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【事件名】トラベルサイトの写真等無断使用事件 【年月日】令和6年6月21日 東京地裁 令和4年(ワ)第11762号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年4月23日) 判決 原告 株式会社たび寅 同訴訟代理人弁護士 伊奈さやか 被告 有限会社栄太郎 同訴訟代理人弁護士 舟橋直昭 主文 1 被告は、原告に対し、72万4854円並びにうち11万3854円に対する令和3年11月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員及びうち61万1000円に対する令和4年7月8日から支払済みまで同割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、271万3854円並びにうち11万3854円に対する令和3年11月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員及びうち260万円に対する令和4年7月8日から支払済みまで同割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告を、同目録記載2の条件で、中日新聞及び岐阜新聞に各1回掲載せよ。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、被告に対し、@インターネットを通じたホテル予約システム、ホームページの制作等について、原告と被告との間で締結されたコンピューターメンテナンス契約(以下「本件契約」という。)に基づき、令和3年2月から同年9月までのインターネット総合集客サービス及びドメイン利用サービスの未払利用料(以下「本件利用料」という。)合計11万3854円及びこれに対する支払期限の翌日である同年11月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、A被告が、本件契約の解約後、原告が被告に対して提供していた別紙原告写真目録記載の各写真(以下「本件各写真」という。)及び別紙原告文章目録記載の各文章(以下「本件各文章」といい、本件各写真及び本件各文章を併せて「本件各写真等」という。)の複製物又は翻案物を、被告のホームページ(以下「被告ホームページ」という。)並びにじゃらん、じゃらんダイレクト、Yahoo!トラベル(以下「ヤフートラベル」という。)及びアゴダ等の旅行予約サイト(以下、これらの予約サイトを総称して「各種予約サイト」という。)に掲載し続けており、このような掲載行為は原告の本件各写真等に係る著作権(複製権、翻案権又は公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであると主張して、民法709条に基づき、損害金260万円(著作権侵害に係る損害210万円(著作権法114条3項により算定される額)及び著作者人格権侵害に係る無形損害50万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年7月8日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を、著作権法115条に基づき、謝罪広告の掲載を、それぞれ求める事案である。 なお、上記@について、被告が、原告に対し、本件利用料として合計11万3854円及びこれに対する支払期限の翌日である令和3年11月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負っていることは当事者間に争いがない。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 原告は、宿泊施設の集客サービスや宿泊料金システムを提供する株式会社である(甲1、弁論の全趣旨)。 被告は、「栄太郎」という名称の旅館(以下「本件旅館」という。)を運営する有限会社である。 (2)原告及び被告は、平成26年6月3日、インターネットを通じたホテル予約システム、ホームページの制作等を目的としてコンピューターメンテナンス契約(本件契約)を締結し、「コンピューターメンテナンス申込み兼契約書」と題する本件契約に係る契約書(以下「本件契約書」という。)を作成した。また、被告は、本件契約の締結と併せて「コンピューターメンテナンス(サイト代行)申込書」(以下「本件申込書」という。)を作成した(甲3)。 (3)本件契約は、令和3年2月28日に解約された。 