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【事件名】顧客管理プログラムの著作物性事件 【年月日】令和6年12月23日 東京地裁 令和6年(ワ)第70189号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年10月22日) 判決 原告 A 被告 株式会社橋本畳店 同訴訟代理人弁護士 田中洋一郎 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、45万円を支払え。 第2 事案の概要 本件は、別紙原告プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)を制作した原告が、被告に対し、被告は原告とライセンス契約等を締結していないにもかかわらず、本件プログラムを使用しているため、原告の本件プログラムの著作権(複製権)を侵害したとして、不法行為に基づき損害賠償金45万円の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠〔なお、特に付記する場合を除き枝番の記載は省略する。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実をいう。) (1)当事者(弁論の全趣旨) ア 原告は、IT教育等を行っている個人事業主である。 イ 被告は、令和3年頃に法人化した畳の製造販売等を目的とする株式会社である。 (2)本件プログラムの作成に至る経緯(甲8、弁論の全趣旨) 被告代表者の妻は、令和2年頃、畳店の業務に使用するソフトウェアを自作することを検討しており、同年12月頃、原告に対し、請求書、見積書等の作成、顧客情報管理等が可能なソフトウェアの制作を依頼した。 そして、原告は、被告代表者の妻からソフトウェアの機能や請求書のひな型等に関する要望をヒアリングした上、本件プログラムを作成した。 (3)被告による本件プログラムの使用(甲6、8、9の2、弁論の全趣旨) 原告は、令和4年3月8日頃、畳システムと内装システムを備えた請求システム(以下「本件追加前請求プログラム」という。)を被告の端末にインストールし、被告は、同年4月からその使用を開始した。 また、原告は、令和4年5月31日、被告から追加要求を受けて作成した会計システムを付加した本件プログラムを、被告の端末にインストールした。 (4)原告による見積書の提示(甲3) 原告は、令和5年6月2日、被告に対し、本件プログラムの制作代金を40万円とする旨の見積書を提示し、同額を請求した。これに対し、被告は、本件プログラムには不具合があると主張して、支払に応じなかった。 (5)原告による本件プログラムの使用の停止請求(甲4、5) 原告は、令和5年10月18日頃、被告に対し、本件プログラムを無許可で使用することは原告の著作権の侵害に当たるとして、同月末日までに本件プログラムを完全に削除するほか、本件プログラムを用いて印刷された帳票類を完全に廃棄することなどを求める書面を送付した。 これに対し、被告は、令和5年11月22日頃、原告に対し、本件プログラムには種々の不具合があり、修理を依頼したが改善がなかったとして、原告との契約を解除する旨の意思表示をするとともに、本件プログラムが不備のあるソフトウェアである以上、著作権侵害の事実はない旨の書面を送付した。そして、被告は、それ以降、本件プログラムを削除して一切使用していない。 2 争点及びこれに対する当事者の主張 争点整理の結果、原告は、本件の訴訟物は、プログラム著作権侵害に基づく損害賠償請求であり、そのほかに請求はない旨主張している(第1回口頭弁論調書参照)。 (1)本件プログラムの著作物性の有無 (原告の主張) 本件プログラムは、MicrosoftExcelVBAを使用して作成されたものである。 本件プログラムのソースコードのうち、@製品名のドロップダウンリストを表示する機能に関する記載部分(甲14の32頁ないし40頁)は、ActiveXコントロールのコンボボックスを使用することで、ドロップダウンリストに表示されるフォントやフォントサイズをカスタマイズ可能に設計されており、高齢者であってもドロップダウンリストを見やすく選択しやすいように工夫されている。 また、本件プログラムのソースコードのうち、A顧客の名前を検索、確定する機能に関する記載部分(甲14の19頁ないし29頁)は、「お客様選択」ボタンをクリックすると、ユーザ選択のためのユーザフォーム画面が表示され、ユーザフォームのコンボボックスでカタカナ行のドロップダウンリストから目的のカタカナ行をマウスで選択した後、表示されるリストボックスの中から目的の顧客の名前と電話番号を見つけてクリックすることによって、対象となる顧客を確定できるように設計されている。そのため、パソコン初心者でもキーボード入力することなくマウス操作だけで顧客の名前を確定させることができるように工夫されている。 (被告の主張) 否認ないし争う。 