判例全文 | ![]() |
|
![]() |
【事件名】“のりこえネット”写真事件(2) 【年月日】令和7年1月30日 知財高裁 令和6年(ネ)第10065号 損害賠償等請求控訴事件 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第70422号) (口頭弁論終結日 令和6年12月16日) 判決 控訴人(第1審被告) X 同訴訟代理人弁護士 渥美陽子 同 松永成高 同 小沢一仁 被控訴人(第1審原告) 1 のりこえねっと (以下「被控訴人社団」という。) 2 Y’ことY (以下「被控訴人Y」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 神原元 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 (略語は、原判決の例による。) 第1 事案の要旨 カメラマンである被控訴人Yは、被控訴人社団からの依頼に基づき、Z(Colabo代表者)の肖像写真(本件写真)を撮影し、被控訴人社団に納品した。被控訴人社団は、本件写真を使用して、男性のセクハラ行為や女性差別的言動を告発する内容の動画を作成しYouTubeに投稿していたところ、控訴人は、被控訴人らの許諾を得ることなく、本件写真を改変(トリミング、Z肖像部分にモザイク処理・本件イラストを重ねる処理を施すなど)した上、これを「Colaboの活動報告書は嘘だらけのデタラメでした」 等のタイトルの本件各動画に使用しYouTubeに投稿した。 控訴人の上記行為につき、被控訴人社団は本件写真の著作権を侵害された旨、被控訴人Yは本件写真の著作者人格権を侵害された旨、それぞれ主張している。 第2 当事者の求めた裁判 第2-1(1) 被控訴人社団の請求(※に請求の法的根拠を掲げる。) ア 控訴人は、本件写真を使用し、公開し、又は公衆送信してはならない。 ※法112条1項に基づく妨害予防としての差止請求 イ 控訴人は、被控訴人社団に対し、219万4500円及びこれに対する令和4年12月17日から支払済みまで年3%の割合による金銭を支払え。 ※主請求は著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求、附帯請求は遅延損害金請求(利率は民法所定、起算点は各最後の不法行為の日) 第2-1(2) 被控訴人Yの請求(同上) ア 第2-1(1)アと同旨 イ 控訴人は、被控訴人Yに対し、192万5000円及びこれに対する令和4年12月20日から支払済みまで年3%の割合による金銭を支払え。 ※主請求は著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)又は法113条11項に係る不法行為に基づく損害賠償請求、附帯請求は第2-1(1)のイに同じ。 第2-2 原審の判断及び控訴の提起 第2-2(1) 原審は、被控訴人社団が被控訴人Yから本件写真の著作権を譲り受けた著作権者であること、控訴人の行為が被控訴人社団の著作権(複製権及び公衆送信権)、被控訴人Yの著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害するものであることを認め、被控訴人らによる差止請求のほか、被控訴人社団の損害賠償請求を77万円の、被控訴人Yの損害賠償請求を33万円の限度で認容した(金銭請求の認容部分は仮執行宣言付き)。これに対し、控訴人が、その敗訴部分を不服として以下のとおり控訴するとともに、原判決後にした仮払金につき民事訴訟法260条2項の申立てをした。 第2-2(2) 控訴の趣旨 ア 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 イ 前項の部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 第2-2(3) 民事訴訟法260条2項の申立て ア 被控訴人社団は控訴人に対し、80万7556円及びこれに対する令和6年8月1日(仮払金受領の日)から支払済みまで年3%の割合による金銭を支払え。 イ 被控訴人Yは控訴人に対し、34万6014円及びこれに対する令和6年8月1日(同上)から支払済みまで年3%の割合による金銭を支払え。 第3 前提事実及び争点 第3-1 前提事実 (1) 前提事実は、原判決後の仮払の事実を下記(2)のとおり加えるほか、原判決「事実及び理由」第2の2(2頁〜)記載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 原判決後の仮払 控訴人は、原判決言渡し当日である令和6年8月1日、原判決で支払を命じられた額(遅延損害金を含む。)として、被控訴人社団に対し80万7556円、被控訴人Yに対し34万6014円を支払った。 第3-2 争点 本件の争点は以下のとおりであるが、争点2−2及び争点3−3については、当審において特段の補充的主張はされていない。 (1) 本件写真の著作権の帰属(争点1) (2) 控訴人による被控訴人社団の著作権侵害の成否(争点2) (2)ア ・複製権及び公衆送信権侵害の有無(争点2−1) (2)イ ・引用の成否(争点2−2) (3) 控訴人による被控訴人Yの著作者人格権侵害の成否(争点3) (3)ア ・氏名表示権侵害の有無(争点3−1) (3)イ ・同一性保持権侵害の有無(争点3−2) (3)ウ ・名誉又は声望を害する方法による利用行為該当性(争点3−3) (4) 差止めの必要性の有無(争点4) (5) 被控訴人らの損害の有無及び額(争点5) 第4 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は、以下のとおり当審における当事者の補充的主張を加えるほか、原判決「事実及び理由」の第2の4(5頁〜)に記載のとおりであるから、これを引用する。 第4-1 争点1(本件写真の著作権の帰属)について 第4-1(1) 争点1:控訴人の主張 ア 原判決が、本件写真の著作権が被控訴人Yから被控訴人社団に譲渡されたことの根拠として挙げる事情は、@被控訴人社団が、本件写真の納品後、個別に被控訴人Yの許諾を得ることなく本件写真を利用していること、AZ及びColaboが、毎日新聞のウェブサイトに本件写真を提供しており、これが被控訴人社団の包括的又は個別の許諾に基づき行われたものであることがうかがわれること、B被控訴人社団から被控訴人Yへの利用許諾料の支払等がないことである。 しかし、これらは、被控訴人Yから被控訴人社団への著作権譲渡でなく、無償利用許諾があったとしても説明がつくことである。請求書(甲5)には交通費及び撮影費しか品目がなく、その額も7万円と低廉で、これでプロの写真家である被控訴人Yが著作権譲渡をしたとは考えられない。 被控訴人社団が、本件各動画のうち33、34のみについて、YouTubeに対し、被控訴人社団の「動画の」著作権を侵害したことを理由に公開停止を申し立てている。本件「写真の」著作権を有するとは認識していなかった証左である。 被控訴人らは、前訴を有利にするために、本件では本件写真の著作権が被控訴人社団に譲渡されたと仮装しているものにすぎない。 第4-1(2) 争点1:被控訴人らの主張 控訴人の主張は争う。 被控訴人社団は、控訴人との間の前訴及び本件訴訟を通じて、本件写真の著作権は被控訴人Yから被控訴人社団に移転したことを前提に、著作権が被控訴人社団に帰属することを主張し、その旨の陳述書を提出している。本件訴訟において、被控訴人Yが上記著作権の帰属について異議を述べたこともない。 第4-2 争点2−1(複製権及び公衆送信権侵害の有無)、争点3−2(同一性保持権侵害の有無)について 第4-2(1)争点2−1、争点3−2:控訴人の主張 控訴人が本件各動画において利用した本件写真には、Z肖像部分につきモザイク処理や本件イラストを重ねる処理等を施したものがあるが、これについて本件写真の内容及び形式を覚知することは不可能である。 加工のない写真を見たことのある者や、Zの顔を知っている者であれば、Zの容貌を想起することがあるかもしれないが、それは本件写真自体からZ肖像部分の内容及び形式を覚知できることを意味するものではない。 第4-2(2) 争点2−1、争点3−2:被控訴人らの主張 シルエットやイラストを重ねていない部分からなお本件写真の内容及び形式を覚知することは可能である。 第4-3 争点3−1(氏名表示権侵害の有無)について 第4-3(1) 争点3−1:控訴人の主張 原判決は、法19条2項に係る主張を侵害者である控訴人がすることは相当でないと判断するが、同項は、「著作物を利用する者」について適用されるものであり、控訴人が本件写真の著作権や氏名表示権以外の著作者人格権を侵害していたとしても、それを理由に同項の適用を排斥することはできないはずである。 被控訴人Yは、被控訴人社団やZ、Colaboが、本件写真を利用するに際し、被控訴人Yの氏名を表示しなくても問題としておらず、これを容認していたものというべきである。被控訴人Yは、本件写真の利用に当たりその氏名を表示すべき旨の別段の意思表示もしていない。 したがって、控訴人は、本件写真を利用するにあたり法19条2項の適用を受け、氏名表示権侵害の責任を負わない。 第4-3(2) 争点3−1:被控訴人Yの主張 第4-4 争点4(差止めの必要性の有無)について 第4-4(1) 争点4:控訴人の主張 控訴人が写真のデータを保有していることの一事をもって、著作権侵害のおそれがあるということはできない。 本件写真はインターネットにおいて公表されており、そのデータは控訴人以外でも容易に取得することができる。 第4-4(2) 争点4:被控訴人らの主張 控訴人は、本件写真を使用した動画を削除するなり差し替えたりするのではなく、単にぼかしをいれているだけであり、ぼかしをはずせば容易に元の状態に戻すことができるから、控訴人の主張は失当である。 第4-5 争点5(被控訴人らの損害の有無及び額)について 第4-5(1) 争点5:控訴人の主張 被控訴人社団から被控訴人Yに支払われたのは7万円であり、これはZら3名の撮影費用及び交通費を含むものであり、Zについては5〜6通り、他の物についてはそれぞれ5通り程度の写真が撮影されている。そうすると、本件写真の撮影についての対価はせいぜい5000円未満である。原判決が認定した被控訴人社団の法114条3項により算定される損害額や、被控訴人Yの著作者人格権侵害による慰謝料額は過大である。 第4-5(2) 争点5:被控訴人らの主張 法114条3項により算定される損害額や、著作者人格権侵害による慰謝料額が、著作権の交換価値を基準にしなければならない理由はない。 なお、被控訴人社団は法114条2項により算定される損害額に基づく請求はしていないが、控訴人が本件各動画をYouTubeに投稿することで利益を得ていたことも考慮すべきである。 