をビットトレントネットワーク上にアップロードした可能性があるなどと主張するが、販売用著作物を自らビットトレントネットワーク上にアップロードすることは自殺行為であって、原告は、そのような行為をしていない。また、原告は、本件調査会社に対し、ビットトレントを利用した調査に必要な範囲で、本件各ファイルのダウンロード等を許諾しているが、それ以外の者が本件各動画を自動公衆送信することは許諾していない。
(6)小括
 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
(被告の主張)
(1)原告に本件各動画の著作権が帰属することは明らかではないこと等
ア 原告は、本件各動画の著作権者である株式会社ML Worksを吸収合併したことにより、本件各動画の著作権を承継したと主張する。
 しかし、本件各動画を収録した商品のパッケージ等には、本件各動画のメーカー兼レーベルとして「Mellow Moon」という名称が表示されていること、「Mellow Moon」が映像ソフトの製作販売等をしていることからすると、本件各動画の著作権者は「Mellow Moon」という事業者であることがうかがわれるから、著作権法14条により、株式会社ML Worksが本件各動画の著作者であると推定することはできない。
 したがって、株式会社ML Worksが本件各動画の著作権者であったとは認められない。
イ また、別紙作品目録記載19及び22の動画(なお、別紙作品目録記載19及び22の動画は同一作品である。)については、原告が同動画の正規品であると主張する動画(甲7の15)及び原告が同動画の複製であると主張する本件調査会社がダウンロードしたファイルに係る動画(甲8の15)には、別紙作品目録記載19及び22の品番ないし作品名が収録されていないから、そもそも、これらの動画が別紙作品目録記載19及び22の動画であることが明らかでない。
(2)本件調査会社による調査結果は信用性を有しないこと
ア 本件調査会社がビットトレントに関する専門的知見や技術的能力を有するかは不明であり、本件調査会社の会社としての業務実態も不明である。そのような調査会社による調査の客観性には疑義がある。
イ 本件各氏名不詳者が、実際に何をどの程度アップロードし、送信したのかは明らかでなく、本件各氏名不詳者が本件各動画の鑑賞を可能とする程度のデータをアップロードしたか否かも明らかでない。
ウ 本件各スクリーンショットをみると、本件ソフトウェアの実行画面中の本件各氏名不詳者の管理するピアとの通信状況を示す項目においては、「下り速度」、「上り速度」、「アップロード量」及び「ダウンロード量」がいずれも空欄となっている上、ファイルをアップロード中であることを示す「U」又はダウンロード中であることを示す「D」のフラグも表示されていない。さらに、同じIPアドレスが割り当てられたピアから同じ品番の動画をダウンロードした際に撮影された甲第1号証の19及び同号証の22のスクリーンショットは、2日間以上経過してもダウンロードの進捗率を示す数値が変化していない。このことからすると、本件各スクリーンショットは、本件調査会社が、本件各スクリーンショットに表示されたIPアドレスに係る当該ピアから、本件各ファイルをダウンロードした事実を示す証拠とはいえず、本件各スクリーンショットによって、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが実際に送信されたとは認められない。
エ 本件各スクリーンショットにおいて、本件調査会社の管理するピアの通信相手として複数のピアが表示されている場合は、本件調査会社がいずれのピアからダウンロードを行っているかは明らかではないから、本件調査会社が本件各氏名不詳者の管理するピア以外のピアから本件各ファイルをダウンロードした可能性も否定できない。
オ 本件各クライアントソフトウェアは、オープンソースソフトウェアであるため、本件各氏名不詳者がソースコードを直接書き換えるなどして本件各クライアントソフトウェアの動作を自由に変更することもできるから、本件各氏名不詳者が、利用するクライアントソフトウェアにおいて、アップロードを制限する設定にしている可能性を否定できない。
カ 以上によれば、本件調査会社による調査結果は信用性を有せず、本件調査会社が実際に本件各ファイルをダウンロードしたといえるかは明らかではない。
(3)違法性阻却事由の存在
 アダルトビデオメーカーは、ビットトレントに関連した大量の発信者情報開示請求を行い、発信者情報の開示を受けて特定された発信者に対し、訴訟外で高額な損害賠償請求をして、裁判で認められる金額よりも高額の金額を和解金名目で取得している。平成12年以降不況に陥っている日本のアダルトビデオ業界においては、上記の損害賠償請求により得られる利益は、正規販売から得られる利益よりはるかに大きく、アダルトビデオメーカーにおいて、自ら又は第三者をして自社のアダルトコンテンツをビットトレントネットワーク上に拡散することは、経済的な観点から極めて合理的な行動といえる。他方で、無権限者が、複製した動画を最初にビットトレントネットワーク上にアップロードしてこれを拡散する合理的動機は薄弱である。このことからすると、本件各ファイルは、原告が、自ら又は第三者に指示して、最初にビットトレントネットワーク上に拡散したものであるとの合理的可能性を否定できない。そうすると、原告は、本件各動画について、ビットトレントネットワーク上でアップロード及びダウンロードがされることを当然に認識しているから、本件各氏名不詳者が本件各ファイルをアップロードしたことについては、原告の許諾があるといえる。このことは、ビットトレントネットワーク上で共有されている本件各ファイルのファイル名に、本件各動画の品番が含まれていることからも推認できる。
