判例全文 line
line
【事件名】服飾専門学院のテキスト共同著作事件(2)
【年月日】令和6年12月25日
 知財高裁 令和6年(ネ)第10035号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第70315号)
 (口頭弁論終結日 令和6年11月11日)

判決
控訴人(第1審原告) X
同訴訟代理人弁護 士尾関博之
被控訴人(第1審被告) 学校法人文化学園
同訴訟代理人弁護士 辰野守彦
同 船橋啓
同 照井国興
同 木村将也
同 沼尻清志


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
 (略語は、本判決で定めるもののほか、原判決の例による。ただし、「本件書籍」の定義に係る原判決別紙書籍目録中に発売元「一般財団法人日本ファッション協会振興協会」とあるのは「一般財団法人日本ファッション教育振興協会」の誤りであり、「A」のフルネーム「A’」とあるのは「A”」の誤りであるから、その旨訂正する。)
第1 事案の要旨
 被控訴人は、「ファッション色彩〔I〕ファッション色彩能力検定試験3級準拠」と題する本件書籍を販売している。控訴人は、被控訴人が設置運営する文化服装学院の講師を務めていた者であり、本件書籍の執筆者の一人であるが、被控訴人従業員としての職務上本件書籍を執筆したものではなく著作権法15条1項所定の職務著作は成立していないなどと主張して、本件書籍の著作権(複製権)侵害を理由に、被控訴人に損害賠償等を求めている。
第2 当事者の求めた裁判
1 控訴人の請求
(1)被控訴人は、本件書籍を複製してはならない。
(2)被控訴人は、控訴人に対し、1111万5248円及びこれに対する令和5年6月9日から支払済みまで年3分の割合による金銭を支払え。
【請求の法的根拠】
(1)について
 著作権法112条1項に基づく差止請求
(2)について
ア 主位的請求
・主請求:不法行為に基づく損害賠償請求
・附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴状送達日の翌日、利率は民法所定)
イ 予備的請求
・主請求:不当利得返還請求(主請求額1010万4771円)
・附帯請求:利息金請求(起算日は訴状送達日の翌日、利率は民法所定)
2 原審の判断及び控訴の提起
 原審は、職務著作の成立を認め、控訴人の請求を全部棄却する判決をしたところ、これを不服とする控訴人が下記のとおり控訴を提起した。
【控訴の趣旨】
(1)原判決を取り消す。
(2)上記1(1)、(2)と同旨
第3 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張
1 前提事実は、原判決「事実及び理由」の第3の1(2頁〜)に記載するとおりであるから、これを引用する。
2 本件の主な争点は、下記のとおりであるが、当審においては、争点(1)イが中心的に争われている。
【争点】
(1)本件書籍の著作権の帰属
ア 著作権法14条の適用の有無
イ 職務著作の成否
(2)被控訴人の故意又は過失の有無
(3)損害額
(4)不当利得の成否
3 争点に関する当事者双方の主張は、当審における補充的主張を下記4のとおり加えるほか、原判決「事実及び理由」の第3の3(3頁〜)に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当審における当事者の補充的主張(争点(1)イ:職務著作の成否)について
(1)「職務上作成する著作物」について
【控訴人の主張】
ア 本件書籍の作成指示は、本件財団法人の当時の事務局長兼理事であったAからされたものであり、被控訴人から指示されたものではない。被控訴人が設置運営する文化服装学院の本件当時の教務部長B’(本件財団法人の理事でもある。以下「B」という。)は、本件書籍の執筆を被控訴人の業務として行ってはならないと厳命していたのであり、業務性を明確に否定している(甲20)。
イ 控訴人は、本件当時、月火金の週3日間、9時から17時まで就業しており、週8コマの講義を受け持っていたため、実際上、嘱託講師の業務として執筆等できるはずがなかった。それにもかかわらず、控訴人は、本件書籍の9割ほどに当たる200頁近くを自ら執筆し、制作(作図、レイアウト等)をし、他の制作者の担当部分の原稿や図についても指示をして、実質的に全部を創作したのであるから、膨大な時間と注意力を割いてした大仕事であり、これは到底嘱託講師業務としてできたことではない。
