判例全文 line
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【事件名】営業秘密の不正所得事件(画像診断システム)
【年月日】令和6年7月30日
 大阪地裁 令和2年(ワ)第1539号 不正競争防止法違反行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 令和6年5月23日)

判決
原告 株式会社クライムメディカルシステムズ
同代表者代表取締役 P1
同訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 大住洋
同 千葉あすか
同訴訟復代理人弁護士 小山秀
被告 株式会社ネットカムシステムズ(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 P2
被告 P2
上記2名訴訟代理人弁護士 宇野総一郎
同 田中昌利
同 中村慶彦
同訴訟復代理人弁護士 岡田紘明


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告会社は、別紙物件目録記載の各ソフトウェア(以下「被告各ソフトウェア」という。また、(a)ないし(f)の各ソフトウェアのことを、それぞれ拡張子を除くファイル名で「NCView」などといい、同別紙の表記に合わせて(a)NCViewなどと表記することがある。)のプログラムを複製し、又は翻案してはならない。
2 被告会社は、被告各ソフトウェアのプログラムの複製物を譲渡してはならない。
3 被告会社は、被告各ソフトウェアのプログラムを記録したフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記録媒体を廃棄せよ。
4 被告会社は、被告各ソフトウェアのプログラムを収納した別紙被告製品目録記載の読影診断ワークステーション(以下「被告製品」という。)を製造し、販売し、販売のために展示し、又は電気通信回線を通じて提供してはならない。
5 被告会社は、被告各ソフトウェアのプログラムを収納した被告製品を廃棄せよ。
6 被告らは、原告に対し、連帯して2億6000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日(被告P2につき令和2年3月2日、被告会社につき同月3日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、別紙原告製品目録記載1の製品(以下「原告製品」という。)を製造・販売している原告が、以下の(1)及び(2)のとおり主張して、被告会社に対し、被告各ソフトウェアの複製・翻案等の差止め及び記録媒体の廃棄並びに被告製品の製造・販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、被告会社及びその代表者であって原告の元従業員であった被告P2に対し、損害賠償金の連帯支払を求める事案である((1)と(2)は選択的に主張している。)。
 なお、原告は、被告会社の不正競争行為又は著作権侵害行為により製造・販売等されているのは被告製品であると主張しており、これと異なるテストツール等の製作等については請求の基礎とならない。
(1)被告会社には、以下のアないしウのいずれかの不正競争行為が認められるから、被告会社に対し、不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条1項に基づき、被告製品の製造・販売等の差止め(前記第1の4)を求めるとともに、同条2項に基づき、被告各ソフトウェアを記録した記録媒体及び被告製品の廃棄を求め(前記第1の3及び5)、さらに、被告P2も原告に対する加害について故意又は過失があるから、被告らに対し、共同不法行為(民法709条、719条1項)に基づき、損害賠償金の一部請求として2億6000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日(被告P2につき令和2年3月2日、被告会社につき同月3日であり、不法行為よりも後の日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める(前記第1の6)。
ア 原告の元従業員であるP3は、原告の営業秘密である別紙ソースコード目録記載のソースコード(以下「原告ソースコード」という。)を不正の手段により取得したところ、被告会社は、かかる不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重過失により知らないで原告ソースコードを取得し、これを使用して被告製品を製造・販売した(不競法2条1項5号)。
イ P3は、取得した原告ソースコードを不正の利益を得る目的で被告会社に開示したところ、被告会社は、かかる不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重過失により知らないで原告ソースコードを取得し、これを使用して被告製品を製造・販売した(不競法2条1項8号)。
ウ 被告会社は、技術上の秘密である原告ソースコードの不正使用行為により製造した被告製品を販売し、販売のために展示し、又は電気通信回線を通じて提供した(不競法2条1項10号)。
(2)被告会社は、原告が著作権を有するプログラムの著作物である原告ソースコードをそのまま複製し、あるいは若干の改変を加えて翻案して被告各ソフトウェアを作成し、これを収納した被告製品を製造・販売しているものであり、かかる行為により原告の著作権(複製権、翻案権及び譲渡権)を侵害しているから、被告会社に対し、著作権法112条1項に基づき、被告各ソフトウェアの複製、翻案及び複製物の譲渡(前記第1の1及び2)並びに被告製品の製造・販売等の差止め(前記第1の4)を求めるとともに、同条2項に基づき、被告各ソフトウェアを記録した記録媒体及び被告製品の廃棄を求め(前記第1の3及び5)、さらに、被告らに対し、共同不法行為(民法709条、719条1項)に基づき、前記(1)と同様の損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求める(前記第1の6)。
2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠(特に記載するものを除き枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者及び関係者
ア 原告は、平成8年10月4日に設立された株式会社であり、マンモグラフィ画像診断システム「mammary」(原告製品)等を製造販売等している(マンモグラフィとは、乳房をX線撮影して行う画像診断法のことである。)。原告は、P1が代表者を務めている。(甲3、弁論の全趣旨)
イ 被告会社は、平成18年7月7日に設立された株式会社であり、メディカル関連事業を営み、マンモグラフィ読影診断ワークステーション「mammodite」(被告製品)を製造販売し、販売のための広告や保守業務を行っている(弁論の全趣旨)。
ウ 被告P2は、平成12年5月に原告に入社し、開発課課長であった平成21年10月31日に原告を退職後、翌11月1日に被告会社に入社して取締役に就任し、現在は被告会社の代表取締役である。
エ P4は、平成17年1月に原告に入社し、原告の開発課に所属していたが、平成21年7月31日に原告を退職した後、平成24年3月に被告会社に入社した(甲13、弁論の全趣旨)。
オ P3は、平成16年9月に原告に入社し、原告の開発課に所属していたが、同課課長であった平成24年2月29日に、ほか4名の原告従業員とともに原告を退職した後、翌3月1日に被告会社に入社した。(乙40、弁論の全趣旨)
カ 前記エ及びオの原告従業員らの退職に際し、P4ほか1名は「退職後における秘密保持契約書」及び「秘密情報確認書」(甲5、13)に署名押印したが、P3ほか3名はこれを拒否した。ただし、P3は、平成24年2月29日、原告代表者に対し、「在職中に知り得た秘密事項についての退職後における守秘義務に関しましては…遵守いたします。」とのメール(甲11の1)を送信している。
(2)原告製品の概要
ア 原告は、平成17年10月頃に原告製品を開発し、以後、原告製品を製造・販売している(甲3、弁論の全趣旨)。
イ 原告製品には、別紙原告製品目録記載2の各ソフトウェアが含まれている(以下「原告各ソフトウェア」という。また、(a)ないし(f)の各ソフトウェアのことを、それぞれ拡張子を除くファイル名で「MGView」などといい、同別紙の表記に合わせて(a)MGViewなどと表記することがある。)。このうち、例えばMGViewは、9個のCPPファイル(プログラミング言語C++で記述されたソースファイルであり、拡張子は「.cpp」である。)、123個のヘッダーファイル(プログラムで使用される変数や関数、定数等の定義を記述したファイルであり、ファイル名は当該変数が使用されるCPPファイルのファイル名に対応している。拡張子は「.h」である。)及び210個のリソースファイル(プログラムにおいて用いられる画像や文字列などのリソース情報を記述したファイル。「res」のフォルダに格納されている。)から構成され、これらのファイル中に具体的なソースコードが書き込まれている。(甲7、27〜32、弁論の全趣旨)
ウ 原告ソースコードは、原告各ソフトウェアの各プログラムのソースコードからなる。原告ソースコードのうち、(a)MGView、(c)DcmQR及び(d)EzSendのプログラムにつき、ソースコードの一部が証拠として提出されている。(甲33、34、45〜48、51〜53)
 上記(a)、(c)及び(d)はプログラミング言語C++を用いて記述されている。
(3)被告製品の概要
ア 被告会社は、平成24年3月にマンモグラフィ画像診断システムを製造・販売するためのメディカル事業部門を立ち上げ(同部門においては、P4、P3ほか4名(4名のうち3名は元原告従業員)の計6名が従事した。)、同年9月27日に被告製品の製造・販売の認証を得て、被告製品の販売を開始した(乙6、弁論の全趣旨)。
イ 被告製品には、別紙物件目録記載の被告各ソフトウェアが含まれている(甲7、弁論の全趣旨)。
ウ 被告各ソフトウェアのうち、令和4年2月ないし3月時点における(a)NCView、(c)XronoQR及び(d)DcmSendのプログラムにつき、ソースコードの一部が証拠として提出されている。(乙25〜32)
 上記(c)及び(d)はプログラミング言語C♯を用いて記述されている。
(4)P6クリニックから原告が入手したソフトウェア
ア 被告会社は、平成30年5月21日、愛知県長久手市所在のP6クリニックに製品(販売名:汎用画像診断ワークステーションNP275、製造番号:NP27510427)を納入したが、P5医師(P6クリニックの院長)は、被告会社に対し、原告製品の機能の一部を盛り込むよう要望し、最終的に同年9月29日頃、原告製品に買い替えた。原告は、P5医師の了解を得て、被告の納入した製品を持ち帰った(以下、この製品を「P6被告製品」という。)。(甲12、14、49、乙44)
イ 原告において、P6被告製品を調査したところ、(a)ビューワソフト「NCView.exe」(以下「P6NCView」という。)、(b)画像受信・保存サーバーソフト「XronoServer.exe」(以下「P6XronoServer」という。)、(c)画像転送要求ソフト「XronoQR.exe」(以下「P6XronoQR」という。)及び(d)CD内画像取り込みソフト「DcmSend.exe」(以下「P6DcmSend」という。)が含まれていることが確認された(以下、これらを併せて「P6各ソフトウェア」という。)(甲7、62)。
