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【事件名】シナリオ制作契約事件 【年月日】令和6年11月29日 東京地裁 令和3年(ワ)第5411号 著作権侵害差止等請求事件、令和4年(ワ)第9709号 損害賠償請求反訴事件 (口頭弁論終結日 令和6年9月3日) 判決 原告(反訴被告)Aii(以下「原告」という。) 同訴訟代理人弁護士 大熊裕司 被告(反訴原告)Bii(以下「被告」という。) 同訴訟代理人弁護士 秋元隆弘 主文 1 原告は、被告に対し、11万円及びこれに対する令和3年1月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告の本訴請求をいずれも棄却する。 3 被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴請求 被告は、原告に対し、400万0160円及びこれに対する令和3年4月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 反訴請求 (1)原告は、被告に対し、250万円及びこれに対する令和4年5月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 (2)原告は、被告に対し、220万円及びこれに対する令和3年1月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 (1)本訴事件 本訴事件は、原告が、被告に対し、原告の制作した著作物であるシナリオを別紙漫画目録記載の漫画(以下「本件漫画」という。)にした行為は、原告の同シナリオに係る翻案権を侵害するものであり、同シナリオの二次的著作物である本件漫画を書籍及び電子書籍として販売している行為は、原著作者の権利として専有する本件漫画に係る複製権、譲渡権及び公衆送信権を侵害するものであって、さらに、それらの行為は、原著作者である原告の著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)も侵害するものであると主張して、不法行為に基づく損害賠償として、著作権侵害に基づく損害金200万0160円(著作権法114条2項により算定される額)、著作者人格権侵害に基づく慰謝料150万円及び弁護士費用相当損害金50万円の合計400万0160円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年4月17日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 (2)反訴事件 反訴事件は、被告が、原告に対し、 ア 原告による本訴の提起が不当訴訟に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償として、本件漫画が販売できなくなったことによる逸失利益25万2580円、信用毀損による損害金200万円及び本訴事件の応訴に要した弁護士費用相当損害金24万7420円の合計250万円並びにこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和4年5月7日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を、 イ 原告による別紙名誉毀損主張対比表記載の各投稿が被告に対する名誉毀損及び名誉感情侵害に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料200万円及び弁護士費用相当損害金20万円の合計220万円並びにこれに対する令和3年1月24日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠(以下、特記しない限り枝番を含む。)、弁論の全趣旨等により容易に認定できる事実) (1)当事者 ア 原告は、「Ai」(Ai)のペンネームで、小説、脚本及びゲームシナリオの執筆を業としている者である。 イ 被告は、肩書地において特許事務所を経営する弁理士であり、「Bi」(Bi)のペンネームで創作作品の原作を制作し、漫画家やCG作家などとコラボレーションをして同人誌を発行して、コミックマーケットやオンラインショッピングサイト及び実店舗を通じて販売している者である。 被告は、平成25年12月頃から、「Ji」との同人サークルを運営し、主宰している。当該サークルでは、漫画家やCG作家などのクリエーターに作画を請け負ってもらうなどして短編漫画を多数制作しており、制作された作品数は、平成30年12月までに34作品、令和6年4月までに69作品(本件漫画を除く。)であった。(乙36、被告本人) (2)アプリ用シナリオの制作等の経緯 ア 被告は、平成30年1月頃、原告に対し、アプリ用シナリオ制作を依頼することとし、原告と被告は、同年2月頃、報酬をシナリオ1文字当たり2円(消費税込み)とすることを合意した。 原告と被告は、被告が原告に送付した素案に基づき、相互に意見交換、修正等を行い、原告は、同年4月20日、被告に対し、5万9377文字のプロット(シナリオの基となるストーリーの要約)を企画書に落とし込んだ形式にして送付した。 イ 被告は、平成30年12月21日、原告に対し、前記アのアプリ用シナリオ制作の報酬の一部として10万円を支払った。 また、前記アのアプリにつき、原告は、平成31年4月、被告に対し、16万2798文字のシナリオを送付し、被告は、同月26日、22万5596円(報酬32万5596円から上記の10万円を差し引いた金額)を支払った。 ウ 被告は、アプリのCG制作を「Ci」というペンネームの人物に依頼していたところ、同人の体調不良等によりアプリの制作が遅延していた。その後、被告は、シナリオを再制作した上でアプリを完成させ、令和2年11月29日に販売を開始した。なお、当該アプリのダウンロードサイトには、「シナリオ:Hi/Ji」、「イラスト:Ci」と表示されている。(乙20、弁論の全趣旨) (3)CG集用シナリオの制作、本件漫画の制作、販売等の経緯 ア 原告によるシナリオの制作 (ア)被告は、平成30年5月頃、原告に対し、「RPGゲーム風セリフ付きCG集」のシナリオの制作を、報酬を1文字当たり2円(消費税込み)とする約定で依頼し、その頃、被告が制作した「RPG素案」と題するテキストファイル(以下「本件素案」という。)を送付した。 (イ)原告は、被告からの前記(ア)の依頼を受けて、本件素案を確認の上、シナリオ(以下「原告シナリオ」という。)を制作し、平成30年7月15日、被告に原告シナリオを送付した。 原告シナリオは、「共通ルート」、「ルート1」、「ルート2」及び「ルート3」(以下、順に「原告シナリオ1」、「原告シナリオ2」、「原告シナリオ3」及び「原告シナリオ4」という。)の4部から成っているところ、「共通ルート」が冒頭の共通するストーリーで、その後、読者の選択に応じてルート1ないし3の三つのストーリーに分岐する構成となっている(甲11ないし14)。なお、原告シナリオには、「脚本Ai」と記載されている。 原告シナリオは、著作物(著作権法2条1項1号)に当たる(甲11ないし14)。 イ 原告シナリオ送付後のやり取り 原告と被告は、平成30年8月24日、Discord(メッセージ、ビデオ通話、音声通話等が可能なコミュニケーションツール)のサーバー「だらけない部屋」において、別紙メッセージ一覧表記載のとおり、メッセージ(以下、同「番号」欄の番号に従って「本件メッセージ1」などといい、これらを総称して「本件メッセージ」という。)のやり取りをした(なお、サーバー「だらけない部屋」における原告と被告との間での音声通話の有無や、音声通話があったとしてその内容がどのようなものであったかについては、争いがある。)。 被告は、同月30日、原告に対し、16万6000円を振り込んで支払った。 ウ 本件漫画の制作 被告は、「Ei」というペンネームの人物に対し、本件漫画の作画を依頼して、平成30年11月26日頃までに、本件漫画(全36頁)を完成させた(甲15、18、乙36)。 エ 本件漫画の販売 (ア)被告は、平成30年12月17日から同月18日にかけて、株式会社エイシスが運営するダウンロード販売サイト「DLsite」及び合同会社DMM.comが運営する同「FANZA」において、本件漫画の販売を開始した。 また、被告は、同月31日、株式会社虎の穴が運営する通信販売サイト「とらのあな」において、本件漫画を収録した書籍(以下「本件書籍」という。)の販売を開始した。 本件漫画には、「原作者」として被告のペンネームである「Biii」が、「シナリオ協力」として原告のペンネームである「Ai」が、それぞれ表示されている(甲15、18)。 (イ)「DLsite」における本件漫画の販売は令和3年4月14日に、「FANZA」における本件漫画の販売は同月15日に、それぞれ停止された。 また、「とらのあな」における本件書籍の販売も、同日、停止された。 (4)被告による投稿 ア 被告は、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワークであり、現在の名称は「X」)において、平成31年2月6日に「Ciさん…に依頼していたCG集のイラストが完成しました。シナリオの合成なども含めて来月中頃までに製作を完了させて、頒布予定ですのでご期待下さい。」と、令和元年12月22日に「Ciさんに依頼したイラストを使った同人CG集なのですが、締め切りを大幅超過して納品されたシナリオが文字数大幅超過&文章のテイストが全く僕好みでなく、全面的に修正する必要があるものの時間もないため棚上げになっていたのですが、別の方にシナリオを再依頼しました。さらば数十万円。」と、それぞれ投稿した(甲42)。 イ 被告は、ツイッターにおいて、令和2年11月19日、「Ciさん…作画のCG集、今月中に出します。今度こそ本当です。」と投稿した(甲55)。 (5)原告による投稿 原告は、Discordのサーバー「DARAKENAI」において、令和2年10月19日、別紙名誉毀損主張対比表の「1投稿1」の「対象となる投稿」欄記載の各時刻(時刻が明示されていないものは、その前に記載のある時刻と同じ時刻である。以下同じ。)に、同欄記載の内容(以下、「No.」欄記載の丸囲みの番号に従って「本件表現1@」、「本件表現1A」などという。)をそれぞれ投稿した(以下、これらの行為を「No.」欄記載の丸囲みの番号に従って「本件投稿1@」、「本件投稿1A」などという。)した。 また、原告は、同サーバーにおいて、同年11月20日、別紙名誉毀損主張対比表の「2投稿2」の「対象となる投稿」欄記載の各時刻に同欄記載の内容(以下、「No.」欄記載の丸囲みの番号に従って「本件表現2@」、「本件表現2A」などといい、本件表現1@ないし2Nを総称して「本件表現」ということがある。)をそれぞれ投稿した(以下、これらの行為を「No.」欄記載の丸囲みの番号に従って「本件投稿2@」、「本件投稿2A」などといい、本件投稿1@ないし2Nを総称して「本件投稿」ということがある。)。 (6)本件訴訟の経過(当裁判所に顕著な事実) ア 原告は、令和3年3月4日、@被告に対し、前記第1の1記載の金銭支払を、A株式会社エイシス及び合同会社DMM.comに対し、本件漫画の複製、頒布、公衆送信及び送信可能化の差止めを、B株式会社虎の穴に対し、本件書籍の複製、頒布、公衆送信及び送信可能化の差止めを、それぞれ求める本件訴訟を提起した。 イ 原告は、令和3年6月1日、株式会社エイシス、合同会社DMM.com及び株式会社虎の穴に対する訴えを取り下げ、同社らはいずれもこれに同意し又は同意したものとみなされた。 