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【事件名】「ゾンビ」映画の字幕翻訳事件
【年月日】令和6年5月29日
 東京地裁 令和4年(ワ)第2227号 損害賠償請求事件(第1事件)、令和4年(ワ)第3382号 損害賠償請求事件(第2事件)
 (口頭弁論終結日 令和6年1月18日)

判決
第1事件原告兼第2事件原告 A
同訴訟代理人弁護士 小倉秀夫
第1事件被告兼第2事件被告 株式会社スティングレイ(以下「被告スティングレイ」という。)
同訴訟代理人弁護士 高橋謙治
第1事件被告兼第2事件被告 株式会社フィールドワークス(以下「被告フィールドワークス」という。)
同訴訟代理人弁護士 大栗悟史
第2事件被告 株式会社ハピネット(以下「被告ハピネット」という。)
同訴訟代理人弁護士 辻哲哉


主文
1 被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、原告に対し、連帯して、87万0452円並びにうち1万1000円に対する平成22年4月23日から及びうち85万9452円に対する平成25年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告に対し、連帯して、53万9000円並びにうち7万7000円に対する平成22年10月2日から、うち15万4000円に対する同年11月4日から、うち23万1000円に対する平成25年12月20日から及びうち7万7000円に対する平成26年12月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを200分し、その各4を被告スティングレイ及び被告フィールドワークスの、その1を被告ハピネットの負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 第1事件について
 被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、原告に対し、各自478万5000円及びこれに対する平成22年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件について
 被告スティングレイ、被告フィールドワークス及び被告ハピネットは、原告に対し、各自2993万8832円及び内金2856万3546円に対する平成26年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、外国語の映画である別紙映画目録記載の各映画を翻訳して日本語の字幕データを制作した原告が、被告らに対し、(1)被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが@別紙商品目録記載1のDVD−BOXを、被告らがA別紙商品目録記載2から9までの各DVD又はブルーレイディスク若しくはブルーレイBOXを、原告が制作した字幕データを無断で使用して制作し、販売又は出荷したことで、上記字幕データについての原告の著作権(複製権及び頒布権)又は原著作者としての権利(複製権及び頒布権)が侵害され、また、(2)上記字幕データを原告に無断で改変して原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、(3)別紙商品目録記載2から4まで及び同目録記載6から9までの各商品に、字幕の翻訳者として原告の氏名を表示せず原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張して、いずれも不法行為による損害賠償請求権(民法709条、719条)に基づき、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスに対し、各自478万5000円((1)@の字幕の使用料相当損害金385万円、(2)の慰謝料50万円、(3)弁護士費用相当損害金43万5000円)及びこれに対する不法行為の日である平成22年4月23日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(ただし、各被告らの債務は連帯債務)を、被告らに対して、各自2993万8832円((1)Aの字幕の使用料相当損害金合計2246万6860円、(2)の慰謝料350万円、(3)弁護士費用相当損害金259万6686円に加え、(1)Aの一部についての平成26年12月1日までの確定遅延損害金)及び内金2856万3546円に対する不法行為の日である平成26年12月2日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(ただし、各被告らの債務は連帯債務)を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠等は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者及び本件の関係者
ア 原告は、外国映画の日本語字幕翻訳を業とする者である。
イ 被告スティングレイは、映画の企画制作等を業とする株式会社である。被告フィールドワークスは、映画DVDやブルーレイ等の開発・販売等を業とする株式会社である。
 被告ハピネットは、映像・音楽ソフト等の企画、制作、販売等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
ウ B(旧姓はC。以下「C」という。)及びD(以下「d」という。)は、共同してシネ・マイスター・エスエルシー(以下、C及びdを併せて「シネ・マイスター」ということがある。)の屋号で、字幕制作の業務を行っていたものである。
(2)「ソンビ(ママ)(原題:DawnOfTheDead)」(以下、単に「ゾンビ」という。)の映画について
 別紙映画目録記載の各映画(以下「本件各映画」という。)は、いずれも「ソンビ(ママ)」とのタイトルが付される映像作品であり、被告フィールドワークスが日本国内での独占販売権、独占放映権及び翻訳権を有していた。本件各映画は、それぞれ、以下のとおりの内容のものである(弁論の全趣旨)。
ア 別紙映画目録記載3の映画(「ゾンビ米国劇場公開版」。以下「本件映画3」という。)
 昭和53年に北米大陸の劇場で公開された本編127分のもので、言語は英語である。別紙映画目録記載1の映画(「ゾンビディレクターズ・カット版」。以下「本件映画1」という。)を10分短縮したものである。
イ 別紙映画目録記載2の映画(「ゾンビダリオ・アルジェント監修版」。以下「本件映画2」という。)
 昭和54年に日本の劇場で公開された本編119分のもので、言語は英語であり、本件映画1を短縮したものであるが、本件映画1にはない独自部分が10分弱あった。
ウ 本件映画1
 平成6年に日本の劇場で公開された本編139分のもので、言語は英語である。
エ 別紙映画目録記載4の映画(「コメンタリー」。以下「本件映画4」という。)
 本件映画2の映像に、副音声でスタッフの解説が加えられたものであり、DVDの特典として作成されたものである。言語はイタリア語である。
オ 別紙映画目録記載5の映画(「特典」。以下「本件映画5」という。)
 スタッフ等に対するインタビューを中心とした「ゾンビ」に関する約1時間のドキュメンタリー集である。言語は、イタリア語が40分程度、英語が30分程度である。
(3)原告の字幕翻訳の作成
ア シネ・マイスターは、被告フィールドワークスから、本件各映画のDVD字幕制作及びスポッティング等について、代金197万5050円で請け負った(乙B6)。
イ シネ・マイスターは、平成21年12月9日、原告に対し、平成22年2月25日から同年3月1日までの間に行われるゆうばり国際ファンタスティック映画祭2010(以下「本件映画祭」という。)で上映される本件映画1の字幕制作を依頼し、原告はこれを承諾した。そして、シネ・マイスターは、平成21年12月9日から平成22年3月頃までの間に、本件各映画について、次のとおり、英語又はイタリア語から日本語へ翻訳した字幕のデータの制作、スポッティング(スクリプトにある原文のセリフを1枚の字幕ごとに斜線で区切り、連番の字幕番号を振る作業)及び字幕入れ(字幕編集ソフトにおいて実際の映像に合わせて字幕の文字を入力する作業)の作業(以下「字幕制作等」という。)を順次依頼し、原告はこれを承諾した(甲19、乙A1、4、乙B1、3から5、弁論の全趣旨)。
(ア)本件映画1について、140分の英語の翻訳、スポッティング、字幕入れ
(イ)本件映画2について、本件映画1にない10分の追加の英語の翻訳、スポッティング、字幕入れ
(ウ)本件映画3について、スポッティング及び字幕入れ
(エ)本件映画4について、120分のイタリア語の翻訳、スポッティング及び字幕入れ
(オ)本件映画5について、40分のイタリア語の翻訳、30分の英語の翻訳、スポッティング及び字幕入れ
ウ 原告は、平成22年3月頃までの間に、本件各映画の字幕制作等の作業を完成させ、シネ・マイスターに納品した(以下、原告が字幕制作等の作業により制作した本件映画1に対応する日本語の字幕データを「本件字幕1」、本件映画2に対応する日本語の字幕データを「本件字幕2」などといい、本件各映画の字幕データについて併せて「本件各字幕」という。)。
エ シネ・マイスターは、原告に対し、本件各映画の字幕制作等の報酬として、消費税込みで平成22年4月に41万1000円、同年5月に28万円の合計69万1000円(ただし、それぞれ上記金額から源泉所得税を控除した金額。)を支払った(乙B7、16)。
(4)別紙商品目録記載の各商品(以下「本件各商品」という。)について
ア 被告スティングレイと被告フィールドワークスは、平成21年4月17日、被告フィールドワークスが日本国内において独占的ホームビデオ権(映像をビデオグラムに複製し、個人視聴を前提として頒布する権利を有する。)を有する映像作品「ゾンビ」について、民法上の組合を形成し、同作品の財産的価値を共有し、互いにその収益を分かち合うことも目的とする共同事業契約に合意した(乙B22)。
イ 被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、別紙商品目録記載1のDVD―BOX(以下「本件商品1」という。)を制作し、平成22年4月23日から、その販売を開始した。
 本件商品1は、以下の内容のDVD5枚からなるものであり、本件商品1には、字幕翻訳者として原告の氏名が記載されていた(甲1、57、弁論の全趣旨)。
