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【事件名】コミュファへの発信者情報開示命令異議申立事件 【年月日】令和6年12月19日 東京地裁 令和6年(ワ)第70166号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え事件 (口頭弁論終結日 令和6年10月11日) 判決 原告 中部テレコミュニケーション株式会社 同訴訟代理人弁護士 星川勇二 同 星川信行 同 渡部英人 同 佐野雄一 同 工藤慶太 被告 有限会社プレステージ 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 大塚直 同 河田隆克 同訴訟復代理人弁護士 関谷峻一 主文 1 東京地方裁判所令和5年(発チ)第10244号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年4月4日にした決定を認可する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 東京地方裁判所令和5年(発チ)第10244号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年4月4日にした決定を取り消す。 2 前項の申立事件に係る被告の申立てを却下する。 第2 事案の概要 被告は、氏名不詳者がいわゆるファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の複製物である電子データを共有したことにより、被告の著作権(送信可能化権及び自動公衆送信権)を侵害したと主張して、電気通信事業等を行う原告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める申立てをした。 本件は、原告が、上記申立てを認容した決定に対し、プロバイダ責任制限法14条1項に基づき、異議の訴えを提起した事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠〔以下、枝番の記載は省略する。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実をいう。) (1)当事者 ア 原告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、特定電気通信役務提供者(プロバイダ責任制限法2条3号)に該当する。 イ 被告は、主にアダルトビデオの制作、販売等を業とする有限会社である。 (2)被告が本件動画の著作権を有すること 被告は、本件動画に係る著作権を有する(乙1、弁論の全趣旨)。 (3)BitTorrentの仕組み等(乙2、3、11、弁論の全趣旨) BitTorrentとは、インターネット上においていわゆるP2P方式でファイルを共有するためのプロトコル(通信規約)の一つである。BitTorrentネットワークにおいては、共有されるデータファイルはトレントファイルと細分化されたファイル(以下「ピース」という。)に分解され、接続したクライアント間で必要なピースが交換され、最終的に再び合成される。 BitTorrentを利用して対象ファイルを入手する方法は、以下のとおりである。 ア BitTorrentクライアントソフト(以下、単に「クライアントソフト」という。)を端末にダウンロードした上で、ウェブサーバ等からトレントファイルを取得する。 イ トレントファイルをクライアントソフトに取り込み、当該トレントファイルからトラッカーのアドレスを読み込んで、トラッカーに接続し、トラッカーから対象ファイルを保有している他のピア(ネットワークに参加しているコンピュータ)のIPアドレスを取得する。 ウ クライアントソフトは、入手した上記IPアドレスに基づいて、BitTorrentネットワーク上で他のピアに接続し、対象ファイルの送信要求を行い、当該ピアからファイルないしファイルのピースをダウンロードする。 (4)被告による著作権侵害調査(乙4、5、11ないし17) 被告は、原決定に係る申立てに先立ち、株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)に依頼して、BitTorrentを使用した本件動画の著作権侵害に係る調査(以下「本件調査」という。)を実施した。本件調査は、本件調査会社が開発したBitTorrent監視システムver2(以下「本件システム」という。)を用いて行われた。その調査の概要は、以下のとおりである。 ア IPアドレスの特定について 本件システムは、一般的なBitTorrentクライアントソフトにおいてライブラリとして使用されているLibtorrentを使用し、前記(3)のような経過によりファイルを実際にダウンロードすることで調査を行うものであるが、本件調査会社は、独自に作成した関数を使用して接続ピアの情報(IPアドレス及びポート番号)をデータベースに記録することが可能となるように機能を拡張している。