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【事件名】“マークゴンザレス”ブランドのライセンシー事件 【年月日】令和7年1月30日 東京地裁 令和3年(ワ)第32244号 損害賠償等請求本訴事件、令和6年(ワ)第70389号 商標権移転登録請求反訴事件 (口頭弁論終結日 令和6年10月31日) 判決 本訴原告兼反訴被告 サクラインターナショナル株式会社(以下「原告SI」という。) 本訴原告 サクラグループ有限会社(以下「原告SG」といい、原告SIと併せて「原告ら」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 田中圭祐 同 遠藤大介 同 蓮池純 同 神田竜輔 同 吉永雅洋 上記両名訴訟復代理人弁護士 村松誠也 本訴被告兼反訴原告 Ai(以下「被告」という。) 同訴訟代理人弁護士 成川弘樹 同 目黒豪 同 竹田洋平 同 清水晃 同 足木良太 同 大久保宏昭 同 藪木健吾 同 金子禄昌 同 飛世貴裕 同 葛谷滋基 同訴訟復代理人弁護士 小松大祐 同 遠藤賢祐 主文 1 原告らの本訴請求のうち、次の訴えをいずれも却下する。 (1)原告SIと被告との間において、原告SIが、別紙商標目録1ないし3記載の各商標権を有することの確認を求める訴え (2)原告SIと被告との間において、原告SIが、別紙著作物目録記載の各著作物について、日本及び米国における複製権及び譲渡権(別紙著作物目録<A>及び<B>記載のアルバム「WhatitisNt」及びCujoArtsandLiterature,Inc.並びにBiの宣伝目的に限定されたもの)を有することの確認を求める訴え 2 原告らのその余の本訴請求をいずれも棄却する。 3 原告SIは、被告に対し、別紙商標目録1ないし5記載の各商標権の移転登録手続をせよ。 4 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴 (主位的請求) (1)被告は、原告SIに対し、1億円及びこれに対する令和3年6月19日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 (2)原告SIと被告との間において、原告SIが、別紙著作物目録記載の各著作物について、日本及び米国における著作権を有することを確認する。 (3)原告SIと被告との間において、原告SIが、別紙商標目録1ないし3記載の各商標権を有することを確認する。 (4)原告らと被告との間において、別紙商標目録1ないし3記載の各商標権につき、原告らの被告に対する返還義務及び返還協力義務が存在しないことを確認する。 (5)原告SGと被告との間において、原告SGと被告との間で締結した2010年12月8日付けLICENSINGAGREEMENTに関する債務不履行に基づく原告SGの被告に対する損害賠償債務が存在しないことを確認する。 (予備的請求1) (1)主位的請求(1)、(3)ないし(5)と同旨 (2)原告SIと被告との間において、原告SIが、別紙著作物目録記載の各著作物について、日本及び米国における複製権及び譲渡権を有することを確認する。 (予備的請求2) (1)主位的請求(1)、(3)ないし(5)と同旨 (2)原告SIと被告との間において、原告SIが、別紙著作物目録記載の各著作物について、日本及び米国における複製権及び譲渡権(別紙著作物目録<A>及び<B>記載のアルバム「WhatitisNt」及びCujoArtsandLiterature,Inc.並びにBiの宣伝目的に限定されたもの)を有することを確認する(なお、当該接続詞の用法は令和6年4月22日付け訴え変更申立書記載のままである。)。 2 反訴 主文第3項と同旨 第2 事案の概要 1 本件に至る経緯 (1)原告らは、スケートボーダー兼アーティストとして活動する米国居住の被告との間で、被告のアートワーク等に係るライセンス契約を締結し、当該アートワーク等の著作物、当該著作物又は被告の氏名等を使用した商標その他の知的財産を使用して商品化ビジネスを広く展開した。その後、被告が上記知的財産を自己に返還するよう求めたのに対し、原告らが上記知的財産は上記契約に基づき自己に帰属すると主張して、商品化ビジネスを継続した。そのため、被告は、日本国内のサブライセンシーや販売店に対し本件紛争に関する警告書の送付等をしたのに対し、原告らは、これらを不法行為であるなどと主張して、本件訴えを提起した。その概要は、大要次のとおりである。 (2)原告SIは、2000年10月20日、CujoArtsandLiterature,Inc.(以下「Cujo社」という。)及びBi(以下「Bi」という。)との間で、音楽作品及びそのアルバムカバーアートに係る著作権等に関し、「MUSICPRODUCTIONSERVICEAGREEMENT」(以下「本件音楽契約」という。)を締結した。また、原告SGは、2010年12月8日、被告との間で、被告が創作するデザイン等を利用する権利に関し、「LICENSINGAGREEMENT」(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。 上記各契約に基づき、原告らは、別紙著作物目録記載の各著作物(以下「本件著作物A」ないし「本件著作物X」といい、併せて「本件各著作物」という。)のほか、別紙商標目録1ないし3記載の各商標(以下「本件商標1」ないし「本件商標3」といい、併せて「本件本訴商標」という。また、本件商標1ないし3に係る権利を「本件商標権1」ないし「本件商標権3」といい、併せて「本件本訴商標権」という。さらに、別紙商標目録4及び5記載の各商標を、「本件商標4」及び「本件商標5」といい、本件本訴商標と併せて「本件各商標」という。)等についてライセンス事業等を行っていたところ、株式会社SHIFFON(2022年9月1日の商号変更前は「株式会社志風音」であり、以下、商号変更の前後を問わず「SHIFFON社」という。)の代表取締役であるEi(以下「Ei」という。)は、原告SIのサブライセンシー等に対し、原告SIが保有する被告に係るライセンスが無効である旨を連絡し(以下「本件告知行為1」という。)、被告は、原告SIのサブライセンシー等に対し、サブライセンスが正当なものではない可能性がある旨を記載した別紙警告書面(以下「本件警告書面」という。)を送付した(以下「本件告知行為2」といい、本件告知行為1と併せて「本件各告知行為」という。)。 (3)なお、被告は、原告SI出願に係る別紙商標目録3記載のA(以下「本件商標3のA」といい、同Bを「本件商標3のB」という。)、本件商標4及び5に対し、商標登録無効審判を請求したところ、特許庁、知財高裁とも、上記各商標は、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健全な法感情に照らし条理上も許されないというべきものであるから、商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するとして商標登録を無効とすべきものとした。他方で、被告は、原告SI出願に係る本件商標1及び2についても商標登録無効審判を請求したが、これらの商標については、特許庁、知財高裁とも、商標法4条1項7号及び19号のいずれにも該当しないとして、商標登録を無効とすることはできないとした。 2 本件本訴 (1)本件本訴の主位的請求 @不法行為に基づく損害賠償請求(以下「本件請求1」という。) 原告SIが、被告に対し、被告がEiに対して原告SIのライセンスが無効であるなどと伝えた上、Eiによる本件告知行為1及び被告による本件告知行為2によって、原告SIの名誉権及び営業権が侵害されたとして、本件告知行為1は被告とEiの共同不法行為(以下「本件不法行為1」という。)に、本件告知行為2は被告の不法行為(以下「本件不法行為3」という。)に、それぞれ該当し、また、本件不法行為1及び3に先立ち、被告がEiに対して原告SIのライセンスが無効であるなどと伝えた行為も不法行為(以下「本件不法行為2」といい、「本件不法行為1」及び「本件不法行為3」と併せて「本件各不法行為」という。)に該当すると主張して、損害賠償金1億円(逸失利益2億6532万8253円の一部である9000万円及び無形損害1億1623万3122円の一部である1000万円の合計額)及びこれに対する不法行為の日の翌日である令和3年6月19日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める請求 A著作権の確認請求(以下「本件請求2」という。) 原告SIと被告との間において、本件各著作物に係る日本及び米国における著作権が、いずれも原告SIに帰属することの確認を求める請求 B商標権の確認請求(以下「本件請求3」という。) 原告SIと被告との間において、本件本訴商標権が原告SIに帰属することの確認を求める請求 C本件ライセンス契約に基づく商標権返還義務等の不存在確認請求(以下「本件請求4」という。) 原告らと被告との間において、本件本訴商標権につき、原告らの被告に対する返還義務及び返還協力義務が存在しないことの確認を求める請求 D本件ライセンス契約に基づく損害賠償債務の不存在確認請求(以下「本件請求5」という。) 原告SGと被告との間において、本件ライセンス契約に関する債務不履行に基づく原告SGの被告に対する損害賠償債務が存在しないことの確認を求める請求 (2)本件本訴の予備的請求1 本件本訴の予備的請求1は、本件請求2において確認の対象とされた著作権を、複製権及び譲渡権に変更したものである。 (3)本件本訴の予備的請求2 本件本訴の予備的請求2は、予備的請求1において確認の対象とされた複製権及び譲渡権を、更に別紙著作物目録<A>及び<B>記載のアルバム「WhatitisNt」、Cujo社並びにBiの宣伝目的に限定されたものに変更したものである。 3 本件反訴 本件反訴の請求は、被告が、本件各商標に係る商標権(以下「本件各商標権」という。)を保有する原告SIに対し、原告SIは、被告に対し、本件ライセンス契約に基づき、本件各商標権を返還する義務を負うと主張して、本件各商標権の移転登録手続を求めるものである。 4 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実をいう〔証拠等の記載のないものは当事者間に争いがなく、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。〕。) (1)当事者等 ア 原告SIは、衣料品等の輸出入及び販売に関連する業務として、様々なブランド等に関する知的財産権等の譲渡又は許諾を受け、第三者に対しこれらをライセンスすることを主たる事業とする株式会社である。 イ 原告SGは、商標権及び著作権の管理並びに売買を主たる業とする株式会社であり、便宜上本件ライセンス契約の締結者となっているため、同契約に基づく権利を原告SIに対してサブライセンスしているが、その他は特段の活動を行なっていない。 ウ 被告は、米国に在住し、スケートボーダー兼アーティストとして活動する者である。 エ Biは、米国に在住し、スケートボーダー兼アーティストとして活動する者である。なお、Biは、本件訴訟提起時において共同被告とされたものの、原告らは、第1回口頭弁論期日前である令和4年(2022年)6月24日、Biに対する訴えを取り下げた。(当裁判所に顕著な事実) オ Cujo社は、被告とFi(以下「Fi」という。)が2000年4月19日に設立し、Fiが代表取締役を務める米国ネバダ州の会社であり、2008年12月頃、解散決議がされた。また、Cujo社は、ネバダ州法の規定に基づく年次申告を行わなかったことなどにより、2012年5月1日、「永久失効」(PermanentlyRevoked)となった。(甲44、乙11、100、148−1、弁論の全趣旨) カ Fiは、1999年に被告と婚姻したが、2004年12月10日に離婚した。(乙148―1) キ SHIFFON社は、Eiが代表取締役を務め、原告SIからライセンスを受けるサブライセンシーであり、衣類の卸売や小売等を行っている。(乙110、111、弁論の全趣旨) (2)被告とCujo社の関係 ア 被告は、1999年10月1日、Cujo社との間で、雇用契約書(甲27。以下「本件雇用契約書」という。)を作成した。同契約書には、Cujo社が被告をエグゼクティブ・プロデューサーとして雇用し、被告がCujo社に対してCujo社のウェブサイト、アートワーク、出版、映画、スポーツ活動のためのコンテンツ開発及び制作に係るサービスを提供すること(1条)、Cujo社が被告に対して年棒5万ドルを支払うこと(3条)、被告が同契約終了後90日間はグアム州全域を含む地理的範囲において競業避止義務を負うこと(9条)、その他休暇の定め等が記載されている。(甲27、弁論の全趣旨) イ 2000年11月1日から2001年10月31日までのCujo社の米国法人所得税申告書には、役員報酬として被告に2万8448米ドル、Fiに1万2000米ドルが支払われた旨記載されている。(甲53) (3)本件音楽契約 原告SIは、2000年10月20日、Cujo社及びBiとの間で、次のとおり、本件音楽契約を締結した。なお、同契約の契約書におけるCujo社の署名欄には、「秘書(ItsSecretary)」として被告が署名している。(甲9) 第1条 音楽制作 1.1 アーティスト(Artists。Cujo社及びBiの総称。以下本契約において同じ。)は、一定の音楽作品(作曲及び作詞をいい、以下「音楽作品」という。)及び当該音楽作品の演奏録音(以下「録音物」という。)を制作し、また、それらのアルバムカバーアート及び/又は写真(以下「カバーアート」〔CoverArtwork〕という。)を創作するサービス(以下「本サービス」という。)を原告SIに提供する。 第2条 権利 2.1 音楽作品(MusicWorks)及び録音物(SoundRecordings)の著作権は、第4条(原文ママ)に定める納入マテリアルの納入時に原告SIに移転される。 2.2 原告SIは、コンパクトディスク、音楽テープ、DVD及びその他の媒体(以下「音響作品(AudioWorks)」という。)により録音物の全部又は一部をこれらの著作権の保護期間中、日本、米国、ラテンアメリカ及び欧州を含み、かつ、これらに限定されない世界各国(以下「ワールドワイドベース」という。)においてインターネット等の通信ネットワークを通じて再生、配給、リリース、演奏、放送、送信し、かつ、その他の手段により活用する独占権(exclusiverights)を有する。 2.3 原告SIは、音響作品及びアーティストの宣伝目的のため、音響作品と併せてTシャツ等用に製作される一切のアルバムカバーアート及び/又は写真を、これらの著作権の保護期間中、ワールドワイドベースで再生して販売する独占権(exclusiverights)を有する。 2.4 原告SIは、音響作品及びアーティストの宣伝目的のため、被告及びBiの名前を使用する権利を有する。 第3条 納入マテリアル アーティストは、次のマテリアル(以下「納入マテリアル」という。)を2000年11月15日以前に原告SIの東京の主たる(事務所の)住所宛てに納入する。 a)マスターテープ:音響作品の録音物が録音されているDAT(DigitalAudioTape)テープ b)英語版の歌詞カード c)アルバムカバーアート d)原告SI及びアーティスト間で後日合意される音響作品のリリースに必要なその他の情報 第4条 対価 4.1 原告SIに付与されるアーティストの本サービス及び権利の対価として、原告SIはアーティストに対し下記の予定に従い合計50、000米ドルの報酬を支払う。 a)本契約の署名時に25、000米ドル b)第3条に定める全ての納入マテリアルを受領したときに25、000米ドル 4.2前項に定められた支払は、前項a)について半額がBiの銀行口座に、半額がCujo社の銀行口座に、また、同b)について半額がCujo社の銀行口座に、半額がBiの銀行口座にそれぞれのアーティストが指定する銀行口座に米ドルでなされる。 第6条 制作管理 6.1 アーティストは、音響作品のリリースに併せて制作される全ての作曲、Tシャツ及び/又は宣伝資料に対し完全な制作管理権を保有する。 6.2 全ての商品デザインは、制作前に両アーティストによる書面での承認を得なければならない。 6.3 アーティストがデザイン申請を受領してから30日以内に、アーティストにより承認又は拒絶されない場合には、原告SIは、アーティストの承認なくデザインを制作する権利を有する。 第12条 一般条項 12.3 裁判管轄 本契約に起因又は関連して生ずる一切の紛争については、カリフォルニア州の裁判所が専属管轄権を有する。 12.6 準拠法 本契約はアメリカ合衆国カリフォルニア州の法律に準拠する。 (4)本件音楽契約と本件各著作物の関係等 ア Biは、原告SIに対し、2000年11月末日頃、楽曲と本件著作物AないしEを納品し、2001年5月頃、本件著作物GないしXを納品した。(甲20、弁論の全趣旨) イ 本件著作物AないしEは、本件音楽契約2条3項(第2条の「2.3」をいい、以下、他の契約も含め、便宜上「条」及び「項」として記載する。)の「アルバムカバーアート」に該当し、本件著作物GないしXは、同契約3条bの「英語版の歌詞カード」に該当するため、本件著作物AないしE及びGないしX(以下「本件F以外著作物」という。)は、いずれも本件音楽契約に基づく成果物である。(甲20、弁論の全趣旨) (5)本件著作物F ア 本件著作物Fは、「エンジェル」等と称されるキャラクター(以下、当該キャラクターを「エンジェル」という。)を描いたイラストである。被告は、1997年12月頃、エンジェルを創作し、1998年5月に日本国内で発行された被告の作品集には、別紙原著作物目録掲載のエンジェル(以下「原エンジェル」という。)が収載されている。(乙13ないし15、弁論の全趣旨) イ 被告は、2001年1月頃に来日した際、原告SIの求めに応じて、本件著作物Fを制作した。 (6)本件ライセンス契約 原告SGは、2010年12月8日、被告との間で、次のとおり、本件ライセンス契約を締結した。(甲2) なお、本件ライセンス契約の当事者は、形式的には原告SGとされているものの、実質的には原告SIであることに争いはない(以下、特に区別する必要がない限り、本件ライセンス契約に係る当事者を「原告ら」という。)。 第1条 被告は、原告SGに対し、本件契約の条件に従い、2011年1月1日から1年間、衣類、アクセサリー、販売促進物、広告物並びに、履物及びその関連商品を除く全ての商品(以下「本商品」という。)に、被告の名称、肖像及び被告が創作し所有するデザインを利用する独占排他的な権利を付与するものとする。 第2条 被告は、原告SGが被告の肖像、絵画、詩、物語並びに「GonzoCuntry」及び「MarkGonzales」という名称(以下、総称して「本素材」という。)を本商品に独占排他的に利用し、製造し、アジアの地域で配布・販売することを許諾する。ただし、原告SGは、アディダスインターナショナルBV又はその関連会社、子会社、販売会社、 ライセンシーが製造するものと同一又は類似の性質若しくはタイプのスポーツ及びレジャー用フットウェア、関連アクセサリーの販売のために本素材を利用することを特に禁じる。被告は、自身のオリジナル作品、及び、自身の作品展で限定版の記念品を販売することができる。 第3条 原告SGは、被告の事前の承認を得た場合に、新規提出資料及び過去の資料を全体又は部分的に利用することができる。被告は、デザイン又はサンプルを受領してから2週間以内に承認し、承認しない場合には代替案を提供するものとする。 第4条 原告SGは、許諾製品の製造、マーケティング、流通、販売を目的として、第三者への利用許諾を行うことができる。ただし、原告SGが利用許諾を行うことができるのは、第3条に基づき承認された肖像及びデザインのみであり、当該第三者は、第2条に定める商品及び地域に限定され、本契約に定める全ての条件に従うものとする。 第5条 被告は、自分の新しいイメージ、デザイン、活動に関する情報を原告SGに提供するものとする。保証義務はないが、新しいイメージやデザインを含む原告SGの要求に応じるために、最善の努力をするものとする。 第6条 被告には、2010年12月15日までに、返金不可の4万ドルの利用料(以下「年間利用料」という。)が支払われるものとする。 第7条 原告SGは、被告に対し、無償にて各デザインにつき1点のサンプルを提供するものとする。 第9条 被告が第5条に定めるデザイン又は承認を提供しないことにより本契約に違反した場合、原告SGは、第2条に定める商品及び地域の制限を前提として、被告の承認を得ることなく、原告SGが保有する全ての本素材を利用する権利を留保するものとする。 第10条 原告SGは、本契約と同一の条件で、最大10年間継続して本契約を更新するオプションを有するものとする。更新年度の契約条件(年間使用料の支払を含む。)は、各年度の開始前に、二者間の合意により友好的に変更することができる。 第11条 被告は、本素材及び本商品に関する全ての知的財産権を保持するものとする。原告SGは、許諾された全ての商品に被告が作者であることを明示し、各商品に「(c)MarkGonzales」との表示を行うものとする。 原告SGは、被告の要求に応じて、原告SGが行った登録を被告に返却することを条件に、「GonzoCuntry」、「MarkGonzales」及び被告のデザインを保護するために登録することができるものとする。 第12条 本契約で明確に譲渡されない全ての権利は、被告に留保されるものとする。 第15条 (その他の規定) e 準拠法。本契約は、アメリカ合衆国ニューヨーク州で実行、遂行及び実施されることを意図しており、その州の法律に従って解釈及び施行されるものとする。 f 管轄。本契約は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨークで締結されたものとみなされる。本契約に何らかの形で関連する紛争は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨークの連邦裁判所又は州裁判所で解決されるものとする。 (7)本件各商標権 ア 原告SIは、2003年3月17日、本件商標1の出願を行い、同商標は、同年10月24日に登録された。原告SIは、2009年6月29日、原告SGに本件商標権1を移転し、原告SGは、2020年10月19日に、再び本件商標権1を原告SIに移転した。(甲10、乙25、26) イ 原告SIは、2002年11月25日、本件商標2の出願を行い、同商標のA(別紙商標目録2記載のA)は、2004年4月16日に登録され、同商標のB(別紙商標目録2記載のB)は、2004年5月14日に登録された。当該各登録に当たり、被告は自らの氏名を商標として登録することを承諾していた。原告SIは、2009年6月29日に本件商標権2を原告SGに移転し、原告SGは、2021年11月24日に、再び本件商標権2を原告SIに移転した。(甲11、12、乙23、24) ウ 原告SIは、2020年12月26日、本件商標3の出願を行い、同商標は、2021年9月27日に登録された。