(ア)DISC1
 本件字幕2を使用して日本語字幕が付された本件映画2(以下「本件字幕付映画2」という。)及び本件字幕4を使用して日本語字幕が付された本件映画4(以下「本件字幕付映画4」という。)が収録されている。ただし、本件字幕付映画4には、別紙対比表に記載のとおり、本件字幕4のうち、「もはや政府がこの事態を」の部分がない日本語字幕(以下「本件商品字幕4」という。)が付された。
(イ)DISC2
 本件字幕1を使用して日本語字幕が付された本件映画1(以下「本件字幕付映画1」という。)が収録されている。
(ウ)DISC3
 本件字幕3を使用して日本語字幕が付された本件映画3(以下「本件字幕付映画3」という。)が収録されている。
(エ)DISC4
 本件字幕5を使用して日本語字幕が付された本件映画5(ただし、本件字幕5が付されているのは、本件映画5全体の半分程度である。)が収録されている。
ウ 被告フィールドワークスと被告ハピネットは、平成22年8月20日、被告フィールドワークスが発売する本件映画1から本件映画3までに関し、対象とする記録媒体をDVDとするセル用ビデオグラムについて、仕入価格を希望小売価格の特定の割合の価格とすること及び最低購入量を定めて、被告ハピネットに対して独占的に売り渡し、被告ハピネットはこれらを独占的に販売する旨の独占販売契約を締結した。当該契約において、発売するDVDには、発売元を「ゾンビ」DVD発売委員会、販売元を被告ハピネットとする旨の記載がある。また、被告フィールドワークスは、当該契約において、被告ハピネットに対し、当該商品の製造に必要な著作権(ビデオグラムの複製権・頒布権を含むがこれに限られない。)その他の権利を被告フィールドワークスが保有し、又は正当に保有する者から許諾を受けて製造されたものであること、被告ハピネットによる当該商品の販売が第三者の有する著作権、著作者人格権、著作隣接権その他の知的財産権その他一切の権利又は利益を侵害するものではないこと、万一、本作品に関し、第三者から被告ハピネット又は被告ハピネットの顧客に対し、第三者の権利を侵害する又は契約に違反するとして、本作品の販売の差止めや損害賠償その他の請求等がなされた場合は、被告フィールドワークスは、自己の費用と責任でこれを解決するものとし、これによって被告ハピネットが被った一切の損害および費用(合理的な弁護士費用を含む。)を賠償することを保証した。(乙C5)
エ 被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、本件字幕付映画1を収録した別紙商品目録記載2のDVD(以下「本件商品2」という。)、本件字幕付映画2を収録した別紙商品目録記載3のDVD(以下「本件商品3」という。)、本件字幕付映画3を収録した別紙商品目録記載4のDVD(以下「本件商品4」という。)をそれぞれ制作して、被告ハピネットに売却し、被告ハピネットは、平成22年10月2日から本件商品2を、同年11月4日から本件商品3及び本件商品4を、いずれも代金4700円で、一般消費者又は卸売業者に対して販売した。なお、本件商品2から本件商品4までについて、字幕翻訳者として原告の氏名は記載されていなかった。また、本件商品2から本件商品4までには、発売元として「「ゾンビ」DVD発売委員会」、販売元として被告ハピネットが記載されていた(争いがない事実)。
オ 被告フィールドワークスと被告ハピネットは、平成25年頃、被告フィールドワークスが発売する本件映画1から本件映画4までのブルーレイについて、前記ウと同様の独占販売契約を締結した。(弁論の全趣旨)
カ 被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、本件字幕付映画1、本件字幕付映画2、本件字幕付映画3及び本件字幕付映画4をそれぞれ収録した別紙商品目録記載5のブルーレイBOX(以下「本件商品5」という)、本件字幕付映画1を収録した別紙商品目録記載6のブルーレイ(以下「本件商品6」という。)、本件字幕付映画2及び本件字幕付映画4を収録した別紙商品目録記載7のブルーレイ(以下「本件商品7」という。)及び本件字幕付映画3を収録した別紙商品目録記載8のブルーレイ(以下「本件商品8」という。)を制作し、ハピネットに売却した。被告ハピネットは、平成25年12月20日から本件商品5を代金1万3500円で、本件商品6から本件商品8までをいずれも4700円で、一般消費者等に販売した。なお、本件商品6から本件商品8までについて、字幕翻訳者として原告の氏名は記載されていなかった。また、本件商品5から本件商品8までには、発売元として「「ゾンビ」ブルーレイ発売委員会」、販売元として被告ハピネットが記載されていた。(争いがない事実)
キ 被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、本件字幕付映画1を収録した別紙商品目録記載9のDVD(以下「本件商品9」といい、本件商品2から本件商品9までを併せて「第2事件各商品」という。)を制作し、被告ハピネットに売却した。被告ハピネットは、平成26年12月2日から本件商品9をレンタル業者に販売した。なお、本件商品9について、字幕翻訳者として原告の氏名は記載されていなかった。また、本件商品9には発売元として「「ゾンビ」DVD発売委員会」、販売元として被告ハピネットが記載されていた。(争いがない事実)
(5)本件訴訟の経緯
ア 原告は、令和3年9月1日、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスに対し、原告の許諾なく本件商品1を販売して原告の著作権が侵害され、そのために販売セットごとに1540円の損害が生じたことからその損害賠償を請求する旨、及び原告に無断で原告が制作した字幕の一部が改変しており、原告の同一性保持権が侵害され、その精神的苦痛を慰謝するために50万円の支払を請求する旨の内容証明郵便を送付し、同月2日、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスに到達した(乙B8、弁論の全趣旨)。
イ 原告は、令和3年9月17日、被告らに対し、被告らが原告の許諾なく第2事件各商品を販売して原告の著作権が侵害され、そのために販売数毎に本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品8までは1540円の、本件商品5は1万4850円の、本件商品9については1410円の損害がそれぞれ生じたことからその損害賠償を請求する旨、並びに本件商品5を除き字幕翻訳者である原告の氏名が表示されなかったため原告の氏名表示権が侵害され、その精神的苦痛を慰謝するために350万円の支払を請求する旨の内容証明郵便を送付し、同月21日、被告らに到達した(乙B8、弁論の全趣旨)。
ウ 原告は、東京地方裁判所に対し、令和4年1月31日に第1事件の訴えを提起し、同年2月10日に第2事件の訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。
(6)被告らの消滅時効の援用(当裁判所に顕著な事実)
ア 被告スティングレイについて
 被告スティングレイは、令和5年8月23日の本件の第3回弁論準備手続期日で陳述された同月15日付け被告準備書面(10)において、原告に対し、著作権(複製権及び頒布権)並びに著作者人格権(同一性保持権侵害及び氏名表示権)侵害に基づく不法行為を原因とする損害賠償債務について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
イ 被告フィールドワークスについて
 被告フィールドワークスは、令和5年4月24日の本件の第1回弁論準備手続期日で陳述された令和4年11月1日付け準備書面(4)において、原告に対し、著作権(複製権及び頒布権)並びに著作者人格権(氏名表示権)侵害に基づく不法行為を原因とする損害賠償債務について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。また、被告フィールドワークスは、令和5年8月23日の本件の第3回弁論準備手続期日で陳述された同月15日付け準備書面(8)において、原告に対し、著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づく不法行為を原因とする損害賠償債務について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
ウ 被告ハピネットについて
 被告ハピネットは、令和5年4月24日の本件の第1回弁論準備手続で陳述された令和4年5月31日付け準備書面(1)において、原告に対し、著作権(複製権及び頒布権)並びに著作者人格権(氏名表示権)侵害に基づく不法行為を原因とする損害賠償債務について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
2 争点
(1)原告は、本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか(争点1)
(2)本件商品字幕4を作成したことは、原告の同一性保持権を侵害するか(争点2)
(3)本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までについて、字幕翻訳者として原告の氏名を表示しなかったことは、原告の氏名表示権を侵害するか(争点3)
(4)消滅時効の成否(争点4)
(5)被告ハピネットは、氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか(争点5)。
(6)損害の発生及びその数額(争点6)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告は、本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか)について
(被告スティングレイの主張)
ア シネ・マイスターから原告に対するメールにより、原告が行う翻訳がDVDの発売のためであることは明示されていて、原告からのメールによる回答で、本件DVDの販売に対する明示の合意が成立した。本件では、「DVDの発売」のための翻訳の依頼とこれに対する原告の承諾があり、対価も含めて合意が明示的に成立したのであり、本件各字幕の複製及び頒布について許諾していた。
