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【事件名】朝日ネットへの発信者情報開示請求事件G 【年月日】令和6年8月8日 東京地裁 令和5年(ワ)第70645号 発信者情報開示命令申立ての認容決定に対する異議事件 (基本事件・東京地裁令和5年(発チ)第10072号発信者情報開示命令申立事件) (口頭弁論終結日 令和6年6月17日) 判決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 当事者間の東京地方裁判所令和5年(発チ)第10072号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和5年9月28日にした決定を次のとおり変更する。 2 原告は、被告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 略語は別紙略語一覧表のとおり。 第1 請求 1 当事者間の東京地方裁判所令和5年(発チ)第10072号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和5年9月28日にした決定を取り消す。 2 被告の申立てをいずれも却下する。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、被告が、本件発信者らがファイル共有ネットワークBitTorrentを使用しし(ママ)て、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことは明らかであると主張して、原告に対し、法5条1項に基づき、別紙発信者情報目録1記載の情報の開示を求める申立てを相当と認め、原告に対し、その開示を命じた基本事件に係る決定に対し、原告が異議の訴えを提起する事案である。 原告は、令和5年10月2日、上記決定の告知を受け、同年11月1日、本件訴えを提起した。 被告は、当審において、発信者情報の任意開示を受けた部分を除いた別紙発信者情報目録2の情報(本件発信者情報)の開示を命じることを求めた。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 被告は、主にアダルトビデオの制作・販売を業とする有限会社である。 イ 原告は、電気通信事業等を行う株式会社であり、特定電気通信役務提供者(法2条3項)である。 本件各通信は、原告の特定電気通信設備を介して行われ、原告は、本件発信者情報を保有している。 (2)本件動画に係る著作権の帰属 被告は、本件動画に係る著作権を有する。(乙1) (3)BitTorrentの仕組み等 BitTorrentとは、いわゆるP2P形式のファイル共有ネットワークであり、その概要や仕様は、次のとおりである。(乙8、11、弁論の全趣旨) ア BitTorrentによりファイルを共有する場合、当該ファイルを小さなデータ(ピース。なお、BitTorrent上ではこのピースを更に細分化したサブピースを用いたファイル共有が行われるが、以下では、これをも含めて「ピース」という。)に細分化し、このピースがBitTorrentネットワーク上のユーザー(ピア)に共有される。 イ トラッカーとの通信段階(TrackerCommunicationPhase) BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、その使用端末にBitTorrentに対応したクライアントソフト(ファイルをダウンロードするためのソフト。以下、対応クライアントソフトを含めて「BitTorrent」ということがある。)をインストールした上で、インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードして、これをBitTorrentに読み込ませる。これにより、BitTorrentは、当該トレントファイルに記録されたトラッカーと呼ばれるサーバに接続してピア一覧を要求し、同一覧を受信する。 ウ 各ピアとの通信段階(HostCommunicationPhase) トラッカーからピアのIPアドレス等の情報を受信したユーザーは、相手方がピアであることを確認し(HANDSHAKE通信)、その後、接続の完了を通知し(ACK通信)、お互いの保有するピースの情報(どの部分を保有するか等)を交換する(BITFIELD通信)。その上で、ユーザーは、相手方の保有ファイルに興味を有することを通知し(INTERESTED通信)、当該ファイルのダウンロードないしアップロードが可能であることを通知する(UNCHOKE通信)。 エ ダウンロードの段階(DownloadPhase) ユーザーは、UNCHOKE通信の後、ダウンロードを要求し(REQUEST通信)、相手方がアップロードをする(PIECE通信)ことで当該ファイルのダウンロードがされ、最後に受信確認(HAVE通信)が行われる。 (4)本件調査 被告は、本件訴訟提起に先立ち、本件調査会社に対し、BitTorrentを使用した本件動画の著作権侵害に係る調査(本件調査)を委託した。本件調査は、本件調査会社が開発した本件ソフトウェアを使用して行われた。その概要は、以下のとおりである。(乙7〜11) ア IPアドレス特定の手順について 本件ソフトウェアは、本件クライアントソフトを用いて、おおむね上記(3)のとおりの経過によりファイルを実際にダウンロードする調査を行うものであるが、本件調査会社は、独自に作成した関数も使用してその機能を拡張している。本件調査会社は、本件ソフトウェアを起動し、本件ソフトウェアに本件動画のハッシュ値を入力し、トラッカーに接続してピアのリストの要求と受信を行う。その後、本件ソフトウェアは、上記(3)ウのとおりにピアとの通信を行うが、BITFIELD通信の段階で、相手方ピアがファイルの一部を保有しているかを確認し、同ピアがファイルを所持しないと判定した場合、当該ピアとの通信は同通信をもって終了する。他方、相手方ピアがファイルの一部を保有していると判定した場合、UNCHOKE通信を行った上で、DownloadPhaseに至るが、本件調査会社は、本件ソフトウェアに、本件クライアントソフトによって取得した接続ピアのIPアドレス等の情報を記録するwith_ip_log関数を実装し、PIECE通信を開始した時点の時刻をタイムスタンプとして、接続ピアの情報を本件ソフトウェアに記録する。同ピースは、調査に使用したパソコンのメモリに一時保存された後、本件調査会社のハードディスクに保存される。 イ 再生試験について 本件調査会社は、接続したピアからダウンロードしたピースにつき、原著作物の表現を復元する再生試験を以下の手順で行っている。 すなわち、本件調査会社は、侵害動画をコピーし、そのバイナリデータにつき、該当ピース及び動画再生に必要なデータを残し、その余を削除する加工をする。