判例全文 | ||
【事件名】エックスサーバーへの発信者情報開示請求事件F 【年月日】令和6年6月13日 東京地裁 令和6年(ワ)第1651号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年5月9日) 判決 原告 P1 同代表者代表取締役 同訴訟代理人弁護士 笠木貴裕 被告 エックスサーバー株式会社 同代表者代表取締役 同訴訟代理人弁護士 和田敦史 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 第1 請求 主文同旨 第2 当事者の主張 1 請求原因 (1)特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権が侵害されたこと ア 著作物 原告は、写真業等を行うことを目的とする株式会社である。 別紙「著作物目録」記載の写真(以下「本件各写真」という。)は、いずれも、原告代表者が撮影した写真であり、被写体について構図や撮影角度、被写体との距離、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係等において、原告代表者のプロカメラマンとしての個性及び独自性が表れたものであるから、「思想または感情を創作的に表現した」写真の著作物(著作権法2条1項1号、10条1項8号)である。 イ 著作権の帰属 原告は、本件各写真について、原告代表者から著作権を譲り受け、原告の自社ウェブサイトにおいて、これらを掲載している。 ウ 氏名不詳者による投稿 氏名不詳者らは、後記する本件サービスを利用し、別紙「投稿記事目録」記載の投稿日に、本件各写真のうち、同目録「著作物目録番号」欄に記載された番号に係る別紙「著作物目録」記載の写真を、別紙「投稿記事目録」記載の「投稿記事URL」欄記載のウェブサイトの各記事に掲載した。なお、各記事において掲載された本件各写真に係るURLは、同目録記載の「画像ページURL」欄記載のとおりである(以下、同投稿を「本件各記事」といい、本件各記事をした氏名不詳者を「本件各発信者ら」と総称する。)。 エ 特定電気通信 本件各記事は不特定多数の者に対する受信を目的としているから、「特定電気通信」(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任法」という。)2条1号)に該当する。 オ 特定電気通信による著作権侵害 以上のとおり、本件各発信者らの本件各記事の投稿により「特定電気通信による情報の流通」によって本件各写真に関する原告の著作権(複製権及び送信可能化権を含む公衆送信権)が侵害された。 (2)被告が「特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」に該当すること 被告は、ウェブサイトの公開やメールアドレスの運用に必要なサーバーをレンタルするサービス(以下「本件サービス」という。)を提供しており、プロバイダ責任法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。 (3)権利侵害が明白であること 本件各記事は、本件各写真の被写体著名人に関する情報をまとめたものであり、本件各写真に対する批評を目的としておらず、本件各記事の読者の理解を助ける目的で本件各写真を使用する必要はない。 また、原告は、本件各写真の撮影者が原告代表者であることを明記しているし、本件各記事において、本件各写真の出所や、本件各発信者以外の者が撮影したものであることが明示されていないことも踏まえると、本件各記事における本件各写真の使用は、引用の目的上正当な範囲内のものであるともいえないし、公正な慣行に合致するともいえない。 そうすると、本件各記事における本件各写真の利用が、適法な引用に当たることはなく、本件各発信者らによる権利侵害は明白である。 (4)開示を受けるべき正当な理由があること 原告は、本件各発信者らに対し、著作権法114条3項等に基づいて損害額を算定したうえで損害賠償請求等を予定しているから、本件各発信者らの発信者情報の開示を求める正当な理由がある。 (5)よって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任法5条1項の発信者情報開示請求権に基づき、別紙「発信者情報目録」記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める。 2 請求原因に対する認否 (1)請求原因(1)は、ウ及びエは認め、その余は知らない。同オは争う。 (2)請求原因(2)は認める。 (3)請求原因(3)は争う。 本件各記事は、著名人を記事として取り上げるにあたり、読者の理解を助ける目的で、当該記事において取り上げられている芸能人等が被写体となっている本件各写真を掲載している。 また、本件各写真は、写真自体に著作権保護の表示等をしておらず、広く公開されていた。 そうすると、本件各記事は、その内容に適したものとして本件各写真を掲載しており、同各記事との関連性や記事全体とのバランスを踏まえても、公正な慣行に合致している。 (4)請求原因(4)は、損害賠償請求等を予定していることは知らず、正当な理由があることについては争う。 本件各写真は、いずれも、著作権保護の表示等が施されることなく広く公開されているし、原告に損害が生じたかも明らかになっていない。 理由 第3 認定事実等 1 請求原因(1)について (1)同ア(著作物)について 証拠(甲1の1・2・4・7・8、10の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、カメラマンである原告代表者が本件各写真を撮影したことが認められる。また、本件各写真は、いずれも、構図等において原告代表者のカメラマンとしての個性及び独自性が表れており、同人による写真の著作物であると認められる。その余の事実は争いがない。 (2)同イ(著作権の帰属)について 証拠(甲10の1ないし5)によれば、本件各写真の著作権が、原告代表者から原告に譲渡された事実が認められる。 (3)同ウ(氏名不詳者による投稿)及びエ(特定電気通信)の事実は当事者間に争いがない。 (4)同オ(特定電気通信による著作権侵害)について 証拠(甲1の1・2・4・7・8、2の1・2、3の1・2、5の1・2、8の1・2、9の1・2)によれば、本件各記事において、本件各写真が、本件各投稿のサイズに合わせた解像度やサイズの調整こそされてはいるが、そのまま用いられており、新たな創作的表現が含まれているとはいえない。そうすると、本件各記事に対する本件投稿により、特定電気通信による情報の流通によって、原告の本件各写真に係る複製権及び公衆送信権が侵害されたもの(プロバイダ責任法5条1項柱書)と認められる。 2 請求原因(2)は争いがない。 3 請求原因(3)について (1)証拠(甲1の1・2・4・7・8、2の1・2、3の1・2、5の1・2、8の1・2、9の1・2)によれば、本件各投稿は、いずれも、本件各写真の被写体となった者に関する情報をまとめたものであり、本件各写真そのものに対する批評等を行うものではなく、また、本件各写真に関する正確な出自も記載されていないと認められ、この事実によると、本件各記事における本件各写真の掲載は、いずれも、引用の目的上正当な範囲内のものであるとも、公正な慣行に合致するものとも認められないから、適法な引用に該当しない。 そして、その他本件において権利侵害の明白性を左右するに足りる証拠はないから、同各記事の投稿によって原告の著作権が侵害されたことは明白というべきである。 (2)被告は、原告が本件各写真に著作権保護の表示等をしていないことを指摘する。この趣旨は必ずしも判然としないが、前掲各証拠によると、本件各写真は、いずれも、原告のウェブサイトにおいて、プロカメラマンである原告代表者が撮影したものとして紹介文やインタビュー記事とともに掲載されたものであり、いわゆるフリー素材のような取扱いはされていないと認められ、主張は前提を欠き採用できない。 4 請求原因(4)について 上記認定及び弁論の全趣旨によれば、本件各投稿者に対する損害賠償請求等を予定する原告において、本件発信者情報開示を求める正当な理由(プロバイダ責任法5条1項1号)があるといえる。 第4 結論 以上によれば、原告の請求には理由がある。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 西尾太一 (別紙)発信者情報目録 別紙投稿記事目録記載の各投稿記事の発信者情報であって、以下に掲げるもの。 1 氏名又は名称 2 住所 3 電話番号 4 電子メールアドレス 以上 (別紙)添付省略 著作物目録 以上 (別紙)投稿記事目録の添付省略 |
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