3 争点 (1)本訴事件 ア 著作権侵害の成否(争点1−1) (ア)本件漫画は原告シナリオを翻案したものか(争点1−1−1) (イ)原告シナリオを漫画化すること等についての許諾の有無(争点1−1−2) イ 著作者人格権侵害の成否(争点1−2) ウ 被告の故意又は過失の有無(争点1−3) エ 原告の損害の有無及びその額(争点1−4) (2)反訴事件 ア 本訴提起を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の当否(争点2) (ア)本訴提起による不法行為の成否(争点2−1) (イ)原告の故意又は過失の有無(争点2−2) (ウ)被告の損害の有無及びその額(争点2−3) イ 本件投稿を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の当否(争点3) (ア)名誉毀損の成否(争点3−1) (イ)名誉感情侵害の成否(争点3−2) (ウ)原告の故意又は過失の有無(争点3−3) (エ)被告の損害の有無及びその額(争点3−4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1−1−1(本件漫画は原告シナリオを翻案したものか)について (原告の主張) 原告シナリオと本件漫画との間には、別紙著作物主張対比表の「同一性(原告の主張)」欄記載のとおり、表現上の本質的な特徴に同一性を有する部分がある。そして、これらの同一性を有する部分は、同「創作性・依拠性(原告の主張)」欄記載のとおり、原告による創作的表現であって、かつ、被告は、原告シナリオに係る当該部分に依拠して本件漫画に係る当該部分を制作した。そうすると、被告による本件漫画の制作は、原告シナリオに依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原告シナリオの表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作したものであるから、本件漫画は、原告シナリオを翻案したものであって、原告シナリオの二次的著作物に当たる。 そして、本件漫画の原著作者である原告は、二次的著作物である本件漫画の利用に関し、著作権の各支分権であって本件漫画の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。 したがって、被告による本件漫画の制作は、原告の翻案権を侵害するものであり、これを書籍及び電子書籍として販売することは、原告の複製権、譲渡権及び公衆送信権を侵害するものである。 (被告の主張) 原告の主張に対する反論は、別紙著作物主張対比表の「同一性(被告の主張)」欄及び「創作性・依拠性(被告の主張)」欄各記載のとおりである。 原告が原告シナリオと本件漫画との間で表現上の本質的な特徴に同一性を有すると主張する部分は、描写や登場人物の行動の目的に違いがあることなどからすると、その同一性又は類似性が認められない。 また、被告は、被告自身が制作した著作物である本件素案に依拠して本件漫画を制作したのであって、原告シナリオに依拠して制作したのではない。 さらに、原告シナリオと本件漫画との間で類似する表現部分に本件素案に記載がないものがあるとしても、これらの表現部分はいずれもありふれた表現にすぎず、原告の創作的表現ではないといえる。したがって、仮に本件漫画が原告シナリオに依拠したものであると判断されるとしても、結局のところ、本件素案の二次的著作物であって、原告シナリオの二次的著作物ではない。 2 争点1−1−2(原告シナリオを漫画化すること等についての許諾の有無)について (被告の主張) (1)原告シナリオを漫画化する許諾があったことについて 仮に本件漫画が原告シナリオを翻案したものであるとしても、原告は被告に対し原告シナリオを漫画化することを許諾したものである。 すなわち、原告と被告が平成30年8月24日にやり取りした本件メッセージの内容からすると、そのやり取りにおいて、被告が原告シナリオの内容を書き直した上でこれを漫画化することを求め、原告がこれを許諾したものであることは、明らかである。 (2)許諾の範囲について 被告は、同人サークル「Ji」を運営して、同人誌のダウンロード販売や漫画書籍の販売をしているところ、原告もそれを十分認識していた。そして、「RPGゲーム風セリフ付きCG集」も同様な商流による販売を予定していたのであるから、原告は、本件漫画についても、書籍として頒布したり、電子書籍(データ)として販売したりすることが前提とされていたことを十分に認識していたといえる。したがって、本件漫画を書籍として頒布及び電子書籍(データ)として販売をすることも許諾の範囲に含まれていた。 また、被告は、本件素案に基づいてシナリオを書き直したため、原告シナリオと本件漫画との間には展開、内容等の点で多少の差異があるものの、本件漫画の展開、内容等は、本件メッセージ8及び9によって原告に伝えていたものと概ね一致しているから、本件漫画はその展開、内容等の点から見ても許諾の範囲内にあるものである。 (3)小括 以上のとおり、原告は、被告に対し、原告シナリオを漫画化し、書籍として頒布及び電子書籍(データ)として販売をすることを許諾しており、かつ、本件漫画の展開、内容等も当該許諾の範囲内にある。 (原告の主張) (1)原告シナリオを漫画化することの許諾がないこと 以下のアないしウの事実関係に照らせば、原告と被告との間で本件メッセージのやり取りがされたことをもって、原告が被告に原告シナリオを漫画化することを許諾したと評価することはできない。 ア まず、本件メッセージ14は、原告シナリオを漫画化することを許諾する趣旨のものではなく、原告シナリオ制作の費用と支払方法について確認し、お礼を述べたものにすぎない。 イ 本件メッセージ1及び2のとおり、原告は、被告からの音声通話の打診に対し、電車に乗っているとの回答をしていたことから、その後に被告が送信したメッセージは原告の帰宅後に被告と直接話し合う内容のあらましであると認識していた。その上、本件メッセージ3及び11に「とりあえず」と記載されていたことから、原告は、被告が不確定な事項を原告に伝えていると認識し、これらについてメッセージで返答することはしなかった。 原告は、帰宅後の平成30年8月24日午後9時ないし午後10時頃、被告と音声通話をしたところ、被告は原告に対し改めて原告シナリオを漫画化することの許諾を求めた。これに対し、原告は、被告に、@著作権使用料、ACG集の販売予定時期、BCG集の担当イラストレーター、CCG集の販売が頓挫した場合の補填、権利の管理体制について説明を求めたものの、被告から納得できるような回答はなかった。また、原告が被告に契約書の作成を求めたところ、被告は、別件で使用している契約書を流用することなどを提案したものの、結局、契約書の提示をしなかった。 ウ 原告は、第三者において原告の制作したシナリオを改変、漫画化した上で、当該第三者をその漫画の原作者として表示することを許諾する場合、経験上、安く見積もっても、シナリオライターとしての制作費1文字当たり3ないし4.5円に加え、ゴーストライターとしての技術料を加えた1文字当たり6ないし7.5円を提示している。原告が被告から支払を受けた料金は、友人としての水準である1文字当たり2円にとどまるものであるから、この観点からしても、原告が被告に原告シナリオの漫画化を許諾するはずがない。 (2)許諾の範囲について 仮に原告が被告に原告シナリオに関して何らかの許諾をしていたとしても、原告シナリオを書き換えた上で本件漫画を制作することは、その許諾の範囲を超えるものであり、当然、本件漫画を販売等することも、その許諾の範囲を超えるものである。 すなわち、原告が、本件メッセージ8の「いったんルート2の部分に相当するのをこちらで書き直して」との文言から認識したのは、明らかな誤字・脱字の訂正及び差別的な表現等の禁止用語やそれに類する表現等を修正するという程度であり、それを超えた修正やストーリーの変更まで許諾していない。 また、本件メッセージ8の「別の方に漫画として依頼しようと考えてますので」との部分についても、上記のとおり、原告シナリオの形式的な修正にとどまらず、ストーリーの変更等がされた漫画を作成することは許諾の範囲を超えることになる。 さらに、本件メッセージ8には「ルート2の部分」と限定して記載されていることからすると、原告が許諾したのは「ルート2」に関するものにとどまり、「共通ルート」のシナリオについてまで変更し、漫画化することまでを含まない。 3 争点1−2(著作者人格権侵害の成否)について (原告の主張) (1)公表権侵害 原著作者である原告は、二次的著作物である本件漫画に係る公表権を有しているところ、被告に対し、原告シナリオの漫画化について同意していない。 したがって、被告が原告の同意を得ずに本件漫画を販売して公表し、これを公衆に提供又は提示した行為は、本件漫画に係る原告の公表権を侵害するものである。 (2)氏名表示権侵害 原著作者である原告は、二次的著作物である本件漫画に係る氏名表示権を有しているところ、被告は、本件漫画を販売するに際し、原告について「シナリオ協力:Ai」と表示しているが、この表示は、二次的著作物の原著作者名の表示とはいえない。 したがって、被告が上記表示を付して本件漫画を販売した行為は、本件漫画に係る原告の氏名表示権を侵害する。 (3)同一性保持権侵害 原告は、被告に対し、原告シナリオの漫画化について同意していないから、原告シナリオを漫画化した本件漫画は、原告の意に反して改変されたものであり、被告が本件漫画を制作した行為は、原告シナリオに係る原告の同一性保持権を侵害する。 (被告の主張) (1)公表権侵害及び同一性保持権侵害について ア 本件漫画の直接の基礎となったシナリオは被告が書き直したものであるから、本件漫画は原告シナリオの二次的著作物ではない。 この点を措くとしても、本件漫画の制作は、書籍による頒布及び電子書籍(データ)による販売を行うこと、すなわち公表することが前提とされていたのであるから、本件漫画に係る原告の公表権が侵害されたとはいえない。 イ 本件漫画の直接の基礎となったシナリオは被告が書き直したものであるから、本件シナリオに係る原告の同一性保持権が侵害されるということはあり得ない。 この点を措くとしても、原告は、被告に対し、原告シナリオを書き直して本件漫画を制作することについて同意している以上、原告シナリオについての変更切除その他改変についても認めているといえ、本件シナリオに係る原告の同一性保持権が侵害されたとはいえない。 (2)氏名表示権侵害について 本件漫画の直接の基礎となったシナリオは被告が書き直したものであるから、本件漫画は原告シナリオの二次的著作物ではない。 この点を措くとしても、そもそも原告シナリオは被告が制作した本件素案に基づいて作成されたものであるから、原告は、本件漫画の本来的な意味の原著作者であるとはいえない。そして、上記のとおり、本件漫画の直接の基礎となったシナリオは被告が全体的に書き直したものであるから、仮に本件漫画の一部が原告シナリオの二次的著作物に当たり得るとしても、全体に占める原告の寄与の割合からすれば、「シナリオ協力」との肩書により原告のペンネームを表示することにより、氏名表示権の趣旨は充たされるものと評価できる。 したがって、本件漫画に係る原告の氏名表示権が侵害されたとはいえない。 4 争点1−3(被告の故意又は過失の有無)について (原告の主張) 被告は、本件漫画に「シナリオ協力」との肩書を付して原告のペンネームである「Ai」を記載していることからすると、原告に原告シナリオの著作権が帰属していることを認識しつつ、原告シナリオを使用した本件漫画を制作、販売等したといえる。 