3 争点 (1)本件各写真等の著作物性及び著作者(争点1) (2)著作権侵害の成否(争点2) (3)著作者人格権侵害の成否(争点3) (4)損害の発生及び額(争点4) (5)謝罪広告の必要性(争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件各写真等の著作物性及び著作者)について (原告の主張) (1)本件各写真の著作物性 ア 本件各写真はいずれも原告代表者が撮影した写真であるところ、原告代表者は、プロカメラマンとして、撮影の際は、対象となる被写体の構図、照明の配置、露出、シャッタースピード、感度、色温度、コントラスト及びカメラのモードなど、多岐にわたる項目を試行錯誤しながら決定している。 例えば、料理に関する写真については、一般的には提供される順番を意識して、先付や前菜、椀物、お造り(刺身)、焼き魚、肉、煮物、揚げ物、酢の物、ご飯、汁物、甘味などの順に前から並べるのが常識であるが、原告代表者はその常識を覆し、旅行者の目当てである飛●(騨の別体)牛を前に配置し、椀物や焼き魚を後ろに配置した。さらに、飛●(騨の別体)牛の霜降りの脂を目立たせつつ、透明感が出るように撮影時の温度にも気を配って撮影し、照明は意図的に影をつけて立体感を出した。このような工夫の結果、食欲をそそる、いわゆるシズル感ある作品が完成した。 また、客室に関する写真については、利用者のSNS投稿や口コミ投稿を意識して撮影している。従前は広角レンズを用いて広く見せるような構図を採用していたが、そのような構図を採用した場合、利用者が写真よりも実際の部屋が狭いことに不満を募らせて悪い投稿につながる可能性があるため、現在は、客室をあまり広く見せないような構図にして、その代わりに行灯を置くなどして客室の雰囲気を伝える撮影を行っている。 このように撮影された本件各写真には、原告代表者の感性や独自性が表れているものといえるから、著作物性(著作権法2条1項1号)が認められ、本件各写真は写真の著作物(同法10条1項8号)に該当する。 イ 被告は、別紙侵害目録(新ホームページ)の写真番号3の写真については、原告の従業員であったA1(以下「A1」という。)がインターネット上の無料写真サイトである「ぱくたそ」で掲載していた写真であると主張しているが、そのような事実はなく、上記写真は原告代表者が撮影した写真である。 原告代表者が撮影した写真は、A1が撮影した写真と比較して、コンロの炎の表現方法、サラダの盛り付け方等が異なっていることは明らかである。 (2)本件各文章の著作物性 本件各文章は、本件旅館の宿泊プランを記載したものであるところ、これを読んだ消費者が宿泊したくなるように、本件旅館の特色を前面に出している。特に本件旅館の宿泊プランでは料理が一つの目玉であるから、料理の内容、献立のみならず、旅館主が料理修業をしたことや、自ら山に入って食材を採取してくることなどの要素を加えた。また、その表現方法も、読む人の心をつかむために体言止めを利用したり、「口福」という独自の表現を用いたりするなど工夫している。宿泊プランについては、数ある旅館の特色から顧客誘引性があるものを選び、かつ、顧客の興味を引くような表現にしなければならず、誰が書いても同様の内容になるわけではない。 したがって、本件各文章は、このような視点から工夫されたものであり、ありふれた表現ではないから、著作物性(著作権法2条1項1号)が認められ、言語の著作物(同法10条1項1号)に該当する。 (3)本件各写真等の著作者 本件各写真等は、原告の発意に基づき、原告代表者等の原告の業務に従事する者が作成したものであり、著作者名が表示される場合は原告の名義で公表されるべきものである。そして、本件各写真等の作成時において、契約、勤務規則その他に著作権に関する別段の定めはない。 したがって、本件各写真等は、職務著作(著作権法15条1項)であって、その著作権は原告に帰属する。 (被告の主張) (1)本件各写真の著作物性 ア 原告は写真の販売等を業務とする写真館ではなく、原告代表者や原告の従業員が、写真の販売実績を有していたり、フリーランスの写真家として活動したりしているわけではない。 そして、本件各写真の被写体は、本件旅館の施設及び同旅館で提供されている料理にすぎないところ、その撮影は、旅館側から被写体の特徴等の情報提供を受けた上で行われるものであるから、撮影者の創意工夫の働く余地は全くない。施設の色調、配置等及び提供する料理の選択、盛付け等は、旅館側で選択しており、これらについて、原告の意向は何ら反映されていない。 実際に、被告は、従前契約していた株式会社メディアジャパン(以下「メディアジャパン」という。)が作成したホームページに関する資料を原告に提供しており、被告ホームページの内容は、上記の資料のほか被告の経営コンサルタントを務めていたB1(以下「B1」という。)の提案等を反映する形で作成されていた。 イ 別紙侵害目録(新ホームページ)の写真番号3の写真については、原告の元従業員であったA1がインターネット上の無料写真サイトである「ぱくたそ」において掲載していた写真であり、原告の著作物ではない。 