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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件X 【年月日】令和6年8月23日 東京地裁 令和5年(ワ)第70477号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年5月15日) 判決 原告 有限会社オフィスサイレンス 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 ビッグローブ株式会社 同訴訟代理人弁護士 高橋利昌 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙作品目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を複製して作成した動画ファイルを、公衆からの求めに応じ自動的に送信したことによって、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償請求等のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠(以下、特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) (1)当事者 ア 原告は、著作物である本件動画の著作権者である(甲7の1、18の1)。 イ 被告は、インターネット接続サービス等を業とする株式会社である。 (2)ビットトレントの仕組み(甲4ないし6、9、29、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコルである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末。「クライアント」とも呼ばれる。)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする者は、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアント用のソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。 このような手順でピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で通信を行い、当該他のピアに対して当該他のピアが保有するピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。 (3)株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(以下「本件調査」という。甲1の1、1の3、4ないし7の1、8の1、9) 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件動画の品番等に基づいて、本件動画と同一であることが疑われる動画ファイルに対応するトレントファイルを入手した。 本件調査会社は、ビットトレントに対応するクライアントソフトウェアである「●(ギリシア文字。ミュー)Torrent」(以下「本件ソフトウェア」という。)に、入手したトレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応する動画ファイルをダウンロードし、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報を、端末のOS(オペレーティングシステム)のタスクバーに表示された時刻及び時刻表示ソフトウェアを用いて画面の右上に表示させた時刻とともに、スクリーンショットにより撮影した(以下、同スクリーンショットにより撮影された画像(甲1の1、1の3)を、書証の枝番に従って、「本件スクリーンショット1」及び「本件スクリーンショット3」といい、これらを総称して「本件各スクリーンショット」という。)。 本件調査会社は、ダウンロードした上記動画ファイル(以下「本件ファイル」という。)を再生し、本件動画と比較して、その同一性を確認した。なお、本件各氏名不詳者が共有していたファイルは、同一のものである。 (4)本件ファイルが本件動画の複製物であること 本件ファイルは、本件動画を複製して作成されたものである(甲7の1、8の1)。 (5)本件各発信者情報の保有 被告は、本件各発信者情報を保有している。 3 争点 (1)特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)か(争点1) (2)本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か(争点2) 4 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)か)について (原告の主張) ア 別紙発信者情報目録記載の情報の正確性に問題はないこと (ア)別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレスは正確なものであること a 本件調査に用いられた端末は、インターネットを介して時刻を自動的に同期しているから、当該端末のOSの時計機能を用いて表示させた日時から把握した別紙発信者情報目録記載の各日時は、極めて正確なものである。 b 本件ソフトウェアの実行画面には、本件調査会社の管理するピアに向けて本件ファイルを送信しているピアのIPアドレスが表示される。本件ソフトウェアは、ビットトレントを管理運営する会社が、自ら開発及び維持しているソフトウェアであるところ、本件ソフトウェアの実行画面に表示される情報が不正確であるとの事実はない。 そして、本件調査会社は、本件ソフトウェアの実行画面を撮影した本件各スクリーンショットに記録された情報等に基づいて、本件ファイルの送信元であるピアのIPアドレス及びポート番号(以下、IPアドレス及びポート番号を併せて「IPアドレス等」ということがある。)