(甲41、42、乙104、105) エ 原告SIは、2021年6月30日、本件商標4及び5の出願を行い、同商標は、2022年3月15日に登録された。(乙170、171、弁論の全趣旨) (8)原告SIの事業等 原告SIは、被告の創作に係るイラスト、デザイン等についてライセンス及びサブライセンス事業を展開してきた。(弁論の全趣旨) そして、原告SIからライセンスを受けているサブライセンシーには、SHIFFON社の他、株式会社豊島(以下「豊島社」という。)、ハワード株式会社(以下「ハワード社」という。)及び有限会社シアーズ(以下「シアーズ社」という。)がある。(甲5、6、乙110、111、弁論の全趣旨) なお、豊島社の主要卸先は、衣類等の販売店舗を営む株式会社しまむら(以下「しまむら社」という。)である。(弁論の全趣旨) (9)Ei及び被告による告知行為 ア Eiの行為 Eiは、2021年6月頃、豊島社及びしまむら社の担当者に対して、原告SIが保有している、被告に係るライセンスが無効である旨連絡した(本件告知行為1)。(甲7、弁論の全趣旨) イ 被告の行為 被告は、2021年11月から12月上旬頃、ハワード社及びシアーズ社を含む原告SIのサブライセンシー等14社に対し、原告らの行動により当該14社のサブライセンスが正当なものではない可能性がある旨を記載した別紙警告書面(本件警告書面)を送付した(本件告知行為2)。(甲5、6、弁論の全趣旨) (10)原告SIとCujo社との権利譲渡契約 原告SIとCujo社は、本件訴訟提起後である2022年8月7日、次のとおり、Cujo社が原告SIに知的財産権を譲渡する旨の契約(以下「本件権利譲渡契約」という。)を締結した。なお、同契約第1条(2)B記載の「別紙2」には、本件各著作物を含む著作物が掲載されている。(甲23) 第1条(定義) 本件権利譲渡契約では、以下の用語は、次のように定義されるものとする。 (2)著作物 著作物とは、本件音楽契約第3条に基づき原告SIに納入された音楽著作物(作曲、作詞)、録音物、ジャケット作品(アルバムジャケット、歌詞集)を指し、具体的には、以下のとおりである。 @音楽作品に係る歌詞 歌詞とは、別紙1に記載された楽曲の歌詞及びタイトルをいう。 A著作物 音楽作品・音源における作曲とは、2001年1月24日に原告SIが日本で発売したサウンドアルバム「WhatitisNt」に収録されている楽曲で、本件権利譲渡契約締結時にウェブサイト(http://以下省略)で公開されているものを指す。 Bカバーアートワーク カバーアートワーク作品とは、別紙2に記載された作品をいう。 (3)譲渡される権利 「譲渡される権利」とは、以下のとおり定められているものをいう。 @本著作物に関する著作権及び著作隣接権(複製権、翻案権、頒布権、レコード製作権、著作権法第28条及び第29条の権利等を含む)を含むCujo社の保有する全ての知的財産権(本件音楽契約により既に原告SIに譲渡されている権利を除く)。 A本件音楽契約に関してCujo社が有する全ての契約上の権利(「本件音楽契約第4条3項に定める権利」及び「本件音楽契約第6条に定める権利」〔既に発生しているものを含む。〕を含む)。 第2条(Cujo社の表明及び保証) Cujo社は、以下のとおり、Cujo社の代表者の知る限りにおいて、原告SIに対して表明し、保証する。 (1)著作物とは、本件権利譲渡契約第1条に記載されたものをいう。 (2)Cujo社が本件音楽契約の当事者であり、本件音楽契約はCujo社の代表者であるFiが当時の契約書等を検討、作成、修正した後に締結されたこと。また、Cujo社は、Cujo社の秘書兼従業員である被告に本件音楽契約に署名する権限を与えたため、被告は本件音楽契約に署名したこと。 (3)Cujo社は本件音楽契約を解約・解除したことはなく、本件音楽契約は現在も有効である。 (4)本著作物は、原告SIの依頼により、Cujo社とBiの共同制作として制作された。 (5)Cujo社とBiが、作曲、作詞、イラスト、表現、彩色、データ変換等の役割を分担し、統一された世界観のもと、それぞれが作品制作に貢献し、全体として共同作品を作り上げたこと。 (6)Cujo社の従業員である被告は、Cujo社のビジネスの一環として、Cujo社の発意に基づき、被告が制作した著作物をCujo社が請け負ったこと及び本件音楽契約に関連して被告が制作した全ての著作物は「職務著作」であり、当該著作物に関する全ての著作権、人格権及びその他の権利はCujo社が所有することを示す。Cujo社は、本著作物に関する全ての著作権、著作者人格権及びその他の全ての権利の原始的な所有者である。また、Cujo社と被告の間には、これに反する書面又は口頭での合意は存在しない。 (7)本件音楽契約に基づき原告SIに既に譲渡された権利を除き、Cujo社及びBi以外の者は、本著作物についていかなる所有権も有していない。 (8)Cujo社は、「譲渡される権利」の一部又は全部を、被告を含む第三者に譲渡したことはない。 (9)Cujo社の本件権利譲渡契約の締結は、Cujo社と第三者との間のいかなる契約にも違反せず、Cujo社が本件権利譲渡契約を締結する完全な権利を有していることを確認する。 第3条(権利譲渡等) Cujo社は、以下のとおり、Cujo社の代表者の知る限りにおいて、原告SIに対して表明し、保証する。 1.Cujo社は原告SIに譲渡される権利の全てを譲渡する。 2.Cujo社は、著作者人格権及び解除権を含む、その性質上譲渡不可能な権利を放棄し、将来にわたって永久に行使しないことを誓約する。 第4条(譲渡対価) 1.原告SIはCujo社(Cujo社の株主を含む)に対し、本件権利譲渡契約締結後10日以内に、Cujo社が別途指定する方法で100、000米ドルを支払う。 2.Cujo社及び原告SIは、原告SIによる前項に定める100、000米ドルの支払をもって原告SIの本件権利譲渡契約に基づく義務の履行が完了すること、及びその後のいかなる事情も本件権利譲渡契約の効力に影響を与えないことを確認する。 第9条(本契約の変更等) 本契約の変更等は、両当事者の代表者が署名した書面によってのみ効力を生じるものとする。 第10条(準拠法及び管轄裁判所) 本件権利譲渡契約に起因又は関連する全ての事項は、カリフォルニア州法に準拠し、同法に従って解釈されるものとする。本件権利譲渡契約又は本件権利譲渡契約に企図された取引に起因又は関連する全ての訴訟、措置又は手続は、カリフォルニア州サンフランシスコの裁判所において開始されるものとする。 (11)取得時効の援用 原告SIは、第4回口頭弁論期日(令和6年3月21日)において、被告に対し、本件商標権1及び2について、取得時効を援用する旨の意思表示をした。(当裁判所に顕著な事実) 5 争点 (1)本案前の争点(争点1) ア 国際裁判管轄権の有無(争点1−1) イ 本件本訴商標権が原告SIに帰属することの確認の利益の有無(争点1−2) ウ 宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権を有することの確認の利益の有無(争点1−3) (2)本件告知行為1による被告とEiの共同不法行為(本件不法行為1)の成否(争点2) ア 本件不法行為1に係る権利侵害の有無(争点2−1) イ 本件不法行為1に係る真実性の抗弁の成否(争点2−2) ウ 本件不法行為1に係る公正な論評の法理の成否(争点2−3) エ 本件不法行為1に係る正当防衛又は緊急避難の成否(争点2−4) オ 本件不法行為1に係る故意又は過失の有無(争点2−5) (3)本件告知行為1に先立つ被告の不法行為(本件不法行為2)の成否(争点3) (4)本件告知行為2による不法行為(本件不法行為3)の成否(争点4) ア 本件不法行為3に係る権利侵害の有無(争点4−1) イ 本件不法行為3に係る真実性の抗弁の成否(争点4−2) ウ 本件不法行為3に係る正当防衛の成否(争点4−3) エ 本件不法行為3に係る故意又は過失の有無(争点4−4) (5)本件各不法行為に係る損害額(争点5) (6)本件各著作物に係る著作権(以下、特に断りのない限り、日本における著作権及び米国における著作権をいう。)の原告SIへの帰属の有無(争点6) ア 本件各著作物に係る著作権の原始的帰属(争点6−1) イ 本件音楽契約に基づく著作権の移転(争点6−2) ウ 本件権利譲渡契約に基づく著作権の移転(争点6−3) エ 本件著作物Fに係る著作権の帰属(争点6−4) (7)本件各商標権の返還義務及び返還協力義務の有無(争点7) (8)本件ライセンス契約の債務不履行による損害賠償債務の有無(争点8) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1−1(国際裁判管轄権の有無) (原告らの主張) (1)本件請求1の裁判管轄 不法行為に基づく損害賠償請求については、「不法行為があった地」に管轄が認められるところ(民訴法5条9号)、本件不法行為1ないし3のいずれについても、不法行為地及び損害発生地は、日本国内の東京である。したがって、本件不法行為1ないし3に基づく損害賠償請求については、日本の裁判所に国際裁判管轄がある。 (2)本件請求3の裁判管轄 本件本訴商標権は、いずれも日本において登録されたものであるから、民訴法3条の5第3項により、本件本訴商標権の確認請求については、日本の裁判所に国際裁判管轄がある。 (3)本件請求2及び5の裁判管轄 不法行為に基づく損害賠償請求(本件請求1)と、「密接な関連がある」請求については、日本の裁判所に管轄が認められる(民訴法3条の6)。そして、「密接な関連がある」といえるか否かは、複数の請求について、実質的に争点が同様といえるか否かによって判断されると解される(最高裁平成12年(オ)第929号、同(受)第780号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁参照)。 本件請求1の請求原因である本件不法行為1ないし3は、@原告SIが本件各著作物や本件商標1及び2に関する知的財産権を侵害した、A本件ライセンス契約は2020年12月31日に終了しているという虚偽の事実を伝えたというものである。したがって、本件請求1の請求原因である本件不法行為1ないし3の成立において、「本件各著作物に関する著作権が原告SIに帰属するか否か」及び「本件ライセンス契約が2021年12月31日まで存続し、同契約によって原告SIに保証された権利が正当に行使されているか否か」が実質的な争点となる。 したがって、本件請求1と本件請求2及び5は密接な関連があるといえるから、本件請求2及び5については、民訴法3条の6により、日本の裁判所に国際裁判管轄がある。 (4)専属的管轄合意との関係 当事者間で専属的な国際裁判管轄の合意がある場合でも、民訴法3条の6の要件を満たす場合には、併合管轄が認められる。 (被告の主張) (1)専属的管轄合意 本件ライセンス契約15条fは、同契約に関連する一切の紛争は米国ニューヨーク州ニューヨーク郡の連邦裁判所又は州裁判所において解決されるものとする旨の専属的合意管轄を定めている(以下「本件管轄合意1」という。)。また、本件音楽契約12条3項は、同契約に起因又は関連して生じる一切の紛争については、米国カリフォルニア州の裁判所が専属管轄権を有するものとする旨の専属的合意管轄を定めている(以下「本件管轄合意2」という。)。 そして、原告らの本件請求1、2及び3(ただし本件請求3は本件商標1及び2に係る部分に限る。)並びに本件請求5は、以下のとおり、いずれも本件管轄合意1又は2の対象となるため、日本の裁判所は裁判管轄権を有するものではなく、これらの訴えはいずれも不適法であり却下されるべきである。 (2)本件請求1について 本件請求1については、原告らの事業が本件ライセンス契約に基づいて適法に行われたものか否かが実質的な争点であるから、本件請求1が本件ライセンス契約に関連し本件管轄合意1の対象となることは明らかである。 また、原告SIは、本件ライセンス契約に基づく事業とは別に、本件音楽契約に依拠して本件各著作物を使用したライセンス事業を行っており、本件各著作物の使用に関しては、本件音楽契約により本件各著作物の著作権が譲渡されたか否かなど同契約の内容も主要な争点になる。したがって、本件請求1のうち本件音楽契約に基づくライセンス事業について生じた損害に関する部分については、同契約に関連する紛争といえるから、本件管轄合意2の対象にも該当する。 なお、本件ライセンス契約書上、その当事者は原告SGと被告と記載されており、原告SIは含まれていない。しかしながら、原告SIには、原告SGのサブライセンシーとして、又は実質的な契約当事者として、本件管轄合意1の効力が及ぶ。 (3)本件請求2について 本件請求2は、本件音楽契約に基づいて、本件各著作物の著作権が原告SIに移転したことの確認を求めるものである。したがって、本件請求2は本件音楽契約に起因又は関連する紛争といえるから、本件管轄合意2の対象となる。 (4)本件請求3のうち本件商標1及び2に係る部分について 本件各商標権に関する紛争は、本件ライセンス契約11条に基づいて、原告SGがアジア地域内で保有する被告の氏名やデザインに係る商標権を返還する義務を負い、原告SGと一体である原告SIも、本件ライセンス契約の実質的当事者として同様の義務(以下「商標権返還義務」という。)を負うこと、又は少なくとも被告がアジア地域においてその氏名やデザインに係る商標を用いたライセンス事業を行うことを妨げてはならない信義則上の義務(以下「返還協力義務」という。)を負うことを前提に、被告から原告らに本件各商標権の返還を求めているが、原告らが一切応じないというものである。このような紛争の実態に照らせば、本件各商標権について、原告SIの被告に対する商標権返還義務及び返還協力義務の存否が重要な争点となっていることは明らかである。 そして、原告SIの商標権返還義務及び返還協力義務は本件ライセンス契約に関連する義務であるから、本件商標権1及び2が原告SIに帰属することの確認請求は、本件管轄合意1の対象となる。 また、原告SIが、本件商標1について、本件音楽契約に基づき被告及びBiが共同制作した標章の著作権譲渡を受けたため、商標出願する権利があると主張し、本件商標2について、被告の承諾を得て、本件音楽契約に基づいて使用すべく商標登録したと主張していることからも明らかなとおり、本件請求3のうち本件商標1及び2に係る部分については、本件音楽契約が原告SIの商標権返還義務又は返還協力義務を否定する効力を有するか否かも主要な争点になることが予想される。したがって、本件請求3のうち本件商標1及び2に係る部分は、本件音楽契約に起因又は関連する紛争といえるから、本件管轄合意2の対象にも当たる。 (5)本件請求5について 本件請求5は、本件ライセンス契約に関して原告SGの債務不履行に基づく損害賠償債務の不存在確認を求める訴えであるから、同契約に関連する紛争に該当し、本件管轄合意1の対象となる。 2 争点1−2(本件本訴商標権が原告SIに帰属することの確認の利益の有無) (原告SIの主張) 被告は、本件各告知行為において、本件商標1及び2が無効である旨主張している上、本件商標3について無効審判請求を行っているから、原告SIは、被告との間で、原告SIが本件本訴商標権を正当に有することを確認する利益を有する。 そもそも、商標権の帰属を確認するということは、その前提として、当該商標権が「原告・被告間において@登録無効事由が存在しないこと、A商標権の返却義務が存在しないこと」を含むものと解される。また、無効審判手続は、商標登録を抹消するための手続であり、同手続において、商標権の有効性及びその帰属について確認を求めることはできない。また、商標法、特許法上も、無効審判が係属した場合に確認訴訟を排斥するような規定は存在しない。 したがって、本件本訴商標権が原告SIに帰属することを確認するための確認の利益が認められる。 (被告の主張) 商標権は設定の登録によって発生し、移転についても登録しない限り効力を生じないとされるところ、原告SIが本件本訴商標について設定登録を受けていること自体は争いがない。そのため、本件本訴商標権が原告SIに帰属することの確認請求が認容されたとしても、紛争解決に資するところがないことは明らかであり、確認対象として不適切である上、即時確定の利益もない。 また、商標権の設定登録は、商標登録出願からの一連の手続と併せて特許庁による行政処分としての設権行為と解されるところ、一般に行政処分には公定力が認められ、商標登録の効力については基本的に無効審判手続により判断することが予定されている。そのため、仮に原告SIが本件本訴商標権を有することが確認されたとしても、無効審判手続により無効とされる可能性が残る以上、当該確認は無益である。 したがって、本件本訴商標権が原告SIに帰属することの確認請求(本件請求3)については、確認の利益がなく、却下されるべきである。 3 争点1−3(宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権を有することの確認の利益の有無) (原告SIの主張) (1)日本における複製権及び譲渡権を有することの確認の利益 日本の著作権法は、その全部又は一部を譲渡することができる旨規定し(61条1項)、同法に定められている支分権(21条以下)はもとより、更に細分化された権利を譲渡することも可能である。細分化された著作権の譲渡が認められるのは、著作権自体が登録を必要としない権利であり、飽くまで当事者間の契約解釈によって自由な権利設定を可能とするのが、著作権法の趣旨に沿う上、現行法では、使用許諾権に基づく差止請求権が認められていないためである。したがって、細分化された著作権の譲渡は「原則」可能であり、移転の社会的必要性、権利の不明確性、社会的不利益等を総合的に判断して妥当なものであれば、これを否定する必要はないと解される。 本件各著作物は、「WhatitisNt」というアルバムのために制作されたものであり、その宣伝目的のために複製、譲渡する権利を設定することはいわば当然であるし、権利関係も明白である。また、当該アルバムの権利を原告SIが保有しているにもかかわらず、そのアルバムのタイトルや歌詞などを含むアートワーク(本件各著作物)が、第三者に使用された場合に、原告SIが自ら差止請求権を行使できないというのは明らかに不都合であり、権利を譲渡する必要性も認められる。加えて、本件音楽契約の当事者であるCujo社、Bi及び署名を行なった被告は、当然同契約の内容を把握しているから、社会的不利益など生じ得ない。 したがって、予備的請求2記載の細分化された著作権の譲渡も当然認められるべきであるから、当該訴えについて確認の利益が認められる。 (2)米国における複製権及び譲渡権を有することの確認の利益 米国著作権法は、著作権が分割可能であるとの原則(theprincipleofdivisibility)を採用しており、日本の著作権法よりも更に細分化が自由に認められている。米国著作権法201条(d)(2)は、「106条記載のいかなる権利のいかなる細分化された権利を含む著作権を構成するいかなる排他的権利も、移転することができ……個別に保有することができる」と規定しており、米国著作権法上、細分化に制限は設けられていない。 したがって、予備的請求2記載の細分化された著作権の譲渡も当然認められるべきであるから、当該訴えについて確認の利益が認められる。 (被告の主張) 原告SIは、予備的請求2において、本件各著作物について、本件著作物A及びB記載のアルバム「WhatitisNt」、Cujo社並びにBiの宣伝目的(以下「本件宣伝目的」という。)の限度で、日本及び米国における複製権及び譲渡権を有することの確認を求めているが、このような著作権の細分化は、米国法上も日本法上も認められていないから、これらは確認対象として不適当であり、当該訴えには確認の利益がない。 米国著作権法上、著作権の一部を移転すること自体は認められるとしても(201条(d)(1))、仮に著作権を無制限に抽象化、細分化することを認めれば、各権利の範囲や境界が不明確となり、著作物の利用や権利行使等が困難になることは明らかである。そのため、少なくとも、細分化した著作権の移転を認めた結果、権利関係の不明確性その他社会的不利益が生じるおそれのある場合、そのような細分化は認められ ないと解される。日本の著作権法においても同様に、著作権を無制限に細分化することは認められていない。 仮に、本件宣伝目的に限定された著作権法上の排他的権利が原告SIに認められれば、権利侵害の有無が宣伝目的の有無という主観によって左右されることになるから、日本においても米国においても、著しい社会的不利益が生じることは明らかであり、このような権利の成立は認められない。 したがって、上記確認の訴えは、日米両国の著作権法上成立し得ない権利の確認を求めている点で、確認対象の選択を誤っていることが明らかであり、確認の利益がないから、却下されるべきである。 4 争点2−1(本件不法行為1に係る権利侵害の有無) (原告SIの主張) (1)本件告知行為1の内容 Eiは、2021年6月頃の本件告知行為1において、豊島社及びしまむら社の担当者に対し、@被告の原告SIに対するライセンスは期限が切れており無効である、A原告SIはロイヤリティの不払がある、B原告SIは製品化の際の被告の承認を得ていない、C被告は、数度にわたり契約の無効や解除通達を行っている、D原告SIは、被告から直接渡されていない、インターネット上で勝手に入手したアートワーク等を無許可で使用している、E原告SIの本件商標権1及び2は無効である、F被告側から、被告及び同人の妻と協力して、本件商標権1及び2の無効審判及び損害賠償請求を行うよう打診があった、以上の事実(以下、これらの事実を「告知事実@」ないし「告知事実F」といい、併せて「本件告知事実1」という。)を告知した。 (2)被告の不法行為 本件告知事実1のような事実を重要な顧客や関係者に伝えられることにより、原告SIが被告から知的財産権の許諾又は譲渡を得ずに知的財産権侵害を繰り返しており、かつ、それをサブライセンスしていると受け取られてしまい、原告SIの社会的評価が低下することは明らかであるから、本件告知行為1は原告SIの名誉権を侵害する。 また、このような行為により、原告SIは顧客への説明や対応に追われ、円滑な業務遂行を妨害されたのであり、本件告知行為1は原告SIの営業権を侵害する。 そして、本件告知行為1は、その内容が、原告SIと被告との種々の紛争に関連した内容となっていること、当事者しか知り得ない原告SIと被告間のやり取りが証拠として添付されていること、被告からEiに対して無効審判等の法的手続の協力が要請されていること、本件告知行為2と内容が概ね一致することなどから、被告がEiに事実・情報を恣意的に伝えた上で被告の主導によりなされたことは疑いの余地がない。したがって、被告はEiによる本件告知行為1について、共同不法行為者としての責任を負う。 (3)被告の主張について 被告は、Eiに情報を提供したのはLicentiaCo.,Ltd.(以下「Licentia社」という。)の担当者である旨主張するが、Licentia社は韓国における被告の代理店のような立場の会社である。