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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示命令申立却下異議求事件
【年月日】令和6年8月27日
 東京地裁 令和5年(ワ)第70648号 発信者情報開示命令申立却下決定に対する異議請求事件
 (口頭弁論終結日 令和6年5月7日)

判決
原告 Ai
同訴訟代理人弁護士 政平亨史
渡邉遼太郎
被告 XCorp.
同訴訟代理人弁護士 小原丈佳


主文
1 原告と被告との間の東京地方裁判所令和5年(発チ)第10045号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和5年10月4日にした決定を認可する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

第1 請求
事実及び理由
1 原告と被告との間の東京地方裁判所令和5年(発チ)第10045号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和5年10月4日にした決定を取り消す。
2 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 原告は、被告の運営するX(インターネットを利用してメッセージ等を投稿することができる情報ネットワークに係るサービスであり、変更前の名称は「ツイッター」であった。以下、名称変更の前後を問わず「本件サービス」という。)において氏名不詳者(以下「本件氏名不詳者」という。)が行った別紙投稿目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)により、別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)並びに本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことは明らかであり、本件氏名不詳者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項及び8条に基づき、本件発信者情報の開示を求める発信者情報開示命令の申立てをした。
 本件は、原告が、上記申立てを却下した決定(以下「原決定」という。)に不服があるとして、プロバイダ責任制限法14条1項に基づき、原決定の取消しを求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠(以下、特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者
ア 原告は、医師であり、美容皮膚科・美容外科の「Bi」(Bii)恵比寿院(以下「原告クリニック」という。)の院長を務めている(甲6)。
 原告は、映画の著作物である本件動画の著作者及び著作権者並びに本件動画に録画された実演に係る実演家である(甲6、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)である本件サービスを運営する米国法人である。被告は、令和5年3月15日、それまで本件サービスを運営していたTwitter,Inc.を吸収合併し、その権利義務を承継した。(弁論の全趣旨)
(2)原告による本件動画の作成及び公開
 原告は、原告自身による患者に対する術前カウンセリング、施術、術後の様子、術後の経過等を撮影し、これを一連のストーリー仕立てにした本件動画を作成した(甲3、4、6)。
 原告は、原告が開設する「Ai/医師「美容皮膚科」」と題するYouTubeチャンネル(以下「原告チャンネル」という。)において、本件動画を公開した(甲3、6、13、乙10、11)。
(3)本件氏名不詳者による投稿
 本件氏名不詳者は、原告チャンネルにおいて公開されていた本件動画から画像3枚を切り出したところ、これらの画像の左上隅には、上段に「Aii」、下段に「Ai」との2段の表示(以下「本件表示」という。)が付されていた。本件氏名不詳者は、本件サービスにおいて、これらの画像と共に別紙投稿目録の「投稿内容」欄記載の内容の記事(以下「本件記事」という。)を投稿(本件投稿)した。(甲1、3)
 本件投稿により、上記各画像が本件記事の一部として別紙画像目録記載の画像のとおりに表示されるようになったが、それらの画像のうち、右側に表示される画像2枚(バッカルファット除去施術の様子を撮影したもの。以下「本件他の画像」という。)は、これを閲覧する者において、本件表示が付されている様子を見ることができるようになっているものの、左側に表示される画像(ヒアルロン酸注入施術の様子を撮影したもの。別紙画像目録で赤枠を付した画像。)は、本件サービスの仕様である機械的な処理により、左部及び右部がトリミング(切除)された形となっているため、本件表示を見ることができなくなっている(以下、左部及び右部がトリミングされた形で表示された画像を「本件画像」という。)。(甲1の1、1の2)
 なお、本件投稿を閲覧する者は、本件画像をクリックすることにより、左部及び右部がトリミングされる前の元の画像(以下「本件元画像」という。)を閲覧することができる(弁論の全趣旨)。