を機械的に把握しており、その過程に恣意が介在する可能性はない。本件調査会社は、把握したIPアドレス等の正確性の検証もしている。 (イ)被告の主張について a 被告は、本件各スクリーンショットに記録されている対象ファイルのサイズ(いずれも1.95GB。甲1の1及び1の3参照)と本件ファイルのサイズ(204万7837KB。甲8の1参照)とが一致していないから、本件ファイルが本件各スクリーンショットに記録された情報により特定される通信によってダウンロードされたファイルであるとはいえないと主張する。 しかし、GB(ギガバイト)とKB(キロバイト)とを相互に換算する際に、1MB(メガバイト)=1024KB、1GB=1024MBのように順次換算すると、204万7837KBは1.95GBと一致する。 b また、被告の提供しているインターネット接続サービスにおいて、利用者にIPアドレスを動的に割り当てているとしても、別紙発信者情報目録記載の各日時に近接する時刻に、同各IPアドレスが複数の者に割り当てられていたとの事実は何ら立証されていない。 (ウ)まとめ 以上のとおり、本件調査の信用性を疑わせる事情はなく、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等の正確性に問題はない。 イ 本件各氏名不詳者により本件動画が自動公衆送信されたこと (ア)ビットトレントネットワークにおいて共有されているファイルは、公衆の用に供されている電気通信回線であるインターネットに接続された他の者の管理するパソコン等の記録媒体に記録されたものであり、不特定のその他の者の求めに応じて自動的に送信される。 そして、本件ソフトウェアは、他のピアから特定のファイルに係るピースをダウンロードしている際、実行画面の当該特定のファイルに係る「状態」欄に「ダウンロード中」との表示が、それ以外の場合には「ダウンロード中」以外の表示が、それぞれされる仕様となっている。また、本件ソフトウェアの実行画面に複数のピアが表示される場合、当該複数の全てのピアからファイルを構成するピアをダウンロードすることが確認できている。 (イ)本件調査会社が、本件調査に当たって、ビットトレントネットワークを介して本件ファイルを取得する際、本件調査会社の管理する端末で実行している本件ソフトウェアの画面には、本件ファイルについて「ダウンロード中」と表示されていた。 したがって、本件調査会社の管理するピアが、別紙発信者情報目録記載の各日時において、各IPアドレス等により特定される本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件ファイルを構成するピースをダウンロードしていたこと、すなわち、本件各氏名不詳者が、同日時において、公衆からの求めに応じ、本件ファイルを構成するピースを自動的に送信したことは、明らかである。 ウ 本件各氏名不詳者による本件動画の自動公衆送信に係る通信は特定電気通信に当たること 本件ソフトウェアを利用すれば、誰でも本件ファイルをダウンロードすることができるから、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定される通信は、いずれも「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)、すなわち、特定電気通信に当たる。 エ 違法性阻却事由の不存在 本件各氏名不詳者が本件動画を自動公衆送信したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。 オ 小括 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)。 (被告の主張) ア 別紙発信者情報目録記載の情報の正確性が担保されていないこと (ア)原告は、本件各スクリーンショットに記録された情報により特定される通信によって、本件ファイルがダウンロードされたと主張する。 しかし、本件各スクリーンショットに表示されている対象ファイルのサイズは1.95GB(1GBを102万4000KBとして換算すると、199万6800KBに相当する。)であるのに対し、本件ファイルのサイズは204万7837KBであって、両者のサイズは一致しない。 したがって、本件ファイルは、本件各スクリーンショットに記録された情報により特定される通信によってダウンロードされたファイルであるとはいえない。 (イ)また、被告は、被告の提供しているインターネット接続サービスにおいて、利用者にIPアドレスを動的に割り当てているから、ある利用者に割り当てられているIPアドレスは、極めて短時間であっても変わり得る。そのため、実際に通信がされた時点と、本件ソフトウェアの実行画面に当該通信に係る情報が表示された時点との間に時間のずれがあるなどして、実際に通信をした契約者と、本件各スクリーンショット記載の時刻に同記載のIPアドレスが割り当てられていた契約者とが、異なっている可能性がある。 (ウ)したがって、本件調査の正確性、ひいては、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等の正確性が担保されているとはいえない。 イ 別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定される通信により本件動画が自動公衆送信されたとはいえないこと (ア)本件スクリーンショット1のように、本件調査会社の管理するピアの通信相手として複数のピアが表示されている場合には、別紙発信者情報目録の項番1記載の日時及びIPアドレス等により特定されるピア以外のピアのみから本件ファイルを構成するピースをダウンロードしている可能性がある。 (イ)また、本件スクリーンショット1と本件スクリーンショット3とは、10日近く隔てた時点において記録されたものであるにもかかわらず、本件調査会社の管理するピアによる対象ファイルのダウンロード率(ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの容量に対する、実際にダウンロードできた容量の割合)はいずれも96.5パーセント、別紙発信者情報目録記載の各IPアドレスに対応するピアのファイル保有率はいずれも96.5パーセントと、上記二つの時点の間で全く変化がない。