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【事件名】映画「天上の花」脚本改変事件
【年月日】令和6年5月30日
 大阪地裁 令和5年(ワ)第531号 著作者人格権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 令和6年3月5日)

判決
原告 X1
同訴訟代理人弁護士 彌田晋介
同 小野俊介
同 塩路涼
被告 X2
同訴訟代理人弁護士 的場徹
同 的場遥


主文
1 被告は、原告に対し、5万5000円及びこれに対する令和5年2月3日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを20分し、その19を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、110万円及びこれに対する令和5年2月3日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、東京都千代田区<以下略>所在の日本経済新聞社発行の「日本経済新聞」全国版朝刊に、別紙謝罪広告目録記載1の内容の謝罪広告を、同2の掲載要領で1回掲載せよ。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、別紙作品目録記載の映画(以下「本件映画」という。)の脚本原稿(以下「第10稿」という。)を作成したところ、被告が原告に無断で第10稿の内容を変更し、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金110万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である令和5年2月3日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払、並びに、著作権法115条に基づく名誉回復措置としての別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載を請求する事案である。
 なお、原告は、株式会社ドッグシュガー、X3及び太秦株式会社(以下、それぞれ「ドッグシュガー」、「X3」及び「太秦」という。)をも被告として本件訴訟を提起したが、この3名との間では口頭弁論終結後に裁判上の和解(解決金支払等の条項を含む。)が成立した。
2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者及び関係者等(甲1ないし3、13、乙A17、18、乙B14)
ア 原告は、本件映画の脚本原稿を執筆し、本件映画の脚本の作成に携わった者である。本件映画は、原告が作成に携わった脚本が映画化された初めての作品である。
イ 被告は、本件映画の最終脚本の作成に携わった著名な映画脚本家である。
ウ ドッグシュガーは、映画等映像作品の企画・製作・配給・販売等を目的とする株式会社であり、本件映画の製作プロダクションである。
エ X3は、ドッグシュガーの代表者であり、本件映画の監督である。なお、原告とは平成24年頃からの知り合いであり、被告とも知り合いで、同年公開の映画につき被告と一緒に仕事をしたことがある。
オ 太秦は、映画等の映像作品の製作・宣伝・企画配給等を目的とする株式会社であり、本件映画の配給宣伝に係る業務を担当している。
カ X4(仕事上の名義は「X4'」。)は、太秦の代表者であり、本件映画のプロデューサーである。
キ X5は、被告と旧知の間柄である映画評論家であり、X4とともに本件映画のプロデューサーである。
(2)本件映画の概要(甲1、7、13、乙A11、乙B15)
 本件映画は、詩人である萩原朔太郎の娘・X6の小説「天上の花―三好達治抄―」(以下「本件小説」という。)を原作とする映画であり、文化庁の「ARTSforthefuture!」補助対象事業であって(以下、同事業に係る補助金を「本件補助金」という。)、令和4年12月9日に公開された。なお、本件補助金の申請時には、本件映画の製作予算は1200万円とされていたが、最終的な製作費は1500万円となった。
 本件映画のクレジット表記においては、「脚本=X1 X2」、「プロデューサー=X5 X4'」、「監督=X3」、「製作=『天上の花』製作運動体」、「製作プロダクション=ドッグシュガー」、「配給宣伝=太秦」と記載されている。「『天上の花』製作運動体」とは、主として本件映画の製作費等の出資を行ったドッグシュガー、太秦及びX5の三者を指し、製作の実働に当たるのが製作プロダクションのドッグシュガーである。また、プロデューサーとは、予算を含めた本件映画製作の全体を統括する立場である。
(3)本件映画の製作をめぐる脚本原稿の執筆・改変の経緯等
