判例全文 line
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【事件名】「ゾンビ」映画の字幕翻訳事件(2)
【年月日】令和6年12月23日
 知財高裁 令和6年(ネ)第10054号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和4年(ワ)第2227号(第1事件)、同第3382号(第2事件))
 (口頭弁論終結日 令和6年11月6日)

判決
控訴人兼被控訴人(第1事件・第2事件原告) X(以下「第1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 小倉秀夫
被控訴人兼控訴人(第1事件・第2事件被告) 株式会社スティングレイ(以下「第1審被告スティングレイ」という。)
同訴訟代理人弁護士 高橋謙治
被控訴人兼控訴人(第1事件・第2事件被告) 株式会社フィールドワークス(以下「第1審被告フィールドワークス」という。)
同訴訟代理人弁護士 大栗悟史
被控訴人兼控訴人(第2事件被告) 株式会社ハピネット(以下「第1審被告ハピネット」という。)
同訴訟代理人弁護士 辻哲哉


主文
1 第1審被告らの控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1)第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスは、第1審原告に対し、連帯して、1万1000円及びこれに対する平成22年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
(2)第1審被告らは、第1審原告に対し、連帯して、53万9000円並びにうち7万7000円に対する平成22年10月2日から、うち15万4000円に対する同年11月4日から、うち23万1000円に対する平成25年12月20日から及びうち7万7000円に対する平成26年12月2日から各支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
(3)第1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 第1審原告の本件控訴を棄却する。
3 第1事件の訴訟費用は第1、2審を通じてこれを500分し、その1を第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスの負担とし、その余を第1審原告の負担とし、第2事件の訴訟費用は第1、2審を通じてこれを50分し、その1を第1審被告らの、その余を第1審原告の負担とする。
4 この判決の1項(1)、(2)は、仮に執行することができる。

事実及び理由
(略語は原判決の例による。)
第1 事案の要旨
 第1審原告は、外国映画の日本語字幕翻訳を業とする者であるが、シネ・マイスター(第1審被告フィールドワークスから字幕制作を請け負った業者)からの依頼に基づき、「ゾンビ」というタイトルの付された外国映画(本件各映画)につき本件各字幕を制作した。その後、第1審被告らが、本件各字幕を付した本件各映画のDVD及びブルーレイの商品(本件各商品)を販売したところ、第1審原告は、本件各字幕の利用許諾はゆうばり国際ファンタスティック映画祭2010(本件映画祭)での上映の限度にとどまるなどと主張して、下表のとおりの著作権(複製権、頒布権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)の侵害を理由に、第1審被告らに損害賠償を求めている(以下、下表の符号A〜Dに対応する請求を、「請求A」などと表記する。なお、請求Aは第1事件、請求B〜Dは第2事件に係るものである。)。
  被疑侵害対象商品 第1審被告スティングレイ
第1審被告フィールドワークス
第1審被告ハピネット
A 本件商品1
(本件字幕付映画1
〜5のDVD−BOX)
@字幕についての著作権(複製権、頒布権)侵害、A本件商品字幕4につき、字幕データ改変による著作者人格権(同一性保持権)侵害 (請求なし)
B 本件商品5
(本件字幕付映画1〜5のブルーレイBO])
上記@と同じ
C 本件商品2〜4、9
(DVD)
上記@と同じ請求のほか、B字幕翻訳者としての氏名を表示しなかったことによる著作者人格権(氏名表示権)侵害
D 本件商品6〜8
(ブルーレイ)
上記@、Bと同じ
第2 当事者の求めた裁判
1 第1審原告の原審における請求(請求の法的根拠につき別紙参照)
(1)第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスは、第1審原告に対し、各自478万5000円及びこれに対する平成22年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
(2)第1審被告らは、第1審原告に対し、各自2993万8832円及び内金2856万3546円に対する平成26年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
2 原審の判断及び控訴の提起
 原審は、@本件各字幕の利用許諾の範囲につき、DVD商品には黙示の許諾が認められ著作権侵害は否定されるが(請求A、C関係)、ブルーレイ商品については許諾が認められず著作権侵害が成立する(請求B、D関係)、A本件商品字幕4につき、同一性保持権侵害が成立する(請求A関係)、B第1審原告の氏名表示がないものにつき、氏名表示権侵害が成立する(請求C、D関係)、C第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスは上記各侵害に係る損害賠償義務を免れないが、第1審被告ハピネットは氏名表示権侵害についてのみ損害賠償責任を負うなどと判断し、別紙のとおり、第1審原告の請求を一部認容した。
 これに対し、第1審原告と第1審被告らは、各自の敗訴部分全部を不服として、それぞれ控訴した。
【控訴の趣旨】
(1)第1審原告
ア 原判決を次のとおり変更する。
イ 前記1(1)、(2)と同旨。
(2)第1審被告スティングレイ
ア 原判決中第1審被告スティングレイ敗訴部分を取り消す。
イ 前項の部分に係る第1審原告の請求を棄却する。
(3)第1審被告フィールドワークス
ア 原判決中第1審被告フィールドワークス敗訴部分を取り消す。
イ 前項の部分に係る第1審原告の請求を棄却する。
(4)第1審被告ハピネット
ア 原判決中第1審被告ハピネット敗訴部分を取り消す。
イ 前項の部分に係る第1審原告の請求を棄却する。
第3 前提事実
 前提事実は、原判決の「事実及び理由」の第2の1(3頁〜)のとおりであるから、これを引用する。
