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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件AL 【年月日】令和6年8月27日 東京地裁 令和5年(ワ)第70069号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年6月18日) 判決 原告 有限会社プレステージ 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同訴訟復代理人弁護士 馬場伸城 被告 KDDI株式会社 同訴訟代理人弁護士 山本一生 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を複製して作成した動画ファイルを、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態とした上で、上記動画ファイルを公衆からの求めに応じ自動的に送信したことによって、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償請求のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) (1)当事者 原告は、アダルトビデオの制作及び販売等を目的とする有限会社である(甲1、弁論の全趣旨)。 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であり、利用者に向けて広くインターネット接続サービスを提供しているプロバイダである。 (2)ビットトレントの仕組み(甲2、4、5の2、15、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコルである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末。「クライアント」とも呼ばれる。)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする者は、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアント用のソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。 このような手順でピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認するための通信を行い、当該他のピアがこれに応答することを確認した上(以下、この当該他のピアとの通信を「ハンドシェイクの通信」という。)、当該他のピアが当該ピースを保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当該ピースの転送(アップロード)を受ける(当該ピースを欲するピアにとってはダウンロード。以下、当該ピースの転送に係る通信を「ダウンロードの通信」という。)。また、上記のピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送(アップロード)する。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。 ウ ハンドシェイクの通信は、次の各通信から構成されている。 HANDSHAKE 相手の端末がビットトレントネットワークに参加しているピアであることを確認する。 ACK 他のピアとの接続が完了したことを通知する。 BITFIELD 他のピアが、共有しているファイルを構成するピースのうち、いずれのピースを保有しているかについての情報を交換する。 INTERESTED 他のピアに対し、自身がダウンロードを希望するピースを当該他のピアが保有していることを通知する。 UNCHOKE 「INTERESTED」の通知を受けたピアから、当該通知をしたピアに対し、当該ピースのアップロードが可能であることを通知する。 エ ダウンロードの通信は、次の各通信から構成されている。 REQUEST 「UNCHOKE」の通知をしたピアに対し、当該ピースのアップロードを要求する。 PIECE 「UNCHOKE」の通知をしたピアが、「REQUEST」をしたピアに対し当該ピースをアップロードする。このとき、ピースは、一つ16KBサイズの複数のサブピースファイルに分割されてアップロードされ、サブピースファイルが高速かつ連続で送信されることにより、一つのピースファイルが完成する。 HAVE 「REQUEST」をしたピアが、当該ピースをダウンロードしたかの確認をする。 (3)株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲3、5の2、6の2、7、15、17、24から26、弁論の全趣旨) 本件調査会社は、別紙動画目録記載の各IPアドレス、各ポート番号及び各発信時刻を以下の方法により特定した。 ア 本件調査会社担当者は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件動画の作品名、品番、ファイル名等に基づいて、本件動画と同一であることが疑われるファイルのハッシュ値を探索し、当該ハッシュ値を監視対象とした。 イ 前記アの監視に用いられたソフトウェア(以下「本件監視ソフトウェア」という。)が、トラッカーに接続し、監視対象である前記アのハッシュ値を有する特定のファイル(以下「本件ファイル」という。)を共有しているピアに関する情報のリストを要求したところ、トラッカーから当該ピアのIPアドレス及びポート番号の情報のリストが返信された。 ウ 本件監視ソフトウェアは、トラッカーからピアの情報のリストが返信された後、各ピアとの間でハンドシェイクの通信を行い、各ピアが応答することを確認し、実際に、各ピアから本件ファイルの一部であるピースを受信した。このとき、本件監視ソフトウェアは、ダウンロードされたファイルの送信元となったピアのIPアドレス、ファイルの送信元となったピアのポート番号、ダウンロードされたファイルのハッシュ値、ピースの情報、ピアからピースの転送を受けた際のPIECE通信の開始時点のタイムスタンプを自動的にデータベースに記録するとともに、受信した当該ピースをハードディスクに保存した。 