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【事件名】NTTコムへの発信者情報開示請求事件AF(2) 【年月日】令和6年12月24日 知財高裁 令和6年(ネ)第10052号 発信者情報開示請求控訴事件 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第70039号) (口頭弁論終結日 令和6年10月31日) 判決 控訴人 有限会社プレステージ 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 大塚直 同 河田隆克 被控訴人 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 同訴訟代理人弁護士 松田真 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを100分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 主文同旨 第2 事案の概要等(略語は、特記しない限り原判決に従う。) 1 事案の要旨 本件は、控訴人が、氏名不詳者ら(本件各発信者)が原判決別紙著作物目録記載の動画(本件動画)の複製物(本件複製ファイル)を送信可能化したことにより本件動画に係る控訴人の著作権(送信可能化権)が侵害されたことが明らかであるとして、電気通信事業を営む被控訴人に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 原判決は、本件各発信者情報が「権利の侵害に係る発信者情報」(法5条1項)に当たるとは認められないとして、控訴人の請求を全て棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。 2 前提事実 前提事実は、原判決の「事実及び理由」第2の2(3)「BitTorrentの仕組み」のエにつき、「Handshake」及び「UNCHOKE通信」の説明を加えるために次のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の2(原判決2頁3行目〜3頁23行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 「エ リストを受け取ったユーザーは、ダウンロードしたい特定のファイルを持つ他のユーザーに接続して、ダウンロードを開始する。 具体的には、共有対象となる特定のファイルに対応して形成されたビットトレントネットワークにピアとして参加した端末は、他のピアとの間で通信を行って稼働状況の確認を行い(以下「Handshake」という。)、その後、他のピアが保有するピースの保有状況を確認してピースをアップロードすることができる状態である旨を示す通信(以下「UNCHOKE通信」という。)を行った上、上記特定のファイルを構成するピースを保有するピアに対してその送信を要求してこれを受信し、また、他のピアからの要求に応じて自身が保有するピースを送信して、最終的には上記特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。」 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点及び争点に関する当事者の主張は、後記2のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第3(原判決3頁24行目〜7頁3行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 当審における当事者の補充主張 (1)争点1(「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)についての控訴人の主張 ア 本件各発信者は、本件ソフトウェアとの間でUNCHOKE通信を行った際、まさに送信可能化状態にあったといえ、控訴人の送信可能化権を侵害している。したがって、著作権法における送信可能化権侵害についての原判決の法解釈は誤りである。 著作権法23条1項の趣旨は、実際にダウンロードが行われて自動公衆送信権が侵害されなくても、その前段階である発信者による送信可能化状態を権利侵害と捉え、著作権者を保護しようとするものである。したがって、原判決のように、著作権法2条1項9号の5イ又はロの行為によって、送信可能化が実現された後については「送信可能化」に該当する行為が継続することはないと解することは、送信可能化権の成立範囲を著しく狭めるものであり、上記趣旨に反する。 また、著作権法2条1項9号の5イ又はロに規定される行為は飽くまでも送信可能化状態を作出するための開始行為にすぎず、「自動公衆送信し得るようにすること」という文言からも、送信可能化状態を開始することが該当することはもちろん、その後の送信可能化状態が維持されることは排除しているものとはいえない。 したがって、著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の行為により、送信可能化状態になり、それが継続する以上は、送信可能化権侵害も成立すると解するのが相当である。 イ 本件のUNCHOKE通信は、本件各発信者の送信可能化が完了した後、本件各発信者から本件ソフトウェアに対しアップロードが可能であることを通知する旨の通信である。したがって、当該UNCHOKE通信が行われた際、本件各発信者の自動公衆送信が可能な状態が継続していたのであり、当該UNCHOKE通信は申立人の送信可能化権の侵害を直接的にもたらされているといえる。 (2)争点1(「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)についての被控訴人の主張 ア 送信可能化とは、著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の行為により「自動公衆送信し得るようにすること」である。これは公衆からの求めがあれば自動的に著作物が送信される状態を作り出すことであるから、本件においても各ピアはUNCHOKE通信時において著作物が送信される状態、すなわち本件動画についてその表現の本質的特徴を直接感得できる程度に保有している必要がある。 本件では、UNCHOKE通信時において各ピアが本件動画の表現の本質的特徴を直接感得できる程度のファイルを保有していたかは不明である。 イ 法5条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」とは「侵害情報が流通されることとなった特定電気通信の過程において把握される発信者情報」と解するのが相当である。そうすると、UNCHOKE通信は侵害情報を流通させる通信ではないから、UNCHOKE通信に係る情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」には当たらない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について (1)証拠(甲1、4、5〜9、11)及び弁論の全趣旨によると、ビットトレントネットワークで共有されていた本件複製ファイルが本件動画の複製物であること、原判決別紙動画目録記載の各IPアドレス及びポート番号の組合せは、本件ソフトウェアが、本件複製ファイルを共有しているピアのリストとしてトラッカーから取得したものであること、同目録記載の発信時刻は、上記IPアドレス及びポート番号を割り当てられていた各ピアが、本件ソフトウェアとの間で行ったUNCHOKE通信において応答した日時であることがそれぞれ認められる。 そうすると、上記各ピアのユーザーは、その対応する各発信時刻までに、本件動画の複製物である本件複製ファイルのピースを、不特定の者の求めに応じて、これらの者に直接受信させることを目的として送信し得るようにしたといえ、他のピアのユーザーと互いに関連し共同して、本件動画の複製物である本件複製ファイルを、不特定の者の求めに応じて、これらの者に直接受信させることを目的として送信し得るようにしたといえる。これは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置である各ピアの端末の公衆送信用記録媒体に本件複製ファイルを細分化した情報である本件複製ファイルのピースを記録し(著作権法2条1項9号の5イ)、又はこのような自動公衆送信用記録媒体にビットトレントネットワーク以外の他の手段によって取得した本件複製ファイルが記録されている自動公衆送信装置である各ピアの端末について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行った(同号ロ)といえるから、本件動画につき控訴人が有する送信可能化権が侵害されたことが明らかである。 (2)上記(1)のとおり、原判決別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び発信時刻により特定される通信は、各ピアが本件ソフトウェアとの間で行ったUNCHOKE通信において応答した通信であって、他のピアとの間で本件複製ファイルのピースを送受信し、又は本件複製ファイルを記録した端末をネットワークに接続する通信そのものではない。このような通信に係る発信者情報(本件各発信者情報)も、法5条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるかが問題となる。 そこで検討すると、法5条1項は、開示を請求することができる発信者情報を「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅を持たせたものとし、「当該権利の侵害に係る発信者情報」のうちには、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの。)を含むと規定しているところ、特定発信者情報に対応する侵害関連通信は、侵害情報の記録又は入力に係る特定電気通信ではない。上記の各規定の文理に照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、必ずしも侵害情報の記録又は入力に係る特定電気通信に係る発信者情報に限られないと解するのが合理的である。 また、法5条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。なお、令和3年法律第27号による改正により、特定発信者情報の開示請求権が新たに創設されるとともに、その要件は、特定発信者情報以外の発信者情報の開示請求権と比して加重されている。その趣旨は、SNS等へのログイン時又はログアウト時の各通信に代表される侵害関連通信は、これに係る発信者情報の開示を認める必要性が認められる一方で、それ自体には権利侵害性がなく、発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性が高いことから、侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内において開示を認めることにあると解される。 さらに、著作権法23条1項は、著作権者が専有する公衆送信を行う権利のうち、自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含むと規定する。