ア 原告は、平成25年8月頃から、映画の脚本執筆につき被告の指導や助言を継続的に受けるようになった。その過程で、原告は、被告から本件小説を原作とする映画脚本(シナリオ)の執筆を勧められ、被告の指導や助言を受けながら、第8稿となる脚本原稿を執筆した(以下、同脚本原稿のことを単に「第8稿」という。
 また、「第〇稿」とあるのは、第10稿を含め、全て第8稿が改稿されたものである。)。(甲13、乙A17)
イ 被告は、X3から別の戦争に関する戯曲の映画シナリオ化の打診を受けていたところ、同戯曲ではなく本件小説をシナリオ化したものがあるとX3に紹介し、令和3年5月7日、原告に対し、第8稿(乙A1)をX3に送付するよう指示した。X3は、原告から送付された第8稿を読んで、その映画化を企画することとした。ドッグシュガーは本件補助金を申請し、同年8月5日には本件補助金(600万円)の交付決定がされた。(乙A17、乙B1、14)
ウ 令和3年8月14日、ドッグシュガーの事務所において、第8稿の映画化に向けての打合せが行われ(以下「本件打合せ@」という。)、原告、被告及びX3のほか、X5が参加した。本件打合せ@においては、第8稿をベースに本件映画の製作を進めることや、第8稿の修正方針が合意された。また、被告が本件映画の脚本家として名前を連ねることも了解された。もっとも、本件打合せ@においては、原告及び被告の脚本料について明確な合意はされなかった。(甲13、乙A17、18、乙B14)
エ 原告は、令和3年8月16日、本件打合せ@を踏まえて修正した第9稿(乙A2)を作成し、被告及びX3にメールで送信した。その後、被告は第9稿を修正し、原告は、被告の指示に従って更に修正した第10稿(甲4、乙A3。内容は、別紙「第10稿(準備稿)の内容」のとおりである。)を作成し、同月19日、被告及びX3にメールで送信した。被告とX3は、同日、第10稿を準備稿(一般に、最終脚本となる「決定稿」が作られる以前に、映画の概要を表示し、俳優に出演を働き掛けたり、ロケ地の下見(ロケハン)をしたり、映画製作費用を見積もったりする上で必要とされる脚本原稿)とすることとした。(甲13、乙A17、乙B3ないし5、14)
オ 被告は、第10稿を大幅に修正した第11稿(甲11、乙A4)を作成し、令和3年10月13日に原告に対してメールで送信した(その前日には、X3も第11稿を受領していた。)。原告は、翌14日、X3に対し、被告からX3との打合せ(話合い)が行われる旨聞いたこと、第11稿には被告から知らされていなかった変更が多く驚いており、「食糧メーデー」や「著名人の戦争協力の文章の羅列」等には不満があるので、その部分を削除してほしいことを伝えた。(甲9の5及び6、乙B7、14)
カ 令和3年10月14日、太秦の事務所において、被告、X3、X5及びX4が参加して、第11稿をめぐっての打合せ(以下「本件打合せA」という。)が行われた。その結果、第11稿にある「食糧メーデー」や「著名人の戦争協力の文章の羅列」等は削除されることとなり、被告が修正を行うこととなった。(乙A17、18、乙B14)
キ 被告は、令和3年10月19日、第11稿を修正した第12稿を作成し、原告、X3、X5及びX4にメールで送信したが、このとき、原告は第12稿が送付されたことに気付いていなかった。X3は、第12稿(甲5)を決定稿(最終脚本)とすることとした(なお、同日にメールで送信されたのは第12稿aであり、その後に更に修正された第12稿bも存在するが、微修正にとどまることは争いがないから、両者を区別せず「第12稿」という。その内容は、別紙「第12稿(決定稿)の内容」のとおりである)。第10稿と第12稿との間には、少なくとも、別紙「原告が主張する権利侵害部分(赤字部分)」記載の差異がある。(甲4、5、11、乙A16、乙B13、14)
ク 令和3年11月1日、第12稿に基づく本件映画の撮影が開始され(クランクイン)、令和4年8月に初号試写が行われ、本件映画は一応の完成をみた。(乙B14、15)
 被告は、ドッグシュガーから脚本料として20万円の支払を受けた(乙B14、被告本人)。
ケ 原告は、令和4年11月11日到達の連絡文書で、代理人を通じて、ドッグシュガーに対し、脚本の対価として75万円の支払を求めるとともに、被告及びドッグシュガーに対し、原告の承諾なく第10稿が被告により改変されたことは著作者人格権の侵害に当たり、改変された脚本(第12稿)の映画化は著作権の侵害にも当たるとして、本件映画の公式ホームページ等における謝罪及び慰謝料50万円の支払を求めた(甲12の1及び2、乙A5、6)。
3 争点
(1)原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無(争点1)
(2)原告の損害の有無及び額(争点2)
(3)謝罪広告掲載の必要性(争点3)
4 当事者の主張
(1)原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無(争点1)