イ 仮に明示の合意が認められないとしても、原告とシネ・マイスターとの間でされたメールのやりとりからすると、両者は、遅くとも、平成22年1月28日までに、本件各字幕を用いた本件各映画を収録したDVD、ブルーレイ等のビデオグラム商品の製造及び販売するために、本件各字幕の複製及び頒布することについて、再許諾権付きで利用許諾する旨黙示に合意した。
(被告フィールドワークスの主張)
ア 被告フィールドワークスは、平成21年12月28日、dに対し、「本編3本が劇場を含めたオールライツの翻訳でしたら、このままの見積額で結構です。」と記載したメールを送信し、Cは、同日、原告に連絡をして、原告との間で、本件各映画の翻訳について、「オールライツ・クリア」、少なくともDVD等ビデオグラムの複製及び頒布の利用許諾を前提に、翻訳料10分当たり1万9000円とすることで合意した。このオールライツの権利は、本件各字幕の複製権、上映権、公衆送信権及び頒布権が当然に含まれる。映画の翻訳であれば、その映画に利用することを前提とした「オールライツ・クリア」であり、個別の合意がない限り、翻案権は含まれないが、放映時間が限られるテレビ等で放映するために、同一性保持権を害しない程度で改変権が含まれる。なお、dのメールには、「単価17、000円」と記載されているが、「19、000円」の誤記である。
 以上のように、原告は、Cとの間で、平成21年12月28日、本件各商品をDVD等ビデオグラム商品として製造及び販売するために、本件各字幕の複製及び頒布を許諾する明示の合意があった。
イ 仮に上記の合意がなくても、被告フィールドワークスとシネ・マイスターとの間では、原告の翻訳がオールライツの権利であることを前提に、シネ・マイスターの見積書どおりに本件各映画の翻訳について翻訳料を支払っており、dも、Cに対して、「オールライツ・クリア」で原告と交渉するよう指示した。また、原告は、本件映画祭での上映しか許諾していない旨主張するが、本件映画4の翻訳は、DVD等のビデオグラムでの販売を目的としたものであるから、原告は、DVD等のビデオグラムで販売するために、翻訳をした。原告の翻訳料の単価もオールライツで合意したことが明らかな「チキン・オブ・ザ・デッド」の翻訳料と同額である。これに加え、原告とのメールでは、DVDの販売やその時期のための納期について言及されており、原告はDVDの販売のために翻訳を進めていたことを認識していた。また、シネ・マイスターは、本件各字幕の制作後も、原告と、DVDの販売や「ゾンビ」のテレビ放送を話題としていた。これらの事実関係からすれば、原告とCは、DVD等のビデオグラム商品の製造及び販売するために、本件各字幕の複製及び頒布の利用許諾を黙示に合意していた。
(被告ハピネットの主張)
 原告とシネ・マイスターとの間のメールからすれば、原告とシネ・マイスターは、遅くとも、平成22年1月28日までに、本件各字幕を用いた本件各映画を収録したDVD、ブルーレイ等のビデオグラム商品として販売するために、複製及び頒布することの再許諾権付き利用許諾について黙示の合意が成立した。
(原告の主張)
 原告は、本件各商品の販売について許諾していないから、本件各字幕の複製権又は翻案権並びに複製物又は二次的著作物の頒布権が侵害された。
 原告が字幕翻訳業務を請け負ったのは、もともとは本件映画祭で上映するためである。その当時、DVDが発売予定であることは聞いており、その後にDVD販売用の字幕翻訳業務も併せて請け負ったが、実際にDVDを販売する際には、改めて許諾料等の話合いがされると考えており、本件各商品を販売していた事実は平成30年10月まで知らなかった。
 翻訳業務を請け負った際には、翻訳料の話をしただけであり、具体的な複製や頒布に関する話合いはされていない。なお、被告らは「オールライツ・クリア」で合意した旨主張するが、オールライツという言葉自体、著作権法の文献や映画製作に関与する者が通常接する書籍に掲載されておらず、「オールライツ・クリア」がどのような意味を有するのかは不明である。そして、原告はオールライツの語を聞いたこともその文言を提示されたこともなく、「オールライツ・クリア」といった合意はしていない。
 また、再許諾権付き利用許諾のような重要な合意をする際には、書面を作成するか少なくともメール等で証拠を残すことが通常であり、口頭で合意をすることなどない。被告らは、原告とシネ・マイスターとの間のメールを指摘するが、原告は、そもそも本件商品1から本件商品4までを発売することを聞いていなかったので、原告に改めて許諾することなく商品を販売する話として認識していなかったし、テレビ放送の件については、放送予定があるとの話をしているだけである。
 したがって、原告は、本件各字幕の複製及び頒布について何ら許諾をしていない。
(2)争点2(本件商品字幕4を作成したことは、原告の同一性保持権を侵害するか)について
(原告の主張)
ア 本件商品字幕4の欠落部分は、原告の了解なく変更されたものであり、原告の同一性保持権を侵害する。
 欠落した部分をみても、本件商品字幕4の内容では、誰が何を収拾できないことが明らかになったのかを知ることができず、本件商品1のDISC1を見た視聴者は字幕翻訳者の能力が足りないと理解するから、この変更により原告の人格的利益は侵害され、原告には精神的苦痛が生ずるのであり、「改変」に当たることは明らかである。
イ 原告はそもそも本件商品1の制作及び販売を許諾していないが、仮にこれらを許諾していたとしても、トリミング編集がされた結果、本件商品字幕4のように「もはや政府がこの事態を」の部分のみ切除されることは想定し難い。これは目的があって削除したものではないのであるから、上記部分の欠落が「著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしやむを得ない」とは認められない。
ウ 被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、本件字幕4が一部欠落したのは、作業のミスにより生じたものであると主張する。そうすると、この欠落が生じたのは単純な作業ミスによるものであり、かつ確認作業により容易に確認できるものである。したがって、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスには、過失による同一性保持権侵害が認められる。
エ 被告フィールドワークスは、原告の請求が権利の濫用である旨主張するが、本件商品字幕4では意味が理解できなくなったことについて原告が負った精神的苦痛に対する損害賠償請求をしているのであるから、権利の濫用と評価される余地はない。
(被告スティングレイの主張)
 本件字幕4に欠落が生じたとしても、技術的ミスから欠落したにすぎず、被告が故意に改変する動機はない。本件商品字幕4の欠落部分は、約7140秒のコメンタリーのうち、文字数にしてわずか11文字、時間にして3秒程度の極めて小さな部分にすぎない。そして、本件字幕4から生じた欠落部分は、別紙対比表記載の部分であり、本件商品字幕4でも意味内容は通じる。そして、被告フィールドワークスは、本件商品1を販売するに当たって字幕データも確認をした。仮ミックス時点においては原告、被告らを含む関係者でチェックしているのであり、それでも見落とされた欠落であるから、やむを得ない欠落である。これらの事情からすれば、本件商品字幕4に本件字幕4からの欠落があっても、同一性保持権侵害は成立しない。
(被告フィールドワークスの主張)
ア 本件字幕4からの欠落部分は、別紙対比表のとおりのささいなものであり、この程度の部分が欠落したことで字幕翻訳者である原告が当初考えていたものとは異なった受け止め方をされるおそれはなく、字幕翻訳者の人格的な利益も侵害されず、字幕翻訳者は精神的苦痛を感じない。したがって、本件商品字幕4は、本件字幕4を「改変」したとはいえない。
イ また、本件では、原告が本件映画をDVD化、テレビ放映されることを承諾していたから、DVD化やテレビ放映に当たり、チャプターを入れることによるスキップ再生、放送枠に合わせるトリミング編集が当然に予定されていたといえ、当該スキップ再生やトリミング編集において「もはや政府がこの事態を」の1文が欠落したとしても、「著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に当たる。
ウ 本件商品字幕4で欠落が生じたのは以下の理由によると推察される。すなわち、本件商品1のDISC1のオーサリングで、TV放送と同じ編集で再生する特殊機能を設定した。この機能のために、DVDのVOBファイル(映像ファイル)を編集箇所で分割する必要があるところ、各映像の最後の15フレームは、再生時に字幕が表示されない領域となり、当該字幕(「もはや政府がこの事態を」)がその箇所にかぶっていたため、表示されなかったようである。更に、字幕データは、VOBファイル(映像ファイル)内に映像・音声と同様に「字幕のストリーム」として複合されている。オーサリング業者がオーサリング時に組み込んだコメンタリー用の字幕ファイル(sdbファイル)には当該字幕(「もはや政府がこの事態を」)があったが、前述の理由から、オーサリングのプログラムが当該字幕をストリームからはじきストリーム上に字幕がない状態になっていると推測される。このような理由で欠落が生じたのであるから、仮に「改変」に当たるとしても、やむを得ない事情によるものであり、過失があるとはいえない。
エ さらに、以上のような事情によれば、被告フィールドワークスには、侵害についての故意又は過失もないし、原告の請求は権利濫用に当たる。
(3)争点3(本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までについて、字幕翻訳者として原告の氏名を表示しなかったことは、原告の氏名表示権を侵害するか)について
(原告の主張)
 本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までについて、字幕翻訳者として原告の氏名を表示しなかったことは、原告の氏名表示権を侵害する。