エ 本件監視ソフトウェアは、令和4年12月3日までは、ハンドシェイクの通信を構成するUNCHOKE通信が行われた時刻を記録しており、各ピアから実際にピースをダウンロードしていなかったが、同月4日に一部機能を追加し、以降は各ピアの共有している本件ファイルの一部であるピースをダウンロードしている。 (4)本件調査会社がダウンロードした各ピースに係る再生試験(甲19、20、22、25、27、28) ア 本件調査会社は、ビットトレントネットワークを介して本件ファイルを取得し、本件ファイルの複製データから、前記(3)ウ記載の各ピアとの間のPIECE通信の際にデータベースに記録されたピースの情報に基づいて、ダウンロードした各ピースに相当する部分を除くmdat(映像、音声等のデータそのものが格納されている部分)の情報を削除した上で、当該本件ファイルの複製データが再生可能であることを確認した(以下「本件再生試験」という。)。 イ 別紙動画目録記載の各発信時刻並びに各IPアドレス及び各ポート番号は、前記(3)イ記載のリストに記載され、かつ、本件再生試験により、本件動画の一部を再生することができたピースの受信に係る情報である。 (5)被告における本件各発信者情報の保有状況 被告は、本件各発信者情報を保有している。 3 争点 (1)特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か(争点1) (2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか(争点2) (3)本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か(争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について (原告の主張) (1)原告に本件動画の著作権が帰属すること 本件動画を収録した商品のパッケージには、原告の商号が著作者名として通常の方法により表示されている。また、本件動画は、原告の従業員だった者が原告の発意に基づき職務上作成したもので、原告の著作の名義の下で公表されている。したがって、原告は、著作権法14条1項により本件動画の著作者と推定されるか又は同法15条1項により本件動画の著作者とされるから、本件動画の著作権は原告に帰属する。 (2)本件各氏名不詳者が共有していたファイルは本件動画を複製して作成されたものであること ビットトレントでは、共有されているファイルを特定するために、ファイル毎に生成される英数字の羅列であるハッシュ値を利用している。本件各氏名不詳者は、ビットトレントネットワークにおいて、ハッシュ値により特定されるファイル(本件ファイル)をアップロードできる状態にしていた。 本件動画と本件ファイルを再生して表示される動画とを比較すると、本件ファイルは、本件動画を複製して作成されたものであることが明らかである。 (3)本件各氏名不詳者により本件動画が自動公衆送信されたこと ビットトレントネットワークにおいて共有されているファイルは、公衆の用に供されている電気通信回線であるインターネットに接続された他の者の管理するパソコン等の記録媒体に記録されたものであり、不特定のその他の者の求めに応じて自動的に送信される。 本件監視ソフトウェアは、実際に、本件動画目録記載の各IPアドレス等により特定される本件各氏名不詳者の管理する他のピアから、同各日時において、本件ファイルの一部であるピースをダウンロードした。本件調査会社がダウンロードした当該ピースにより本件動画の一部を再生できることは、本件調査会社が行った本件再生試験によって確認されており、当該ピースは、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものである。 したがって、本件各氏名不詳者がビットトレントネットワークを通じて本件ファイルを構成するピースを本件調査会社の管理する端末に向けてアップロードした行為は、自動公衆送信に当たり、本件各氏名不詳者は、自ら又は他の本件各氏名不詳者と共同して、原告の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したと認められる。 (4)本件各氏名不詳者が本件動画を送信可能化したこと ア ビットトレントネットワークにおける送信可能化について (ア) 著作権法2条1項9号の5イ所定の行為による送信可能化 トラッカーは、不特定多数のピアからの求めに応じて、ピアのリストを提供しており、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置」といえる。また、特定のファイルをアップロードしようとするピアは、トラッカーに対し、自らが所持するファイル情報、当該ピアのIPアドレス等を通知し、これらの情報はトラッカーに記録されることになるが、この行為は「自動公衆送信装置」であるトラッカーの「公衆送信用記録媒体に情報を記録」したといえる。これにより、当該ファイルをアップロードしようとするピアは、ダウンロードしようとするピアからの求めがあれば、いつでもそれに応じて当該ファイルをアップロードできる状態になったといえ、「自動公衆送信し得る」状態となる。 したがって、ファイルを送信しようとするピアが、トラッカーに当該ピアの保有する当該ファイルの情報、当該ピアのIPアドレス等を通知する行為は、送信可能化に当たり、以降、送信可能化の状態が継続する。 (イ)著作権法2条1項9号の5ロ所定の行為による送信可能化 ビットトレントネットワークにおいて、あるファイルをアップロードしようとする者が、当該ファイルを自身の管理する端末の共有フォルダに蔵置して、クライアント用のソフトウェアを起動すると、当該端末は、トラッカーに接続し、ビットトレントネットワークを形成するピアとして、トラッカーに接続して当該ファイルをダウンロードしようとする他のピアからの求めに応じ、自動的にファイルをアップロードし得る状態となる。 