10日近い日数をかけても、本件調査会社の管理するピアによる対象ファイルのダウンロード率に変化がないことなどからすると、本件調査会社の管理するピアは、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定されるピアから本件ファイルを構成するピースを全くダウンロードしていないと考えられる。 (ウ)以上のとおり、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定されるピアから、実際に本件ファイルを構成するピースを一部でもダウンロードしたことについての立証がされているとはいえないから、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定される通信により本件動画が自動公衆送信されたとはいえない。 (2)争点2(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について (原告の主張) 原告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償等を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。 (被告の主張) 不知ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)か)について (1)特定電気通信である自動公衆送信に係る情報の流通によって原告の権利が侵害されたか否かについて ア 前提事実(2)のとおり、ビットトレントネットワークを形成するピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)ように動作する。また、前提事実(3)及び証拠(甲7の1、8の1)によれば、ビットトレントネットワーク上で共有されていた本件ファイルは、本件動画を複製して作成されたものであって、本件ファイルを再生して表示される映像は、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものであると認められる。 そして、前提事実(3)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、別紙発信者情報目録記載の各日時を端末のOSの時計機能を利用して表示させた時刻に基づき、同各IPアドレス等を本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報に基づき、それぞれ特定したことが認められる。 このような手順で行われた本件調査は、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等によって特定されるピアが、本件調査会社の管理するピアに対し、本件動画を複製して作成された本件ファイルを構成するピースを継続的に送信している状態を捉えたものといえる。 イ また、特定のファイルに対応するトレントファイルは、インターネット上で公開されているのが通常であり、不特定の者において利用することができるから、同じトレントファイルを共有している各ピアの管理者も、不特定の者となるのが通常である。他方で、本件ファイルが特定かつ少数の者の間でのみ共有されていたと認めるに足りる証拠はない。 したがって、本件ファイルに係るトレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加した本件調査会社は、本件各氏名不詳者との関係において、不特定の者であり、「公衆」(著作権法2条5項)に当たるといえる。 ウ 以上によれば、別紙発信者情報目録記載の各日時において同各IPアドレス等が割り当てられていた端末を管理する者により、本件動画がそれぞれ自動公衆送信されたと認められ、これは、特定電気通信である当該自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものというべきである。 (2)被告の主張について ア 別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等の正確性が担保されていないとの主張について (ア)まず、被告は、本件各スクリーンショットに表示されている対象ファイルのサイズ(1.95GB)と本件ファイルのサイズ(204万7837KB)について、1GBを102万4000KBとして比較すると、両者が一致しないと主張する。 しかし、証拠(甲30)によれば、情報通信分野において情報量を表記する際、K(キロ)、M(メガ)、G(ギガ)などの単位の接頭語を用いるに当たり、通常の10進法における記載(1km=1000mなど)とは異なり、1MB=1024KB、1GB=1024MBのように換算する場合があるものと認められる。 本件において、GB(ギガバイト)とKB(キロバイト)を相互に換算するに当たり、1MB=1024KB、1GB=1024MBのように順次換算すると、1GB=104万8576KBとなるから、204万7837KBは概ね1.95GBとなる(甲30参照。なお、本件証拠上、本件ソフトウェアの実行画面に表示される対象ファイルのサイズの有効桁数や切上げ、切捨て等の処理の有無は明らかでないから、これ以上の精度を問題とする検討は不要であると思料する。)。 他方で、本件証拠上、本件ファイルが、本件各スクリーンショットに記録された情報により特定される通信によってダウンロードされたファイルではないことをうかがわせるような事情は認められない。 (イ)また、被告は、被告の提供しているインターネット接続サービスにおいて、利用者にIPアドレスを動的に割り当てており、ある利用者に割り当てられているIPアドレスは、極めて短時間であっても変わり得るとして、実際に通信がされた時点と、本件ソフトウェアの実行画面に当該通信に係る情報が表示された時点とのずれなどに起因して、実際に通信をした契約者と、本件各スクリーンショット記載の時刻に同記載のIPアドレスが割り当てられていた契約者とが異なっている可能性があると主張する。 