ウ しかも、控訴人に支払われた本件書籍の執筆の対価(原稿料)は、控訴人に対する講師給与・手当から明確に区別されていた。控訴人の本件当時の給与(甲2)は、本俸42万円(令和3年度。平成18年当時はさらに少額であった。)程度であり、この他に研究手当4万2000円、賞与及び通勤手当が支給されたのみである。それにもかかわらず、本件書籍の執筆に関し、控訴人に対して原稿料名目で本俸額を大きく上回る47万1000円を支払われている(甲6)。このような対価の支払は、嘱託講師業務の対価とは全く別の性質のものと理解せざるを得ないのであり、このことからも本件書籍の執筆が被控訴人の職務と無関係であることが裏付けられる。
【被控訴人の主張】
ア 本件書籍は、本件検定での活用を目的に被控訴人により発案・制作が決定されたものである。その制作過程において、控訴人は、被控訴人の指揮命令の下、他の被控訴人職員とともに執筆に関与したのであるから、本件書籍は被控訴人の「業務に従事する」控訴人が「職務上作成」したものである。
 控訴人が援用するBの陳述書(甲20)では、本件書籍の執筆につき被控訴人の指示がなかったなどとしているが、本件計画案(甲18)では「文化服装学院教職員に執筆願っている」との記載があり、陳述書の内容と合致していない。しかも、控訴人自身、本件書籍の一部を職場で執筆したことを認めており(甲19)、この点はBの上記陳述書の内容と矛盾している。さらに、文化服装学院の教務部所属職員として時間割作成作業補助をしていたCは、控訴人が本件検定関係の仕事を始めた時期に、本件検定に関連する仕事をBから頼まれているから時間割を調整してほしいとの依頼を控訴人から受けたことを述べている(乙22)。被控訴人の指示により控訴人が本件書籍を執筆したことは明らかである。
イ 学校法人である被控訴人の教員であれば、被控訴人の職務命令により被控訴人が刊行予定の書籍の執筆活動に従事することは、通常想定される業務である。なお、被控訴人は、控訴人に対して雇用契約上の給与とは別に「原稿料」を支給しているが、これは在宅中等による執筆がなされることがあり得ることを想定したものにすぎない。
ウ 本件書籍に関し、被控訴人と本件財団法人との間には何ら紛争はなく、本件書籍執筆後に結ばれた第1覚書及び第2覚書の各第3条に記載されているとおり、本件書籍の著作者は被控訴人とされている。控訴人は、自らが本件書籍の著作者であるとしながら、本件書籍の第1刷が平成18年3月に発売されてから令和4年10月までの長期間、著作権者として被控訴人に申入れをしておらず、不自然である。
(2)「著作の名義の下に公表するもの」について
【控訴人の主張】
ア 著作権法15条1項の「公表するもの」との文言からも明らかなように、この公表要件については、本件書籍の創作当時に誰を著作者として予定していたかを考えるべきである。本件財団法人は、ファッションに関する知識・技術の普及等を図り、関連書籍を発刊することを目的とする財団法人であり、本件書籍の出版の趣旨も、正に本件財団法人が新規に取り組むファッション色彩教育・検定学習推進であることからすると、本件財団法人が本件書籍の著作者となることが予定されていたといえる。
 被控訴人は、本件書籍は執筆者の個性・創作性を表現する内容ではないなどと主張するが、本件書籍の内容における高い創作性を見過ごしており、失当である。
イ 原判決は、(c)マーク(コピーライトマーク)の存在を公表要件該当性の根拠として誇大視しているが、(c)マークはその沿革(サンフランシスコ平和条約から万国著作権条約批准までの経緯等)からして、あくまでも著作権者を示すものであり、著作者を示すものではない。
 このことは、(c)マークの今日的意義からも裏付けられる。一般社団法人日本書籍出版協会が雛形として提供し、被控訴人も採用する出版権設定契約書(乙21の1)では、「権利の保全のために・・・(c)・・・を表示する」との記載があり(第11条)、ここからも(c)マークは著作権者の表示であることが確認できる。さらに、控訴人が調査した多くの書籍の奥付の例(甲28)では、「著者名」等の表示が存在する322件のうち284件で(c)マークが併存しており、著作者名ないし著作名義の情報の表示について(c)マークに頼っていない。
 また、本件財団法人は、本件書籍発行時に、被控訴人所属の教員主導による各種検定を既に3種主催していたところ、他検定の準拠書籍(甲23〜25)では、著作者名表示は全て本件財団法人となっている。このことからも、著作者として表示が予定されていたのは、本件検定を主催する本件財団法人であるといえる。
