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【事件名】コミュファへの発信者情報開示命令異議申立事件B
【年月日】令和7年1月17日
 東京地裁 令和6年(ワ)第70280号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え
 (口頭弁論終結日 令和6年11月7日)

判決
原告 中部テレコミュニケーション株式会社
同訴訟代理人弁護士 星川信行
被告 株式会社EXstudio
同訴訟代理人弁護士 戸田泉
同訴訟復代理人弁護士 塚松卓也


主文
1 東京地方裁判所令和5年(発チ)第10276号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年6月5日にした決定を認可する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 東京地方裁判所令和5年(発チ)第10276号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年6月5日にした決定を取り消す。
2 被告の上記事件に係る申立てをいずれも却下する。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 被告は、電気通信事業を営む原告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を複製して作成した動画ファイル(以下「本件ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態とした上で、上記動画ファイルを公衆からの求めに応じ自動的に送信したことによって、本件動画に係る被告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償請求のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める申立てをしたところ、東京地方裁判所は同申立てを相当と認め、本件各発信者情報の開示を命じる旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。本件は、原告が、プロバイダ責任制限法14条1項に基づき、本件決定に対する異議の訴えを提起した事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告は、インターネット接続サービスを提供するプロバイダである。
 被告は、アダルト動画の製作及び販売を行う株式会社である。
(2)ビットトレントの仕組み(乙6、9)
ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコルである。
 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末。「クライアント」とも呼ばれる。)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。
 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。
イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする者は、インデックスサイトと呼ばれるインターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに係るトレントファイルをダウンロードする。端末にインストールしたクライアント用のソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。
 上記の手順によってピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認するための通信を行い、当該他のピアがこれに応答することを確認した上(以下、この当該他のピアとの通信を「ハンドシェイクの通信」という。)、当該他のピアが当該ピースを保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースをダウンロードする。
(3)株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)による調査(乙7ないし17)
 本件調査会社は、別紙動画目録記載の各IPアドレス、各ポート番号及び各発信時刻を以下の方法により特定した。
ア 本件調査会社担当者は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件動画の作品名、品番、ファイル名等に基づいて、本件動画と同一であることが疑われるファイルのハッシュ値を探索し、当該ハッシュ値を監視対象とした。
イ 前記アの監視に用いられたソフトウェア(以下「本件監視ソフトウェア」という。)が、トラッカーに接続し、監視対象である前記アのハッシュ値を有する特定のファイルを共有しているピアに関する情報のリストを要求したところ、トラッカーから当該ピアのIPアドレス及びポート番号の情報のリストが返信された。
ウ 本件監視ソフトウェアは、トラッカーからピアの情報のリストが返信された後、各ピアとの間でハンドシェイクの通信を行い、各ピアが応答することを確認し、実際に、各ピアから本件ファイルの一部であるピースをダウンロードした。このとき、本件監視ソフトウェアは、ダウンロードされたファイルの送信元となったピアのIPアドレス及びポート番号、ダウンロードされたファイルのハッシュ値及びピースの情報並びにピアからピースの転送を受けた際のPIECE通信(各ピアが、自身が保有するピースの転送を求められた場合に、当該ピースを当該他のピアに転送する通信のこと)の開始時点のタイムスタンプを自動的にデータベースに記録するとともに、当該ピースをハードディスクに保存した(以下、本件調査会社の調査の際に行われたPIECE通信のことを「本件通信」という。)。
(4)本件調査会社がダウンロードした各ピースに係る再生試験(乙18、19)
ア 本件調査会社は、ビットトレントネットワークを介して本件ファイルをダウンロードし、本件ファイルの複製データから、本件通信の際にデータベースに記録されたピースの情報に基づいて、ダウンロードした各ピースに相当する部分を除くmdat(映像、音声等のデータそのものが格納されている部分)の情報を削除した上で、当該本件ファイルの複製データが再生可能であることを確認した(以下「本件再生試験」という。)。
