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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件V 【年月日】令和6年6月7日 東京地裁 令和5年(ワ)第70489号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年4月18日) 判決 原告 株式会社A&T 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 ビッグローブ株式会社 同訴訟代理人弁護士 ●(はしごたか)橋利昌 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要等 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙作品目録記載の各動画(以下、これらを総称して「本件各動画」という。)をそれぞれ複製して作成した動画ファイルを、公衆からの求めに応じ自動的に送信したことによって、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対する損害賠償等の請求のため、被告が保有する別紙発信者情報目録(以下「本件発信者情報目録」という。)記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者(弁論の全趣旨) 原告は、アダルト動画の企画及び制作を行う株式会社である。 被告は、インターネット接続サービスを提供するプロバイダである。 (2)ビットトレントの仕組み(甲4ないし6、9、弁論の全趣旨) ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコルである。 ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末。「クライアント」とも呼ばれる。)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。 イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする者は、インデックスサイトと呼ばれるインターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアント用のソフトウェア(以下「クライアントソフトウェア」ということがある。)に当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得する。 上記の手順によってピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認するための通信を行い、当該他のピアがこれに応答することを確認した上、当該他のピアが当該ピースを保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。 (3)株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲1、5、7ないし9、弁論の全趣旨) 本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件各動画の品番等に基づいて、本件各動画と同一であることが疑われる動画ファイルに対応するトレントファイルを入手した。 本件調査会社は、ビットトレントに対応するクライアントソフトウェアである「μTorrent」(以下「本件ソフトウェア」という。)に、入手したトレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応する動画ファイルをダウンロードし、本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報を、端末のタスクバーに表示された時刻及び時刻表示ソフトウェアを用いて画面の右上に表示させた時刻とともに、スクリーンショットにより撮影した(以下、同スクリーンショットにより撮影された画像(甲1)を「本件各スクリーンショット」という。)。 本件調査会社は、ダウンロードした上記各動画ファイル(以下、本件各動画に対応する動画ファイルを「本件各ファイル」という。)を再生して表示される映像と本件各動画とを比較して、その同一性を確認した。 (4)本件各ファイルは本件各動画を複製して作成されたものであること 本件各ファイルは、本件各動画をそれぞれ複製して作成されたものである(甲7、8)。 (5)本件各発信者情報の保有 被告は、本件各発信者情報を保有している。 3 争点 (1)特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)か (2)本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)か)について (原告の主張) (1)原告に本件各動画の著作権が帰属すること 本件各動画を収録した商品のパッケージには、いずれも「企画・制作・受審株式会社A&T」又は「制作・著作株式会社A&T」という形で、原告の商号が著作者名として通常の方法により表示されている。 また、本件各動画は、いずれも原告代表者が従業員に指示して撮影・編集等をさせたものであり、原告の著作の名義の下で公表されているところ、原告とその従業員との間の契約、勤務規則その他において著作権に関する別段の定めはない。 したがって、原告は、著作権法14条1項により本件各動画の著作者と推定されるか又は15条1項により本件各動画の著作者とされるから、本件各動画の著作権は原告に帰属する。 (2)本件調査会社による調査結果は信用性を有すること 本件調査会社は、本件ソフトウェアを利用して、機械的に本件発信者情報目録記載のIPアドレス等を取得しており、そこに恣意が介在する可能性はない。また、把握したIPアドレス等の正確性の検証もされている。 したがって、本件調査会社による調査結果は信用性を有する。 (3)本件各氏名不詳者により本件各動画が自動公衆送信されたこと ア ビットトレントネットワークにおいて共有されているファイルは、公衆の用に供されている電気通信回線であるインターネットに接続された他の者の管理するパソコン等の記録媒体に記録されたものであり、不特定のその他の者の求めに応じて自動的に送信される。 そして、本件ソフトウェアは、他のピアから特定のファイルに係るピースをダウンロードしている際、実行画面の当該特定のファイルに係る「状態」欄に「ダウンロード中」との表示が、それ以外の場合には「ダウンロード中」以外の表示が、それぞれされる仕様となっている。また、本件ソフトウェアの実行画面に複数のピアが表示される場合、当該複数の全てのピアからファイルを構成するピアをダウンロードすることが確認できている。 イ 本件調査会社が、調査に当たって、ビットトレントネットワークを介して本件各ファイルを取得する際、本件調査会社の管理するピアで実行している本件ソフトウェアの画面には、本件各ファイルについて「ダウンロード中」と表示されていた。 したがって、本件調査会社の管理するピアが、本件発信者情報目録記載の各日時において、各IPアドレス等により特定される本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件各ファイルを構成するピースをダウンロードしていたこと、すなわち、本件各氏名不詳者が、同日時において、公衆からの求めに応じ、本件各ファイルを構成するピースを自動的に送信したことは、明らかである。 (4)本件各氏名不詳者による本件各動画の自動公衆送信に係る通信は特定電気通信に当たること 本件ソフトウェアを利用すれば、誰でも本件各ファイルをダウンロードすることができるから、本件発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定される通信は、いずれも「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)、すなわち、特定電気通信に当たる。 (5)違法性阻却事由の不存在 本件各氏名不詳者が本件各動画を自動公衆送信したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。 (6)小括 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)。 (被告の主張) (1)原告に本件各動画の著作権が帰属することは明らかではないこと 原告は、本件各動画を収録した商品のパッケージの記載に基づき、原告の商号が著作者名として通常の方法により表示されていると主張するが、上記の記載は不鮮明なものであり、このような記載をもって原告の商号が著作者名として通常の方法により表示されているとはいえない。その余の原告の主張については不知ないし争う。 したがって、原告に本件各動画の著作権が帰属しているかは明らかではない。 (2)本件調査会社による調査結果は信用性を有しないこと ア 本件調査会社がダウンロードしたとする本件各ファイル(甲8)のサイズは、本件各動画を記録した正規品のファイル(甲7)のサイズとも、本件各スクリーンショットの「サイズ」欄に記載された動画のサイズ(甲1)とも一致せず、本件調査会社が、実際に本件各ファイルをダウンロードしたといえるかは明らかではない。 イ 原告は、本件調査会社が、本件ソフトウェアを利用して機械的にIPアドレス等を取得しており、そこに恣意が介在する可能性はないと主張しているが、本件調査会社の恣意によらなくとも、その調査結果に誤りが含まれる可能性は存在する。 ウ 本件各スクリーンショットにおいて、本件調査会社の管理するピアの通信相手として複数のピアが表示されている場合は、本件調査会社がいずれのピアからダウンロードを行っているかは明らかではないから、本件調査会社が本件各氏名不詳者の管理するピア以外のピアから本件各ファイルをダウンロードした可能性も否定できない。 また、本件各スクリーンショットにおいて、本件調査会社の管理するピアの通信情報が表示される上段の「下り速度」欄に送信速度が表示されていない、又は非常に低い速度しか記載されていない場合は、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが実際に送信されているのか明らかとはいえない。 エ 以上によれば、本件調査会社による調査結果は信用性を有しない。 (3)その余の主張について いずれも否認ないし争う。 (4)小括 したがって、特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであるとはいえない。 2 争点2(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について (原告の主張) 原告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償等を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(特定電気通信による情報の流通によって原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書、1号)か)について (1)本件各動画に係る著作権の帰属について 証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、本件各動画は、原告代表者及び原告の従業員が、原告の指示に基づき撮影した動画であることが認められるから、これらの動画は「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物」であるといえる。 