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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件AW 【年月日】令和7年1月22日 東京地裁 令和5年(ワ)第70070号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年8月28日) 判決 原告 有限会社プレステージ 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同訴訟復代理人弁護士 馬場伸城 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 金子和弘 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介して、ファイル共有ネットワークであるBitTorrent(以下「ビットトレント」と表記する。)を使用して別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)に係るデータをアップロードする通信がされ、これにより、原告の著作権(公衆送信権ないし二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(公衆送信権))が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づく発信者情報の開示を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。以下において、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。) (1)当事者について 原告は、DVDビデオソフトの制作及び販売等を業とする特例有限会社である。 被告は、インターネット接続サービスを提供する株式会社である。 (2)発信者情報の保有について 別紙動画目録の「IPアドレス」欄記載の各IPアドレスを用いて同目録の「発信時刻」欄記載の各日時に行われた各通信(以下「本件各通信」という。)は、氏名不詳者らが被告の電気通信設備を介して行ったものであり(以下、本件各通信を行った氏名不詳者らを「本件氏名不詳者ら」という。)、被告は、本件各通信について別紙発信者情報目録記載の各発信者情報を保有している。 (3)ビットトレントの仕組みについて(甲2、3、5) ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。特定のファイルをダウンロードしようとするユーザは、ビットトレントの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに読み込む。これにより、同端末は、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目的のファイル又は「ピース」と呼ばれるファイルを分割したデータを保有している他のピア(ビットトレントのネットワークに参加している端末をいう。以下同じ。)のIPアドレスを取得して、それらのピアと接続し、当該ファイル又はピースのダウンロードを行う。 ファイルの全部ではなくピースをダウンロードした場合、クライアントソフトが、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構築に必要なデータに基づき、完全な状態のファイルに復元する。 目的のファイル又はピースをダウンロードしたピアは、自動的に「トラッカー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイル又はピースをアップロードする。 (4)原告による調査について(甲5〜7、9〜11、13、16〜23) 株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)は、原告の依頼に基づき、ビットトレントのクライアントソフトにおいて一般的に利用されているライブラリであるLibtorrentを用いた上で、下記C及びDの機能を拡張した著作権侵害検出システム(以下「本件ソフトウェア」という。)を使用し、本件動画を対象として、ビットトレントを利用したファイル共有について、次のとおりの調査を行った(以下「本件調査」という。)。 本件調査会社は、@インターネットを介して、本件動画の品番を含むファイルをインデックスサイトで検索し、当該ファイルについて、別紙動画目録の「ハッシュ」欄記載のハッシュ値を取得し(以下、当該ハッシュ値を有するファイルを「本件ファイル」という。)、Aトラッカーに接続し、本件ファイル又はそのピースを保有しているピアの情報の提供を求め、トラッカーから別紙動画目録記載のIPアドレス及びポート番号を含むリストを受信し、B本件ソフトウェアと当該ピアとの間で通信を行い、当該ピアから本件ファイル又はそのピースをダウンロードすることが可能であることを通知する通信(UNCHOKEの通信)を受け、C別紙動画目録記載の発信時刻に、それぞれ当該ピアから本件ファイルのピースをダウンロードし、本件ソフトウェアが動作するコンピュータのメモリに格納し、D本件ソフトウェアが当該ピースをダウンロードしたピアのIPアドレス、ポート番号及び前記発信時刻に係るタイムスタンプを記録し、Eメモリに格納された当該ピースを本件ソフトウェアが動作するコンピュータのハードディスクに保存した。本件調査会社は、その後、Fダウンロードしたピースについて再生試験を行った。 (5)本件動画に係る原告の著作権等について(甲9、10、24) 原告は、本件動画に係る著作権を有している。また、本件ファイルは、本件動画を複製し、又は翻案したものである。 2 争点及び争点に関する当事者の主張 (1)本件各通信は「特定電気通信」に該当するといえるか(争点1) (原告の主張) ビットトレントを利用してファイル又はピースをアップロードする者とこれをダウンロードする者との間には、何ら人的結合関係はなく、本件調査会社も、ビットトレントを利用して本件氏名不詳者らから本件ファイル又はそのピースをダウンロードすることができる不特定多数の者の一人にすぎない。 