 この事実によれば、@第1審原告は、本件各字幕の著作者・著作権者であること、A第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスは、本件商品1を制作、販売し、これにより本件各字幕を複製し、頒布したこと、B第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスは第2事件各商品(本件商品2〜9)を制作した上、第1審被告ハピネットに販売し、第1審被告ハピネットはこれを一般消費者やレンタル事業者に販売し、これにより第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスは本件各字幕を複製して第1審被告ハピネットに頒布し、第1審被告ハピネットは一般消費者又はレンタル事業者に頒布したことが認められる。
第4 争点及び当事者の主張
1 争点
(1)第1審原告は本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか(争点1)
(2)本件商品字幕4を作成したことは第1審原告の同一性保持権を侵害するか(争点2)
(3)本件商品2〜4、6〜9について、字幕翻訳者として第1審原告の氏名を表示しなかったことは第1審原告の氏名表示権を侵害するか(争点3)
(4)消滅時効の成否(争点4)
(5)第1審被告ハピネットは氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか(争点5)
(6)損害の発生及びその数額(争点6)
2 争点に関する当事者の主張
 上記争点に関する当事者の主張は、後記3のとおり当審における当事者の補充的主張を加えるほか、原判決「事実及び理由」第2の3(12頁〜)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当審における当事者の補充的主張
(1)争点1(第1審原告は本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか)について
【第1審原告の主張】
 原判決は、DVDへの本件各字幕の使用について第1審原告による黙示の利用許諾を認めたが、以下のとおり、経験則に反する事実認定の上に誤った法令の解釈を当てはめたものである。
ア まず許諾の相手方につき、仮に、第1審原告がシネ・マイスターに対し、DVDの販売全般及びテレビ放映に係る本件各字幕の利用について了承をしていたとしても、第1審被告らによる本件各字幕の利用行為について黙示の許諾をしたことはならない。相手を特定としないものは具体化された許諾とはいえない。第1審原告は、誰がいつDVD−BOXを生産し販売するかを事前に告げられていない。
イ 第1審被告スティングレイは、第1審原告が「DVDの販売」と告げられて字幕の作成を依頼され、「やらせていただきたい」と回答したことを理由に、第1審原告が本件各字幕の使用の明示の許諾をした旨主張する。
 しかし、字幕翻訳の作成を受諾することと、成果物である字幕翻訳の利用を許諾することとは、全く別の事項である。情報成果物の作成を委託した事業者自体がこれを利用した商品を販売等することが予定されている場合には、成果物の利用の許諾に関する条項や権利を移転させる旨の条項が挿入されることはあるが、その場合には、許諾される利用の範囲や対価、譲渡される権利の範囲等は明確にされる。本件では、第1審原告に対し字幕翻訳の作成を委託してきたのは、自身でDVDを制作し販売することが考えられないシネ・マイスターである。したがって、将来第三者がDVD化する予定があることを告げられていたからといって、シネ・マイスターからの字幕翻訳作成委託の申込みを受諾したことが、当該字幕翻訳の利用許諾を含むはずがない。第1審原告は、第1審原告に断りもなくDVDに第1審原告が作成した字幕が使用されるとは考えてもいなかった。
 また、第1審被告スティングレイは、Cの証言を信用すべきである旨主張するが、仕事納めの平成21年12月28日の午後7時頃に電話をしたということ自体日本の商慣習から信じ難いことで、しかも、メール等の客観的な資料も残っていないのであるから失当である。
ウ 乙B22(第1審被告スティングレイと第1審被告フィールドワークスの契約書)の「ビデオグラム」の定義(4条@)でブルーレイを含むことになっていたとしても、第1審原告は乙B22の当事者ではないから、意味をなさない。
 また、DVDとブルーレイで翻訳者が違うことはままあるのであり(甲74、75)、DVDを出して、その後に画質の良いブルーレイを出すのが映像ビジネスの大原則であるという第1審被告スティングレイの主張が失当であることは明らかである。
【第1審被告スティングレイの主張】
ア 原判決は、DVD商品に係る本件各字幕の利用許諾があったことを認める一方、ブルーレイ商品についての利用許諾を認めなかったが、そもそも、第1審原告が本件各字幕の使用をDVDに限定して黙示の許諾をした事実は主張も立証もされていない。論点は、第1審被告らが主張するビデオグラム及びTVについての使用あるいは「オールライツ・クリア」の使用の許諾か、第1審原告が主張するDVDすら許諾していないか、のいずれかである。
イ シネ・マイスターは「DVDの販売」と告げて、字幕の作成を依頼し、これを受けて第1審原告は「やらせていただきたい」と回答している(乙A4)。すなわち、第1審原告は本件各字幕の使用の明示の許諾をしている。甲から乙への見積書にはビデオグラム+TV(乙B3)とあるとおり、少なくともビデオグラムとテレビについての許諾は存在する。甲は丙に対して、当初はビデオグラム+TVで、その後はオールライツ・クリアで第1審原告から許諾を取るよう指示している(乙A6)。丙が甲の指示に従わない理由はなく、第1審原告がDVDに係る許諾していない旨の虚偽を述べていることに鑑みれば、丙の証言を信用すべきである。
 そして、乙B22のビデオグラムの定義(4条@)でもブルーレイを含むことになっており、DVDもブルーレイも「ビデオグラム」に含まれる。DVDを出して、その後に画質の良いブルーレイを出して、2回商売することはこの当時の映像ビジネスの大原則であり、ビデオグラムというジャンル内でのメディアの変更には、別の許諾を要しないというのが業界の通例である。
【第1審被告フィールドワークスの主張】
 原判決は、オールライツ・クリアの合意が問題となる翻訳とオールライツ・クリアの合意が問題にならないスポッティングとを混同し、オールライツ・クリアの合意後にスポッティング作業を依頼することが客観的事実に反するとしているが、丙がオールライツの点について提案もしないことはあり得ない。
 DVD−BOX用の特典映像まで翻訳しておきながら、DVDのことは知らないという第1審原告の供述は全く信用性がない。
(2)争点2(本件商品字幕4を作成したことは第1審原告の同一性保持権を侵害するか)について
【第1審被告スティングレイの主張】
 同一性保持権侵害は故意によるものに限られると解するべきである。本件商品字幕4における字幕の欠落は、誤植に類するものであり、過失による脱字であって改変ではない。