そして、証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件各動画は原告の著作の名義で公表されたものと認められるから、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」という要件を満たす。また、弁論の全趣旨によれば、原告とその従業員との間の契約、勤務規則その他において著作権に関する別段の定めはないものと認められる。 したがって、本件各動画は職務著作に該当するから、その著作者は原告とされ(著作権法15条1項)、その著作権は原告に帰属するものと認められる。 (2)本件調査会社による調査結果の信用性について 前提事実(3)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件各ファイルに係るトレントファイルをダウンロードした上、本件ソフトウェアに同トレントファイルを読み込ませ、同トレントファイルに対応する本件各ファイルをダウンロードし、実際にダウンロードしたファイルを再生して表示される映像と、本件各動画とを比較することにより、これらが同一の内容を有していることを確認したことが認められる。そして、本件全証拠によっても、このような本件調査会社による調査結果に不自然、不合理な点は認められない。 したがって、本件調査会社による調査結果は信用性を有するといえる。 (3)特定電気通信である自動公衆送信に係る情報の流通によって原告の権利が侵害されたか否かについて 前提事実(2)のとおり、ビットトレントネットワークを形成するピアは、他のピアから自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)ように動作する。また、前提事実(3)のとおり、本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されている本件各ファイルをダウンロードし、当該動画ファイルを再生して表示される映像が、それぞれ本件各動画の表現上の本質的特徴を直接感得できるものであると確認したものである。 そして、証拠(甲1、4、5、9)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件各ファイルのダウンロード中に、端末で実行している時刻表示ソフトウェアが表示する時刻及び本件ソフトウェアの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報に基づいて、本件発信者情報目録記載の日時及びIPアドレス等を特定したことが認められるところ、この本件調査会社による調査は、当該ピアが本件調査会社の管理するピアに対して本件各ファイルを構成するピースを継続的に送信している状態を捉えたものといえる。 また、特定のファイルに対応するトレントファイルは、インターネット上で公開されているのが通常であると考えられるところ、そのようなトレントファイルは、インターネット上で公開されている以上、不特定の者において利用することができるから、同じトレントファイルを共有している各ピアの管理者も、その不特定の者となるのが通常である。これに対し、本件各ファイルが特定かつ少数の者の間でのみ共有されていたと認めるに足りる証拠はないから、本件各ファイルに係るトレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加した本件調査会社は、「公衆」(著作権法2条5項)に当たるといえる。 以上によれば、本件発信者情報目録記載の各日時において同各IPアドレス等が割り当てられていた端末により、本件各動画がそれぞれ自動公衆送信されたと認められ、これは、特定電気通信である当該自動公衆送信に係る情報の流通によって、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものというべきである。 (4)被告の主張について ア 被告は、@本件調査会社がダウンロードしたとする本件各ファイル(甲8)のサイズは、本件各動画を記録した正規品のファイル(甲7)のサイズとも、本件各スクリーンショットの「サイズ」欄に記載された動画のサイズ(甲1)とも一致しないこと、A本件調査会社の恣意によらなくとも、その調査結果に誤りが含まれる可能性は存在すること、B本件各スクリーンショットにおいて、本件調査会社の管理するピアの通信相手として複数のピアが表示されている場合、本件調査会社の管理するピアの通信情報が表示される上段の「下り速度」欄に送信速度が表示されていない、又は非常に低い速度しか記載されていない場合は、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが実際に送信されているのか明らかではないことから、本件調査会社による調査結果は信用性を有せず、特定電気通信による情報の流通によって原告の権利が侵害されたことは明らかであるとはいえないと主張する。 イ しかしながら、前記@について、前提事実(4)、証拠(甲1、7、8)及び弁論の全趣旨によれば、本件各ファイルは、本件各動画を記録した正規品のファイルを基に第三者によって作成されたものであって、本件各動画を記録した正規品のファイルとは別のファイルであること、本件各スクリーンショットの「サイズ」欄に記載された動画のサイズは、本件ソフトウェアにおいて表示されたサイズを示すものにすぎないことが認められ、このような事情からすれば、本件各ファイルのサイズが本件各動画を記録した正規品のファイルのサイズや本件各スクリーンショットの「サイズ」欄に記載された動画のサイズと完全に一致しないからといって、本件調査会社による調査の信用性が直ちに否定されるわけではない。 