具体的には、本件調査会社は、本件システムを起動し、本件システムによってトラッカーに接続し、他のピアと前記(3)ウの通信を行うが、他のピアからのピースのダウンロードが正常に完了したときに、上記情報をデータベースに記録する。 本件システムは、本件調査の結果、別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び発信時刻をデータベースに記録した。 イ 個別のピースの再生試験について 本件調査会社は、本件システムが接続したピアからダウンロードした個々のピースについて、動画として再生可能か否かの再生試験を次の手順で行っている。すなわち、本件調査会社は、ダウンロードした侵害動画を複製し、そのバイナリデータを加工して、対象となるピース及び動画の再生に必要なデータを残し、その余の情報を削除する。次に、本件調査会社は、加工した侵害動画と当該ピースの同一性を、それぞれのバイナリデータの数列を比較して確認する。その上で、本件調査会社は、ffmpegライブラリと呼ばれるソフトウェアを使用して、ピースから完全な画像(jpg形式)として抽出できる部分(キーフレーム)を抽出する。 本件においては、別紙動画目録記載のIPアドレス、ポート番号及び発信時刻で特定される各通信(以下「本件通信」という。)によってダウンロードされたピースの全てについて個別再生試験を行った結果、いずれも約35秒程度の動画が再生された。 (5)原告による本件発信者情報の保有 原告は、本件発信者情報を保有している。 (6)発信者情報開示手続 東京地方裁判所は、令和6年4月4日、本件発信者情報の開示を命ずる決定をした(令和5年(発チ)第10244号、甲4)。 (7)異議の訴えの提起 原告は、令和6年5月1日、上記決定に対する異議の訴えを提起した(顕著な事実)。 2 争点 (1)特定電気通信の該当性(争点1) (2)権利侵害の明白性(争点2) なお、原告及び被告は、審理の過程において、争点2における中核的な争点は、@本件調査の信用性、A「公衆」該当性、B本件動画の表現の本質的特徴を感得できるかどうかであり、送信可能化の構成については争点としないことを確認した(第3回口頭弁論調書参照)。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(特定電気通信の該当性)について (被告の主張) BitTorrentネットワーク上において、ファイルの送受信をする当事者の間には何らの人的結合関係もないから、本件通信は、不特定の者との間の通信に当たる。したがって、本件通信は、1対1の通信であるとしても、不特定の者によって受信されることを目的として電気通信の送信を行うものであるから、特定電気通信(プロバイダ責任制限法2条1号)に当たる。 (原告の主張) 被告の主張を前提としても、本件通信は、本件通信を行った氏名不詳者(以下「本件各発信者」という。)とこれを受信した本件調査会社との間における二当事者間の通信にすぎないから、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信とはいえず、特定電気通信には当たらない。 2 争点2(権利侵害の明白性)について (被告の主張) 本件各発信者は、本件通信によって本件動画の複製データの一部(ピース)を送信しており、その行為は自動公衆送信権侵害(著作権法2条1項9号の4)に当たる。 これに対し、原告は、本件調査の信用性について争うが、本件調査の内容は技術説明会資料などによって説明されているとおりであり、信用性は十分である。 また、原告は、本件通信は、本件各発信者と本件調査会社との間における二当事者間の通信にすぎないから、「公衆」によって受信されることを目的とするものではなく、自動公衆送信権侵害には当たらない旨主張する。しかしながら、前記1のとおり、BitTorrentネットワーク上においてファイルの送受信をする当事者の間には、何らの人的結合関係もないから、本件通信は不特定の者との間の通信に当たり、「公衆」の要件を満たす。 さらに、原告は、BitTorrentで送信されるピースのみでは、本件動画の表現の本質的特徴を直接感得することができない旨主張する。しかしながら、適式に実施された再生試験結果報告書(乙17)のとおり、本件各発信者が送信したピースは、いずれも1ピースでも動画として再生可能なものであり、本件動画の表現の本質的特徴を感得することができる。 (原告の主張) 以下のとおり、否認ないし争う。 (1)本件調査の信用性 本件システムを用いた調査によって特定された者に対する意見照会においては、類似事件を含め、多くの回答者が、身に覚えがない旨を回答しており、その中には相応の理由を示す者もいることからすれば、本件調査の結果が正確であるとはいえない。 (2)「公衆」該当性(著作権法2条5項) 前記1のとおり、本件通信は、本件各発信者と本件調査会社との間における二当事者間の通信にすぎないから、「公衆」によって受信されることを目的とするものではなく、自動公衆送信権侵害には当たらない。 (3)本質的特徴の感得の可否 BitTorrentを使ったデータの送信は、小さく分割されたファイルの一部を送信するものであり、このような一部のファイルのみからは、本件動画の表現の本質的特徴を直接感得することができる映像を再生できない可能性がある。