 なお、P6被告製品が、平成30年9月当時の正規の被告製品であるか否かについては争いがある。
(5)P7総合病院から原告が入手したとするソフトウェア
ア 被告会社は、平成29年3月に、香川県観音寺市所在のP7総合病院に被告製品を納品したことがあり、同病院は被告会社の顧客である(弁論の全趣旨)。
イ 原告は、P1(原告代表者)が、平成30年2月22日、香川県総合健診協会の外部読影依頼先調査の一環でP7総合病院を訪れ、同病院において使用されている被告製品を操作して動作確認等を行った際、実行ファイルをUSBメモリにコピーして持ち帰った旨主張するところ、原告がこのとき入手したとする被告製品(以下「P7被告製品」という。)の実行ファイル(原告が逆コンパイルした。)には、(a)ビューワソフト「NCView.exe」(以下「P7NCView」という。)、(c)画像転送要求ソフト「XronoQR.exe」(以下「P7XronoQR」という。)及び(d)CD内画像取り込みソフト「DcmSend.exe」(以下「P7DcmSend」という。)が含まれている(以下、これらを併せて「P7各ソフトウェア」という。)。
 なお、P7被告製品がP7総合病院から入手されたものか否か、並びに、(c)P7XronoQR及び(d)P7DcmSendが平成30年2月当時の正規の被告製品に含まれるものか否かには争いがある。
3 争点
(1)原告ソースコードの営業秘密性(秘密管理性)(争点1)
(2)不正競争行為(不競法2条1項5号、8号、10号)の該当性(争点2)
ア 不正競争行為の内容及び有無
イ 使用の根拠
ウ 証明妨害の有無
(3)原告ソースコードに関するプログラム著作権(複製権・翻案権・譲渡権)侵害の有無(争点3)
ア 原告ソースコードの創作性の有無
イ 原告ソースコードと被告製品のソースコードの類否
ウ 依拠性
エ 証明妨害の有無
(4)被告P2の共同不法行為の成否(争点4)
(5)損害の発生及びその額(争点5)
(6)差止め及び廃棄の必要性の有無等(争点6)
4 当事者の主張
(1)原告ソースコードの営業秘密性(秘密管理性)(争点1)
〔原告の主張〕
ア 秘密管理性の要件については、@情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)、A情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(客観的認識可能性)の2つが判断要素になるとされるが、@の「アクセス制限」は、Aの「認識可能性」を担保する1つの手段であり、A認識可能性を満たす場合に、@アクセス制限が不十分であることのみをもって秘密管理性が否定されることはない。
イ 本件において、原告ソースコードは原告の基幹商品のソースコードであり、それが極めて重要な営業秘密に該当することはソフトウェア開発に携わる者にとって当然に認識されているのであるから、そのことのみをもってしても、秘密管理性は十分に認められる。
 また、平成24年2月当時、原告は、従業員数わずか11名の小規模な会社であるところ、@原告ソースコードは従業員がユーザー名とパスワードを入力しなければアクセスできない社内のサーバーに保管されていたこと(最新バージョンのソースコードについては、各開発者のみがアクセス可能な各開発者専用の業務用パソコン内に保管されていた。)、Aパソコン内の情報の社外への持ち出しを禁止するなどの就業規則を制定し、その内容は平成23年4月に開かれた従業員説明会等で従業員にも周知され、情報管理に関する部分は従業員からも全く異論がなかったこと、B在職中に作成したソースコードを秘密情報として明示した秘密保持誓約書を退職従業員には個別に提示し、P4はこれに署名・押印し、P3においてもその内容を了承した上、秘密保持を約していること、C医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律上ソースコードは構成管理の最重要アイテムとして、ソースコードを含む過去の「バージョン一式を文書化」しておく必要があり(甲60)、原告においても、バージョンごとにリリースした製品のソースコードは社内の共有サーバーに、開発中のソースコードは開発者のみがアクセス可能なパソコンに保管することとされていたこと等、原告において会社の規模に応じた規範的管理がなされていた。
 なお、開発者が客先を訪問して、その場で状況を確認しつつ、原告各ソフトウェアのプログラムのソースコードを書き換えるという作業が必要になる場合はあるものの、そのためにソースコードを持ち出すのは年に数回程度にすぎない。また、P3やP4を含め、P1が従業員に対して退職後の原告ソースコードの保持を許可したことはない。
ウ 以上のとおり、原告ソースコードについて、秘密管理性は十分認められる。
〔被告らの主張〕
 対象物がソースコードであるからというのみで秘密管理性が認められるものではないところ、原告においては、以下のとおり極めてずさんな管理が行われていたのであるから、原告ソースコードに秘密管理性が認められない(なお、原告ソースコードの非公知性及び有用性について、被告らは特に争っていない。)。
 すなわち、原告ソースコードは、原告の従業員であれば誰でも、パスワードなどを入力することもなく容易にアクセスが可能なサーバーに保存されており、当該サーバーは、原告の全従業員が、一旦自分のユーザー名とパスワードを用いて業務用デスクトップパソコンにログインさえすれば、改めてユーザー名やパスワードを入力するなどの操作を行うことなくアクセスすることが可能であり、サーバーにアクセスするための特別なパスワード等は要求されていなかった。
 また、多くの従業員に対して原告から支給されていたパソコンはデスクトップパソコンのみでノートパソコンは支給されていなかったところ、P3が在籍していた当時、原告ソースコードが保存されているサーバーは、社用パソコンと同じユーザー名及びパスワード又はアドミニストレーターのユーザー名及びパスワードを使用すれば、原告から貸与されていた業務用デスクトップパソコンだけではなく、私有のパソコンからでもアクセスすることが可能であった。このアドミニストレーターのユーザー名及びパスワードは、出荷される原告製品にデフォルトで設定されているものと同じであり、このことは全従業員に入社直後から周知されていた。
 さらに、原告においては、開発課の従業員に対してノートパソコンは貸与されていなかったが、各従業員は、各自の判断で私有のノートパソコンにソースコードをコピー・保存して作業を行う必要があり、それらのノートパソコンにも原告ソースコードが保存される状態が常態化していた。私有のノートパソコンにソースコードをコピー・保存することは、原告において一切禁止されておらず、上長等の許可を得なければならないなどの社内ルールも存在していなかった。そればかりか、原告において、どの従業員がどの私有パソコンにソースコードを保管しているのかを把握していなかった。パソコン内の情報の社外持ち出しを禁止する就業規則が施行されたのは、P3が退職した後の平成24年4月1日である。
 加えて、原告においては、退職時に秘密保持契約書に署名・押印しなければならないという社内ルールはなかったし、退職者(P4及びP3)に対し、退職後も原告各ソフトウェアのプログラムのソースコードを保持して原告をサポートすることを依頼してもいた。
(2)不正競争行為(不競法2条1項5号、8号、10号)の該当性(争点2)
〔原告の主張〕
ア 不正競争行為の内容及び有無
 P3は、平成23年12月頃、原告の開発担当者であったP8に対し、業務命令であるとして、原告ソースコードを開示させて取得した。P3は、平成24年2月に原告を退職し、間もなく、被告会社は、P3が原告ソースコードを不正に取得したことを知って、又は重大な過失により知らないで、P3から原告ソースコードを取得し、原告ソースコードを使用して被告製品を製造したから、被告会社の行為は、不競法2条1項5号(判決注:平成30年法律第33号(令和元年7月1日施行)による改正前のものと解される。)の不正競争に該当する。
 そうでないとしても、P3は、平成23年12月頃、原告から原告ソースコードを示され、平成24年2月に原告を退職後、不正の利益を得る目的で被告会社に原告ソースコードを開示し、被告会社は、これを知り、又は重大な過失により知らないで、P3から原告ソースコードを取得し、原告ソースコードを使用して被告製品を製造したから、被告会社の行為は、同項8号(判決注:平成30年法律第33号(令和元年7月1日施行)による改正前のものと解される。)の不正競争に該当する。
 また、被告会社は、平成30年頃、技術上の情報である原告ソースコードを使用した行為(同項5号又は8号)により製造した被告製品を販売し、販売のために展示し又は電気通信回線を通じて提供したから、同項10号の不正競争に該当する。
 被告らは、平成24年4月には被告製品が完成しておらず、同年9月に完成したと主張するが、完成前に宣伝広告活動を行うことは違法であり、同年4月には完成していたはずである。
イ 使用の根拠
 被告製品は、被告各ソフトウェアを含むものであるところ、後記(ア)のとおり、P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアには、原告ソースコードを複製した痕跡があるから、これらは原告ソースコードを使用して製作されたものであるといえる。そして、後記(イ)のとおり、P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアは、平成30年2月ないし同年9月当時の被告各ソフトウェアであるから、被告製品は、原告ソースコードを使用して製造されたものである。
 ただし、被告各ソフトウェアのうち(e)MDReport及び(f)XronoListのソースコードが原告ソースコードを不正使用(ないし複製・翻案)して製作されたものであることについて具体的主張立証はしない。
(ア)複製の痕跡
 P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアには、以下のとおり、原告ソースコードを複製したとみるべき事情がある。
@P7XronoQR及びP6DcmSendにつき、原告の著作権表示が付され、原告製品の(c)DcmQR及び(d)EzSendと中身が全く同じ実行ファイル(前者につきCompact.exe、後者につきStoreScu.exe)が存在すること(甲7の1)
AP6NCViewにつき、(a)MGViewと画面構成が細部(人為的ミスによって発生した行間の長さのずれ)まで一致する上、実行ファイル中に「MGView」の文字列が表示され、さらにファイルの内容及びソースコード作成時に自動発番されるリソース番号まで一致するものが含まれること(甲7の2)
BP6DcmSendにつき、同様の機能を有する原告製品の(d)EzSendと実行ファイル中のリソース類がほぼ一致し、かつリソース番号も殆ど一致している上、P6DcmSendの実行画面中に、(d)EzSendのバージョン情報が表示されること(甲7の3)
CP6XronoQRにつき、同様の機能を有する原告製品の(c)DcmQRとリソース画像が共通し、リソース番号もほぼ一致すること、また、マンモグラフィの機能とは無関係なABASやRTSTRACTの文字列が含まれること(甲7の4)