 なお、原判決は、本件商品1のディスク1以外のDVDやブルーレイにおいては本件商品字幕4と同様の欠落が生じていないことを理由に、上記欠落が「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当しないとするが、副音声であるコメンタリーは、本件商品1のディスク1のDVDと、本件商品5のアルジェント監修版のブルーレイのみに収録されているものである。他のディスクには、副音声が収録されていないのであるから、「副音声部分の字幕が切れる」という現象が生じようがないのであって、原判決には判断の基礎となる事実に誤認がある。なお、新しいメディアであるブルーレイにおいては上記欠落が生じていないことからすると、この欠落は本編のチャプターに合わせたチャプター処理を行うと副音声の字幕が切れるという編集ソフトウェアのバグ(仕様)によるものと解される。バグによる、メインの映画部分ではなく副音声の字幕が一部欠落する現象については、「やむを得ない」事象である。
【第1審被告フィールドワークスの主張】
 本件映画2及び本件映画4の動画部分は同じであるところ、この動画部分にTV放送と同様の場面のみを再生可能とするためにチャプターを入れる場合、本編の主音声(本件字幕付映画2)及び本編の字幕(本件字幕2)を鑑賞するためのチャプターとは別に第2のチャプターとして設定することになる。その結果副音声(本件字幕付映画4)の字幕(本件字幕4)が一部欠落することがあるようである。このような事象は、一つのDVDに主音声と副音声を入れ、さらにそれぞれに字幕を入れ込み、二つの異なるチャプターを設定した結果生じたものであり、故意・過失がなくても不可避的に生じ得るもので、当時としてはやむを得ない事象といえる。
 文言の欠落が問題となっている本件字幕付映画4は、DVDである本件商品1とブルーレイである本件商品5及び7に収納されている。そして、欠落が生じているのはDVDである本件商品1のみである。この点、仮ミックスでもブルーレイでも欠落は生じていないことからすれば、DVDである本件商品1にも欠落文言は格納されているが、チャプターを設定したことからこれが表示されないにすぎないものというべきである。欠落した文言はDVDに格納されている以上、「改変」があったとはいえない。
 欠落した文言は、「もはや政府がこの事態を」という11文字にすぎず、これがなくても意味は異ならないから「やむを得ない」ものに当たる。
【第1審原告の主張】
ア 同一性保持権侵害は、著作物たる表現に変更が加えられることにより当該著作物を通しての著作者の社会的評価に影響が生ずることを人格権侵害と捉えるものであるから、故意に意図をもってする場合に限定されない。
イ また、同一性保持権侵害は、著作物たる表現を通じて形成される著作者に対する社会的評価が、当該表現が改変されることにより歪められることを人格権侵害と位置づけるものであるから、公衆が知覚する表現がオリジナルのものと変更されていれば、媒体に記録されているデータ自体はオリジナルのままであっても、同一性保持権侵害が生じ得る。本編どおりにチャプターを切ると副音声の字幕部分が切れることが技術的に生じてしまうのは、あくまでも「頭出しの途中再生」の場合であって、「冒頭からの連続再生」であれば副音声の字幕でも欠損は生じない。本件は「冒頭からの連続再生」で字幕の欠損が生じている以上、「改変」にほかならない。
 故意過失がなくとも不可避的に生じ得るかどうかは、それが「改変」であるか否かとは関係がない。また、字幕に不可避的に欠損を生じさせる可能性がある編集ソフトは原則使用すべきではなく、使用する場合には、欠損を生じさせた部分がないかを商品出荷前にチェックし、欠損が生じていたことを発見した場合には、別の編集ソフトを使用して修正できないかを検討したり、どうしても修正できない場合には、字幕翻訳者に連絡を取って善後策を協議するなどすべきであった。第1審被告フィールドワークスはこのような手順を踏んでいないのであるから、過失がある。
(3)争点3(本件商品2〜4、6〜9について、字幕翻訳者として第1審原告の氏名を表示しなかったことは第1審原告の氏名表示権を侵害するか)について
【第1審被告スティングレイの主張】
 契約関係にある緊密な関係の当事者間においては、氏名表示権は、表示し、又は表示しないこととする権利であって、「表示する(表示する場合は実名又は変名の指定)」、「表示しない」という著作者の権利行使の意思表示がある場合に初めて、他の関係者は拘束される。このような意思表示のない本件において、氏名表示権の侵害は問題とならない。
【第1審原告の主張】
 第1審被告スティングレイの主張は独自の見解であり失当である。
(4)争点4(消滅時効の成否)について
【第1審被告フィールドワークスの主張】
ア 複製権及び頒布権について
 第1審原告は、平成30年5月18日から本件各商品の購入を進めていることからすれば、遅くても同日までには、本件各商品が販売されていることを認識したといえる。
 さらに、第1審原告は、同日に購入した本件商品7の内容を約3か月にわたり確認し、同年9月1日までには自分が翻訳した商品であることを確信したことから、DVD版である本件商品1についても同様であると確信した。第1審原告は、本件商品2〜6、8、9については、これらの商品を買い進めていた平成30年9月7日から同月20日までの間に、これらが第1審原告が翻訳した商品であることを確信していた。
 これらの時点が消滅時効の起算点となる。
イ 氏名表示権について
 第1審原告は、平成30年5月19日に受領した本件商品7の調査が完了し、他の商品の購入を開始した同年9月7日時点で本件商品7には第1審原告の氏名が表示されていないことを認識していた。本件商品7と同じ日に、同じくばら売りされた本件商品6、8についても、同日時点で第1審原告の氏名が表示されていないことを認識した。
 また、第1審原告は、本件商品2〜4を同月8日又は同月9日に受領していることから、遅くとも、それから数日経過した同月16日には、これらの商品に第1審原告の氏名が表示されていないことを認識していた。
【第1審原告の主張】
 商品を購入しさえすれば、自分の翻訳が使用されていることや、作品に氏名が表示されていないことを認識できるというような単純なものではない。
 すなわち、第1審原告が本件商品7を再生した時期には、本件字幕翻訳を作成してから約8年を経過していたため、漫然と字幕翻訳を眺めているだけでは自分の翻訳を使用されているかどうかは確信できなかった上、本件各商品のパッケージに第1審原告の氏名が記載されていないものがあったとしても、字幕翻訳者についてはエンドロールで表示されることもある。
(5)争点5(第1審被告ハピネットは氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか)について
【第1審原告の主張】
 原判決が氏名表示権侵害につき第1審被告ハピネットの責任を認めたのは正当であるが、頒布権及び複製権侵害の責任を否定したのは、以下のとおり不当である。
ア 第2事件各商品については、専ら第1審被告ハピネットの注文に応じて商品が製造され、各商品の収録・編集内容等について第1審被告ハピネットが関与しており、第1審被告ハピネットが発売元として独占的にこれを市場への流通に置くこととしている。第2事件各商品の複製にも第1審被告ハピネットが関与していることは明らかであり、また、頒布について過失責任が認められることも明らかである。