 また、ビットトレントの仕組みからすると、本件調査会社の管理するピアは、本件調査の過程で、本件各ファイルを他のピアにアップロードしていることになる。そうすると、原告及び本件調査会社は、本件各ファイルがビットトレントネットワーク上の他のピアにアップロードされることを認識・認容していると認められ、原告は、本件調査の過程でアップロードした本件各ファイルにつき、本件各氏名不詳者の管理するピアがこれを他のピアにアップロードすることについても許諾しているといえる。
 したがって、本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実が存在する。
(4)小括
 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであるとはいえない。
2 争点2(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について
(原告の主張)
 原告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償等を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。
 したがって、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
(被告の主張)
 原告は、おとり捜査と評価される本件調査によって行われた電気通信に係る発信者情報の開示を請求し、特定された発信者に対して裁判上認められる金額をはるかに超える損害賠償を裁判外で請求し、数十万円もの金銭の支払を行わせることを目的として、本件訴訟を提起していることがうかがわれる。このような行為を行うことは、不当な自力救済等を目的とするものであるといえ、プロバイダ責任制限法の立法趣旨に照らし、開示を求める正当な理由に当たらないことは明らかである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について
(1)本件各動画に係る著作権の帰属について
 証拠(甲2の19、2の22、27)によれば、別紙作品目録記載16の動画を収録した商品のパッケージには、「制作・発売元・販売元 株式会社ML Works」と、同記載19及び22の各動画を収録した商品のパッケージには、「企画・製作・著作 株式会社ML Works」と、それぞれ記載されていると認められるから、著作物である本件各動画の公衆への提供に際し、株式会社ML Worksの商号が著作者名として通常の方法により表示されているといえる。したがって、本件各動画については、著作権法14条により、株式会社ML Worksが著作者であると推定される。
 そして、証拠(甲18の1)及び弁論の全趣旨によれば、株式会社ML Worksは、平成31年2月1日、原告に吸収合併されたから、原告は、上記合併により、株式会社ML Worksが有していた本件各動画に係る著作権を承継取得したと認められる。したがって、本件各動画の著作権は、原告に帰属する。
 これに対し、被告は、本件各動画を収録した商品のパッケージには、「Mellow Moon」との表記もあるから、株式会社ML Worksが著作者であるとは推定されないと主張する。しかし、上記のとおり本件各動画を収録した商品のパッケージに「制作・発売元・販売元」及び「企画・製作・著作」として「株式会社ML Works」と記載されていることに照らせば、「Mellow Moon」との記載があるからといって、それが直ちに著作者名として表示されているものとはいえないから、被告の上記主張は採用することができない。
 以上によれば、別紙作品目録記載の各動画の著作権は原告に帰属していると認められる。
(2)特定電気通信である自動公衆送信に係る情報の流通によって原告の権利が侵害されたか否かについて
ア 本件各ファイルが別紙作品目録記載の各動画を複製して作成されたものであること
 原告が別紙作品目録記載19及び22の動画の正規品と主張する動画(甲7の15)には、別紙作品目録記載19及び22の品番ないし作品名が一切収録されていないため、同動画自体からは、同動画が別紙作品目録記載19及び22の動画であるかは明らかでない。もっとも、証拠(甲7の15、28及び29)によれば、別紙作品目録記載19及び22の動画を販売しているウェブサイトに公開されている同動画の無料サンプル動画には、甲第7号証の15の動画と同一部分が含まれていると認められる。
 そうすると、甲第7号証の15の動画は、別紙作品目録記載19及び22の動画であると認めるのが相当である。
 そして、前提事実(2)及び(3)のとおり、ビットトレントネットワークを形成するピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送(アップロード)するように動作するものであり、本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されている本件各ファイルをダウンロードしたものであるところ、証拠(甲7の14、7の15、8の14及び8の15)によれば、本件調査会社が別紙発信者情報目録記載16の通信によりダウンロードしたファイルは、別紙作品目録記載16の動画の正規品と同一であり、別紙発信者情報目録記載19及び22の通信によりダウンロードしたファイルは、別紙作品目録記載19及び22の動画の正規品と同一であると認められるから、本件各ファイルは、本件各動画を複製して作成されたものであると認めるのが相当である。
イ 本件各動画が自動公衆送信されたこと