加えて、Licentia社は本来原告ら又は被告しか保有していない書類を保有しているというのであるから、Licentia社が本件告知事実1を単独でEiに伝えたというのは余りにも無理のある主張であり、被告がEiに直接情報を伝えたか、Licentia社を介して間接的に伝えたことは明らかである。 また、Eiが本件告知事実1について「可能性がある」と伝えたにすぎないとしても、そのような「可能性がある」と受け取られること自体、ライセンス事業を営む原告SIにとっては、致命的な社会的評価の低下を生じさせる。 また、被告が言及する訴訟や中国商標の問題については、これらがアパレル業界に知られていたなどという事実は存在しないし、これにより本件告知行為1によって生じた原告SIの社会的評価の低下という結果が排斥されることもない。 (被告の主張) (1)被告が情報提供をしていないこと 原告SIのライセンス等に関して、本件告知行為1に係る情報をEiに提供したのは、「マーク・ゴンザレス」ブランドの運営会社のエージェントで、韓国の法人であるLicentia社の担当者であり、被告ではない。 (2)本件告知行為1が原告SIの権利を侵害しないこと ア 名誉権侵害について Eiが本件告知行為1において告知した内容は、@被告の原告SIに対するライセンスは期限が切れており無効である可能性がある、A原告SIはロイヤリティ不払がある可能性がある、B原告SIは製品化の際の被告の承認を得ていない可能性がある、D原告SIは、被告から直接渡されていない、インターネット上で勝手に入手したアートワーク等を無許可で使用している可能性がある、E原告SIの本件商標権1及び2は無効である可能性があるといったものであり、事実を断定したわけではなく、これらの可能性がある旨を伝えたものにすぎない。また、告知事実Fについても、SHIFFON社の方針として、被告と協力して商標の無効審判や損害賠償等の法的措置をとる予定であると伝えたものにすぎない。 このような告知事実を前提とすれば、一般的な受け手の普通の注意と受け取り方を基準とすれば、原告SIが、正当な権限を有することなく、「マーク・ゴンザレス」ブランドの商標等についてライセンスしている可能性があるなどと受け取ることになる。 本件告知行為1の一般的な受け手はアパレル業界でブランドのライセンスを取り扱っているメーカーや小売店等の事業者が想定されるところ、これらの事業者はライセンス等を極めて重要視しているため、原告SIが過去にライセンス契約に関する裁判で敗訴していることや、中国において商標登録を無効とされたことなどを既に知っているはずであり、上記の事実が摘示されたとしても、これにより原告SIの社会的評価が低下することはない。 イ 営業権侵害について 後記のとおり、Eiは虚偽の事実を伝えていない。また、ライセンスビジネスを行う事業者にとって、自身の権原の正当性を説明することは日常的な行為であり、本件告知行為1により原告SIが豊島社やしまむら社への説明や対応をすることになったとしても、原告SIは日常業務を行ったにすぎない。さらに、豊島社が2021年12月まで原告SIとのライセンス契約を継続していたことを踏まえると、本件告知行為1によって原告SIの業務を妨害したとはいえず、営業権侵害は認められない。 5 争点2−2(本件不法行為1に係る真実性の抗弁の成否) (被告の主張) 仮に本件告知行為1によって原告SIの社会的評価が低下するとしても、告知事実@ないしD及びFについては、以下のとおり、真実性の抗弁が認められるため、違法性がない。 (1)公共性 本件告知行為1の内容は、「マーク・ゴンザレス」ブランドという世界的にも著名なストリートブランドのライセンスや商標の有効性等に関する事柄であるから、公共性があることは明らかである。 (2)公益性 Eiは、Licentia社から原告SIのライセンスや商標権が無効であるとの情報提供を受けたため、本件告知行為1を行った。すなわち、ライセンスや商標権が無効になると、商品の販売停止や回収を行わなければならなくなるなど重大な不利益が生じるため、同じ「マーク・ゴンザレス」ブランドの商品を扱う豊島社やしまむら社の権利利益を保護する等の目的で、事実確認を促したのである。したがって、本件告知行為1に公益性があることは明らかである。 (3)真実性 ア 告知事実@について 本件ライセンス契約の有効期間は2020年12月31日までであり、2021年1月1日から同年12月31日までの期間は、2020年12月31日までに製造した在庫商品の処分のために継続販売を認めた期間にすぎない(乙3)。したがって、被告の原告SIに対するライセンスの有効期間は過ぎており、告知事実@は重要な部分において真実である。 イ 告知事実Aについて 原告らは実質的に一体の関係にあるところ、原告SGは過去にロイヤリティを支払っていなかったのであるから(乙4)、原告SIにおいてロイヤリティの不払があったともいうことができる。したがって、告知事実Aは重要な部分において真実である。 ウ 告知事実Bについて 後記のとおり、原告SIが製品化の際に被告の承認を得ていない旨の告知事実Bは、重要な部分において真実である。 エ 告知事実Cについて 被告は、原告らに対し、本件ライセンス契約の解除や商標の返還等を求める通知を複数回行っている。したがって、告知事実Cは重要な部分において真実である。 オ 告知事実Dについて 告知事実Dにおいて重要な部分は、原告SIが被告の渡していないアートワークを無断でサブライセンシーに使用させているという点であり、インターネット上で入手しているという点ではない。そして、原告SIは、被告が提供していないにもかかわらず、被告から全て購入したという名目で、サブライセンシーに対して被告のアートワーク等を提供し、被告に無断でその使用を許諾している。したがって、告知事実Dは重要な部分において真実である。 カ 告知事実Fについて 告知事実Fにおいて重要な部分は、被告が本件商標1及び2について無効審判や損害賠償請求を行うなど、原告らに対して法的措置をとっているという部分であるところ、被告は既に本件商標1及び2の無効審判請求をしている。したがって、告知事実Fは重要な部分において真実である。 (原告SIの主張) (1)公共性 「公共の利害に関する事実」とは、専らそのことが不特定多数人の利害に関するものであることから、不特定多数人が関心を寄せてしかるべき事実をいうものと解される。そして、告知事実@ないしD及びFは、原告らと被告との間の契約関係に起因するものであり、およそ不特定多数人が関心を寄せてしかるべき事実とはいえない。したがって、告知事実@ないしD及びFについて公共性は認められない。 (2)公益性 Eiは、自身の経営するSHIFFON社において、原告SIから「マーク・ゴンザレス」ブランドのライセンスを受けていたライセンシーである。そして、Eiは、本件告知行為1より前に、原告SIとの間で度々契約違反に該当する行為を行っていた。そこで、原告SIがこの点を糾弾したところ、本件告知行為1に及んだ上、本件の問題発生後、被告とEiは結託し、SHIFFON社が被告の日本国内のライセンシーになった旨を公表した。 上記の経緯に照らせば、被告は、原告SIに悪い感情を抱いているEiと結託し、原告らが多額の出資をして育てたブランド及びこれにより生じる収益を自らのものにしようと企て、Eiに各種の情報を伝えた上で、同人と共同で虚偽の事実を流布したと考えるほかない。 したがって、本件告知行為1の主たる目的は、原告らの権利を侵害し、その利益を自らが横取りする点にあると認められ、少なくとも、「専ら公益を図る目的」など存在しない。 (3)真実性 ア 告知事実@について 乙3号証が作成されたのは2021年4月12日であり、かつ、同通知書は被告が原告SGの代表者に対して一方的に送付した解除通知にすぎないから、原告SGと被告との間に何らの合意を形成するものではない。甲13号証を見れば明らかなとおり、本件ライセンス契約は2021年12月31日まで有効であって、告知事実@は真実ではない。 イ 告知事実Aについて 被告は、原告SGが過去にロイヤリティを支払っていなかったことがあると主張して乙4号証を挙げるが、乙4号証は当該事実を立証するものではない。 原告SGは、2010年11月から2019年12月までの間、毎年その年のライセンス料4万ドルないし5万ドルを送金している。しかしながら、2014年から、被告の入金拒否によりライセンス料が返金されてしまうようになり、最終的に被告は、ライセンス料受領拒絶分27万ドルを支払ってほしい旨申し出た。そこで、原告SGがその根拠を質問したところ、被告は、本件ライセンス契約の継続を認め、そのロイヤリティの支払であることを明言したため、原告SGは、2020年7月にライセンス料の受領拒絶分と2021年度の前払ロイヤリティを合算して支払った。 したがって、少なくとも原告SGは、本件ライセンス契約に基づくライセンス料相当額について履行の提供をしており、ライセンス料不払という事実は存在しない。 ウ 告知事実Bについて 告知事実Bは、告知事実@及びAと併せ読むと、原告SIは、製品化の際に被告の承認を得なければならないにもかかわらず、これを得ておらず違法であるという事実を摘示するものと解するのが相当である。しかしながら、後記のとおり、原告らは、全ての商品について、被告の承諾を得ていたか又は本件ライセンス契約9条に基づき商品を販売する正当な権限を有していたから、告知事実Bは、重要な部分において真実ではない。 エ 告知事実Cについて 告知事実Cは、他の告知事実と併せて伝えられたものであるところ、告知事実Cは、原告らに非があるから契約の無効や解除の通知をされたという意味を含むものである。したがって、摘示された事実は、「被告が原告らに対して契約の無効や解除の通達を行っており、それが正当な根拠に基づくものである」という事実であるから、重要な部分において真実であるとはいえない。 オ 告知事実Dについて 告知事実Dは、告知事実Bと同様、原告SIが「本来被告の許可を取らなければならないのに、無許可でアートワーク等を使用している」という事実を摘示するものであり、告知事実Bと同様に、重要な部分において真実ではない。 カ 告知事実Fについて 告知事実Fは、他の告知事実と併せ読むと、「被告が原告SIに対して本件商標1及び2の無効審判や損害賠償請求等の法的措置をとる予定であり、それが正当な根拠に基づくものである」という事実を摘示するものであり、重要な部分において真実であるとはいえない。 6 争点2−3(本件不法行為1に係る公正な論評の法理の成否) (被告の主張) 原告らの名誉権侵害の主張について、告知事実Eは法的な見解であるところ、以下のとおり、公正な論評の法理として違法性を欠くため、不法行為は成立しない。 (1)真実性 原告らは、被告の知的財産に係る商標を用いて被告が日本国内で行う「マーク・ゴンザレス」ブランドに関するビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負っている。それにもかかわらず、原告SIは、被告が原告SGに一定の条件付きで被告の知的財産に係る商標を権利保護の目的で出願することを許諾したことや、被告自身が本件各商標の出願をしていないことを奇貨として、被告が本件商標1及び2を始めとする被告の知的財産に係る商標を用いて日本国内でビジネスを行うことを妨げ、他方で、被告の名声や顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る目的で本件商標1及び2の出願をしている。 これらの事情からすると、本件商標1及び2は、公正な取引秩序を害し公序良俗に反することになるため、商標法4条1項7号により無効である。 また、本件商標1及び2は、その登録出願時から現在に至るまで、被告又は被告が選んだライセンシーの製品を表示するものとして日本及び米国で需要者の間に広く認識されている標章と類似するほか、原告らの上記不正の目的を併せ考慮すると、本件商標1及び2は、商標法4条1項19号により無効である。 したがって、告知事実Eは、その前提としている事実が主要な点において真実である。 (2)意見・論評の域内にあること 告知事実Eは、原告SIのライセンスに関する事実や法的見解にすぎず、原告らについて人身攻撃に及ぶような不適切な表現を含むものではないから、意見・論評としての域を逸脱していないことは明らかである。 (原告SIの主張) 告知事実Eは、そもそも意見や論評ではない。 7 争点2−4(本件不法行為1に係る正当防衛又は緊急避難の成否) (被告の主張) 商標権やライセンスが正当なものであるか否かは、そのブランドを取り扱う事業者にとっては極めて重要なものであり、これが仮に正当ではない場合には真の権利者から商品の製造販売の差止請求や損害賠償請求を受けたり、レピュテーションを毀損されたりする可能性がある。 そのため、Eiは、SHIFFON社、豊島社及びしまむら社がこのような事態に陥ることを回避し、それぞれの権利利益を保護するために本件告知行為1を行い、原告らへの事実確認を促したのであって、本件告知行為1は、SHIFFON社、豊島社及びしまむら社が受ける不利益の大きさに鑑みれば、やむを得ない範囲の行為である。したがって、本件告知行為1は、正当防衛又は緊急避難に当たり、違法性がない。 (原告SIの主張) 上記のとおり、Eiは、原告SIとの間で度々契約違反に該当する行為を行っていたことを原告らから糾弾されて本件告知行為1に及んだ上、本件の問題発生後、被告とEiは結託し、SHIFFON社が被告の日本国内のライセンシーになった旨を公表した。 このような経緯に照らせば、Eiは、被告と結託して、自らが正規のライセンシーとなり、原告らの利益を害して、自らの利益を図るために本件告知行為1に及んだことは明らかであり、「自己の正当な利益を擁護するため」に当該行為に及んだわけではないから、正当防衛や緊急避難が成立する余地はない。また、本件告知事実1の内容自体、全くの虚偽であり、その観点からも、正当防衛や緊急避難が成立する余地はない。 8 争点2−5(本件不法行為1に係る故意又は過失の有無) (原告SIの主張) Eiは、原告SIからライセンスを受けていたサブライセンシーであるから、本件告知事実1に係る情報を入手したのであれば、原告SIに対して確認をするのが当然の対応である。それにもかかわらず、そのような確認を取っていないことからすれば、Eiが、これらの断片的かつ一方的な情報を入手したことを利用して、自らが原告らの本件ライセンス契約に基づくマスターライセンシーとしての地位を奪い取ろうと企て、秘密裏に原告らの取引先各社に情報を提供したことは明らかである。 また、そもそも原告らは共同不法行為を主張しているのであり、Eiの主観的な認識というのは、Eiの責任を阻却する事情にはなり得ても、全ての事情を把握している被告の責任を阻却することにはならない。 (被告の主張) 仮に真実性の抗弁及び公正な論評の法理により違法性が阻却されないとしても、Eiは、本件告知事実1及びその前提となる事実について、Licentia社の担当者から、資料を確認するなどして説明を受けたものであるから、Eiがこれらを信じたことには相当の理由があった。したがって、Eiには故意又は過失が認められない。 9 争点3(本件告知行為1に先立つ被告の不法行為〔本件不法行為2〕の成否) (原告SIの主張) 被告がEiに対し、本件告知事実1及びそれに係る情報を提供したこと自体、原告SIの名誉権や営業権を侵害する不法行為を構成する。 (被告の主張) 上記のとおり、Eiに対して本件告知事実1及びそれに係る情報を提供したのは被告ではなく、Licentia社の担当者である。同人は、被告の指示を受けることなく、自発的にEiに対して当該情報提供をしているのであるから、この点について被告に不法行為が成立する余地はない。 10 争点4−1(本件不法行為3に係る権利侵害の成否) (原告SIの主張) (1)本件告知行為2の内容 本件告知行為2に係る本件警告書面においては、G「本件ライセンス契約の関連条項では、被告がその使用目的を事前に承認した場合に限り、原告らがマーク製品及び知的財産を使用することが明示的に制限されています。本件ライセンス契約では、被告は自らの単独かつ絶対的な裁量で当該承認を留保できるとされています。本件ライセンス契約では、原告らがサブライセンスを許諾する権利を、被告が承認した『画像及びデザイン』に限定しています。したがって、被告が事前に承認しない限り、原告らはマーク製品及び知的財産を製造・販売する権限を持ちませんでした。原告らは、被告が一切の承認を行っておらず、貴社にサブライセンスを許諾する権限を有していないことを十分認識しています。また、一定期間の非通信状態に対して暗黙の許諾を求める条項もありません。」、H「仮に原告らが被告の承認を得ていたとしても、本件ライセンス契約は2020年12月31日をもって失効・終了しました。この原告らの権利の消滅に伴い、貴社のサブライセンスも2020年12月31日に消滅しました。(中略)繰り返し強調しますが、本件ライセンス契約は2020年12月31日に失効し、その後更新されていませんでした。」、I「本件ライセンス契約の現状にかかわらず、貴社は、ライセンス満了日である2021年12月31日以前に生産された正規の在庫と確認できるマーク製品及び知的財産の販売・使用を継続することができますが、2022年1月1日以降は、マーク製品の販売及び知的財産権の使用を中止しなければなりません。また、被告の知的財産について、原告らが過去に商標登録を取得し、更に追加出願を続けているにもかかわらず、本件ライセンス契約では、原告らがこれらの登録や出願を被告に引き渡さなければならないことになっています。したがって、貴社は、2021年12月31日以降も新たにマーク製品の販売を継続するための準備を原告らとの間で行わないよう注意してください。」と記載されていた(以下、本件警告書面に記載されたこれらの事実を「告知事実G」ないし「告知事実I」といい、併せて「本件告知事実2」という。)。 (2)被告の不法行為 本件告知行為2に係る本件警告書面には、原告らのサブライセンシーに対するサブライセンスが正当ではないという事実、本件ライセンス契約が2020年12月31日に失効したという事実、原告らが保有する被告に関連する商標は全て被告に返還しなければならず、2021年12月31日以降、原告らのサブライセンシーが被告に関連した商品の製造・販売ができないという事実が摘示されている。 このような内容の書面がサブライセンシーに届けば、原告SIの社会的評価が低下して名誉権が侵害されるほか、円滑な業務遂行が阻害され、営業権が侵害されることは明らかである。したがって、被告による本件告知行為2は、原告SIの名誉権及び営業権を侵害する。 (被告の主張) 本件告知行為2により、原告らが、被告の承認を得ることなくサブライセンスを行っていることが知られることになるが、このような事実を知られたからといって、原告SIの社会的評価は低下しない。 また、本件告知行為2を受けて、原告SIがサブライセンシーへの説明や対応を行ったとしても、それは日常業務の範囲にすぎないし、ハワード社やシアーズ社が原告SIとのライセンス契約を打ち切っていないことに鑑みても、本件告知行為2により原告SIの業務が妨害されたとはいえない。 11 争点4−2(本件不法行為3に係る真実性の抗弁の成否) (被告の主張) 仮に本件告知行為2によって原告SIの社会的評価が低下するとしても、本件告知行為2には、以下のとおり、真実性の抗弁が認められるため、違法性がない。 (1)公共性 本件告知事実2の内容は、「マーク・ゴンザレス」ブランドという世界的にも著名なストリートブランドのライセンスに関する事柄であるから、公共性があることは明らかである。 (2)公益性 本件告知行為2は、原告SIのサブライセンシーに対して、被告の承認のない「マーク・ゴンザレス」ブランドの商品を在庫販売期間満了後は販売しないよう求めるものであり、被告の権利利益を保護するとともに、「マーク・ゴンザレス」ブランドの非正規品の蔓延による事業者や消費者の混乱を防ぐ目的を有するから、公益性があることは明らかである。 (3)真実性 後記争点8において述べるとおり、原告らは「マーク・ゴンザレス」ブランドの製品を製造する際に、被告の承認を取っておらず、サブライセンシーの商品に原告SIの判断で承認を与えている。 また、原告らは、ハワード社やシアーズ社の販売する商品に用いている被告のアートワーク等は本件ライセンス契約の対象にならず、本件音楽契約の対象であるため、被告の承認は不要であると主張するが、被告のアートワーク等は本件ライセンス契約の対象であるから、被告の承認は必要である。 したがって、本件告知事実2の内容は、重要な部分において真実である。 (原告SIの主張) (1)公共性 本件告知事実2は、原告らと被告との契約問題に起因するものであり、およそ不特定多数人が関心を寄せてしかるべき事実などとはいえない。したがって、本件告知事実2に公共性は認められない (2)公益性 「マーク・ゴンザレス」ブランドは、原告らが多額の資金を投じて確立させたブランドであるところ、被告が本件告知行為2をした目的は、原告らの運営するブランドの取引先を奪い取り、不当に利益を搾取しようというものであるというほかなく、専ら公益を図る目的でなされたものであるなどと評価することは不可能である。 (3)真実性 ア 告知事実Gについて 後記争点8において述べるとおり、原告らは、全ての商品について、被告の承認を得ていたか、あるいは、本件ライセンス契約9条に基づき商品を販売する正当な権限を有していたから、告知事実Gは真実性を欠く。 イ 告知事実Hについて 被告自身が認めるとおり(甲13)、本件ライセンス契約は2021年12月31日まで有効であるから、告知事実Hは真実性を欠く。 ウ 告知事実Iについて 本件音楽契約に関する成果物の著作権は、原告SIに帰属するところ、原告らはサブライセンシーとの間で、2022年1月1日以降も、本件音楽契約の成果物に関するライセンス契約を締結することができ、サブライセンシーらも当該ライセンス契約に基づく商品の製造販売が可能である。 また、本件本訴商標権についても、原告SIに帰属するものであり、被告に返還する必要はない。したがって、告知事実Iは真実性を欠く。 12 争点4−3(本件不法行為3に係る正当防衛の成否) (被告の主張) 被告は自身のアートワーク等を利用する権限を有しているところ、本件告知行為2はこれを擁護するために行われたものである。そして、これまで原告らに対して、契約の解約や商標の返還等を求めてきたにもかかわらず、原告らが応じなかったため、やむを得ずサブライセンシーに直接通知書を送ったのであって、被告が受ける不利益の大きさに鑑みれば、このような手段を取ることもやむを得ないといえる。また、サブライセンシーに対しては、商品の販売をしないよう求めるにとどまり、殊更高額な賠償金の請求等を行っていないから、その方法・内容において社会通念上やむを得ない範囲の行為であるといえる。 したがって、本件告知行為2は、正当防衛に当たり違法性がない。 (原告SIの主張) 争う。 13 争点4−4(本件不法行為3に係る故意又は過失の有無) (原告SIの主張) 被告には故意又は過失が認められる。 (被告の主張) 被告は自身の権利利益を保護するため、やむを得ず本件告知行為2を行っており、故意又は過失がない。 