(4)本件発信者情報等の保有
 被告は、本件発信者情報を保有している。
 なお、被告は、本件氏名不詳者の氏名を保有しておらず、「特定発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)以外には、本件氏名不詳者に係る電話番号及び電子メールアドレス並びに本件投稿に係る投稿日時の情報しか保有していない(同項3号ロ、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則4条)。
(5)本件訴訟に至る経緯(甲2の3、顕著な事実)
 原告は、東京地方裁判所に対し、被告を相手方として、発信者情報開示命令の申立てをした(令和5年(発チ)第10045号)。
 同裁判所は、令和5年10月4日、上記申立てを却下する原決定をし、同決定は、同月6日、原告に送達された。
 原告は、同年11月2日、原決定を不服として、本件訴訟を提起した。
3 争点
(1)原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か(争点1)
(2)本件発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か(争点2)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)か)について
(原告の主張)
ア 本件投稿により原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかであること
(ア)本件投稿は本件動画を複製及び公衆送信するものであること
 本件元画像は、本件動画の一場面を切り出した画像であって、本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像から当該場面における本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得することができる。したがって、本件投稿は、本件動画を複製及び公衆送信するものである。
(イ)本件記事における本件元画像及び本件画像の利用は適法な引用に当たらないこと
a 引用の目的上正当な範囲内で行われたものではないこと
 本件記事の本文には、「バッカル除去手術でも帽子は被らない。」と記載されている。しかし、本件動画では、原告がバッカルファット除去施術の際に手術帽子をかぶっているか否かは必ずしも確認できない。すなわち、上記の記載は、これを閲覧した者に対し、あたかも原告がバッカルファット除去施術の際に手術帽子をかぶっていないとの誤解を与えるものである。
 また、本件記事の本文には、「ヒアルロン酸はもちろん髪の毛を垂らしたまま施術を行う」と記載されている。しかし、ヒアルロン酸注入施術においては、必ずしも帽子をかぶるなどして髪の毛をまとめることは求められていない。上記の記載は、これを閲覧した者において、ヒアルロン酸注入施術の際に、髪の毛を垂らしたまま施術を行うことが、あたかも不適切な施術方法であるかのように受け止められるものである。
 さらに、本件氏名不詳者は、原告及び原告クリニックの営業を妨害する目的で、本件投稿以外に複数の投稿をしている。
 これらの事情を踏まえると、本件投稿の目的は、原告及び原告クリニックの営業の妨害にあったといえ、「批評」ではないと認められる。
 したがって、本件記事における本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像の利用は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものではない。
b 公正な慣行に合致したものではないこと
 他人の著作物を引用して批評をする場合、当該批評を閲覧する者がその妥当性等について検討できるよう、引用される著作物の出所を表示することが公正な慣行にかなう。そして、インターネット上に公開されている著作物については、当該著作物に係るURLによって特定することが最も簡便かつ効果的である。したがって、SNSにおいてインターネット上に公開されている著作物を引用する場合に、これが公正な慣行に合致するものというためには、少なくとも当該著作物に係るURLを明示して出所表示をすることが必要である。
 本件投稿においては、本件動画に係るURLによる出所表示がされていないから、本件記事における本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像の利用は、公正な慣行に合致したものではない。
(ウ)まとめ
 前記(イ)において主張したほか、本件氏名不詳者が本件動画を複製、公衆送信したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。
 したがって、本件投稿により原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
イ 本件投稿により本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことは明らかであること
(ア)本件記事で利用されている本件画像は、左部及び右部がトリミングされた形となっており、原告が付していた本件表示が削除されている。