 証拠(甲1、4、5、9)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件各ファイルのダウンロード中に、端末で実行している時刻表示ソフトウェアが表示する時刻及び本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報に基づいて、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等を特定したことが認められるところ、この本件調査会社による調査は、当該ピアが本件調査会社の管理するピアに対して本件各ファイルを構成するピースを継続的かつ「自動的に」「送信」(著作権法2条1項7号の2、同項9号の4)している状態を捉えたものといえる。
 また、前提事実(2)イのとおり、特定のファイルに対応するトレントファイルは、インターネット上で公開されているところ、インターネット上で公開されている以上、不特定の者において利用することができるから、同じトレントファイルを共有している各ピアの管理者も、その不特定の者となるのが通常であるといえ、他方、本件各ファイルが特定かつ少数の者の間でのみ共有されていたと認めるに足りる証拠はない。したがって、本件各ファイルに係るトレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加した本件調査会社は、「公衆」(著作権法2条5項)に当たるといえる。
ウ 小括
 以上によれば、別紙発信者情報目録記載の各日時において同各IPアドレス等が割り当てられていた端末により、本件各動画が自動公衆送信されたと認められ、これは、特定電気通信である当該自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものというべきである。
(3)被告の主張について
ア 被告の主張及びその根拠
 被告は、@本件調査会社の専門的知見の有無や事業実態は不明であるから、本件調査の客観性には疑義があること、A本件各氏名不詳者が何をどの程度アップロードしたのか明らかでないこと、B本件各スクリーンショットの表示内容からは、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが実際に送信されているのか明らかとはいえないこと、C本件各スクリーンショットにおいて、本件調査会社の管理するピアの通信相手として複数のピアが表示されている場合、本件調査会社がいずれのピアからダウンロードを行っているかは明らかではないこと、D本件各クライアントソフトウェアは、オープンソースソフトウェアであるため、本件各氏名不詳者が、ソースコードを直接書き換えてクライアントソフトウェアの動作を変更することも含め、アップロードを制限する設定にしている可能性を否定できないことを根拠として挙げ、本件調査会社による調査結果は信用性を有せず、特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことは明らかであるとはいえないと主張する。
イ 前記@について
 前提事実(3)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件各ファイルに係るトレントファイルをダウンロードした上、本件ソフトウェアに同トレントファイルを読み込ませ、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報を、端末のタスクバーに表示された時刻及び時刻表示ソフトウェアを用いて画面の右上に表示させた時刻とともに、スクリーンショットにより撮影したと認められ、本件全証拠によっても、このような本件調査会社による調査結果に不自然、不合理な点は認められず、誤りが存することをうかがわせるような事実も認められない。したがって、被告が指摘する前記@の事情により、本件調査の客観性に疑義があるということはできない。
ウ 前記Aについて
 前提事実(3)のとおり、本件調査会社は、別紙作品目録記載の各動画の品番等に基づいて、同各動画と同一であることが疑われる動画ファイルに対応するトレントファイルを入手した上で、本件ソフトウェアに同トレントファイルを読み込ませ、同トレントファイルに対応する本件各ファイルをダウンロードしている。そうすると、本件スクリーンショットの表示そのものからは、本件各氏名不詳者が実際に何をどの程度アップロードし、本件調査会社が本件各氏名不詳者からどのピースをダウンロードしたのかを特定できないとしても、本件調査会社の上記の調査過程に照らし、別紙発信者情報目録記載の各日時において同各IPアドレス等が割り当てられていた端末により本件各動画がそれぞれ自動公衆送信されたと認定することができるというべきである。
エ 前記Bについて
 前提事実(3)及び前記(2)のとおり、本件各スクリーンショットが撮影されたのは、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定されるピアが、本件調査会社の管理するピアに対して本件各ファイルを構成するピースを継続的に送信している間であって、本件調査会社の管理するピアがダウンロードした本件各ファイルは、本件各動画をそれぞれ複製して作成されたものである。そうすると、仮に、本件各スクリーンショットが撮影された時点において、一時的にピースの送信がなかったとしても、本件各スクリーンショットが撮影された前後を通じて、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースの継続的な送信がされている以上、その前後も含めた通信の全体をみれば、同撮影の時点も含めて、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが実際に送信されていたものと評価することができる。したがって、原告が特定した別紙発信者情報目録記載の各日時においても、同各IPアドレス等を使用して、本件各動画の自動公衆送信に係る通信が行われていたと認めることができる。
