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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件Y
【年月日】令和6年9月26日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70256号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和6年7月23日)

判決
原告 株式会社グルーヴ・ラボ
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 ビッグローブ株式会社
同訴訟代理人弁護士 ●(はしごたか)橋利昌
同 太田絢子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、別紙侵害著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを介してファイル共有ネットワークに本件動画に係るファイルがアップロードされたことにより、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる。なお、書証の番号は特に断らない限り枝番号を含む(以下同じ。)。)
(1)当事者
ア 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売等を業とする株式会社である。(甲18の3、弁論の全趣旨)
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件動画の著作権者
 本件動画は「映画の著作物」(著作権法2条3項)に当たるといえるところ、原告代表者及び原告従業員は、本件動画の企画、制作等を行い、その全体的形成に創作的に寄与した。このため、原告代表者及び原告従業員は、その著作者に当たるといってよい(著作権法16条)。
 また、原告は、本件動画の製作に発意及び責任を有する者であって「映画製作者」(著作権法2条1項10号)に当たる。原告代表者及び原告従業員は、そのような原告に対し、本件動画の製作に参加することを約束した。
 したがって、本件動画の著作権は、映画製作者である原告に帰属する(著作権法29条1項)。
 (以上につき、甲2の42、2の43、18、19、弁論の全趣旨)
(3)「BitTorrent」の仕組み等
 「BitTorrent」(以下「ビットトレント」という。)とは、いわゆるP2P形式のネットワークシステムである。ビットトレントにおいては、ユーザがファイルをダウンロードする際、ファイルの情報が記載された「torrentファイル」(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクライアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、ビットトレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完成する。
 ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイルをダウンロードし、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」という。)から、当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースのダウンロードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースのダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを有することになり、それ以降はピースのアップロードのみを行うこととなる。
 (以上につき、甲4〜6、9)
(4)本件調査
 原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレントにおける本件動画に係るファイルのアップロードの有無等についての調査(以下「本件調査」という。)を委託した。本件調査会社は、「●(ギリシア文字。ミュー)torrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」という。)を使用して本件調査を行い、原告に対し、本件動画に係るファイル(ピース)がアップロードされたこと、そのアップロードの通信に別紙発信者情報目録記載の各IPアドレスが使用されていることなどの調査結果を報告した。(甲1、2、4、5、9、23、33、35)
(5)本件発信者情報の保有
 被告は、本件発信者情報を保有している。
2 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、この点に関する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)
 本件調査会社は、調査対象となる本件動画をインデックスサイトで検索して、トレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動して、本件動画に係るファイルのダウンロードを行った。本件クライアントソフトは、ビットトレントを使用しているピアのIPアドレス等の情報を表示する機能を有するところ、別紙発信者情報目録記載の各日時(以下「本件各日時」という。)に上記ダウンロードに対応するアップロードを行ったピアが接続した各IPアドレスは、同目録記載のとおりであった。このことは、ダウンロード中の時点である本件各日時における本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショット(甲1の42及び甲1の43。以下、併せて「本件実行画面」という。)に、「ダウンロード中」の文字やIPアドレスが表示されていることからうかがわれる。また、上記によりダウンロードされた動画は、本件動画と同一内容であった。
 そうすると、別紙発信者情報目録記載の各日時(本件各日時)及びIPアドレス等により特定される氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、ビットトレントを用いて自ら又は他のユーザと共同して、本件各日時に、本件調査会社に対して本件動画に係るファイル(ピース)を自動公衆送信したものといえる。
 したがって、本件発信者の行為により原告の本件動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
(被告の主張)