イ 第1審被告ハピネットと第1審被告フィールドワークスの間で表明保証が合意されていたとしても、それは両者の間で、第1審被告フィールドワークスが補償責任を負うことを示すにすぎず、権利者との間の責任を免責させるものではない。
【第1審被告ハピネットの主張】
 原判決が、第1審被告ハピネットにつき、頒布権及び複製権侵害の責任を否定したのは正当であるが、氏名表示権侵害の責任を認めたのは、以下のとおり失当である。
ア 本件商品2〜4、6〜9の流通において第1審被告ハピネットの行為が著作権法19条1項にいう「公衆への提供」に該当するとしても、その際の「著作者名を表示するか否か、表示するとすればいかなる著作者名を表示するか」の決定は、第1審被告ハピネットが当該商品を購入する以前に、第1審被告スティングレイと第1審被告フィールドワークスの間で行われており、第1審被告ハピネットは、かかる決定を行った者との間に客観的な行為の共同はもちろん、主観的な行為の共同も認められない。
イ 第1審被告フィールドワークスと第1審被告ハピネットの独占販売契約(乙C5)の6条で両者が「協議の上決定する」とされているのは、「本商品」そのものではなく、「本商品の紹介画面、解説画面、選択画面、言語、特典映像その他」の「収録・編集内容及び仕様、ガイドブック、解説書、ラベル、パッケージその他の添付物」の内容及び仕様に関するものであり、第1審被告ハピネットが本件各商品に第1審原告の氏名を表示するか否かを決定する権限を有することを意味するものではない。本件各商品に字幕を付すこと等、本件各商品の内容は同契約の別紙1のとおりの前提条件として第1審被告フィールドワークスが保証することになっており(乙C5の7条)、第1審被告フィールドワークスは、第1審被告ハピネットに対し、本件商品の販売は第三者の有する著作権、著作者人格権等を侵害しないことを保証し(同14条1項(1))、第三者から第1審被告ハピネット又はその顧客に差止め、損害賠償の請求がされた場合は、第1審被告フィールドワークスが自己の責任及び費用でこれを解決し、第1審被告ハピネットが被った損害等を賠償するものとされている(同条2項)。
(6)争点6(損害の発生及びその数額)について
【第1審原告の主張】
ア 複製権及び頒布権侵害の損害について
 本件各映画のような外国語映画における字幕翻訳の貢献度は大きく、販売額の1%で済むようなものではない。
イ 同一性保持権の侵害について
 改変による同一性保持権侵害は、第1審原告の翻訳能力が低いとの評価につながるおそれがある。この問題を原判決のように改変部分の全体の量に占める割合に矮小化するべきではない。慰謝料は50万円が相当である。
ウ 氏名表示権侵害の損害について
 ばら売りされた本件商品2〜4、6〜9の各商品の購入者の大部分は、BOXである本件商品1、5を購入していない(買う意味がない)。すると、本件商品1のジャケットや本件商品5の小冊子に第1審原告の氏名が表示されていたとしても、本件商品2〜4、6〜9の購入者がこれを目にしていた可能性は極めて低い。フリーの翻訳者にとって、翻訳者として世間に認知される手段は乏しく、BOXを購入した消費者にしか本件各字幕の作者が第1審原告であることを知られずに終わってしまうと、次の仕事につながらない。1作品ごとに50万円の慰謝料が相当である。
【第1審被告スティングレイの主張】
 本件商品2、6、9(ディレクターズカット版)、本件商品3、7(アルジェント版)、本件商品4、8(米国劇場公開版)は、それぞれ同一内容の映画であり、本件映画1〜3ごとの内容の差異もほとんどないことからすれば、氏名表示権侵害について商品ごとに7万円の損害額を認めた原判決の認定は過大である。
【第1審被告フィールドワークスの主張】
ア TV放送やDVDの販売について、10分当たりの単価で翻訳料が定められているにもかかわらず、原判決のようにブルーレイだけ販売額に応じて使用料相当損害を定めるのは極めて不合理である。
 ブルーレイである本件商品5〜8に収録されている本件映画1〜4の翻訳料は48万3000円であり、複製権・頒布権侵害の損害額は、これを超えることはない。
イ 同一性保持権侵害に関し、翻訳チェックの際、甲、第1審被告スティングレイ、同フィールドワークスやDVD検証会社が個別でチェックしたが、欠落部分に誰一人気づくことはなかった。まして、翻訳の元データを持っていない一般消費者が気付くことはあり得ず、慰謝料請求権が生じるような損害は生じていない。
ウ 氏名表示権侵害に関し、本件各商品の中で、本件字幕付映画2の独自部分は10分程度しかなく、本件字幕付映画3には独自の翻訳部分すらない。原審認定の損害額は過大である。
第5 当裁判所の判断
 当裁判所は、@本件各字幕の利用許諾の範囲については、原判決と異なり、DVD商品に加え、ブルーレイ商品についても許諾が認められ、著作権侵害は全て否定される一方、A同一性保持権侵害及び氏名表示権侵害については、侵害の成立、責任の範囲(責任主体、損害額)とも、原審認定のとおりと判断する。
1 認定事実(以下の認定事実中の関係者間のやり取りは、特段の注記がない限り電子メールによるものである。書証は特記なき限り枝番を含む。)
(1)翻訳依頼から本件商品1(DVD−BOX)販売前まで
ア シネ・マイスターの丙は、平成21年12月9日に、第1審原告に本件映画1の翻訳を依頼し、その際、DVDの販売にも触れ、これに伴うものとしてコメンタリー(本件映画4)のイタリア語ヒアリングをしてもらえないか打診した(甲19、乙A4、乙B1、12)。
 これに対し第1審原告は、同月10日、本件映画1の翻訳については「ぜひやらせていただきたい」とした上で納期、希望料金(英語では10分1万7000円、イタリア語等では10分1万9000円で受けている。)を述べ、コメンタリーのヒアリングは受けられないが(スクリプト作成と共にネイティブにしてもらった方がよいため。)、コメンタリーの翻訳は引き受ける旨回答した(乙A4、乙B12)。
 丙は、同日、第1審原告に対し、DVDの発売に際しては、コメンタリーもお願いしたい旨予告した上、まずは139分(本件映画1)の翻訳を求めた(甲24)。
イ シネ・マイスターの甲は、平成21年12月11日、第1審被告フィールドワークスの乙に対し、翻訳者と交渉中であるが、翻訳費は「18,000円×14+TV転用で40,000円」になりそうである旨報告し、TVは、地上波、BS、CS全てであるか確認を求めたところ、乙は、同日、翻訳費の件は了解した旨伝えるとともに、TVは全てでありインターネットブロードバンドも含まれる形にしてほしい旨要望した(乙B2)。
ウ 丙は、平成21年12月13日、第1審原告に対し、DVDの発売に関し、本編139分版(本件映画1)のほか、119分版(本件映画2)、127分版(本件映画3)の翻訳も随時お願いしたい旨を伝え、第1審原告は、同日、丙に対し、「119分版、127分版の翻訳も、ぜひやらせていただきたい」旨回答した(乙A5)。