DP6NCViewの実行ファイルの中に、被告製品と無関係な機能であるDFCのオプション機能に係る文字列や、原告ソースコード中に存在するMGViewにおけるアプリケーション試用期日確認のためのコード(ダミー整数値。マジックコード)が存在すること(甲18)
EP6XronoServerに含まれる「XronoUtil.dll」の実行ファイル中に、原告製品の(b)Aisと同様に、原告が他社からライセンスを受けて使用しているソフトウェアのライセンス情報が含まれていること(甲20、21の1〜5、36)
FP7XronoQRとP6XronoQRは同一の実行ファイルであり、P7DcmSendとP6DcmSendもほぼ同一の実行ファイルであること、また、P7NCViewに原告ソースコード中に存在するMGViewにおけるマジックコードが存在すること(甲56)
(イ)P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアと被告各ソフトウェアの同一性
 P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアは、以下の理由から、平成30年2月ないし同年9月頃の被告各ソフトウェアであるといえる。
a 平成30年5月から同年9月まで、被告会社から購入してP6クリニックで患者の診療に実際に使用されていたP6被告製品が正規の被告製品であることは当然である。
 これに対して、被告らは、P6各ソフトウェアのうち、P6XronoQR、P6DcmSend及びP6XronoServerは、被告製品が正常に作動しない場合の動作検証のために配置したテストツールであると主張していたが、令和5年7月18日付け第10準備書面において、テストツールがP6被告製品に設置されたのは、動作検証のためではなく、MDReportを試験実装するにあたり切替ツールの操作を誤った(チェックボックスのチェックを外し忘れた)という人為的ミスによるものであると主張を変遷させた。さらに、原告から、P6被告製品が納品時から一度も入れ替えられていないこと(甲75)が示されると、被告らは、同年11月15日付け第11準備書面により、「従業員Aが、P6クリニックに納入する予定のパソコンをセットアップする際に、誤って検証サーバー内の「ncam.bat」を実行してしまった可能性が極めて高いのであり、当初からテストツールを実装していた」と再度主張を変遷させた。かかる変遷に合理的な理由はなく、再度の変遷に係る主張については、民訴法157条1項の時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
 その点を措くとしても、再度の変遷に係る主張は、不自然・不合理なものであって信用できない。すなわち、「メインサーバーに保存されているドライブデータをコピーした上で、「ncam.bat」を実行することにより、メインサーバーに保管されているデータを納入用パソコンにダウンロードする」との主張は、マスターCDからコピーして納品先の被告製品にソフトウェアを実装するとの従前の主張と矛盾する。また、被告らの主張によれば、納品用のソフトウェアを格納したメインサーバーとテストツールを格納した検証サーバーは、IPアドレスの末尾1桁を除いて同じIPアドレスで、同じ「最新版Soft\SETUP\XRONOSVR01」という名称を付され、その中にある「D:\SETUP」も含めて同じになっており、しかも、正規のソフトウェアとテストツールとはソフトウェア自体の名称も同一というのであるが、このような取り違えを誘発するような仕組みを採ることは常識で考えてもあり得ない。
b P7各ソフトウェアに係る実行ファイル等のデータ(甲62、71)は、平成30年2月22日にP1(原告代表者)と原告従業員が、P7総合病院における外部読影依頼先調査の際に、同院において現実に稼働しているP7被告製品からコピーして持ち帰ったものである(甲12、63、72)。
 被告らは、P7各ソフトウェアのうち、P7XronoQR及びP7DcmSendはテストツールであると主張するが、被告らの主張によれば、テストツール自体がごく稀にしか使用しないものである上、テストツールが患者の診療に使用する被告製品に残存するという事態は、ごく稀にしか使用しないテストツールについて、切替ツールの操作ミスという偶然が重なって生じる限りなく発生可能性が低い事象になるところ、たまたま原告が調査した2つの医療機関で実際に使用されている被告製品に含まれるソフトウェアが、いずれもテストツールであるなどということがあるはずがなく、信用できない。
c 原告は、以下の主張及び証拠を提出する(これに対し、被告らは、時機に後れた攻撃防御方法の提出であるとして却下を求めている(後記〔被告らの主張〕のイ(ア)b)。)。
 P9市民病院で使用されている被告製品のバックアップフォルダに保存されていた平成30年当時の実行ファイルがP6被告製品に含まれる実行ファイルの内容と異なっている旨、及び、P7総合病院のパソコンに、切替ツールである「NCChangeMode.exe」が平成29年3月27日に実行された履歴がある旨の被告らの主張につき、専門家による詳細な分析結果によれば、@P9市民病院のバックアップフォルダの内容が、本件訴訟の係属後に被告らによって入れ替えられたものである可能性が高いこと(甲77)、A「切替ツール」なるプログラムが実行されたのも平成29年3月ではなく、令和5年10月であること(甲78)、Bそもそも「切替ツール」と主張されているプログラムの挙動自体が不自然極まりなく、事後的に捏造された可能性が高いと考えざるを得ないこと(甲79)等が判明したから、全く根拠がない。
(ウ)P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアの信用性
 P6各ソフトウェアの提供が、被告会社との間の契約違反であるとしても、それ自体の信用性には関係がない。
 P7各ソフトウェアは、原告が香川県総合健診協会の外部読影依頼先調査の一環でP7総合病院を訪問した際に、実行ファイルのデータをコピーして持ち帰ったものであり、原告において違法に複製された疑いがあると考えて証拠を保全することは違法ではない。
ウ 証明妨害の有無
 被告会社は、原告による文書提出命令の申立て(令和2年11月30日付け。被告各ソフトウェアのソースコード等の提出を求めるもの)の後に被告各ソフトウェアのプログラムのソースコードを修正している。
 また、プログラムを用いた医療機器については、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第41条第3項の規定により厚生労働大臣が定める医療機器の基準」(平成17年厚生労働省告示第122号。以下「厚労省告示」という。)のうち、12条2項の規定(プログラムを用いた医療機器に対する配慮)により、リリースした版の全てのバージョン情報の記録と保管が義務付けられているにもかかわらず、被告会社は、被告各ソフトウェアの過去のバージョン(平成30年2月ないし9月時点)のソースコードを消去した。これらの行為は、民訴法224条2項の証明妨害に当たるから、原告の主張する被告会社による不正競争行為の内容につき、真実擬制が認められるべきである。
 なお、甲80によれば、P3の在職中、作成したソースコードは全てバージョンごとに保管されていた(原告のこの主張及び甲80の提出については、被告らが時機に後れた攻撃防御方法の提出であるとして却下を求めている(後記[被告らの主張])。
〔被告らの主張〕
ア 不正競争行為の内容及び有無
 以下の事情から明らかなように、原告ソースコードと被告各ソフトウェアのソースコードは全く異なるものであり、被告会社が被告各ソフトウェアの開発に当たって原告ソースコードを使用したことはない。
 平成23年以前から、原告ソースコードは、原告の全従業員がアクセス可能なサーバーに保存されており、P3は、P8に対してことさらに原告ソースコードの開示を求めたことはない。P3は、原告在職時に、業務のため、原告ソースコードを自己所有のパソコンに保存しており、退職後も、そのまま保持していた。P3は、原告から、退職後も原告製品に不具合があれば対応してほしいと依頼されていた。
 原告各ソフトウェアのうち(c)DcmQR及び(d)EzSendのソースコードはC++言語で記述されているのに対し、被告各ソフトウェアに含まれる(c)XronoQR及び(d)DcmSendのソースコードは平成24年9月の開発当初からC♯言語で記述されており、表現が全く異なっている(乙25、26)。
 被告各ソフトウェアのうち、(a)NCViewは、DICOM画像を表示するDICOMビューワであり被告会社が独自に開発したDICOMライブラリを用いているところ、ビューワの処理全般に必要なDICOMライブラリが独自であるということは、(a)NCViewが原告ソースコードを用いて開発されていないことを示している。
 被告会社は、被告製品に他社に先駆けて開発した機能を実装しており、原告は、むしろ被告製品を模倣した原告製品を製造している。被告会社は、平成24年4月に被告製品の開発を完了していたわけではなく、同年9月に開発し、販売を開始したものである。
イ 使用の根拠
(ア)P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアについて
a P6NCViewが平成30年当時の被告製品に一般的に含まれている(a)NCViewと同じものであることは特に争わないが、「NCView.exe」はP4が一から作成したオリジナルのものであり、原告ソースコードは使われていない。
 P6各ソフトウェアのうち、P6XronoQR、P6DcmSend及びP6XronoServerはテストツールであって、被告製品に含まれる正規のソフトウェアではない(テストツールの一般的な用途は、被告製品を顧客に納入後、不具合が発生した場合において、問題の所在を特定するために、被告製品の一部のソフトウェアをテストツールに切り替えてみるというものであるが、MDReportについては、顧客から要望された機能を試験実装して確認してもらうためにも用いられる。)。P6クリニックにおいては、当時入社4か月目の従業員がP6被告製品のセットアップを行ったところ、P6被告製品だけが、誤って検証サーバーに保存されている「ncam.bat」が実行される形でセットアップされ、テストツールが含まれた形で納入されてしまったのである(なお、P6被告製品に納入当初からテストツールが実装されていた旨の被告らの主張については、原告が時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を求めている(前記〔原告の主張〕のイ(イ)a)。)。
 一方、P7各ソフトウェアは、P1(原告代表者)がP7総合病院から実行ファイルをコピーして持ち帰ったものという原告の主張が疑わしいが、それが仮に事実であったとしても、P7各ソフトウェアのうち、P7XronoQR及びP7DcmSendはテストツールであって、被告製品に含まれる正規のソフトウェアではない。なお、被告会社は、令和5年10月19日、同病院に納入されているパソコンについて、Amcache及びUserAssistを確認したところ、「NCChangeMode.exe」というファイルが平成29年3月27日に実行されていることが分かった。このファイルは、被告製品の正規のソフトウェアとテストツールを簡便に切り替えるための切替ツールであるから、この結果を踏まえると、同月23日の被告製品納入後、同月27日に切替ツールが使用され、正規のソフトウェアからテストツールへの切替えが行われたことになる(P7総合病院では、令和元年12月27日にアップデートが行われているため、遅くともその時点では、テストツールは取り除かれ、正規のソフトウェアに戻っている。)。