オ 前記Cについて
 証拠(甲24)によれば、ビットトレントにおいては、ビットトレントネットワーク上に、自己のピア以外に、共有されているファイルを構成するピースの全部又は一部を保有するピアが複数存在する場合には、当該ピースを、その複数のピアのいずれからもダウンロードするとの仕組みが採用されており、本件ソフトウェアにおいても同様の動作をすることが確認されていることが認められる。他方、本件全証拠によっても、本件各スクリーンショットが撮影された前後を通じて、本件ソフトウェアが上記の仕組みどおりの動作をしていなかったことをうかがわせる事実は認められない。そうすると、本件各スクリーンショットにおいて、本件調査会社の管理するピアの通信相手として複数のピアが表示されているとしても、本件調査会社の管理するピアが本件各氏名不詳者の管理するピア以外のピアのみから本件各ファイルを構成するピースをダウンロードしたとはうかがわれないというべきである。したがって、本件各スクリーンショットが記録される前後の時点で、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが送信されていたと認めるのが相当である。
カ 前記Dについて
 本件各クライアントソフトウェアがオープンソースソフトウェアであることをもって、本件各氏名不詳者が、利用するクライアントソフトウェアにおいてアップロードを制限する設定にしている可能性が高いとまではいえないし、本件全証拠によっても、本件各氏名不詳者がそのような設定にしていたと認めることはできない。
キ まとめ
 以上のとおり、被告が挙げる前記@ないしDの根拠はいずれも理由がなく、被告の前記アの主張は採用できないというべきである。
(4)違法性阻却事由の不存在
 被告は、原告が本件各ファイルを最初にビットトレントネットワーク上にアップロードした可能性があり、さらに、ビットトレントの仕組み上、原告が調査を依頼した本件調査会社は本件調査の過程で本件各ファイルをアップロードしているから、原告は、本件各氏名不詳者が本件ファイルを自動公衆送信したことについて許諾をしていたといえると主張する。しかし、被告が提出した証拠(乙1ないし9)によって、アダルトビデオメーカーが、ビットトレントに関連した大量の発信者情報開示請求を行い、発信者情報の開示を受けて特定された発信者に対し、裁判で認められる金額よりも高い金額を和解金名目で請求する場合があることが認められるとしても、これらの事実から、原告が本件各ファイルを最初にビットトレントネットワーク上にアップロードしたと推認するのは無理があるし、他に原告がそのような行為をしたと認めるに足りる証拠はない。また、前提事実(3)のとおり、本件調査会社が本件調査においてピアとして本件各ファイルをダウンロードしていることから、ビットトレントの仕組み上、本件調査会社は、他のピアから本件各ファイルを構成するピースの転送を求められた場合には、当該ピースをアップロードできる状況にあったといえるものの、そのことをもって、原告が本件各氏名不詳者を含む第三者に対して本件各動画を自動公衆送信することを許諾していたと認めることはできない。したがって、本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したことにつき原告による許諾があったとの被告の主張は採用することができないというべきである。
 そして、本件全証拠によっても、本件各氏名不詳者の行為について、違法性を阻却すべき事情は認められないから、違法性阻却事由は存在しないと認めるのが相当である。
(5)小括
 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)と認められる。
2 争点2(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件各動画に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であるものと認められ、その請求のためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。
 これに対し、被告は、原告が、自ら又は第三者に指示して、本件各ファイルを最初にビットトレントネットワーク上に拡散したものであり、本件訴訟の提起は、高額の損害賠償を請求するための不当な自力救済等を目的とするものであるといえるから、開示を認める正当な理由がない旨主張する。しかし、前記1(4)で説示したとおり、原告が本件各ファイルを最初にビットトレントネットワーク上にアップロードしたとは認められず、本件全証拠によっても、原告が裁判で認められる金額よりも高額の金額を和解金名目で取得する目的で本件発信者情報開示請求をしていると認めることはできない。したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
 以上によれば、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)と認められる。
第5 結論
 よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判官 間明宏充
 裁判官 塚田久美子
 裁判長裁判官 國分隆文は、差支えにつき署名押印することができない。
裁判官 塚田久美子


別紙 発信者情報目録
 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
(以下 省略)
 以上

(別紙 作品目録 省略)
 以上
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