 被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが主張する「日本の映画業界において、字幕翻訳者からの要望がない限り、映画の作品に字幕翻訳者の氏名を表示するか否かは、映画の製造、販売業者の裁量に委ねられている。」などという商慣習は存在しない。原告が翻訳した作品について原告の氏名が表示されていない作品があるとしても、それは原告が把握していなかったにすぎず、上記の商慣習に従った結果によるものではない。また、原告がDVDの販売について問合せを受けたときにDVDの販売の際に原告の氏名を表示するよう要求しなかったことをもって、DVDの製造者に氏名表示をするかどうか委ねたとみることもできない。
 字幕翻訳が用いられている劇場用映画をDVDやブルーレイに収録して販売する場合、ジャケットの裏面や映像作品のエンドロール部分等にすら字幕翻訳者の氏名を表示しないという慣行はない。仮に、そのような慣行があったとしても、外国映画を日本国内で頒布する権利を取得した事業者が新たに加える作業としては、字幕翻訳を作成し組み込む、吹替翻訳を作成し、声優に吹き込ませる、原文で作成された各種表示の日本語訳を作成する程度しかなく、字幕翻訳を作成するに際しては通常エンドロールも日本語化するのでそのエンドロールに字幕翻訳を組み込めばよいこと、字幕翻訳者は、当該字幕翻訳付き映画全体について重要な役割を有しており、同一の映像作品について複数の字幕翻訳者が字幕翻訳を作成することがしばしば行われており、商品ごとに、ジャケットの裏面や映像作品のエンドロール部分等に当該字幕翻訳の作成者の氏名を掲載しないと、当該商品の字幕翻訳を誰が作成したのかを公衆に知らしめることができないこと等を考慮すれば、そのような慣習が「公正」なものではないことは明らかである。
(被告スティングレイの主張)
ア 日本の映画業界においては、字幕翻訳者からの要望がない限り、映画の作品に字幕翻訳者の氏名を表示するか否かは、商慣習上、映画の製造、販売業者の裁量に委ねられている。むしろ、製作者と翻訳者との契約書には、一般的に「甲(製作者)は、その裁量において、映画及びその他の機会において、乙(翻訳者)の氏名を、日本における字幕翻訳者の氏名表示慣行に従って表示する権利を有する」と記載されていることからすると、字幕翻訳者の氏名表示をするか否かは製作者の権限といえる。だからこそ、本件各映画以外の他の映画においても、字幕翻訳者の氏名が表示されていないものがあり、原告が翻訳した映画においても、本件映画を除いて、13本もの映画に原告の氏名が表示されていない。
 原告は、「また今回DVDも発売しますがこれに伴いまして、コメンタリーがありイタリア語ですがスクリプトがありませんが、aさんはイタリア語のヒアリングはお願いできますでしょうか」と問合せを受けた際も、「ゾンビでは大変お世話になりました。大ヒットとはいきませんでしたが、おかげさまでBOXもそこそこ売れており、秋にはバラ売り発売の予定です。」と問合せを受けた際も、DVDの販売に当たり原告の氏名を表示してほしい旨の要望はなかった。
 したがって、氏名表示をする合意がない限り、本件映画のDVDに原告の氏名が表示されなかったとしても、原告の氏名表示権を侵害することはない。
イ 原告が氏名表示を希望するのであれば、エンドロールにその氏名を表示すれば足りるにもかかわらず、原告はこれをしなかったのであるから、氏名不表示が原告の選択であり、氏名表示権侵害は成立しない。
ウ 字幕翻訳は、本件映画の音声を翻訳したもので、本件映画を視聴するに当たり、英語やイタリア語が分からなくても映画の内容を理解するためのものであり、映画から独立して一般的には何らかの利益があるものではない。実際、原告が字幕翻訳を行ったにもかかわらず、原告の氏名が表示されていない映画が複数存在するが、原告の利益を害したことはない。したがって、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までに原告の氏名が表示されていなかったとしても、著作物の利用の目的及び態様に照らし、原告の利益を害するおそれはなく、原告の氏名表示権を侵害することはない(著作権法19条3項)。
(被告フィールドワークスの主張)
 被告スティングレイの主張のア及びウと同じ。
(被告ハピネットの主張)
 一般向けビデオグラム商品の市場において、ビデオグラム商品上に字幕翻訳者の氏名の表示を省略しても、字幕翻訳者がビデオグラム商品に収録された映像作品の字幕の創作者であることを主張する利益を害するおそれはなく、そうした氏名表示の省略は公正な慣行に反するとはいえない。
(4)争点4(消滅時効の成否)について
(被告スティングレイの主張)
ア 同一性保持権侵害について
 原告は、遅くとも平成30年12月末日には、原告の同一性保持権が侵害されていることを認識していたといえるから、同日を起算日とする消滅時効が完成している。
イ 氏名表示権侵害について
 原告は、遅くとも平成30年12月末日には、原告の氏名表示権が侵害されていることを認識していたといえるから、同日を起算日とする消滅時効が完成している。
ウ 複製権及び頒布権侵害について
 本件商品2から本件商品4までは、本件商品1をばら売りしたものであり、別の著作権が生じるものではない。そして、本件商品1の販売時期は平成22年4月23日であるところ、原告は、その時点で本件商品が販売されていたことを認識していたから、同時点を起算日とする消滅時効が完成する。仮にこの時点が起算日として認められないとしても、原告は、シネ・マイスターのdが「BOXもそこそこ売れており、秋にはバラ売り発売の予定です。」等との記載があるメールを原告に送った同年7月13日には、本件商品1が販売されていることを認識していたから、遅くとも同日を起算日とする消滅時効が完成している。
(被告フィールドワークスの主張)
ア 同一性保持権侵害について
 被告フィールドワークスは、平成22年4月19日、dから本件商品1のサンプルを3セット送付するよう依頼されて、同月23日ころ、dに対して、3セットを送付した。その3セットは、d、C及び原告が確認するためのものであり、遅くとも平成22年4月末日までには、原告は、本件商品1を受領した。そうすると、原告は、遅くとも同年5月末日までに、本件商品1の内容を確認し、コメンタリー部分に「もはや政府がこの事態を」が表示されていないことを認識していたから、同年6月1日を起算日とする消滅時効が完成している。そうでなくても、原告は、遅くとも平成30年8月末日又は同年12月末日には、同一性保持権が侵害されていることを認識したから、同日を起算日とする消滅時効が完成している。
イ 氏名表示権侵害について
 原告は、本件商品4の販売がされた同年11月の時点では、本件商品2から本件商品4までの販売を認識していた。仮にこの日に認識していなくても、原告は、シネ・マイスターのCが「去年だと思いますが、翻訳をお願いしました「ゾンビ」がWOWOWでの放送が決まりました。放送日など分かりましたらご連絡いたします。」との記載のあるメールを原告に送った平成23年10月20日には、本件商品2から本件商品4までのビデオグラムが製造、販売されたことを知っていたから、本件商品2から本件商品4までについては同日を、本件商品6から本件商品8までについてはその発売日である平成25年12月20日を、本件商品9についてはその販売開始日である平成26年12月2日を、それぞれ起算日とする消滅時効が完成している。
 そうでなくても、原告は、遅くとも平成30年8月末日又は同年12月末日には、氏名表示権が侵害されていることを認識していたから、同日を起算日とする消滅時効が完成している。
ウ 複製権及び頒布権侵害について
 原告は、本件商品1の販売開始日である平成22年4月23日時点において、原告は本件商品1の販売を認識していたし、仮にそうでなくても、本件商品4の販売された同年11月の時点では、本件商品1から本件商品4までの販売について認識していた。仮にこれらの日に認識していなくても、原告は、シネ・マイスターのCが「去年だと思いますが、翻訳をお願いしました「ゾンビ」がWOWOWでの放送が決まりました。放送日など分かりましたらご連絡いたします。」との記載のあるメールを原告に送った平成23年10月20日には、本件商品1から本件商品4までのビデオグラムが製造、販売されたことを知っていたから、本件商品1から本件商品4までについては同日を、本件商品5から本件商品8までについてはその発売日である平成25年12月20日を、本件商品9についてはその発売日である平成26年12月2日を、それぞれ起算日とする消滅時効が完成している。
 そうでなくても、遅くとも平成30年8月末日には、原告は、複製権及び頒布権が侵害されていることを認識していたから、同日を起算日とする消滅時効が完成している。
(被告ハピネットの主張)
 原告は、複製権侵害、頒布権侵害及び氏名表示権侵害のいずれについても、シネ・マイスターのCが「去年だと思いますが、翻訳をお願いしました「ゾンビ」がWOWOWでの放送が決まりました。放送日など分かりましたらご連絡いたします。」との記載のあるメールを原告に送った平成23年10月20日には、本件商品2から本件商品4までのビデオグラムが製造、販売されたことを知っていたから、本件商品2から本件商品4までについては同日を、本件商品5から本件商品8までについてはその発売日である平成25年12月20日を、本件商品9についてはその発売日である平成26年12月2日を、それぞれ起算日とする消滅時効が完成している。
(原告の主張)
 改正前民法724条前段の短期消滅時効の起算点は、被害者又はその代理人が損害及び加害者を知ったときであるところ、原告は、平成30年10月まで本件各商品が販売されたことを知らなかったから、消滅時効は完成していない。なお、本件各商品の製造、販売はいずれも別の不法行為であるから、消滅時効の起算日は本件各商品ごとに異なる。
 原告が、シネ・マイスターのdからの「BOXもそこそこ売れており、秋にはバラ売り発売の予定です。」との記載があるメールを受信した時点では本件商品1が販売されていたとは認識できなかったことは、前記(3)のとおりである。また、シネ・マイスターのCからの「去年だと思いますが、翻訳をお願いしました「ゾンビ」がWOWOWでの放送が決まりました。放送日など分かりましたらご連絡いたします。」との記載のあるメールを読んでも、本件商品1から本件商品4までが販売されることを認識していたといえないことは明らかである。
 原告は、令和3年9月1日付け内容証明郵便において、被告らに対し、著作者人格権及び著作権侵害に基づく損害賠償の支払を催告しており、同書面は同月2日に被告らに送達された。したがって、平成30年12月末日を起算日とする消滅時効は完成しない。
(5)争点5(被告ハピネットは、氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか)について