エ 甲は、平成21年12月22日、第1審被告フィールドワークスに対し、同日付けの見積書を送信した(乙B3、5)。同見積書には、本件各映画の翻訳料やスポッティングの費用の記載があり、本件映画1の翻訳料の項目にのみ「(VIDEOGRAM+TV)」との記載があった。
 丙は、同日、第1審原告に対し、第1審原告の作業単価(翻訳については第1審原告が前記アで提示したのに沿ったもの。スポッティングは10分当たり4000円)と作業時間、納品希望日等が記載された作業表と題するエクセルファイル(甲58の2)を送信した。そこでは、アルジェント版(本件映画2)については、「DVD字幕データ制作」との項目の下に、本件映画1との差分でお願いしたいとして、トータル約10分の追加翻訳料1万7000円(1.0分×@17,000)と字幕、スポッティング料4万8000円(12.0分×@4,000)とされていた。その他、本件映画1の翻訳料23万8000円(14.0分×@1,7000)、コメンタリー(本件映画4)の翻訳料22万8000円(12.0分×@19,000)、ドキュメンタリーの翻訳料5万7000円(3.0分×@19,000)、予告編他の翻訳料5万1000円(3.0分×@17000)が記載され(ドキュメンタリーと予告編他が本件映画5に相当する。)、本件映画4及び本件映画5の納品希望は平成22年2月末とされていた。
オ 乙は、平成21年12月28日、甲に対し、前記エ第1段の電子メールに返信し、「本編3本が、劇場も含めたオールライツの翻訳でしたら、このままの見積額で結構です。」と回答した(乙A6、乙B4、9)。甲は、同日、丙に対し、「オールライツ・クリアで」第1審原告と交渉するよう指示した(乙A6、乙B9)。
カ 甲は、平成22年1月22日、第1審原告及び丙に対し、仮ミックスDVD−Rをメール便で発送する旨連絡した。それに対し、第1審原告は、仮ミックスの件を聞いておらず、丙に問い合わせたが返事がない旨返信した。そこで、甲は、第1審原告に対し、再度仮ミックスのDVD−Rを送付したこと、翌週に特典映像のCD−Rを丙経由で送付すること等を告げ、丙も、第1審原告に対し、本件映画2の作業を終了後、仮ミックスのDVD−Rを確認するよう再度依頼した(甲25)。
キ 丙は、平成22年1月28日、第1審原告に対し、本件映画3(本件映画1からシーンをカットしたもので追加のシーンなし)について、第1審原告の本件映画1の翻訳を使用して字幕を作成したいこと、転用料として、4000円×13=52000円でスポッティング、字幕入れの作業を依頼したいことを告げると、第1審原告は、同日、丙に対し、本件映画3のスポッティングと字幕入れの作業について「是非やらせてください。」とし、金額も丙の提示した額でよい旨返信した(乙A7)。
ク 甲は、平成22年2月14日、第1審原告との間で、コメンタリー(本件映画4)やロメロ版127分(本件映画3)のアップの時期についてやり取りをし、「4月23日にDVDを発売しますので、2月末には、すべての翻訳アップができればと思っておりました。」と送信した。これに対し第1審原告は、本件映画3は平成22年2月22日にアップすると回答した(乙B21)。
ケ 第1審原告は、平成22年3月16日、丙に対し、本件字幕付映画3の字幕及びスポッティング料金(10分当たり4000円、130分で5万2000円)と、本件字幕付映画4の翻訳料(10分当たり1万9000円、120分で22万8000円)の請求予定額について確認するよう求めた(乙B16)。
コ 第1審原告は、平成22年3月31日、本件字幕1を丙に納入した(乙A2)。
(2)本件商品1(DVD−BOX)販売後
ア 甲は、平成22年7月13日、第1審原告に対し、「ゾンビでは大変お世話になりました。大ヒットとはいきませんでしたが、おかげさまで、BOXもそこそこ売れており、秋にはバラ売り発売の予定です。」と連絡した(乙A9、乙B14)。
イ 丙は、平成22年9月16日、第1審原告に対し、甲からの10月と11月で本件映画1〜3がそれぞればら売りされる旨の記載がある電子メールを転送した上、「DVD発売の件、下記をご確認ください。」と送信した(なお、「下記」とは、オリジナルメッセージ中の「ゾンビも10月と11月で3バージョンがバラ売りされます。」を指しているものと推察される。)(乙A9、乙B15)。
ウ 丙は、平成23年10月20日、第1審原告に対し、「去年だと思いますが、翻訳をお願いしました「ゾンビ」がWOWOWでの放送がきまりました。放送日などわかりましたらご連絡いたします。」と送信した。第1審原告は、同日、丙に対し、「「ゾンビ」がWOWOWで放送されるんですね。嬉しいです。放送日のご連絡、楽しみにしてます。」と回答した(乙B13)。
(3)別案件(映画「チキン・オブ・ザ・デッド」〔邦題〕の字幕翻訳)
ア 丙は、平成24年10月24日、第1審原告に対し、「チキン・オブ・ザ・デッド」(邦題)という映画の翻訳を依頼し、「ブルーレイにて単館劇場上映、BD、DVDになります。」と注記したところ、第1審原告は、「是非やらせてください。」として承諾した(甲20)。
イ 丙は、平成24年11月20日、第1審原告に対し、「今回の翻訳料17,000×10の本編翻訳料金で翻訳のオールライツ込みでの料金ということでご了解をお願いできますでしょうか。」と問い合わせ、第1審原告は同日、「チキン・デッドに関して「翻訳料17,000×10」のオールライツ込みで結構です。」と返信した(甲21)。
2 争点1(第1審原告は本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか)について
 第1審原告が本件各字幕の複製及び頒布することを許諾する契約書は存在しないことから、上記許諾の有無については、前記1の認定事実をもとに検討する必要がある。特に、本件では、平成21年12月28日に、丙が第1審原告から「オールライツ・クリア」の合意を取り付けたかどうかが問題となっている。
(1)@シネ・マイスターの丙が、DVDに使用することを前提に、第1審原告に対し、本件映画1、4(前記1(1)ア)、本件映画2、3(前記1(1)ウ)の翻訳を順次打診したこと、A丙が平成21年12月22日に第1審原告に送付した作業表には、本件映画1、2、4、5の単価及び作業時間が明記され、特に本件映画2については「DVD字幕データ制作」の項が設けられていること(前記1(1)エ)、本件映画4、5はそもそもDVD−BOXのいわゆる特典であり、その性質上、DVDでの販売を前提とするものであること、B丙が、平成22年1月28日、第1審原告に対し、本件映画3について、第1審原告の本件映画1の翻訳を使用して字幕を作成したい、転用料5万2000円でスポッティング、字幕入れの作業を依頼したい旨を告げると、第1審原告が単価の点も含め了解していること(前記1(1)キ)、Cシネ・マイスターの甲が、平成22年2月14日、第1審原告との間で、DVDの発売時期が同年4月23日であることを明記した上で、本件映画3、4のアップ時期がどうなるか確認していること(前記1(1)ク)、D第1審原告が平成22年3月16日に丙に対して請求した本件映画3のスポッティング料5万2000円は、前記1(1)キのとおり本件映画3のスポッティング料として第1審原告が了解した額であり、本件映画4の翻訳料22万8000円は前記1(1)エのとおり平成21年12月22日に丙が第1審原告に送付した作業表の記載の額と一致すること、Eシネ・マイスターから第1審原告に支払われた69万1000円(原判決前提事実(3)エ)は、前記1(1)エのとおり平成21年12月22日に丙が第1審原告に送付した作業表に記載の本件映画1、2、4、5の翻訳料及び前記1(1)キのとおり本件映画3のスポッティング料として第1審原告が了解した額の合計と一致すること、F第1審原告は平成22年3月1日に本件映画祭が終了した後も作業を継続していることに鑑みれば、第1審原告は、本件各字幕がDVDに複製され、頒布されることを認識していたことは十分に認められる。
