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【事件名】宣材写真事件(2)
【年月日】令和6年6月24日
 知財高裁 令和6年(ネ)第10020号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和5年(ワ)第20793号)
 (口頭弁論終結日 令和6年6月3日)

判決
控訴人 X
被控訴人 株式会社ジャストプロ
同訴訟代理人弁護士 四宮隆史
同 秋山光


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
 (本判決で用いる略語は、別に定めるほか、原判決に従う。)
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、160万円及びこれに対する令和5年10月19日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、控訴人(1審原告。以下「原告」という。)が、被控訴人(1審被告。以下「被告」という。)の実質的な指揮監督下にあったA(以下「A」という。)が、被告の事業の執行につき、原告撮影の写真を複製等して著作権を侵害する行為及び原告を虚偽告訴する行為に及び、これにより精神的損害を受けたと主張して、被告に対し、使用者責任(民法715条)に基づき、慰謝料160万円及びこれに対する各不法行為後の日である令和5年10月19日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審が原告の請求をいずれも棄却したところ、原告がこれを不服として控訴した。
1 当事者の主張
 後記2のとおり当審における当事者の補足的主張を加えるほかは、原判決「事実」第2(原判決1頁23行目から3頁13行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、引用文中「別紙」とあるのは「原判決別紙」と読み替える。
2 当審における当事者の補足的主張
(原告の主張)
(1)被告はAと配信に係る契約を締結していたこと
ア Aは、平成29年9月10日、「いま主催の会社とは配信の契約だけしててオーディションに合格したら声優として所属になるんです!」と発言しているから(甲14)、本件オーディションの主催者である被告との間で、インターネットライブ配信サービス「SHOWROOM」に係るオーガナイザー契約を結んでいたことになる。
イ 本件オーディションにおいて、被告以外のオーガナイザーと契約している配信者は「アカウント保有者予選女性」というカテゴリーで参加することになっていたが、Aがアカウントを保有していない「一般応募予選女性B」として参加していたことは、Aが被告とオーガナイザー契約をしていたことを示すものである。
ウ Aは、平成31年2月24日、同年3月末をもってSHOWROOMによる配信を終える旨発言している(甲15)。平成29年8月の配信開始以降、Aの配信ルーム及び配信アドレスの変更はなく、平成31年3月3日、Aは、配信を終えるに当たり、「配信を終えるということはジャストプロも離れるということです」と投稿している(甲17)。これらは、それまでのAの配信活動が被告の下で行われていたことを示すものである。
エ 以上より、Aは、平成29年8月から平成31年3月までの間、被告と配信契約を結び、オーガナイザーである被告の下で配信していた。そうであれば、Aは被告との間で指揮監督関係にあったことになる。
(2)Aは、本件画像を掲載した年賀状をSHOWROOMのファンに宛てて出し、また、SHOWROOMのファンに本件画像をSNS上で使用させたから、いずれの著作権侵害行為もSHOWROOMの配信を基に行われたものであり、その管理責任はオーガナイザーである被告にある。
(3)Aが虚偽告訴に至ったのは、SHOWROOMでのAの言動が発端となっているから、オーガナイザーである被告には管理指導の責任がある。
(被告の認否)
(1)原告の主張(1)のうちAの発言内容は不知、その余は否認ないし争う。
(2)原告の主張(2)は不知ないし争う。
(3)原告の主張(3)は否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、以下のとおり当審における原告の補足的主張に対する判断を付加するほかは、原判決「理由」1から3まで(原判決3頁15行目から4頁17行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における原告の補足的主張に対する判断
(1)原告は、甲14、15及び17に記載されたAの発言を前提とすると、AがSHOWROOMにおいて配信を行っていた平成29年8月から平成31年3月までの間、被告との間で配信に関する契約を締結しており、被告と指揮監督関係にあった旨主張し、確かに、甲14、15及び17には、Aと被告との間に何らかの契約関係があったことを窺わせるような各記載がある。
 しかし、仮に被告とAの間で配信に関する何らかの契約が締結されていたとしても、その具体的内容は証拠上不明であり、原告の主張に係る「オーガナイザー契約」の内容自体、甲5によっても、その内容が明確であるとはいうことはできない。それのみならず、SHOWROOMを利用した被告主催の本件オーディションが平成29年9月に終了していること(甲2〜4、10)と併せ考えると、前記甲14、15及び17の各記載は、Aが不法行為を行ったとされる平成31年1月頃以降にAが被告の指揮監督を受ける関係にあったことを推認させるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2)原告は、Aの著作権侵害行為は同人によるSHOWROOMの配信を基に行われたものであり、また、Aの虚偽告訴行為はSHOWROOMでのAの言動が発端となっているから、オーガナイザーである被告に管理監督責任がある旨主張する。
 しかし、被告とAとの間に民法715条の適用の前提となるような指揮監督関係が存在したことを認めるに足りる証拠がないことは前記のとおりであり、本件全証拠によっても、本件各不法行為が被告の事業の執行についてされた事実を認めることができないことは、前記引用した原判決のとおりである。そもそも、原告の前記主張は、Aの各行為の動機や経緯にSHOWROOMでの配信や言動が関係していたことをいうに過ぎず、被告の使用者責任その他の損害賠償責任を事実的・法律的に基礎付けるものではないから、主張自体失当である。
3 結論
 よって、原告の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 清水響
 裁判官 菊池絵理
 裁判官 頼晋一
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