したがって、本件各通信は、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信であり、「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)に該当する。 (被告の主張) 本件各通信は、本件調査会社と本件氏名不詳者らとの間における一対一の通信であり、通信の受信者である本件調査会社からさらに不特定の者に情報が送信されるものではないから、「不特定の者」によって受信されることを目的とする電気通信の送信であるとはいえない。 また、本件各通信は、「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)に該当するから、「特定電気通信」から除かれるべきものである。 したがって、本件各通信は、「特定電気通信」に該当しない。 (2)本件氏名不詳者らが「発信者」に該当するといえるか(争点2) (原告の主張) 本件氏名不詳者らは、「特定電気通信設備の送信装置」である被告の通信装置(ルーター)に本件ファイルのピースに係る情報を入力し、当該情報を「不特定の者」である本件調査会社に送信しているから、「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)に該当する。 (被告の主張) プロバイダ責任制限法2条4号の「不特定の者に送信されるもの」との要件に該当するためには、通信の受信者からさらに不特定の者に情報が送信されることを要するところ、本件各通信は本件調査会社と本件氏名不詳者らとの間における一対一の通信であるから、本件氏名不詳者らは「発信者」に該当しない。 (3)原告の本件動画に係る著作権が侵害されたことが明らかであるといえるか(争点3) (原告の主張) 本件各通信は、本件氏名不詳者らがビットトレントを利用して本件調査会社に本件ファイルのピースをアップロードした通信であり、自動公衆送信に該当する。 本件調査会社が行った再生試験によって、本件各通信によってダウンロードされたピースについて、これらを再生することができ、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められる。 したがって、本件各通信によって、原告の本件動画に係る著作権(公衆送信権ないし二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(公衆送信権))が侵害されたことが明らかである。 (被告の主張) 本件各通信は、本件調査会社と本件氏名不詳者らとの間における一対一の通信であるから、公衆送信に該当せず、自動公衆送信にも該当しない。 本件各通信によってダウンロードされたピースについて、静止画として復元されたにすぎないこと、パソコンに一般にプリインストールされている動画再生ソフトによって再生することができるものではないことからすれば、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものとは認められない。 したがって、本件各通信によって、原告の本件動画に係る著作権(公衆送信権ないし二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(公衆送信権))が侵害されたことが明らかであるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件各通信は「特定電気通信」に該当するといえるか)及び争点2(本件氏名不詳者らが「発信者」に該当するといえるか)について (1)前記前提事実(3)のとおり、ビットトレントのネットワークにピアとして参加した端末は、目的のファイル又はピースを保有する他のピアとの間で通信を行い、当該ファイル又はピースのダウンロードを行うとともに、他のピアからの要求に応じて、自身が保有する当該ファイル又はピースをアップロードすることとなり、また、ファイルの全部ではなくピースをダウンロードした場合においても、クライアントソフトが、トレントファイルに記録されたデータに基づき、完全な状態のファイルに復元するものとされている。 このようなビットトレントの仕組みに鑑みれば、本件氏名不詳者らは、本件各通信によって、本件ファイル又はそのピースを、ビットトレントのネットワークにおいてそのダウンロードを要求するピアのユーザという不特定の者の求めに応じて、これらの者に直接受信されることを目的として送信したというべきである。 したがって、本件各通信は、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信であり、「特定電気通信」に該当する。 (2)弁論の全趣旨によれば、本件氏名不詳者らは、被告の通信装置であるルーターに情報を入力し、被告の電気通信設備を介して本件各通信を行ったと認められる。前記(1)のとおり、本件各通信は「特定電気通信」に該当するものであることから、本件各通信の用に供される被告の電気通信設備は「特定電気通信設備」に、被告のルーターは「特定電気通信設備の送信装置」に、それぞれ該当するものということができる。 そして、前記前提事実(4)及び前記(1)によれば、本件各通信は、ビットトレントのネットワークにおいて、本件ファイル又はそのピースのダウンロードを要求するピアのユーザという不特定の者によって受信されることを目的としており、現に本件調査会社に対して当該ピースのデータを送信したものであると認められることから、被告のルーターに入力された情報が不特定の者に送信されたものというべきである。 したがって、本件氏名不詳者らは「発信者」に該当する。 (3)これに対し、被告は、本件各通信が本件調査会社と本件氏名不詳者らとの間における一対一の通信であることから、本件各通信は「特定電気通信」に該当しない旨や、本件氏名不詳者らは「発信者」に該当しない旨を主張する。 