そのため、本件通信によって、被告の自動公衆送信権が侵害されたというためには、個々の通信によってどのようなデータが送信されたかを明らかにする必要がある。この点について、被告は、再生試験結果報告書(乙17)を提出するものの、当該再生試験が適式になされたとは限らない上、本件動画の複製物の一部にすぎないピースのみで本件動画の表現の本質的特徴を直接感得することができるとはいえない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(特定電気通信の該当性)について (1)プロバイダ責任制限法2条1号は、特定電気通信につき、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいうものと規定している。そして、前記前提事実並びに証拠(乙2、3、5、11)及び弁論の全趣旨によれば、BitTorrentの仕組みにおいては、発信者がBitTorrentによってその保有するファイルを送信する場合、上記発信者は、その送信の前にトラッカーに接続し、自己のIPアドレス等の情報及びファイルの保有に係る情報をトラッカーに通知した上、BitTorrentを利用してトラッカーから上記各情報を取得した不特定の者からの求めに応じ、自動的に上記ファイルを送信していることが認められる。そうすると、当該送信の主体である発信者からみて、その保有するファイルの受信者は、不特定の者に該当するから、上記送信に係る電気通信は、同号にいう特定電気通信に該当するものといえる。 これを本件通信についてみると、前記前提事実によれば、本件通信は、本件各発信者がBitTorrentによってその保有するファイルを送信した場合における通信であって、本件各発信者は、BitTorrentを利用する不特定の者からの求めに応じ、その保有するファイルを自動的に送信したものと認めるのが相当である。 したがって、本件通信は、同号にいう特定電気通信に該当するものといえる。 (2)これに対し、原告は、本件通信が本件各発信者と本件調査会社との間の1対1の通信にすぎないから、特定電気通信に当たらない旨主張する。しかしながら、原告の主張は、上記認定に係るBitTorrentによる通信の仕組み全体を踏まえずに、その仕組みの一部のみを取り出して特定電気通信該当性を否定するものである。したがって、原告の主張は、特定電気通信上において匿名で発信された情報の流通により被害を受けた者に対して権利回復の手段を与えるというプロバイダ責任制限法5条の趣旨目的に照らしても、採用することができない。 2 争点2(権利侵害の明白性)について (1)権利侵害の明白性 プロバイダ責任制限法5条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、当該情報の区分により定められた同項各号の該当性に応じて、その開示を請求することができる旨規定している。同項が、特定電気通信上において匿名で発信された情報の流通により被害を受けた者に対して権利回復の手段を与える一方、発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との均衡を図る観点から、開示の対象を情報の流通による権利の侵害に係る発信者情報に限定した趣旨目的に鑑みると、同項にいう権利の侵害とは、侵害情報の流通によって権利の侵害を直接的にもたらしているものをいうと解するのが相当である(最高裁平成30年(受)第1412号令和2年7月21日第三小法廷判決・民集74巻4号1407頁参照)。 そして、発信者がBitTorrentを利用して著作物の複製物の一部を構成するピースを送信した場合、当該ピースを受信する者は、当該ピースによって初めて上記複製物全体を再生することが可能となる。そうすると、上記発信者は、BitTorrentにおいて上記著作物と同一の複製物全体の再生に必要不可欠な情報を入力するという、上記著作物全体の自動公衆送信の実現における枢要な行為をしているものといえる。 したがって、上記発信者は、上記ピースの流通によって上記著作物全体の著作権の侵害を直接的にもたらしていると認めるのが相当である。 以上によれば、発信者においてBitTorrentを利用して送信した情報が著作物の複製物の一部のみを構成する場合であっても、上記発信者は、上記著作物全体の侵害を直接的にもたらしていると解するのが相当である。 これを本件についてみると、前記前提事実並びに証拠(乙7、8、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件各発信者においてBitTorrentネットワークを利用して送信した個別のピースは、侵害情報である本件動画の複製物の一部を構成することが認められる。そして、証拠(乙7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社が受信した本件動画の複製物に係る情報(本件各発信者が送信したピースを含む。)は、本件動画の正規品のデータと同一であることが認められる。そうすると、本件各発信者は、上記個別のピースの流通によって本件動画全体の著作権の侵害を直接的にもたらしているものといえる。 