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【事件名】オプテージへの発信者情報開示命令異議申立事件 【年月日】令和6年12月16日 大阪地裁 令和6年(ワ)第5302号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議事件 (口頭弁論終結日 令和6年10月15日) 判決 原告 株式会社オプテージ 同代表者代表取締役 同訴訟代理人弁護士 嶋野修司 同 粉川航平 被告 株式会社CHERRIES 同代表者代表取締役 同訴訟代理人弁護士 杉山央 主文 1 当事者間の大阪地方裁判所令和5年(発チ)第20022号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和6年4月30日にした決定を認可する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 当事者間の大阪地方裁判所令和5年(発チ)第20022号発信者情報開示命令申立事件について同裁判所が令和6年4月30日にした決定を取り消す。 2 上記事件に係る被告の申立てを却下する。 第2 事案の概要 1 本判決における略称 ・本件決定:発信者情報開示命令申立事件(当庁令和5年(発チ)第20022号)について同裁判所が令和6年4月30日にした決定(甲12) ・本件申立て:上記事件に係る被告の発信者情報開示命令申立て ・ビットトレント:ピア・ツー・ピア方式のファイル共有プロトコルである「BitTorrent」 ・本件各契約者:別紙「発信者情報目録」記載の「IPアドレス・ポート番号」を割り当てられた原告の契約者 ・本件各発信者情報:本件各契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス ・本件各動画:別紙「著作物目録」番号1ないし3の動画の総称 ・本件調査:被告が調査会社に依頼した本件各動画の著作権侵害の有無に関する調査 ・本件調査会社:本件調査を実施した会社(株式会社utsuwa) ・本件被告システム:ビットトレント向けクライアントソフト(●(ギリシア文字。ミュー)Torrent)を用いた本件調査会社が使用するシステム ・プロバイダ責任制限法:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ・本件認定システム:プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン所定の技術的要件を備える「P2P FINDER」と称するシステム 2 事案の要旨 本件は、被告が、その有する著作権が侵害されたことが明らかであるとして、プロバイダ責任制限法5条1項に基づく本件申立てにより本件決定を得たところ、原告が、プロバイダ責任制限法14条1項に基づき異議を申し立て、本件決定を取り消す旨の裁判を求めた事案である。 3 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実) (1)当事者 ア 原告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、契約者に対しインターネット接続サービスを提供するプロバイダーである。 イ 被告は、映像ソフトの制作及び販売等を目的とする株式会社である。 (2)本件申立て及び本件決定 ア 被告は、令和5年7月27日付けで、原告を相手方として、本件各契約者が本件各動画を含む動画等に係る被告の著作権(公衆送信権及び送信可能化権)を侵害したと主張して、本件各発信者情報の開示を求める申立てをした(本件申立て)。なお、被告は、その後、送信可能化権侵害の主張を撤回した。 イ 大阪地方裁判所は、令和6年4月30日、被告の本件申立てを認容する決定(本件決定)をした。 (3)ビットトレントの仕組み(甲13、弁論の全趣旨) ビットトレントの概要や利用の手順は、次のとおりである。 ア ビットトレントを通じて特定のファイル(以下「目的ファイル」という。)をダウンロードしようとするユーザーは、ファイルをダウンロードするための「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスし、目的ファイルの所在等の情報が記録された「トレントファイル」をダウンロードする。 イ ユーザーは、当該トレントファイルをクライアントソフトに読み込ませることにより、「トラッカー」と呼ばれるサーバと接続し、自身のIPアドレス等の情報を提供するとともに、目的ファイルの全部又は一部を保有している他のユーザーのIPアドレス等を取得し、それらのユーザー(以下、データをやりとりする相手となるユーザーを「ピア」という。)と接続した上で、ピアが保有する、目的ファイルが分割されたもの(以下「ピース」という。)をダウンロードする。 ウ ユーザーは、ダウンロードした目的ファイル(ピース)について、自動的にピアとしてトラッカーに登録され、目的ファイルについて他のユーザーからの要求があれば、目的ファイル(ピース)を提供しなければならないことから、ユーザーは、目的ファイルをダウンロードすると同時に不特定多数の者に対するアップロードが可能な状態に置かれる。 