したがって、被告において、原告の著作権及び著作者人格権の侵害につき、故意又は過失があったことは明らかである。 (被告の主張) 否認ないし争う。 5 争点1−4(原告の損害の有無及びその額)について (原告の主張) (1)著作権侵害による損害 ア ダウンロード販売による売上げ ダウンロード販売サイトにおける本件漫画の販売価格は770円(消費税込み)であるところ、出品者への支払額(以下「卸値」ということがある。)は1ダウンロード当たり440円である。そして、令和2年12月16日時点のダウンロード数は合計4864回(「DLsite」において2687回、「FANZA」において2177回)である。 したがって、本件漫画のダウンロード販売による被告の売上げは214万0160円となる。 イ 通信販売による売上げ 本件書籍の販売価格は2750円(消費税込み)であるところ、制作者への支払額は販売価格の72パーセントである。また、同人誌として発行する場合の標準的な部数は1000部である。なお、本件書籍には、本件漫画を含めて合計9話が収録されている。 したがって、本件書籍の通信販売による被告の売上げは22万円となる。 ウ 経費 漫画を作画した者に支払う原稿料は1頁当たり1万円程度であるところ、本件漫画は36頁であるから、被告は本件漫画を作画した者に原稿料として36万円を支払っていると考えられる。 エ 原告の損害額 前記アないしウによれば、被告が本件漫画の販売によって受けた利益の額は200万0160円である。 したがって、被告の著作権侵害行為によって原告に生じた損害の額は、著作権法114条2項により、200万0160円と推定される。 (2)著作者人格権侵害による損害 被告の公表権侵害行為、氏名表示権侵害行為及び同一性保持権侵害行為によって原告が受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる額は、それぞれ50万円(合計150万円)を下らない。 (3)弁護士費用相当額 被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は50万円を下らない。 (4)小括 以上によれば、原告に生じた損害の額は400万0160円である。 (被告の主張) 否認ないし争う。 6 争点2−1(本訴提起による不法行為の成否)について (被告の主張) 原告は、本件漫画について著作権を有していないにもかかわらず、又は、被告に対して本件漫画の制作及び販売等について許諾しておきながら、あえて被告に対する本訴を提起したものである。 したがって、原告の本訴提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであるから、被告に対する不法行為となる。 (原告の主張) 前記2(原告の主張)のとおり、原告シナリオの著作者及び著作権者である原告は、被告に対し、原告シナリオを漫画化することを許諾していない。 仮に、漫画化の許諾がなかったとは認められないとしても、本件の事実関係に照らせば、原告が、その主張に係る権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに、あえて訴えを提起したなどとは認められないから、本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであるとはいえない。 7 争点2−2(原告の故意又は過失の有無)について (被告の主張) 前記6(被告の主張)のとおり、原告は、原告が本件漫画について著作権を有していないこと、又は、被告が本件漫画を制作及び販売することを許諾していたことを知りながら、あえて本訴を提起したものであるから、この点について故意があるか、少なくとも過失があることは、明らかである。 (原告の主張) 否認ないし争う。 8 争点2−3(被告の損害の有無及びその額)について (被告の主張) (1)逸失利益 ア ダウンロード販売による売上げ 令和2年4月1日から令和3年3月31日までの「DLsite」における卸値合計は11万8341円(消費税込み)、同期間の「FANZA」における卸値合計は9万4546円(消費税込み)であった。 イ 通信販売による売上げ 本件書籍の1冊当たりの販売価格は1800円(消費税除く)で、令和元年10月1日から令和3年4月15日までの販売部数は31冊であったから、同期間における売上げは6万1380円(消費税込み)であった。 ウ 合計 被告は、原告による本訴提起がなければ、前記ア及びイと同程度の販売ができたところ、本訴が提起されたことにより、ダウンロード販売による売上げとして日額583円を、通信販売による売上げとして日額109円をそれぞれ失った。 したがって、被告には日額692円の損害が発生しており、令和3年3月16日(「FANZA」における本件漫画の販売及び「とらのあな」における本件書籍の販売がそれぞれ停止された日の翌日)から令和4年4月15日までの損害額は25万2580円に及ぶ。 (2)信用毀損による損害 原告の本訴提起により、本件漫画を既に購入していた者がこれを再ダウンロードしたり閲覧したりすることは不可能となり、購入者における被告の信頼が失墜した。また、被告が運営するサークルにおいては、既存作品の購入者による新作の購入が主な売上げとなっていることからすると、既存作品の購入者における被告の信用が毀損されたことは、当該サークルにとっても大きな被害となっている。 したがって、上記の信用毀損に伴う慰謝料の額は200万円が相当である。 (3)弁護士費用相当額 原告の本訴提起に係る不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は24万7420円である。 (4)小括 以上によれば、原告の本訴提起によって被告に生じた損害の額は250万円である。 (原告の主張) 否認ないし争う。 9 争点3−1(名誉毀損の成否)について (被告の主張) (1)公然性があること 令和2年11月28日当時、本件投稿がされたサーバー「DARAKENAI」には、25人程度のメンバーが所属していたことから、公然性が認められる。 仮に所属メンバーが特定少数人であると評価されるとしても、当該サーバーにおける投稿について高度の秘匿性が求められていたわけではないから、投稿内容が不特定多数人に伝播する可能性があった。 したがって、本件投稿は公然とされたものである。 (2)同定可能性があること 本件投稿がされたサーバー「DARAKENAI」の所属メンバーであれば、原告と被告との関係性を理解していたこと等から、本件投稿は、本件表現の中で言及されている対象が被告を意味するものであることが明確に分かる状況で行われていたといえる。実際、被告がサーバー「DARAKENAI」の所属メンバーの何名かに確認したところ、本件表現の中で言及されている対象は被告であると認識していた者が複数いた。 したがって、本件表現の対象となっている者が被告であると同定することは可能である。 (3)本件表現は事実を摘示するものであること 別紙名誉毀損主張対比表の「名誉を毀損し得る表現行為があったか(事実の摘示又は意見ないし論評の表明の区別)」「被告の主張」欄のとおり、本件表現は、いずれも事実を摘示するものである。 (4)本件表現は被告の社会的評価を低下させるものであること 別紙名誉毀損主張対比表の「被告の社会的評価を低下させる行為か」「被告の主張」欄のとおり、本件表現は、いずれも被告の社会的評価を低下させるものである。 (5)違法性阻却事由がないこと ア 別紙名誉毀損主張対比表の「公共利害性のある公益目的による表現か」「被告の主張」欄のとおり、本件投稿は、いずれも公共の利害に関する事実に係るものではないし、その目的が専ら公益を図ることにあるものでもない。 イ また、別紙名誉毀損主張対比表の「真実性・相当性のある表現か」「被告の主張」欄のとおり、本件表現において摘示された事実はその重要な部分について真実ではない。 仮に、本件表現の中に意見ないし論評の表明にとどまるものがあるとしても、別紙名誉毀損主張対比表の「真実性・相当性のある表現か」「被告の主張」欄のとおり、その表現は人身攻撃に及ぶものであって意見ないし論評としての域を逸脱したものである。 (4)小括 したがって、本件投稿は、いずれも被告の名誉を毀損する行為である。 (原告の主張) (1)公然性がないこと 本件投稿がされたサーバー「DARAKENAI」の所属メンバーは、原告及び本件の証人であるFi(以下「Fi」という。)を含め実質的に23人であった。そして、実際に文字チャットに投稿していたのは、原告とFiを含む6名しかいなかった。 このような閉鎖的なDiscordのサーバー上でのやり取りは、不特定多数の者に閲覧されるものではないから、本件投稿は公然とされたものではない。 (2)同定可能性がないこと 前記(1)のとおり、サーバー「DARAKENAI」の所属メンバーは、実質的に23人であった。 そして、上記メンバーのうち10人については、被告とほぼ面識がない、長期間にわたってDiscordにログインしていない又は文字チャットを利用していないとの理由から、本件表現の対象が被告であると認識できない。 また、原告がその余の者から聞き取り調査をしたところ、本件表現の対象とする者が被告であると認識できた者は、本件漫画や原告シナリオについての原告と被告とのやり取りをよく知っていた者にとどまった。 したがって、本件表現の対象とする者が被告であると明確に認識できる状況にあったとの被告の主張は誤りである。 (3)本件表現は意見ないし論評の表明にとどまるものであること 別紙名誉毀損主張対比表の「名誉を毀損し得る表現行為があったか(事実の摘示又は意見ないし論評の表明の区別)」「原告の主張」欄のとおり、本件表現は、いずれも意見ないし論評の表明にとどまるものである。 (4)本件表現は被告の社会的評価を低下させるものでないこと 別紙名誉毀損主張対比表の「被告の社会的評価を低下させる行為か」「原告の主張」欄のとおり、本件表現は、いずれも被告の社会的評価を低下させるものではない。 (5)違法性阻却事由があること ア 別紙名誉毀損主張対比表の「公共利害性のある公益目的による表現か」「原告の主張」欄のとおり、本件投稿は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった。 イ また、別紙名誉毀損主張対比表の「真実性・相当性のある表現か」「原告の主張」欄のとおり、意見ないし論評の前提としている事実は重要な部分について真実であり、かつ、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものではない。 (6)小括 したがって、本件投稿は、いずれも被告の名誉を毀損する行為ではない。 10 争点3−2(名誉感情侵害の成否)について (被告の主張) 前記9(被告の主張)のとおり、本件投稿は、その内容が被告について言及されたものであり、かつ、公然の場で行われたものである。 本件表現は、言及されている事実自体が存在しないか又は真実と異なるものである上、被告について、正常を疑うような言動をとる者であるとか、バカであるといった、罵倒するような内容を含んでいる。このような投稿内容は、サークルの主宰者や弁理士としての被告の名誉感情を著しく傷つけるものである。 このように、本件表現は、被告を侮辱するものであって、被告の名誉感情を社会通念上許容される限度を超えて侵害するものである。 したがって、本件投稿は、被告の名誉感情を侵害する違法な行為である。 (原告の主張) 否認ないし争う。 