仮に、発信者においてBitTorrentを利用して送信した情報が著作物の複製物の一部のみを構成する場合、著作権侵害を直接的にもたらしている情報が当該一部に限られるとする見解に立ったとしても、前記前提事実並びに証拠(乙7、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件各発信者が送信した個別のピースのデータは、いずれも約35秒程度の動画を再生可能なものであり、少なくとも本件動画の一部の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものである。そうすると、本件各発信者は、上記個別のピース自体の流通によって本件動画の一部に係る著作権侵害を直接的にもたらしているといえる。 以上によれば、本件動画に係る著作権が侵害されたことは明らかであると認めるのが相当である。 (2)原告の主張に対する判断 ア 原告は、個別再生試験が適式に行われたものとはいえない旨主張する。 しかしながら、前記前提事実並びに証拠(乙12ないし14)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、再生試験の手順について、技術説明会等において一通りの説明をしており、その説明の信用性に疑問を抱かせる具体的な事情もうかがわれない。したがって、個別再生試験の結果には信用性が認められることからすると、原告の主張は、採用することができない。 仮に、原告の主張が個別再生試験によっても個別のピースのみで本件動画の表現の本質的特徴を感得し得ることまで立証されるものではないという趣旨をいうものとしても、発信者においてBitTorrentを利用して送信した情報が著作物の複製物の一部のみを構成する場合であっても、上記発信者は、上記著作物全体の侵害を直接的にもたらしていると解されることは、前記(1)において説示したとおりである。そして、前記(1)のとおり、本件調査会社が受信した本件動画の複製物に係る情報(本件各発信者が送信したピースを含む。)は、本件動画の正規品のデータと同一であるから、個々のピースについて本件動画の表現の本質的な特徴を直接感得することができるか否かを論ずるまでもなく、本件動画に係る著作権の侵害があったものと認められる。 したがって、原告の主張は、採用することができない。 イ 原告は、本件調査の結果が正確であるとはいえない旨主張する。しかしながら、前記前提事実並びに証拠(乙12ないし16)及び弁論の全趣旨によれば、本件システムは、一般的なBitTorrentクライアントソフトにおいてライブラリとして使用されているLibtorrentを使用して他のピアのIPアドレス等の情報を取得しており、このような過程自体は、一般的なBitTorrentクライアントソフトの動作と異なるものではなく、接続ピアの情報をデータベースに記録する過程についても、技術説明会等において一通りの説明がされ、その説明の信用性に疑問を抱かせる具体的な事情もうかがわれない。そうすると、本件調査の結果には信用性があるものと認めるのが相当である。したがって、原告の主張は、採用することができない。 ウ その他に、原告は、本件各発信者はBitTorrentの仕組みを認識、理解しないまま動画の視聴を行ったにすぎず、本件各発信者による送信行為の主体は、本件システムであり、これらの事情によれば、本件各発信者に故意、過失はないなどと縷々主張する。しかしながら、本件各発信者は、その送信に係るピースの流通によって本件動画全体の著作権の侵害を直接的にもたらしていることは、前記(1)において説示したとおりである。そして、故意、過失を欠く旨の原告の主張は、抽象的な可能性を指摘するにすぎず、原告の主張は、権利侵害の明白性を左右するものとはいえない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。 3 小括 以上によれば、本件各発信者は、別紙動画目録記載の発信時刻において、本件動画の複製物の一部のファイルを送信することによって、本件動画に係る被告の自動公衆送信権を侵害していたことが明らかであり、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。そして、被告は、本件各発信者に対し、損害賠償請求等を行うことを予定しているから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 第5 結論 よって、被告による開示命令の申立ては、適法であり、かつ、理由があるから、これを認可することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 武富可南 裁判官 古賀千尋 (別紙)著作物目録 (省略) (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に相手方から割り当てられていた契約者に関する以下の情報 1 氏名又は名称 2 住所 3 電子メールアドレス 以上 (別紙)動画目録 (省略) |
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