エ ユーザーは、複数のピアと接続して目的ファイルのピースを全部取得し、目的ファイルを復元する。 (4)本件調査(甲1、3、13、乙1、2、10、弁論の全趣旨) ア 本件調査会社による本件被告システムを利用した通常の調査方法は、次のとおりである。 @映像メーカーから著作権侵害の調査を行うことについて許諾を受けた対象作品の品番やその他の情報を確認する。 A対象作品をインデックスサイトで検索し、パソコンにトレントファイルをダウンロードする。 B本件被告システムを起動し、トレントファイルから、対象作品を複製したファイルのダウンロードを開始する。 Cパソコンの画面上で同ダウンロードに係る通信先のユーザーのIPアドレスを確認する。この際、当該ファイルを開いて、@の対象作品(正規品)との見比べを行う。 D取得したIPアドレスからプロバイダーを特定する。 イ 被告は、本件申立てに先立ち、本件調査会社に対し、本件各動画に係る著作権侵害の調査(本件調査)を依頼した。 本件調査会社は、上記アの調査方法に従い、インデックスサイトにおいて、本件各動画の品番等を検索して、本件各動画と同一であることが疑われるファイルに対応するトレントファイルをダウンロードし、本件被告システムに当該トレントファイルを読み込ませてファイルのダウンロードを開始した。そして、本件被告システムの実行画面により、当該ダウンロードをしている接続先のユーザー(ピア)を確認し、別紙「発信者情報目録」記載の日時に、同記載のIPアドレス等の割当てを受けた端末から目的ファイル(ピース)をダウンロードし、表示される映像が本件各動画と同一であることを確認したとして、別紙「発信者情報目録」記載の日時頃、同記載のIPアドレスの割当てを受けた各発信者(本件各契約者)から本件各動画の複製ファイルをダウンロードした旨の調査結果を報告した。 (5)原告による発信者情報の保有 原告は、本件各発信者情報を保有している。 4 主たる争点 (1)「特定電気通信による…侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か(争点1) ア 被告が本件各動画の著作者であるか イ 本件各動画に係る被告の自動公衆送信権が侵害されたか ウ 被告主張の通信が「特定電気通信」に当たるか (2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(同項柱書)に当たるか(争点2) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(「特定電気通信による…侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」か)について 【被告の主張】 (1)被告は本件各動画の著作者であること ア 本件各動画の商品パッケージの「企画・製作・著作」欄等に被告の名称が表示されているから、著作権法14条により、本件各動画の著作者は被告であると推定され、これを覆す事情はない。 イ 本件各動画は、被告の発意に基づき、被告の従業員によって職務上作成されたから、同法15条により、被告は本件各動画の著作者である。 ウ 本件各動画は、映画の著作物であるところ、被告の発意に基づいて制作を開始し、製作に関する決定をした被告代表者及び従業員が、被告との間でその製作に参加することを約束した。そうすると、被告代表者及び従業員は本件各動画の著作者(同法16条)であり、被告は「映画製作者」(同法2条1項10号)であるから、同法29条により、本件各動画の著作権は被告に帰属する。 (2)本件各動画の自動公衆送信権が侵害されたこと ア ビットトレントの仕組みを前提とすると、ビットトレントのクライアントソフトウェアがインストールされた端末が、インターネットに接続され他の利用者から目的ファイルを受信している間、同時に公衆たる他のユーザーからの求めに応じて自動的に目的ファイルが送信される。このように、ビットトレントを利用して他の利用者から目的ファイルを受信することで、必然的に自動公衆送信が生ずる。 本件調査会社は、本件被告システムを介してビットトレントを利用し、他のユーザー(本件各契約者)から本件各動画の目的ファイルの少なくとも一部分をダウンロードした。よって、当該ユーザー(本件各契約者)は、本件各動画の目的ファイルの少なくとも一部分を自動公衆送信したといえる。 イ ビットトレントの本質的特徴は、目的ファイルのピースをユーザー間で共有してインターネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより、ネットワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能になることにある。そうすると、目的ファイルの一部分の送信は、残りのファイルについて送受信を行う他のユーザーと共同して、動画の完全なファイルを自動公衆送信しているといえる。よって、目的ファイルの少なくとも一部分の自動公衆送信をもって、本件各動画の自動公衆送信権が侵害されたといえる。 (3)「特定電気通信」に当たること 本件調査会社に目的ファイルの少なくとも一部分を送信した発信者は、本件調査会社以外の不特定多数の者とも送受信をしているから、上記発信者と本件調査会社との間の通信は「特定電気通信」に当たる。 (4)以上によれば、特定電気通信による侵害情報の流通によって、被告の本件各動画の自動公衆送信権が侵害されたことは明らかである。 【原告の主張】 (1)被告は本件各動画の著作者であるとはいえないこと ア 本件各動画の商品パッケージの表記は「チェリーズれぼ」であり、被告の商号とは異なるから、被告の名称が表示されているとはいえず、著作権法14条は適用されない。 イ 被告が本件各動画を「自己の著作の名義の下に公表」しているとはいえない上、被告は、被告従業員が本件各動画を作成したことや「作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと」を主張立証していないから、同法15条は適用されない。 ウ 被告は、本件各動画の「著作者」が被告に対し「製作に参加することを約束」したことを主張立証していないから、同法29条は適用されない。 (2)自動公衆送信権の侵害がないこと ア ビットトレントの仕組みに照らせば、本件調査会社の端末の状態が「ダウンロード中」の表示である場合、その保有する目的ファイル(ピース)を他のユーザーに送信することが当然に予想される。そうすると、上記「ダウンロード中」に接続しているピアとしてIPアドレス等が表示されたとしても、直ちに、当該IPアドレス等を付与された者が本件調査会社に目的ファイル(ピース)を送信又は自動公衆送信したことにはならない。 イ また、目的ファイル(ピース)は、本件各動画の複製ファイルの断片であるが、被告は、目的ファイル(ピース)が本件各動画中のいかなる創作的表現部分であるかについて具体的に主張立証をしていないから、目的ファイル(ピース)の自動公衆送信があったとしても、これをもって、本件各動画に係る自動公衆送信権が侵害されたとはいえない。 (3)被告主張の通信は「特定電気通信」に当たらないこと 「特定電気通信」は「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」であり、「電子メール等の1対1の通信」はこれに含まれない。 被告主張の本件調査会社と発信者との通信は、1対1の通信であるから、「特定電気通信」に当たらない。 (4)よって、特定電気通信による侵害の情報の流通によって、被告の本件各動画に係る自動公衆送信権が侵害されたとはいえない。 2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるか)について 【被告の主張】 本件被告システムは、ビットトレントを管理運営する会社によって、ビットトレントを利用しやすくするために開発・管理されたアプリケーションを利用したシステムであり、本件認定システムで確認できる情報を全て確認できるから、信用性は高い。なお、本件認定システムは、提供会社からビットトレントの仕様が改修されると役に立たない可能性がある旨示唆されており、信用性が高いとはいえない。 よって、本件調査により特定されたIPアドレス等は正確であり、本件各発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。 【原告の主張】 いわゆるピア・ツー・ピア型ファイル交換ソフトにおける権利侵害情報の送信に使用されたIPアドレス等の特定方法の正確性、信頼性は、極めて慎重に判断する必要があり、本件認定システム以外のシステムが使用された特定方法の場合、その正確性、信頼性を厳格に検討する必要がある。本件被告システムの技術的仕様は不明であり、調査過程の正確性は担保されていないことなどからすると、本件調査によるIPアドレス等の特定方法は正確性、信頼性を欠く。よって、本件各発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たらない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(「特定電気通信による…侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」か)について (1)本件各動画の著作者 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、@本件各動画の各商品パッケージには、「企画・製作・著作:チェリーズれぼ」、「457349074」や「457122552」から始まるJANコード、「IPPANo.050001」との各表示がある事実(乙23の1ないし3)、AIPPA(特定非営利活動法人知的財産振興協会)から付与された被告の会員番号が「050001」である事実(乙21の2)、B被告がGS1JAPAN(一般財団法人流通システム開発センター)から貸与されたGS1事業者コードが「457122552,457349074」である事実(乙25)、C本件各動画は、被告の責任の下、被告代表者や被告従業員が製作した事実、がそれぞれ認められる。 