したがって、ファイルを共有フォルダに蔵置したままトラッカーに接続して上記状態に至った端末は、トラッカーと一体となって「情報が記録され」た「自動公衆送信装置」に当たるといえ、上記状態に至った時点で、「公衆の用に供されている電気通信回線への接続」がされ、送信可能化されたといえる。 イ 本件各氏名不詳者により本件動画が送信可能化されたと認められること 本件各氏名不詳者は、著作権法2条1項9号の5イ及びロのいずれにも該当する態様により、本件動画を送信可能化したところ、前記(3)で述べたとおり、本件調査会社がダウンロードした当該ピースは本件動画の一部であることが、本件再生試験によって確認されている。 (5)違法性阻却事由の不存在 本件各氏名不詳者が本件動画を自動公衆送信及び送信可能化したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。 (6)小括 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。 (被告の主張) (1)原告に本件動画の著作権が帰属することについて 本件動画を収録した商品のパッケージには、原告の商号等が記載されているものの、著作者として表記されておらず、著作者名として通常の方法により表示されているとはいえず、原告に本件動画の著作権が帰属することが明らかでない。 その余の原告の主張についても、争う。 (2)本件監視ソフトウェアの信用性 被告が本件各氏名不詳者に対して意見照会を行ったところ、発信者であることを否定する者もいた。 また、本件調査会社による本件監視ソフトウェアに関する同一性確認実験(甲7)も、極めて少ない台数のコンピュータについて、ビットトレントネットワークに接続せずに実施されたものにすぎない。 さらに、原告は、本件訴訟において、別紙発信者情報目録記載の通信は、UNCHOKE通信であると主張し、これに沿う証拠を提出していたが、その後、同通信はダウンロードの通信の1つであるPIECE通信であるとして、主張を変遷させている。 上記の諸点に照らせば、本件監視ソフトウェアに信用性はないというべきである。 (3)本件各氏名不詳者により本件動画が自動公衆送信されたことについて 原告は、本件各氏名不詳者の管理するピアが保有していた本件ファイルに係るピースは、再生可能であったと主張するが、本件再生試験は、実際にダウンロードした各ピースに対して再生を試みる方法ではなく、ダウンロード元が明確でない「侵害動画」のMP4ファイル形式のデータのうち、ftyp(ファイルのタイプやバージョンの情報が記載されているボックス)、mооv(動画のメディア毎のサイズ、再生時間等のメタデータが格納されているボックス)及び当該ピースに相当する部分を残し、その余の情報を削除して、再生を試みる方法であって、当該ピース以外も含まれている「侵害動画」を実験対象の元データとしている点並びにftyp及びmооvの情報を削除していない点において、当該各ピースのみで再生が可能であることは何ら立証されていない。本件各氏名不詳者からダウンロードしたとされる各ピースは、単体では再生できないことは明らかであるから、そのようなピース単体を送受信しても、本件動画に係る公衆送信権の侵害が明らかであるとは認められない。 また、仮に、各ピースが単体で再生できたとしても、2秒程度の極めて短時間の再生しかできておらず、かつ当該再生部分の映像はありきたりなもので創作性はないから、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものとはいえない。 (4)本件各氏名不詳者が本件動画を送信可能化したことについて ア 著作権法2条1項9号の5イ所定の行為による送信可能化 トラッカーには、共有されるファイルの情報やピアのIPアドレス等が記録されるにすぎず、本件動画のピースはトラッカーから公衆に送信されるわけではないから、トラッカーは、同法2条1項9号の5イの「自動公衆送信装置」に当たらない。 また、著作権法2条1項9号の5は、「送信可能化」を、同イ及びロ所定の行為によって「自動公衆送信し得るようにすること」と定義し、同イでは、公衆送信用記録媒体に情報を「記録し」た行為などという特定の時点の行為のみを対象としているから、送信可能化状態が権利侵害に当たるとはいえない。 イ 著作権法2条1項9号の5ロ所定の行為による送信可能化 トラッカーと送信者の端末は物理的には別であり、両者を一体として「自動公衆送信装置」と捉えることは出来ないから、原告が主張する行為は、同法2条1項9号の5ロに該当しない。 (5)小括 本件各氏名不詳者が本件動画につき公衆送信権を侵害したことが立証されているとはいえない。したがって、本件において、特定電気通信による情報の流通によって、原告の権利が侵害されたことが明らかとはいえない。 2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか)について (原告の主張) (1)自動公衆送信について 別紙動画目録記載の各発信時刻にされた通信から把握される情報は、PIECE通信、すなわち、本件各氏名不詳者が、ビットトレントネットワークを通じて、本件ファイルの一部を構成するピースを本件調査会社の管理する端末に向けてアップロードした通信に係る情報であるから、「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たる。 (2)送信可能化について 送信可能化による公衆送信権侵害は、ある一時点における権利侵害行為によってもたらされるものではなく、送信可能化の状態にある間、権利侵害が継続しているものと解すべきである。 本件において、本件各氏名不詳者が管理するピアは、ビットトレントネットワークを通じてダウンロードした本件ファイルに係るピースを、アップロード可能な状態に置いているのであるから、本件各氏名不詳者は、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を常に侵害し続けている。