 さらに、第1審原告は、前記1(2)ア、イのとおり、平成22年7月13日に、甲から、本件商品1が販売され、DVDのばら売りの予定があることを告げられ、その後同年9月16日に具体的な販売月を告げられながら、本件映画祭での上映に係る許諾料とは別途の許諾料を請求していないのであって、本件各字幕がDVDに複製され、頒布されることを認識していたにとどまらず、上記69万1000円が本件各映画をDVDに使用することの対価を含むものとして、これを許諾していたことも十分認められる。第1審原告は、甲の上記連絡は、別人による翻訳に関するものだろうと思っていた旨供述するが、甲が上記連絡をした時期は、同人が第1審原告にDVD発売のための本件映画3、4のアップ時期を確認した同年2月14日から半年も経っていないのであって、別人による翻訳に関するものと誤認したなどとはにわかには信じ難く、上記陳述、供述は不合理なものといわざるを得ない。
(2)また、第1審原告は、前記1(2)ウのとおり、平成23年10月20日、丙から、「ゾンビ」のWOWWOWでの放送が決まったことを告げられた際も別途の許諾料を請求していないことから、第1審原告が本件各字幕の使用を許諾した対象がDVDに限られないことも明らかである。第1審原告は、WOWWOWでの放送も別人の翻訳によるものだろうと思ったとか、放送日が決まったらWOWWOWから許諾条件等について連絡があるだろうと思った旨供述するが、丙が別人の翻訳について第1審原告にわざわざ連絡する理由はないし、丙は放送が「決まりました」としているのであって、そこから許諾の交渉が始まるという段階でないことは明らかで、この点に関する第1審原告の陳述、供述もまた不合理なものといわざるを得ない。
(3)進んで、第1審原告が、本件各字幕がブルーレイに複製され、頒布されることを許諾していたかについて検討する。
ア 第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスの間の平成21年4月17日付け共同事業契約書(乙B22)の第4条@では、「ビデオグラム」の定義として、VHS、ベータ等の各種ビデオテープ及びビデオディスク(DVD、LD等のうちインタラクティブ性をもたないもの、ブルーレイを含む)とされ、同条Aでは、「ホームビデオ権」の定義として映像をビデオグラムに複製し、個人視聴を前提として頒布する権利とされている。そして、同契約書の別表では、事業が対象とする権利として、劇場権、非劇場権、公共ビデオ権、ホームビデオ権(ブルーレイを含む)、商業ビデオ権、地上波放送権、CAT権、衛星放送権、PPV権、インターネットVOD権という幅広いものが挙げられ、ホームビデオ権における総収入は販売された商品の税抜き小売価格の一定割合であることが示されている。そうすると、第1審被告スティングレイと第1審被告フィールドワークスは、本件各映画のブルーレイも事業の対象としていたことが明らかである。
 そのため、前記1(1)エのとおり、平成21年12月22日に甲が第1事件被告フィールドワークスに送付したメールに添付された見積書には、本件映画1について「(VIDEOGRAM+TV)」との記載があり、これに対し、第1事件被告の乙は、同月28日、「本編3本が、劇場も含めたオールライツの翻訳でしたら、このままの見積額で結構です。」と回答し、甲は、同日、丙に対し、「オールライツ・クリアで」第1審原告と交渉するよう指示しているのであって、丙がこの指示に従わない理由はなく、原審証人丙の証言のとおり、丙が、同日、電話で「オールライツ・クリアで」第1審原告の翻訳を使用させてほしい旨求め、第1審原告がこれを了承し、本件各字幕について、ブルーレイを含むビデオグラムに複製し、頒布することについて、合意されたと認めるのが相当である。原審証人丙は、連絡は電話でした旨証言するところ、メールだと気づかれず放置される可能性があることに鑑みれば、確実に連絡を取るために電話によったというのも不合理とはいえない。
 上記見積書には、本件映画1以外について「(VIDEOGRAM+TV)」との記載はないが、本件映画1〜3は同一の映画のバージョン違いであり、その最も長いものである本件映画1で代表させたと考えて矛盾はないし、第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスの上記共同事業の範囲に鑑みれば、具体的に販売が決まっていたDVDについてだけ許諾を求め、ブルーレイについては求めないというような非効率な挙に出たとは考え難い。
イ なお、丙は、前記1(1)ウのとおり、平成21年12月13日、第1審原告に対し、DVDの発売に関し、本件映画1のほか、本件映画2、3の翻訳も随時お願いしたい旨告げてはいるが、同エのとおり、同月22日に第1審原告に送付した作業表と題するエクセルファイルには本件映画3について記載はない。これは、本件映画3に新たな翻訳分がないことからシネ・マイスターが自ら処理することも考えていた(原審証人丙)ことによると考えられ、本件映画3に関する許諾は、丙から第1審原告の本件映画1の翻訳を使用して字幕を作成したいことについて正式の申入れがあり、スポッティングについての支払条件が合意された平成22年1月28日にされたと認めるのが相当である。
ウ 第1審原告は、本人尋問において、平成21年12月18日に丙からの電話自体なかったし、オールライツ・クリアという言葉は認識しておらず、そのような言葉があれば丙に確認するはずである旨供述するが、前記1(3)の平成24年の別案件では丙が「オールライツ込み」での条件提示をしたのに対し、返信文中で自ら「オールライツ込みで結構です。」と回答していることに照らして、信用することができない。
 また、第1審原告は、平成30年5月10日(本件各字幕の制作に関する関係者間のやり取りが行われた平成21〜22年当時から8〜9年が経過した後である。)に丙から翻訳依頼を受けた際、著作権法や下請法を学んだので、今後の仕事については、翻訳料とは別に、著作権の譲渡料又は使用許諾料を請求するとし、用途として劇場予告、地上波テレビ放送広告、ネット配信広告、ビデオグラム(DVD等)を挙げており(乙A14)、従前の仕事については解決していたとの認識でいたこと、ビデオグラムの概念を認識していたことも推認される。