 また、マスターCD及び令和4年3月5日にP9市民病院から回収したパソコンに、平成28年時点、平成30年時点、令和3年2月時点の被告製品のソフトウェアが含まれており、それらのフォルダ構成等が現在のバージョン(令和4年4月時点)のソフトウェアとほぼ同一である一方で、P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアとは全く異なっていることが明らかである。
 さらに、P6クリニックにP6被告製品(被告会社のパソコン)が納入された平成30年5月21日の前後において、検証サーバーにある「ncam.bat」が実行される形でセットアップが行われたのはP6クリニックの1件だけであり、その他の多数の施設(P10メディカルクリニック、順天堂大学医学部附属静岡病院、東名古屋画像診断クリニック、沼津市立病院及びJR広島病院)においては、検証サーバーではなくメインサーバー(IPアドレス「192.168.0.50」のサーバー)にある「ncam.bat」が実行される形でセットアップが行われている。
b 被告らは、従前、P6クリニックに被告製品を納入した後に発生した一連のトラブルにおいて、P5医師から要望されている仕様を実現すべく、試験実装を目的として遠隔操作にてテストツールに切り替えた上で、検討作業を開始したと説明した。しかし、これは、5年以上前のことで関係者の記憶も曖昧になっていたことに加えて、被告会社が納入するパソコンに、通常、テストツールが含まれていることはあり得ず、P6クリニックに納入したパソコンについても、納入時点では通常どおり正規のソフトウェアが含まれており、納入後に切替ツールを用いてテストツールに切り替えたものと考えられたためである。被告らは、後に説明を訂正し、実際には納入後にテストツールに切り替えたのではなく、納入の時点においてミスによりテストツールが含まれた状態になっていた可能性があるという説明を行ったが、被告らの主張は、当初から主要な部分において一貫しており、訂正を行った部分についても合理的な理由がある。また、このような経緯に照らせば、被告らの上記主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たらないことは明らかである。
 原告は、令和6年5月8日付けで、甲77ないし79の証拠を提出するとともに、原告第14準備書面において、@P9市民病院から回収した被告製品に含まれるバックアップファイルとして提出されている乙38の内容は、平成30年当時に実際に使用されていたプログラムであることと矛盾していること、AP7総合病院において切替ツールが実行されたのは令和5年10月であると考えられること、B切替ツールと主張されているソフトウェアの挙動が不自然であることの主張を行っているが(同準備書面の第1の3の「これに加えて…判明した。」の部分及び第2)、これらについては、被告らの主張に対する反論の機会は十分にあったにもかかわらず、口頭弁論終結が見込まれる期日(令和6年5月23日)の近くになって行われたものであるから、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条)として却下を求める。
(イ)原告の主張する複製の痕跡について
@P6XronoQRは、被告各ソフトウェアには含まれず、存在するとすれば、テストツールである。被告各ソフトウェアのうちの(c)XronoQRには、原告の指摘する文字列は含まれていない。
AP6NCViewの実行ファイルに、「MGView」のファイル名の文字列が含まれているのは、原告においてMGViewを開発したP4が、当初、被告においてもMammographyViewerという一般名称からMGViewと同一の名称でNCViewを開発したため、一部に残っていたにすぎず、現在の被告各ソフトウェアの(a)NCViewには当該文字列は残っていない。P6NCViewと原告各ソフトウェアのうちの(a)MGViewの実行ファイルのリソース番号が共通であるのは、原告製品を導入する病院に被告製品を導入してもらうに際して効率的であるからであり、カーソルやアイコンのデザインが同じであるのも、Windowsの一般的なデザインであるからにすぎない。罫線の高さが同一であるのも、テキストファイルであるリソースデータにおいて座標の数値を調整して揃えれば表示画面を一致させることが可能であり、ソースコードとは関係がない。
BP6DcmSendは、被告各ソフトウェアのうちの(d)DcmSendではなく、存在するとすれば、テストツールである。
CP6XronoQRについて、ABASやRTSTRACTなどの文字列が含まれるのは、テストツールとして用いていたXronoQRに当該文字列が含まれているためにすぎず、被告各ソフトウェアのうちのXronoQRには当該文字列は含まれない。
D被告製品の(a)NCViewは、使用しているDICOMライブラリ(医用画像を処理するために必要不可欠なもの)が原告製品のものとは異なっており、DICOMライブラリが異なれば大部分のソースコードが異なるため、原告ソースコードから被告製品の(a)NCViewを作成することはできない。P6NCViewに含まれるMGViewにおけるアプリケーション試用期日確認のためのコード(ダミー整数値。マジックコード)が、原告各ソフトウェアのうちのMGViewと同一なのは、両者を開発したP4が日常的に使用していたものであったからにすぎず、ソースコードの具体的な記述が類似していることを示すものではない。
 P6各ソフトウェアの表示画面が原告製品のものと類似しているのは、開発者が同じであるからであり、ソースコードを複製しなくても、リソースを参照して作成すれば一致するものである。
EP6各ソフトウェアのうちのXronoUtil.dllは、被告各ソフトウェアのうちのXronoUtil.dllではなく、原告製品に含まれるClimbUtil.dllを改変して作成されたテストツールである。被告各ソフトウェアのうちのXronoUtil.dllには原告が他社から受けているライセンスの情報は含まれていない。
(ウ)P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアの信用性等
 原告がP6各ソフトウェアを入手したと主張するP6クリニックは、被告会社が納入した被告製品について原告製品と同じ仕様を実装してほしいと要求されて動作検証をしている途中で、被告会社に契約解除等の何の連絡をすることもなく、原告製品への切替えが行われた特異な顧客であり、被告製品のライセンス契約に反して、原告にソフトウェアを提供した原告の協力者である。
 原告がP7各ソフトウェアを入手したと主張するP7総合病院は、現在も被告会社の顧客であり、被告製品のデータを原告に提供した事実はない。P7総合病院は、原告の訪問や調査自体を否定している上、仮に香川県総合健診協会の活動として調査したとすれば、原告製品の調査であったはずであり、その趣旨を故意に逸脱し、無断で他社のソフトウェアを持ち帰ったもので、違法行為の疑いがあるから、P7各ソフトウェアは、実質的証拠力を欠く。
ウ 証明妨害の有無
 原告による文書提出命令の申立て(令和2年11月30日付け)の後に被告会社が被告各ソフトウェアのプログラムのソースコードを修正したのは全体のごく一部について改良の必要があったためであり、原告による文書提出命令の申立てとは無関係に行われたものである。また、被告会社は平成30年2月ないし9月時点の被告各ソフトウェアのプログラムを保有していないが、ソースコード自体を保管しなければならないとする法令上の義務は存在しないから、原告の主張は理由がない。
 原告は、令和6年5月8日付けで、甲80を提出するとともに、原告第14準備書面において、P3が原告在職中に作成したソースコードは全てバージョンごとに保管がされていることの主張を行っているが(同準備書面の第3の1の(2)の「なお、この点に関し」(16頁14行目)以降の部分)、これについては、被告らの主張に対する反論の機会は十分にあったにもかかわらず、弁論終結が見込まれる期日(同月23日)の近くになって行われたものであるから、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条)として却下を求める。
(3)原告ソースコードに関するプログラム著作権(複製権・翻案権・譲渡権)侵害の有無(争点3)
〔原告の主張〕
ア 原告ソースコードの創作性の有無
 原告ソースコードは、膨大な量のプログラムであり、原告において、マンモグラフィの画像診断に必要かつ便宜であると判断した機能を抽出・分析し、ファイルに区分し、整理して記述し、相互に組み合わせて完成したものであり、その記述や区分・整理、組合せには無限の選択の幅があるので、当然に作成者の個性が表れており、創作性がある。
 原告ソースコードは、全体の数%にオープンソース等の汎用のプログラム等を使用した部分があるにすぎず、原告が日本で初めて開発したマンモグラフィ画像診断システムのソースコードであり、機能の選択において独自性がある。
 原告ソースコードの一部を現実に別の表現に置き換えることが可能であり、選択の幅があることが明らかである。
イ 原告ソースコードと被告製品のソースコードの類否
 被告会社が「現在(令和4年2月ないし3月時点)のバージョンの被告製品のソースコード」として提出したソースコード(乙25〜32)は、原告ソースコードとは類似しないが、前記(2)〔原告の主張〕イのとおり、P6(P7)XronoQRとP6(P7)DcmSendは、それぞれ原告製品のDcmQRとEzSendと、全体にわたって実質的に同一のプログラムであり、P6(P7)NCViewとP6XronoServerについては、書き換えられている部分はあるものの、それぞれ原告ソースコードのうちMGViewとAisの表現上の本質的特徴を感得することができる。また、P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアはテストツールを含むものではなく、平成30年2月ないし9月時点における被告製品に実装されていたソフトウェアである。
 そうすると、少なくとも平成30年9月頃まで原告ソースコードを複製ないし翻案したことが明らかなソフトウェアのプログラムが被告製品に実装されていたといえる。被告らが開示した現在のバージョンの被告各ソフトウェアのうちXronoQR及びDcmSendのソースコードがC♯言語で記述されており、原告ソースコードのうちDcmQR及びEzSendのソースコードがC++言語で記述されていたのをわざわざC♯言語に変更して一から書き直すことは考え難く、現在のバージョンの被告製品が全面的にC♯言語で書き直されたものであることが証明されない限り、被告製品には、現在も原告ソースコードを複製ないし翻案したC++言語のソースコードをコンパイルしたソフトウェアが実装されていると推認されるべきである。
ウ 依拠性