(原告の主張)
ア 被告らは、「ゾンビ」DVD発売委員会及び「ゾンビ」ブルーレイ発売委員会を構成して第2事件各商品を発売しており、また被告ハピネットは、ウェブサイトを通じて第2事件各商品を販売し又は他の業者に出荷していたのであり、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスとともに、共同不法行為責任を負う。
 被告ハピネットは、販売元と表示されているほか、JANコードは商品のブランドを持つ日本の事業者(商品の主体的な供給者)が商品ごとに設定するものとされ、当該商品の製造・販売を行った事業者が設定することもあるが、当該コードは被告ハピネットを指している。また、第2事件各商品のディスク面の縁部付近には、「MANUFACTUREDBYHAPPINETCORPORATION」と記載されている。これらの事情からすれば、被告ハピネットは、「ゾンビ」DVD発売委員会及び「ゾンビ」ブルーレイ発売委員会を構成している。
 また、被告ハピネットは、少なくとも販売を担当し、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスと三社で共同して役割分担をして第2事件各商品の企画、制作、製造、販売を行っており、販売元として第2事件各商品を小売し又は卸売する際、適切な権利処理をすべき義務があるところ、これを怠って第2事件各商品の販売に至ったのであるから、主観的関連共同性が認められ、共同不法行為が成立する。
イ 原告は、被告フィールドワークスが本件各商品に本件各字幕を複製することも、本件各商品を頒布ないし譲渡することについても許諾していないから、本件各字幕は適法に複製され又は頒布ないし譲渡されていない。したがって、本件各字幕に関する頒布権について消尽が生じていない。
ウ 被告ハピネットは、第2事件各商品の販売元で独占的頒布権者であったのであり、第2事件各商品の発売元である被告フィールドワークス又は被告スティングレイと直接連絡をすることができ、かつ、第2事件各商品の生産者に直接発注し、納品を受けることができる立場にいた。したがって、被告ハピネットは、第2事件各商品について発注する段階で必要な権利処理をしているかどうか確認できた。それにもかかわらず、確認作業を行わなかったのであるから、第2事件各商品が著作権法第26条の2第2項各号の類推適用を受けるものに該当しないことを、その譲受けの時点で知らなかったとしても、それは過失があると評価すべきである。
 したがって、本件においては、著作権法第113条の2は類推適用されない。
(被告ハピネットの主張)
ア 一般に、ビデオグラムの製造と流通は別の会社によって行われることが多く、「発売元」とは、商慣習上、ビデオグラムの企画、製造、発売の主体となる事業者を指す呼称であり、「販売元」とは、商習慣上、ビデオグラムの流通、すなわち、小売事業者やレンタル事業者に対する販売(卸販売)を行う事業者を指す呼称である。発売元と販売元は、通常、発売元を売主、販売元を買主とする売買契約を締結するが、その際、ビデオグラムの製造及び販売を行うために必要な映画等の映像コンテンツの権利処理を行う責任、商品の内容及び品質に関する保証、商品の内容及び品質に関する問い合わせに対応する責任、製造物責任等を発売元が負うべき旨があわせて約定される。本件においても、被告フィールドワークスと被告ハピネットは、同様の契約を締結している。
 被告ハピネットは、「ゾンビ」DVD発売委員会ないし「ゾンビ」ブルーレイ発売委員会が行う本件各商品の製造、発売に関し、本件販売契約に基づく買主として関与をしたのみであって、その製造及び発売を支配又は管理する地位になく、また、その製造及び発売による営業上の利益を享受する地位にもない。原告が著作権(複製権及び頒布権)及び氏名表示権の侵害にあたると指摘する事実につき、当時、被告ハピネットと「ゾンビ」DVD発売委員会ないし「ゾンビ」ブルーレイ発売委員会との間に意思の連絡はなく、被告ハピネット、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスの三者間の主観的関連共同は存在しない。
 したがって、被告ハピネットは、共同不法行為の責任を負わない。
イ 被告フィールドワークスにより本件字幕翻訳が本件各商品中に適法に複製され、適法に譲渡されたことから、本件字幕翻訳に関する原告の頒布権は本件各商品に関して消尽している。
ウ 頒布権の消尽が認められないとしても、被告ハピネットは、本件各商品の譲渡を受けた時において、本件各商品が本件字幕翻訳に関する原告の頒布権が消尽していなかった事実につき善意無過失であり、被告ハピネットが本件各商品を小売店等に卸売りまたは一般消費者に小売する行為は、原告の頒布権を侵害しない(著作権法第113条の2の類推適用)。また、被告ハピネットは、「ゾンビ」DVD発売委員会ないし「ゾンビ」ブルーレイ発売委員会を構成せず、意思の連絡もない以上、故意も過失もない。
(6)争点6(損害の発生及びその数額)について
(原告の主張)
ア 同一性保持権侵害について50万円
 本件商品1の制作により、原告の同一性保持権が侵害されたことで生じた原告の精神的苦痛を慰謝するのに必要な金員は50万円を下らない。
イ 氏名表示権侵害について 50万円×7=350万円
 本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までの販売により、原告の氏名表示権が侵害されたことで生じた原告の精神的苦痛を慰謝するのに必要な金員は、商品ごとに50万円を下らない。
ウ 複製権侵害及び頒布権侵害について 第1事件(本件商品1)につき385万円、第2事件(第2事件各商品)につき2246万6860円
(ア)字幕翻訳の制作は、卓越した外国語力に加えて、限定された領域に収まる文字数で表現するために、情報の取捨選択をする必要があり、難易度が高い作業である。また、語学力に秀でていない映画愛好者が多い日本においては、字幕翻訳を付さないまま外国語映画をDVD等に収録して発売しても大きな売行きは見込めない。したがって、映画等に挿入されるBGM等よりも、外国語映画の日本国内における普及に貢献する割合が高く、本件商品のように少なくとも本件各字幕が挿入された状態で劇場公開されたことのない外国語映画をDVD等の物理媒体に頒布目的で収録する場合の字幕翻訳の使用料率は、少なくとも商品の定価ないし標準小売価格の10%が相当である。
 また、レンタル用に生成された商品についても、商品の製造又はレンタル事業者への交付の段階で使用料相当損害金の額が定まると解すべきである。そして、レンタル事業者は個人として当該映像作品を視聴して楽しむのではなく、これを正規にレンタルして収入を得ることを目的として商品の交付を受けるのであるから、使用料相当損害金の算定の基礎となる価格は、エンドユーザーへの小売価格の3倍程度であると考えるべきである。
(イ)本件商品字幕4は、本件字幕4をごくわずかに改変したにすぎないから、本件商品字幕4の使用料相当金額は、原告に支払われるべきである。
 そして、DVD5枚組の本件商品1の税抜価格が2万2000円であり、DVD1枚当たりの税抜価格は4400円であるところ、本件商品1のDISC4の半分及びDISC5にはどの本件各字幕も使用されていないから、本件商品1中の本件各字幕が使用されている部分に相当する税抜価格は以下のとおりである。
 4400×3+4400÷2=1万5400円
 また、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までの各商品の税抜価格はいずれも4700円、本件商品5の税抜価格は1万3500円である。
 そして、本件商品1は、先行予約分1369本に加え、その後683本を売り上げたものであるが、500セット単位のロットで生産していると考えられるから、合計2500セット生産されていると考えられる。
 また、第2事件各商品の仕入数量又は導入数量は、本件商品2が2650枚、本件商品3が1600枚、本件商品4が900枚、本件商品5が4200セット、本件商品6が2880枚、本件商品7が800枚、本件商品8が880枚、本件商品9が8676枚を下ることはない。したがって、本件各商品にかかる使用料相当損害金は、以下のとおりである。
a 本件商品1 1万5400円×0.1×2500=385万円
b 本件商品2 4700円×0.1×2650=124万5500円
c 本件商品3 4700円×0.1×1600=75万2000円
d 本件商品4 4700円×0.1×900=42万3000円
e 本件商品5 1万3500円×0.1×4200=567万円
f 本件商品6 4700円×0.1×2880=135万3600円
g 本件商品7 4700円×0.1×800=37万6000円
h 本件商品8 4700円×0.1×880=41万3600円
i 本件商品8 4700円×3×0.1×8676=1223万3160円
エ 弁護士費用について第1事件につき43万5000円、第2事件につき259万6686円
 本件は、いずれも弁護士にその事務を委任しなければ訴訟を追行することが困難であるから、本件訴訟の遂行を原告代理人に依頼し、弁護士費用を支払ったことは、各不法行為と一定の限度で相当因果関係のある損害となる。
(ア)第1事件について
 (50万円+385万円)×0.1=43万5000円
(イ)第2事件について
 (350万円+2246万6860円)×0.1=259万6686円
(被告スティングレイの主張)
 否認ないし争う。映画の翻訳料の相場は、1本当たり20万円から30万円程度である。また、字幕翻訳の使用料は、1本当たりで決まる。
(被告フィールドワークスの主張)
 否認ないし争う。映画の翻訳料の相場は、オールライツを前提として1本当たり20万円程度である。
(被告ハピネットの主張)
 原告が主張する仕入数量ないし導入数量は認め、その余は否認ないし争う。一般向けビデオグラム商品の市場において、ビデオグラム商品に収録された映像作品の字幕の使用料をビデオグラム商品の小売価格ないしその製造数量に対する一定料率として算出する商慣習はない。
第3 当裁判所の判断
1 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)本件各字幕に関するメールのやり取りについて