(イ)本件記事の本文に、「Biii」、「Aiii」との記載がされているものの、本件表示と異なるものであるから、当該記載があるからといって氏名表示権の侵害は否定されない。
 また、本件記事には、本件画像及び本件他の画像が同一の動画から切り出されたものであることをうかがわせる記載はないから、本件画像が本件動画から切り出されたものであることは分からない。むしろ、本件画像はヒアルロン酸注入施術に関する画像であるのに対し、本件他の画像はバッカルファット除去施術に関する画像であるから、本件画像については、本件他の画像を含む動画とは異なる動画から切り出されたものであるとの合理的な推認が働く。そうすると、本件記事を閲覧した者において、本件画像に係る著作者及び実演家が原告以外の第三者であるとの誤解を招くおそれが十分にあるから、本件他の画像に本件表示がされていることをもって、本件画像に本件表示がされているということはできない。
 そして、本件画像から本件表示が削除されたことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。
(ウ)したがって、本件投稿により、原告の著作者人格権(氏名表示権)及び実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことは明らかである。
ウ 被告の主張について
(ア)著作権法19条3項及び同法90条の2第3項により著作者名及び実演家名の表示を省略することができるとの主張について
a 被告は、本件投稿が批評、告発等との性格も有するため、著作者名及び実演家名が表示されることで、著作者及び実演家の社会的評価を低下させるおそれがあるから、本件動画及び本件動画に録画された実演の「利用の目的及び態様に照らし」、著作者名及び実演家名を省略することができる場合に当たると主張する。
 しかし、著作物に関する批評は、当該著作物に対する一つの評価にすぎず、その著作者及び実演家の社会的評価を当然に低下させるとはいえないから、本件投稿が批評、告発等との性格を有しているとの一事をもって、著作者名及び実演家名の省略が許容されることにはならない。
b また、被告は、本件他の画像に本件表示がされていることを根拠として、「著作者が創作者であること」及び「実演家がその実演の実演家であること」「を主張する利益を害するおそれがないと認められるとき」に当たると主張する。
 しかし、前記イのとおり、本件記事を閲覧した者において、本件画像に係る著作者及び実演家が原告以外の第三者であるとの誤解を招くおそれが十分にあるから、「著作者が創作者であること」及び「実演家がその実演の実演家であること」「を主張する利益を害するおそれがないと認められるとき」に当たるとはいえない。
(イ)原告の著作権侵害及び氏名表示権侵害の各主張は権利の濫用であるとの主張について
a 被告は、原告が本件動画に係る著作権が侵害されたと主張することは、要保護性の低い原告の著作権に対する軽微な侵害を理由として、要保護性の極めて高い本件氏名不詳者の表現の自由を不当に制約するものであるから、権利の濫用に当たり許されないと主張する。
 しかし、本件動画は、原告及び原告クリニックの利用者に鑑賞してもらうことで、原告及び原告クリニックの認知度やブランド力を高め、間接的に財産的利益を得ることを目的とするものであって、一連のストーリー仕立てにして作成された十分に創作性を有するものであることに照らすと、本件動画に係る原告の著作権が要保護性の低いものであるとはいえない。
 したがって、原告による著作権侵害の主張が権利の濫用に当たらないことは明らかである。
b また、被告は、本件において、形式的に著作者及び実演家の氏名表示の要請を貫くと、かえって著作者及び実演家の社会的評価を低下させることになり、それらの氏名表示権を保護しようとする著作権法の趣旨と整合しないこと、原告の氏名表示権の侵害の程度は極めて軽微であることなどを根拠として、原告による氏名表示権侵害の主張は権利の濫用であると主張する。
 しかし、著作者人格権及び実演家人格権としての氏名表示権侵害の主張についても、本件において、原告の氏名を表示することにより、原告の社会的評価を低下させるような事情は一切ないことなどに照らせば、原告による氏名表示権侵害の主張が権利の濫用に当たらないことは明らかである。
(被告の主張)
ア 本件投稿により原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかでないこと
(ア)本件投稿は本件動画を複製又は公衆送信するものでないこと
 映画の著作物における表現上の本質的な特徴は、影像の連続性から生じる動きに表れるものと考えられる。しかし、本件画像は、本件動画の一つのフレームを切り出して静止画としたものであるから、映画の著作物としての本質的な特徴である影像の連続性から生じる動きを喪失しており、本件画像から映画の著作物としての本件動画の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 このように、本件動画と本件画像との間には映画の著作物としての同一性がないから、本件画像は本件動画を複製したものに当たらない。また、そのため、本件投稿により本件画像をインターネットを通じて不特定又は多数の者が閲覧できる状態に置いたとしても、本件動画を公衆送信することにならない。