14 争点5(本件各不法行為に係る損害額) (原告SIの主張) (1)逸失利益について 原告SIは、豊島社との間でライセンス契約を締結していたが、本件各不法行為により同契約は打切りとなり、原告SIは豊島社からのライセンス料収入を失った。他方、原告SIと豊島社との契約は3年以上の間継続し、売上げも年々上昇しており、原告SIの2021年度における豊島社からのライセンス料収入は8189万1436円に上る。このような状況においては、原告SIと豊島社との契約関係は、よほど大きな問題が起きない限り終了するはずはなかったものであり、本件各不法行為がなければ、原告SIは引き続きライセンス料収入を得られていたはずであった。 また、原告SIは、ハワード社との間ではライセンス契約を継続しているところ、ハワード社は、2022年1月から7月の間において、前年より8%増の3408万4769円を売り上げている。ハワード社と豊島社は、製造商品がアパレル商品との点で類似しており、業態や売上規模も近似しているから、原告SIは、豊島社についても、2022年において前年度8%増の8844万2751円(税別)の売上げが見込まれていたといえる。したがって、当該金額が1年分のライセンス料相当額の逸失利益に当たる。 そして、本件各不法行為と相当因果関係のあるライセンス料相当額の逸失利益は、諸般の事情を考慮すれば、3年分を下らない。 したがって、本件各不法行為による逸失利益は、少なくとも2億6532万8253円(税別)である。 (2)無形損害について ハワード社とシアーズ社に関しては、契約関係の終了といった明確な損害は生じていない。しかしながら、原告SIはこれらの会社やその顧客に対して、自社が提供するライセンスに法的な問題が存在しないことの説明等に追われた上、ハワード社又はシアーズ社の取引先の中には、本件争いの決着が着くまでは取引を見合わせるとの結論に至ったものもあった。また、原告SIは社会的評価及び信用の著しい低下という損害を被っている。 これらの事情に照らせば、原告SIが被った無形損害は、原告SIの令和3年度1年分の税引き前当期利益である1億1623万3122円を下らない。 (被告の主張) 原告SIは、本件各不法行為により豊島社が原告SIとのライセンス契約を打ち切ったため、豊島社から得られたはずのライセンス料相当額が原告SIの逸失利益であり、更に原告SIの令和3年度1年分の税引き前当期利益が無形損害として生じている旨主張している。 しかしながら、豊島社は、Eiによる本件告知行為1が行われても、原告SIとのライセンス契約を2021年12月まで継続しており、これは豊島社が原告SIのライセンスについて疑義がないと判断したからといえる。そうすると、本件告知行為1とほぼ同様の内容である本件告知行為2が行われたからといって、豊島社が改めて原告SIのライセンスに疑義を持ち、契約を打ち切るとは考えられない。そもそも、原告らと豊島社とが締結した「マーク・ゴンザレス」ブランドに関するライセンス契約の期間は2021年12月31日までであり、かつ、それ以上の更新はできない内容となっているから(乙95、110)、同日に原告らと豊島社との契約が終了したのは、単に契約期間が満了したからにすぎない。そして、豊島社が、原告らとの間で「WhatitisNt」ブランドについてライセンス契約を締結しなかったのは、同契約についてのビジネスリスクを慎重に検討したからであり、本件各告知行為によるものとはいえないから、これについて損害の発生及び因果関係を認めることはできない。 また、原告SIは、ハワード社から得ていた2021年のライセンス料を根拠に、2022年に豊島社から得られたであろうライセンス料を計算しているが、何ら根拠のない計算である。同様に、無形損害についても、計算根拠について具体的な主張立証がない。 15 争点6−1(本件各著作物に係る著作権の原始的帰属) (原告SIの主張) (1)準拠法 著作権の発生については、発生地の法律(本源国法)が準拠法となるため、米国著作権法が適用される。また、職務著作の準拠法は、「その性質上、法人その他使用者と被用者の雇用契約の準拠法における著作権法の職務著作に関する規定によるのが相当である」と解され、米国著作権法が適用される。 (2)被告とBiによる共同著作 そもそも、本件各著作物を含むアルバムは、原告SIの依頼に基づき、Bi及びCujo社に雇用されていた被告が、Cujo社の業務の一環として共同で制作したコラボレーションアルバムである。 もっとも、原告らにおいて、厳密にどちらがどの部分の制作を行ったのか不明であるが、少なくとも、楽曲(音)、歌詞、イラスト、言葉遣い、色付け、データ変換等の役割を両名が担い、制作が行われた(甲23〔2条4号〕、甲26〔2条〕)。なお、2000年当時、被告はパソコンを使用する技術を有していなかったため、少なくとも、イラストのデータ化、色付け、組合せといった作業は、物理的にもBiが行うほかなかった。 そして、米国著作権法上、共同著作物は、「2人以上の著作者が、それぞれの寄与を分離不可分な、あるいは、相互に依存する部分から構成される単一物に統合する意図を持って作成した作品」と定義される。すなわち、分離不可分であるか、分離が可能であってもそれぞれに相互依存性が認められる場合には共同著作物になると定義している。 これを本件についてみると、本件各著作物を含むアルバムは、いずれもBiとCujo社に雇用されていた被告が共同で制作したものであり、イラスト、歌詞、デザイン、音楽が一体となっており、そもそも分離不可分な性質のものである。また、仮に分離可能であったとしても、両名のコラボレーションアルバムであり、被告も、Biの楽曲にインスピレーションを受けてイラストを描いているのであって、相互依存性が認められることは明らかである。 したがって、本件各著作物は、BiとCujo社に雇用されていた被告との間で制作された共同著作物である。 仮に、日本法を準拠法とした場合であっても、Cujo社の従業員であった被告とBiは、共同でコラボレーションアルバムを制作するという意思の下、共同で創作活動を行い、Biが作曲を行い、かつ、アートワーク等の色付け、配置設置、サイズ変更等を行っており、本件各著作物は分離することができないため、「二人以上の者が共同で創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(著作権法2条1項12号)に該当し、共同著作物となる。 (3)職務著作 上記のとおり、本件各著作物を含むアルバムは、Biと被告によって共同で制作されたものであるが、制作当時、被告はCujo社に雇用されていた(甲27)。そして、本件雇用契約書1条には、「被告がCujo社のウェブサイト、アートワーク、出版、映像、スポーツ活動のためにコンテンツを開発及び制作しなければならない義務がある」旨明示されている。 米国著作権法は、雇用関係にある者がその雇用の範囲内で創作した著作物は、当事者が署名した書面で別段の合意をした場合を除き、職務著作物に当たると定めているところ、本件においては、被告がCujo社の従業員として、Cujo社が締結した本件音楽契約に基づき、本件各著作物を創作しているから、本件各著作物の著作者及び著作権者は、被告ではなくCujo社である。 また、Cujo社及びBiを意味する「Artists」が対価の受領権限を有することなどを定めた本件音楽契約の内容等に照らせば、同契約に係る成果物の制作者は「Artists」であり、権利の移転・設定を行うのも「Artists」と解するしかないのであるから、被告が創作した全ての本件各著作物に関して、職務著作が成立することは明らかである。 (4)その他 本件音楽契約に署名したのは被告自身なのであるから、被告が同契約に署名した時点で、「Artists」に権利が全て移転した状態になるとの同契約の前提事項を自認したことになる。したがって、仮に被告に何らかの権利が帰属していたとしても、本件音楽契約に署名したことにより、当該権利が「Artists」に移転したと評価できるし、被告自ら本件音楽契約に署名した以上、同契約締結後20年も経過してからこれに矛盾する権利主張をすることは、禁反言の原則に抵触し、信義則上認められない。 なお、被告が職務著作を否定する主張の根拠とするFiの宣誓供述書(乙148)は、被告がCujo社の従業員であった時期に制作した物の権利がCujo社に帰属するとFi自身が明言していた事情(甲60、61)と完全に矛盾しており、被告の恣意的な見解に依拠して作成された虚偽の供述書であることは明らかである。 (5)小括 以上によれば、本件各著作物に関する著作権は、共同著作権として、Cujo社とBiに原始的に帰属したものといえる。 (被告の主張) (1)準拠法 著作権の発生については、著作権の内容や効力が保護国の法令によって定められることなどから、保護国の法令を基準に準拠法を決定するべきである。そして、共同著作及び職務著作については、いずれも著作権の発生に係る問題であるから、保護国法が準拠法となる。 (2)共同著作 本件各著作物は被告が制作したものであり、Biは共同制作者ではない。具体的には、本件各著作物のうち、本件著作物Fは、「エンジェル」等と称されるキャラクターを描いたイラストであり、被告がCujo社設立前に創作したものである。したがって、本件著作物Fは、本件音楽契約とは無関係の著作物であり、当然のことながら、Biは何ら制作に関与していない。 本件F以外著作物の制作は、着色も含めて被告が単独で行っている。他方、Biは、原告SIに電磁的記録として提出するために、被告から受け取った本件F以外著作物を単に整え、コンピュータプログラムを使用してサイズを変更した後、送信する作業を行ったのみであり、Biが本件F以外著作物の制作に寄与したといえないことは明らかである。 実際、Biは、宣誓供述書(甲26)の内容を訂正する中で、本件各著作物の制作には一切関わっていないことを認めている(乙99)。 したがって、米国法が準拠法となる米国における著作権、及び日本法が準拠法となる日本における著作権のいずれを前提としても、本件各著作物は共同著作物に該当しない。 (3)職務著作 職務著作の成立について、日本法では、法人の発意に基づく業務に従事する者が職務上作成した著作物であることが要件に含まれ、これらは実態を踏まえて判断される(著作権法15条)。また、米国法においても職務著作の成立を判断するに当たっては実態的な判断がされる。 本件各著作物については、以下の事情からすれば、職務著作に該当しないことは明らかである。 ア 本件各著作物の制作当時の被告の執務状況 本件各著作物の制作をしていた当時、被告は、被告自身の裁量で時間、場所、期間を決めて作業を行っており、他者から業務スケジュールを定められたり、指示を受けたりすることはなかった。加えて、Cujo社から他の業務への従事を制限されたこともない。 また、当時のCujo社は企業としての実体を有しておらず、特に事業を行うこともなかった。このことは、被告と当時配偶者だったFiの自宅を本店としていたことからも明らかである。さらに、Cujo社には給与計算の担当者や福利厚生制度自体がなく、被告はCujo社から給与や福利厚生費等の付加的な給付も受け取ったことはない。 このように、被告は自らの責任と裁量で本件各著作物の制作を行っており、被告がCujo社の従業員であったと評価する余地はない。 イ 雇用契約は成立していないこと そもそもCujo社は、被告の収入に対する課税を回避する目的で設立された企業であって、従業員を雇用して事業を行うことを想定しておらず、実際に備品も一切有しておらず、資産は銀行口座の預金のみであった。 確かに、被告とCujo社との間では、1999年に本件雇用契約書(甲27)が作成されている。しかしながら、同契約書においては、@6条(機密保持)に機密として扱う情報の記載が欠落していること、Aグアム州で事業を行う予定はないのに、9条(競業避止義務)ではグアム州のみが適用範囲とされていること、B11条の「有給休暇」の内容は定められておらず、休暇申請の提出先とされている「直属の上司」も存在していないこと、C12条から14条までのその他の有給休暇に関する規定も実際に取得することを想定していないこと、DCujo社はネバダ州の法人であるにもかかわらず、26条ではワイオミング州法に準拠することを定めていること、E1条では、行う予定のない業務について被告がサービスを提供すると定められていること、以上のとおり、実際の適用を想定していない規定が多数存在する。このような本件雇用契約書の内容からすれば、被告とCujo社において、実際に雇用関係を結ぶ意図がなかったことは明らかである。 ウ 米国著作権法101条に該当しないこと 本件各著作物が米国著作権法101条2項に該当しないことは明らかであるから、本件では同条1項該当性、すなわち被告がCujo社の「従業員」に該当し、かつ、その職務の範囲内で本件各著作物を作成したといえるか否かが問題となる。 この点につき、同条1項にいう「従業員」の解釈については、裁判例(乙112)において、必要とされる技能、使用される道具等の所有主体、作業場所、期間、使用者が追加的な作業を課す権利を有しているか否か、いつ、どの程度作業するかについての使用者の裁量の範囲、報酬の支払方法、アシスタントの雇用・給与支払に関する役割、使用者が雇用により著作物の制作を行うことを事業として通常行っているか否か、福利厚生等手当の支給、税金の取扱いといった各種事情を考慮して判断することとされている。 本件においては、上記ア及びイによれば、被告がCujo社の「従業員」であったことを基礎付ける事情は何ら存在しない。したがって、被告は、米国著作権法上の職務著作の定義における「従業員」に該当しないから、本件各著作物について職務著作は成立しない。 (4)小括 以上によれば、本件各著作物に係る著作権は、被告に原始的に帰属したものといえる。 16 争点6−2(本件音楽契約に基づく著作権の移転) (原告SIの主張) (1)準拠法 被告は、著作権譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、契約等の債権行為と、その目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、後者については、保護国の法令が準拠法となる旨主張する。しかしながら、物権類似の支配関係の変動の場面において、保護国法令が準拠法となるのは、対第三者との関係では当該第三者を保護すべき要請が働くためである。他方で、契約当事者間で著作権譲渡の準拠法を検討する場合、著作権の譲渡や権利の設定は契約上の債権行為にほかならず、準拠法は著作権譲渡契約に定められた準拠法に従うと解すべきである。 そして、本件音楽契約の当事者は、Cujo社、Bi及び原告SIであり、被告も同契約の当事者ではないものの、本件の著作権確認請求(本件請求2)との関係で第三者にも当たらないから、本件の著作権の移転に関する準拠法は、本件音楽契約において定められたカリフォルニア州法となり、米国著作権法が適用される。 (2)本件音楽契約の解釈 本件音楽契約2条1項によれば、「MusicWorks」及び「SoundRecordings」に関する著作権は、同4条(3条の誤記と思われる。)に定める納品時に、原告SIに移転することとなっている。また、同2条2項で原告SIが「SoundRecordings」を自由に使用する「exclusiverights」が設定され、同2条3項で「CoverArtwork」等についても「exclusiverights」が設定されている。このように同2条1項において「SoundRecordings」の著作権が譲渡されている一方で、同2条2項で更に「exclusiverights」が設定されるのは不自然である。そして、原告SIが本件音楽契約に基づき制作物全ての権利を買い取っているという認識であったことや、同2条の各規定の内容に照らせば、本件音楽契約は、同2条1項において一切の制作物に関する著作権譲渡を行った上、その結果として生じる効果を、同2項と3項で確認的に規定したものと解釈するのが自然である。そうすると、本来同2条1項に「CoverArtwork」が挿入されるべきであったところ、それが漏れてしまったにすぎず、当事者の合理的意思解釈としては、上記のとおり本件音楽契約を解釈できるから、原告SIは、本件音楽契約に基づき、本件各著作物に係る一切の著作権の譲渡を受けているといえる。 仮に本件音楽契約2条1項について上記の解釈がとれないとしても、上記のとおり、本件の著作権の移転について米国著作権法が適用されるところ、米国著作権法101条は、著作権の所有権の譲渡には、独占排他的ライセンスの設定も含まれると規定しているから、独占排他的ライセンスの設定は、ライセンス対象である権利の譲渡とみなされる。 本件音楽契約についてみると、原告SIは、著作権の存続期間中、「CoverArtwork」及び「photographs」について、「AudioWorks」と「Artists」の宣伝目的のために再生し販売する「exclusiverights」(独占権)を保有する。そして、「CoverArtwork」は専ら「AudioWorks」であるアルバム「WhatitisNt」のために制作されたものであり、これをグッズとして販売することは、「AudioWorks」の宣伝目的になること、対象の商品が「T-shirts,etc.」と限定されていないこと、Tシャツ等を作成する上で当然に著作権の行使が想定されることに照らせば、原告SIは一切の著作権の譲渡を受けたとみなされるべきである。 また、本件音楽契約2条3項によれば、原告SIは、少なくとも複製、譲渡に関する「exclusiverights」を保有している。 (3)本件各著作物が本件音楽契約の成果物であること 本件F以外著作物は、いずれも本件音楽契約の成果物であることに争いはない。また、後記のとおり、本件著作物Fについても、被告が来日した際に、原告SIの求めに応じて創作したものであり、この際、原告SIは著作権がほしいと伝えて被告も了承していたから、本件音楽契約に基づいて著作権が譲渡されたものと認められる。 (4)被告の主張について 被告が指摘する裁判例(乙12)は、独占的ライセンスのライセンシーが著作権の所有権を保有することを否定するものではない。 また、被告の主張を前提とすると、本件各著作物の著作権はいずれも被告に帰属するから、Cujo社は無権限で、本件各著作物の移転に係る本件音楽契約を締結したことになるが、権利者である被告が同契約に署名したことによってこれを追認しているというべきであるから、この時点で被告からCujo社に対して本件各著作物の著作権が移転したといえる。 (5)小括 以上によれば、本件各著作物に係る日本法上の著作権及び米国法上の著作権は、いずれも本件音楽契約により原告SIに譲渡されており、原告SIに帰属しているといえる。 (被告の主張) (1)準拠法 著作権譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、譲渡の原因関係である契約等の債権行為と、その目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、前者については、法の適用に関する通則法附則3条3項により適用される法例7条1項に基づき、第一次的には当事者の選択によるというべきである。そして、本件音楽契約においては、準拠法をカリフォルニア州法と指定しているから、債権行為についてはカリフォルニア州法が準拠法となる。これに対して、後者については、一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、通則法13条はその趣旨に基づくものであるところ、著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有することから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に、著作権の変動についても、保護国の法令が準拠法になるというべきである。 本件各著作物はいずれも日本所在の原告SIに引き渡されていること、アルバム「WhatitisNt」は日本で発売、流通していたものであることから、保護国は日本というべきである。したがって、著作権の移転という物権類似の支配関係の変動については、日本法が準拠法となる。 (2)本件音楽契約の解釈 ア 本件音楽契約2条1項ないし3項によれば、「MusicWorks」及び「SoundRecordings」の著作権、すなわち楽曲に関する著作権は原告SIに帰属させる一方、CDジャケットや盤面のデザイン(CoverArtwork)に関する著作権は原告SIに移転せず、「AudioWorks」と「Artists」の宣伝目的での使用を許諾するにとどめることを明らかにしている。そして、本件各著作物が「MusicWorks」又は「SoundRecordings」に該当しないことは明白であるところ、日本の著作権法上、独占排他的か否かにかかわらず使用権の許諾と著作権の譲渡は明確に区別されているから、日本法が準拠法となる以上、本件音楽契約2条3項を著作権譲渡規定と解する余地はない。 イ 仮に米国法が準拠法となった場合であっても、米国著作権法上、独占的ライセンスの被許諾者と著作権者は明らかに区別されており、独占的ライセンスの設定が著作権譲渡とみなされることはない。例えば、米国著作権法201条(d)(2)は、独占的ライセンスの被許諾者は、著作権所有者に与えられる「保護及び救済」のみ与えられるとしているが、同条の規定が、独占的ライセンスの被許諾者と著作権者が異なる法的地位であることを前提としていることは明らかである。実際、米国の裁判例(乙12)では、独占的ライセンスの被許諾者は著作権者(所有者)であるという控訴人の主張を退けている。 ウ したがって、本件音楽契約には、本件各著作物に係る著作権を原告SIに譲渡することを定めた規定は存在しないといえる。 (3)原告SIの主張について ア 原告SIは、本件音楽契約について、当事者の合理的意思解釈としては、原告SIが本件各著作物に係る一切の著作権の譲渡を受けている旨主張するが、恣意的な解釈にすぎない。また、原告SIが株式会社ORGY及び韓国の企業であるBarrelsCo.,Ltd.(以下「Barrels社」という。)と2021年6月30日に締結したライセンス契約書(乙27)においては、「CoverArtwork」に相当する本件著作物AないしEについて韓国国内におけるBarrels社の「独占的使用権」を許諾すると記載されている一方、本件著作物FないしXに相当する著作物は、原告SIが所有する「著作権」について韓国国内におけるBarrels社の「独占的使用権」を許諾する旨記載されており、原告SIは「独占的使用権」と「著作権」を明確に書き分けている。そうすると、原告SIは、当該ライセンス契約締結日頃、本件音楽契約2条3項は「CoverArtwork」の著作権を譲渡するものではない旨理解していたといえる。 イ 原告SIは、米国著作権法101条を根拠に、本件各著作物に係る著作権が譲渡されている旨主張しているが、米国の裁判例(乙12)によれば、独占的ライセンスの許諾が用語の定義上「著作権の移転」(米国著作権法101条)に含まれるとしても、独占的ライセンスの許諾は著作権の譲渡(独占的ライセンスの許諾者が許諾対象の著作権を喪失し、被許諾者が当該著作権を取得すること)を意味せず、これらは異なる概念であるとされている。