〔原告の主張〕
ア 被告は、原告の著作物である第10稿に少なくとも別紙「原告が主張する権利侵害部分(赤字部分)」記載の変更を加え、第12稿を作成した。第10稿から第12稿への変更箇所のうち、原告が同一性保持権侵害と考える変更箇所は、同別紙の赤字部分の箇所である(以下、この箇所に関する変更を「本件変更」と総称する。)。脚本におけるシーンの変更や描写、特にセリフ部分は、脚本の創作性及び特徴において重要な意味を有するところ、被告は、故意に、原告に無断で原告の意に反する本件変更を加え、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害した。
イ 本件打合せ@において、原告は、被告が本件映画の脚本家として名前を連ねることは承諾したが、せいぜい共同で脚本を作成していくという認識であって、原告の関与・同意なく被告が単独で改稿していくことを承諾したことはない。第10稿は、原告の同意の下で何らかの変更が加えられることは想定していたものの、原告の個別の同意がない変更につき包括的に同意した事実はない。
〔被告の主張〕
ア 被告が、第10稿を改稿して、第12稿を作成した事実は認める。
イ しかし、本件変更は、原告が事前に包括的に同意していたものである。すなわち、本件打合せ@において、被告は、本件映画の脚本は原告のデビュー作となるものであるから、原告単独の名前で世に出したいという意見を述べたが、原告が、脚本を原告と被告の連名とすることに同意したため、被告も、脚本に被告の名前を出して連名の作品とすることを了解し、「名前を出す以上、手を入れるよ。直すよ」ということを述べたところ、原告は「よろしくお願いします」と述べて、被告の加筆と修正による第8稿以降の改稿に同意した。
 第10稿に本件変更を加えて改稿し、第12稿を作成する作業は、本件打合せ@で形成された前記同意に基づき、被告が行った。被告は、脚本に自分の名前だけを出すという無責任なことはできなかったため、改稿作業を行ったものであり、原告も、第10稿以降の一切の作業を被告に委ねていた。
 したがって、原告は、本件打合せ@において、第10稿からの本件変更につき明示的に同意していたものであり、本件変更は、同一性保持権を侵害しない。
ウ 本件打合せ@において、原告とドッグシュガー及びX5とが、第8稿を映画化する(翻案する)ことを許諾する旨の著作物使用許諾契約を締結し、ドッグシュガー及びX5と被告との間で、第8稿を映画脚本としてふさわしいものに翻案することを依頼する旨の業務委託契約が締結されたものであるから、被告は、第8稿の使用につき、原告の許諾を受ける法的義務を負うものではない。
(2)原告の損害の有無及び額(争点2)
〔原告の主張〕
 原告は、被告の行為により、自らの同一性保持権を侵害された。原告にとって、本件映画が脚本家としてのデビュー作であり、その脚本は、今後の脚本家人生を左右する極めて重要なものであり、かつ、極めて思い入れの強い作品であった。それにもかかわらず、被告によって、第10稿を自己の許諾していない、意に沿わない内容に改変され、改変後の第12稿(決定稿)を基に映画化がされ、本件映画が上映されたことによって、本件映画の脚本は原告が作成したものとして不特定多数者の目に触れ、その旨のレッテルを貼られることになってしまった。
 このように、原告が許諾していない内容を、自己の脚本であると認識されることによる原告自身の評価の低下は著しく、また、その精神的苦痛は計り知れないものがある。かかる精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては、100万円を下ることはない。
 また、原告は、被告の行為により、本件訴訟の提起を余儀なくされており、その弁護士費用としては、損害額の1割に相当する10万円が相当である。
〔被告の主張〕
 争う。
(3)謝罪広告掲載の必要性(争点3)
〔原告の主張〕
 決定稿の内容は、全体として、女性を軽視する内容と認識されてもやむ得ない内容となっており、かつ、DVを正当化する内容に変更されてしまっていることから、社会的な批判にさらされており、原告の脚本家としての名誉又は声望が毀損されたことは明らかである。原告の名誉又は声望は、慰謝料という金銭の支払によってのみでは十分には回復せず、原告の著作権及び著作者人格権が侵害されたものであったことを周知し、原告が被告からの謝罪を受けることによって全面的に回復し得る。
 したがって、全国紙の新聞に、別紙謝罪広告目録記載1の内容の謝罪広告が、同2の掲載要領で掲載される必要性がある。
〔被告の主張〕