 したがって、本件氏名不詳者が、本件動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したとはいえない。
(イ)本件記事における本件画像の利用は適法な引用に当たること
a 公正な慣行に合致したものであること
 SNSで公開されている動画から切り出した画像を利用する場合に、当該動画に係るURL、動画タイトル、チャンネル名、投稿日時等の記載を必須とすることが公正な慣行となっているとはいえない。特に140文字の字数制限がある本件サービスにおいて、社会通念上、SNSで公開されている動画から切り出した画像を引用する際に、当該画像に係るURL等を必ず記載しなければならないという慣行は存在しない。
 また、本件画像から本件動画の映画の著作物としての表現上の本質的特徴を直接感得することはできないから、本件画像を見たからといって、原告チャンネルに投稿された本件動画の閲覧者が減少するという影響も考え難い。
 したがって、本件記事における本件画像の利用は、公正な慣行に合致したものである。
b 引用の目的上正当な範囲内で行われたものであること
 本件記事の本文の記載内容からも明らかなとおり、本件投稿の目的は、原告の施術について批評することにある。そして、本件氏名不詳者が本件記事に本件画像を添付したのは、本件記事の閲覧者において上記批評の妥当性を検討してもらうことを目的としたものと考えられる。
 また、本件動画は、原告クリニックの宣伝広告を目的として制作、投稿された7分58秒にも及ぶ映画の著作物である。これに対し、本件画像は、本件動画のうちたった一コマを静止画にしたものにすぎない。そして、原告の施術が不適切であるとの事実を批評するという目的の下、当該事実を客観的証拠によって示すためには、本件画像を用いることが必要不可欠であるし、引用の態様としても批評の根拠となる決定的な瞬間のみを必要最低限の範囲で用いているといえる。
 したがって、本件記事における本件画像の利用は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものである。
c まとめ
 以上のとおり、本件氏名不詳者が本件記事で本件画像を利用したことは、公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであることは明らかであるから、適法な引用に当たる。
(ウ)小括
 以上によれば、本件投稿により原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかであるとはいえない。
イ 本件投稿により本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことは明らかでないこと
(ア)本件記事の閲覧者は本件動画の著作者名及び実演家名を認識することができること
 本件記事に添付された本件他の画像には本件表示が表示されている上、本件記事の本文にも原告の氏名を推知させる記載があるから、本件記事を閲覧する者は、本件動画の著作者名及び実演家名を認識することが可能である。
(イ)本件記事の閲覧者は通常本件元画像を閲覧するといえる事情が認められること
 本件氏名不詳者は、原告の施術についての批評を客観的根拠に基づいて行うために、本件記事に本件画像を添付したと考えられるところ、この目的に照らせば、本件記事を閲覧する者に対し、黙示的に当該批評の根拠となる画像をクリックすることを促す態様で、本件投稿をしたものといえる。また、本件記事の一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方を基準とすると、閲覧者は、本件記事の本文に記載された批評とその根拠とされた本件画像とを正確に把握、評価するために、本件画像をクリックして本件元画像を確認するのが通常といえる。このように、本件においては、本件記事を閲覧する者が本件画像をクリック等して、本件表示が付されている本件元画像を閲覧するのが通常であるとの事情が認められるから、本件画像の著作者名及び実演家名の表示があったといえる。
(ウ)著作者名及び実演家名の表示を省略することができること
 本件においては、著作権法19条3項及び同法90条の2第3項により、著作者名及び実演家名の表示を省略することができる。
 すなわち、本件投稿は批評、告発等との性格を有するものでもあるため、著作者名及び実演家名を表示することで、かえって著作者及び実演家の社会的評価を低下させるおそれがあるから、本件動画の「利用の目的及び態様に照らし」、著作者名及び実演家名を省略できる場合に当たるといえる。
 また、本件他の画像に本件表示がされていることからすると、本件氏名不詳者が、本件動画の著作者名及び実演家名を意図的に隠匿したり、第三者が著作者又は実演家であると誤解させたり、又は本件動画が無名作品であると錯覚させるような場合であるとはいえないから、「著作者が創作者であること」及び「実演家がその実演の実演家であること」「を主張する利益を害するおそれがないと認められるとき」に当たる。
 そして、かえって著作者及び実演家の社会的評価を低下させるおそれがある本件において、あえて著作者及び実演家の氏名を表示しなければならないということが「公正な慣行」といえないことは、明らかである。
(エ)小括