したがって、米国著作権法上、「著作権の移転」の定義に独占的ライセンスの許諾が含まれるとしても、このような許諾を著作権譲渡とみなす(許諾者が著作権を喪失し、被許諾者が著作権者になるとみなす)という取扱いはされていない。 17 争点6−3(本件権利譲渡契約に基づく著作権の移転) (原告SIの主張) (1)本件権利譲渡契約による著作権の譲渡 本件各著作物の著作権は、本件音楽契約に基づき原告SIに帰属しているが、原告SIは、念のため、Cujo社及びBiから、本件各著作物の著作権その他一切の権利の譲渡を受けた(甲23、26)。 具体的には、原告SIは、2022年6月14日、Biから、本件各著作物を含む本件音楽契約の成果物について、同契約2条で原告SIに譲渡済みの著作権を除く、一切の知的財産権及び本件音楽契約に関して有する一切の権利(同契約4条5項及び6条に定める権利を含む。)の譲渡を受けた。 また、原告SIは、2022年8月7日、Cujo社から、本件音楽契約3条に基づき原告SIに納品された音楽著作物、録音物、ジャケット作品(本件各著作物を意味する。)に関する、著作権を含む全ての知的財産権及び本件音楽契約に関して有する一切の権利(同契約4条5項及び6条に定める権利を含む。)の譲渡を受けた(本件権利譲渡契約)。 (2)Cujo社からの権利取得が可能であることについて ア Cujo社の法人格が消滅していないこと ネバダ州の法律によれば、ネバダ州法人は、毎年1回、会社の名称や役員の住所等を記載したリストを国務長官に提出しなければならないところ、提出を怠った場合、会社の認可は取り消され、事業を行う権利を喪失する。 しかるに、Cujo社は6年を超えてこの提出を怠ったことから、「permanentlyrevoked(永久失効)」と呼ばれる状態にあり、正式な解散(「Dissolution」)はしていない状態である。「permanentlyrevoked」の状態においては、規定の不払均等税と罰金を支払えば、いつでも、正常な状態へも、解散状態へも、それぞれ推移することが可能である。 そして、ネバダ州の法律によれば、会社は存在する限り契約締結権を有するところ、Cujo社は「permanentlyrevoked」の状態であり、営業行為を行う認可を取り消されているため、通常営業行為をすることはできないものの、精算行為のための契約締結はできる状態にあった。したがって、本件権利譲渡契約は精算行為として当然に有効である。 イ 表見法理について ネバダ州の法律によれば、万が一Fiに本件権利譲渡契約を締結する権限がなかったとしても、表見代理の法理により、同契約は有効に成立し、原告SIが契約に記載された一切の権利を取得する。 (3)被告の主張について 被告は、あたかも原告SIが本件権利譲渡契約の効力に疑問があることを認識しつつ、Fiを言いくるめて同契約を締結したかのような主張を行っているが、全く事実と異なる。すなわち、原告SIは、Fiが自ら、@本件音楽契約の権利関係がCujo社に帰属すると明言していること、A被告が従業員として制作した制作物の権利がCujo社に帰属することを明言していること、B積極的に本件雇用契約書等の関係資料を提供していること、C本件権利譲渡契約における表明保証条項を修正しなかったこと、以上を受けて契約を締結したものである。また、原告SIがFiに対して補償をしたのは、具体的な法的リスクが存在したからではなく漠然とした不安があったからにすぎない。そして、Fiから原告SIに対して10万米ドルが送金されたのも、本件権利譲渡契約の返金ではなく、別の支払にすぎない。 これに対し、被告が主張の根拠とするFiの宣誓供述書(乙148)は、上記のとおり、被告の恣意的な見解に依拠して作成された虚偽の供述書であることは明らかである上、両当事者の代表者の署名のある書面によらない限り本件権利譲渡契約は変更できないとの同契約9条の定めにも反するから、同宣誓供述書は効力がなく、証拠として採用することができない又は無価値である。 (被告の主張) (1)本件権利譲渡契約について ア Cujo社からの権利取得ができないこと Cujo社は、年次報告の提出を怠った等の理由により、基本定款の取消しを受けて法人としての権利能力を失っており、2012年5月1日には、復元不可能な永久取消(PermanentRevocation)の状態になっている(乙100)。したがって、同日以降、Cujo社は本件各著作物の著作権の譲渡を受けることも第三者に移転することもできない状態にあり、原告SIがCujo社から著作権を取得することはできなかった。 仮にCujo社が本件権利譲渡契約を締結する能力を有しているとしても、Cujo社の定款5条によれば、3分の2以上の持分を有する株主が承認しなければ、著作権を譲渡することはできない(乙115)。そして、被告とFiが2004年頃に離婚した際、それぞれCujo社の発行済株式を半数ずつ保有することになったため、被告が50%の持分を有しているが、被告は、本件権利譲渡契約に同意していない。したがって、本件権利譲渡契約は、Cujo社の定款5条に違反する会社資産の譲渡行為として無効である。 また、原告SIは、Fiと被告のCujo社における持株比率がそれぞれ50%であり、Fiが被告の同意なく本件権利譲渡契約を締結する権限を有していないと認識していた。さらに、原告SIは、Fiに対し、Fiが被告から同契約に関してクレームや金銭的要求を受けた場合は解決に協力し、補償を行う旨を伝えており、FiがCujo社を代表して同契約を締結する権限を有しておらず、これによってFiが被告からクレームや金銭的請求を受ける法的リスクを負うとの認識も有していた。そして、Fiが本件権利譲渡契約に基づいて原告SIから支払われた10万米ドルを全額返金していることにも鑑みれば、本件権利譲渡契約に、本件各著作物の著作権を移転する効力がないことは明らかである。 イ 表見法理について 原告SIは、表見代理の法理を主張するが、仮に原告SIが主張する表見法理の適用が認められたとしても、原告SI自身が積極的にFiに契約締結権限がある等の外観を作出していることから、原告SIを保護すべき理由はない一方、外観の作出について何ら帰責性のない被告の著作権が原告SIに移転することはあり得ない。 (2)Biとの契約について 上記のとおり、Biは、本件各著作物の制作に寄与しておらず、共同著作者に該当しない。したがって、原告SIがBiから本件各著作物の著作権の譲渡を受けることは不可能である。 18 争点6−4(本件著作物Fに係る著作権の帰属) (原告SIの主張) (1)主位的主張 ア 原告SIの代表者は、2001年1月22日頃に被告及びBiが来日した際、被告に対し、本件著作物AないしE(以下、本件著作物Eに含まれる鳥のイラストを「エンジェル1」という。)に加えて、もう少ししっかりした感じのエンジェルが欲しいと申し出た。これを受けて、Biは、原告SIに対し、本件音楽契約の成果物として、本件著作物F(以下「エンジェル2」ということもある。)を納品した。したがって、本件F以外著作物と同様に、本件著作物Fについても、本件音楽契約又は本件権利譲渡契約に基づいて、原告SIに著作権が譲渡されている。 イ 被告は、原エンジェルと本件著作物F(エンジェル2)は、実質的に同一の著作物であると主張する。しかしながら、これらのエンジェルを含めた各エンジェルは、いずれも、羽を広げている鳥に、目を点で、口を1本の曲線で描いた極めてシンプルなありふれたデザインとなっているところ、このようなシンプルで創作性の表れている部分が限られている著作物の保護範囲は極めて限定的に解釈されるべきであるから、それぞれのエンジェルは別個の著作物と解釈するほかない。 したがって、原エンジェルの存否にかかわらず、本件著作物F(エンジェル2)の著作権は、原告SIに帰属する。 (2)予備的主張 仮に各エンジェルが別個の著作物とは解されないとしても、全く同一ではないことは明らかであり、エンジェルの向きや表情といった相違点に創作的活動が認められるから、エンジェル1及び2は、原エンジェルの二次的著作物といえる。そうすると、本件著作物F(エンジェル2)の二次的著作権は、職務著作としてCujo社に帰属した後、本件音楽契約又は本件権利譲渡契約によって原告SIに譲渡されている。あるいは、本件音楽契約の契約書に署名をした被告において、二次的著作物であるエンジェル1及び2の使用について原著作権を行使しない旨の明示又は黙示の意思表示があったと解するべきである。 仮にエンジェル1及び2が原エンジェルの複製と評価される場合でも、本件音楽契約は、「CoverArtwork」も含めて成果物の著作権を原告SIに移転、設定しており、本件音楽契約の締結によって、被告は「Artists」であるCujo社及びBiに対して原エンジェルの権利を譲渡していると解するほかない。 また、仮に上記の点を措いても、被告は、本件音楽契約による権利の移転、設定に当たって、「Artists」であるCujo社とBiに対し、エンジェル1及び2に関する「exclusiverights」を原告SIに設定することを許諾しているのであるから、被告はエンジェル1及び2を使用することができない一方、原告SIは自由に使用することができるといえる。 (被告の主張) 被告は、2001年1月頃に来日した際、原告SIの求めに応じて本件著作物F(エンジェル2)を描いたことはあったが、著作権譲渡や使用許諾の合意等をしたことはない。 本件著作物F(エンジェル2)は、原エンジェルを再現したものであり、原エンジェルを反転させた上で太めの線で描いているという点で違いはあるものの、両者が実質的に同一の著作物であることは明らかである。 以上によれば、本件著作物Fは、被告がCujo社設立前に創作したものであるから、被告が著作権を有する著作物であるといえる。なお、被告は、BiやCujo社を含む第三者に対して本件著作物Fに係る著作権を譲渡したことはないから、本件音楽契約を通じて原告SIが本件著作物Fの著作権を取得することはあり得ない。 19 争点7(本件各商標権の返還義務及び返還協力義務の有無) (被告の主張) (1)本件ライセンス契約 ア 本件ライセンス契約11条は、原告らが、被告の知的財産に関して、被告の請求があれば直ちに返還することを条件として、被告の権利を保護する目的である場合に限り、商標登録等を行うことができる旨定めている。 同条の趣旨は、被告が米国に居住していることもあり、アジア地域における被告の知的財産に係る商標権等の権利を保護する必要が生じた際は、一次的に原告らを通じた権利保護を図ることにより、被告の権利を迅速かつ確実に保護する点にあった。そして当然ながら、最終的には被告がこれらの権利の返還を受けることが予定されていた。 このような本件ライセンス契約の目的に加え、@本件商標権1及び2が、本件ライセンス契約に違反しないように、同契約の締結直前に原告SGに移転されていること、A同契約11条が本件商標2を何の留保もなく含む形で規定しており、本件商標1も含む規定ぶりになっていること、B本件ライセンス契約の許諾対象が本件商標1及び2の指定商品を踏まえて設定されていること、Cエンジェルや被告自身の略称等に関する商標権について、被告が原告らに半永続的な権利帰属を認めるはずがないこと、D2014年頃、被告が原告らに商標の返還等を求めたところ、原告らは返還の対象については修正を求めなかったこと、E2021年4月12日頃、被告が原告らに対して被告の知的財産に係る商標の返還等を求めたところ、原告らは商標の返還義務を否定するような回答をしなかったこと、以上の事実からすれば、本件ライセンス契約締結以前に出願、設定登録された本件商標1及び2も、本件ライセンス契約11条の適用対象になるといえる。 したがって、本件ライセンス契約期間中に出願された本件商標3はもとより、本件ライセンス契約締結以前に出願された本件商標1及び2についても、原告らは、被告に対して商標権返還義務を負う。 イ 同様に、本件商標4及び5についても、本件ライセンス契約締結後に出願されているため、原告らは、被告に対し、本件ライセンス契約11条に基づく返還義務を負う。 ウ 本件各商標につき、反訴請求が認められる理由も上記と同様である。 (2)原告らの主張について ア 信義則違反について 争う。 イ 商標権の時効取得について 原告らは、本件商標権1及び2の時効取得を主張している。しかしながら、仮にこれらの時効取得がされたとしても、結局被告が主張している本件ライセンス契約に基づく返還請求権が障害され、消滅され又は阻止されるものではないから、原告らの主張は抗弁として成立せず、時効取得の主張は、主張自体失当である。また、被告が原告らに対して行った商標の返還を求める通知(甲8、乙3、5ないし7)のいずれからも時効期間が経過していないことは明らかである。 仮に商標権の時効取得の主張が論理的には抗弁として成り立つとしても、商標権に準占有の規定は適用されないこと、商標権について時効を原因とする登録が想定されていないことからすれば、商標権の時効取得は観念できない。 また、仮に商標権の時効取得が観念できるとしても、原告らは、被告の許諾を得て本件商標1及び2を使用していたにすぎないから、これらの商標を排他的に支配していたとはいえず、商標権を行使した(民法163条)といえない。さらに、原告SIは、本件ライセンス契約を締結した2010年時点で本件商標権1及び2の返還義務を認識していたから、善意無過失といえない。したがって、本件商標権1及び2の時効取得は認められない。 (原告らの主張) (1)商標権返還義務等の不存在 ア 被告は、本件ライセンス契約11条に基づき、原告らが本件各商標を被告に返還する義務を負うなどと主張する。しかしながら、そもそも、本件ライセンス契約が締結されたのは2010年12月8日である一方、本件商標1が出願されたのは2003年3月17日であり、本件音楽契約に関連して出願されたものであることは明らかである。本件商標2についても、2002年11月25日に出願されており、本件ライセンス契約とは無関係に出願されたものであることが明らかである。また、本件商標3のAは、本件商標1の下に「WhatitisNt」のロゴを挿入したものであり、本件商標3のBは「WhatitisNt」のロゴそのものであるから、やはり本件音楽契約に関連して出願され、登録されたものであることは明らかである。 そもそも、本件ライセンス契約の対象デザインは、1条に記載のとおり被告が創作し、かつ、権利を有するデザインであるところ、本件商標1及び3のデザインは、被告がCujo社の従業員として創作し、本件ライセンス契約締結の10年以上前に原告SIが著作権を譲り受けたものであるし、本件商標2についても、本件ライセンス契約締結の10年以上前に原告SIが商標権を譲り受けているのであるから、いずれについても被告が本件ライセンス契約締結当時に権利を有していないことは明白である。したがって、本件商標1ないし3のデザインは、本件ライセンス契約の対象デザインではない。 以上によれば、本件ライセンス契約に基づき原告らが本件本訴商標権返還義務を負うとの被告の主張は、明らかに失当である。 イ 本件商標4及び5についても、原告SIが、本件音楽契約によって複製・配布権を専有するデザインであるから、本件ライセンス契約に基づきこれらの商標に係る商標権返還義務を負うことはない。 ウ 本件各商標につき、反訴請求が認められない理由も上記と同様である。 (2)信義則違反 本件商標1及び2は、2003年及び2004年にそれぞれ登録されたところ、被告はそれを認識しながら、本件紛争が生じるまでおよそ20年もの間、本件商標1及び2について、何ら異議を述べなかった。それどころか、被告は、本件商標2については、出願についての承諾も行っている(甲12)。本件において、突如として被告が無効審判請求を行ったのは、原告らが多額の資金を投じて育てたブランドが、ここ数年ようやく利益を生み出すようになったため、当該利益を不当に奪取しようと考えたからにほかならない。 このような事情に照らせば、被告が今になって本件商標1及び2の無効や返還を求めるのは、権利の濫用であるといわざるを得ず、信義則上そのような主張は認められない。 また、本件商標3が登録されたのは、2021年9月27日であるが、本件商標3は、上記のとおり、本件音楽契約に基づき20年近くの間、原告らが善意かつ平穏に使用していたロゴを付加したものと、ロゴそのものであるから、本件商標1と同様に、被告が無効や返還を求めるのは権利の濫用であり、信義則上許されない。 (3)商標権の時効取得 無体財産権に準専有が認められる(民法205条)以上、商標権についても民法163条の適用が観念できる。 原告SIは、本件商標1及び2の各登録時点において、自らに正当な権限が存在すると確信していた。そして、当該登録以来、「自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と」、本件商標1及び2の準専有を行っており、本件商標1については2013年3月16日に、本件商標2については2014年4月15日に、それぞれ取得時効が完成している。 したがって、仮に本件商標1及び2について商標権返還義務が認められるとしても、本件商標権1及び2は原告SIに帰属する。 20 争点8(本件ライセンス契約の債務不履行による損害賠償債務の有無) (被告の主張) 原告らは、以下のとおり、本件ライセンス契約上の義務の履行を怠り、これにより被告に著しい損害を与えている。なお、本件ライセンス契約の準拠法はニューヨーク州法とすることが合意されている。 (1)商標権返還義務違反(本件ライセンス契約11条) 本件ライセンス契約11条によれば、原告らは、被告から請求を受けたときは、速やかに本件各商標権を被告に移転する義務がある。しかしながら、原告らは、遅くとも2020年3月頃には、被告から、日本における登録商標を含む被告の知的財産に係る商標権返還の請求を受けているにもかかわらず、本件各商標権を現在まで一切返還していないばかりか、本件商標権1及び2を原告SGから原告SIに移転するなど、返還を拒否する姿勢を明確にしている。 本件本訴商標は、本件ライセンス契約の終了後、被告が新たなライセンシーを選任し、日本国内でライセンス事業を継続するに当たり必要かつ重要な商標であり、原告らの上記債務不履行による被告の損害は、5000万円を下らない。 (2)製品化の承認取得義務違反(本件ライセンス契約3条) ア 本件ライセンス契約7条によれば、原告らにはデザインごとに1つのサンプル提供が義務付けられているところ、仮に、デザイン又はサンプルのいずれか一方のみ被告の承認を得ればよいのであれば、デザインについて承認を得た場合には、サンプルの提供義務が免除されるはずであるが、本件ライセンス契約にそのような規定は存在しない。そして、同契約3条は、原告らが製品化を進める際に、被告の事前承認を得なければならない旨を定めているが、上記サンプル提供義務を踏まえれば、同条第1文は、原告らが、デザインとサンプルの双方について被告の承認を得なければならない旨を規定したものであることは明らかである。 したがって、原告らは、本件ライセンス契約3条に基づき、製品化を進める際にデザインとサンプルの双方について被告の承認を得る義務を負うが、原告らは、デザインについて被告の承認を得ていない上、サンプルについても被告に送付すらしておらず、被告の承認を得ていない。 イ これに対し、原告らは、本件ライセンス契約9条を理由に、被告から承認を得る必要がなかった旨主張しているが、同9条は、「被告が同5条に定めるデザイン又は承認を提供しないことにより」、本件ライセンス契約に違反した場合、原告らは被告の承諾を得ずに保有する全ての素材を使用することができるというものであるところ、同5条に「承認」という文言は用いられていないから、被告が原告らの承認申請に対して「承認」しなかった場合であっても、同5条には違反せず、同9条を適用する前提を充足することにはならない。 また、同5条にいうデザイン提供義務は保証義務でなく努力義務であり、飽くまで原告らによる要求がなければ被告にデザイン提供義務違反はない。 仮に同9条の適用があるとしても、同3条により、製品化の承認について被告が唯一絶対の裁量という非常に強い権限を有していることを踏まえれば、原告らが同9条により使用できるのは、被告が過去に製品化を承認した「Materials」に限られると解するべきである。したがって、同9条は、被告の承認を擬制する規定ではないから、当該規定を理由に、原告らが被告の承認を得ているということはできない。 ウ そして、原告らが被告のエージェントに対して送った承認申請メール(乙28ないし70)のほとんどは、2021年7月以降のものであり、本件ライセンス契約の有効期間のうち極めて限定的な期間にすぎない。また、乙93号証等の製品は原告らがサブライセンシーに製品化を承認したものであるが、これらの製品に関して原告らから被告のエージェントに対して送付された承認申請メールは、上記承認申請メール(乙28ないし70)の中には存在しない。しかも、原告SIは、SHIFFON社から承認申請のメールを受領した僅か39分後に、同社に対して承認する旨の回答を送信するなど(乙120)、被告からの承認を得ていないのに承認を得た旨の回答を行ったことが複数回ある(乙121ないし123)。さらに、原告らが提出した承認メールの保存フォルダ(甲51)をみても、2014年以降のフォルダしか存在しておらず、2013年までは承認申請をしていなかったことが明らかである。 エ したがって、原告らは、本件ライセンス契約3条に基づいて被告の承認取得義務を負うにもかかわらず、被告の承認を得ることなく、被告の知的財産を使用した製品を製品化し、自ら又はサブライセンシーをして製造販売を行わせてきた。このような原告らの債務不履行による被告の損害は、5000万円を下らない。 (3)小括 以上によれば、被告は、原告SGに対して、商標権返還義務及び製品化の承認取得義務に係る債務不履行に基づき、少なくとも1億円の損害賠償請求権を有している。 (原告らの主張) (1)商標権返還義務違反(本件ライセンス契約11条) 前記争点7において主張したとおり、原告らは本件ライセンス契約に基づいて本件各商標権の返還義務を負うものではない。したがって、商標権返還義務違反は存在しない。 (2)製品化の承認取得義務違反(本件ライセンス契約3条) ア 本件ライセンス契約5条によれば、被告に新デザイン提供義務が定められているが、同9条によれば、被告が同5条に定めるデザインを提供しないことにより同契約に違反した場合、原告SGは、被告の承認を取得することなく、自身の保有する全ての素材を自由に利用する権利を有していた。 そして、被告は、本件ライセンス契約を無視し、一切の新デザイン等を原告らに提供しておらず、同5条の定めに違反していたから、原告らには、同9条に基づき、自身の保有する全ての素材を利用する権利が発生しており、そもそも被告の承認は不要な状況であった。また、原告らは、万全を期す意味で、全ての販売予定のデザインを添付した承認申請メールを被告に送付し、承認又は代替案の提供期限である14日の経過をもって、当該デザインの利用を開始するという運用を行っており、この点についても同9条が適用される。 