これらの事実によれば、本件各動画の各商品パッケージにおける上記各表示はいずれも被告を示すものといえるから(「チェリーズれぼ」の「チェリーズ」部分は被告の商号の英語読みの表記と共通する。)、被告は、本件各動画を「自己の著作の名義の下に公表」したと評価できる。また、上記Cを併せ考慮すると、本件各動画は、被告の発意に基づき、その業務に従事する者が職務上作成したと評価できる。 以上から、著作権法15条1項により、本件各動画の著作者は被告であると認められる。 (2)本件各動画に係る自動公衆送信権の侵害の有無 ア 前提事実記載のビットトレントの仕組み及び本件調査の内容に加えて、本件被告システムの実行画面上において利用端末の「状態」欄が「ダウンロード中」の場合とは、接続したユーザー(ピア)から「名前」欄のファイルをダウンロード中の状態を意味していること(乙2)、上記「ダウンロード」中のファイルが最終的に本件各動画のファイルと内容的に同一であると確認されていること(乙5、乙13)を併せ考慮すると、上記ユーザー(ピア)が本件各動画のファイルを自動公衆送信していたと認められる。 イ この点、原告は、端末の状態が「ダウンロード」である場合に、接続するユーザーが対象ファイルをダウンロードしている可能性もある、目的ファイルの一部(ピース)は著作物でない、などとして本件各動画の自動公衆送信権侵害はないと主張する。 しかし、本件被告システムの説明資料及びこれを利用した当該通信の把握状況は、ビットトレントの利用に伴うピアの挙動等を説明するものとして特段不合理、不自然な内容はなく、本件各契約者がアップロードし、本件調査会社がダウンロードしている点は優に認められ、原告の主張は、この点の判断を左右しない。また、前記ビットトレントの仕組みに照らせば、ユーザーは目的ファイルの一部を構成するピースを順次取得して、最終的に目的ファイルの全体を取得するものであるところ、本件調査会社が当該目的ファイルの全体を取得した時点はもちろん、その途中段階であっても、作品の特徴を識別できる程度に視聴可能なデータ(再生するに足る十分なピース)をダウンロードするに至ったのであれば、当該通信に係る本件調査会社の相手方となった本件各契約者は、目的ファイルのピースのアップロードにより、本件各動画に係る支分権である自動公衆送信権を侵害したものというべきである。これに加え、複数の発信者が表示される場合においては、いずれの発信者からもダウンロードが行われていること(乙26の1・2)も考慮すると、原告の主張は、前記アの判断を左右するに至らない。 (3)「特定電気通信」該当性 前記ビットトレントの仕組みに照らせば、本件調査会社の端末と本件各動画のファイルに関する接続ピアとの通信は、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」であるから、「特定電気通信」に当たる。 (4)小括 以上に加え、本件において原告に抗弁が成立すると認めるに足りる証拠が見当たらないことも考慮すると、特定電気通信による侵害情報の流通により、被告の本件各動画に係る著作権(自動公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。 2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるか)について 前記前提事実のとおり、本件調査会社は、本件被告システムを利用して本件調査を行い、本件各動画に係る目的ファイル(ピース)を自動公衆送信した発信者の情報は本件各発信者情報であると特定した。本件被告システムは、ビットトレントの開発会社により開発・維持され、ビットトレントのプロトコルの定義に設定されたガイドラインを遵守しこれに準拠したものである(乙1の2)。また、本件調査会社は、機械的に本件被告システムを利用して、接続したユーザーのIPアドレス等を取得しており、その過程に不自然な点は見当たらない(乙15)。 以上から、本件被告システムを利用した発信者情報の特定方法は信用でき、正確であるといえるから、本件各発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たると認められる。 これに対し、原告は、本件認定システム以外のシステムによるIPアドレス等の特定方法の正確性は厳密に行うべきであるなどと主張するが、本件被告システムの上記仕様等に照らせば、当該主張に係る事情は、上記認定を左右するものではない。 3 その余の要件について 弁論の全趣旨に加え、前記1、2に説示した諸点を踏まえると、被告には、「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」があり、また原告が「特定電気通信役務提供者」に当たることは明らかである。 第5 結論 よって、被告の本件申立てには理由があるところ、これと同旨の本件決定を認可することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 阿波野右起 (別紙発信者情報目録省略) (別紙著作物目録省略) |
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