 以上によれば、本件投稿により本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことは明らかであるとはいえない。
ウ 原告の著作権侵害及び氏名表示権侵害の各主張は権利の濫用であること
(ア)著作権侵害の主張は権利の濫用であること
a 本件動画は、原告クリニックの宣伝広告等を目的として制作、公開されたものであると考えられ、高度の創作性を備えるものとはいえないし、その視聴料等によって収益を得ることを目的とするものでもないから、本件動画に関して原告の有する財産的利益は大きなものとはいえない。
 また、原告は、原告自身による施術内容を紹介する目的で、不適切な施術の場面を含む本件動画を自ら公開した以上、本件動画を閲覧した者が、これを引用した上で正当な批評をすることを甘受すべきであるから、この観点から見ても本件動画に関して原告の有する財産的利益の要保護性は低い。
 さらに、原告は、当初、本件動画を公開していたものの、その後、公開範囲を限定しているところ、原告クリニックの宣伝広告等という本件動画の目的に照らせば、著作権により保護されるべき本件動画に係る財産的利益の一部を実質的に放棄しているといえる。
 このように、本件動画に関して原告の有する財産的利益が小さいことにかんがみれば、原告が本件動画について著作権侵害を主張する実質的な目的は、著作権の行使によって、原告の施術に対する批評という本件氏名不詳者の有する表現の自由を制限することにあると考えられる。
b これに対し、本件氏名不詳者が本件記事に本件画像を添付した目的は、本件記事の閲覧者において本文に記載した批評の妥当性を検討してもらうことにあると考えられる。
 また、本件記事における本件画像の利用の態様も、その目的との関係で必要最小限度の範囲にとどまるものである。
c 前記a及びbの各事情を踏まえると、原告が本件画像について著作権侵害を主張することは、要保護性の低い本件動画に係る原告の著作権に対する軽微な侵害を理由として、要保護性の極めて高い本件氏名不詳者の表現の自由を不当に制約するものであるから、権利の濫用に当たり許されない。
(イ)氏名表示権侵害の主張は権利の濫用であること
 著作権法が著作者及び実演家の氏名表示権を保護する趣旨は、氏名表示により、著作者と著作物、実演家と実演とを結び付け、著作者及び実演家としての名誉・声望、社会的評価、著作者及び実演家としての満足感といった人格的利益を保護することにある。しかし、本件において、形式的に著作者及び実演家の氏名表示の要請を貫くと、かえって著作者及び実演家の社会的評価を低下させることとなるから、原告が本件動画についての氏名表示権が侵害されたと主張することは、著作権法が著作者及び実演家の氏名表示権を保護しようとする趣旨と整合しない。
 また、本件においては、本件氏名不詳者がもともと本件表示の付された本件元画像を本件記事に添付したところ、本件サービスの機械的な処理により、本件画像についてのみ本件表示が表示されないようになったにすぎないし、本件記事の閲覧者は、本件画像をクリック等することで容易に本件表示が付された本件元画像を閲覧することもできるから、形式的には氏名表示権侵害が成立するとしても、その侵害の程度は極めて軽微である。
 このほか、前記(ア)bにおいて主張した本件氏名不詳者による本件投稿の目的及び本件記事における本件画像の利用態様の相当性を考慮すると、原告が本件画像について氏名表示権侵害を主張することは、要保護性の低い本件動画に係る原告の氏名表示権に対する軽微な侵害を理由として、要保護性の極めて高い本件氏名不詳者の表現の自由を不当に制約するものであるといえるから、権利の濫用に当たり許されない。
(2)争点2(本件発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について
(原告の主張)
 原告は、本件氏名不詳者に対し、損害賠償等を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
 したがって、本件発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)といえる。
(被告の主張)
 不知ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)かエラー!参照元が見つかりません。)について
(1)本件動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるかについて
ア 本件投稿が本件動画を複製及び公衆送信するものであるかについて
 著作権法が、著作物について、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)と規定し、複製について、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう(同項15号)と規定していることからすると、同法21条の著作物の複製とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に再製する行為をいうものと解される。
 そして、創作的表現が有形的に再製されたといえるためには、これに接する者が上記の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できることが必要である。