ウ したがって、本件各写真は著作権法上保護される著作物に当たらない。 (2)本件各文章の著作物性 本件各文章は、プロの文章家等によって作成されたものではなく、その内容としても、施設や料理に係る客観的事実について記載したものにすぎない。 また、施設や料理の紹介内容、プランの説明等は、メディアジャパンが作成した従前の被告ホームページの記載やB1からの提案等を参考にして作成されたものであり、創作性が認められるようなものではない。 したがって、本件各文章は著作権法上保護される著作物に当たらない。 (3)本件各写真等の著作者 否認ないし争う。 2 争点2(著作権侵害の成否)について (原告の主張) (1)本件各写真について ア 被告による掲載行為について 被告は、本件契約の解約後、別紙侵害目録(写真)の「原告写真」欄記載の各写真を複製した写真を、同目録の「使用箇所」欄記載の被告ホームページ及び各種予約サイトに掲載し続けていた。そして、同目録の「使用箇所」欄に「H−1改」ないし「H―9改」と記載されている各写真(以下「本件改変写真」という。)は、別紙改変目録の「被告改変写真」欄記載のとおり、本件各写真の一部をトリミング等して翻案した状態で掲載されていた。 その後、被告は、原告から提供を受けていたサーバーから被告ホームページのコンテンツを削除するとともに、新しいドメインでホームページを立ち上げた(以下、新しいドメインの被告ホームページのことを「新ホームページ」といい、旧ドメインの被告ホームページのことを「旧ホームページ」という。)。そして、被告は、別紙侵害目録(新ホームページ)の「原告写真」欄記載の各写真を複製した写真を、同目録の「使用箇所」欄記載の新ホームページに掲載し続けていた。 イ 本件各写真の掲載期間について (ア)旧ホームページ及び各種予約サイトに係る掲載行為について掲載の始期は本件契約の解約日の翌日である令和3年3月1日であり、その終期は不明であるが、原告は、同月24日の時点で、旧ホームページ及び各種予約サイトに本件各写真を複製又は翻案した写真が掲載されていたことを確認していた。 そして、旧ホームページ及び楽天トラベルについては、少なくとも同年9月22日の段階で上記各写真が掲載されていたことを確認し、その旨の公正証書を作成している。なお、原告は、同日、アゴダについても上記各写真が掲載されていたことを目視で確認している。 (イ)新ホームページに係る掲載行為について 令和3年9月17日の時点で本件各写真を複製又は翻案した写真が掲載されていたことは明らかであるが、掲載の始期及び終期は不明である。 ウ 被告の主張について (ア)旧ホームページに係る掲載行為について 被告は、旧ホームページに本件各写真を複製又は翻案した写真を掲載することについて、原告の許諾があったと主張するが、そのような事実は存在しない。 (イ)各種予約サイトに係る掲載行為について 被告は、原告が各種予約サイトに掲載された本件各写真を複製又は翻案した写真を削除すべき義務を負っていたから、被告による掲載行為は著作権侵害行為とはならないと主張する。 しかしながら、各種予約サイトの写真の登録については、その管理者システムによって行われるところ、管理者が変更された場合、既存のコンテンツの削除等は新管理者が行うのが通常である。 本件においても、新管理者である被告は、管理者システムにログインして、自ら写真等の削除を行うことが可能であった。他方、本件契約の解約後に、原告が管理者システムにログインすることは不正アクセスにも該当し得る行為であり、原告にこのような行為をすべき義務が発生していたと解する余地はない。さらに、被告は、本件契約の解約後に行われた原告と被告との間の交渉において、各種予約サイトの写真等を自ら削除する旨の意向を示していた。 したがって、原告が被告の主張する義務を負っていたとはいえない。 (ウ)新ホームページに係る掲載行為について 被告は、新ホームページに係る写真を順次差し替えており、被告による著作権侵害行為は存在しないと主張するが、被告が提出した新ホームページに係る証拠(乙11)の印刷日時は令和5年7月28日となっており、それ以前の著作権侵害行為を否定する根拠にはなり得ない。 エ まとめ 以上の被告の掲載行為は、原告の著作権(複製権、翻案権又は公衆送信権。ただし、翻案権については本件改変写真に係る掲載行為に限る。)を侵害するものである。 (2)本件各文章について ア 被告による掲載行為について 被告は、本件契約の解約後、原告各文章を複製又は翻案して作成した別紙侵害目録(文章)の「被告各文章」欄記載の各文章(以下「被告各文章」という。原告各文章と被告各文章の対比については、別紙文章対比表のとおり。)を、同目録の「使用箇所」欄記載の各種予約サイト及び旧ホームページに掲載し続けていた。 イ 被告各文章の掲載期間について 掲載の始期は本件契約の解約日の翌日である令和3年3月1日であり、その終期は不明であるが、原告は、少なくとも、楽天トラベル及びじゃらんについては同年8月17日の時点で、じゃらんダイレクトについては同月19日の時点で、それぞれ掲載されていたことを確認している。 ウ まとめ 以上の被告の掲載行為は、原告の著作権(複製権又は翻案権及び公衆送信権)を侵害するものである。 (被告の主張) (1)本件各写真について ア 旧ホームページに係る掲載行為について(使用許諾の抗弁) 旧ホームページにおいて、結果的に、令和3年3月1日から同年4月10日まで、原告の主張する各写真が掲載されていたことは認める。 しかしながら、被告は、本件契約の解約後、写真の差替えを進めようとしていたものの、原告からの要望を受け、再契約に向けた協議が行われたのであり、その際に、原告から旧ホームページに掲載されていた各写真の掲載中止を求める連絡などはなかった。 そして、原告と被告との間の再契約に向けた協議が同年3月31日頃に決裂したため、被告は、同年4月10日までに写真の差替えを完了させている。 このような経過からすれば、原告は、被告による同年3月31日までの掲載行為を許諾していたものと解されるから、被告による掲載行為は原告の著作権を侵害するものではない。 イ 各種予約サイトに係る掲載行為について 原告が本件契約に基づき各種予約サイトの管理を行っていたことからすれば、原告は、本件契約の終了する直前又は直後に、各種予約サイトに掲載されていた写真等を削除して被告に返還すべき義務を負っていたものと解される。それにもかかわらず、原告はそのような義務を履行せず、その結果、各種予約サイトにおいて、原告の主張する各写真が掲載され続けてしまったのである。 そうすると、各種予約サイトに係る掲載行為は被告による著作権侵害行為と評価することはできない。 なお、原告は、本件契約の解約後の原告と被告との間の交渉において、被告が各種予約サイトの写真等を自ら削除する旨の意向を示していたと主張するが、上記交渉において、旧ホームページに係る掲載行為に係る議論はされていたものの、各種予約サイトに係る掲載行為はその対象とはされておらず、被告が原告の主張する意向を示した事実はない。 ウ 新ホームページに係る掲載行為について 被告は新ホームページに掲載する写真を順次差し替えており、被告が新ホームページにおいて、原告が著作権を有する写真を掲載した事実はない。 したがって、新ホームページに係る掲載行為について、被告による著作権侵害は成立しない。 エ まとめ 以上のとおり、本件各写真について、被告による著作権侵害は成立しない。 (2)本件各文章について 被告各文章が、結果的に令和3年4月10日まで掲載されていたことは認めるが、前記(1)アで主張したのと同様に、原告はこのような掲載を許諾していたものと解されるから、上記の掲載行為は原告の著作権を侵害するものではない。 3 争点3(著作者人格権侵害の成否)について (原告の主張) 被告は、本件改変写真の基になる原告作成の写真(別紙侵害目録(写真)の「使用箇所」欄に「H−1改」ないし「H―9改」と記載されている各写真に対応する原告作成の写真)について、横長の写真を縦長にする、曲線からなる型に切り取るなどといった改変をした上で、被告ホームページ及び各種予約サイトに本件改変写真を掲載しており、このような改変は、原告の意に反して行われたものである。 したがって、上記の改変行為は、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものである。 (被告の主張) 否認ないし争う。 4 争点4(損害の発生及び額)について (原告の主張) (1)著作権侵害に係る損害額 ア 原告は、被告の著作権侵害行為によって、本件各写真等に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害を被った(著作権法114条3項)。 そして、被告が被告ホームページ及び各種予約サイトに掲載した写真及び文章の点数は合計210点となるところ、原告のホームページ(以下「原告ホームページ」という。)においては、原告が著作権を有する写真をウェブページ等に掲載する場合には、1媒体1回あたり1万円(掲載期間が1年を超えるごとに1万円追加)でその利用を許可する旨記載されており、原告が他の顧客との関係で同基準に基づき紛争を解決した事例もあることからすれば、本件における著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、写真又は文章1点当たり1万円の合計210万円とすべきである。 イ これに対し、被告は、本件における著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を算定するに当たっては、本件契約に基づく利用料を参考にすべきところ、本件各写真や本件各文章の利用の対価は、被告が本件契約に基づき支払っていた利用料のごく一部にすぎないから、原告の主張する基準に基づき損害額を計算することは相当ではないと主張する。 しかしながら、本件契約においては、写真や文章の点数に基づき利用料が定められる形になっておらず、被告が支払っていた利用料に本件各写真等の利用の対価が含まれていたと解することはできないから、被告の主張は理由がない。 (2)著作者人格権侵害に係る損害額 被告による改変は複数個所に及んでおり、その改変によって写真全体の構図が崩れてしまっているところ、原告は、旅館やホテルのホームページ作成を主たる業務の一つとしており、原告の顧客にとって、原告が作成したホームページの内容は、原告に業務を依頼する際の指標になるものである。そのため、構図が崩れた写真が被告ホームページや各種予約サイトに掲載されることは、原告の業界内での評判の低下を招くこととなる。 このように、原告には被告の著作者人格権侵害行為によって無形損害が発生しており、その損害額は50万円とするのが相当である。 (3)小括 以上のとおり、原告には合計260万円の損害が生じている。 (被告の主張) (1)著作権侵害に係る損害額 ア 原告は、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、写真又は文章1点当たり1万円であると主張しているが、本件各写真等はいずれも創意工夫の余地があるものではなく、他社の写真等によっても代用可能であり、被告の売上げへの直接の影響はなかったこと、被告の掲載行為は短期間にすぎないことなどからすれば、原告の主張する金額は明らかに相当性を欠いており、本件における著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、写真又は文章1点当たり数十円から500円程度とするのが相当である。 イ また、被告は、原告に対し、本件契約に基づく利用料として月額10万円前後(新型コロナウイルスが蔓延していた期間は月額数万円程度)を支払っていたところ、原告による写真撮影や文章作成は本件契約に付随する業務として行われていたものにすぎない。 そうすると、写真や文章の利用の対価を観念するとしても、その額は被告が支払っていた利用料のごく一部にすぎず、このことは損害額の算定において考慮されるべきである。 ウ これに対し、原告は、原告ホームページにおいては、原告が著作権を有する写真をウェブページ等に掲載する場合には、1媒体1回あたり1万円(掲載期間が1年を超えるごとに1万円追加)でその利用を許可する旨記載されていることや、実際に上記の基準に基づき紛争を解決した事例があることを、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の算定根拠として主張する。 しかしながら、被告は、本件契約の締結の際に、原告ホームページの記載を確認したことはなく、同ホームページの記載は、原告と被告との間に紛争が生じた後に作成されたものであることからすれば、原告が根拠とする上記の基準は、本件契約とは無関係のものであり、損害額の算定の参考にはならない。 さらに、原告の主張する事例が、本件と同様の事例であるかは明らかではなく、原告の提出する証拠からは、実際に上記の基準に基づき紛争が解決されているかも判然としない。 したがって、原告の上記主張は理由がない。 (2)著作者人格権侵害に係る損害額 否認ないし争う。 5 争点5(謝罪広告の必要性)について (原告の主張) 本件においては、名誉回復等の措置(著作権法115条)として、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を掲載する必要性がある。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件各写真等の著作物性及び著作者)について (1)本件各写真の著作物性 ア 証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、本件旅館の施設及び本件旅館で提供されている料理等を撮影したものであること、本件各写真の撮影は、上記の施設や料理等の魅力を伝えるために、被写体の選択・構図、カメラアングル及び照明等を調整して行われたものであると認められる。 そうすると、本件各写真は、いずれも、撮影者の個性が表れたものであるから「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認められ、かつ、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と認められるから、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当する。 イ これに対し、被告は、別紙侵害目録(新ホームページ)の写真番号3の写真について、原告の従業員であったA1がインターネット上の無料写真サイトである「ぱくたそ」に掲載していた写真であり、原告の著作物ではないと主張する。 しかしながら、証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば、上記写真とA1が撮影した写真とは異なるものと認められ、被告の主張はその前提を欠くものである。そして、上記写真が著作権法上の著作物といえることは前記アで説示したとおりである。 (2)本件各文章の著作物性 ア 証拠(甲8、9、10)及び弁論の全趣旨によれば、本件各文章は、本件旅館の宿泊プラン、本件旅館で提供される料理、本件旅館の設備等を紹介するものであり、その魅力等を読み手に伝えるために表現を選択して作成されたものであること、本件各文章の長さは、文章ごとに差異はあるものの、いずれも相当な長さに至っていることが認められる。 そうすると、本件各文章は、いずれも、作成者の個性が表れたものであるといえるから「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認められ、かつ、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と認められるから、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当する。 イ これに対し、被告は、本件各文章は、宿泊プラン等に係る客観的事実について記載したものにすぎず、その内容としてもメディアジャパンが作成した従前の被告ホームページの記載やB1からの提案等を参考にしたものであるから、著作物性が否定されると主張する。 しかしながら、本件各文章には、宿泊プラン等に係る客観的事実以外にもその魅力等を表現した記載が含まれており、本件各文章は客観的事実のみを記載した文章とはいえない。また、本件各文章の一部にメディアジャパンが作成した従前の被告ホームページの記載やB1からの提案を参考にした部分が含まれていたとしても、それだけで本件各文章が創作性を欠くとはいえない。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 (3)本件各写真等の著作者 証拠(甲1、3)及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真等は、原告代表者又は原告の従業員が原告の発意に基づき作成したものであり、かつ、原告によって被告ホームページや各種予約サイトに掲載されていたものであることが認められる。 そうすると、本件各写真等は、「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」といえる。また、弁論の全趣旨によれば、原告とその従業員との間の契約、勤務規則その他において著作権に関する別段の定めはないものと認められる。 したがって、本件各写真等については、職務著作として、その著作者が原告とされる結果(著作権法15条1項)、その著作権が原告に帰属するものと認められる。 2 争点2(著作権侵害の成否)について (1)証拠(甲5、12、14ないし16)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告の許諾を得ることなく、以下のウェブサイト及び期間において、別紙侵害目録(写真)の「原告写真」欄記載の各写真と同一の写真を作成して、これを同目録の「使用箇所」欄記載の箇所に掲載していたこと、その作成された写真のうち、本件改変写真については、別紙改変目録のとおり、トリミング又は写真内に番号が付加された状態で掲載されていたことが認められる。
また、本件改変写真に対応する掲載行為及び本件各文章の一部を使用した文章に対応する掲載行為については、本件各写真又は本件各文章に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である本件改変写真又は被告各文章を創作する行為であるといえる。 そして、本件掲載行為は、いずれも、インターネットを通じてウェブサイト等にアクセスした不特定又は多数の者が上記の各写真及び各文章を閲覧できる状態に置く行為であるといえる。 したがって、本件掲載行為は、原告の著作権(本件改変写真以外の各写真に対応する掲載行為については複製権及び公衆送信権、本件改変写真に対応する掲載行為については翻案権及び公衆送信権、被告各文章に対応する掲載行為については複製権又は翻案権及び公衆送信権)を侵害するものと認められる。 なお、原告は、被告は上記の各期間より後の期間も旧ホームページや各種予約サイトにおいて掲載行為を続けていた上、別途、新ホームページにおいても掲載行為を続けていたと主張する。 しかしながら、これらの掲載行為を裏付けるスクリーンショット等の証拠は提出されておらず、本件全証拠によっても、原告の主張する事実を認めることはできないから、原告の主張は採用できない。 (4)これに対し、被告は、@旧ホームページに係る掲載行為について、被告が原告との間で再契約に向けた協議を進めていた令和3年3月31日までの掲載行為には原告の許諾が存在したことから、A各種予約サイトに係る掲載行為については、原告が各種予約サイトに掲載されていた各写真を削除する義務を負っていたことから、いずれの掲載行為についても被告による著作権侵害は成立しないと主張する。 しかしながら、上記@については、証拠(甲26、乙2)及び弁論の全趣旨によれば、再契約の協議に係る原告と被告との間のメールにおいて、原告が、被告に対し、旧ホームページに係る掲載行為を許諾したことをうかがわせる記載は見当たらず、むしろ、原告は、被告の経営コンサルタントであるB1に対し、被告による原告の著作物の不正利用に関する抗議を行っていることが認められ、このような事情を前提に検討すると、本件全証拠によっても、原告が被告による旧ホームページに係る掲載行為を許諾していたという事実を認めることはできないというべきである。 また、上記Aについては、本件契約書及び本件申込書(甲3)において、原告が掲載した各写真及び各文章についての契約終了後の取扱いに関する記載はなく、他に原告と被告との間で別段の合意等が成立した事実を認めるに足りる証拠もないところ、証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば、被告は自ら各種予約サイトにログインして掲載されていた各写真及び各文章を削除することができる状況にあったことが認められ、本件全証拠によっても、原告が、本件契約の終了後に、各種予約サイトに掲載されていた写真や文章を削除すべき義務を負っていたことを裏付けるような事情は認められない。 したがって、被告の上記主張はいずれもその前提を欠くものであるから採用できない。 3 争点3(著作者人格権侵害の成否) 前記2(1)のとおり、本件改変写真については、トリミング又は写真内に番号が付加された状態で掲載されていたものであり、このような被告による改変は、原告の許諾を得ていなかったものであって、原告の意に反する改変といえるから、被告による本件改変写真の作成行為は原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものと認められる。 4 争点4(損害の発生及び額) (1)著作権侵害に係る損害額(著作権法114条3項により算定される損害額)について ア 証拠(甲3、24)及び弁論の全趣旨によれば、本件契約は、原告が被告ホームページや各種予約サイトの管理等を行い、被告が、その対価として、本件契約に基づいて成立した宿泊契約に係る料金の一部等を支払う旨定めたものであること、被告が原告に対して支払っていた利用料(本件契約書及び本件申込書記載の予約手数料、インターネット総合集客サービス料、ドメイン利用サービス料等。以下同じ。)の平均は月額約8万5000円であったこと(ただし、上記の金額を計算するに当たっては、新型コロナウイルスの影響に鑑み、平成30年3月から令和元年12月まで及び令和3年1月から同年2月までの利用料を参照した。)が認められる。 この点について、本件各写真等の提供は、本件契約に基づくサービスの一部であり、その対価は、被告の支払っていた利用料の全部ではなく、その一部に相当する金額にすぎないものと認められる一方で、著作権侵害があった場合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、通常の利用料に比べて高額となるといった事情を併せ考慮すると、前記2の著作権侵害行為に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、月額8万5000円と認めるのが相当である。 そして、前記2(1)及び(2)のとおり、被告による掲載期間は、最長で令和3年3月1日から同年9月22日までの約6.6か月間であるから、本件における損害額は56万1000円(8万5000円×6.6)となる。 イ これに対し、原告は、原告ホームページにおいて、原告が著作権を有する写真をウェブページ等に掲載する場合には、1媒体1回あたり1万円(掲載期間が1年を超えるごとに1万円追加)でその利用を許可する旨記載されていることや、実際に同基準に基づき紛争を解決した事例があることから、本件における著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、写真又は文章1点当たり1万円とすべきと主張する。 この点につき、証拠(甲13、21、22)及び弁論の全趣旨によれば、@令和3年4月9日時点の原告ホームページには、「写真利用web掲載1媒体1回あたり1万円(1年以上の場合は毎年)」と記載されていたこと、A株式会社リクルートが、原告に対し、平成18年2月21日、原告が著作権を有する写真の無断使用に係る解決金として、写真1点3か月の使用期間当たり1万円の支払を申し出たこと、B原告が、被告以外の旅館に対し、令和4年8月31日、「写真利用和み会席・ステーキ・しゃぶしゃぶ・すきやき」との「品名」で、1点当たり1万6500円を請求したことが認められる。 しかしながら、@そもそも、原告が、原告ホームページの記載に従って実際に写真利用に関する契約をしているのかは明らかではない上、原告ホームページには、別途「ホームページ制作・運営」の料金として「初期費用5万円月額費用予約エンジン経由の予約の5%」という本件契約書と同趣旨の記載があることからすると、原告ホームページの「写真利用」に係る記載は、本件各写真のようにホームページの製作等のために提供される写真とは異なる場面で提供される写真の利用を想定したものとも解されるから、この記載を本件の参考とすることはできない。そして、A株式会社リクルートからの申出は、事案の解決のため同社が提案した基準にすぎず、本件との関連性も明らかではなく、B他の旅館に対する請求についても、その旅館との契約関係や実際に提供された写真の内容が具体的に明らかではない以上、これらの事例を本件の参考にすることもできない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 (2)著作者人格権侵害に係る無形損害の額について 前記2(1)で説示した被告による改変の程度及び内容並びにその他本件で現れた諸般の事情に照らせば、本件改変写真の枚数が9枚であることを考慮しても、著作者人格権(同一性保持権)侵害に係る無形損害の額は合計5万円とするのが相当である。 5 争点5(謝罪広告の必要性)について 前記2(1)で説示した被告による掲載行為の態様等に照らせば、本件において、原告が著作者であることを確保し、又は訂正その他著作者の名誉若しくは声望を回復するために、前記4の金銭賠償に加えて謝罪広告を掲載する必要があるとは認められない。 したがって、原告の謝罪広告の請求は理由がないというべきである。 6 結論 以上によれば、原告の請求は、@本件契約に基づく本件利用料の支払請求については、11万3854円及びこれに対する令和3年11月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求すべてに理由がある一方で、A著作権侵害に基づく損害賠償請求については、56万1000円及びこれに対する令和4年7月8日から支払済みまで同割合による遅延損害金を求める限度で、B著作者人格権侵害に基づく請求については、5万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。 したがって、被告は、原告に対し、72万4854円並びにうち11万3854円に対する令和3年11月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員及びうち61万1000円に対する令和4年7月8日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払義務を負うことになる。 よって、原告の請求は上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 塚田久美子 裁判官 木村洋一 別紙 謝罪広告目録 1 謝罪広告 おわび 私は、株式会社たび寅およびその代表者のC1様(以下たび寅様らといいます)に対して下記のとおり謝罪いたします。 記 私は自らの営利目的で、令和3年3月1日以降、たび寅様に著作権が帰属する写真および文章を、無断でインターネット上に掲載するとともに、著作者であるたび寅様の制作意図に著しく反するような著作物の改変を行いまして、たび寅様らの名誉と人格権を毀損しました。 代表者であるC1様をはじめとする株式会社たび寅の関係者の皆様に対して多大なご迷惑をおかけしましたことを衷心より謝罪いたします。 今後は著作権の取り扱いに注意して、二度とこのような事件を起こさないようにしてまいります。 令和 年 月 日 おやど榮太郎(有限会社栄太郎) 代表 D1 2 掲載条件 1 年月日は掲載日とする。 2 サイズは、社会面記事下8.4センチ×2段とする。 3 文字の大きさが、上記2の範囲で最大の文字数とする。 以上 (別紙原告文章目録 省略) (別紙侵害目録(写真) 省略) (別紙使用箇所一覧(写真) 省略) (別紙改変目録 省略) (別紙侵害目録(新ホームページ) 省略) (別紙使用箇所一覧(新ホームページ) 省略) (別紙侵害目録(文章) 省略) (別紙文章対比表 省略) 別紙 原告写真目録 |
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