イ 別紙動画目録記載の各発信時刻並びに各IPアドレス及び各ポート番号は、前記(3)イ記載のリストに記載され、かつ、本件再生試験において本件動画の一部を再生することができたピースのダウンロードに係る情報である。
(5)本件ファイルは本件動画を複製して作成されたものであること
 本件ファイルは、本件動画を複製して作成されたものである(乙4、5)。
(6)本件各発信者情報の保有
 被告は、本件各発信者情報を保有している。
3 争点
(1)特定電気通信による情報の流通によって被告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か(争点1)
(2)本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって被告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について
(被告の主張)
(1)被告に本件動画の著作権が帰属することについて
ア 本件動画は、被告の従業員であるA(以下「A」という。)が、被告の発意に基づき職務上作成したものである上、本件動画を収録したパッケージには、被告の登録商標である「毒宴会」という表示が存在しており、本件動画は被告の著作の名義の下に公表されたものといえる。
 そうすると、被告は、著作権法15条1項に基づき、本件動画の著作者となり、本件動画の著作権は被告に帰属する。
イ 仮に著作権法15条1項の適用がないとしても、本件動画は、映画の著作物に該当するところ、Aは、本件動画の全体的形成に創作的に寄与した者であるから、同法16条により、本件動画の著作者といえる。そして、被告は、同法2条1項10号の映画製作者に該当し、Aは、被告に対し本件動画の製作に参加することを約束している。
 そうすると、本件動画の著作権は、同法29条1項により、被告に帰属することになる。
ウ いずれにしても、本件動画の著作権は被告に帰属する。
(2)本件各氏名不詳者により被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたこと
 ビットトレントネットワークにおいて共有されているファイルは、公衆の用に供されている電気通信回線であるインターネットに接続された他の者の管理するパソコン等の記録媒体に記録されたものであり、不特定の者の求めに応じて自動的に送信される。
 そして、本件各氏名不詳者は、本件ファイルをビットトレントネットワークにおいて共有し、本件ファイルを公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態とした。
 また、本件監視ソフトウェアは、実際に、別紙動画目録記載の各IPアドレス等により特定される本件各氏名不詳者の管理する他のピアから、同目録記載の各日時において、本件ファイルの一部であるピースをダウンロードした。上記ピースにより本件動画の一部を再生できることは、本件調査会社が行った本件再生試験によって確認されており、上記ピースは、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものである。
 したがって、本件各氏名不詳者は本件動画を複製して作成された本件ファイルを送信可能化するとともに、自動公衆送信したといえるから、被告の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したと認められる。
(3)本件通信が「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)に該当すること
 プロバイダ責任制限法第2条1号は、「特定電気通信」を、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」と定義しており、「不特定の者によって受信される電気通信」とは定義しておらず、ビットトレントネットワークによる著作権侵害が問題となる場合に、たまたま当該通信が発信者と特定の受信者という二当事者間の通信であるために「特定電気通信」に該当しないと解することは、被害者の権利救済の観点から妥当ではない。
 そうすると、最終的に不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通に必要不可欠な電気通信の送信は、「特定電気通信」に該当すると解すべきである。
 そして、本件通信は、最終的に不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通に必要不可欠な電気通信の送信であるから、「特定電気通信」に該当する。
(4)違法性阻却事由の不存在
 本件各氏名不詳者が本件ファイルを送信可能化及び自動公衆送信したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。
(5)小括
 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。
(原告の主張)
(1)被告に本件動画の著作権が帰属することについて
 否認ないし争う。
(2)本件各氏名不詳者により被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたかは明らかではないこと
ア 本件通信は、本件調査会社が、本件各氏名不詳者に対して、アップロードの要求をした上でダウンロードをするものであり、個々のユーザー間で直接に通信することによって実現されるものであるから、あくまでも本件調査会社と本件各氏名不詳者という二当事者間における通信にすぎない。
 そうすると、本件通信は「公衆によつて直接受信されることを目的として」行われたもの(著作権法2条1項7号の2)ではないから、被告の公衆送信権が侵害されたとはいえない。
イ ビットトレントネットワークにおいては、本件ファイル自体をトラッカーに記録させるわけではなく、本件氏名不詳者は、単に自己のIPアドレス等の情報をトラッカーに記録しているだけであるから、本件各氏名不詳者は、著作権法2条1項9号の5のイに該当する行為に及んだものとはいえない。
 また、本件各氏名不詳者の端末は、トラッカーとは別個のものであるから、このような端末についても「自動公衆送信装置」と考えることはできず、本件各氏名不詳者が、同号の5のロに該当する行為に及んだものともいえない。
 したがって、本件各氏名不詳者が本件動画を送信可能化したとはいえない。