 これを本件についてみると、本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像は、本件動画の一場面を切り出したものであるから(前提事実(3))、本件動画に依拠したものであると認められる。また、本件元画像及び本件画像と本件動画とを対比すると、本件元画像及び本件画像から本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できることは明らかである(甲1の1、4の1)。
 さらに、本件投稿により、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できる本件元画像及び本件画像は、インターネットを通じて、本件記事にアクセスした不特定又は多数の者に閲覧できる状態になったことが認められる(前提事実(1)イ、(3))。
 したがって、本件投稿は、本件動画を複製及び公衆送信するものと認められる。
イ 本件元画像及び本件画像の利用が適法な引用に当たらないと認められるかについて
(ア)総論
 プロバイダ責任制限法5条1項1号所定の「権利が侵害されたことが明らか」とは、違法性を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味するものと解される。本件においては、この違法性阻却事由として、被告により、著作権法32条1項所定の適法な引用該当性が指摘されているところ、本件記事における本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像の利用がこれに当たらないと認められなければ、「権利が侵害されたことが明らかである」とはいえないことになる。
 そして、同項所定の適法な引用といえるためには、@引用された著作物が公表されたものであること、A公正な慣行に合致したものであること、B報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われたものであることが必要であるから、以下、当該各要件について、順次検討する。
(イ)@引用された著作物が公表されたものであることについて
 前提事実(2)及び(3)のとおり、本件元画像及び本件画像は、原告チャンネルにおいて公開されていた本件動画から切り出されたものであるから、公表されたものでないとは認められない。
(ウ)A公正な慣行に合致したものであることについて
a 原告は、SNSにおいてインターネット上に公開されている著作物を引用するに当たり、これが著作権法32条1項所定の公正な慣行に合致したものというためには、少なくとも当該著作物に係るURLを明示して出所を表示することが必要であると主張する。
 しかし、原告が主張する方法により出所を表示することがSNSにおいてインターネット上に公開されている著作物を引用するに当たっての公正な慣行であると認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は前提を欠くものである。
b 仮に、引用する著作物の出所を表示することが公正な慣行に合致したものであると判断される上での重要な要素になるとしても、本件投稿においては、本件記事の本文に施術「の様子をYouTubeにアップ。」と記載されると共に、本件元画像及び本件他の画像の合計3枚の画像が一体のものとして投稿されている一方、本件元画像の左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像が本件他の画像とは異なる動画から切り出されたものであることをうかがわせる記載等がないと認められること(前提事実(3)、甲1の1)からすると、本件記事を閲覧した者は、これらの画像はいずれもYouTubeにアップロードされた一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常というべきである。そして、本件他の画像には原告の氏名を含む本件表示が付されている上、「バッカルファット除去」と施術の名称が記載されていると認められること(甲1の1)、本件記事の本文に「Biii」と記載されていること(前提事実(3)。別紙投稿目録参照)にかんがみれば、本件投稿を閲覧した者は、原告チャンネル、ひいては原告チャンネルにおいて公開されている本件動画を特定することが十分に可能と考えられるから、本件投稿に当たり、本件元画像及び本件画像の出所が表示されていないと断ずることもできない。
c 以上によれば、本件投稿における本件元画像及び本件画像の利用が、公正な慣行に合致したものでないとは認められない。
(エ)B報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われたものであることについて
 前提事実(3)(別紙投稿目録参照)により認められる本件記事の本文の内容に照らせば、本件氏名不詳者は、本件記事において、本件動画の中で原告がバッカルファット除去及びヒアルロン酸注入の各施術を行う際に帽子を着用していないことを指摘していると認められるから、これは原告の施術を批評するものといえる。
 そして、本件記事を閲覧する者に対し、上記指摘に係る事実が存在することを示し、当該指摘の当否を検討してもらうためには、本件動画のうち、そのような場面を示す画像を示すのが簡便かつ確実であるといえるから、本件記事に本件元画像を添付する必要がないとは認められない。