ア シネ・マイスターのCは、平成21年12月9日、原告に対し、電子メールで、本件映画祭でのビデオ上映用のために、本件映画1について、本件映画3の英語台本を使用し、当該英語台本に記載のない英語部分についてヒアリングした上で平成22年1月中頃までに翻訳することを依頼した。また、Cは、この電子メールに、「今回DVDも発売しますがこれに伴いまして、コメンタリーがありイタリア語ですがスクリプトがありませんが、aさんはイタリア語のヒアリングはお願いできますでしょうか」と記載した。(甲19、乙A4、乙B1、12)
イ 原告は、平成21年12月10日、Cに対し、電子メールで、上記翻訳依頼を受ける旨回答するとともに、納期を平成22年1月14日とすることで可能かどうか、万一ヒアリングできない場合、ヒアリング会社に依頼できるか、英語10分1万7000円、フランス語、イタリア語及びラテン語は10分1万9000円で請け負っているが、これに近い料金で請け負うことができるかを確認した。また、原告は、イタリア語のヒアリングは請け負っていないこと、ネイティブによるヒアリング起こしのスクリプトを用意できるのであればコメンタリーの翻訳について引き受けることを、それぞれ回答した(乙A4、乙B12)。
ウ Cは、平成21年12月10日、原告に対し、電子メールで、納期は平成22年1月14日とすることで問題ない旨、イタリア語の翻訳をお願いしたい旨、翻訳はスポッティング込みで英語10分1万7000円でよいか確認するとともに、「DVD発売に際して、「ゾンビマニア」という60分の作品(英語、スクリプトあり、)、コメンタリー等(イタリア語、英語)も翻訳時期はずれますが、お願いできればと思っております。まず、139分の本編をお願いいたします。」と記載して依頼した(甲24)。
エ シネ・マイスターのdは、平成21年12月11日、被告フィールドワークスの担当者であるE(以下「e」という。)に対し、電子メールで「翻訳者とまだ、交渉中ですが、翻訳費は、18,000円×14+TV転用で40,000円になりそうです。ちなみに、TVは、地上波、BS、CSのすべてですよね?」と送信したところ、eは、同日、電子メールで「翻訳費の件は了解しました。TVはすべてです(インターネットブロードバンドも含まれる形にしていただきたく)」と回答した(乙B2)。
オ Cは、平成21年12月13日、原告に対し、電子メールで、素材は発送する旨連絡するとともに、「DVDの発売ですが、今回の本編139分版、119分版、127分版の翻訳も随時お願いできるればと思っております。編集がそれぞれちがうようですが、せりふは139分版で対応できるようです。」(判決注:原文ママ)と送信したところ、aは、同日、Cに対し、「119分版、127分版の翻訳も、ぜひやらせていただきたいと考えております。」と回答した(乙A5)。
カ dは、平成21年12月22日、被告フィールドワークスに対し、同日付けの見積書を送付した。当該見積書には本件各映画の翻訳料やスポッティングの費用の記載があり、ロメロ最長版の翻訳料の項目には、「(VIDEOGRAM+TV)」との記載があったが、アルジェント版の追加翻訳料、コメンタリーの翻訳料、ドキュメンタリーの翻訳料及び予告編他の翻訳料の項目には、いずれもそのような記載はなかった。(乙B3、5)
 Cは、平成21年12月22日、原告に対し、作業表と題する、原告の作業単価と作業時間、納品希望日等が記載されたエクセルファイルを電子メールに添付して送信した。当該作業表には、本件映画2の追加翻訳料1万7000円と字幕、スポッティング料4万8000円、本件映画1の翻訳料23万8000円、コメンタリー翻訳料22万8000円、ドキュメンタリーの翻訳料5万7000円、予告編他の翻訳料5万1000円と記載されていたが、本件映画3については作業表に記載されていなく、また、「VIDEOGURAM(ママ)+TV」との記載や「VIDEOGURAM(ママ)」との記載はどこにもなかった。また、当該作業表には、コメンタリーやドキュメンタリーの納期として2月末頃を予定していることが記載されていた。
(甲58)
キ eは、平成21年12月28日、dに対し、前記カの電子メールに返信し、「本編3本が、劇場も含めたオールライツの翻訳でしたら、このままの見積額で結構です。」と回答した(乙A6、乙B4、9)。dは、同日、Cに対し、上記電子メールを転送するとともに、同メールに、「翻訳権ですが、劇場にてプリントではなく、DVD上映も追加になりました。単価17000円×14(ロメロ最長版)+4000×12+17000円(アルジェント版)で3バージョンすべて、オールライツ・クリアでaさんと交渉願います。」と記載した(乙A6、乙B9)。
ク dは、平成22年1月22日、原告及びCに対し、仮ミックスDVDRをメール便で発送する旨のメールを送信した。それに対し、原告は、仮ミックスの件を聞いておらず、Cに問い合わせたが返事がない旨返信した。そこで、dは、原告に対し、再度仮ミックスのDVD−Rを送付したことから確認してほしい旨、翌週に特典映像のCD−RをC経由で送付する旨、予告編の順番について指示する旨が記載されたメールを送信した。これを受けて、Cは、同日、原告に対し、本件映画2の作業を終了後、仮ミックスのDVD−Rを確認するよう再度依頼した。(甲25)
ケ Cは、平成22年1月28日、原告に対し、電子メールで、「早めの納品ありがとうございます。ロメロ版のチェックもありがとうございます。アルジェント版について、何かありましたら、ご連絡をいたしますので、引き続き宜しくお願いいたします。明日着(エクスパック)で特典のCD−Rをお送りいたしました。宜しくお願いいたします。また1つご相談です。ゾンビで、北米公開バージョンがあります。130分です。これはロメロ版からシーンをカットしたもので追加のシーンはないです。aさんのロメロ版の翻訳でこのバージョンの字幕も作成したいと思います。バージョン違いということで、転用料が発生するかと思いますが、この転用料として、4000円×13=52000円でスポッティング、字幕入れの作業をお願いすることは可能でしょうか。」と依頼した。これに対し、原告は、同日、Cに対し、前記電子メールに返信し、同メールに、「アルジェント版につきましては何でも遠慮なくご連絡ください。北米公開バージョンのスポッティングと字幕入れの作業、是非やらせてください。金額も下記で結構です。」と記載した。(乙A7)
コ dは、平成22年2月14日、原告に対し、電子メールで「4月23日にDVDを発売しますので、2月末には、すべての翻訳アップができればと思っておりました。」と送信したところ、原告は、同日、上記電子メールに返信し、同メールに「ロメロ版127分は2月22日(月)UPではいかがでしょうか?」などと記載した(乙B21)。
サ 原告は、平成22年3月16日、Cに対し、本件映画3の字幕及びスポッティング費用及び本件映画4の翻訳の報酬として、合計28万円を請求した(乙B16)。
シ dは、平成22年7月13日、原告に対し、「ゾンビでは大変お世話になりました。大ヒットとはいきませんでしたが、おかげさまで、BOXもそこそこ売れており、秋にはバラ売り発売の予定です。」と記載した電子メールを送信した(乙A9、乙B14)。
ス Cは、平成22年9月16日、原告に対し、dからの「ちなみに、ゾンビも10月と11月で3バージョンがバラ売りされます。」との記載がある電子メールを転送した上、「DVD発売の件、下記をご確認ください。」と送信した(乙A9、乙B15)。
セ Cは、平成23年10月20日、原告に対し、電子メールで「去年だと思いますが、翻訳をお願いしました「ゾンビ」がWOWOWでの放送が決まりました。放送日などわかりましたらご連絡いたします。」と送信した。原告は、同日、Cに対し、「「ゾンビ」がWOWOWで放送されるんですね。嬉しいです。放送日のご連絡、楽しみにしてます。」と回答した(乙B13)。
(2)本件各字幕とは別の字幕に関するシネ・マイスターの原告に対する依頼のメールについて
 Cは、平成24年10月24日、原告に対し、電子メールで、その表題に「チキン・オブ・ザ・デッド」という、依頼する映画のタイトルを記載した上、「早速ですが、首題の翻訳をお願いしたいのですが、ご都合はいかがでしょうか。」「下記がタイトル情報です。」「MPEG1は、週明け月曜日にダウンロード(マックレイより)英語スクリプトはPDFで送付翻訳納期は2週間後(11月9日目標)」「ブルーレイにて単館劇場上映、BD、DVDになります。」と記載した(甲20)。
2 本件各字幕の著作者及び著作権者について
 前記第2の1(3)認定のとおり、原告は、本件映画1の音声を翻訳して本件字幕1を、本件映画4の音声を翻訳して本件字幕4を、本件映画5のうちの約半分の部分の音声を翻訳して本件字幕5をそれぞれ制作した上、本件映画2において本件字幕1で不足する部分の音声の翻訳をして本件字幕2を制作し、かつ本件字幕1を短縮して本件字幕3を制作した。これらによれば、原告は、本件各字幕の著作者であり、本件各字幕の著作権者である。
3 争点1(原告は、本件各字幕の複製及び頒布について許諾したか)について
(1)前記第2の1(4)認定のとおり、本件各商品は、いずれも本件各字幕(ただし、本件商品1のDISC1については、本件字幕4の一部が欠落した本件商品字幕4)のいずれかを付した本件字幕付映画1から本件字幕付映画5までを収録しているのであるから、本件各字幕が複製されている。なお、本件商品1のDISC1の本件字幕4の欠落部分はごくわずかであることから、本件商品1のDISC1についても本件字幕4が複製されているといえる。
 そして、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、平成21年4月17日に組合契約を締結して本件各商品を制作した上(前記第2の1(4)ア)、本件商品1については、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが平成22年4月23日に販売しているから、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは本件各字幕を複製し(著作権法21条)、頒布した(同法26条2項参照)といえる。