そして、本件監視ソフトウェアと本件各氏名不詳者の管理するピアとの間で、ダウンロード通信の一つであるPIECE通信がされたということは、当該ピアにおいて本件ファイルに係るピースをアップロード可能な状態に置いている、すなわち本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されていることを示すものであるから、当該PIECE通信から把握される情報は、プロバイダ責任制限法5条1項柱書所定の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。 (被告の主張) (1)自動公衆送信について 争う。 (2)送信可能化について 前記1(4)のとおり、著作権法2条1項9号の5のイ及びロは、特定の時点の行為のみを対象として「送信可能化」を規定しているから、送信可能化状態は、同号所定の「送信可能化」には含まれない。そして、本件各氏名不詳者が同人らの管理する端末に本件ファイルをダウンロードした通信と、本件各氏名不詳者の管理する端末と本件調査会社の管理する端末との間でされたPIECE通信は全く別個の通信であるから、各通信を一連の通信とまとめて捉えることは不当である。 原告の主張を前提とすると、別紙動画目録記載の各発信時刻にされた通信は、ダウンロードの通信のうちPIECE通信であるから、本件各氏名不詳者の管理するピアが本件ファイルの一部を保有しているとしても、同ピアは、別紙動画目録記載の各発信時刻までに、既にそれを取得してしまっていることになる。したがって、本件各氏名不詳者が本件ファイルをダウンロードした通信とは別個の通信であるPIECE通信は、本件ファイルを「公衆送信用記録媒体」に「記録」(著作権法2条1項9号の5イ)する通信に当たらない。 以上によれば、別紙動画目録記載の各発信時刻にされた通信から把握される情報は、送信可能化に係る「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たらない。 3 争点3(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か) (原告の主張) 原告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について (1)原告に本件動画の著作権が帰属すること 証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、本件動画は、原告の従業員であった者が、原告の発意に基づき撮影した動画であることが認められるから、「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物」であるといえる。 そして、証拠(甲1、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件動画は原告の著作の名義で公表されたものと認められるから、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」という要件を満たす。 また、弁論の全趣旨によれば、原告とその従業員との間の契約、勤務規則その他において著作権に関する別段の定めはないものと認められる。 したがって、本件動画は職務著作に該当するから、その著作者は原告とされ(著作権法15条1項)、その著作権は原告に帰属するものと認められる。 (2)特定電気通信である自動公衆送信に係る情報の流通によって原告の権利が侵害されたか否かについて ア 本件ファイルに係る動画が本件動画の複製物であること 証拠(甲6の2、9ないし11)によれば、ビットトレントネットワークにおいて共有されていた本件ファイルは、別紙動画目録記載のハッシュ値に対応するものであること、本件ファイルに係る動画を本件動画と対比すると、本件ファイルに係る動画は本件動画を複製して作成されたものであることが認められる。 イ 本件調査会社が「公衆」(著作権法2条5項)に該当すること 前提事実(2)及び証拠(甲2)によれば、ビットトレントネットワークにおいて送受信されるファイルはハッシュ値によって特定され、同ハッシュ値により特定される同じトレントファイルを持ったユーザー同士のみがネットワークを形成すると認められる。そして、特定のファイルに対応するトレントファイルは、インターネット上で公開されている以上、不特定の者において利用することができるから、同じトレントファイルを共有している各ピアの管理者も、その不特定の者となるのが通常である。したがって、本件ファイルに係るトレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加した本件調査会社は、「公衆」(著作権法2条5項)に当たるといえる。 ウ 本件動画が本件調査会社に対して「送信」(著作権法2条1項7号の2)されたといえること 前提事実(2)ないし(4)及び証拠(甲2)によれば、ビットトレントネットワークを形成するピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送(アップロード)するように動作すると認められる。そして、前提事実(3)ウのとおり、本件調査会社は、本件ファイルに対応するハッシュ値を監視対象とし、該当者の端末に割り当てられたIPアドレス及びポート番号を捕捉する本件監視ソフトウェアを稼働させて、本件各氏名不詳者との間でPIECE通信を行い、実際に、本件各氏名不詳者から各ピースの転送(アップロード)を受け、各ピースをハードディスクに保存したものであるところ、前提事実(4)のとおり、別紙動画目録記載の各発信時刻並びに各IPアドレス及び各ポート番号により特定される通信によってダウンロードされた各ピースは、本件再生試験において、動画を再生できることが確認されたものである。 また、本件再生試験の結果(甲22)からすると、当該ピースを再生して表示される各動画は、それぞれ、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものであると認められる。 これらのことからすると、本件調査会社に対して各ピースをアップロードした行為は、本件動画の「送信」(著作権法2条1項7号の2)に当たるといえる。 