しかし、仮に、被告の提供しているインターネット接続サービスにおいて、利用者にIPアドレスを動的に割り当てているとしても、本件において、実際に、別紙発信者情報目録記載の各日時に近接する時刻に同各IPアドレスが複数の者に割り当てられていたことを認めるに足りる証拠はない。さらに、コンピューター上で動作するソフトウェアにおいては、ある通信を捉えてから、その情報を実行画面に表示するまでの間に、一定の時間を要することは否定できないものの、本件全証拠によっても、本件ソフトウェアについて、通信相手のピアのIPアドレスが変わったにもかかわらず、実行画面に誤ったIPアドレスを表示し続けるとの問題があることをうかがわせる事情は認められない。 (ウ)結局のところ、被告の前記各主張は、本件調査の結果が信用できない可能性がある旨を抽象的に指摘するにとどまり、本件調査の結果が信用性を欠くものであることを示す具体的な事情を摘示するものとはいえないから、いずれも直ちに採用することはできない。 イ 別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定される通信により本件動画が自動公衆送信されたとはいえないとの主張について (ア)被告は、本件ソフトウェアの実行画面に、本件調査会社の管理するピアの通信相手として複数のピアが表示されている場合には、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定されるピア以外のピアのみから本件ファイルを構成するピースをダウンロードしている可能性があると主張する。 本件においてこれをみるに、証拠(甲1の1)によれば、本件スクリーンショット1には、本件調査会社の管理するピアの通信相手として、別紙発信者情報目録の項番1記載の日時及びIPアドレス等により特定されるピア以外のピアが表示されていることが認められる。 そこで検討すると、証拠(甲28、29)によれば、ビットトレントにおいては、自己のピア以外に、共有されているファイルを構成するピースの全部又は一部を保有するピアが複数存在する場合には、当該ピースを、その複数のピアのいずれからもダウンロードするとの仕組みが採用されており、本件ソフトウェアにおいても同様の動作をすることが確認されていると認められる。他方、本件全証拠によっても、本件各スクリーンショットが撮影された前後を通じて、本件ソフトウェアが上記のような動作をしていなかったことをうかがわせる事実は認められない。そうすると、本件スクリーンショット1において、被告が指摘するような状況が記録されているとしても、本件調査会社の管理するピアが、本件各氏名不詳者の管理するピア以外のピアのみから、本件ファイルを構成するピースをダウンロードしたとは認め難いというべきである。 以上によれば、本件各スクリーンショットが撮影される前後の時点で、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件ファイルを構成するピースが送信されていたと認めるのが相当である。 (イ)また、被告は、本件スクリーンショット1と本件スクリーンショット3とは、10日近く隔てた時点において記録されたものであるにもかかわらず、本件調査会社の管理するピアによる対象ファイルのダウンロード率に変化がないことなどからすると、本件調査会社の管理するピアは、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定されるピアから本件ファイルを構成するピースを全くダウンロードしていないと考えられると主張する。 しかし、前記(1)アのとおり、本件各スクリーンショットが撮影されたのは、別紙発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定されるピアが、本件調査会社の管理するピアに対して本件ファイルを構成するピースを継続的に送信している間であるから、本件各スクリーンショットが撮影された時点及びその前後を含む通信全体としてみれば、本件氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件ファイルを構成するピースの送信がされていたと認められる。 ウ まとめ したがって、被告の前記各主張はいずれも採用することができない。 (3)違法性阻却事由の不存在について 本件各氏名不詳者が本件動画を自動公衆送信した行為について、違法性阻却事由が存在することは全くうかがわれない。 (4)小括 以上によれば、別紙発信者情報目録記載の各日時において、同各IPアドレス等が割り当てられていたピアにより、本件ファイルがそれぞれ自動公衆送信されたと認められるから、当該ピアを管理する本件各氏名不詳者によって、特定電気通信による情報の流通により、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)「が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)と認められる。 2 争点2(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件動画に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であると認められ、その請求のためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。 したがって、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)と認められる。 第4 結論 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 木村洋一 (別紙)発信者情報目録 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス (以下省略) (別紙作品目録省略) |
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