 第2事件各商品については、前記組合契約に基づいて、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが制作し、被告フィールドワークスと被告ハピネットの平成22年8月20日及び平成25年頃の合意によって、被告フィールドワークス及び被告スティングレイが、「「ゾンビ」DVD発売委員会」又は「「ゾンビ」ブルーレイ発売委員会」として、被告ハピネットに発売し、被告ハピネットが一般消費者やレンタル事業者に販売したものである(前記第2の1(4)ア、ウからキまで)から、第2事件各商品については、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが本件各字幕を複製して被告ハピネットに頒布し、被告ハピネットが一般消費者又はレンタル事業者に頒布したといえる。
 以下、以上の本件各字幕の複製及び頒布について、原告の許諾があったといえるのか、判断する。
(2)ア 許諾につき、被告フィールドワークスは、平成21年12月28日にdに対して前記1(1)キのメールを送信し、これを受けてdがCにメールを送信した後、同日、Cが原告に連絡して、本件各映画の翻訳について、「オールライツ・クリア」を前提(少なくともDVD等のビデオグラムの複製・頒布の利用許諾を前提)として翻訳料10分あたり1万9000円とすることで合意した旨主張して、原告が本件各字幕の複製及び頒布を許諾した旨主張する。そして、Cは、同日、原告に電話で連絡をして、「オールライツ・クリア」の了解を得た旨と証言し、dも、同日、Cから3本とも「オールライツ・クリア」で了承を得られた旨の電話を受けた旨述べる。
 これに対し、原告は、同日に上記の電話を受けたことも「オールライツ・クリア」の了解をしたこともない旨供述する。
イ 確かに、被告フィールドワークスは、平成21年12月28日、dに対して「本編3本が、劇場も含めたオールライツの翻訳でしたら、このままの見積額で結構です。」と送信した(前記1(1)キ)。同月22日のメールの内容(同カ)から、この「本編3本」は本件映画1から本件映画3までを指すといえる。しかし、平成22年1月18日の原告とCとのメールのやり取り(同ケ)からすれば、本件映画3に関する字幕及びスポッティングの作業と転用料について、初めて、シネ・マイスターが原告に対し依頼を行い、これを原告が承諾したのは、同日(平成22年1月18日)と認められるから、d及びCの前記各証言は、客観的事実と明らかに異なる。そして、d及びCの前記各証言を裏付けるメールのやりとりはない。
ウ また、Cは、前記1(1)カの作業表について、シネ・マイスターが作成した被告フィールドワークス宛の平成21年12月22日付け見積書(乙B3)を抜粋し、加工して作成した旨証言する。しかし、作業表には、本件映画3の見積もりの記載はないし、既に述べたように、この時点で本件映画3について合意されているのであれば、平成22年1月18日に本件映画3について前記のようなやりとりがされることにはならない。したがって、当該作業表が上記見積書の抜粋によって作成されたものであったとしても、これが被告フィールドワークスの主張を裏付けるものとはいえない。
エ これらの事情からすれば、平成21年12月28日に「オールライツ・クリア」で合意し、原告から本件各字幕の複製及び頒布の許諾を得たとする被告フィールドワークスの主張は採用できない。
(3)ア また、許諾について、被告らは、原告とのメールのやりとりからすれば、原告は、遅くとも平成22年1月28日までに、本件各字幕を用いた本件各映画を収録したDVD、ブルーレイ等のビデオグラム商品を複製及び頒布することについて、再許諾権付で利用許諾する旨、明示又は黙示に合意した旨主張する。
イ 原告と被告シネ・マイスターは、平成22年1月28日に本件映画3について原告が字翻訳等の作業を行うことを合意し(前記)、同日までに、原告は、本件各映画の字幕制作等の作業を行うことを了承した。
 そして、シネ・マイスターは、平成21年12月9日に、原告に対し、本件映画祭で上映するために翻訳を依頼したところ、シネ・マイスターは、その依頼と同時にDVDの発売についても触れてヒアリングの依頼をした(前記1(1)ア)。そして、原告は、ヒアリングの依頼を断った上で、わざわざコメンタリー(DVDの特典として作成されるもの)について、その翻訳の依頼を受ける旨回答した(同イ)。Cは、単に翻訳料だけでなく、DVDの作成のための具体的な作業であるスポッティングについても触れつつ翻訳料の確認をしており(同ウ)、同月13日の原告に対するメールにおいても、「DVDの発売」について、明記している。そして、Cは、同月22日、原告に作業表を送付したところ、そこには、個別の作業と具体的な金額、大まかな納期まで示されており、かつ、そこで納期として記載されていたのは本件映画祭が既に開始している平成22年2月末であったのであるから(同カ)、遅くとも、平成21年12月22日時点において、本件各映画(ただし、この時点では本件映画3についての合意はない。)の翻訳が本件映画祭のためだけではなく、DVDの発売のための翻訳であることを十分理解していたといえる。
 その上で、原告は、特に複製権及び頒布権について何らの留保もつけないまま仮ミックス作業の確認などのDVD製作のための作業をし(前記1(1)ク)、本件映画3に関する合意をし(同ケ)、DVD発売日を前提とする納期の相談をし(同コ)、報酬を請求した上(同サ)、本件商品1が販売された後も、本件商品1が販売された連絡を受け(同シ)、本件商品2から本件商品4までが販売される具体的な予定の連絡を受けた(同ス)。その上、ゾンビのテレビ放送がされる旨の連絡を受けても、楽しみにしている旨連絡し、他方、複製権や頒布権について何ら苦情を述べなかった(同セ)。
 これらの諸事実からすると、原告は、本件各字幕の複製及び頒布につき、DVDの販売全般及びテレビ放映に関しては、平成22年1月28日までにシネ・マイスターに対し、黙示的に許諾したと認められる。
 原告は、DVDの販売予定については知らされていたものの実際にDVDを販売する際には改めて許諾料等の話合いがされると考えていた旨主張する。しかし、原告は、実際に本件商品1が販売されたことを告げられ、さらに本件商品2から本件商品4までが販売される予定であることを告げられていたにもかかわらず、何らの質問も、許諾料等の支払の申入れもしていないのであり、このような態度からは、原告が原告主張のように考えていたとは認められず、原告も前記合意の時点では、少なくともDVDの販売全体について、黙示的に許諾していたと認められる。
ウ 次に、DVDを超えたビデオグラム商品の制作及び販売についての許諾、すなわち、本件においては、本件各字幕を使用したブルーレイの制作及び販売についても原告が許諾したといえるのかを検討する。
 まず、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスにおいても少なくとも平成22年1月28日までに、具体的にゾンビのブルーレイを販売する予定であったことを認めるに足りる証拠はない。そして、同年8月20日に被告ハピネットが被告フィールドワークスから独占販売権を得たのはDVDに限られ、実際にブルーレイを制作することが決まった後、改めて独占販売権についての契約がされた(前記第2の1(4))。そうすると、少なくとも、同年1月28日の時点において、被告フィールドワークスも被告スティングレイも、ブルーレイの具体的な販売については検討していなかったと認められる。他方、被告らが、同日より後にブルーレイの製造及び販売について改めて原告から許諾を得ていないことは、当事者間に争いはない。
 ここで、前記(2)のとおり、シネ・マイスターと原告との間で、被告フィールをワークス(ママ)が主張する「オールライツ・クリア」という合意をしたとは認められない。そして、Cは、原告に対してビデオグラムについての話をしたか尋ねられた際、「ビデオグラム」という表現はしていない可能性を認めており(証人C54頁)、Cが原告に対して「ビデオグラム」という語を使用して、原告との間で合意をしたとは認められない。前記1(1)の各メールを見ても、「DVD」の語は記載されているが、「ブルーレイ」の語は記載されておらず、「ビデオグラム」や「VIDEOGRAM」の語も一切記載されていない。また、dは、原告に対し、当初ビデオグラムでお願いした旨証言するが、dが原告と口頭で合意を得た旨は述べておらず、また、1(1)の各メールにおいて「ビデオグラム」や「VIDEOGRAM」の語も一切登場していないから、同証言によって、ビデオグラムで使用することについての合意が成立したと認めることはできない。
 もっとも、前記イのとおり、原告は、本件各字幕の複製及び頒布につき、DVDの販売全般及びテレビ放映に関し、平成22年1月28日までにしたシネ・マイスターとの合意において、黙示的に許諾した。そして、被告らは、DVDとブルーレイとを分けて許諾を得ることはあり得ない旨主張する。
 確かに、著作権等を買い取った被告フィールドワークスらはDVDとブルーレイとを分けずに広く許諾を得ることを希望していたと推測できる。しかしながら、本件では、原告と交渉したのはシネ・マイスターであり、また、本件では明示の許諾があったとは認められないという事情がある。そこで、シネ・マイスターが原告に対してどのように許諾を得ていたかをみると、前記1(2)のとおり、Cは、平成24年10月24日、原告に対し「チキン・オブ・サ・デッド」の翻訳を依頼する際、「ブルーレイにて単館上映、BD、DVDになります」と記載して、記録媒体としてブルーレイとDVDとの双方を記載して依頼したことがあり、シネ・マイスターが、原告との間で、常にDVDとブルーレイとを分けず依頼をしていたと直ちに認めることはできない。そして、本件においては、前記のとおり、「ゾンビ」に関するシネ・マイスターと原告とのメールでは、「DVD」の語の記載はあるが、「ブルーレイ」、「ビデオグラム」、「VIDEOGRAM」の語の記載は一切なく、また、原告の許諾が、TV放送はともかく、DVD以外の媒体に及ぶことをうかがわせたり、それが及ぶことを前提としたりする記載も一切ない。
 シネ・マイスターが被告フィールドワークスに対して送付した平成21年12月22日付け見積書の本件映画1(「ロメロ最長版」)の翻訳料の項目には、「(VIDEOGRAM+TV)」との記載がある(乙B3)が、前記(3)のとおり、Cが当該見積書をもとに作成して原告に送付した作業表には、「VIDEOGURAM(ママ)+TV」の文字や「VIDEOGRAM」、「ビデオグラム」などの文字の記載はない。なお、当該見積書には、本件映画2から本件映画5までの翻訳料、スポッティング料金等の記載があるところ、「(VIDEOGRAM+TV)」との記載があるのは本件映画1の翻訳料についてのみである。