したがって、原告らは、全ての商品について、被告の承認を得ていたか、あるいは、本件ライセンス契約9条に基づき商品を販売する正当な権限を有していた。 イ 被告は、デザインとサンプルの双方について被告の承認が義務付けられているなどと主張するが、本件ライセンス契約3条は、「デザイン又はサンプル」の承認について記載しており、「デザイン及びサンプル」とは記載されていない。また、同7条は、販売する商品のサンプルをライセンサーに提供するというライセンス契約の一般的な内容を規定しているにすぎず、同3条の解釈とは全く関連しない。 加えて、原告らは、2010年から2021年12月31日までの間、数千にわたる被告のデザインを使用した商品を展開しており、同一の手順で商品の承認依頼のメールを送付し、商品の販売を行ってきたが、本件紛争に至るまでの間に一度たりとも被告からこれを問題視されたことはない(甲58)。被告自身も、2020年7月17日の時点で、それ以前の契約行為は正常に行われてきたことを認めた上で、2021年12月31日まで本件ライセンス契約が有効であることを認めているのであるから(甲13)、被告においても、デザイン又はサンプルのいずれかについて承認を得れば足りることを理解していたことは明らかである。 したがって、サンプル制作前のデザインについて、必ず承認が必要であるとの解釈は成立しない。 ウ 被告はサンプルが送付されていない旨主張するが、被告は2013年頃住所を変更しており、原告SIから新住所を教えてほしいと連絡をしても返答がなかったため、原告SIは被告に対し、希望があれば可能な限り対応するので連絡をするよう伝え、事務所に可能な範囲でサンプルの現物を保管するという対応をとった(甲59)。この際、原告SIは、被告が原告らに対して新住所を通知しない限り、被告が本件ライセンス契約7条で有する「無償サンプル享受権」の放棄とみなすことも宣告している。 エ 被告は、本件ライセンス契約9条の「承認」は、同3条の「承認」を意味しないことを前提としているが、これは、文面にも当事者の合理的意思にも合致しない恣意的な解釈である。 また、被告は、同9条に基づき原告らが利用できるのは、被告が過去に製品化を承認した「Materials」に限られる旨主張しているが、本件ライセンス契約が、被告がアーティストとして制作した一切のデザイン及び個人的情報を原告らに提供し、原告らがそれをアパレル商品として展開することができるという契約であることからすると、そのように限定して解釈するべきではない。 さらに、被告は、同5条について、原告らからの要求がなければデザイン提供義務を負わないと主張しているが、同5条が提供義務を明確に規定していることに反した解釈である。 オ 原告らが製品化を承認した製品であると被告が主張するものは、具体的なデザインや販売の有無も不明であるが、このうち唯一デザインが掲載されている製品リスト(乙93)については、承認申請メールが存在している(甲50)。さらに、被告の承認を得ていない証拠として提出されているメール(乙120ないし123)については、原告らとSHIFFON社とのサブライセンス契約に基づいて同社のデザインを承認したものにすぎない。 また、2021年6月以前の承認申請メールが存在しないという被告の主張は、明らかな誤りであり、原告らは、契約終了に至るまでの間、被告に対して、数千から1万程度の承認申請のメールを送付している(甲51)。 カ したがって、製品化の承認取得義務違反は存在しない。 (3)小括 以上によれば、原告SGにおいて本件ライセンス契約の債務不履行による損害賠償債務は存在しない。 第4 当裁判所の判断 前記第2の1(1)のとおり、原告らは、スケートボーダー兼アーティストとして活動する米国居住の被告との間で、被告のアートワーク等に係る本件ライセンス契約を締結し、当該アートワーク等の著作物、当該著作物又は被告の氏名等を使用した商標その他の知的財産を使用して商品化ビジネスを広く展開した。その後、被告が上記知的財産を自己に返還するよう求めたのに対し、原告らが上記知的財産は上記契約に基づき自己に帰属すると主張して、商品化ビジネスを継続した。そのため、被告は、日本国内のサブライセンシーや販売店に対し本件紛争に関する警告書の送付等をしたのに対し、原告らは、これを不法行為であるなどと主張して、本件訴えを提起した。 このように、本件は、上記知的財産の帰属を中核的争点とするものであるから、本件事案に鑑み、日本における国際裁判管轄権の有無(後記第5。争点1−1)を判断した上、まず著作権(後記第6。争点1−3及び争点6)及び商標権(後記第7。争点1−2及び争点7)の各帰属を、次に本件ライセンス契約の債務不履行による損害賠償債務の有無(後記第8。争点8)を判断した後、当該各判断を踏まえ、本件各不法行為の成否(後記第9。争点2ないし4)を最後に判断することとする。 第5 国際裁判管轄権の有無(争点1−1) 1 管轄権の有無 (1)本件請求1(不法行為に基づく損害賠償請求) 民訴法3条の3第8号は、不法行為に関する訴えにつき、不法行為があった地が日本国内にあるときは(外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)、日本の裁判所に提起することができる旨規定するところ、不法行為があった地とは、加害行為が行われた地と結果が発生した地の双方が含まれると解するのが相当である。そして、民訴法3条の3第8号に基づき日本の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには、被告の応訴負担に係る合理的な理由及び国際社会における裁判機能の合理的な分配という観点からすれば、被告が日本においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足り、違法性又は故意過失の証明を要しないものと解するのが相当である(最高裁平成12年(オ)929号、同(受)第780号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁参照)。 これを本件請求1についてみると、証拠(甲5、6)及び弁論の全趣旨によれば、少なくとも本件不法行為3に関する訴えについては、違法性又は故意過失の有無は格別、被告が本件警告書面を日本国内において原告SIのサブライセンシー等に送付したことにより、日本に所在する原告SIの社会的評価が低下したという客観的事実を認めることができる。そうすると、本件不法行為3に関する訴えについては、加害行為が行われた地と結果が発生した地は日本国内にあるといえる。 これに対し、本件不法行為1及び2に関する請求は、米国に在住する被告が日本国内においてこれらを行ったことが証明されていないものの、本件と同一紛争を原因として本件不法行為3と同種の事実を摘示したものであり、少なくとも本件不法行為3に基づく損害賠償請求との間に密接な関連があるものといえる。そうすると、本件不法行為1及び2に関する訴えは、民訴法3条の6に基づき、日本の裁判所に提起することができるものといえる。 したがって、本件請求1に関する訴えは、日本の裁判所に提起することができる。 (2)本件請求2(著作権の確認請求) 民訴法3条の3第3号は、財産権上の訴えにつき、請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる旨規定している。 これを本件請求2に関する訴えについてみると、本件請求2のうち日本法上の著作権を有することの確認を求める訴えは、当該著作権によって日本において保護される著作物を確認の対象とするものであるから、請求の目的が日本国内にあるものといえる。そうすると、上記訴えは、日本の裁判所に提起することができるものといえる。 そして、上記訴えと、本件請求2に関する訴えのうち米国法上の著作権を有することの確認を求める訴えは、同一の著作物に係る著作権を確認の対象とするものであるから、両者の請求との間に密接な関連があるといえる。そうすると、本件請求2のうち米国法上の著作権を有することの確認を求める訴えは、民訴法3条の6に基づき、日本の裁判所に提起することができるものといえる。 したがって、本件請求2に関する訴えは、日本の裁判所に提起することができる。 (3)本件請求3(商標権の確認請求) 上記(2)と同様に、本件請求3に関する訴えは、本件本訴商標権によって日本において保護される本件本訴商標を確認の対象とするものであるから、請求の目的が日本国内にあるものといえる。 そうすると、上記訴えは、日本の裁判所に提起することができるものといえる。 なお、本件請求3に関する訴えのうち本件商標3に関する部分は、被告が日本の裁判所が管轄権を有しない旨の抗弁を提出しないで本案について弁論をしていることからすれば、日本の裁判所は、民訴法3条の8に基づいても、管轄権を有するものといえる。 (4)本件請求4(本件ライセンス契約に基づく商標権返還義務等の不存在確認請求) 本件請求4に関する訴えは、被告が日本の裁判所が管轄権を有しない旨の抗弁を提出しないで本案について弁論をしていることからすれば、日本の裁判所は、民訴法3条の8に基づき、管轄権を有するものといえる。 そうすると、本件請求4に関する訴えは、日本の裁判所に提起することができる。 (5)本件請求5(本件ライセンス契約に基づく損害賠償債務の不存在確認請求) 本件請求5は、本件各商標権に係る返還義務等の有無などにおいて、本件各不法行為の告知内容に係る真実性等と実質的に争点を同じくするものであるから、本件請求1との間に密接な関連があるものといえる(民訴法3条の6)。 そうすると、本件請求5に関する訴えは、日本の裁判所に提起することができるものといえる。 2 被告の主張に対する判断 被告は、本件音楽契約及び本件ライセンス契約上の専属的管轄合意に基づき、本件請求1、2及び3(ただし、本件請求3は本件商標1及び2に係る部分に限る。以下、本項において同じ。)並びに本件請求5に関する訴えは、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク群の連邦裁判所若しくは州裁判所又はカリフォルニア州の裁判所が専属的管轄権を有し、日本の裁判所は管轄権を有しない旨主張する。 しかしながら、前記前提事実によれば、被告は本件音楽契約の当事者ではなく、原告SIは本件ライセンス契約の当事者ではないことからすると、少なくとも本件請求1、2及び3に関する訴えについては、原告SI又は被告は専属的管轄合意をしていない以上、被告の主張はその前提を欠く。他方、本件請求5は、本件ライセンス契約における原告SGの債務不履行に基づく損害賠償債務の不存在を確認の対象とするものであるから、上記にいう専属的管轄合意の効力が及ぶものといえるが、本件請求5は、本件請求1との間に密接な関連があることは、上記において説示したとおりである。 そして、公益性に照らして優先して適用する必要がある法定専属管轄の場合とは異なり、当事者の合意による専属的裁判管轄の場合には、密接に関連する複数の紛争を同一の手続において矛盾抵触なく解決することを優先すべき場合があるといえるから、本件請求5に関する訴えは、上記において説示したところを踏まえると、上記専属的管轄合意にかかわらず、民訴法3条の6に基づき、日本の裁判所が管轄権を有するものと認めるのが相当である。 したがって、被告の主張は、採用することができない。 3 小括 以上によれば、日本の裁判所は、本件の全ての請求につき、その管轄権を有するものと認められる。 第6 著作権の帰属 1 はじめに (1)判断順序 本件音楽契約の当事者は被告ではなくCujo社であるから、本件音楽契約の効果によって被告の保有する著作権が原告SIに当然に移転するものではない。もっとも、原告SIは、被告が本件音楽契約に秘書(ItsSecretary)として署名したことにより、被告からCujo社に対して著作権が移転する法的効果が生じ、原告SIがCujo社から著作権の移転を受けた旨主張するため、本件訴訟の経過に鑑み、当該主張の採否を判断する前提として、本件の中核的争点である本件音楽契約の効力につき先に判断する。 (2)宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権を有することの確認の利益の有無(争点1−3) 原告SIは、予備的請求2において、本件宣伝目的(本件著作物A及びB記載のアルバム「WhatitisNt」、Cujo社並びにBiの宣伝目的)に限定された複製権及び譲渡権(日本及び米国)を有することの確認を求めている。しかしながら、本件宣伝目的という一義的に明確とはならない事情に左右される複製権及び譲渡権というものは、取引の実情に鑑みると、その権利範囲が極めて不明確になるため、社会通念に照らし、著作物の公正な利用を損なうおそれがあるというべきである。そうすると、本件宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権は、確認の対象とすべき権利関係とはいえないと解するのが相当である。したがって、予備的請求2は、不適法なものとして却下を免れない。 これに対し、原告SIは、米国著作権法201条(d)(2)は、106条に列挙する権利を含む、著作権に含まれるいかなる排他的権利も移転することができる旨規定するため、本件宣伝目的に限定された複製権及び譲渡権も確認の対象となる旨主張する。しかしながら、同条は、上記にいう「排他的権利」の細分化の限度を具体的に明記するものではなく、本件事案において結論を導くに必ずしも適切なものとはいえず、原告SIの主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 2 本件音楽契約に基づく著作権の移転(争点6−2) (1)準拠法 契約による著作権譲渡の成否という法律関係の性質は、当該契約の効力をいうものであるから、単位法律関係としては、法の適用に関する通則法7条にいう「法律行為の成立及び効力」に該当する。そして、同条によれば、上記法律関係には、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法が適用されることになるから、本件音楽契約において指定されたカリフォルニア州法が適用されると解するのが相当である。 (2)本件音楽契約の規定の内容 前記前提事実によれば、本件音楽契約は、著作権の移転等につき、2条及び6条各項において、次のとおり規定している。 ア 2条 (ア)音楽作品及び録音物の著作権は、第4条に定める納入マテリアルの納入時に原告SIに移転される(2条1項)。 (イ)原告SIは、コンパクトディスク、音楽テープ、DVDその他の媒体(以下「音響作品」という。)により録音物の全部又は一部をこれらの著作権の保護期間中、日本、米国、ラテンアメリカ及び欧州を含み、かつ、これらに限定されない世界各国(以下「ワールドワイドベース」という。)において、インターネット等の通信ネットワークを通じて再生、配給、リリース、演奏、放送、送信し、かつ、その他の手段により活用する独占権を有する(2条2項)。 (ウ)原告SIは、音響作品及びアーティストの宣伝目的のため、音響作品と併せてTシャツ等用に製作される一切のアルバムカバーアート及び/又は写真を、これらの著作権の保護期間中、ワールドワイドベースで再生して販売する独占権を有する(2条3項)。 (エ)原告SIは、音響作品及びアーティストの宣伝目的のため、被告及びBiの名前を使用する権利を有する(2条4項)。 イ 6条 (ア)アーティストは、音響作品のリリースに併せて制作される全ての作曲、Tシャツ及び/又は宣伝資料に対し完全な制作管理権を保有する(6条1項)。 (イ)全ての商品デザインは、制作前に両アーティストによる書面での承認を得なければならない(6条2項)。 (ウ)アーティストがデザイン申請を受領してから30日以内に、アーティストにより承認又は拒絶されない場合には、原告SIは、アーティストの承認なくデザインを制作する権利を有する(6条3項)。 (3)本件著作物の帰属等 本件音楽契約2条の各規定によれば、音楽作品及び録音物と、アルバムカバーアート等に区分した上、前者にあっては移転(shallbetransferred)という文言を、後者にあっては独占的権利付与(shallhavetheexclusiverights)という文言を、それぞれ使用しており、移転と独占的権利付与とを異なる概念として書き分けていることが認められる。その上、本件音楽契約6条は、アーティストがTシャツ及び・又は宣伝資料に対し完全な制作管理権を保有するとし、商品デザインは、アーティストの書面による承認を得る必要がある旨規定している。 これらの事情の下においては、本件音楽契約2条の各規定に係る当事者の合理的な意思解釈としては、本件音楽契約における音楽作品及び録音物については著作権が譲渡されるのに対し、アルバムカバーアート等については宣伝目的のため独占的に使用する権利が付与されるにとどまり、その著作権は譲渡されていないものと解するのが相当である(同旨をいう裁判例として、知的財産高等裁判所令和6年8月8日判決〔乙172〕、韓国特許法院2023年10月18日判決〔乙167〕、韓国ソウル中央地方法院2024年2月8日判決〔乙169〕各参照)。 (4)原告SIの主張に対する判断 ア 原告SIは、「SoundRecordings」については、著作権譲渡と独占的権利付与の両者が定められているのであるから、本来「CoverArtwork」についても、著作権譲渡と独占的権利付与の両者が定められるべきであるのに、「CoverArtwork」が著作権譲渡の対象から単に漏れてしまったにすぎない旨主張する。しかしながら、著作権譲渡に関する規定と、独占的権利付与に関する設定があえて別々に設けられているにもかかわらず、「CoverArtwork」については、著作権譲渡に関する規定にあえて加えなかったのであるから、かえって当事者の合理的意思解釈によれば、「CoverArtwork」については著作権譲渡の対象としない旨合意したものと認めるのが相当である。したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 イ 原告SIは、本件音楽契約2条3項が「shallhavetheexclusiverights」と規定しているのであるから、その規定文言自体から、少なくとも「reproduceandsell」(複製〔再生〕と譲渡〔販売〕)に関する著作権を保有している旨主張する。 しかしながら、本件音楽契約においては「shallhavetheexclusiverights」という文言と「shallbetransferred」という文言を書き分けていることは、上記において説示したとおりであり、「shallhavetheexclusiverights」という文言は、少なくとも本件音楽契約における当事者の意思解釈としては、独占的使用許諾による効果をいうものにすぎず、上記文言が譲渡を意味するものと解することはできない。この点につき、米国著作権法101条は、譲渡(assignment)と独占的使用許諾(exclusivelicense)を異なる概念として書き分けているところ、上記において説示したところによれば、上記文言は、譲渡(assignment)を意味するのではなく、独占的使用許諾(exclusivelicense)を意味するものと解するのが相当である。その余の原告SIの主張も、本件音楽契約の文脈を離れ、「theexclusiverights」いう文言自体の意義を抽象的に論ずるものに帰し、当該契約の当該文言に係る当事者の合理的意思解釈が問題とされる本件に適切ではない。 したがって、原告SIの主張は、いずれも採用することができない。 ウ 原告SIは、米国著作権法101条が、著作権の所有権の譲渡には独占排他的ライセンスの設定も含まれると規定しているため、独占排他的ライセンスの設定は、権利の譲渡とみなされる旨主張している。 そこで検討するに、米国著作権法101条は、「『著作権の移転』(transfer)とは、著作権又は著作権に含まれるいずれかの排他的権利の譲渡(assignment)、モーゲージ設定、独占的使用許諾(exclusivelicense)その他の移転、譲渡又は担保契約をいい、その効力が時間的又は地域的に制限されるか否かを問わないが、非独占的使用許諾を含まない。」と規定している。 そして、同法201条(d)は、「(1)著作権は、あらゆる手段による譲渡又は法の作用によって、その全部又は一部を移転することができ、また、遺言によって遺贈し又は無遺言相続法によって人的財産として移転することができる。(2)第106条に列挙する権利を含む、著作権に含まれるいかなる排他的権利も、上記第(1)節に規定するとおり移転し、また、個別に保有することができる。特定の排他的権利の保有者は、かかる権利の範囲内で、本編が著作権者に対して認める全ての保護及び救済を受けることができる。」と規定している。 上記の各規定は、「譲渡」(assignment)と、「独占的使用許諾」(exclusivelicense)とを異なる法的概念として明記した上、排他的権利の保有者は、著作権者に対して認める全ての保護及び救済を受けることができると規定して、その受けることができる範囲につき、保護及び救済に限定している。そうすると、独占的使用許諾を受けた者の法的地位は、保護及び救済の限度で著作権者と同一のものであるにすぎず、これを超えて、著作権そのものを譲渡し得るものではないから、この点において著作権者と全く同一の法的地位に立つものということはできない(同旨をいうものとして、Gardnerv.Nike,Inc.,〔9thCir.2002〕〔乙12〕参照)。したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 エ 原告SIは、仮に職務著作が成立しない場合には、本件音楽契約の締結により被告からCujo社に著作権が移転したと解釈されるべきである旨主張する。しかしながら、本件音楽契約は、本件各著作物に係る著作権の譲渡を定めたものではなく、独占排他的ライセンスを定めたものであることは、上記において説示したとおりであり、原告SIの主張は、その前提を欠く。そうすると、そもそも被告からCujo社に対し著作権譲渡がされたことまで認めることができないことは明らかである。したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 3 共同著作者性(争点6−1〔本件各著作物に係る著作権の原始的帰属〕) 本件著作物Fについては、被告が単独で制作したことにつき、当事者間に争いはないため、本件F以外著作物の共同著作者性につき、以下検討する。 (1)準拠法 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約5条2項は、著作物の保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、専ら、その保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる旨規定しているところ、法の適用に関する通則法は、上記範囲及び方法を単位法律関係とする規定を、上記と別異に設けるものではない。 