本件プログラムには著作物として保護されるべき創作性はない。 (2)被告による侵害行為の有無 (原告の主張) ア 無断使用行為 原告は、本件追加前請求プログラム及び本件プログラムを被告の端末にインストールしたが、これは、動作確認のためのものであって、商用利用についての使用許諾を与えたものではない。しかしながら、被告は、原告との間で本件プログラムについてのライセンス契約を締結していないにもかかわらず、令和4年4月から令和5年9月まで、本件プログラムを商用利用した。このような被告の行為は、原告の本件プログラムに対する著作権の侵害に当たる。 イ 複製行為 証拠(乙1)によれば、証拠説明書上の作成日は令和5年11月中旬であるのに対し、本件プログラムにおいて表示される日付け(ママ)は「2023年9月29日」となっており、かつ、「セキュリティ警告」の表示がされている。これは、同年9月29日まで正常動作していた本件プログラムをインストールされた端末とは別のパソコンに複製し、正常動作していた環境の本件プログラムを削除したことの証左である。したがって、被告は、本件プログラムを原告に無断で複製しており、このような被告の行為は、原告の本件プログラムに対する著作権の侵害に当たる。 (被告の主張) 否認ないし争う。 被告は、本件プログラムを一切複製していないし、著作権侵害に該当する行為はしていない。 なお、被告は、原告からの使用許諾に基づき本件プログラムを使用したにすぎないし、令和5年11月23日に、本件プログラムの作成に関する委託契約を解除し、以後、本件プログラムは削除して使用していない。 (3)損害の額 (原告の主張) 著作権法114条3項によれば、原告の損害額は、次の算定式のとおり、45万円となる。 1000万円(被告の年間売上額)×1.5年(使用期間)×3%(ライセンス料) (被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件プログラムの著作物性の有無)について (1)著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであるから、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がないものは、著作物に該当せず、著作権法上保護されるものとはいえない。 これを本件についてみると、原告は、本件プログラムのソースコードのうち、@製品名のドロップダウンリストを表示する機能に関する部分(以下「@部分」という。)、A顧客の名前を検索、確定する機能に関する部分(以下「A部分」という。)、以上の2点を赤色でマーキングし、当該2点を創作的表現部分として主張するものと解されるところ、原告は、裁判所からの繰り返しの釈明にかかわらず(第1回口頭弁論調書参照)、これらが創作的表現に該当する理由を具体的に主張するものではない。 この点を措き、原告の主張について精査しても、@部分については、原告の主張は、ActiveXコントロールのコンボボックスを使用し、フォントやフォントサイズをカスタマイズ可能にするという、単なるアイデアをいうものにすぎない。念のため、@部分の内容についてみても、証拠(甲14、15)及び弁論の全趣旨によれば、エクセルにおいて標準仕様として用意されているActiveXコントロール及びActiveXコントロールのコンボボックスを用いて項目をドロップダウンリストとして選択可能とさせるものであって、これらを使用してフォント名及びフォントサイズをカスタマイズする手法自体は、極めてありふれたものにすぎない。更に念のため、これらの機能に対応するソースコードについてみても、使用されている指令及びその組合せにおいて、原告の個性が表れているものといえないことは明らかである。 また、A部分についても、原告の主張は、ユーザフォーム画面のコンボボックスで、カタカナ行のドロップダウンリストから目的のカタカナ行をマウスで選択して、表示されたリストボックスから目的の名前と電話番号をマウスでクリックすることで顧客の名前を選択可能にするという、単なるアイデアをいうものにすぎない。念のため、A部分の内容についてみても、証拠(甲14、16)及び弁論の全趣旨によれば、エクセルにおいて標準仕様として用意されているユーザフォームのコンボボックスとリストボックスを用いるものであり、コンボボックスとリストボックスを用いてマウスで値を選択させ、リストボックスの項目が選択されたときに実行されるChangeイベントを用いることにより、マウスで選択された値を取得することを可能とするものであって、これらの手法自体は、いずれも極めてありふれたものにすぎない。更に念のため、これらの機能に対応するソースコードについてみても、使用されている指令及びその組合せにおいて、原告の個性が表れているものといえないことは明らかである。 これらの事情の下においては、原告の主張は、アイデアをいうものに帰し、本件プログラムに表現上の創作性を認めることはできない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。 (2)以上によれば、本件プログラムは、著作物に該当するものとはいえず、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、理由がない。 2 争点(2)(被告による侵害行為の有無)について 本件の審理経過に鑑み、争点(2)についても、以下判断を示すこととする。 (1)無断使用行為に関する主張について 原告は、本件プログラムに係るライセンス契約を締結していないのに本件プログラムを商用利用するような被告の行為は、本件プログラムの著作権を侵害する旨主張する。しかしながら、原告の主張は、後記(2)の複製権侵害に係る主張を除き、著作権法21条ないし28条に定める支分権に対応した侵害行為を具体的に指摘するものではなく、その特定を欠くというほかない。 この点を措くとしても、前記前提事実に加え、証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によれば、原告は被告から本件プログラムの制作の依頼を受けたこと、原告は同依頼に基づき本件プログラムを制作したこと、原告は制作した本件プログラムを被告の端末に自らインストールしたこと、原告は令和5年6月2日に本件プログラムの制作代金を請求したものの、被告はこれに応じなかったこと、原告はこれを受けて同年10月18日頃に被告に対し本件プログラムの完全な削除等を求めたこと、被告は、同年11月22日頃、原告に対し、原告との契約を解除する旨の意思表示をするとともに、それ以降本件プログラムを削除して一切使用していないこと、他方、原告が被告に対し本件プログラムの削除等を求めるまで、原告は、被告による本件プログラムの使用に対し異議を述べたものと認めるに足りないこと、以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、原告と被告は、本件プログラムの制作に関する合意をしており、原告は、当該合意に基づき、被告に対し本件プログラムの使用につき、黙示の許諾を与えていたものと認めるのが相当である。 したがって、被告による本件プログラムの使用について著作権侵害をいう原告の主張は、上記合意をしている以上、採用することができない。 これに対し、原告は、そもそも本件プログラムの開発契約やライセンス契約自体を締結していない旨主張する。しかしながら、原告が被告から本件プログラムの制作を依頼され、現にこれを作成して被告の端末に自らインストールまでしている事情を踏まえると、上記に係る合意をしていたものと認めるのが相当である。したがって、原告の主張は、採用することができない。 また、原告は、被告が本件プログラムの制作代金相当額を支払わなかったという事後的な事情をもって、本件プログラムの使用許諾自体がなかった趣旨をいうものとも解される。しかしながら、事後的な事情によって本件プログラムの制作に関する合意が解除され、それに伴い使用許諾の合意も解除されたとしても、本件プログラムの使用許諾に関する合意は、本件プログラムの使用に係る継続的契約というべきものであるから、民法620条の趣旨に照らし、その解除の効力は将来に向かってのみ生じるものと解するのが相当である。したがって、原告の主張は、採用することができない。 (2)複製行為に関する主張について 原告は、被告による本件プログラムの複製があった旨主張する。しかしながら、前記(1)において認定したとおり、本件プログラムをインストールしたのは原告自身であって、被告が本件プログラムの複製を行ったものとはいえず、仮にこれを被告が行ったとしても、前記の事実経過に照らし、上記インストール行為に原告の許諾があったことは明らかである。また、原告は、証拠(乙1)を根拠に、被告が本件プログラムの複製を行ったとも主張する。しかしながら、原告が指摘する警告表示は、本件プログラムの移動などによりファイルパスが異なることによっても表示され得るものであり、このような警告表示がされることから直ちに本件プログラムが複製されたものとは認めるに足りない。したがって、原告の主張は、採用することはできない。 (3)その他に、上記(1)において認定した事実経過を踏まえると、原告の主張の実質は、被告の金銭不払に関する不満をいうに帰し、いずれも採用することができない。 3 小括 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。 第4 結論 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 武富可南 裁判官 古賀千尋 (別紙)原告プログラム目録 請求システムバージョン1.00.(対応OSWindows10/11、使用言語MicrosoftExcelVBA) 内訳 橋本畳システム 橋本内装システム 橋本会計システム 顧客管理データベース 顧客購入履歴データベース 以上 |
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