その趣旨は、著作権者において、インターネット等のネットワーク上で行われる自動公衆送信の主体、時間、内容等を逐一確認し、特定することが困難である実情に鑑み、自動公衆送信の前段階というべき状態を捉えて送信可能化として定義し、権利行使を可能とすることにあると解される。 ビットトレントによるファイルの共有は、対象ファイルに対応したビットトレントネットワークを形成し、これに参加した各ピアが、細分化された対象ファイルのピースを互いに送受信して徐々に行われるから、その送受信に係る通信の数は膨大に及ぶことが推認できる。しかるところ、ピースを現実に送受信した通信に係るものでなくては「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとすると、ビットトレントネットワークにおいて著作物を無許諾で共有された著作権者が侵害の実情に即した権利行使をするためには、ネットワークを逐一確認する多大な負担を強いられることとなり、前記のとおり法5条が加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることとした趣旨や、著作権法23条1項が自動公衆送信の前段階というべき送信可能化につき権利行使を可能とした趣旨にもとることになりかねない。 他方UNCHOKE通信は、その通信に含まれる情報自体が権利侵害を構成するものではないが、専ら特定のファイルを共有する目的で形成されたビットトレントネットワークに自ら参加したユーザーの端末がピアとなって、他のピアとの間で、ハンドシェイクの通信により自らがピアとして稼働しピースを保有していることを確認、応答するための通信をした後に、他のピアから当該ファイルがダウンロード可能であることを通知するものであり、通常はその後にピースの送受信を伴うものである。そうすると、UNCHOKE通信は、これが行われた日時までに、当該ピアのユーザーが特定のファイルの少なくとも一部を送信可能化したことを示すものであって、送信可能化に係る情報の送信と同一人物によりされた蓋然性が認められる上、当該ファイルが他人の著作物の複製物であり権利者の許諾がないときは、ログイン時の通信に代表される侵害関連通信と比べても、権利侵害行為との結びつきはより強いということができ、発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性を考慮しても、侵害情報そのものの送信に係る特定電気通信に係る発信者情報と同等の要件によりその開示を認めることが許容されると解される。 以上によると、本件各発信者情報は、法5条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解するのが相当である。 2 争点2(「特定電気通信」該当性)について 被控訴人は、本件動画に係る送信可能化権が侵害されたのは、本件動画のファイルのピースのダウンロードによるものであるところ、ファイルのピースをダウンロードする行為は、データを受信する行為であるから、特定電気通信(法2条1号)に当たらない旨を主張する。しかしながら、前記1(2)の説示のとおり、特定のファイルの少なくとも一部を送信可能化したことをもって送信可能化権の侵害と判断するものであって、本件動画のファイルのピースのダウンロードによるものと判断するものではないから被控訴人の上記主張は前提を欠き採用することができない。 3 争点3(調査の信用性)について 被控訴人は、本件ソフトウェアにつき、別件の発信者情報開示請求訴訟において、IPアドレスとタイムスタンプの組合せの結果存在しない通信が多数含まれていることなど、誤りが多数見られたことから信用性を欠く旨を主張する。しかしながら、被控訴人の主張は、飽くまでも別件訴訟における調査結果であって、本件の調査結果についての指摘をするものではなく、本件の調査結果の信用性を否定する具体的な指摘もないことからすると、被控訴人の上記主張は採用できない。 4 弁論の全趣旨によると、控訴人は、本件各発信者に対し、本件動画の著作権侵害を原因とする損害賠償請求等をすることを予定していると認められる。そして、控訴人が既に本件各発信者を特定している等の事情は認められないから、控訴人には本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。 他方、被控訴人は原判決別紙動画目録記載の各情報のうち、同目録番号263及び300を保有していないことからすると、同目録番号263及び300に関する控訴人の請求は理由がない。 5 結論 以上によると、控訴人の請求は、被控訴人が保有している別紙発信者情報目録記載の情報を求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと異なり、控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であって、本件控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 本多知成 裁判官 遠山敦士 裁判官 天野研司 (別紙)発信者情報目録 原判決別紙動画目録(ただし、動画目録263、300を除く。)記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被控訴人から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス(ただし、動画目録27、45、67、71、77、98、112、115、123、143、145、163、182、206、210、236、272、302、303、316、322、323及び328を除く。) 以上 |
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