しかし、前記(1)及び(2)のとおり、本件各通信は、不特定の者によって受信されることを目的とする通信であり、被告のルーターに入力された情報が不特定の者に送信されたものであるということができるから、被告の主張は採用することはできない。 (4)また、被告は、本件各通信は、プロバイダ責任制限法2条1号の定める「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信」に該当するから、「特定電気通信」から除かれるべきものである旨を主張する。 しかし、同号の定める「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信」とは、放送法(昭和25年法律第132号)2条1号の定める放送をいうものと解されるところ、本件各通信がこれに該当するとは認められないから、被告の主張は採用することができない。 2 争点3(原告の本件動画に係る著作権が侵害されたことが明らかであるといえるか)について (1)ア 前記前提事実(4)及び(5)のとおり、本件ファイルは、本件動画を複製し、又は翻案したものであるところ、本件各通信によって、本件ファイルを分割したデータであるピースが送信されているということができる。そして、本件調査会社が行った再生試験により、本件ファイルのうちFtypボックス(ファイルの形式やバージョン情報に関する情報を含む部分)及びMoovボックス(動画のサイズや再生時間等のメタデータに関する情報を含む部分)のデータを付加した上で、本件各通信によって送信されたピースを再生することができたと認められる(甲16、17、19、20)。以上に加え、前記前提事実(3)のとおり、ビットトレントにおいては、ピースをダウンロードした場合においても、クライアントソフトが、トレントファイルに記録されたデータに基づき、完全な状態のファイルに復元するものとされていることに照らせば、前記再生試験の結果により、ビットトレントのネットワークにおいて本件各通信によって送信されたピースから、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができたものと認めることができる。 イ そして、前記1(1)及び弁論の全趣旨によれば、本件氏名不詳者らは、ビットトレントのネットワークにおいて、本件ファイル又はそのピースを保有する他のピアのユーザと共同して、本件ファイル又はそのピースを、そのダウンロードを要求するピアのユーザという不特定の者によって直接受信されることを目的として、当該ユーザからの求めに応じ自動的に送信しており、現に、本件各通信によって、本件調査会社に本件ファイルのピースを送信したものと認められる。 そうすると、本件各通信は、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うものであり、かつ、これを公衆からの求めに応じ自動的に行ったものであるから、自動公衆送信に該当するということができる。 ウ 以上によれば、本件各通信によって、原告の本件動画に係る著作権(公衆送信権ないし二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(公衆送信権))が侵害されたことが明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。 (2)これに対し、被告は、本件各通信によってダウンロードされたピースについて、止画として復元されたにすぎないこと、パソコンに一般にプリインストールされている動画再生ソフトによって再生することができるものではないことからすれば、本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することができず、公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとはいえない旨を主張する。 しかし、表現上の本質的な特徴を直接感得することができるというために、パソコンに一般にプリインストールされている動画再生ソフトによって再生が可能であることを要することを前提とする被告の主張は、独自の主張であって採用することはできない。また、仮に本件各通信によって送信されたピースの再生試験において静止画として復元されたものがあったとしても、前記(1)ア及びイで説示したところに照らせば、当該ピースの送信をもって、公衆送信権が侵害されたと評価することを妨げないものというべきである。 したがって、被告の主張は採用することができない。 3 弁論の全趣旨によれば、原告は本件各通信を行った者に対して損害賠償請求権等を行使する予定であることが認められ、そのために、別紙発信者情報目録記載の各発信者情報の開示を受ける必要があるといえるから、原告には、当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。 被告は、本件ファイルはモザイクによる修正がされていないわいせつな動画であるから、原告が法的保護を求めることはできない旨を主張するが、原告が販売したDVDソフトに収録された本件動画では、モザイクによる修正がされており(甲1、9)、原告が本件ファイルを作成し、又はアップロードしたなどとは認められないから、被告の主張は採用することができない。 第4 結論 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については相当ではないから、これを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 ●(はしごたか)橋彩 裁判官 吉川慶 裁判官 杉田時基は、差支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官 ●(はしごたか)橋彩 (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス(ただし、(記載省略)に限る。) (別紙)動画目録 (記載省略) |
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