ウ 本件各氏名不詳者は、それぞれ、本件ファイルの一部であるピースをアップロードしているにすぎず、このようなピースのみからは、本件動画について、その表現の本質的特徴を直接感得することができる映像を再生できない可能性があり、このような不完全なデータをアップロードしたことをもって、本件動画について送信可能化及び自動公衆送信がされたということはできない。
エ 被告は、本件調査会社がダウンロードしたピースにより本件動画の一部を再生できることを示すものとして、本件調査会社が行った本件再生試験に係る報告書を提出しているが、本件再生試験が適切に行われているかは明らかではない。
 そして、原告の行った意見照会に対する回答においては、「身に覚えがない」、「アップロードの仕方が分からない」などといった回答がされており、このような事情からすれば、本件調査会社による調査が正確ではなかった可能性がある。
オ 本件各氏名不詳者において、ビットトレントの仕組みを認識している可能性は非常に低いと考えられることからすれば、著作権侵害に関する故意又は過失があったとはいえない。
カ いずれにしても、本件各氏名不詳者により本件動画に係る被告の著作権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
(3)本件通信が「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)に該当しないこと
 前記(2)アのとおり、本件通信は、あくまでも本件調査会社と本件各氏名不詳者という二当事者間における通信にすぎない。
 このような事情に加え、ビットトレントネットワークにおいては、他のピアからの要求により、機械的、自動的にアップロード及びダウンロードが行われるものであること、本件通信は、本件調査会社が被告の依頼に基づき調査のために行っているものであることなどからすれば、本件通信は、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」である「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)に該当しないと解すべきである。
(4)被告の許諾について
 被告は、本件調査会社による調査の際に行われた本件通信によって被告の著作権が侵害されたと主張するが、この調査は、被告の依頼によって行われたものであることからすれば、本件通信を行うことについては、著作権者である被告の許諾が存在し、著作権侵害が成立しないと解すべきである。
(5)小括
 したがって、特定電気通信による情報の流通によって被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであるとはいえない。
2 争点2(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について
(被告の主張)
 被告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償等を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。
 したがって、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
(原告の主張)
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって被告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について
(1)本件動画に係る著作権の帰属について
 証拠(乙1、4)及び弁論の全趣旨によれば、本件動画はアダルト動画であり、Aがその撮影及び製作に関する決定を行ったことが認められる。そうすると、本件動画は、思想又は感情を創作的に表現した映画の著作物(著作権法2条1項1号、10条1項7号)であって、かつ、Aは、本件動画の「全体的形成に創作的に寄与した者」(同法16条)に該当し、本件動画の著作者であるといえる。
 また、上記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件動画の製作に発意及び責任を有する者すなわち「映画製作者」(同法2条1項10号)であると認められ、Aは、「映画製作者」である被告に対し、本件動画の「製作に参加することを約束している」ものと認められる。
 したがって、本件動画の著作権は、著作権法29条1項により、被告に帰属する。
(2)特定電気通信である自動公衆送信に係る情報の流通によって被告の権利が侵害されたか否かについて
ア 本件調査会社が「公衆」(著作権法2条1項7号の2)に該当すること
 前提事実(2)、証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレントネットワークにおいて送受信されるファイルは、ハッシュ値によって特定され、当該ハッシュ値により特定されるファイルに係るトレントファイルと同じトレントファイルを持ったユーザー同士のみがネットワークを形成すると認められる。そして、当該ファイルに係るトレントファイルは、インターネット上で公開されている以上、不特定の者において利用することができるから、同じトレントファイルを共有している各ピアの管理者も、不特定の者となるのが通常である。
 したがって、本件ファイルに係るトレントファイルをダウンロードしてビットトレントネットワークに参加した本件調査会社は、不特定の者として「公衆」(著作権法2条1項7号の2)に当たるといえる。
イ 本件動画が本件調査会社に対して「送信」(著作権法2条1項7号の2)されたといえること
 前提事実(2)ないし(4)、証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレントネットワークを形成するピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送(アップロード)するように動作すると認められる。
 そして、前提事実(3)のとおり、本件調査会社は、本件ファイルに対応するハッシュ値を監視対象とし、該当者の端末に割り当てられたIPアドレス及びポート番号を捕捉する本件監視ソフトウェアを稼働させて、本件各氏名不詳者との間でPIECE通信(本件通信)を行い、実際に、本件各氏名不詳者から各ピースのアップロードを受け、各ピースをハードディスクに保存したものであるところ、前提事実(4)のとおり、このような形でダウンロードされた各ピースは、本件再生試験において、動画を再生できることが確認されたものである。