エ 本件各氏名不詳者により本件動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたこと 前記アないしウによれば、ビットトレントネットワークを介して、本件各氏名不詳者が管理するピアが、公衆である本件調査会社の求めに応じて、本件ファイルの一部を構成するピースをアップロードすることにより、本件動画の一部が自動公衆送信されたと認められ、これは、特定電気通信である当該自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものというべきである。 (3)被告の主張について ア 被告は、@本件調査会社による調査結果は信用性がない、A本件再生試験は、本件各氏名不詳者の管理するピアからダウンロードしたとするピースを対象としたものではなく、かつ、ピース単体による再生を試みたものではないから、本件再生試験によって各ピースが再生可能であったことをもって、本件動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたことが立証されたとはいえない、B仮に各ピースが再生可能であったとしても、再生された動画は、著作物としての表現上の本質的特徴を直接感得できるものではないから、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものではないなどと主張する。 イ @については、被告が本件監視ソフトウェアや原告の実験の正確性について主張するところは、いずれも一般論にとどまるものであるし、原告が、本件訴訟の当初、別紙動画目録記載の発信時刻は、本件調査会社が管理する端末が本件各氏名不詳者との間でUNCHOKE通信をしていたと主張し、これに沿う証拠を提出していた点についても、原告においてその理由について合理的な説明がされていることからすれば、本件監視ソフトウェアの信用性を否定するものではない。 ウ Aについては、証拠(甲25、27)によれば、本件調査会社は、本件ファイルの複製データと各ピアからダウンロードした各ピースが、同一データであることを確認した上で、本件再生試験を行っていると認められるから、本件再生試験の対象が、本件各氏名不詳者が管理するピアからダウンロードした各ピースそれ自体ではないことをもって、当該ピースが再生可能であるとの帰結に疑いを生じさせるものではない。また、ビットトレントネットワークは、ピア同士でピースを転送又は交換し合うことを通じ、最終的に当該特定のファイルを構成する全てのピースを取得し、当該特定のファイルの共有を実現するものであって、ピースを集積することで元のファイルに復元・再生することが可能なシステムの一環としてピースの送受信が行われており、ピース単体を再生することは予定されていないのであるから、当該ビットトレントネットワークに参加した各ピアから転送された各ピースが、当該ピース単体で再生が可能でなければならないことを前提とする被告の主張は採用できない。したがって、被告が指摘する点を踏まえても、本件再生試験の結果の信用性は否定されない。 エ Bについては、本件再生試験において再生が可能であったと認められるピースについては、本件動画を複製した本件ファイルの一部を構成していると認められ、かつ、前記(2)ウで説示したとおり、それらを再生することによって表示される各動画は、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものといえるから、当該ピースの送信をもって公衆送信権の侵害があったと認めることができる。 オ したがって、被告の前記@ないしBの主張はいずれも採用できないというべきである。 (4)違法性阻却事由の不存在 本件全証拠によっても、本件各氏名不詳者の行為について、違法性を阻却すべき事情はうかがわれないから、違法性阻却事由は存在しないと認めるのが相当である。 (5)小括 以上によれば、送信可能化について判断するまでもなく、特定電気通信による情報の流通によって、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。 2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たるか)について 前記1で認定したとおり、本件各氏名不詳者の管理するピアによって保有されていたピースが、本件調査会社の管理する端末に送信され、本件調査会社は、本件監視ソフトウェアにより、上記ピアとのPIECE通信を開始した時点のタイムスタンプ、各ピアのIPアドレス等の情報を自動的にデータベースに記録して、原告は、同データベースの記録に基づいて、別紙動画目録記載の各発信時刻及び各IPアドレス等を特定したものである。以上によれば、別紙動画目録記載の各発信時刻において同各IPアドレス等から把握される情報がプロバイダ責任制限法5条1項柱書所定の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たることは明らかであり、本件各発信者情報は、当該権利侵害に係る発信者情報に該当すると認められる。 3 争点3(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件動画に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をする予定であるものと認められ、その請求のためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。 したがって、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)と認められる。 第5 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 塚田久美子 (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス(ただし、別紙動画目録記載の17、22、47、50、103、120、130、152及び169に係るものに限る。) 以上 (別紙 動画目録 省略) |
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