ウ 原判決は、本件財団法人の名前が本件書籍の表紙、背表紙、扉及びはしがきに記載されていることを過小評価している。本件では、本件書籍の表紙等といった、著作者が通常表示されるといえる場所に本件財団法人の名称が記載されているのであるから、著作権法14条の推定規定が働き、本件財団法人が本件書籍の著作者であると推定されるべきである。
エ その上、第1覚書(乙1)や第2覚書(甲7)には「出版権は被控訴人」(各第3条)、「再販時の印税なし」(各第8条)との趣旨の記載があるところ、元々の著作者が被控訴人であるならわざわざこれらの規定を置く必要はない。これらの規定は、被控訴人の文化出版局が本件書籍の著作者と予定されていたこととは整合性の取れないものである。
【被控訴人の主張】
ア 著作名義の公表については、公表名義が表示されている場所、体裁やその著作物の性質等から、総合的に判断すべきとされている。本件書籍は、その性質・内容・構成・体裁等からして、法人としての被控訴人が「自己の著作の名義の下に公表」したものと評価されるべきである。
 まず、本件書籍のタイトルは「ファッション色彩[I]ファッション色彩能力検定試験3級準拠」であり、タイトルに本件検定試験の名称が含まれ、かつ「準拠」と明記されている。そして、本件書籍の発行は、本件検定試験の実施と直接関連しており、本件書籍は本件検定試験の実施内容に沿った試験用解説書とされる必要がある。このように本件書籍は、その性質上、執筆者の個性・創作性を表現する内容ではない。実際、本件書籍の内容・章立て等は、本件検討試験の検討・協議の過程で作成された本件計画案(甲18)に記載されたとおりであり、この本件計画案は被控訴人が企画・発案したものである。
イ また、本件書籍の奥付には、「発売元」(本件財団法人)と明確に区別して、「発行」として、被控訴人組織の一部である文化出版局の名称が表記され、著作権者を表す通常の方法である(c)マークを用いて、この文化出版局を示す「(c)BunkaPublishingBureau」の表示がされている。(c)マークは、新聞・雑誌の例にみられるように、現在において、法人としての著作物について権利者の表示に止まらず、著作者名としての法人名を表示するものであることが世間一般に認識されている。さらに、広く一般に使用される検索エンジン(Google検索)で検索しても、「著作者」を表示するためには(c)マーク表示が有用であると読める記事の検索結果が表示される。
 これに対し、控訴人が指摘する各書籍(甲23〜25)では、本件財団法人が編者とされたり、(c)マーク下にその名称が記載されていたりするが、本件書籍とは「発行」名義及び「(c)マーク」の名義が異なっており、しかも、内容・表記・出版経緯が違っているのであるから、これらの書籍の存在を根拠に、本件書籍についても本件財団法人が著作者となることが予定されていたとはいえない。
ウ 控訴人は、本件財団法人の名称が本件書籍の表紙等に記載されていることを指摘するが、これは本件書籍が本件検定試験に準拠した書籍であること、本件検定の実施者が本件財団法人であることを示しているにすぎない。本件書籍には本件財団法人名の著作名義の表示はなく、本件財団法人が著作者と推定されることはない。
エ 控訴人が指摘する第1覚書及び第2覚書の各第3条は、本件書籍の「出版権が被控訴人にある」とするものであり、その文意どおり、被控訴人が著作者であることを示しているにすぎず、各第8条も、本件財団法人に著作権がなく、印税を受領する「著者」がいないことを示すにすぎない。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も、争点(1)イにつき、職務著作の成立をいう被控訴人の主張には理由があり、控訴人は本件書籍の著作権を有しないから控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
2 職務著作の成否に関する認定事実及び被控訴人の「発意」の要件充足が認められることについては、原判決「事実及び理由」の第4の1(1)(11頁〜)及び(2)(14頁〜)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 「職務上作成する著作物」について
(1)上記引用の認定事実によれば、本件検定は、被控訴人の理事長兼本件財団法人の理事であったDの指示により、発足に向けた検討が始まったものであり、関係団体としては被控訴人と本件財団法人の関与が想定されていたところ、両者の関係は、最終的に、@本件検定の実施主体は本件財団法人とするが、A本件検定の標準テキストというべきガイドブック(本件書籍)は、被控訴人を「発行」主体とし、被控訴人(文化服装学院)が内容を検討し、その職員において執筆するという役割分担が整理されたこと、実際にも、本件書籍の執筆を担当したのは、控訴人を含む被控訴人の従業員3名であり、この3名に対しては、被控訴人から「原稿料」が支払われていることが認められる。