そうすると、著作物の保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法という法律関係に適用される準拠法は、当該著作物の保護が要求される同盟国の法令(以下「保護国法」という。)をいうものと解するのが相当である。 そして、共同著作者性という法律関係の性質は、当該著作物に係る権利の帰属主体及び範囲をいうものであるから、上記にいう「著作物の保護の範囲」に該当すると解するのが相当である。 そうすると、これらの法律関係には、当該保護国法として、日本で保護される著作権については日本法が、米国で保護される著作権については米国法が、それぞれ適用されると解するのが相当である。 (2)認定事実 ア 証拠(甲20、乙98、99)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、2022年11月30日付けの陳述書において、被告が本件音楽契約に基づき本件F以外著作物を全て単独で制作し、Biが、原告SIの用途に適するようにレイアウトと体裁を整え、これを原告SIに電子的に送信した旨陳述している。 他方、Biは、2022年6月24日付けの陳述書(甲26。以下「Bi第1陳述書」という。)においては、(1)著作物が、原告SIからの依頼に基づき、私と被告との共同作品として制作されたこと、(2)私と被告は、作曲、歌詞、イラスト、言葉遣い、色付け、データ変換等の役割を分担したこと、(3)私は、著作物によって生じる一部又は全ての権利について一定のシェアを受ける権利を有していますなどと陳述している。 これに対し、その後Biは、2022年11月7日付けの陳述書(乙99。以下「Bi第2陳述書」という。)においては、Bi第1陳述書の内容は当時正しいと信じていたものの、更なる見直しと回想を経ると不正確又は不完全なものであること、私の知る限り、カバーアートは全て被告が単独で作成したもので、私が作成したものではなく、私はカバーアートを一切制作していないこと、被告がカバーアートを作成した後、被告は私にこれを提供し、私はその作品をレイアウトしてフォーマットし、コンピュータプログラムを使ってカバーアートを原告SIの意図する用途に適したサイズに変更した後、原告SIに電子的に送信したこと、Bi第1陳述書の別紙Aに記載されたカバーアートの作成について、レイアウト、フォーマット、色付け、サイズ変更以外には一切関与していないこと、以上の事実を陳述している。上記のほか、本件F以外著作物の制作につき、Biが関与したことを裏付ける客観的証拠は提出されていない。 イ 上記各陳述書によれば、Bi第1陳述書の内容自体も、共同制作したと抽象的にいうにとどまり、具体的に自らが関与した部分及び態様を指摘するものではない。のみならず、Biは、Bi第2陳述書において、Bi第1陳述書の陳述の信用性を真っ向から否定し、被告の陳述内容に沿う事実関係を正しいものとして改めて陳述し直すなど、本件F以外著作物の制作に関する肝心な陳述内容を大きく変遷させていることが認められる。 これらの事情の下においては、Biは、被告が単独で作成した本件F以外著作物につき、原告SIに送信するに当たり原告SIの用途に適するようにレイアウトと体裁を整えたにすぎず、Biが本件F以外著作物の制作に関与した事実を認めるに足りないというべきである。 これに対し、原告SIは、2022年8月7日付け本件権利譲渡契約2条(Cujo社の表明及び保証。甲23)において、「本著作物は、原告SIの依頼により、Cujo社とBiの共同制作として制作された」と表明保証されていることをも根拠として、共同著作が成立すると主張する。 しかしながら、上記にいう表明保証は、Cujo社の代表者であるFiが行ったものであり、Biは、そもそも本件権利譲渡契約の当事者でなく、しかも、Biは、その後Bi第2陳述書を作成し、上記の表明内容に反する陳述をしていることからすると、本件権利譲渡契約の内容は、前記認定を左右するものとはいえない。その他の原告SIの主張も、上記各陳述書の内容等に鑑み、いずれも採用することができない。 (3)共同著作者性の存否 日本の著作権法2条1項12号によれば、共同著作物とは、2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいい、米国著作権法101条によれば、共同著作物とは、2人以上の著作者が、各々の寄与を分離できない又は相互に依存する部分からなる単一物に統合する意図を持って、作成されたものをいう。 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、Biは、被告が単独で作成した本件F以外著作物につき、原告SIに送信するに当たり原告SIの用途に適するようにレイアウトと体裁を整えたにすぎず、Biが本件F以外著作物の制作に関与した事実を認めることができない。 したがって、日本法においても米国法においても、Biは、共同著作者ということはできない。 これに対し、原告SIは、本件各著作物を含むアルバムは、いずれもBiと被告が共同で制作したものであり、イラスト、歌詞、デザイン、楽曲が一体となっており、そもそも分離不可分な性質のものであるし、仮に分離可能であったとしても、両名のコラボレーションアルバムであり、被告も、Biの楽曲にインスピレーションを受けてイラストを描いているのであるから、相互依存性が認められる旨主張する。しかしながら、上記にいうカバーアートは、歌詞、楽曲等の著作物とは分離可能な著作物であることは自明であり、Biは、単一物としての当該カバーアートにつき、原告SIに送信するに当たり原告SIの用途に適するようにレイアウトと体裁を整えたにすぎないものである。そうすると、当該事実関係を前提とすれば、原告SIの主張は、前記判断を左右するものとはいえない。 したがって、原告SIの主張は、いずれも採用することができない。 4 職務著作性(争点6−1〔本件各著作物に係る著作権の原始的帰属〕) (1)準拠法 著作物の保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法という法律関係に適用される準拠法は、保護国法をいうものと解されることは、前記において説示したとおりである。 そして、職務著作性という法律関係の性質は、共同著作者性と同様に、当該著作物に係る権利の帰属主体及び範囲をいうものであるから、上記にいう「著作物の保護の範囲」に該当すると解するのが相当である。 そうすると、これらの法律関係には、日本で保護される著作権については日本法が、米国で保護される著作権については米国法が、それぞれ適用されるものと解するのが相当である。 (2)認定事実 前記前提事実、証拠(甲23、27、28、53)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア 被告は、1999年10月1日、Cujo社との間で、本件雇用契約書を作成した。同契約書には、Cujo社が被告をエグゼクティブ・プロデューサーとして雇用し、被告がCujo社に対してCujo社のウェブサイト、アートワーク、出版、映画、スポーツ活動のためのコンテンツ開発及び制作に係るサービスを提供すること(1条)、Cujo社が被告に対して年棒5万ドルを支払うこと(3条)、被告が同契約終了後90日間はグアム州全域を含む地理的範囲において競業避止義務を負うこと(9条)、以上の定め等が記載されている。 イ 2000年11月1日から2001年10月31日までのCujo社の米国法人所得税申告書には、役員報酬として、被告に2万8448米ドルが、Fiに1万2000米ドルが、それぞれ支払われた旨記載されている。 ウ Cujo社の代表者としてFiが2022年9月22日に作成した在職証明書には、被告とCujo社が1999年10月1日に雇用契約を締結し、被告は2004年4月15日まで同社の従業員で、同社が給与を支払っていたこと、被告がこの間に作成した全ての著作物は、職務著作物であること、以上の内容が記載されている。 エ Cujo社は、2022年8月7日、原告SIとの間で、本件権利譲渡契約を締結した。同契約には、被告はCujo社の従業員として本件各著作物を制作しており、本件音楽契約に関連して被告が制作した全ての著作物には職務著作が成立する旨記載されている。 (3)原告SIの主張に対する判断 原告SIは、上記認定に係る本件雇用契約書、上記在職証明書及び本件権利譲渡契約の各内容によれば、被告はCujo社の従業員に該当する旨主張する。 しかしながら、Cujo社の代表者である当のFiは、2023年8月22日、カリフォルニア州マリン郡の公証人の立会いの下で宣誓供述書(乙148−1)を作成し、同供述書において、Fiは、1999年から2004年まで被告と婚姻関係にあったところ、Cujo社は、2000年4月頃、被告のアートワークのライセンスと被告の税金を節約する目的で設立されたこと、Cujo社は、被告の制作したアートワークについて、指示も監督もしていなかったこと、被告は、被告個人名義でアートワークを制作、発表し、これらのアートワークの一部についてCujo社がライセンスを与えることを許諾していたこと、以上の事実が記載されている。そうすると、F iが、上記在職証明書や本件権利譲渡契約において職務著作である旨述べていたことの信用性は、大きく減殺されているといえる。 そして、被告は、2023年4月21日付けの陳述書(乙114)において、Cujo社は、被告のタックスシェルターとして設立されただけであり、Cujo社には銀行口座以外のペン、鉛筆、紙、机、椅子、電話、コピー機等の設備や備品がなかったこと、被告には、勤務時間や勤務場所もなかったほか、誰も仕事の内容、やり方を教えてくれず、誰も材料、備品、機器を提供してくれず、誰も被告の作品を承認する必要はなく、誰も被告の作品を管理せず、被告の作るものに口を出されることもなかったこと、被告はいつもと同じように作品を作り、完全に自律しており、いつ、どこで、どのように仕事をするかは自分で決め、自由に作品を作り、Cujo社だけでなく、誰に対しても作品をライセンスすることができたこと、被告は、Cujo社に対し、知的財産に関するいかなる権利も譲渡又は移転したことはないこと、以上の内容を陳述している。 これらの事情を総合すると、そもそも本件雇用契約書、上記在職証明書及び本件権利譲渡契約によっても、具体的な被告の勤務状況やCujo社の事業実態は明らかではないところ、被告の上記陳述書によれば、本件雇用契約書が作成され、Cujo社の米国法人所得税申告書において被告に報酬が支払われた旨記載されている事情を考慮しても、Cujo社は、被告の収入に関する節税対策目的で設立された会社であり、そもそも事業の実態がないため、被告に対する指揮監督も一切なく、被告が自らの裁量で独立してアートワークを制作したものと認めるのが相当である。 そうすると、被告は、そもそもCujo社の従業員に該当するものと認めることはできない。したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 (4)職務著作性の成否 日本の著作権法15条1項は、法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする旨規定し、米国の著作権法101条は、職務著作とは、従業員がその職務の範囲内で作成する著作物をいう旨規定している。 これを本件についてみると、Cujo社の事業実態はなく、被告はCujo社の従業員として本件各著作物を作成したものではないから、日本法においても米国法においても、本件各著作物に職務著作性を認めることはできない。 これに対し、原告SIは、仮に職務著作が成立しない場合であっても、本件音楽契約に署名したのは被告自身なのであるから、本件音楽契約の締結時点で被告からCujo社に著作権が移転したと解すべきである旨主張する。 しかしながら、本件音楽契約は本件F以外著作物の著作権の譲渡を定めたものではなく、独占排他的ライセンスの設定を定めたものであることは、前記において説示したとおりである。したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 また、原告SIは、本件音楽契約に署名をした被告が、同契約締結後20年も経過してからこれに矛盾する権利主張をすることは、禁反言の原則に抵触し、信義則上認められない旨主張する。しかしながら、本件音楽契約は本件F以外著作物につき独占排他的ライセンスの設定を定めたにすぎないことは、上記において説示したとおりである。そうすると、本件音楽契約の定めに反し、本件F以外著作物の著作権を主張する原告SIに対し、被告において当該著作権が自らに帰属することを主張することは、当然であって、当該主張が信義則に反しないことは明らかである。したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 5 本件権利譲渡契約に基づく著作権の移転(争点6−3) 本件権利譲渡契約は、原告SIとCujo社との間で締結されているところ、Cujo社が本件F以外著作物に係る著作権を保有していたものと認められないことは、前記において説示したとおりである。したがって、原告SIは、本件権利譲渡契約に基づき、本件F以外著作物に係る著作権を取得する余地はなく、原告SIは、本件F以外著作物の著作権を保有するものとはいえない。 6 本件著作物Fに係る著作権の帰属(争点6−4) 前記前提事実、証拠(甲17、18)及び弁論の全趣旨によれば、2000年10月20日に本件音楽契約が締結され、同年11月末日頃、同契約の成果物として本件著作物AないしEが納品されたこと、本件著作物CないしEには「エンジェル」と称されるキャラクターとして、本件著作物Fに類似したイラストが既に含まれていたこと、被告は2001年1月頃に来日した際、原告SIから、本件著作物Eに含まれるエンジェル1よりもう少ししっかりした鳥が欲しいなどと言われたため、本件著作物F(エンジェル2)を制作したこと、原告SIは本件著作物CないしEのエンジェルを本件著作物Fのエンジェル2に置き換えた電子データを保有していること、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、被告は、原告SIからの依頼に基づき、本件著作物Eに含まれるエンジェル1を改良するものとして、本件著作物F(エンジェル2)を制作し、これを原告SIに納品しており、その際に格別特段の合意をしなかったことが認められる。上記の事実経過を踏まえると、本件著作物F(エンジェル2)の権利関係については、本件著作物Eと同種扱いとする旨の黙示の合意があったものと認めるのが相当である。 そして、本件著作物Eを含む本件F以外著作物については、本件音楽契約によっても本件権利譲渡契約によっても、原告SIにその著作権が譲渡されたものといえないことは、前記において説示したとおりである。そうすると、本件著作物Eと同種扱いとする旨合意された本件著作物Fについても、原告SIにその著作権が譲渡されたものということはできない。 したがって、本件著作物Fの著作権が原告SIに帰属しているものと認めることはできない。 7 著作権の帰属についてのまとめ 以上によれば、本件各著作物の著作権は、日本及び米国のいずれにおいても、原告SIに帰属するものと認めることはできず、この理は、上記著作権のうち複製権及び譲渡権についても同様である。 第7 商標権の帰属 1 争点1−2(本件本訴商標権が原告SIに帰属することの確認の利益の有無) 前記前提事実によれば、原告SIは、本件本訴商標をいずれも登録し、本件商標権1及び2については原告SGに一旦移転したものの、再度原告SGから移転を受けており、本件本訴商標は、現在原告SIを商標権者として登録されていることが認められる。 そうすると、本件本訴商標は、原告SIを商標権者として登録されているのであるから、本件本訴商標権が原告SIに帰属することの確認を求める本件請求3は、その必要性を欠くものであり、訴えの利益を認めることができない。 これに対し、原告SIは、被告が商標無効審判請求をしているところ、無効審判手続は、商標登録を抹消するための手続であり、当該商標権の有効性及びその帰属について確認を求めることはできず、無効審判が係属した場合に確認訴訟を排斥するような規定は存在しないことからしても、訴えの利益が認められる旨主張する。 しかしながら、原告SIの確認請求の目的は、上記のとおり、本件本訴商標権の有効性等に係る判断を求めるものであるところ、商標法46条は、商標登録が有効かどうかは、一次的には商標に関する専門性を有する特許庁が商標無効審判において判断する旨規定し、同法63条2項において準用する特許法178条6項は、商標無効審判を経ずに直接裁判所に対し上記の判断を求める訴えを提起することはできない旨規定している。そうすると、本件本訴商標権の有効性等に係る判断を求める確認請求は、上記の各規定の趣旨に反するものであり、商標法の趣旨に照らしても、不適法なものとして却下を免れないというべきである。したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 2 争点7(本件各商標権の返還義務及び返還協力義務の有無) (1)本件ライセンス契約の締結から解除までの経過等 前記前提事実、前記認定事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 ア 原告SIは、2000年10月20日、Cujo社及びBiとの間で、音楽作品及びそのアルバムカバーアートに係る著作権等に関し、前記前提事実のとおり、本件音楽契約を締結した。 イ 被告は、2000年11月末日頃、Biを通じて、原告SIに対し、本件音楽契約に基づき、本件著作物AないしEを納品した。また、被告は、2001年1月頃に来日した際、原告SIの求めに応じて、本件著作物Fを制作し、これを納品した。さらに、被告は、2001年5月頃、Biを通じて、原告SIに対し、本件音楽契約に基づき、本件著作物GないしXを納品した。 ウ 原告SIは、2002年11月25日、本件商標2の出願を行い、同商標のA(別紙商標目録2記載のA)は、2004年4月16日に登録され、同商標のB(別紙商標目録2記載のB)は、2004年5月14日に登録された。そして、原告SIは、2009年6月29日に本件商標権2を原告SGに移転し、原告SGは、2021年11月24日に、再び本件商標権2を原告SIに移転した。 エ 原告SIは、2003年3月17日、本件商標1の出願を行い、同商標は、同年10月24日に登録された。そして、原告SIは、2009年6月29日、原告SGに本件商標権1を移転し、原告SGは、2020年10月19日に、再び本件商標権1を原告SIに移転した。 オ 原告SIは、2020年12月26日、本件商標3の出願を行い、同商標は、2021年9月27日に登録された。 カ 原告SIは、2021年6月30日、本件商標4及び5の出願を行い、同商標は、2022年3月15日に登録された。 キ 原告SGは、2010年12月8日、被告との間で、被告が創作するデザイン等を利用する権利に関し、前記前提事実のとおり、本件ライセンス契約を締結した。 ク 被告は、2013年頃以降、原告らに対し、新しいデザインを提供しなくなった。(甲57) ケ 被告は、2014年3月31日、原告SGに対し、原告らが被告との契約に違反したのみならず、意図的にアディダスとの関係を妨害してきたことなどを理由として、本件ライセンス契約を同年5月1日付けで解除する旨通知し、原告SGにおいて、同日までに、被告の名前、画像、デザイン、絵、詩、物語並びに「GonzoCuntry」及び「MarkGonzales」の名称の使用を停止することを求めた。(乙5) コ 原告らは、2014年6月9日、被告に対し、本件ライセンス契約5条を「被告は、新しい画像、デザイン、情報及び活動を原告SGに提供するものとし、少なくとも年3回、原告SGからの新しい画像やデザインの要求に応じるものとする。原告SGは、一度につき10枚程度の画像やデザインを要求することができる。」と変更するほか、同11条を「被告は、『Materials』に関する一切の知的財産権を保有する。原告SGは、全てのライセンス対象の商品について『(c)MarkGonzales』と明記することにより、被告の作品であることを明示しなければならない。原告SGは、本件ライセンス契約終了時に原告SGが行った登録を被告に返還することを条件に、権利保護のために『Materials』を登録することができるものとする。」と変更することなどを提案した和解案を送付した。(乙94) サ 原告らは、2014年8月10日、被告に対し、新住所を教えてほしい旨のメールを送信したものの、被告は、新住所を知らせなかった。これを受けて、原告らは、同月21日、被告に対し、再三の依頼にもかかわらず新住所を知らせてもらえない状況を、本件ライセンス契約7条に定める権利の放棄とみなし、これまで預かっていた無料サンプルは全て処分したことのほか、被告の新住所を原告らに報告しないという慣習を継続することは、被告の権利を放棄したものとみなす旨を記載したメールを送信した。また、原告らは、翌22日、被告に対し、以前のメールでは新住所の報告漏れについて正式な見解を表明したが、希望の無料サンプルが指定されれば、可能な限り対応する旨記載したメールを送信した。(甲59) シ 原告らは、2014年から2021年の間、被告に対し、商品デザインについて承認を求めるメールを多数送信したが、被告から返信はなかった。(甲50、51、56、57、乙28ないし70) ス 原告らは、2010年から2013年までの間、被告に対し、本件ライセンス契約に基づき、毎年4万米ドル(2011年のみ5万米ドル)のライセンス料を送金した。そして、原告らは、2014年から2019年までの間も、毎年4万米ドルのライセンス料を送金したが、当該ライセンス料はいずれも受領されなかった。(甲36) セ 被告は、2020年3月2日、原告SGに対し、本件ライセンス契約が同年12月31日をもって終了することを確認した上、同契約11条に基づき、原告らが商標登録した被告の氏名及びデザインに関する商標権を、全て被告に返還することを求めるとともに、2014年から2019年までのロイヤリティの支払を求めることなどを記載した書面を送付した。(乙6) ソ 被告は、2020年3月6日、原告SGに対し、原告SIの代表者が本件ライセンス契約は2021年12月31日に終了すると主張しているが、同契約が2020年12月31日に終了することは、同契約10条が「10年を限度として更新できる」とされていることからも明らかであるなどと記載した書面を送付した。(乙7) タ 原告らと被告は、本件ライセンス契約のロイヤリティの支払について協議し、被告は、2020年7月17日、原告らに対し、本件ライセンス契約が2021年12月31日まで有効であることを記載した上で、本件ライセンス契約のロイヤリティ32万米ドルの支払を求める書面を送付した。そして、原告らは、これに先立つ2020年7月6日、被告に対し、32万米ドルを支払った。なお、32万米ドルは、2014年から2021年まで、1年当たり4万米ドルとして計算したロイヤリティ合計額に相当する。