その後、本件調査会社は、加工した侵害動画とダウンロードしたピースの同一性をそれぞれのバイナリデータの数列を比較して確認する。その上で、本件調査会社は、ffmpegライブラリと呼ばれるソフトウェアを使用して、ピースから完全な画像(jpg形式)として抽出できる部分(キーフレーム)を抽出する。なお、キーフレーム以外のフレームは、前後のキーフレームから変化のあった部分のみが表現されたものなどであり、キーフレームを基点として連続的な動画を構成している。 3 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。 (被告の主張) ア 公衆送信権侵害 本件発信者らは、BitTorrentを利用し、本件動画のファイルの一部となるピースを自動でアップロードしており、被告の本件動画に係る公衆送信権を侵害していることは明らかである。 イ 本件動画の送信可能化による著作権侵害 本件発信者らはBitTorrentを利用しており、これによれば、同人らが自身のクライアントソフトを停止させるまで、不特定の者の求めに応じてピースがアップロードされ続ける。これにより、本件動画に係るファイルは自動公衆送信され得る状態に置かれ続けることになる。したがって、本件発信者らは、本件各通信時点において、被告の著作物たる本件動画を送信可能化することで、被告の著作権を侵害していることは明らかである。 ウ 原告の主張に対する反論 本件調査は、一般的なクライアントソフトである本件クライアントソフトを利用した本件ソフトウェアにより行われたものであり、本件ソフトウェアの信用性に欠けるところはない。 (原告の主張) 本件調査会社は、侵害動画とピースの比較を行ったのみで、本件動画と侵害動画の比較を行っていない。この二つはBitTorrentの利用による余計な通信情報の混在により実質的に異なるものである可能性が否定できないから、被告の本件動画に係る著作権侵害が明らかであるとはいえない。 本件発信者の中には、被告の主張する時刻にパソコンを使用していなかった旨の意見を述べる者もおり、また、被告の当初の申立てには原告が割り当てたものではないIPアドレスが存在することなどから、本件調査の正確性には疑問がある。 第3 当裁判所の判断 1 争点(権利侵害の明白性)について (1)前提事実(3)及び(4)、証拠(乙5の1〜7)並びに弁論の全趣旨により認められるBitTorrentと本件クライアントソフトの仕組み及び本件調査の方法ないし内容を踏まえると、本件発信者らは、その端末にBitTorrentをインストールし、本件動画のファイルに係るピースをダウンロードすると共に、当該ピースを不特定の者からの求めに応じてBitTorrentネットワークを介して自動的に送信し得る状態にし、原告から本件IPアドレスの割当を受けてインターネットに接続された状態の下、別紙発信者情報目録2の「日時」欄記載の各日時において、本件調査会社の求めに応じ、自動的に本件動画のファイル(ピース)をアップロードしたことが認められる。 そうすると、本件動画に係るファイル(ピース)は、本件IPアドレスが割り当てられた本件発信者らにより、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信されたものといえる。したがって、本件発信者らは、本件動画に係るデータを自動公衆送信したものであり、これにより、本件動画に係る被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(法5条1項1号)。 (2)これに対し、原告は、本件動画と侵害動画が異なる可能性を指摘すると共に、本件調査の信用性に疑問がある旨を主張する。しかし、本件動画と侵害動画の比較の点については、前提事実(4)及び証拠(乙2、3)によれば、侵害動画は、本件動画のモザイク処理部分への加工がうかがわれるといった相違点はあるものの、本件動画を複製して作成されたものとみられる。このため、本件調査会社が両者の比較を行っていないことは、結論を左右するものとはいえない。本件調査の信用性についても、前提事実(4)及び証拠(乙10)によれば、本件ソフトウェアは、BitTorrentを利用する際に一般的に用いられている本件クライアントソフトの機能を用いてIPアドレス等の情報を受信しており、この過程自体は通常のBitTorrentの利用と異なるものではなく、その動作に誤りがあるとはみられない。また、本件ソフトウェアが独自に関数(with_ip_log関数)を使用して接続ピアのIPアドレス等の情報を記録する部分についても、証拠(乙7〜11)によれば、その正確性につき相応に合理的な説明ができているといえる。このため、全体として本件調査の信用性に欠けるところがあるとはいえない。 以上によれば、この点に関する原告の主張はいずれも採用できない。 2 その他の要件について 上記のとおり、本件発信者らによる本件動画に係る被告の著作権(公衆送信権)侵害が認められるところ、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件発信者らに対する不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使を予定しているものと認められるから、被告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5条1項2号)があるといえる。 以上より、被告は、原告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。 第4 結論 よって、被告の当審における申立てについてはいずれも理由があるから、原決定を変更することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 石井奈沙 裁判官 志摩祐介 (別紙)当事者目録 原告 株式会社朝日ネット 同訴訟代理人弁護士 福本悟 被告 有限会社プレステージ 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 大塚直 (別紙)発信者情報目録1 別紙動画目録1記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に原告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス (別紙動画目録1 省略) (別紙)発信者情報目録2 別紙動画目録2記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に原告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス (別紙動画目録2 省略) (別紙著作物目録 省略) (別紙)略語一覧表
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