 また、本件再生試験の結果(乙18)及び弁論の全趣旨からすると、当該ピースを再生して表示される各動画は、それぞれ、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものであると認められる。
 これらのことからすると、本件調査会社に対して各ピースをアップロードした行為は、本件動画の「送信」(著作権法2条1項7号の2)に当たるといえる。
ウ 本件動画に係る被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたこと
 前記ア及びイによれば、ビットトレントネットワークを介して、本件各氏名不詳者が管理するピアが、公衆である本件調査会社の求めに応じて、本件ファイルの一部を構成するピースをアップロードすることにより、本件動画の一部が自動公衆送信された(著作権法2条1項9号の4)と認められる。
 したがって、本件通信により本件動画に係る被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたものと認められる。
エ 本件通信が「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)に該当すること
 前記アのとおり、トレントファイルは、インターネット上で公開されており、不特定の者において利用することができ、かつ、同じトレントファイルを共有している各ピアの管理者は、不特定の者となるのが通常であることからすれば、実際に行われた本件通信が本件調査会社と発信者との間のものであったとしても、本件調査会社は「不特定の者」(プロバイダ責任制限法2条1号)に該当するというべきである。
 そうすると、本件通信は、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」である「特定電気通信」(同号)に該当すると認められる。
オ まとめ
 以上によれば、特定電気通信である情報の流通によって、被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたと認められる。
(3)原告の主張について
 原告は、@本件調査会社による調査や本件再生試験が適切に行われていない可能性があること、A原告の行った意見照会に対する回答においては、「身に覚えがない」、「アップロードの仕方が分からない」などといった回答があり、本件各氏名不詳者には著作権侵害に関する故意又は過失があったとはいえないこと、B本件調査会社による調査は、被告の依頼に基づくものであるから、本件通信を行うことについては、著作権者である被告の許諾が存在し、著作権侵害が成立しないことなどを主張する。
 しかしながら、上記@については、本件全証拠によっても、本件調査会社による調査や本件再生試験が適切に行われていないと認めることはできず、原告の主張は抽象的な可能性を指摘するものにすぎない。
 また、上記Aについては、プロバイダ責任制限法5条1項1号は,違法な権利侵害であることの明白性までは要求しているものの、故意又は過失を要件として規定していないこと、発信者が特定されていない段階で被告が発信者の主観的要件である故意又は過失の存在を主張立証するのは酷であるといえることからすると、発信者情報の開示を求める段階で、被告において発信者の故意又は過失を立証する必要まではないと解するのが相当である。そうすると、本件各氏名不詳者に著作権侵害に関する故意又は過失があったか否か不明であることは、前記(2)の判断を左右する事情とはいえない。
 さらに、上記Bについては、証拠(乙7、8)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社による調査は、ビットトレントネットワークを介した著作権侵害の有無を確認するために行われたものであり、被告は、その調査によって特定された人物に対し、被告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をする予定であることが認められる。このような調査の目的等を踏まえると、本件通信の際に生じた著作権侵害の事実について、被告が許諾をしていたと認めることはできないというべきである。
 したがって、原告の上記各主張はいずれも採用できない。
(4)違法性阻却事由の不存在
 本件全証拠によっても、本件各氏名不詳者の行為について、違法性を阻却すべき事情はうかがわれないから、違法性阻却事由は存在しないと認めるのが相当である。
(5)小括
 以上によれば、送信可能化について判断するまでもなく、特定電気通信による情報の流通によって、本件動画に係る被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、本件各発信者情報は、「当該各権利侵害に係る発信者情報」に該当するものと認められる。
2 争点2(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について
 弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各氏名不詳者に対し、本件動画に係る被告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をする予定であるものと認められ、その請求のためには、原告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。
 したがって、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)と認められる。
第5 結論
 よって、原告に本件各発信者情報の開示を命じた本件決定は相当であるから、これを認可することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 塚田久美子
 裁判官 木村洋一


(別紙動画目録 省略)

(別紙)発信者情報目録
 別紙動画目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に相手方から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。
@氏名又は名称
A住所
B電子メールアドレス
 以上
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