エ 第1審原告は、相手を特定しないものは具体化された許諾とはいえないとか、実際にDVD等を制作しないシネ・マイスターとの間で許諾することは意味がない旨主張する。
 しかし、第1審原告は、シネ・マイスターを介した案件に関しては、第1審被告フィールドワークス以外の者がシネ・マイスターに対する依頼主でDVDが販売された場合でも契約書を作成していないのであって(第1審原告本人)、第1審原告は許諾の相手はシネ・マイスターに一任していたものというべきで、第1審原告の主張は採用できない。
(4)以上のとおりであって、第1審原告は、本件各字幕の複製及び頒布について許諾したものというべきで、第1審原告の複製権及び頒布権侵害に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
3 争点2(本件商品字幕4を作成したことは第1審原告の同一性保持権を侵害するか)について
 以下のとおり当審における第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスの主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3の4(1)、(3)、(4)(41〜42頁)の説示のとおりであるから、これを引用する(なお、同(2)の説示は、前記第4の3(2)の第1審被告スティングレイの主張〔第2段落「なお」書き〕に照らして適切でないので引用しない。)。
(1)第1審被告スティングレイは、同一性保持権侵害は故意によるものに限られる旨主張するが、同一性保持権は著作物の同一性を保持し、それが無断で改変されないことについての人格的利益を保護する趣旨から設けられたものであって、過失ならその侵害が認められてよいという主張は不法行為法上も根拠を欠くものであるから、採用できない。
(2)第1審被告フィールドワークスは、本件映画2と本件映画4の共通する動画部分にチャプターを入れる場合、本編の主音声(本件字幕付映画2)及び本編の字幕(本件字幕2)を鑑賞するためのチャプターとは別に第2のチャプターとして設定する結果、副音声(本件字幕付映画4)の字幕(本件字幕4)が一部欠落することがあるところ、これは故意・過失がなくても不可避的に生じるものである旨主張する。しかし、同主張は、改変がなされていないことの理由にはならない。
 また、第1審被告フィールドワークスは、本件商品1に本件字幕4は欠落文言を含め格納されているが、チャプターを設定したことからこれが表示されないにすぎないので、改変は存在しない旨主張するが、同一性保持権は、表現が改変されることにより、著作物の表現を通じて形成される著作者に対する社会的評価が低下することを防ぐためのものであるから、DVDに格納されたデータがオリジナルであるとしても、字幕として購入者等に認識される表現が変更されていれば、同一性保持権侵害が生じ得るのであり、第1審被告フィールドワークスの主張は採用できない。
 さらに、第1審被告スティングレイは、バグによる副音声部分の欠落であることを理由に、第1審被告フィールドワークスは、欠落文言が11文字にすぎないことを理由に、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に当たる旨主張する。しかし、バグにより副音声部分が改変されてしまうのであれば、改変部分を確認の上対処すべきであり、本件では改変自体が見過ごされているのであるから、やむを得ないとものはいえない。また、欠落文言が11文字であるとしても、ひとまとまりの意味のある部分であって、原判決別紙対比表のとおり、欠落部分があることにより、「収拾できない」ことの主体が一義的に明らかとはいえなくなるから、やむを得ないものとはいえない。
 そして、上記のとおり改変が見過ごされているところからすれば、第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスの過失も認められる。
4 争点3(本件商品2〜4、6〜9について、字幕翻訳者として第1審原氏名を表示しなかったことは第1審原告の氏名表示権を侵害するか)について
(1)下記(2)のとおり第1審被告スティングレイの補充的主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3の5(42頁〜)の説示のとおりであるから、これを引用する。
(2)第1審被告スティングレイは、契約関係にある緊密な関係の当事者間においては、氏名表示権に関し、著作者の権利行使の意思表示がある場合に初めて、他の関係者は拘束される旨主張する。しかし、字幕付きの外国映画においては、字幕翻訳者の氏名を表示するのが一般的な取扱いであり(上記引用に係る原判決のとおり)、日本語字幕翻訳を業とする第1審原告が氏名表示の不表示をあえて望むとも考え難い。このような本件の事情に加え、著作者の名誉・声望・社会的評価、満足感等を保護するため、氏名を表示するか否かの決定を著作者に委ねたという氏名表示権の趣旨からすれば、表示を要しないとの著作者の意思が客観的に認められない限り氏名表示を要するというべきで、第1審被告スティングレイの主張は採用できない。
5 争点4(消滅時効の成否)について
(1)下記(2)のとおり第1審被告フィールドワークスの補充的主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3の6(44頁〜)の説示(著作権〔複製権・頒布権〕侵害のみに関する部分を除く。)のとおりであるから、これを引用する。
(2)第1審原告が、その自認する平成30年10月8日以前に、本件商品字幕4が本件字幕4を改変したものであること、第1審原告が本件商品2〜4、6〜9に第1審原告の氏名が表示されていないことを認識していたと認めるに足りる証拠はない。
 第1審被告フィールドワークスは、第1審原告において、平成30年5月19日に受領した本件商品7の調査が完了し、他の商品の購入を開始した同年9月7日時点で、本件商品7、さらには同商品と同日にバラ売りされた本件商品6、8について第1審原告の氏名が表示されていないことを認識した旨、また、第1審原告において、本件商品2〜4を同月8日又は同月9日に受領していることから、遅くとも、それから数日経過した同月16日には、これらの商品に第1審原告の氏名が表示されていないことを認識していた旨主張する。しかし、これらの商品のパッケージに第1審原告の名称が表示されていないとしても、エンディングロールに表示されている可能性もあり、第1審原告において、そのような可能性も含めて確認し、上記主張の日までに、氏名表示権が侵害されたことの具体的な認識に至っていたとは認められず、第1審被告フィールドワークスの上記主張は採用できない。
6 争点5(第1審被告ハピネットは氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか)について
(1)前記2のとおり、第1審原告は、ブルーレイ商品についても本件各字幕の複製及び頒布について許諾しており、したがって、第1審被告ハピネットは、頒布権及び複製権侵害について不法行為責任を負わない。