 原告各ソフトウェアのソースコードと被告各ソフトウェアのソースコードは同一ないし類似しているところ、経験則上、このような偶然の一致は起こり得ず、P3が原告ソースコードを保有して原告を退職した直後である平成24年3月に、被告会社がメディカル事業部門を立ち上げ、同年4月から営業活動を開始し、間もなく被告製品が販売されているから、被告各ソフトウェアは原告ソースコードに依拠したものであるといえる。
 また、前記(2)〔原告の主張〕イ(ア)のとおり、P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアには、原告ソースコードに依拠したことを示す事情がある。
エ 証明妨害の有無
 仮に、原告各ソフトウェアのソースコードと被告ソフトウェアのソースコードの類似性が立証できないとしても、前記(2)〔原告の主張〕ウと同様の理由で、被告らは、原告の使用を妨げる目的で提出の義務がある被告各ソフトウェアのソースコードを改変して滅失させたから、民訴法224条2項により、原告の主張する原告各ソフトウェアと被告各ソフトウェアの各ソースコードの同一性が真実として認定されるべきである。
 被告各ソフトウェアのソースコードについては、厚労省告示12条2項により、リリースした版の全てのバージョン情報の記録と保管が義務付けられており、その趣旨からすれば、全てのバージョンのソースコードを保管する義務があるというべきであるから、被告らが過去のバージョンのソースコードを消去したのであれば、証明妨害目的以外に考えられない。
〔被告らの主張〕
ア 原告ソースコードの創作性の有無
 ソースコードのファイル数、文字数や行数が多いことや機能の抽出、分類、ファイルの区分、整理の仕方をもって著作物性があるとはいえない。原告がオリジナルで記述したというだけでプログラムに創作性が認められるものではなく、原告ソースコードの一部について、別の表現をすることが可能であるとしても、直ちに原告ソースコード全体について著作物性があるともいえない。原告は、原告各ソフトウェアのプログラムにつき、創作性があることを具体的に主張立証できていない。
イ 原告ソースコードと被告製品のソースコードの類否
(ア)被告らは、原告により提出された原告各ソフトウェアのうちの(a)MGView、(c)DcmQR及び(d)EzSendのソースコードに対応する、現在のバージョン(令和4年2月ないし3月)の被告各ソフトウェアのソースコード((a)NCView、(c)XronoQR及び(d)DcmSendの一部)を開示しており、これと原告提出の上記ソースコードとを対比すれば、両者が根本的に異なっていることは明らかである。
 すなわち、原告各ソフトウェアのうち(a)MGViewに含まれるソースコードと、現在のバージョンの被告各ソフトウェアのうち(a)NCViewに含まれるソースコードを対比すると、両者はその具体的記述において全く異なっている(乙29、31)。
 また、原告各ソフトウェアのうち(c)DcmQR及び(d)EzSendのソースコードと、現在のバージョンの被告各ソフトウェアのうち(c)XronoQR及び(d)DcmSendのソースコードとを対比すると、両者はプログラミング言語が異なっているために(前者はC++、後者はC#)、ソースコードの表現も根本的に異なっていることが分かる(乙25、26)。
(イ)平成30年2月ないし9月時点のバージョンの被告各ソフトウェアについても、著作権侵害行為は存在しない。
 すなわち、原告は、(a)P6NCViewに原告ソースコードが使われていることにつき、ソースコードを比較する形での主張立証は一切行っていない。P6NCViewには原告ソースコードは使用されていない。また、P6各ソフトウェアのうち、(b)P6XronoServer、(c)P6XronoQR及び(d)P6DcmSendについては、そもそも平成30年当時の正規の被告各ソフトウェアに含まれるものとは異なるものであり、開発当初から同様である。
 原告は、P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアからは、被告製品に原告ソースコードを違法に複製ないし翻案して作成したプログラムが実装されていることを示す客観的な痕跡が多数見付かっている旨主張するが、前記(2)〔被告らの主張〕イと同様の理由から、上記各ソフトウェアに含まれるP6(P7)XronoQR及びP6(P7)DcmSend、並びに、P6XronoServerは、いずれも正規の被告製品のものではなく、原告各ソフトウェアを利用したテストツールであることは明らかである。
ウ 依拠性
 原告各ソフトウェアと被告各ソフトウェアの各ソースコードは、全く異なるものであって、被告各ソフトウェアは、被告会社によって原告ソースコードに依拠せずに開発されたものである。
エ 証明妨害の有無
 前記(2)〔被告らの主張〕ウと同様の理由で証明妨害はない。
 被告各ソフトウェアのソースコードの変更は、機能の改善のために適宜行われてきたものであって、証拠隠滅を図ったものではない。
 厚労省告示は、バージョン情報の記録及び管理を求めるものであって、ソースコードの保管を義務付けるものではなく、被告各ソフトウェアにはソースコードが管理できないものも存在するのであって、被告会社は、バイナリファイル、バージョン情報、変更履歴を管理しており、認証機関の認証も受けている。原告においても、被告P2、P4、P3が在籍していた当時、原告においてソースコードの保管に関するルールはなく、全てのバージョンのソースコードを保存しておらず、上書きを繰り返す形でソースコードの修正を行っていた。
 また、被告各ソフトウェアのソースコードは、被告会社の営業秘密であって被告会社は提出義務を負わず、提出を拒むことに正当な理由があるので、証明妨害には該当しない。
(4)被告P2の共同不法行為の成否(争点4)
〔原告の主張〕
 被告P2は、原告の元開発課課長であり、現在は被告会社の代表取締役の一人であって、P3ほかの原告従業員の集団離脱に関係していたと考えられるから、原告に対する加害について故意又は過失があり、被告会社との共同不法行為が成立する。被告P2は、平成21年10月31日に原告を退職するや否や被告会社の取締役に就任し、平成24年3月のメディカル事業部門の立ち上げに関与したところ、この頃、P3が原告ソースコードを保有して被告会社に合流し、被告会社が原告ソースコードを不正使用したという事情に照らせば、被告P2が原告ソースコードの不正使用に全く関知していないなどということは考えられない。
〔被告P2の主張〕
 争う。P3ほかの原告従業員が原告を退職したのは、労働条件の一方的な不利益変更を強いられたこと等を理由とするものであって、被告P2は関与していない。また、被告P2は、被告会社のカメラ事業(ネットワークカメラシステムの開発等)を担当しており、メディカル事業にはその立ち上げ時以降関与していない。
(5)損害の発生及びその額(争点5)
〔原告の主張〕
 被告会社は、平成24年4月から平成30年9月30日までの6年6か月の期間において、被告製品を少なくとも1台400万円で、合計650台(年間100台)販売しているので、合計売上額は26億円であり、被告製品の限界利益率は少なくとも40%である。また、被告製品は、原告ソースコードを用いて製作されたワークステーションと併せてモニター等とのセット販売がされているが、被告製品全体に対する原告ソースコードの寄与は50%を下ることはない。
 したがって、不競法5条2項ないし著作権法114条2項により推定される原告の損害額は、5億2000万円(26億円×0.4×0.5)である。
 さらに、原告は、不競法5条3項3号により推定される使用料相当額の損害も選択的に主張するところ、上記合計売上額26億円に使用料率20%を乗じて算出するのが相当であるから、原告の損害額は5億2000万円となる(なお、不競法5条2項による推定が覆滅された場合には、その覆滅部分につき同条3項による損害を主張する。)。
〔被告らの主張〕
 争う。
(6)差止め及び廃棄の必要性の有無等(争点6)
〔原告の主張〕
 原告は、著作権法112条1項に基づき、被告各ソフトウェアの複製、翻案及び複製物の譲渡の差止めを求めるとともに、同項及び不競法3条1項に基づき、被告製品の製造・販売等の差止めを求める権利を有し、さらに、著作権法112条2項及び不競法3条2項に基づき、被告製品及び被告各ソフトウェアを記録した記録媒体の廃棄を求める権利を有しており、これらを求める必要性も認められる。
〔被告らの主張〕
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告ソースコードの営業秘密性(秘密管理性))について
(1)認定事実
 前記前提事実並びに証拠(後掲のほか、甲12、37、65、69、乙40、41、57、58、証人P3、原告代表者P1)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これに反する事実は認めるに足りない。
ア 原告は、平成17年10月頃に原告製品(マンモグラフィ画像診断システム)を開発し、以後、原告製品の製造・販売を継続しており、原告製品は、平成24年12月に、近畿経済産業局長より「関西ものづくり新撰2013」に選定されている。(甲1)
イ 原告の部署は、少なくともP3が退職した平成24年2月末までは、開発課、サービス課、営業課及び総務課(総務課の有無は時期による。)に分かれており(以下、「開発課」などというときはいずれも原告の部署である。)、開発課及びサービス課には課長職が置かれ、その上役は原告代表者のP1であった。また、原告の従業員数は、平成16年9月時点(P3の入社時点)で15名程度、平成24年2月末時点で11名程度であり、この間は多くても15名程度であって、営業課の従業員には社用のノートパソコンが、その余の従業員には社用のデスクトップパソコンが支給されていた。
ウ 原告製品の開発は、遅くとも平成17年の初め頃までに開始され、同年10月頃から製造・販売が開始されて以降、開発課において開発が継続されており、平成21年7月に原告を退職したP4はビューワ部分の開発を担当していた。平成24年2月末時点では、ビューワ部分の開発はP8が、サーバー部分及び所見レポート部分の開発はP3が担当していた。
エ 原告各ソフトウェアのプログラムのソースコード(このうち、平成23年12月当時のものが原告ソースコードである。)は、P3が在職していた当時、リリースされた製品のものは原告社内の共有サーバーに保存される一方、開発中の最新バージョンは担当者の社用パソコンに保存されるほか、定期的に共有サーバーにもバックアップとして保存されていたが、保存に関する明確なルールは存在せず、各従業員に割り当てられたユーザー名とパスワードをパソコンに入力してログインすれば、開発課の従業員に限らず、原告従業員(役員を含む。)全員がアクセス可能であった。また、従業員の退職時には、ソースコードは共有サーバーに保存し、パスワードも引き継いでいた。
オ 開発課の従業員は、原告製品の顧客先に出向いて作業をする際、必要に応じて、私有のノートパソコンに原告各ソフトウェアのソースコードをコピーして保存し、社外に持ち出すことがあった。その場合、当該従業員は、私有のノートパソコンに社用パソコンと同じユーザー名とパスワードを入力し、社内ネットワークにアクセスしていた。
 ソースコードの上記社外持ち出しについては、禁止や許可に関する明確なルールは存在せず、P1が口頭で許可をしたことはあったものの、従業員個人に任せていたこともあり、P1が社外持ち出しの全てを把握していたわけではなかった。また、従業員が顧客先から帰社した際に、私有のノートパソコンからソースコードを削除するなどの措置については、原告としては特段の管理を行っていなかった。