ウ 前記Aについては、本件全証拠によっても、本件調査会社の恣意によることなく、その調査結果に誤りが発生していることをうかがわせるような事実を認めることはできず、被告の主張は抽象的な可能性を指摘するものにすぎない。 エ 前記Bのうち本件調査会社の管理するピアの通信相手として複数のピアが表示されている場合であっても、以下のとおり、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが実際に送信されていると認めることができる。 証拠(甲29、30)によれば、ビットトレントにおいては、ビットトレントネットワーク上に、自己のピア以外に、共有されているファイルを構成するピースの全部又は一部を保有するピアが複数存在する場合には、当該ピースを、その複数のピアのいずれからもダウンロードするとの仕組みが採用されており、本件ソフトウェアにおいても同様の動作をすることが確認されていると認められる。 他方、本件全証拠によっても、本件各スクリーンショットが撮影された前後を通じて、本件ソフトウェアが上記の仕組みどおりの動作をしていなかったことをうかがわせる事実は認められない。 そうすると、本件各スクリーンショットにおいて、被告が指摘するような状況が記録されているとしても、本件証拠上、本件調査会社の管理するピアが本件各氏名不詳者の管理するピア以外のピアのみから本件各ファイルを構成するピースをダウンロードしたとはうかがわれないから、本件各スクリーンショットが記録される前後の時点で、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが送信されていたと認めるのが相当である。 オ また、前記Bのうち本件調査会社の管理するピアの通信情報が表示される上段の「下り速度」欄に送信速度が表示されていない、又は非常に低い速度しか記載されていない場合についても、以下のとおり、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが実際に送信されていると認めることができる。 前記(3)のとおり、本件各スクリーンショットが撮影されたのは、本件発信者情報目録記載の各日時及び各IPアドレス等により特定されるピアが、本件調査会社の管理するピアに対して本件各ファイルを構成するピースを継続的に送信している間であって、本件調査会社の管理するピアがダウンロードしたファイルは、本件各動画の表現上の本質的特徴を直接感得できる程度に映像を再生し得るものであった。 このように、本件各スクリーンショットが撮影された前後を通じて、本件氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対する、本件各ファイルを構成するピースの継続的な送信がされている以上、仮に本件各スクリーンショットが撮影された時点において一時的にピースの送信がなかったとしても、その前後も含めた通信の全体をみれば、同撮影の時点も含めて、本件各氏名不詳者の管理するピアから、本件調査会社の管理するピアに対し、本件各ファイルを構成するピースが実際に送信されていたものと評価することができ、原告が特定した本件発信者情報目録記載の各日時の時点においても、同各IPアドレス等を使用して、本件各動画の自動公衆送信に係る通信を行っていたと認めることができる。 カ したがって、被告の主張はいずれも採用できないというべきである。 (5)違法性阻却事由の不存在 本件全証拠によっても、本件各氏名不詳者の行為について、違法性を阻却すべき事情はうかがわれないから、違法性阻却事由は存在しないと認めるのが相当である。 (6)小括 以上によれば、本件各氏名不詳者によって、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、本件各発信者情報は、当該各権利侵害に係る発信者情報に該当すると認められる。 2 争点2(本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)か)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各氏名不詳者に対し、本件各動画に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をする予定であるものと認められ、その請求のためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。 したがって、本件各発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法5条1項2号)と認められる。 第5 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 塚田久美子 裁判官 木村洋一 別紙 発信者情報目録 1 項番6、8、10、12、19、30及び32について、以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス 2 項番5、13、15、16及び17について、以下の日時に以下のIPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス 以下省略 (別紙作品目録省略) |
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