(2)一方、本件商品2〜4、6〜9については、第1審被告ハピネットの販売時点において「公衆への提供」がされて氏名表示権侵害が生じている。
ア 第1審被告ハピネットは、「著作者名を表示するか否か、表示するとすればいかなる著作者名を表示するか」の決定は、第1審被告ハピネットが当該商品を購入する以前に、第1審被告スティングレイと第1審被告フィールドワークスの間で行われており、第1審被告ハピネットとの間に客観的にも主観的にも共同はない旨主張するが、第1審被告ハピネット及び第1審被告フィールドワークスが本件商品2〜4、6〜9を制作したのは、当然に第1審被告ハピネットによる「公衆への提供」を予定してのことであるから、第1審被告スティングレイ及び第1審被告フィールドワークスとの客観的な行為の共同が認められる。
イ 次に、第1審被告ハピネットの故意・過失の有無が問題となるところ、本件商品2〜4、6〜9のジャケットに翻訳者の氏名が表示されていなかったことは客観的に明らかであり、第1審被告ハピネットとしては、これらの商品について、ジャケット以外(エンドロール等)に字幕翻訳者の氏名が表示されているかどうか、仮に表示されていないとすれば字幕翻訳者が望まなかったのかどうか、疑問を抱いてしかるべき客観的状況であったといえ、一般消費者又はレンタル事業者に販売する前に、これらの疑問について第1審被告フィールドワークスに対し確認すべき注意義務があったといえる。しかし、第1審被告ハピネットはこのような確認をしていないのであるから、氏名表示権侵害について過失があるものと認められる。
 第1審被告ハピネットは、専門業者である第1審被告フィールドワークスが第1審原告から適切に許諾ないし同意を得ていないことについて疑問を生じさせるべき状況はなかったから過失はない旨主張するが、翻訳映画のビデオグラムにおいて字幕翻訳者の氏名が表示されないことが通常であるとも認められないから、第1審被告ハピネットの主張は採用できない。
7 争点6(損害及びその数額)について
(1)同一性保持権侵害について
 本件商品字幕4に係る同一性保持権侵害により第1審原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は、原判決「事実及び理由」第3の8(1)(48頁〜)のとおり、1万円と認めるのが相当である。
 第1審原告は、改変による同一性保持権侵害は、第1審原告の翻訳能力が低いとの評価につながるおそれがあるから1万円という額は過少である旨主張する。しかし、改変された部分は映画本編でなくコメンタリーに関するものであり、分量的にもごくわずかなものにとどまる。原判決別紙対比表のとおり、欠落部分があることにより、「収拾できない」ことの主体が一義的に明確といえなくなるにとどまり、完全に意味不明となるわけでもないから、第1審原告の翻訳能力に関する評価の低下等の影響は大きいものとはいえず、採用できない。
 他方、本件における同一性保持権侵害が、第1審被告フィールドワークスのいうように慰謝料請求権が生じない程度のものということもできない。
(2)氏名表示権侵害について
 本件商品2〜4、6〜9につき、字幕翻訳者としての第1審原告の氏名が表示されなかったことによる氏名表示権侵害に係る慰謝料の額は、原判決「事実及び理由」第3の8(2)(49頁〜)のとおり、商品ごとに7万円、合計49万円と認めるのが相当である。
 第1審原告は、BOXを購入した消費者にしか本件各字幕の作者が第1審原告であることを知られずに終わってしまうと次の仕事につながらず、打撃は大きい旨主張するが、DVDについてはBOX製品がまず発売されており、また、ブルーレイでもBOX製品である本件商品5の出荷数が一番多く(原判決第3の8(3)〔51頁〕)、これらに第1審原告の氏名が表示されている以上、第1審原告にとって次の仕事につながらない状態になったとまではいえない。
 一方、第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスは、本件各商品の内容に大きな差異がないことを理由に商品ごとに損害を算定するのは不合理である旨主張するが、別個の商品として販売されている以上、商品ごとに損害を算定することが不合理とはいえない。
(3)弁護士費用について
 同一性保持権侵害に関し1000円、氏名表示権侵害に関し商品ごとに7000円(合計4万9000円)と認めるのが相当である。
第6 結論
 以上によれば、第1審原告の第1事件における請求は、本件商品1の同一性保持権侵害に関して、第1審被告スティングレイ及び同フィールドワークスに対し1万10000円の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、第2事件における請求は、第1審被告らに本件商品2〜4、6〜9についての氏名表示権侵害に関して53万90000円の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきものである。これと異なる原判決は、上記認容すべき額を超えた認容部分において失当であるから、第1審被告らの控訴に基づき原判決を主文1項のとおり変更し、第1審原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 宮坂昌利
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 岩井直幸


(別紙)
 @…第1審被告スティングレイ、A…第1審フィールドワークス、B…第1審被告ハピネット
第1事件(被告@、A)
  請求額(@、A連帯 @、A認容額(原審) @、A認容額(当審)
複製・頒布権侵害 3850000 0 0
同一性保持権侵害 500000 10000 10000
弁護士費用 435000 1000 1000
第1事件合計 4785000 11000 11000

第2事件(被告@〜B)
  請求額(@〜B連帯) @、A認容額(原審) B認容額(原審) @〜B認容額(当審)
複製・頒布権侵害 22466860 781320 0 0
氏名表示権侵害 3500000 490000 490000 490000
弁護士費用 2596686 127132 49000 49000
確定遅延損害金 1375286      
第2事件合計 29938832 1398452 539000 539000

注記
 第2事件における確定遅延損害金請求の額は、本件商品2(平成22年10月2日発売)、本件商品3、4(平成22年11月4日発売)、本件商品5〜8(平成25年12月20日発売)に係る損害に対する各発売日から平成26年12月1日(本件商品9の発売日の前日)までの確定遅延損害金。利率は平成29年法律第45号による改正前の民法所定。原判決及び本判決は、認容部分については、各起算点から支払済みまでの遅延損害金の支払を命じるする(ママ)方式によっており、確定額方式によっていない。
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