 そして、本件動画は長さが約8分に及ぶものであるところ、本件記事において利用された本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像は、まさにヒアルロン酸注入施術に係るもので、かつ、1画像にとどまるから、利用した画像の数量やその態様が相当でないとも認められない。
 このほか、本件証拠上、本件投稿が、人身攻撃に及ぶとか、殊更に原告及び原告クリニックの営業を妨害するなど、正当な批評の域を逸脱しているものと認めることもできないことを考慮すると、本件投稿における本件元画像の利用が、引用の目的上正当な範囲内で行われたものでないとは認められないというべきである。
(オ)まとめ
 したがって、本件投稿における本件元画像及び本件画像の利用が、著作権法32条1項所定の適法な引用に当たらないと認めることはできない。
ウ 小括
 以上によれば、本件投稿により、本件動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
(2)本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことが明らかであるかについて
ア 前提事実(3)のとおり、本件元画像の左上隅には本件表示が付されていたものの、本件サービスの機械的な処理により、本件画像は、左部及び右部がトリミングされた形となっており、これを閲覧する者において、直ちに本件表示を見ることができなくなっている。
イ そこで、前記アの事実をもって本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたといえるか否かについて検討する。
 まず、著作権法19条1項は、「著作権者は、…その著作物の公衆への提供」又は「提示に際し、その実名…を著作者名として表示…する権利を有する」と規定しているものの、同法は、その具体的な態様について、特段規定していない。実演家の氏名表示権についても同様である(同法90条の2参照)。
 前記(1)イ(ウ)bのとおり、前提事実(3)及び証拠(甲1の1)によれば、本件投稿においては、本件記事に、施術「の様子をYouTubeにアップ。」と記載されると共に、本件画像及び本件他の画像の合計3枚の画像が一体として投稿されている一方、本件画像が本件他の画像とは異なる動画から切り出されたものであることをうかがわせる記載等がないことが認められる。そうすると、本件記事を閲覧した者は、本件画像及び本件他の画像の合計3枚の画像は、いずれもYouTubeにアップロードされた一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常であるといえる。そして、前提事実(3)のとおり、本件他の画像には、原告の氏名を表す本件表示がされている。
 以上のとおり、著作権法は、著作物を公衆へ提供又は提示する際の氏名表示の具体的な態様について特段規定していないところ、一体として投稿された本件画像及び本件他の画像は、いずれも一つの動画から切り出されたものと理解されるのが通常であって、かつ、本件他の画像には、原告の氏名を表す本件表示がされているから、前記アの事実をもって、本件画像について著作者名及び実演家名である原告の氏名が表示されていないと認めることはできないというべきである。
ウ したがって、本件投稿により、本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及びその実演に係る実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたとは認められない。
2 小括
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件発信者情報の開示を求める原告の申立ては理由がないというべきである。
第4 結論
 よって、原告の申立てを却下した原決定は相当であるから、これを認可することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 間明宏充
 裁判官 塚田久美子


(別紙)発信者情報目録
1 アカウント情報
 別紙投稿記事目録記載の記事(以下、本別紙中、「本件侵害情報」という。)を投稿したアカウントに登録されている電話番号及び電子メールアドレス
2 侵害関連通信に関する情報
 本件侵害情報を投稿したアカウントに関する以下の各情報
(1)アカウントの作成に使用されたIPアドレス(本件侵害情報の送信より前のものに限る。)
(2)本件侵害情報の投稿前のログインに使用されたIPアドレスのうち、保有するものの中で本件侵害情報の投稿と時間的に最も近接したもの
(3)上記(1)及び(2)のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備から、被告の用いる電気通信設備へ各IPアドレスを用いた通信が送信された年月日及び時刻
 以上

(別紙投稿目録 省略)
(別紙画像目録 省略)
(別紙動画目録 省略)
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