 以上の事実によれば、本件書籍は、被控訴人の従業員としての控訴人が、その職務上作成したものと認めることができる。なお、控訴人も、本件書籍の執筆に当たり、文化服装学院内において執筆することがあり、被控訴人の職員と打ち合わせ、被控訴人が所蔵する資料を借り出し、調査等の目的で文化服装学院の図書館を利用したことを認めている(甲19、弁論の全趣旨)。
(2)以上の認定・判断に反する控訴人の主張は、以下のとおり、いずれも採用できない。
ア まず、控訴人は、本件書籍の作成指示は、本件財団法人の当時の事務局長兼理事であったAから受けたと主張し、本件当時の文化服装学院の教務部長のBの陳述書(甲20)中には、控訴人がAとやり取りをしており、自分としては本件書籍の執筆を被控訴人の業務として行ってはならないと厳命していたとの記載もある。
 しかし、本件財団法人作成の本件計画案(甲18)中に、本件書籍は被控訴人(文化服装学院)の職員に「執筆願っている」旨の記載があるほか、被控訴人と本件財団法人間の覚書においても、本件書籍は、被控訴人(文化服装学院)側で執筆を含む編集・出版を担当することが明記されている。Bの陳述書は、これら関係証拠と矛盾するものであって、採用できない。
イ また、控訴人は、本件書籍執筆当時の嘱託業務量からして、膨大な分量のある本件書籍を執筆することはできなかったとも主張する。しかし、嘱託業務としての所定の勤務時間内に本件書籍の執筆をすることが困難であったとしても、講師としての本来の報酬とは別に相応の報酬を受け取ることを前提に、付随業務として本件書籍の執筆を新たに引き受けるということはあり得る話であり、控訴人の上記主張は、本件書籍の執筆が被控訴人従業員としての職務(付随業務)に含まれないと解すべき理由にはならない。
ウ さらに、控訴人は、本件書籍執筆に関して本俸を上回る原稿料が支払われていることから、本件執筆が嘱託専任講師業務とは別の性質のものであると主張する。しかし、ここで重要なのは、「原稿料」が、本件財団法人からではなく、控訴人の使用者である被控訴人から支払われているという事実である。本件財団法人(A)に指示されて執筆した旨をいう控訴人の主張は、この事実と整合せず、原稿料の支払に関する客観的な事実関係は、むしろ、被控訴人従業員としての職務(付随業務)に基づいて本件書籍の執筆がされたことを推認させるものである。なお、本来の講師としての報酬と別枠での支払になっているという点に関していえば、当該原稿料の支払は、付随業務の負担が重いことに配慮した補償的な現金支給であったと理解できるから、いずれにせよ上記認定判断を左右しない。
4 「著作の名義の下に公表するもの」について
(1)本件書籍の奥付等の記載について
ア 前記引用に係る前提事実(原判決「事実及び理由」の第3の1(2))のとおり、本件書籍の奥付には、「発行」として「学校法人文化学園文化出版局」の名称が記載され、この「発行」の記載とは別に、「発売元」として本件財団法人の名称が記載されており、これらの記載から離れた下部には「(c)BunkaPublishingBureau」(文化出版局)の記載がされている。
 ところで、学校法人においては収益事業の区分経理が求められているところ(私立学校法26条3項)、証拠(乙17、18)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、収益事業組織である文化出版局に属する業務を行う場合には、「学校法人文化学園文化出版局」又は単に「文化出版局」という名称を使用していたことが認められ、「BunkaPublishingBureau」とは、その英語表記であると認められる。したがって、「学校法人文化学園文化出版局」及び「BunkaPublishingBureau」との表記は、法人としては被控訴人を指すものと理解すべきである。
イ 以上の前提で、上記奥付の(c)マークの意義を検討するに、控訴人は、あくまでも著作権者を示すものであって著作者の表示ではないと主張するのに対し、被控訴人は、著作権者の表示に止まらず著作者を示す表示としても世間一般に認識されている旨主張する。