カ P4は、原告製品のうちビューワ部分の開発を担当していたが、平成21年7月31日に原告を退職し、その際、原告に対し、「退職後における秘密保持誓約書」及び「秘密情報確認書」を提出した。これらには、在職中に業務で作成した又は他の社員が作成したソフトウェアのソースコード等の秘密情報を、退職後、退職者自身や第三者のために、開示、遺漏もしくは使用しないことを約束する旨が記載されている。(甲13)
キ P1は、平成22年2月12日、P4に対して以下の(ア)の電子メールを送信し、P4は、同月15日、P1に対して以下の(イ)の電子メールを返信した(甲35、乙3)。
(ア)下記の件について分かれば教えて下さい。(中略)今、レポートの8ビットモノクロデータがISD多階調でうまく表示出来ずに困っています。256階調モードでは表示出来ますが1276階調モードで表示が出来ません。256階調データから1276階調のLUTへ変換が必要だと思います。これはNアルゴリズムの中で行っている処理でしたか。よろしくお願いします。
(イ)お問い合わせの件ですが、8ビットから高階調への変換テーブルは、無意味ですので、対応していないと思います。必要であれば、新たに作成する必要があります。以上、よろしくお願いします。
ク P1は、P11が原告を退職する前に、同人に対して以下の(ア)の内容を含む電子メールを送信した。これに対し、同人は、平成24年2月29日に以下の(イ)の内容を含む電子メールを返信し、同日をもって原告を退職した。(甲11の2)
(ア)下記の件、必ずお願いします。「退職後における秘密保持誓約書」の提出健康保険証の返却(中略)その他会社から貸与されたもの、その他会社に属するものは直ちに返還して下さい。在職中に知り得た秘密事項について、退職後も守秘義務の責任を負うこと
(イ)返却物につきましては、社長室の机の上に置かせていただきました。(中略)「誓約書」についてですが、情報漏洩は、致しませんが、文面であいまいな表現が、ある為、提出は、拒否させていただきます。
ケ P1は、P3が原告を退職する前に、P3に対して前記ク(ア)と同内容の電子メールを送信した。これに対し、P3は、平成24年2月29日に、「追伸)健康保険証(中略)は社長室の打合せデスク上の返却させていただきました。(中略)また秘密保持誓約書に関してですが、内容を拝読し熟考させていただいた結果、内容に曖昧な表現があり、捉え方次第でどのようにも認識できるという感じを受け、損害賠償などの記載もございますので、申し訳ございませんが署名はお断りさせていただきます。もちろん、在職中に知り得た秘密事項についての退職後における守秘義務に関しましては当然のことですので遵守いたします。」との内容を含む電子メールを返信し、同日をもって原告を退職した。退職の際、P3は原告ソースコードを保有したままであった。(甲11の1)
コ 原告は、平成24年4月1日、「59条(退職後の機密保持)従業員が退職する場合、機密保持に関する『誓約書』を提出しなければならない。解雇及び懲戒解雇の場合も同様とする。」、「68条(諭旨退職、懲戒解雇の事由)次の各号の一に該当する場合は、諭旨退職又は懲戒解雇とする。(10)故意又は重大な過失により事業の秘密を漏洩し、又は漏洩しようとしたことが明らかであるとき(19)会社もしくは取引先の物品、情報等を許可なく持ち出し、または持ち出そうとしたことが明らかなとき」との条項を含む就業規則を制定し、この就業規則は同日施行された。
 原告においては、上記59条及び68条と同じ条項を含む平成23年4月1日付けの就業規則案が存在し、同月14日に社会保険労務士による原告従業員への説明会が行われたところ、同年5月19日に同説明会を踏まえた従業員の検討会が行われ、議事録(甲10。「2010/05/19」とあるのは「2011/05/19」の誤記である。)が作成された。同議事録には、上記59条及び68条に関する記載は存在しないが、「就業規則に関する問題点」として待遇面に関する就業規則案の問題点が列挙されている。(甲4、8〜10)
(2)判断
ア 不競法2条6項にいう「秘密として管理されている」といえるためには、当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるような措置が講じられ、当該情報にアクセスできる者が限定されているなど、当該情報に接した者が、これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していることを要するというべきである。
イ これを本件についてみるに、前記認定事実のとおり、原告製品は、医療用画像診断システムの開発という原告の主たる事業に関するものであり、P3が原告を退職した平成24年2月の時点でも、原告が製造・販売を開始してから6年以上が経過しており、同年12月には、「関西ものづくり新撰2013」に選定されるなど、マンモグラフィ画像診断ワークステーションとして一定の評価を受けていたものと認められる。そうすると、かかる原告製品に含まれている(搭載されている)原告各ソフトウェアのプログラムのソースコードは原告の事業にとって重要なものであり、原告の少なくとも開発担当の従業員においてもその点は理解していたことは認められる。
 しかしながら、原告ないしその代表者であるP1による原告各ソフトウェアのプログラムのソースコードの管理体制はずさんなものであったといわざるを得ない。
 すなわち、前記認定事実のとおり、リリースされた原告製品のソースコードは原告社内の共有サーバーに保存されていたところ、平成24年3月までは、就業規則も含め保存に関する明確なルールは存在せず、原告従業員全員が、原告から割り当てられたユーザー名とパスワードをパソコンに入力してログインしさえすれば上記ソースコードにアクセス可能であった(上記ソースコード自体へのアクセスを制限するルールはなく、後記のように、開発課の従業員が顧客先に出向いた際にソースコードを利用する機会が相当程度あり、また、従業員の退職時にはパスワードの引き継がれていたことからすると、ソースコードのファイルにパスワードが設定されていたとしても、従業員間で適宜共有されていたものと認められる。)。また、開発中の最新バージョンは担当者の社用パソコンに保存されるほか、定期的に共有サーバーにバックアップされていたが、秘密管理の観点からの何らかの措置が定められていたとは認めるに足りない。さらに、P3は、従業員全員がアドミニストレーターのユーザー名及びパスワードを知っていた旨証言するところ、アドミニストレーターのユーザー名及びパスワードが原告の社内で厳格に管理されていたとは認められず、開発担当者以外の者が開発担当者の社用パソコンにログインして保存データを確認することもできた可能性は十分に認められる。そうすると、原告の従業員数が多くても15名程度であったことを考慮しても、社内での秘密管理はほとんどされていなかったに等しいといえる。
 加えて、開発課の従業員は、原告製品の顧客先に出向いて作業をする際、私有のノートパソコンに原告各ソフトウェアのソースコードをコピーして保存し、社外に持ち出すことがあり、その際は、私有のノートパソコンに社用パソコンと同じユーザー名とパスワードを入力し、社内ネットワークにアクセスしていた。上記ソースコードの社外持ち出しの禁止や許可に関する明確なルールは存在せず、従業員が顧客先から帰社した際に、私有のノートパソコンからソースコードを削除するなどの措置についても、原告として特段の管理を行っていなかった。この点に関し、P1は、上記のようなソースコードの社外持ち出しは年に数回程度のことであり、P1が口頭で許可をしていた旨供述するが、他方で、持ち出しを従業員個人に任せており、P1が社外持ち出しの全てを把握していたわけではなく、P3が許可をしていたこともあったかもしれないというのであるから、むしろ、P3が証言するとおり、ソースコードの社外持ち出しは相当程度の回数に及んでいたと認められる。
 そして、前記認定事実のとおり、P1は、原告を退職してから半年以上も経つP4に対し、原告各ソフトウェアについて電子メールで、ソースコードを保持していなければ対応が困難と考えられる質問をしていることから、原告各ソフトウェアのソースコードの退職後の保持をP1が少なくとも一定程度黙認していたと解される。
 以上の事情を総合すると、原告ソースコード自体の重要性を考慮しても、その秘密管理が極めてずさんであったことなどに鑑みれば、原告において、原告ソースコードを含む原告各ソフトウェアのプログラムのソースコードにつき、当該情報に接した者がこれが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していたと認めることはできない。
 したがって、原告ソースコードは、不競法2条6項の「秘密として管理されている」との要件を欠き、同項所定の「営業秘密」に該当するとは認められない。
ウ これに対し、原告は、情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(客観的認識可能性)との秘密管理性の判断要素を満たす場合に、アクセス制限が不十分であることのみをもって秘密管理性が否定されることはないとして、P3やP11も、同時に退職した別の従業員(甲5)と同様に、退職時には「退職後における秘密保持誓約書」のほか、ソースコードを秘密保持対象とする旨の「秘密情報確認書」も示されていた旨、また、パソコン内情報の社外持ち出し禁止などの就業規則の内容は平成23年4月に開かれた従業員説明会等で従業員に周知されていた旨を主張する。
 しかしながら、前記イで判示したとおり、原告ソースコードの重要性やその点に関する開発担当の従業員の理解、原告の会社の規模を考慮しても、原告におけるソースコードの管理はずさんであり、その規模に応じた必要な秘密管理が行われていたとは認められない。P3やP11の原告在職中にはソースコードを含むパソコン内情報の社外持ち出し禁止のルールは黙示的にすら存在したとは認められず、退職時にもソースコードを含む秘密情報に関する秘密保持を誓約する旨の就業規則は存在しなかった。平成23年4月に原告主張の就業規則案が説明されたとしても、当該案には異論が示され、従業員が了解するところとはなっていなかったから、平成24年3月まではパソコン内情報の社外持ち出し禁止等につき従業員に周知されていたと認めるには足りない。原告の主張は採用できない。
エ 以上によれば、不競法に基づく原告の請求は理由がない。
2 争点3(原告ソースコードに関するプログラム著作権(複製権・翻案権・譲渡権)侵害の有無)について
(1)認定事実等
 前記前提事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実等が認められる。
ア 原告各ソフトウェアのうち、(a)MGViewに係る平成23年12月当時のソースコードの抜粋(原告ソースコードの一部)は、甲51の1(MGViewView.cpp。黄色マーカー部分は「画像のフィルム出力時にMLO左右とCC左右を1枚のフィルムへ2on1で出力できる」という機能に係る部分であり、青色マーカー部分はROI(関心領域)計測機能に係る部分である。)、甲51の2(MGViewWnd.cpp。