(甲13、36) チ 被告は、2021年4月12日、原告SGに対し、本件ライセンス契約が2020年12月31日の有効期限を過ぎても更新されなかったために同契約が同日をもって終了したこと、残りの在庫品については12ヶ月間のセルオフ期間が設けられているが、原告SGは、2021年1月1日以降、残りの在庫品についても、被告の知的財産を使用することはできず、セルオフ期間中に新たな製品を製造する権利を有しないこと、全世界における被告に係る製品の製造中止を求めること、原告SGが支払った2021年分のロイヤリティは、年間ロイヤリティではなく、同年の間に残った在庫品を売却するためのロイヤリティであること、本件ライセンス契約の更新をしない理由は、原告SGが本件ライセンス契約3条、4条、7条及び支払条件に違反していることであること、原告SGがアジア諸国内で登録した「マーク・ゴンザレス」の商標権の返還を求めること、以上の内容等を記載した書面を送付した。(乙3) ツ 原告らは、2021年9月、被告に対し、製品の承認を求めるメールを送信したが、被告は、同月26日、どの製品も承認できないし承認される予定もない旨返信した。(乙71ないし75) (2)本件ライセンス契約の適用範囲 前記前提事実によれば、本件ライセンス契約は、被告が、原告SGに対し、アジアにおいてアディダスインターナショナルBV等が製造する商品と競合しない限度で、被告の肖像、絵画、詩、物語並びに「GonzoCuntry」及び「MarkGonzales」という名称(本素材)を利用することができる独占排他的な権利を与えるものであり(同1条、2条)、原告SGは、被告の要求があれば被告に返還することを条件として、「GonzoCuntry」、「MarkGonzales」及び被告のデザインを保護するために商標登録することが認められたものである(同11条)。そして、上記認定事実によれば、原告SIの出願登録に係る本件各商標は、被告本人の人物識別情報である氏名のほか、被告のデザインを代表するエンジェルやロゴについて、その標章とするものであるから、本件ライセンス契約にいう「本素材」に該当するものといえる。 そうすると、被告は、本件ライセンス契約11条に基づき、本件各商標権の返還を求めることができると解するのが相当である。 (3)原告らの主張に対する判断 ア 原告らは、本件商標1及び2が本件ライセンス契約締結以前に出願されており、本件音楽契約に関連して出願されたものであることは明らかであるとして、本件ライセンス契約11条の適用対象外である旨主張する。 しかしながら、本件音楽契約によれば、被告制作に係るデザイン等については、宣伝目的のために独占排他的ライセンスが設定されるにとどまり、その著作権は譲渡されないことは、前記において説示したとおりである。そうすると、原告らの主張が、上記デザイン等が本件音楽契約に基づき既に原告SIに譲渡されていたことを前提とするものであれば、その前提を欠くものといえる。 また、既に制作されたデザイン等を後に契約の対象とすることはあり得ることであるから、当該契約が遅れてされたからといってその対象に含まれないということにはならない。このことは、本件ライセンス契約の前に出願登録されていた本件商標2(MARKGONZALES)につき、同契約11条において改めて「MarkGonzales」の商標登録をすることができるものと明示的に確認されたことからも裏付けられるものといえる。しかも、本件各商標は、被告本人の人物識別情報である氏名すら含まれるものであるから、原告らが本件ライセンス契約終了後においても半永久的に本件各商標を保有することができるとする原告らの主張は、当事者間の合理的な意思解釈としても極めて不自然であり、それ自体信用性を欠くというほかない。のみならず、前記認定事実によれば、原告らが2014年6月に被告に送付した和解案においても、原告らは、商標権を被告に返還すること自体は認めており、その後も、被告が、2020年3月2日、原告SGに対し、本件ライセンス契約が同年12月31日をもって終了することを確認した上、同契約11条に基づき、原告らが商標登録した被告の氏名及びデザインに関する商標権を全て被告に返還することを求めるとともに、2014年から2019年までのロイヤリティの支払を求めたところ、原告らは、2020年7月6日、被告に対し、32万米ドルを支払ったものの、その当時、原告らが本件各商標権を被告に返還することができない旨主張していた事情をうかがうことはできない。 これらの事情の下においては、被告のみならず原告らにおいても、被告において本件ライセンス契約11条に基づき本件各商標権の返還を求め得ることが当然の前提とされていたものと認めるのが相当である。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。 イ 原告らは、本件商標1及び3については、被告がCujo社の従業員として創作し、原告SIがCujo社から当該商標に係る著作権を譲り受けた旨主張するものの、被告がCujo社の従業員であるといえないことは、前記において説示したとおりである。 また、原告らは、本件商標3については、本件音楽契約に関連するロゴそのものであるし、本件商標4及び5についても、同契約の対象となるデザインであるから、本件ライセンス契約の対象外である旨主張する。しかしながら、仮に本件商標3ないし5が本件音楽契約の対象のデザインであったとしても、本件ライセンス契約の締結後に出願された被告のデザインに係る上記各商標が、同契約11条にいう「被告のデザイン」に該当することは明らかであるから、同条に定める返還義務の対象となる登録商標には、明らかに含まれるものといえる。 ウ 原告らは、被告が20年もの間、本件商標1及び2の商標登録について異議を述べていなかったにもかかわらず、当該ブランドが利益を生み出してから返還を求めるのは信義則違反である旨主張する。しかしながら、本件各商標は、本件ライセンス契約11条に定める返還義務の対象となる登録商標であることは、前記において説示したとおりである。そうすると、原告らが多額の資金を投じて育てたブランドであるなどという原告らの主張を十分に考慮しても、同契約締結当初から返還義務の対象となることが当然の前提とされていた以上、被告が同契約に基づき返還請求をすることが信義則違反であるとはいえない。したがって、原告らの主張は、前記認定とは異なる前提に立って主張するものにすぎず、その前提を欠くものである。 エ 原告らは、本件商標権1及び2について時効取得が成立していると主張するものの、原告らは、本件ライセンス契約に基づき返還義務があることを前提としてこれらを使用していたものであるから、当該事実関係を踏まえると、少なくともその使用は、民法163条にいう「自己のためにする意思」をもったものとはいえない。そうすると、本件商標権1及び2について時効取得が成立しているということはできない。 オ その他の原告らの主張も、本件各商標に係る標章及び本件ライセンス契約の内容並びに上記認定に係る事実経過に照らし、不自然かつ不合理なものであり、当該認定とは異なる前提に立って主張するものに帰する。したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。 (4)小括 以上によれば、原告らには、本件各商標権の返還義務及び返還協力義務があるものと認められ、原告らが当該義務を負うことを前提とした反訴請求も、同様に理由があることになる。 第8 本件ライセンス契約の債務不履行による損害賠償債務の有無(争点8) 1 商標権返還義務違反(本件ライセンス契約11条) 前記第7によれば、原告らは、本件ライセンス契約11条に基づき、本件各商標権の返還義務を負うものと認められる。しかしながら、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、2020年3月2日、原告らに対し、本件各商標権の返還を求めているものの、原告らはこれらを返還していないことが認められる。そして、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は新たなライセンシーに対しライセンス契約を締結することができず、これによりライセンス料相当額の損害を被っているものと認めるのが相当である。 したがって、原告SGは、被告に対し、本件ライセンス契約の債務不履行に基づく損害賠償義務を負うものといえる。 2 製品化の承認取得義務違反等(本件ライセンス契約3条) 上記1によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告SGと被告との間において、本件ライセンス契約に関する債務不履行に基づく損害賠償債務が存在するものといえるが、本件各不法行為の成否に関する争点(後記第9)との関係及び本件の審理経過に鑑み、その余の義務違反の存否についても、以下判断する。 (1)本件ライセンス契約3条は、被告は、デザイン又はサンプルを受領してから2週間以内に承認し、承認しない場合には代替案を提供する旨規定している。そして、本件ライセンス契約9条は、被告が同契約5条に定めるデザイン又は承認を提供しないことにより同契約に違反した場合、原告SGは、被告の承認を得ることなく、原告SGが保有する全ての本素材を利用する権利を留保するものと規定している。 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、原告らは、2014年から2021年の間、被告に対し、商品デザインについて承認を求めるメールを多数送信したものの、被告から返信はなかったことが認められる。そうすると、原告らは、本件ライセンス契約3条に基づき、デザインに係る承認申請をしていたのに対し、被告は、当該承認申請に対し返信をしなかったものといえるから、原告らは、本件ライセンス契約9条に基づき、被告の承認を得ていない場合であっても、原告らが保有する全ての本素材を利用することができることになる。 したがって、原告SGは、本件ライセンス契約に係る製品化の承認取得義務に基づく損害賠償責任を負うものとはいえない。 (2)また、前記認定事実によれば、2014年8月10日、原告らから被告に対して新住所を教えてほしい旨のメールを送信したものの、被告は新住所を知らせなかったこと、同月21日、原告らが被告に対し、本件ライセンス契約7条に定めるサンプル提供を受ける権利の放棄とみなす旨のメールを送信したこと、翌22日、原告らが被告に対し、無料サンプルの希望があれば可能な限り対応する旨のメールを送信したこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、原告らは、取り得る限りの対応をしたにもかかわらず、被告が原告らに対し新住所を知らせなかったためにサンプルを提供できなかったことが認められる。そうすると、原告らがサンプルを提供できなかったのは、原告らの責めに帰することができない事由によるものと認めるのが相当である。したがって、原告SGは、本件ライセンス契約に係るサンプル提供義務に基づく損害賠償責任を負うものとはいえない。 (3)ア 被告は、本件ライセンス契約9条が「被告が第5条に定めるデザイン又は承認を提供しない」場合を定めているところ、同5条にはデザイン等の提供のみが定められており「承認」については何ら定めるものではないから、被告が原告らの承認申請に対して「承認」しなかったとしても、同5条には違反せず、同9条を適用する前提を欠く旨主張する。 しかしながら、「承認」という文言は、同契約において3条でのみ使用されており、同5条がデザインの提供義務を定めるのと同様に、同3条がデザイン又はサンプルの承認義務又は代替案の提供義務を定めていることを踏まえると、同9条は、被告が「第5条に定める」デザイン又は「第3条に定める」承認を提供しない場合をいうものと解するのが相当である。 そうすると、本件ライセンス契約3条の規定を併せ考慮すれば、同9条の「承認」は、同3条の「承認」をいうものであり、被告の主張は、本件ライセンス契約全体の趣旨目的を正解しないものといえる。 イ 被告は、原告SIが、SHIFFON社から承認申請のメールを受領した僅か39分後に承認の回答をしたり(乙120)、被告の承認を得ていないのに承認を得た旨のメールを送信したりしたことが複数回あるから(乙121ないし123)、原告SGの主張は虚偽である旨主張する。しかしながら、被告が根拠とする上記メールは、原告らがSHIFFON社とのサブライセンス契約に基づいて同社のデザインを承認したやり取りにすぎず、上記認定を左右するものとはいえない。 ウ 被告は、本件ライセンス契約において、製品化を承認するか否かについては、被告が唯一絶対の裁量という非常に強い権限を有していることを踏まえると、原告らが同契約9条により使用できるのは、被告が過去に製品化を承認した「Materials」(本素材)に限られると解すべきである旨主張する。しかしながら、同契約9条は、「被告の承認を得ることなく、原告SGが保有する全ての本素材を利用する権利を留保するものとする。」と規定しているのであるから、被告の主張は、上記の規定内容と整合するものとはいえず、独自の見解をいうものである。実質的にみても、現に被告が2013年頃以降新デザインを全く提供していないことは、前記認定事実のとおりであり、被告の主張によれば、原告らは2013年頃以降被告のデザインを新製品に全く利用できないことになる一方、原告らは本件ライセンス契約に基づき毎年4万米ドルもの対価義務を負うのであるから、被告の主張は、本件ライセンス契約の実態に照らしても、不合理であるというほかない。 エ したがって、被告の主張は、上記の限度においては、いずれも採用することができない。 3 小括 以上によれば、原告SGと被告との間において、本件ライセンス契約に関する債務不履行に基づく損害賠償債務が存在するものといえる。 第9 本件各不法行為の成否 1 争点2−1(本件不法行為1に係る権利侵害の有無) 原告SIは、本件告知行為1は、被告がEiに対し、本件告知事実1に係る情報を恣意的に伝え、被告の主導で行われたものであるとして、被告は共同不法行為者としての責任を負う旨主張する。 しかしながら、被告がEiに上記情報を提供したことを認めるに足りる証拠はなく、当該情報提供を推認できるような事実も認めるに足りない。 かえって、証拠(乙110、111)及び弁論の全趣旨によれば、Eiは、Licentia社の従業員から、上記情報を提供され、これを同業者や関係者に伝えた旨陳述しているところ、ブランドビジネスの基礎となるマスターライセンスの効力に疑義があるとの情報を入手したEiの立場として、そのリスクを同業者や関係者と情報共有したその後の行動には、格別不自然なところはなく、その陳述内容も、具体的かつ迫真的に事実経過を説明するものであり、その信用性は高いものといえる。 したがって、本件告知行為1について、被告は共同不法行為者としての責任を負うものと認めるに足りない。 これに対し、原告SIは、Licentia社が本件告知事実1を単独でEiに伝えたというのは無理がある旨主張するものの、Eiの上記陳述の信用性を減殺するには、原告SIの主張は、その具体性を欠くというほかなく、米国在住の被告とEiとの関係も不明であり、原告SIの共同不法行為に関する主張は、憶測の域を出るものではない。 かえって、上記証拠及び弁論の全趣旨によれば、Licentia社は、被告(「マーク・ゴンザレス」のブランド)の代理店の立場にある会社であるから、Eiと同業者であるLicentia社が、単独で本件告知事実1をEiに伝えたことも、格別不自然であるとはいえない。そして、Licentia社は、被告とは別法人であり、被告と同一主体ということはできず、また、被告がLicentia社に対し本件告知事実1に係る情報を提供したものとは認めるに足りず、その他に、本件告知行為1について被告が共同不法行為者としての責任を負う法的根拠及びこれを構成する事実を認めるに足りない。 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、本件不法行為1に係る権利侵害を認めることはできない。 2 争点3(本件告知行為1に先立つ被告の不法行為〔本件不法行為2〕の成否) 原告SIは、被告がEiに本件告知事実1に係る情報を提供したことは明らかであるところ、この情報提供自体が、原告SIの名誉権や営業権を侵害する旨主張する。 しかしながら、被告がEiに上記情報を提供したことを認めるに足りる証拠はなく、当該情報提供を推認できるような事実も認めるに足りないことは、前記において説示したとおりである。 したがって、前記1において説示したところと同様に、本件不法行為2に係る権利侵害を認めることはできない。 3 争点4(本件告知行為2による不法行為〔本件不法行為3〕の成否) (1)名誉毀損の有無 別紙警告書面(本件警告書面)には、本件ライセンス契約では、被告が事前に承認しない限り、原告らは被告の知的財産を製造・販売する権限を持たないところ、被告は一切の承認をしていないこと(告知事実G)、仮に原告らが被告の承認を得ていたとしても、本件ライセンス契約は2020年12月31日をもって失効・終了したので、2022年1月1日以降は、被告の知的財産の使用を中止しなければならないこと(告知事実H)、原告らは、本件ライセンス契約に基づき、被告に係る商標権を被告に引き渡さなければならないこと(告知事実I)、以上の事実が記載されている。 上記告知事実GないしI(本件告知事実2)は、本件ライセンス契約に関する事実を摘示するものであるが、被告のデザインを現に使用するサブライセンシーに対し、被告とのマスターライセンスが終了していることを告知することは、当該ライセンス業務を主とする原告らの社会から受ける信用その他の客観的価値を毀損することは明らかである。 したがって、本件告知行為2は、原告SIの名誉を毀損するものといえる。 (2)違法性阻却事由の有無 ア 事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときは、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときであっても、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。 イ まず、上記にいう公共性、公益性についてみると、証拠(甲3、乙76ないし92、95)及び弁論の全趣旨によれば、代理人弁護士作成に係る本件警告書面(本件告知事実2)には、被告の知的財産に係る権利関係が記載されているところ、被告はスケートボーダー兼アーティストとして世界的にも著名であり、そのブランドを商品化したアパレル製品もアジアを中心に広く展開され、これに関与するサブライセンシーその他の取引関係者も多数存在することが認められる。 これらの事情を踏まえると、本件告知事実2は、被告個人の社会における影響力のほか、ビジネス上多大な影響を受ける取引関係者が多数存在することに鑑みても、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったものといえる。 これに対し、原告SIは、本件告知事実2は原告らと被告との契約問題に起因するから公共性がなく、その目的は、原告らの運営するブランドの取引先を奪い取り、不当に利益を搾取しようというものであるから、公益性がない旨主張する。しかしながら、本件告知事実2は、本件ライセンス契約に基づく当事者双方の立場を説明しようとしたにすぎず、これを超えて、原告SI主張に係る不当な目的を認めることはできない。その他に、原告SIの主張を十分に考慮しても、上記認定に係る影響等の大きさに鑑みると、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告SIの主張は採用できない。 ウ 次に、上記にいう真実性についてみると、告知事実Iについて、原告らが本件各商標権の返還義務を負うことが真実であることは、前記において説示したとおりである。また、告知事実Gについては、製品化の承認取得義務違反までは認められないものの、原告らが被告の承認を得ていないこと自体は真実である。そして、告知事実Hについても、本件ライセンス契約の終了時期について見解の相違はあるものの、少くとも2022年1月1日以降、被告の知的財産が使用できないことについては、真実であるといえる。そして、本件警告書面全体の内容を踏まえると、本件告知行為2を受けたサブライセンシーにとっては、被告の知的財産を今後使用できるかどうかが最も重要な部分であると認められるところ、本件告知事実2は、この部分において正に真実を伝えるものといえる。 これらの事情を踏まえると、本件告知事実2は、その重要な部分について真実であることの証明があったものといえる。 これに対し、原告SIは、本件告知行為2により営業権が侵害されたとも主張するものの、本件告知行為2に係る摘示事実の重要な部分が真実である以上、営業権侵害についてもその違法性を欠くことは、上記の理と同様である。 したがって、原告SIの主張は、採用することができない。 (3)以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、本件不法行為3に係る権利侵害を認めることはできない。 第10 その他 その他に、仮に被告制作に係るアートワークを商品化しビジネスとして成功させたことにつき、原告らに多大な投資及び貢献があったとしても、被告から合意なく、被告のアイデンティティたる知的財産権を一方的に奪うことが許されるものではなく、原告らの主張立証を改めて十分精査しても、上記合意を認めるに足りないことは、上記において説示したとおりである。 なお、原告らは、口頭弁論が終結した後、令和6年11月20日付けで口頭弁論の再開を求めているところ、一旦終結した弁論を再開するか否かは当該裁判所の専権事項に属し、当事者は権利として裁判所に対して弁論の再開を請求することができない。もっとも、裁判所の当該裁量権も絶対無制限のものではなく、弁論を再開して当事者に更に攻撃防御の方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合には、裁判所は弁論を再開すべきものである。 しかしながら、口頭弁論の再開を求める理由は、米国著作権法の解釈に関する意見書を提出するためのものであるところ、当該争点については約2年以上にわたり議論が尽くされたにもかかわらず、原告らは口頭弁論の終結後に当該意見書をもって当該争点に関する主張立証の補充を求めるにすぎず、念のために仮にその意見書の内容を参酌したとしても、本件事案の実相に迫るものではなく、当該契約書の一部の文言を切り出してこれを抽象的に解釈するにとどまるものであって、明らかに前記判断を左右するものとはいえない。 これらの事情を踏まえると、上記特段の事由を認めることはできず、弁論を再開すべきものと認めることはできない。 第11 結論 以上によれば、本訴請求については、このうち本件請求3及び予備的請求2(2)に関する訴えはその利益がないからこれらをいずれも却下し、その余の本訴請求は理由がないからこれらをいずれも棄却し、反訴請求については理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 古賀千尋 裁判官 坂本達也 (別紙)著作物目録 (別紙)原著作物目録 (別紙)商標目録1〜5 (別紙)警告書面(以下省略) |
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