 この点、確かに、サンフランシスコ平和条約及び万国著作権条約批准に至る沿革に照らすと、本来、(c)マークが著作権者を示す表示であることは、控訴人の主張するとおりと解されるが(甲30〜33)、他方、証拠(乙11、27の1〜3、乙28の1、2)によれば、(c)マークはクレジット表記(コンテンツの著作者、提供者を示すもの)としても社会一般に浸透しつつあることが認められる。(c)マークと「著者」、「作者」、「著」、「作」等の表記が併存する場合には、(c)マークが著作権者の表示、「著者」等が著作者の表示を意味すると理解すべきであるが(甲28の各枝番)、本件書籍においては、「著者」、「作者」、「著」、「作」等の表示はない。少なくともこのような場合には、(c)マークをクレジット表記と理解する余地もあると解され、最終的にこれが著作者表示として認められるかどうかは、本件書籍の著作物としての性質等を総合して判断する必要があるというべきである。
ウ ところで、本件書籍の表紙、背表紙、扉及びはしがきには本件財団法人の名称が記載されているが、これは、本件書籍を本件検定の標準テキストとして推奨していることを示すために、本件検定の実施主体である本件財団法人の名称を前面に出したと理解されるものであり、これを著作者の表示と解すべき根拠はない。
(2)本件書籍の著作物としての性質等
 上記(1)イの観点から更に検討するに、上記のとおり、本件書籍は、新たに発足する本件検定の標準テキストというべき位置付けのガイドブックであり、本件検定に準拠し、その内容が制約されることは、「ファッション色彩[I]ファッション色彩能力検定試験3級準拠」という題名からも明らかなものである。このように、本件書籍は、その性質上、執筆者個人の表現の個性・創作性が重視されるものではなく、あくまで本件検定試験に準拠したテキストとして制約を受けた上で執筆されたものであるから、そのようなテキストの発行を企画・編集した発行主体(組織体)を著作物の創作主体として遇することが自然といえる。本件書籍が、あえて執筆者個人(自然人)を著作者として明示していないのは、上記の趣旨に基づくものと理解される。
(3)上記(1)で示した奥付の記載(特に(c)マーク)に本件書籍の著作物としての性質等を総合すると、本件書籍は、被控訴人の著作名義の下に公表されたものと認めることができる。なお、本件計画案に照らすと、上記奥付の記載は、本件書籍が執筆された当時に想定されていた公表名義と基本的に異なるものではないと認められる。
(4)これに対し、控訴人は、本件財団法人が主催する他の検定に準拠する各種書籍においては、(c)マーク下の表示が全て本件財団法人の名称であると主張する。しかし、上記主張にいう「他の検定」とは、「ファッションビジネス能力検定」、「パターンメーキング技術検定」、「ファッション販売能力検定」であって(甲23〜25の各枝番)、本件の「ファッション色彩能力検定」とは、求められる専門性、テキストの内容等も当然異なるものである。それぞれのテキストを発行するに当たっての企画・編集等の作業、執筆者の構成等も当然異なるはずであり、それぞれの実情に応じた著作者表示が行われた結果、上記「他の検定」に係るテキストでは本件財団法人を、本件書籍では被控訴人を著作者として表示することになったとしても、何の不思議もない。
 その他、控訴人は、第1覚書(乙1)や第2覚書(甲7)に「出版権は被控訴人」(各第3条)、「再販時の印税なし」(各第8条)との趣旨の記載があることを指摘し、被控訴人が本件書籍の著作者であれば、わざわざこれらの規定を置く必要はないとも主張する。しかし、前者の出版権に関する記載(各第3条)は、端的に被控訴人が著作者・著作権者であることを示していると理解することが可能かつ自然であり、後者の印税に関する記載(各第8条)については、著作者の帰属を明示的にも黙示的にも定めるものとはいえない。
5 小括
 以上に加え、本件において「その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定め」がないことは当事者間に争いがないから、本件書籍については職務著作(著作権法15条1項)の成立が認められ、その著作者は被控訴人であると認められる。控訴人が本件書籍の著作権を有するとは認められない。
第5 結論
 よって、その余の点について検討するまでもなく、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 宮坂昌利
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 岩井直幸
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/