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記前提事実並びに証拠(別紙「認定事実」に掲記の証拠のほか、甲13、14、乙A17、18、乙B14、15、証人X5、原告本人、被告本人、X3(兼ドッグシュガー代表者)、太秦代表者X4)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「認定事実」記載のとおりの事実(以下、同別紙の「No.」欄記載の番号に従い、「認定事実No.1」などという。)が認められる。
2 原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無(争点1)
(1)同一性保持権を侵害する行為とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいう。
 第9稿までは被告による指導、助言を経ながらも原告のみが作成したものである(争いがない。)。また、第9稿に被告が加除修正を加え、被告の追加の修正指示に従って原告が更に修正を加えて第10稿が作成されたが、この修正は、被告の認識によっても「とりあえず気付いた点や誤りについて…加筆削除」したという程度であり(乙A10、17)、脚本の序盤部分に若干のシーンの加筆、変更等はあるものの大部分は本件打合せ@の方針を踏まえた不備の是正にとどまるから、被告の当該修正については脚本作成の創作的関与とまではいえず、第10稿は原告の著作物ということができる。そして、第10稿から第12稿に至るまでに被告によって改稿が行われ、両稿には少なくとも本件変更の箇所の相違があることは争いがない。本件変更に係る部分は、後記(2)認定のとおり、第10稿の基本的な思想、感情の創作的表現は維持しつつ、単純な字句の修正や歴史的事実の是正にとどまらず、主人公が戦争詩を書く理由や主な登場人物の性格描写等について被告の解釈やニュアンスを付加するなどして第10稿を変更するものであるから、本件変更は、第10稿の表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加えるものである。また、その程度は、著作者の人格的利益を通常害しないと認められる程度の些細な変更とはいえない。
(2)これに対し、被告は、本件打合せ@において、脚本家として自身の名前を出すのであれば、脚本に手を入れるという趣旨の発言をし、原告も「よろしくお願いします。」と述べたとの事実が存在することを前提として、第8稿以降の改稿に関する原告の包括的同意があった旨主張する。一方、原告は、本件打合せ@において、原告と被告が本件映画の脚本家として名前を連ねることに同意したが、それは原告と被告が共同で脚本を作成していくという認識であって、原告の関与・同意なく被告が単独で改稿することを承諾していない旨主張する。
 本件打合せ@の状況(認定事実No.8)及び認定事実No.30からNo.52までに認定される原告の対応からすると、原告は被告による従前からの指導、助言の延長に当たる程度の改稿は想定し、そのような修正提案があれば受け入れる意向を有していたことがうかがわれるが、本件打合せ@において、原告が、被告による第8稿以降の脚本の改変を包括的に同意したと認めるに足りる証拠はない。仮に上記被告主張の事実が存在したとしても、それだけで、原告が被告による全ての改稿につき包括的同意を与えたとは認めるに足りない。むしろ、原告が、第11稿を受け取った後、X3に対し、電話で「食糧メーデー」や「著名人の戦争協力の文章の羅列」等に対する不満を述べ、その部分の削除を申し入れ、メールでも「知らされてなかった変更が多く、驚いています。」、「正直解せない部分がある」と述べていること(認定事実No.45、46)、X3も、原告に対し、第11稿は今までとは違う作品になっているので、長さだけではなく、内容的にも今日の話し合いは重要なことになる旨原告に連絡していること(認定事実No.47)からすると、少なくとも、被告が第10稿を含む第8稿以降の脚本に実質的な変更を加える際には、原告の個別の同意を要することが、本件打合せ@の参加者の共通の前提になっていたものと認められる。
 そして、本件変更に係る部分は、主人公と女主人公の愛憎と主人公がDVを行い同棲生活が破綻に至るまでを描く第10稿の基本的な思想、感情の創作的表現は維持しつつ、第12稿の133シーン中15シーンにわたり第10稿の台詞等の内容が変更されており、単純な字句の修正や歴史的事実の是正にとどまらず、主人公が戦争詩を書く理由や主な登場人物の性格・心理等についての被告の解釈や描写を付加するなどしたものであることが認められる。すなわち、本件変更において、第12稿のシーン17、43、57、62、73、76、101、114、119への変更は主人公又は女主人公の性格や心理の描写を第10稿から変容させるもの、同シーン64、65、67への変更は主人公の戦争への向き合い方や戦争詩を書く理由に関する被告の解釈を反映し第10稿に付加するもの、同シーン75、117への変更は主人公の女主人公に対するDVとそれに対する他者の反応の描写を第10稿に付加し又は変容させるもの、同シーン96への変更は主人公が戦争詩を書く理由や主人公と女主人公との関係性について被告の解釈を反映させて第10稿を変容させるものと認められる。