11 争点3−3(原告の故意又は過失の有無)について (被告の主張) 本件表現は、いずれも真実と異なり、被告が違法行為を行っているかのような主張や未払があるかのような主張を含み、被告を誹謗中傷するものであって、被告の名誉を毀損するにとどまらず業務妨害とまでいえるようなものであることからすると、原告に故意又は過失があったことは明らかである。 (原告の主張) 否認ないし争う。 12 争点3−4(被告の損害の有無及びその額)について (被告の主張) 原告の名誉毀損行為及び名誉感情侵害行為によって、被告は精神的苦痛を受けたものであり、これを慰謝するに足りる額は200万円を下らない。 また、原告の上記行為と相当因果関係のある弁護士費用は20万円である。 以上によれば、原告の上記行為によって被告に生じた損害の額は220万円である。 (原告の主張) 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1−1−2(原告シナリオを漫画化すること等についての許諾の有無)について 事案にかんがみ、争点1−1−2から検討する。 (1)原告シナリオを改変して漫画化することの許諾の有無について ア 前提事実(3)イのとおり、原告と被告は、平成30年8月24日、Discordのサーバー「だらけない部屋」において、別紙メッセージ一覧表記載のとおり、メッセージのやり取りをしたものである。 そして、上記メッセージのやり取りからは、被告が、原告に対し、同日午後7時37分ないし39分に投稿したメッセージにより、大要、@原告シナリオのルート2に相当する部分を被告が書き直し、第三者に漫画の制作を依頼したいと考えているので、了承してほしい旨を伝え(本件メッセージ8)、A当該漫画の総頁数は合計34ないし36頁となること及びその予定している頁単位の構成案を説明した上で(本件メッセージ9)、原告シナリオの制作に係る報酬に関し、Bシナリオ1文字当たり2円(1000円未満切上げ)で算定される金額を支払うこと(本件メッセージ12)、C週末中に原告に金額を伝え、原告の合意をとった上でBの金額を振り込むこと(本件メッセージ13)を条件として提案したものであり、これ受けて、原告が、同日午後8時34分、被告に対し、「了解です。ありがとうございます。」(本件メッセージ14)と返信したものと理解することができる。 イ また、前提事実(3)ア(イ)のとおり、原告シナリオは、冒頭の共通するストーリーである「共通ルート」を経た後、読者の選択に応じて「ルート1」ないし「ルート3」の三つのストーリーに分岐する構成である。このような構成を前提とすると、「共通ルート」が存在しなければ、ストーリーがある程度進行した途中から始まり、不自然なものとなるから、本件メッセージ8の「ルート2の部分に相当する」というのは、「共通ルート」及び「ルート2」に相当するストーリーを意味すると解される。このことは、本件メッセージ9の頁単位の構成案の1頁目における「魔女に負けている姿」との記載が、「共通シナリオ」冒頭の描写(「目の前で、傷だらけで膝をつく男戦士を見下ろす魔女。」等。甲11)と共通していることからも明らかである。 ウ 前記アのような本件メッセージ全体の流れと前記イで指摘した原告シナリオの構成を踏まえると、本件メッセージ14は、原告が、被告に対し、被告が「共通ルート」に相当する原告シナリオ1及び「ルート2」に相当する原告シナリオ3を書き直し、これを漫画化すること、すなわち原告シナリオを翻案することを許諾する旨の意思を表示したものと認めるのが相当である。 (2)本件漫画を販売すること等の許諾の有無について ア 前提事実(1)イ及び証拠(甲61、原告本人)によれば、被告は、原告に原告シナリオの制作を依頼する前から、漫画家やCG作家などとコラボレーションをして同人誌を発行し、コミックマーケットやオンラインショッピングサイト、実店舗を通じて販売しており、原告もこれを認識していたと認められる。そうすると、被告が原告シナリオを漫画化するということには、その漫画を書籍として頒布及び電子書籍として販売をすることも当然に含まれていたと解するのが相当である。 イ したがって、前記(1)アのような本件メッセージ全体の流れに加え、前記アの説示に照らせば、本件メッセージ14は、原告が、被告に対し、被告が本件漫画を書籍及び電子書籍として販売すること、すなわち原告が二次的著作物の原著作者として有する原告の複製権、譲渡権及び公衆送信権に係る許諾までする旨の意思を表示したものと認めるのが相当である。 (3)被告による本件漫画の制作、販売等が許諾の範囲内にあるか否かについて 原告シナリオ(甲11、13)と本件漫画(甲15、18)とを対比すると、本件漫画のストーリー展開は、「共通ルート」の後、「ルート2」を選択した場合とほぼ同一であると認められる(別紙著作物主張対比表参照)から、本件メッセージ8に記載されている内容に合致するものといえる。 また、本件漫画の構成と本件メッセージ9に記載されている頁単位の構成案とを対比すると、両者の間に若干の齟齬があると認められるものの(甲11、13、15、18。別紙著作物主張対比表参照)、本件メッセージ8及び9の記載から、漫画化に際してシナリオの書き直しや頁数の変動が予定されていたと認められるから、本件漫画の構成は、本件メッセージ9に記載されている構成案と実質的に同一であると評価できる。 さらに、前提事実(3)エ(ア)のとおり、「DLsite」及び「FANZA」における本件漫画の販売は電子書籍として販売するもの、「とらのあな」における本件書籍の販売は書籍として販売するものであるから、前記(2)において説示した許諾の範囲内にあるというべきである。 以上によれば、被告による本件漫画の制作及び販売等は、許諾の範囲内にあるものといえる。 (4)原告の主張について ア 原告は、本件メッセージ14について、原告シナリオ制作の費用と支払方法について確認し、お礼を述べたものにすぎないと主張する。 しかし、被告による本件メッセージ13の投稿から原告による本件メッセージ14の投稿までの間には1時間近くの時間的余裕があったことから、原告において、被告が投稿した本件メッセージ13以前の全てのメッセージを閲読した上で、本件メッセージ14の回答をしたと考えるのが自然であるところ、本件メッセージ全体のやり取りからも、また、本件メッセージ14自体の内容からも、本件メッセージ14が原告シナリオ作成の費用と支払方法についての回答にとどまるとか、原告シナリオの漫画化の許否についての回答を留保しているといったことはうかがわれない。 イ 原告は、本件メッセージのやり取りがされた後の平成30年8月24日午後9時ないし午後10時頃、被告と音声通話をしたところ、被告から改めて原告シナリオを漫画化することの許諾を求められたものの、著作権使用料等について納得できるような回答がなかった上、原告が被告に契約書の作成を求めたのに対して、被告から契約書の提示がなかったと主張し、同旨の供述をする。 この点について、証人Fiが作成した陳述書(甲60)には、原告の主張と同旨の記載があるものの、他方で、証人Fiは、原告と被告が音声通話でやり取りしている間、他の作業をするなどしており、当該やり取りのうち明確に認識できていない箇所もある旨証言していることからすると、その作成に係る陳述書の当該記載部分を直ちに採用することはできないというべきである。 確かに、原告と被告との間では、原告シナリオを漫画化することについて、書面による契約書の作成はされていないものの、本件においては、そもそも、原告シナリオの制作についても書面による契約書が作成されていないことからすれば、それを漫画化することについては書面による契約書が作成されるということが通常であるとまではいえない。 また、原告が、平成30年8月24日以降、被告に対し、契約書作成の進捗状況や、漫画化許諾の申入れ自体を維持するか否かなどを確認していたと認めるに足りる証拠はない。かえって、原告は、同年12月14日頃には、サーバー「だらけない部屋」での被告の会話から、本件漫画が販売審査を通過し、週明けに販売されることを知っていた(弁論の全趣旨)にもかかわらず、その時点はもとより、本件投稿1@ないしEをした令和2年10月19日より前に、被告に対して本件漫画の制作及び販売に異議を唱える趣旨の言動をしていたと認めるに足りる証拠もない。 これらの事情によれば、原告の上記の主張及び供述部分は採用することができないというべきである。 ウ 原告は、被告が原告に支払った金額は、原告シナリオを改変して漫画化することを前提とした水準ではないと主張する。 しかし、原告が主張する水準の額が実際に支払われていたという実績を認めるに足りる証拠はない上、本件全証拠によっても、本件において原告が制作した原告シナリオの内容を前提として、それを改変した上で漫画化することを許諾した場合に具体的にいくら支払われるのが相当であるのかは明らかではないから、被告が原告に支払った金員の額が不合理なものであると認めることはできない。 エ したがって、原告の前記各主張をいずれも採用することはできない。 (5)小括 以上によれば、仮に本件漫画が原告シナリオの二次的著作物であったとしても、原告は、被告に対し、原告シナリオを書き直した上で漫画化して本件漫画を制作し、かつ、本件漫画を書籍として頒布及び電子書籍として販売をすることを許諾したものと認められるから、被告が原告シナリオに係る原告の翻案権並びに本件漫画に係る原著作者の権利としての原告の複製権、譲渡権及び公衆送信権を侵害したとはいえない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の著作権侵害を理由とする損害賠償請求は理由がないというべきである。 2 争点1−2(著作者人格権侵害の成否)について (1)同一性保持権侵害について 前記1において説示したとおり、原告は、被告に対し、原告シナリオを書き直した上で漫画化することを許諾しており、かつ、本件漫画の展開、内容等も当該許諾の範囲内にあると認められる。 そうすると、仮に本件漫画が原告シナリオの二次的著作物であるとしても、原告は、被告が原告シナリオを改変して本件漫画を制作することについて同意していたというべきである。 したがって、被告が原告の同一性保持権を侵害したとはいえない。 (2)公表権侵害について 前記1において説示したとおり、原告は、被告に対し、本件漫画を書籍及び電子書籍として販売することを許諾しており、かつ、「DLsite」及び「FANZA」における本件漫画の販売並びに「とらのあな」における本件書籍の販売は、当該許諾の範囲内にあると認められる。 そうすると、仮に本件漫画が原告シナリオの二次的著作物であるとしても、原告は、「DLsite」及び「FANZA」における本件漫画の販売並びに「とらのあな」における本件書籍の販売との態様で本件漫画を公表することについて同意していたというべきである。 したがって、被告が原告の公表権を侵害したとはいえない。 (3)氏名表示権侵害について 前提事実(3)エ(ア)のとおり、本件漫画には、「原作者」として被告のペンネームである「Biii」が、「シナリオ協力」として原告のペンネームである「Ai」が、それぞれ表示されているところ、原告は、このような表示は、二次的著作物の原著作者名の表示とはいえないと主張する。 そこで検討すると、著作権法19条1項は、「著作者は、…その著作物の公衆への提供」又は「提示に際し、その…変名を著作者名として表示…する権利を有する」と規定しているものの、同法は、その具体的な態様について、特段規定していない。そして、原告シナリオ(甲11、13)と本件漫画(甲15、18)とを対比すると、本件漫画の大まかなストーリー展開や場面、出来事については原告シナリオと似通っているといえるものの、登場人物の台詞については具体的表現が異なるところが多いことが認められる(別紙著作物主張対比表参照)。 そうすると、仮に本件漫画が原告シナリオの二次的著作物であるとしても、本件漫画における原告の創作的表現の貢献の度合いに照らせば、「シナリオ協力」として原告の変名が表示されていることが、著作権法19条1項所定の変名としての著作者名の表示に当たらないということはできない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできず、被告が原告の氏名表示権を侵害したとはいえない。 (4)小括 前記(1)ないし(3)のとおり、被告が原告の著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)を侵害したとはいえない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求は理由がないというべきである。 3 争点2−1(本訴提起による不法行為の成否)について (1)判断枠組み 前記1及び2において説示したとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がない。 もっとも、法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁、最高裁平成7年(オ)第160号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号85頁、最高裁平成21年(受)第1539号同22年7月9日第二小法廷判決・裁判集民事234号207頁各参照)。 (2)検討 ア 前記1において説示したとおり、本件においては、原告が被告に原告シナリオを書き換えて漫画化することを許諾するに当たって、両者の間で書面による契約書が作成されておらず、明確に記録が残る方法としては本件メッセージのやり取りのみがされていたことが認められる。 イ そして、本件漫画は、原告が被告に原告シナリオを送付した後に制作され、本件漫画の大まかなストーリー展開や場面、出来事は原告シナリオと似通っているものである(前記2(3))ところ、本件メッセージ8の「ルート2の部分に相当するのをこちらで書き直して」との文言は、被告が原告シナリオ3を利用する趣旨とも解し得るものといえる。 また、許諾の範囲についても、本件メッセージのやり取りにおいては、「ルート2の部分に相当する」(本件メッセージ8)などとされ、「共通ルート」の取扱いが必ずしも明示されていたとはいえず、漫画の構成案(本件メッセージ9)も抽象的である上、漫画化後の作品をどのような態様及び販路で販売するのかについても明示されていないなど、そのやり取り中の文言の解釈に委ねられている部分が多かったといえる。 ウ 前記ア及びイの事情にかんがみれば、原告が、主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、本訴請求に係る訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとまで認めることはできない。 (3)小括 以上によれば、本訴提起が不法行為に当たるとの被告の主張を採用することはできず、当該不法行為を理由とする被告の損害賠償請求は理由がないというべきである。 4 争点3−1(名誉毀損の成否)について (1)判断枠組み 名誉毀損とは、人の品行、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価を低下させる行為であるところ、ある表現内容が名誉毀損に該当するというためには、表現行為が公然とされ、表現内容が不特定又は多数人に認識されるか、認識可能な状態に置かれる必要があると解される。 そして、ある表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものであるところ(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、当該表現が対象とする当該他人の実名等が明記されていなくても、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、当該表現の対象者を特定できれば足りると解するのが相当である。 また、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。一方、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号490頁、最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁、最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。 このように、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかによって、名誉毀損に係る不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、当該表現がいずれの範ちゅうに属するかを判別することが必要となるが、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。もっとも、法的な見解の表明それ自体は、それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても、そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず、意見ないし論評の表明に当たるものというべきである(最高裁平成15年(受)第1793号、同年(受)第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁)。 なお、本件の原告及び被告は、令和6年4月23日の第13回弁論準備手続期日において、名誉毀損に係る主張については、別紙名誉毀損主張対比表のとおりであり、同別紙の「相当性」に係る主張は、意見ないし論評の域を逸脱していないとの趣旨である旨を陳述し、摘示された事実又は意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があるか否かについては主張しないことを明らかにしている。 以上を前提に、本件における名誉毀損の成否について判断する。 (2)本件における一般の読者について 前記(1)のとおり、ある表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである。 そこで本件における一般の読者について検討すると、本件投稿がされたサーバー「DARAKENAI」には、クリエーター自身、クリエーターに作品制作を依頼したい者、作品に興味を持っている者など、同人誌掲載作品を含む各種の作品等を通じて互いに面識がある者が所属していたことが認められる(甲60、証人Fi、証人Gi)。 また、被告は、平成30年11月末頃、サーバー「だらけない部屋」において、本件漫画のシナリオや完成原稿を公開し(乙38ないし40、42、証人Gi)、同年12月16日、ツイッター上で、本件漫画が販売されることを告知していた(乙41、58)ものと認められる。さらに、前提事実(3)エ(ア)のとおり、被告は、同月17日から18日にかけて、ダウンロード販売サイト「DLsite」及び「FANZA」において、本件漫画の販売を、同月31日、通信販売サイト「とらのあな」において、本件書籍の販売を、それぞれ開始したところ、本件漫画には、「原作者」として被告のペンネームである「Biii」が、「シナリオ協力」として原告のペンネームである「Ai」が、それぞれ表示されていた。 そして、サーバー「だらけない部屋」と同「DARAKENAI」のいずれにも所属していた者もいた(乙42、証人Gi)と認められることを考慮すると、本件における一般の読者とは、サーバー「DARAKENAI」に所属し、同人誌掲載作品を含む各種の作品等を通じて互いに面識があるクリエーター等で、かつ、被告が原告にシナリオ制作を依頼したり、被告がダウンロード販売サイト等において漫画の販売をしたりしていることを知っている者というべきである。 (3)公然性の有無について サーバー「DARAKENAI」は、管理人及び同等の権限が付与された者によって招待されたメンバーのみが投稿、閲覧できるものであるところ、本件投稿がされた当時、当該サーバーに25人程度のメンバーが所属していたことが認められる(甲31、50、60、弁論の全趣旨)。当該サーバーの所属メンバー数である25人程度が多数に当たると断ずることはできないものの、当該サーバーに投稿された表現の意味内容が所属するメンバー以外の者に拡散しないように管理されていたと認めるに足りる証拠はないから、当該サーバーに投稿された表現の意味内容は、当該投稿に係る表現を閲覧したメンバーを介して、同人誌掲載作品を含む各種の作品等を通じて互いに面識がある不特定多数のクリエーター等に伝播する可能性があったというべきである。そして、前記(2)において認定した事実関係に照らせば、当該投稿に係る表現を閲覧したメンバーと親交のある当該クリエーター等は、当該メンバーから伝えられる意味内容を理解することができると考えられる。 したがって、本件投稿は公然とされたものと認められる。 (4)同定可能性の有無について ア 前提事実(5)の別紙名誉毀損主張対比表のとおり、本件表現中には、本件表現が対象とする者の実名も変名も明記されていない。 しかし、本件表現1@は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、原告の作品を漫画にしたいと依頼した者が、勝手に漫画化し、これを「DLsite」、「FANZA」及び「虎の穴」において「原作著作者」名義で販売しているとの意味であって、このように原告の作品を漫画にしたいと依頼し、これを漫画化したものを「DLsite」等において「原作著作者」名義で販売している者を、当該表現の対象としていると理解することができる。 イ 前記(2)及び前記アのとおり、本件表現1@の意味内容と被告による本件漫画及び本件書籍の販売の態様が一致していること、被告はサーバー「だらけない部屋」において本件漫画のシナリオや完成原稿を公開していたこと、サーバー「だらけない部屋」及び同「DARAKENAI」に所属する者の属性の共通性に加え、実際に、それらのサーバーに所属していたGiは、本件表現が対象とする者が被告であることを認識できたと証言していることを考慮すると、サーバー「DARAKENAI」を閲覧する者が通常有している知識を前提とし、本件表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件表現が対象とする者は被告であると特定できると認めるのが相当である。 (5)本件表現それぞれについての検討 ア 本件投稿1@について (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか a 本件表現1@のうち、「返事待たずに勝手に漫画にして、勝手にDLsiteとFANZAと虎の穴で『声掛けてきたヤツ』が『原作著作者』名義で販売してるんですよねー」の部分は、被告が、原告の許諾を得ることなく、原告の制作した著作物に基づいて漫画化し、「原作著作者」名義で販売したとの事実を前提として、この被告の行為が著作権侵害に該当するという法的見解を表明するものであり、意見ないし論評の表明に当たると認められる。 b 原告は、本件表現1@について、被告に対する不満を表明したものであると主張する。 しかし、本件表現1@においては、被告が、原告の許諾を得ることなく、原告の制作した著作物に基づいてこれを漫画化し、「原作著作者」名義で販売したとの具体的な事実経過を示した上で、このような行為が「勝手に」されたものであることが明記されている。このような表現について、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、単に当該事実経過を踏まえた不満を表明するものにとどまらず、当該事実経過を前提として、これが「勝手に」された、すなわち、原告の著作権が侵害されたとの法的見解を表明するものと理解されるといえる。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告の行為が著作権侵害に当たるとの意見ないし論評が被告の社会的評価を低下させるものに当たることは明らかである。 (ウ)違法性阻却事由の有無 他人の著作権を侵害しないようにすることは市民の誰もが遵守すべき事柄であって、その侵害行為については刑事罰も規定されていることからすると、本件表現1@は、公共の利害に関する事実に係るものであり、被告の行為の違法性を閲覧者に訴え、文化的所産である著作権の擁護を図ろうとしたものであって、本件投稿1@は、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 しかし、前記1において説示したとおり、被告による本件漫画の制作及び販売等は、原告の許諾の範囲内のものと認められるから、当該表現の前提となっている前記(ア)aの事実は、原告の許諾を得ることなく漫画化して「原作著作者」名義で販売したとの点において、真実であると認めることはできない。 したがって、意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったとは認められないから、違法性が阻却されるとはいえない。 (エ)まとめ 以上によれば、本件投稿1@は、被告の名誉を毀損するものと認められる。 イ 本件投稿1Aについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件表現1Aのうち、「しかも声掛けてきたヤツの言い分が『ボクの方が知名度高いからボクの名義で作品出しました!』という」の部分は、被告が制作した漫画において、被告が「原作著作者」であると明示したのは、原告より被告の方が知名度が高いからという理由であったと述べたという事実の摘示であると認められる。 これに対し、「意味わからないもんでねー」との部分は、上記事実を前提として、被告の述べた理由が理解できないものであったとの意見ないし論評の表明に当たると認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 著作物を公表する際に、「原作著作者」との肩書によりいずれの者を表示するのかについては、当事者間の協議の結果やその著作物の制作経緯等によって様々なやり方が存在し、当事者間の知名度の高低に基づいて決定される場合もあるものと考えられる。そうすると、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告が自らを「原作著作者」であると明示した理由が原告より被告の方が知名度が高いからと述べたとの一事をもって、被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 さらに、当事者間の協議や議論等において、相手方の主張や意見が納得できないことやその根拠が十分に理解できないことは往々にしてよくあることであるといえ、また、そのことについて抱く感想も様々であるといえる。したがって、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告の述べた理由が理解できないものであったとの意見ないし論評を表明することが被告の社会的評価を低下させるものであると認めることはできない。 (ウ)まとめ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件投稿1Aについて名誉毀損が成立するとはいえない。 ウ 本件投稿1Bについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件投稿1Bが本件投稿1@と同時刻に一体としてされたものであることからすると(前提事実(5))、本件表現1Bは、本件表現1@において摘示された、被告が原告の許諾を得ることなく原告の制作した著作物に基づいて漫画化して「原作著作者」名義で販売したとの事実を前提として、この被告の行為が著作権侵害に該当するという法的見解を表明するものであるから、意見ないし論評の表明に当たると認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 前記ア(イ)において説示したところと同様に、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件表現1Bが被告の社会的評価を低下させるものに当たることは明らかである。 (ウ)違法性阻却事由の有無 前記ア(ウ)において説示したところと同様に、本件表現1Bは、公共の利害に関する事実に係るものであり、被告の行為の違法性を閲覧者に訴え、文化的所産である著作権の擁護を図ろうとしたものであって、本件投稿1Bは、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 しかし、前記ア(ウ)のとおり、被告による本件漫画の制作及び販売等は、原告の許諾の範囲内のものと認められるから、本件表現1Bの前提となっている前記(ア)の事実は、原告の許諾を得ることなく漫画化し、「原作著作者」名義で販売したとの点において、真実であると認めることはできない。 したがって、意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったとは認められないから、違法性が阻却されるとはいえない。 (エ)まとめ 以上によれば、本件投稿1Bは、被告の名誉を毀損するものと認められる。 エ 本件投稿1Cについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件表現1Cのうち、「『そっちが文句言おうものなら弁護士立てて訴えますから!僕、顧問弁護士いるのでね、はっはっは』とか言って、」の部分は、被告が原告に対して文句があるなら顧問弁護士を立てて訴えると述べたとの事実の摘示であると認められる。 これに対し、「マイクじゃなくて弁護士チラつかせてるマジもんのやべぇヤツですわー」との部分は、上記事実を前提として、被告が社会通念を逸脱する対応をしているとの意見ないし論評の表明に当たると認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 当事者間に法的紛争が生じ、当事者本人同士で解決ができない場合に、弁護士に依頼して訴訟を提起することは、社会通念上正当な行為と考えられているといえる。そうすると、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件表現1Cのうち事実摘示に係る部分については、当該事実を摘示することが被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 また、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として本件表現1C全体を読めば、本件表現1Cの「マジもんのやべぇヤツ」との表現の部分は、被告が弁護士を立てて訴えると述べたことに対する原告による意見の表明に当たるといえるところ、上記のとおり、当事者本人同士で解決ができない場合に、弁護士に依頼して訴訟を提起することは、社会通念上正当な行為と考えられているといえるから、そのような事実を捉えて被告が社会通念を逸脱する対応をしているとの意見ないし論評を表明することが被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 (ウ)まとめ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件投稿1Cについて名誉毀損が成立するとはいえない。 オ 本件投稿1Dについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件表現1Dは、原告が被告に関して弁護士数人に相談したところ、原告の相談内容が現実的なものとは思われないとして懐疑的な態度を取られたり、弁護士では対応が難しい相談であると回答されたりしたとの事実を摘示し、この事実を前提として、現実離れした事態が生じているように思われるとの意見ないし論評を表明するものと認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 法的紛争の中には、当事者におけるわずかな認識の違いに起因して、当初の想定を超えた多数の争点を内包する紛争に発展する例も少なからず存在するものといえる。そうすると、原告の相談内容が現実的なものとは思われないとして懐疑的な態度を取られたり、弁護士では対応が難しい相談であると回答されたりしたとの事実摘示が、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 そして、この事実を前提として、現実離れした事態が生じているように思われるとの意見ないし論評を表明したことについても、原告がこのような感想を抱いたとの意見ないし論評が、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 (ウ)まとめ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件投稿1Dについて名誉毀損が成立するとはいえない。 カ 本件投稿1Eについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件投稿1Eは、本件投稿1@の18分後にされたものであって、その間にされた各投稿も、本件投稿1@を踏まえたものであると認められるから(前提事実(5)、乙6の1)、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件表現1Eは、本件表現1@ないしDと一連一体のものと理解できる。そうすると、本件表現1Eは、原告が訴訟提起を準備しているとの事実を摘示するとともに、本件表現1@において摘示された、被告が原告の許諾を得ることなく原告の制作した著作物に基づいて漫画化して「原作著作者」名義で販売したとの事実を前提として、被告による著作権侵害の被害額が400万円を超えるという法的見解を表明するものであり、意見ないし論評の表明に当たると認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 原告が訴訟提起を準備しているとの事実摘示については、当事者本人同士で解決ができない場合に訴訟を提起することは、社会通念上正当な行為と考えられているといえるから、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、そのような事実の摘示が被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 これに対し、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、被告の行為が、被害額が400万円を超える程度の著作権侵害に当たるとの意見ないし論評が被告の社会的評価を低下させるものに当たることは明らかである。 (ウ)違法性阻却事由の有無 前記ア(ウ)において説示したところと同様に、本件表現1Eは、公共の利害に関する事実に係るものであり、被告の行為の違法性を閲覧者に訴え、文化的所産である著作権の擁護を図ろうとしたものであって、本件投稿1Eは、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 しかし、前記ア(ウ)のとおり、被告による本件漫画の制作及び販売等は、原告の許諾の範囲内のものと認められるから、本件表現1Eの前提となっている前記(ア)の事実は、原告の許諾を得ることなく漫画化して「原作著作者」名義で販売したとの点において、真実であると認めることはできない。 したがって、意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったとは認められないから、違法性が阻却されるとはいえない。 (エ)まとめ 以上によれば、本件投稿1Eは、被告の名誉を毀損するものと認められる。 キ 本件投稿2@及びAについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 前提事実(2)及び(4)並びに前記(2)において認定した経緯及びその経緯を本件における一般の読者が認識していた可能性があることを前提にすれば、一連のものといえる本件表現2@及びAは、被告による令和2年11月19日付けの投稿を受け、原告が制作したアプリ用シナリオに関連するCG集を被告が制作及び販売したとの事実を前提として、この被告の行為が著作権侵害に当たるという法的見解を表明するものであり、意見ないし論評の表明に当たると認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告の行為が著作権侵害に当たるとの意見ないし論評が、被告の社会的評価を低下させるものに当たることは明らかである。 (ウ)違法性阻却事由の有無 前記ア(ウ)において説示したところと同様に、本件表現2@及びAは、公共の利害に関する事実に係るものであり、被告の行為の違法性を閲覧者に訴え、文化的所産である著作権の擁護を図ろうとしたものであって、本件投稿2@及びAは、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 そして、前提事実(2)及び(4)のとおり、原告が制作したアプリ用シナリオに関連するCG集を被告が制作及び販売したのであるから、意見ないし論評の前提としている事実は重要な部分について真実であると認められる。また、本件表現2@及びAの内容に照らし、これが被告に対する人身攻撃に及ぶものとまではいえず、本件全証拠によっても当該表現について意見ないし論評の域を逸脱したものであることをうかがわせるような事実は認められないから、意見ないし論評としての域を逸脱したものでないといえる。 したがって、本件投稿2@及びAは違法性を欠くものというべきである。 (エ)まとめ 以上によれば、本件投稿2@及びAについて名誉毀損が成立するとはいえない。 ク 本件投稿2Bについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 証拠(乙29)によれば、「同人ゴロ」とは、人気のある同人作家らに呼びかけて原稿を集めて制作した同人誌を売りさばいた後に、代金を同人作家らに支払わないまま逃亡したり、印刷所に代金後払いで同人誌を制作してもらい、その納品後に姿をくらましたりなど、同人誌制作及び販売に関して不当な方法で利益を得ている者といった意味の語であると認められる。そして、前記(2)のとおり、本件における一般の読者は、サーバー「DARAKENAI」に所属し、同人誌掲載作品を含む各種の作品等を通じて互いに面識があるクリエーター等であるところ、「同人ゴロ」との語は、インターネット上の複数の用語辞典において紹介されていること(乙29)にかんがみれば、当該一般の読者は、「同人ゴロ」が上記の意味を有する語であることを理解していると認められる。 そして、本件投稿2Bが本件投稿2Aの1分後にされたものであることを考慮すると、本件表現2Bは、原告が制作したアプリ用シナリオに関連するCG集を被告が制作及び販売したとの事実を前提として、被告が同人誌の制作及び販売に当たって不当な方法で利益を得ているとの物事の善悪について批評するものといえるから、意見ないし論評の表明に当たると認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告が同人誌の制作及び販売に当たって不当な方法で利益を得ているとの意見ないし論評が、被告の社会的評価を低下させるものに当たることは明らかである。 (ウ)違法性阻却事由の有無 前記ア(ウ)において説示したところと同様に、著作権者に正当な対価を支払うことなく著作物を利用する行為は、著作物の公平な利用に係る秩序を害するものであることからすると、本件表現2Bは、公共の利害に関する事実に係るものであり、被告の行為の違法性を閲覧者に訴え、文化的所産である著作権の擁護を図ろうとしたものであって、本件投稿2Bは、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 そして、前提事実(2)及び(4)のとおり、原告が制作したアプリ用シナリオに関連するCG集を被告が制作及び販売したのであるから、意見ないし論評の前提としている事実は重要な部分について真実であると認められる。また、「同人ゴロ」との表現はやや過激な印象を与えるものの、冗談の中でも使う余地のある語であると認められること(乙29)からすると、本件表現2Bが被告に対する人身攻撃に及ぶものとまではいえず、本件全証拠によっても意見ないし論評の域を逸脱していることをうかがわせるような事実を認めることはできないから、意見ないし論評としての域を逸脱したものでないといえる。 したがって、本件投稿2Bは違法性を欠くものというべきである。 (エ)まとめ 以上によれば、本件投稿2Bについて名誉毀損が成立するとはいえない。 ケ 本件投稿2C及びDについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件表現2C及びDは、原告が告訴状の提出に向けて準備をしているとの事実を摘示するものと認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか ある者が告訴されたとしても、告訴人において、被告訴人とされた者の行為を正確に把握し、かつ、その行為の刑罰法規該当性を適切に評価して告訴しているとは限らないから、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、告訴状に向けて準備をしているとの事実が摘示されたからといって、被告訴人とされた者が当然に罪を犯したものと理解するとはいえない。 したがって、原告が告訴状の提出に向けて準備をしているとの事実を摘示することが、被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 (ウ)まとめ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件投稿2C及びDについて名誉毀損が成立するとはいえない。 コ 本件投稿2E及びFについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 原告は、本件表現2E及びFについて、被告は、頭がおかしな人物であり、破落戸やキチガイのような行動をとる者であるとの事実を摘示するものであると主張する。 しかし、これらの表現の中には、通常の人物や通常の行動についての具体的な基準は示されていないから、被告の人物や行動がどのようなものであるかという事実を摘示したものとは読み取れず、むしろ、本件投稿2@から本件投稿2E及びFまでの投稿は、約30分の間にされたものであって、本件表現2@ないしFは、いずれも原告が制作したアプリ用シナリオに関連するCG集を被告が制作及び販売したとの事実を前提とした一体のものと理解できるから、本件表現2E及びFは、本件表現2@ないしDに記載された被告の行動に係る事実を前提として、その事実を評価するような体裁になっているといえる。このような表現内容や体裁に照らし、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件表現2E及びFは、いずれも、被告の行動は原告が理解することができないものであるとの原告の意見ないし論評の表明に当たると認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 本件表現2Eは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、著作者名を偽っていた場合には、頭を疑うと読むことができ、仮定が入った表現であるといえるから、そのような仮定表現を含む意見ないし論評について、直ちに被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 また、本件表現2Fは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告が過去に電子掲示板等に投稿した内容を前提とした意見ないし論評であると理解できるところ、本件投稿2を一連の投稿と解したとしても、被告の過去の投稿内容についての具体的な言及は存在しないから、本件表現2Fに「マジでヤベェやつ」という原告の理解を超えていて関わりを持ちたくないような人物と評するような表現があるとしても、前提となる言動が明らかでない個人の感想が、被告の社会的評価を低下させるものに当たると認めることはできない。 (ウ)まとめ 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件投稿2E及びFについて名誉毀損が成立するとはいえない。 サ 本件投稿2GないしIについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか a 本件表現2GないしIは、被告が、CG作画の発注に関する原告の提案を全く受け入れなかった上、当該発注を間違えたにもかかわらず、原告にプロットの修正を要求し、更に原告に支払うべき修正費用を支払っていないとの事実を摘示するものと認められる。 b 原告は、本件表現2GないしIについて、原告の提案を被告が拒否した事実を前提に被告に対する不満を表明したものであると主張する。 しかし、本件表現2GないしIには、括弧で括る形で具体的なやり取りが記載されていることにかんがみれば、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、原告の提案を被告が拒否したことを踏まえた単なる不満の表明とは理解されず、主として原告と被告との間で本件表現2GないしIに記載されているような具体的なやり取りがあったとの事実が摘示されていると理解されるものといえる。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 前記(ア)aの事実は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告が作品の制作を依頼したクリエーターに対して自身の過誤によって生じた報酬の増額分を支払わないとの印象を与えるものであるから、被告の社会的評価を低下させるものと認められる。 (ウ)違法性阻却事由の有無 a 被告が多くの漫画家やCG作家などのクリエーターと請負契約を締結するなどして同人誌を制作及び販売していること(前提事実(1)イ)からすると、本件表現2GないしIは、公共の利害に関する事実に係るものであると認められる。また、被告と契約しようとするクリエーターに対し、報酬支払の実情を明らかにしようとしたものであるといえるから、本件投稿2GないしIは、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 b 次に、摘示された事実がその重要な部分について真実であるか否かについて検討する。 証拠(乙3)によれば、原告は、登場人物が制服を着用した状態にあることを前提としてアプリ用シナリオを制作していたところ、被告が作画を発注し、納品されたCGでは制服を脱いだ状態となっており、当該シナリオとCGとの間に齟齬があったため、原告が当該シナリオを修正したことが認められる。しかし、原告が制作したプロット(本件では、アプリ用シナリオの基となるストーリーの要約を企画書の形式に落とし込んだもの。前提事実(2)ア参照。甲30)においては、当該場面に関し、「胸を露出した状態で…」と記載されており、むしろ納品されたCGと整合的といえる。確かに、証拠(乙3)によれば、被告は、平成31年2月12日、原告に対し、「確認甘くてすいません」という内容の投稿をしたことが認められるものの、被告においてCG作画の発注に過誤があったと認めるに足りる的確な証拠はない。 また、原告と被告との間で、被告が原告に対して上記のシナリオ修正に伴う報酬を支払うことが合意されたと認めるに足りる証拠はなく、このほかに被告が原告に当該報酬の支払債務を負っていたと認めるに足りる証拠もない。かえって、前提事実(2)及び証拠(乙3)によれば、原告は、修正後のシナリオを送付した後、被告から提示された報酬をそのまま受領していることが認められ、その一方で、原告が被告の提示した報酬額に異議を述べていたと認めるに足りる証拠はない。 これらの事情に照らせば、被告が原告に支払うべき修正費用を支払っていないとの事実が真実であることの立証がされているとはいえない。 c そうすると、前記(ア)aの事実の重要な部分について真実であることの証明があったとは認められないから、違法性が阻却されるとはいえない。 (エ)まとめ したがって、本件投稿2GないしIは、被告の名誉を毀損するものと認められる。 シ 本件投稿2Jについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件表現2Jは、本件表現2GないしIを前提として、被告がCG作画の発注を間違えたにもかかわらず、原告にシナリオの修正を要求し、更に原告に支払うべき修正費用を支払っていないとの事実を再度摘示し、加えて、被告が作家に十分以上の報酬を支払っている旨の発言をしているとの事実を摘示するものと認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 前記(ア)の事実は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告は、作品の制作を依頼したクリエーターに対して平均的な水準以上の報酬を支払っていると公言しているのに、実際には、被告の過誤によって生じた報酬の増額分を支払わないとの印象を与えるものであるから、被告の社会的評価を低下させるものと認められる。 (ウ)違法性阻却事由の有無 a 前記サ(ウ)aにおいて説示したところと同様に、本件表現2Jは、公共の利害に関する事実に係るものであり、かつ、本件投稿2Jは、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 b しかし、前記サ(ウ)bのとおり、被告においてCG作画の発注に過誤があったと認めるに足りる的確な証拠はないし、被告が原告に支払うべき修正費用を支払っていないとの事実が真実であることの立証がされているともいえない。 c そうすると、前記(ア)の事実の重要な部分について真実であることの証明があったとは認められないから、違法性が阻却されるとはいえない。 (エ)まとめ したがって、本件投稿2Jは、被告の名誉を毀損するものと認められる。 ス 本件投稿2K及びLについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件表現2K及びLは、被告が8か月近くも報酬の支払を怠っていたのに支払後には先払いしたと主張しているとの事実及び被告には原告に対する100万円以上の未払債務があるとの事実をそれぞれ摘示するものと認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 前記(ア)の各事実は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告は、作品の制作を依頼したクリエーターに対する報酬について、約定の金額を支払わず、支払期限を遵守しないとの印象を与えるものといえるから、被告の社会的評価を低下させるものと認められる。 (ウ)違法性阻却事由の有無 前記サ(ウ)aにおいて説示したところと同様に、本件表現2K及びLは、公共の利害に関する事実に係るものであり、かつ、本件投稿2K及びLは、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 しかし、本件全証拠によっても、被告が約定の支払期限から8か月も支払を怠っていたとの事実についても、被告には原告に対する100万円以上の未払債務があるとの事実についても、これが真実であることの証明があったとは認められない。 したがって、違法性が阻却されるとはいえない。 (エ)まとめ したがって、本件投稿2K及びLは、被告の名誉を毀損するものと認められる。 セ 本件投稿2M及びNについて (ア)事実を摘示するものか意見ないし論評の表明にとどまるものであるか 本件表現2M及びNは、被告が自分の発注誤りを認めず、原告が当該発注誤りによって生じる損失を回避するために5000文字多く書かざるを得なかったにもかかわらず、そのことについて被告は原告が予め決められていた規定を超過したと主張しているとの事実を摘示するとともに、当該事実を前提として、そのような被告の主張がバカすぎて笑えないとの意見ないし論評を表明するものと認められる。 (イ)被告の社会的評価を低下させるものか 前記(ア)の事実は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告は、自らの過誤を認めようとしない上、その過誤によって被告自身に生じる損失を回避するために、作品の制作を依頼したクリエーターが作業量を増やさざるを得ない事態となったにもかかわらず、クリエーターの方に問題があるかのような主張をする人物であるとの印象を与えるものであるから、被告の社会的評価を低下させるものと認められる。 これに対し、被告のこの主張がバカすぎて笑えないとの意見ないし論評の表明は、当該主張を聞いた原告の感想を述べたにすぎないと解する余地があるから、被告の社会的評価を低下させるものとまで認めることはできない。 (ウ)違法性阻却事由の有無 a 前記サ(ウ)aにおいて説示したところと同様に、本件表現2M及びNは、公共の利害に関する事実に係るものであり、かつ、本件投稿2M及びNは、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。 b 次に、証拠(乙3)によれば、原告が制作中のシナリオと、被告が作画を発注し、納品されたCGとの間に齟齬があったため、原告がシナリオを修正したことが認められる。 しかし、前記サ(ウ)bのとおり、被告においてCG作画の発注に過誤があったと認めるに足りる的確な証拠はない。 c そうすると、前記(ア)の事実の重要な部分について真実であることの証明があったとは認められないから、違法性が阻却されるとはいえない。 (エ)まとめ したがって、本件投稿2M及びNは、被告の名誉を毀損するものと認められる。 (6)小括 以上によれば、本件投稿1@、B及びE並びに本件投稿2GないしNは、被告の名誉を毀損する違法な行為と認められる。 5 争点3−2(名誉感情侵害の成否)について 人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価である名誉感情を侵害する行為については、それが社会生活上許される限度を超えた侮辱行為と認められる場合に限り、人格権ないし法的保護に値する人格的利益を侵害するものとして、不法行為が成立すると解される。 前提事実(5)及び前記4のとおり、本件投稿1@、B及びE並びに本件投稿2GないしNは、被告の名誉を毀損する行為と認められる上、本件表現には、「マジもんのやべぇヤツ」(本件表現1C)、「コイツマジでヤベェやつじゃん」(同2F)、「因みにリライト費用踏み倒され中www」(同2I)、「胸張って言い切れる神経が分からん_(:3」∠)_」(同2J)、「胸張って言ってましたけどね(ハナホジ」(同2K)、「流石にバカすぎて笑えないわ」(同2N)などと、被告を小馬鹿にするかのような表現が散見されるものの、本件全証拠によっても、これらの表現が意味するところは必ずしも明らかとはいえず、そうすると、これらの表現を伴った本件投稿が社会生活上許される限度を超えた侮辱行為に当たるとまで認めることはできないというべきである。 したがって、本件投稿が被告の名誉感情を侵害する違法な行為に当たると認めることはできない。 6 争点3−3(原告の故意又は過失の有無)について 原告は、本件投稿1@、B及びE並びに本件投稿2GないしNをするに当たり、被告の名誉を毀損しないよう、事実関係を調査した上、当該事実関係に沿った適切な表現を用いるべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠ったものといわざるを得ないから、原告には少なくとも過失があったと認められる。 7 争点3−4(被告の損害の有無及びその額)について (1)慰謝料について 本件投稿がされたサーバー「DARAKENAI」の所属メンバーは25人程度にとどまり、当該メンバーと親交のあるクリエーター等に本件表現の意味内容が伝えられる可能性があるとしても、これが広範に伝播する可能性が高かったとまではいえないことのほか、本件投稿1@、B及びE並びに本件投稿2GないしNがされた回数、本件表現1@、B及びE並びに本件表現2GないしNの内容、分量などを考慮すると、被告に生じた精神的損害を慰謝するに足りる額は10万円と認められる。 (2)相当な弁護士費用について 原告の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は1万円と認められる。 第5 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく本訴請求は理由がないから、これらをいずれも棄却し、被告の反訴請求のうち、名誉毀損の不法行為に基づく請求は主文の限度で理由があるから、その限度で同請求を認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 塚田久美子 (別紙)漫画目録 題号 サキュバス♀に強制転職させられた俺♂ 漫画 Ei 原作 Biii シナリオ協力 Ai 企画協力 あむぁいおかし製作所 以上 (別紙著作物主張対比表省略) (別紙)メッセージ一覧表
(別紙)名誉毀損主張対比表 1 投稿1
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