(1)ソフトウェアがIPアドレスや通信の接続の状態を即時的に表示しているかは、機器の性能や当該ソフトウェアの仕様等に依存するものであって、本件クライアントソフトが即時的に当該時点の通信の状態を正しく表示しているのか不明である。
(2)本件発信者を含む複数のピアのいずれかから自動公衆送信がなされた事実があるとしても、原告提出の証拠によっては、本件発信者自身が何らかの情報を本件調査会社の端末に送信したこと、それが本件動画に係る著作権侵害を確認可能な動画の一部であることは明らかでない。
(3)本件発信者は同一人であり、本件各日時における通信は同じファイルのダウンロードであるところ、本件実行画面によれば、ほぼ7日が経過しながらその進捗の度合いとして全く同じ95.0%が表示されている。このため、本件各日時において、本件発信者からのダウンロード(自動公衆送信)がなされていたとは判断できない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1)前提事実、証拠(甲1、2、4〜9、11、12、14、15、17、33〜36、41、42)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件クライアントソフトは、ビットトレントの制作会社により開発され、維持されており、ビットトレントのプロトコル定義で設定されたガイドラインを遵守し、これに準拠している。本件クライアントソフトは、ビットトレントを利用しやすくするために、トレントファイルを読み込み、ピースをダウンロードすると共に、ダウンロードに対応するアップロードをするピアのIPアドレス等の情報を表示する機能を有する。
イ 本件調査会社は、調査対象となる本件動画の品番を確認し、これをインデックスサイトの検索フォームに入力して検索し、本件動画に係るトレントファイルをダウンロードした。その上で、本件クライアントソフトを起動して上記トレントファイルを読み込み、本件動画に係るピースを有するピアからピースのダウンロードを開始した。その際、本件クライアントソフトの実行画面には、ダウンロードに対応するアップロードを行ったピアのIPアドレスが表示された。本件調査会社は、ダウンロード進行中の時点である本件各日時に、本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショット(本件実行画面)を撮影し、上記IPアドレスを保全した。上記アップロードを行ったピアのIPアドレスは別紙発信者情報目録記載のとおりであった。こうしてダウンロードが完了したところ、ダウンロードされた完全な状態のファイルと本件動画とは、同一の内容であった。
ウ 本件発信者は、同一人である。
(2)検討
 本件調査会社による調査及びこれに使用した本件クライアントソフトそれ自体の信頼性については、その点に疑義を抱くべき具体的な事情が見当たらないことなどに鑑みると、十分に信頼し得るものといってよい。
 そうすると、前記前提事実及び認定事実によれば、別紙発信者情報目録記載の各日時(本件各日時)に同目録記載の各IPアドレスを割り当てられた本件発信者は、ビットトレントを通じ、本件調査会社の求めるところにより、本件動画に係るファイル(ピース)をアップロードしたということができる。したがって、本件発信者は、本件動画に係るファイルの全部又は一部を公衆からの求めに応じ自動公衆送信したものと認められる。
 また、弁論の全趣旨によれば、原告はこれを許諾していないものとみられると共に、その他の違法性阻却事由の存在もうかがわれない。
 したがって、本件発信者の上記行為により、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかといってよい。
(3)被告の主張について
ア 被告は、本件クライアントソフトによるIPアドレスその他の通信状態の表示の正確性に疑義がある旨や、複数のピアのうち本件発信者から本件動画の著作権侵害を構成する情報の送信があったか明らかでない旨、本件各日時において現にダウンロードがなされていたとは判断できない旨を主張する。
イ しかし、認定事実、証拠(甲1、5、9、12)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレントのクライアントソフトである本件クライアントソフトは、ビットトレントを利用しているピアのIPアドレス等を機械的に表示するものであり、その表示の正確性に疑義を抱くべき具体的な事情はうかがわれない。これらの事情を踏まえると、本件実行画面におけるIPアドレス等の表示は信頼するに足りるものといえる。
 また、証拠(甲1の42、1の43、9、14、23、38)によれば、本件実行画面には、本件発信者との間の通信の状態について、いずれも、ダウンロードが停止している状態を示すものとみられる「停止」ではなく、ダウンロード時の通信を示すものとみられる「ダウンロード中」のステータス表示がされていること、ダウンロードやアップロードの進行を示す「下り速度」や「上り速度」は表示されていないものの、一般にこれらの表示がなくてもダウンロードは進むことが、それぞれ認められる。加えて、前記認定のとおり、本件調査会社は、本件動画に係るファイルのダウンロードを開始し、ダウンロード進行中のある時点においてアップロードを行うピアのIPアドレス等の表示を保全し(本件実行画面)、その後ダウンロードを完了している。これらの事情を併せ考慮すれば、約7日の間隔がある本件各日時において、本件実行画面の表示上、本件発信者との間の通信に係るダウンロード進行割合がいずれも95.0%であるとしても、本件各日時における通信は、いずれも、本件調査会社が本件発信者から本件動画に係るファイル(ピース)をダウンロードした時の通信と認めることができる。
ウ 以上より、被告の主張はいずれも採用できない。
2 その他の要件について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、本件動画に係る著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求等をする準備をしていると認められることから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があるといえる。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 細井直彰
 裁判官 志摩祐介


(別紙侵害著作物目録省略)

別紙 発信者情報目録
 項番42及び43について、各本件IPアドレスを、各本件日時に割り当てられていた者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス(以下省略)
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