 そうすると、本件変更は第10稿に実質的な変更を加えるものであり、本件変更には原告の同意を要すると解されるところ、被告が本件変更に際して原告の同意を得ていないことは明らかであって、被告による本件変更は、第10稿に関する原告の意に反する改変に当たり、原告の同一性保持権を侵害すると認められる。
(3)また、被告は、原告とドッグシュガー及びX5とが、第8稿を映画化する(翻案する)ことを許諾する旨の著作物使用許諾契約を締結し、ドッグシュガー及びX5と被告との間で、第8稿を映画脚本としてふさわしいものに翻案することを依頼する旨の業務委託契約が締結されたから、被告は、第8稿の使用につき、原告の許諾を受ける法的義務を負わない旨主張する。
 しかし、前記(2)認定のとおり、第10稿を含む第8稿以降の脚本につき、原告が、被告による改変を包括的に同意したとは認められず、かえって、被告が実質的な変更を加える場合には、原告の個別の同意を要することが、本件打合せ@の参加者の共通の前提になっていたものと認められるのであるから、仮に被告が主張する各契約が成立していたとしても、被告が第10稿の実質的な変更につき、原告の許諾を受ける義務がないとはいえず、被告の主張は理由がない。
3 原告の損害の有無及び額(争点2)
 前記2によれば、被告の故意又は過失による同一性保持権侵害の事実が認められ、その結果、原告は、第10稿への思い入れに沿わない第12稿に基づき本件映画が製作、公開されたことにより、著作物に関する創作的表現の同一性を維持するという人格的利益が損なわれ、精神的苦痛を受けたものと認定できる。
 一方、後記4のとおり、第12稿を決定稿とする本件映画の上映によって原告が主張するような名誉や声望が害された事実は認め難いこと、脚本の作成過程で、令和3年10月19日に被告が第12稿aを原告に送信したにもかかわらず原告がこれに気付かず、原告が同月28日になっても決定稿を知らされていないと誤解していたこと(認定事実No.53、54、58)、以上の事情も認められる。
 これらの事情その他一切の事情を総合すると、原告の精神的苦痛を慰謝する金額は5万円が相当であり、弁護士費用はその1割である5000円が相当である。
4 謝罪広告掲載の必要性(争点3)
 雑誌「映画芸術」における本件映画の特集の見出しに関し、SNS上で女性を殴る加害者側に同情的であるとして非難するコメントが存在することは認められるものの(甲8、乙A5)、それは本件映画やその脚本に対する評価ではない。本件映画に対しては肯定的な評価もされているのであって(乙A11ないし13)、本件変更により脚本がDVを正当化する内容に変更されて原告の脚本家としての名誉又は声望が害されたとの事実は認めるに足りない。その他、損害賠償とともに名誉回復等の措置が必要であると認めるべき事情は見当たらない。
 したがって、原告の請求する謝罪広告掲載の必要性は認められない。
5 結論
 よって、原告の請求は、主文の限度で理由があるからこれらを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 武宮英子
 裁判官 阿波野右起
 裁判官 峯健一郎は、転任のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 武宮英子


(別紙)作品目録
映画の題名 天上の花
監督 X3
製作 「天上の花」製作運動体
製作プロダクション 株式会社ドッグシュガー
配給 太秦株式会社
 以上

(別紙)謝罪広告目録
1 広告の内容
 映画「天上の花」が脚本家であるX1氏への許諾なく改変され、制作されたものであることを認め、ここに深くお詫びいたします。
 脚本家にとっては我が子のように大切な脚本を無断で改変するという、映画人としてあってはならない行為が今作品において行われてしまったことについて深く反省いたします。
 またこの改変が、今作がデビュー作であるX1氏に対し、世間に誤った印象を抱かせてしまうような事態を招いてしまったことをお詫びいたします。
 二度とこのような事が起こらないよう自戒する所存でございます。
2 広告の要領
 掲載スペース 社会面 2段×4.0cm
 使用活字 ゴシック12ポイント
 以上

(別紙)第10稿(準備稿)の内容は省略

(別紙)第12稿(決定稿)の内容
(別紙)原告が主張する権利侵害部分(赤字部分)
(別紙)認定事実
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日本ユニ著作権センター
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