 黄色マーカー部分は「画像のフィルム出力時にMLO左右とCC左右を1枚のフィルムへ2on1で出力できる」という機能に係る部分であり、青色マーカー部分はROI(関心領域)計測機能に係る部分である。)、甲52の1(DlgMeasureROI.cpp。黄色マーカー部分はROI(関心領域)計測機能に係る部分である。)及び甲52の2(DlgMeasureROI.h。黄色マーカー部分はROI(関心領域)計測機能に係る部分である。)のとおりであり、被告各ソフトウェアのうち、(a)NCViewに係る令和4年2月ないし3月当時のソースコードの抜粋は、乙30の1(MDView.cpp)、乙30の2(MDWnd.cpp)、乙32の1(NCStatROIDlg.cpp)及び乙32の2(NCStatROIDlg.h)のとおりである。
 そして、両ソースコードをそれぞれ対比すると乙29及び乙31のとおりとなる。
イ 原告各ソフトウェアのうち、(c)DcmQRに係るソースコードの抜粋(原告ソースコードの一部)は、甲46の1(DcmQRDlg.cpp。黄色マーカー部分は患者名等で検索を行う等の機能に係る部分である。)及び甲46の2(ListDlg.cpp。黄色マーカー部分は患者名等で検索を行う等の機能に係る部分である。)のとおりであり、被告各ソフトウェアのうち、(c)XronoQRに係る令和4年3月当時のソースコードの抜粋は、乙27のとおりであって、両ソースコードを対比すると乙25のとおりとなる。
ウ 原告各ソフトウェアのうち、(d)EzSendに係るソースコードの抜粋(原告ソースコードの一部)は、甲47の1(EasySendDlg.cpp。黄色マーカー部分はリスト作成等の機能に係る部分である。)及び甲47の2(MyDicomDir.cpp。黄色マーカー部分はリスト作成等の機能に係る部分である。)のとおりであり、被告各ソフトウェアのうち、(d)DcmSendに係る令和4年3月当時のソースコードの抜粋は、乙28のとおりであって、両ソースコードを対比すると乙26のとおりとなる。
エ 原告は、原告各ソフトウェア(原告ソースコード)のうち、(b)Ais、(e)mammarymanager及び(f)DcmView4については、ソースコードを提出していない。また、原告は、被告各ソフトウェアのうち(e)MDReport及び(f)XronoListのソースコードが原告ソースコードを複製・翻案して製作されたことについて具体的主張立証はないとしている。
オ 被告会社は、被告各ソフトウェアにつき、過去のバージョン(平成30年9月当時のバージョン)のソースコードは保存せずに消去したとしており(証人P3、弁論の全趣旨)、同月当時の被告各ソフトウェアのソースコードは、証拠として提出されていない。
(2)判断
ア 原告ソースコードの創作性及び原告ソースコードと被告製品のソースコードの類否
(ア)前記認定事実等によれば、原告が証拠として提出したソースコードと被告らが証拠として提出したソースコードには、記述内容や構成等に大きな違いがあり、仮に原告提出のソースコードの創作性(著作物性)を前提としても、被告ら提出のソースコードについて、原告提出のソースコードの表現部分において同一性を有する又は表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとは認め難い(原告も、被告会社が「現在のバージョンの被告製品のソースコード」として提出したソースコードが原告ソースコードと類似しないことを認めている。)。したがって、被告各ソフトウェアのうち、(a)NCViewに係る令和4年2月ないし3月当時のソースコード、(c)XronoQRに係る同年3月当時のソースコード、(d)DcmSendに係る同月当時のソースコードは、いずれも、原告各ソフトウェア(原告ソースコード)のうち、(a)MGView、(c)DcmQR及び(d)EzSendに係るソースコードを複製又は翻案したものとは認められず、原告のプログラム著作権を侵害するとは認められない。
 また、原告は、原告各ソフトウェア(原告ソースコード)のうち、(b)Ais、(e)mammarymanager及び(f)DcmView4については、ソースコードを提出せず、かかるソースコードの創作性(著作物性)及び被告会社による複製又は翻案の事実が立証されていないから、原告のプログラム著作権の侵害は認められない。
(イ)そこで、平成30年2月ないし9月頃の被告製品の(a)NCView、(c)XronoQR及び(d)DcmSendのソースコードが原告のソースコードを複製又は翻案して製作されたものであるかにつき、検討する。
a 原告は、@P6(P7)XronoQRとP6(P7)DcmSendは、それぞれ原告製品の(c)DcmQRと(d)EzSendと全体にわたって実質的に同一のプログラムであり、P6(P7)NCViewは原告製品の(a)MGViewの表現上の本質的特徴を感得することができるところ、P6各ソフトウェア及びP7各ソフトウェアは平成30年2月ないし9月時点における被告製品に実装されていたソフトウェアであり、少なくともその頃まで原告ソースコードを複製ないし翻案したことが明らかなソフトウェアのプログラムが被告製品に実装されていたと主張する。
(a)しかし、P6NCViewのソースコードに原告製品の(a)MGViewのソースコードを複製又は翻案したものが使われていることについて、ソースコードを対比した上での立証はされていない。P6NCViewと平成30年当時の被告製品に一般的に含まれていた(a)NCViewが同じものであることは被告らも争っていないが、被告製品の(a)NCViewには被告会社のP4が自ら開発したDICOMライブラリ(DICOMビューワの処理全般に必要不可欠なアルゴリズム)が使用されているのに対し、原告製品の(a)MGViewにはそれとは異なるDICOMライブラリが使用されており(弁論の全趣旨)、DICOMライブラリの違いによるソースコードの相違が存在することが考えられる。また、本件訴訟提起前である平成31年1月10日時点における被告製品の(a)NCViewのバイナリ情報に含まれるリソースのデータ(乙9)は、令和3年時点における被告製品に含まれるリソースファイル(乙8の3)と共通部分が多く、原告製品のもの(甲7の2、27の3)とは異なっている。さらに、令和3年時点における被告製品の(a)NCViewのCPPファイル、ヘッダーファイル及びリソースファイル(乙8)は、原告製品の(a)MGViewのもの(甲27)とは大きく異なっている(被告製品のCPPファイル数は99、CPPファイルの行数は17万3062、ヘッダーファイル数は106、ヘッダーファイルの行数は1万6757である(乙8)のに対し、原告製品のCPPファイル数は79、CPPファイルの行数は8万2306、ヘッダーファイル数は123、ヘッダーファイルの行数は3万1990である(甲27)。リソースファイルを比較しても、両者に共通性はみられない(甲27の3、乙8の3)。)。これらの事情は、平成30年当時の被告製品に含まれていた(a)NCViewのソースコードが原告ソースコードとは異なることをうかがわせるものである。
 これに対し、原告は、P6NCViewにつき、原告製品の(a)MGViewと画面構成が細部(人為的ミスによって発生した行間の長さのずれ)まで一致すること、実行ファイル中に「MGView」の文字列が表示されること、ファイルの内容及びソースコード作成時に自動発番されるリソース番号まで一致するものが含まれること、P6NCViewの実行ファイルの中に、被告製品と無関係な機能であるDFCのオプション機能に係る文字列(原告ソースコード中にある「DFCはオプション機能で、ご利用したい場合メーカーに御連絡ください。」との文字列)やMGViewにおけるアプリケーション試用期日確認のためのコード(ダミー整数値)が存在することを指摘して、P6NCViewは原告ソースコードを複製して作成された旨主張する。
 しかし、平成31年1月10日時点及び令和3年時点の被告製品に係る前記認定の事情に加え、平成30年頃から現在に至るまでの間に被告製品の(a)NCViewのソースコードに大幅な変更が加えられた形跡も見当たらないことからすると、P6NCViewと原告製品の(a)MGViewとの間に原告の指摘する共通部分があるとしても、直ちに同年2月ないし9月当時における被告製品の(a)NCViewのソースコードが、原告製品の(a)MGViewのソースコードと類似している(表現上の本質的特徴を直接感得できる)とか、原告ソースコードに基づいて製作されたと認めることはできないというべきである。
(b)また、P6XronoQRにつき、原告製品の(c)DcmQRとリソース画像が共通し、リソース番号もほぼ一致し、マンモグラフィの機能とは無関係なABASやRTSTRACTの文字列が含まれること(甲7の1、7の4)、P6DcmSendにつき、原告の著作権表示が付され、原告製品の(d)EzSendと中身が同じ実行ファイル(StoreScu.exe)が存在し、(d)EzSendと実行ファイル中のリソース類やリソース番号がほぼ一致し、P6DcmSendの実行画面中に、(d)EzSendのバージョン情報が表示されること(甲7の3)が認められる。
 他方、被告会社が平成30年頃に販売していた被告製品の(c)XronoQR及び(d)DcmSendのフォルダのサイズ・構成(乙13、15)は、P6被告製品に含まれるフォルダ構成(甲70)とは異なっていること、被告会社が平成30年から平成31年にかけてP6クリニック以外の顧客(P10メディカルクリニック(平成30年4月納入)、順天堂大学医学部附属静岡病院(同年7月納入)、東名古屋画像診断クリニック(同年8月納入)、沼津市立病院(同年11月納入)、JR広島市民病院(平成31年3月納入))に納入した被告製品は、いずれも「ncam.bat」が実行される形でセットアップされ、「ncam.bat」はIPアドレスが「192.168.0.50」のサーバー(被告会社のメインサーバー)に保存されていたクライアント用パソコンに被告製品をセットアップするための「ncam.bat」であったのに対し(乙60〜68)、P6被告製品はIPアドレスが「192.168.0.52」のサーバー(被告会社の検証サーバー)に保存されている「ncam.bat」が実行された形となっていること(甲75)、検証サーバーにある「ncam.bat」が実行されると同サーバー内にあるテスト環境に使用されるソフトウェアがアクセスされたパソコンにコピーされること(乙54)も認められる。そうすると、検証サーバーに保存された「ncam.bat」が何らかの理由で実行されてしまい、平成30年当時の正規の被告製品とは異なるP6各ソフトウェアがP6クリニックに納入された製品に含まれることとなったとしても不自然ではなく、むしろ、その可能性が十分考えられるというべきである。この点につき、被告らは、検証サーバーに保存されていた「ncam.bat」が経験の浅い従業員の操作ミスにより実行されてしまい、テストツール(被告製品を顧客に納入後、不具合が発生した場合に、被告製品の一部のソフトウェアをテストツールに切り替え、問題の所在を特定するためのものであるが、顧客から要望された機能を試験実装して確認する目的でも用いられる。)が含まれることとなったと説明しているところ、それが不合理なものとはいえない(原告は、セットアップの方法につき被告らの主張に矛盾がある旨指摘するが、平成30年当時、作業方法としては、メインサーバーに保存されているドライブデータをコピーし「ncam.bat」を実行することにより、メインサーバーのデータを納入用パソコンにダウンロードしていたものと認められる(乙54、56)。乙47(南幸夫の陳述書)には、マスターCDに収められたソフトウェアを納入用パソコンにコピーした上でパソコンを納入する旨が記載されているところ、マスターCDからデータをコピーすることも、マスターCDのデータをいったんメインサーバーにコピーした上で同サーバー収められたマスターCDと同一内容のデータをコピーすることも、目的は同じでセットアップの作業方法としては両方あり得るのであり、実際には後者の方法が行われていたとしても、乙47の記載に矛盾があるとまではいえない。)。
 そして、原告製品の(c)DcmQR及び(d)EzSendはプログラミング言語C++で記述されているのに対し、現在の被告製品の(c)XronoQR及び(d)DcmSendはプログラミング言語C♯で記述されているところ、平成30年2月ないし9月頃から現在に至るまでの間に被告製品のソースコードのプログラミング言語をC++からC♯に変更した形跡が見当たらないことをも踏まえると(前提事実(2)及び(3)、弁論の全趣旨)、P6XronoQR及びP6DcmSendと、原告製品の(c)DcmQR及び(d)EzSendとの間に前記の共通点があったとしても、被告製品の(c)XronoQR及び(d)DcmSendが、原告ソースコードに基づいて製作されたとは認めるに足りないというべきである。
(c)なお、P7各ソフトウェアにつき、原告は、原告代表者が、平成30年2月22日、P7総合病院を訪れた際、たまたま被告製品を操作して動作確認を行い、実行ファイルをUSBメモリにコピーしてP7被告製品を入手した旨主張する。
 しかし、原告の主張によれば、当該ファイルを本件訴訟提起の約2年前に入手したにもかかわらず、原告がこれを逆コンパイルして解析した上、「P7XronoQRとP6XronoQRは同一の実行ファイルであり、P7DcmSendとP6DcmSendはほぼ同じである」旨主張したのは、提訴後約2年が経過してからである。また、実行ファイルの入手状況もあいまいであり、原告代表者が、香川県総合健診協会の外部読影依頼先調査の一環で同協会の診療放射線技師らとともに同病院を訪れ、同技師や医師の立会の下、USBメモリを調査先のパソコンに差し込んで動作説明をするとともに、モニターの配置構成等の、パソコンの内容や構成等を確認した際、被告製品のパソコンは使うもののソフトウェアは起動しておらず、原告のソフトウェアを使用したというのであるが、どのタイミングで被告製品のソフトウェアの内容を閲覧し、データをコピーすることができたかについては具体的な説明がされていない(甲63、65、原告代表者)。
 以上の事情にかんがみると、P7各ソフトウェアがP7総合病院において入手されたものであることについて疑義があり、これを前提とする原告の主張は採用できない。ただし、仮にP7各ソフトウェアがP7総合病院において入手されたものであるとしても、前記(a)及び(b)からすると、それらが平成30年当時の被告製品とまでは認めるに足りず、結論は左右されない。
(d)時機後れの主張について
 原告は、被告らが、当初、P6XronoQR及びP6DcmSend等は被告製品が正常に作動しない場合の動作検証のために配置したテストツールであると主張したが、主張に変遷があり、令和5年11月15日付け第11準備書面により「従業員Aが、P6クリニックに納入する予定のパソコンをセットアップする際に、誤って検証サーバー内の「ncam.bat」を実行してしまった可能性が極めて高いのであり、当初からテストツールを実装していた」と再度主張を変遷させたところ、主張の変遷に合理的な理由はなく、再度の変遷に係る主張は、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)であるとして却下を申立てている。しかし、同日時点は未だ弁論準備手続において争点整理中であり、被告らは、原告提出の甲75の内容に反論したものであって、時機に後れたとはいえない。よって、原告の申立てを却下する。
 被告らは、原告が、口頭弁論終結が見込まれる期日の近くである令和6年5月8日付けで、甲77ないし79の証拠を提出するとともに、原告第14準備書面において、@P9市民病院から回収した被告製品に含まれるバックアップファイルとして提出されている乙38の内容は、平成30年当時に実際に使用されていたプログラムであることと矛盾していること、AP7総合病院において切替ツールが実行されたのは令和5年10月であると考えられること、B切替ツールと主張されているソフトウェアの挙動が不自然であることを主張したが(同準備書面の第1の3の「これに加えて…判明した。」の部分及び第2)、これらについては、被告らの主張に対する反論の機会は十分にあったから、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条)であるとして却下を申し立てている。上記の主張及び証拠は、弁論準備手続終結(令和6年1月16日)後、人証の取り調べが終了し、損害論を除いては、審理が全て終わった段階で提出されたものであるところ、P9市民病院から回収された被告製品のバックアップファイルによれば平成28年時点の被告製品と現在の被告製品においてXronoQR、DcmSend及びXronoServerのフォルダ構成がほぼ同一である旨の主張は、被告らの令和4年10月24日付け第7準備書面において示され、その頃、原告は乙38の写しを受領し、また、P7総合病院において切替ツールが実行された旨の主張は、被告らの令和5年11月15日付け第11準備書面において示され、その頃、原告は乙58の写しを受領していたものである。これらの経緯からすれば、原告による上記の主張及び証拠は、いずれも弁論準備手続中に十分提出することができたものであり、少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であって、訴訟を遅延させることが明らかといわざるを得ないから、これらを却下する。ただし、これらの攻撃防御方法によっても、平成30年当時の被告製品に原告ソースコードが複製又は翻案されて使用されていた旨の原告主張の事実が直ちに裏付けられるとはいえず、その採否によって結論は左右されないものと解される。
b 原告は、現在のバージョンの被告各ソフトウェアのうち(c)XronoQR及び(d)DcmSendのソースコードがC♯言語で記述されているところ、平成30年2月ないし9月当時の被告製品の(c)XronoQR及び(d)DcmSendのソースコードがC++言語で記述されていたことを前提に、C++言語で記述されたソースコードをC♯言語に変更して一から書き直すことは考え難いとして、現在のバージョンの被告製品が全面的にC♯言語で書き直されたものであることが証明されない限り、被告製品には現在も原告ソースコードを複製ないし翻案したC++言語のソースコードをコンパイルしたソフトウェアが実装されていると推認すべきであると主張する。
 しかし、前記a(a)及び(b)の判示に照らせば、平成30年9月頃の被告製品の(c)XronoQR及び(d)DcmSendのソースコードがC++言語で記述されていたとは認定できないから、原告の主張は前提を欠く。
イ 証明妨害の有無
(ア)原告は、被告会社が、原告による文書提出命令の申立て(令和2年11月30日付け。被告各ソフトウェアのソースコード等の提出を求めるもの)の後に被告各ソフトウェアのプログラムのソースコードを修正したことは民訴法224条2項の証明妨害に当たる旨主張する。しかし、前記アの説示を踏まえれば、上記のソースコードの修正(それ自体は被告会社も認めている。)は、原告による文書提出命令の申立てとは無関係と考えられ、これに反する事情は見当たらないから、「相手方(原告)の使用を妨げる目的で」されたものと認めるには足りない。
 また、原告は、プログラムを用いた医療機器については、厚労省告示のうち、12条2項の規定(プログラムを用いた医療機器に対する配慮)により、リリースした版の全てのバージョン情報の記録と保管が義務付けられているにもかかわらず、被告会社が、被告各ソフトウェアの過去のバージョンのソースコードを消去したことは、民訴法224条2項の証明妨害に当たる旨主張する。しかし、原告の主張ないし提出証拠を踏まえても、被告会社において、被告各ソフトウェアの変更管理記録ないしバージョンの履歴記録を保存すべきものとは認められても、過去のバージョンのソースコード自体を保存すべき法令上の義務があるとまでは解されず、被告会社が、これまでに関係機関からの指導等を受けた形跡も見当たらないことからすれば(甲23、乙39)、被告会社が被告各ソフトウェアの過去のバージョンのソースコードを消去したことが、「相手方(原告)の使用を妨げる目的で」されたものとは認められない。
(イ)なお、被告らは、原告による甲80の1ないし3の証拠提出と、原告第14準備書面における、P3が原告在職中に作成したソースコードは全てバージョンごとに保管がされていることの主張につき、時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条)として却下を申し立てている。しかし、上記証拠提出は、P3の証言の弾劾証拠としての意味合いを有するものであるし(民訴規則102条本文)、上記主張もそれに関するものであるから、時機に後れた攻撃防御方法とは認められず、被告らの上記申立てを却下する。ただし、P3が原告在職中に作成したソースコードにつき、過去のものを削除しなかったとしても、だからといって、被告会社において、被告各ソフトウェアの過去のバージョンのソースコードを保存していたとまで認められるものではなく、前記(ア)の判断は左右されない。
ウ したがって、原告の主張はいずれも理由がなく、被告会社による、原告各ソフトウェア(原告ソースコード)に係る原告のプログラム著作権の侵害は認められない。
3 結論
 よって、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 武宮英子
 裁判官 阿波野右起
 裁判官 西尾太一


(別紙)物件目録
 被告会社が製造販売している別紙被告製品目録記載の製品に収納された下記ソフトウェア

(a)ビューワソフト「NCView.exe」
(b)画像受信・保存サーバーソフト「XronoServer.exe」
(c)画像転送要求ソフト「XronoQR.exe」
(d)CD内画像取り込みソフト「DcmSend.exe」
(e)レポートソフト「MDReport.exe」
(f)画像管理ソフト「XronoList.exe」
 以上

(別紙)被告製品目録
 被告会社所有のマンモグラフィ読影診断ワークステーション
(製品名:mammodite(マンモディーテ))
 以上

(別紙)原告製品目録
1 原告製品
 原告所有のマンモグラフィ画像診断システム:Mammography-Workstation
(製品名:mammary(マーマリー))
2 原告製品に含まれるソフトウェア
(a)「MGView.exe」(ビューワソフト)
(b)「Ais.exe」(画像受信・保存サーバーソフト)
(c)「DcmQR.exe」(画像転送要求ソフト)
(d)「EzSend.exe」(CD内画像取り込みソフト)
(e)「mammarymanager.exe」(レポートソフト)
(f)「DcmView4.exe」(画像管理ソフト)
 以上

(別紙)ソースコード目録
 原告製品(平成23年12月当時のもの)に搭載されているコンピュータ・プログラムのソースコード
 以上
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/