第5 当裁判所の判断 当裁判所も、原審と同様、控訴人は、被控訴人社団との関係で著作権(複製権及び公衆送信権)侵害、被控訴人Yとの関係で著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の責任を免れず、被控訴人らの差止請求及び損害賠償請求は原審が認容した限度で理由があると判断する。その理由は、当審における控訴人の補充的主張に対する判断を下記のとおり加えるほか、原判決「事実及び理由」の第3の1〜5(12頁〜)のとおりであるから、これを引用する 第5-1 争点1(本件写真の著作権の帰属)について 控訴人は、原判決摘示の事情(間接事実)は被控訴人Yから被控訴人社団への著作権の譲渡を根拠付けるものではないと主張するが、本件では、譲渡側の被控訴人Yと譲受側の被控訴人社団の双方が、本件写真の著作権譲渡(口頭合意)の事実を主張し、これに沿う直接証拠(甲2〜4、14の陳述書、証人A)が提出されている。被控訴人らが口裏合わせをして著作権譲渡の事実を仮装することが疑われる具体的な事情があるというのであれば格別、本件においてそのような理由(実益)があるとは考えられず、以上の証拠関係だけで著作権譲渡の事実を認めるに十分である。 控訴人は、被控訴人らが、前訴を有利にするために、本件写真の著作権が被控訴人Yから被控訴人社団に譲渡されたと仮装している旨主張するが、本件訴えは令和5年7月5日に提起されたところ、前訴は同年6月15日に既に弁論が終結され、同年8月24日棄却判決がされており(乙5)、本件訴えの提起が前訴を有利にするという関係にあるとは認められない。 第5-2 争点2−1(複製権及び公衆送信権侵害の有無)について 控訴人は、本件写真のZ肖像部分にモザイク処理や本件イラストを重ねる処理を施したものについては、本件写真の内容及び形式を覚知することは不可能であると主張するが、モザイク処理については粗いモザイクが施されているにすぎず、本件イラストを重ねる処理をしたものについては、上半身や髪の部分等を認識することができ、アングルの選択、照明等を含め、本件写真の表現上の本質的特徴を感得することができるものといえる。 第5-3 争点3−1(氏名表示権侵害の有無)について 控訴人は、控訴人が本件写真の著作権又は著作者人格権を侵害していたとしても、それを理由に法19条2項の適用を排斥することはできないと主張するが、同項は、著作者の推定的意思を基礎として、著作物を利用する者の便宜を図った規定と解されるところ、少なくとも本件写真に無断の改変が加えられている本件において、同項の適用は前提を欠くというべきである。 また、控訴人は、被控訴人Yが、被控訴人社団やZ、Colaboが、本件写真を利用するに際し、被控訴人Yの氏名を表示していなくても問題としていない旨主張するが、本件写真の利用が予想される範囲の者であるからにすぎず、一律に氏名表示を要しない意思が示されているとはいえない。 第5-4 争点3−2(同一性保持権侵害の有無)について 控訴人は、Z肖像部分にモザイク処理や本件イラストを重ねる処理をしたものは、その表現上の本質的特徴を感得することができないものになっているから、同一性保持権を侵害しない旨主張するが、これを採用できないことは前記第5-2のとおりである。 第5-5 争点4(差止めの必要性)について 控訴人は、本件写真のデータを保有していることの一事をもって、控訴人が本件写真を利用するおそれがあるとはいえない旨主張するが、侵害の態様、控訴人と被控訴人ら及びその関係者(Z及びColabo)との関係性、前訴も含めた本件の経緯に鑑みれば、控訴人が本件写真のデータを敢えて保有し続け消去していないことは、侵害のおそれを裏付けるものというべきである。 また、控訴人は、本件写真はインターネットにおいて公表されており、そのデータは控訴人以外でも容易に取得することができる旨主張するが、控訴人以外の者がデータを利用する可能性があることをもって、控訴人によるデータの利用の可能性を否定することはできない。 第5-6 争点5(被控訴人らの損害の有無及び額)について 控訴人は、被控訴人社団から被控訴人Yに支払われたのは7万円であり、被写体となった者3名それぞれの複数枚の撮影費用及び交通費を含むものであるから、原判決の認定に係る損害額は過大である旨主張する。 しかし、これらの要素を考慮したとしても、原判決が掲げる諸事情を総合すれば、原判決が認定した損害額が過大とはいえない。密接な関連性のある者の間の著作権の譲渡価格は著作権の市場価値に直結しないものであり、まして、著作権あるいは著作者人格権侵害に基づく損害額算定の基準となるものとはいえない。 第5-7 結論 以上によれば、被控訴人らの差止請求は理由があり、被控訴人社団の損害賠償請求は77万円及び遅延損害金の支払を求める限度で、被控訴人Yの損害賠償請求は33万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、民事訴訟法260条2項の申立てについては、本件控訴が棄却されるので、判断を要しない。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 宮坂昌利 裁判官 本吉弘行 裁判官 岩井直幸 |
![]() 日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |