判例全文 | ||
【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件U 【年月日】令和6年6月13日 東京地裁 令和5年(ワ)第70490号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年4月22日) 判決 原告 株式会社CHERRIES 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 ビッグローブ株式会社 同訴訟代理人弁護士 ●(はしごたか)橋利昌 同訴訟代理人弁護士 太田絢子 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各発信者」という。)がファイル交換共有ソフトウェアであるBitTоrrent互換ソフトウェア(以下「BitTоrrent」という。)を使用して、別紙侵害著作物目録記載の各動画(以下「本件動画」という。)に係る原告の公衆送信権を侵害したと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 2 前提事実(証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。) (1)当事者 ア 原告は、DVDビデオソフトの制作等を行う株式会社である(甲18,19、弁論の全趣旨)。 イ 被告は、インターネット・サービス・プロバイダ事業を行ういわゆるアクセスプロバイダであり、プロバイダ責任制限法2条3号にいう特定電気通信役務提供者に該当する(弁論の全趣旨)。 (2)BitTоrrentの仕組み BitTоrrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有に係るソフトであり、その概要や利用の手順は、以下のとおりである(甲5、9、弁論の全趣旨)。 ア BitTоrrentにおいては、ファイルを小さいデータに分割し(以下、分割されたファイルの一部を「ピース」という。)、BitTоrrentネットワークにつながっているユーザーに分散し、ピースを保有させている。 イ ユーザーがBitTоrrentを通じてファイルをダウンロードするためには、まず、BitTоrrentを自己の端末にインストールした上で、インターネット上においてダウンロードしたいファイルの所在等の情報が記載されたトレントファイルを取得する。 ウ 次に、トレントファイルをBitTоrrentに読み込ませ、ファイルの提供者を管理するトラッカーサーバーに接続し、特定のファイルの提供者のリストを要求すると、トラッカーサーバーは、ユーザーに対して、自身にアクセスしている提供者のIPアドレス等が記載されたリストを返信する。 エ リストを受け取ったユーザーは、ダウンロードしたい特定のファイルを持つ他のユーザーに接続して、ダウンロードを開始する。 オ 全てのピースのダウンロードが完了すると、分割前と同じ一つのファイルが完成する。 カ 完全な状態のファイルを有するユーザーは、「シーダー」と呼ばれる。また、目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれ、ネットワークに参加しているコンピューターは「ピア」と呼ばれる。 (3)原告による著作権侵害調査(甲1,4、5、9、弁論の全趣旨) ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件動画に係る著作権侵害についての調査(以下「本件調査」という。)を依頼した。 イ 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の日時に、同目録記載のIPアドレスの割当てを受けた本件各発信者が、本件動画に係るファイル(以下「本件ファイル」という。)のダウンロード及びアップロードを行っていたことを報告した。 (4)被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。 3 争点 本件の争点は、著作権の帰属及び本件調査の信用性である。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(著作権の帰属)について (原告の主張) (1)別紙侵害著作物目録記載の著作物(以下「本件各著作物」という。)のうち、商品パッケージに「制作・受審・発売チェリーズ」又は「企画・製作・著作チェリーズれぼ」と表記されているものについては、原告の商号が著作者として通常の方法により表示されているものであるから、著作権法14条により、原告が著作権者であることが推定される。 (2)本件各著作物は、原告がその作成を発意し、それに基づき原告の業務に従事する者らが企画し、全体的な製作に関する決定を行ったものである。また、本件各著作物の撮影や演出等、製作に係る一切の作業は、原告の業務に従事する者により、原告の職務として行われた。したがって、本件各著作物の著作者は、著作権法15条により原告となるから、本件各著作物の著作権者は原告である。 (3)仮に(2)の主張が認められないとしても、本件各著作物は映画の著作物に該当するところ、本件各著作物は、原告の代表者が製作の全体を統括するほか、原告の従業員らが、原告の発意に基づき、それぞれ監督、演出、撮影、美術等を担当して作成されたものであり、本件著作物の著作者は全て、本件著作物の製作に参加することを約束した者で構成されていることからすると、著作権法29条1項により、本件各著作物の著作権は原告に帰属する。 (4)仮に(1)ないし(3)の主張がいずれも認められないとしても、上記に記載した各事情に加え、本件各著作物に対する第三者認証機関であるIPPA(特定非営利活動法人知的財産振興協会)の審査番号が原告固有の番号であること、本件各著作物のJANコードから識別されるGS1事業者コードが原告の取得したものであること、以上によれば、原告が本件各著作物の著作権者であることは明らかである。 (被告の主張) (1)原告の著作権法14条に基づく主張について、「チェリーズれぼ」は原告について、著作者名として通常の方法による表示とはいえず、少なくとも著作権法14条の推定の根拠とはならない。 (2)IPPAの審査番号やGS1事業者コードについて、いずれもそれ自体原告であると一般に認識できるものではなく、少なくとも著作権法14条の推定の根拠とはならない。 2 争点2(本件調査の信用性)について (原告の主張) (1)本件調査会社は、本件調査において、BitTоrrentの開発会社によって管理されているフリーソフトウェアである●(ギリシア文字。ミュー)Torrentを利用しているところ、●(ギリシア文字。ミュー)Torrentにおいては機械的に取得した情報が表示されるため、恣意が介在する可能性はない。また、取得したIPアドレスの正確性の検証もされている(甲12)。さらに、時間についても、調査に利用しているパソコンの時刻を秒単位で表示するアプリを使用しており、同アプリでの時刻は、Windowsのタイムサーバーで自動補正された時刻が表示されるため、極めて正確である。したがって、本件調査の正確性は疑うべくもない。 (2)被告は、ダウンロードされた甲8と正規品とのサイズの違いを指摘するが、ファイルの単位表記が異なるためや、●(ギリシア文字。ミュー)TorrentにおいてはGB(ギガバイト)単位でデータサイズを表示して端数を切っているためであり、ファイルサイズが異なっているわけではない。 (被告の主張) (1)原告は、●(ギリシア文字。ミュー)Torrentにおいては恣意が介在する可能性はないなどと主張するが、IPアドレス及びタイムスタンプ等による通信に誤謬が生じる可能性は恣意によるものに限られない。甲12の動画も一回的なものであって、本件調査における全ての通信の特定が正確であることを担保するものではない。IPアドレスは動的に割り付けられ、時間の経過と共に変化することから、特段の恣意がなくとも、不正確な情報が捕捉されるなどして、異なる者が発信者と誤認される可能性は十分に考えられる。 (2)本件調査において調査会社がダウンロードしたとされる甲8の各動画は、甲1に現れた各ファイルとデータサイズが異なり、ファイルの一部とは思われない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(著作権の帰属)について 前提事実のほか、証拠(甲2、18、19、21)及び弁論の全趣旨によれば、原告はいわゆるアダルトビデオの制作等を行う株式会社であること、本件各著作物のDVDパッケージに「制作・受審・発売チェリーズ」ないし「企画・制作・著作チェリーズれぼ」との記載があり、「チェリーズ」は原告の商号と同一であること、本件各著作物のDVDパッケージには「457122552」で始まるJANコードの記載があり、同番号は原告に貸与されたGS1事業者コードであること、原告代表者が、本件著作物は原告従業員が原告の決定を受けて原告の費用と責任で制作した旨を陳述しており、その信用性を疑わせるような事情はうかがわれないこと、以上の事実が認められる。 これらの事実からすると、本件著作物は、原告の発意に基づき、原告の代表者及び従業員によって、その職務上作成されたものであり、かつ、原告が自己の著作の名義の下に公表したものと認めるのが相当である。 したがって、本件著作物は、著作権法15条1項により原告に著作権が帰属していると認めるのが相当である。 2 争点2(本件調査の信用性)について (1)認定事実 前提事実のほか、証拠(甲1、4、5、8、9、11、23)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 本件調査会社は、本件調査において、本件動画に係るトレントファイルをダウンロードした上で、●(ギリシア文字。ミュー)Trorrentを起動して、当該トレントファイルを読み込み、本件ファイルに係るピースを保有するピアから、本件ファイルをダウンロードした。 イ 調査会社が本件ファイルをダウンロードする際、●(ギリシア文字。ミュー)Torrentの画面上には、当該ダウンロードに対応するアップロードをしているピアのIPアドレスが表示された。当該IPアドレス及び当該IPアドレスが表示された際の調査端末上の日時は、別紙発信者情報目録記載のとおりである。本件調査会社は、当該ダウンロード完了後に、ダウンロードされて完成した動画及び本件著作物の各内容を比較し、同一であることを確認した。 ウ ●(ギリシア文字。ミュー)Torrentは、BitTоrrentの開発会社により開発・維持されており、BitTоrrentのプロトコル定義で設定されたガイドラインを遵守し、これに準拠している。 エ 本件調査において、●(ギリシア文字。ミュー)Torrent上に表示された、本件調査会社のダウンロードに係るファイルのデータサイズは、それぞれ本件著作物のうち目録4に係るファイルについて2.57GB,目録5及び7に係るファイルについていずれも1.70GB、目録6に係るファイルについて2.81GBであった。 オ 本件調査において、ダウンロードの上完成した本件動画に係るファイルのデータサイズは、それぞれ本件著作物のうち目録4に係るファイルについて2702119KB,目録5及び7に係るファイルについて1788180KB、目録6に係るファイルについて2954408KBであった。 (2)信用性に係る判断 本件調査は、BitTоrrent開発会社によって開発されたクライアントソフトである●(ギリシア文字。ミュー)Torrentを利用して行われたものであり、本件全証拠によっても、調査端末の時刻の正確性も含め、その信用性が疑われるような事情を認めることはできない。したがって、本件調査の信用性を認めるのが相当である。 これに対し、被告は、本件調査において本件調査会社がダウンロードしたとされる甲8の各動画のデータサイズと、調査中に●(ギリシア文字。ミュー)Torrent上に表示されたデータサイズが異なることから、その信用性に疑義がある旨主張する。しかしながら、両データサイズは異なる単位で表記されているものであり、これを同一の単位に換算すれば、格別大きな違いはないことからすると、被告の主張は、本件調査の信用性を左右するものとはいえない。 そして、本件調査の結果によれば、別紙発信者情報目録記載の各発信者は、同目録記載の日時において、BitTоrrentを通じ、本件ファイルに係るピースについて、本件調査会社に対してアップロードしたものと認めることができる。 したがって、本件発信者は、別紙発信者情報目録記載の日時において、本件ファイルに係るピースを現に自動公衆送信して、原告の著作権を侵害したことが明らかである。 その他に、被告の主張及び提出証拠を改めて検討しても、本件調査の信用性を左右するものとはいえず、被告の主張は、いずれも採用することができない。 3 その他 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、本件著作物に係る著作権侵害を原因とする損害賠償請求等をする準備をしていると認められることからすると、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(プロバイダ責任制限法5条1項2号)があるといえる。 4 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 武富可南 裁判官 尾池悠子 (別紙侵害著作物目録省略) 別紙 発信者情報目録 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
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