 前記(3)で述べたとおり、本件各字幕翻訳のDVDでの利用に関する原告の許諾はシネ・マイスターに対して黙示的にされたものである。そして、原告とシネ・マイスターとの間でビデオグラムの語が使用されたとは認められない。被告フィールドワークスや被告スティングレイが、当時ブルーレイの製造及び販売を予定していたとはいえない。字幕翻訳の業界において、DVDについての許諾があった場合に当然にブルーレイ等についても許諾したことになることや関係当事者がそのことを当然の前提にしていたことを認めるに足りる証拠は本件において提出されていない。シネ・マイスターと原告との間において、ブルーレイの許諾に関係する直接的なやり取りはなく、また、ブルーレイの発売が将来的にされることや、DVDの制作、販売やそれについての許諾が当然にそれと異なる媒体であるブルーレイの制作、販売やそれについての許諾となることを前提として話がされていたことは認めるに足りる証拠はないし、かえって、DVDとブルーレイを区別して話されていたことがあった。
 本件においては、正式な契約締結や明示の許諾を得ることが容易にできた状況ではあったが、それらがないために黙示的な許諾の有無が問題となるところ、上記の状況によれば、平成22年1月28日当時、ブルーレイの製造及び販売について原告が黙示的に許諾したと認めることはできない。
(4)以上によれば、原告は、DVDの製造及び販売については許諾していたと認められるが、ブルーレイの製造及び販売については許諾をしたとは認められない。そうすると、ブルーレイである本件商品5から本件商品8までの製造及び販売について、原告の複製権及び頒布権の侵害がある。
4 争点2(本件商品字幕4を作成したことは、原告の同一性保持権を侵害するか)について
(1)本件商品1のDISC1に収録されている本件映画4に付された本件商品字幕4は、本件字幕4から「もはや政府がこの事態を」の部分を欠落させたものである。
 本件で問題となる著作物である本件字幕4は外国語の映画を翻訳した字幕である。外国語の映画の翻訳した字幕の作成作業は、映画内のセリフやナレーション等映画において録音されている外国語を逐語的に日本語に翻訳するものではなく、原語を適切に理解した上で、その話者の話す速度と視聴者が閲読し得る速度を勘案して、そのセリフやナレーション等の時間で視聴者が閲読できるように、適切に短縮し、また、言い換えるなどした日本語に置き換え、映画の内容を理解させるものである。
 本件商品字幕4は、本件字幕4の一部が欠落したものであり、その欠落の範囲が本件字幕4全体の中ではわずかであることから、本件字幕4の表現上の本質的な特徴を備えている。そして、本件字幕4のうち「もはや政府がこの事態を」の部分が連続して欠落していることで、日本語による鑑賞をする本件映画4の閲覧者は、少なくとも、この場面の前後の内容を理解できず、また、どのような欠落があったかを直ちに理解することもできない。このような著作物の性質や欠落の影響等に照らすと、この欠落は、「改変」であり、また、著作者である原告の「意に反する」ものであるといえる。
(2)また、本件商品字幕4における欠落部分は、本件字幕4中1箇所について、11文字が連続して欠落しているものであり、その原因は必ずしも明らかでないものの、本件商品1のディスク1以外のDVDやブルーレイにおいては同様の欠落が生じていないのであるから、この欠落が、編集上の都合その他の理由によってやむを得ず生じたものであると認めるには足りない。
 したがって、上記「改変」が著作権法20条2項4号の「やむを得ない」ものであるとは認められない。
(3)被告フィールドワークスは、原告の同一性保持権侵害による損害賠償請求は権利の濫用に当たる旨主張するが、以上に述べた事情からすれば、差止請求ではなく、本件で原告が請求する損害賠償請求について、権利の濫用であるとは評価できない。
(4)以上によれば、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、本件商品字幕4を作成したことにより、原告の同一性保持権を侵害したといえる。
5 争点3(本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までについて、字幕翻訳者として原告の氏名を表示しなかったことは、原告の氏名表示権を侵害するか)について
(1)本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までに原告の氏名が表示されていないことについては、当事者間に争いがない。
 そして、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までが発売された当時、原告が字幕翻訳者として自身の氏名を表示することを望まないとの意向を明示的に示していたことを示す証拠はなく、また、本件商品1のジャケットの裏表紙及び本件商品5の小冊子については原告の氏名が表示されている(甲57、争いがない事実)。
(2)被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、原告に対してDVDの販売を告知した際に原告が氏名の表示をしてほしい旨の要望をしなかった旨、及び原告が自身の氏名の表示を希望するのであれば、エンドロールに自身の氏名を表示すれば足りるにもかかわらず、原告はこれをしなかったのであるから、氏名不表示が原告の選択である旨を主張する。
 しかし、字幕翻訳者として生計を立てている者は、通常、自身の翻訳した作品に字幕翻訳者として氏名を表示されることに利益があると考えられ、かつ、本件に関する他の商品については氏名が表示されていたなどの本件における前記(1)記載の状況に照らせば、原告について、本件で通常と異なる状況があったとは認められない。原告に対してDVDの販売を告知した際に原告が氏名の表示をしてほしい旨の要望をしなかったといった事実や原告がエンドロールに自ら氏名を入れなかった事実があったとしても、それらが、本件において、氏名不表示が原告の選択であったことを裏付けるものとはいえない。
(3)被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、日本の映画業界において、字幕翻訳者からの要望がない限り、映画の作品に字幕翻訳者の氏名を表示するか否かは、商慣習上、映画の製造、販売業者の裁量に委ねられている旨主張する。
 しかし、本件において、そのような慣習の存在を裏付ける事実があると認めるに足りる証拠の提出はない。被告スティングレイ及び被告フィールドワークスは、製作者と翻訳者との契約書においては、一般的に「甲(製作者)は、その裁量においては、映画及びその他の機会において、乙(翻訳者)の氏名を、日本における字幕翻訳者の氏名表示慣行に従って表示する権利を有する」との条項が設けられることがあるとして、字幕翻訳者の氏名を表示するか否かは製作者の権限であるといえる旨も主張する。しかし、上記文言は、その文言上、製作者がその裁量において「日本における字幕翻訳者の氏名表示慣行に従って表示する権利」を有するというものであり、表示につき、日本の氏名表示慣行に従って表示することができることは定めているといえるが、これが氏名を表示しないことを許容するものであるとは直ちにはいえない。また、上記文言が、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが主張するように解釈されることを裏付ける証拠の提出はない。上記の契約書の文言自体は、一般的に製作者と翻訳者は翻訳者の氏名を何らかの方法で表示することを前提としていると理解することもできる。したがって、上記条項がある契約が締結されることがあることをもって、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが主張する慣習が存在することを裏付けるものとはいえない。
(4)以上によれば、原告は、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までの発売時点において、原告が本件各字幕の字幕翻訳者として氏名表示されることを望んでいたといえ、本件において、映画の作品に字幕翻訳者の氏名を表示するか否かが映画の製造又は販売業者の裁量によるとの商慣習を認めるに足りないところ、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までについて、字幕翻訳者として原告の氏名を表示しなかったことは、原告の氏名表示権を侵害したといえる。
6 争点4(消滅時効の成否)について
 被告らは、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までの各販売時点が消滅時効の起算日である旨主張する。同販売時点から、原告が、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までの各商品に原告の氏名が記載されていないこと及び本件商品5から本件商品8までの各商品に使用されている字幕が自身の翻訳したものであることについて認識していたと認めるに足りる証拠はない。
 また、原告が自認する平成30年10月8日以前に、原告が本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までの商品に原告の氏名が記載されていないこと及び本件商品5から本件商品8までの各商品に使用されている字幕が原告自身の翻訳したものであることについて認識していたと認めるに足りる証拠はない。
 なお、原告は、本件商品7について平成30年8月24日に購入した旨述べる一方で、照合用の字幕原稿の文字データのファイルの日付が同年10月8日であった旨述べている(甲57)のであって、仮に同年9月17日より前に本件商品5から本件商品8まで購入をしていたとしても、同年10月8日までは当該商品が原告の作成した字幕を使用したものであると認識することはできなかったといえる。
 そして、原告は、前記第2の1(6)イ及びウのとおり、令和3年9月17日、被告らに対し、原告の許諾なく第2事件各商品を販売して原告の著作権が侵害され、そのために本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品8までは1本当たり1540円の、本件商品5は14850円の及び本件商品9については1本当たり1410円の、損害が生じたことから損害賠償を請求する旨、並びに本件商品5を除き字幕翻訳者である原告の氏名が表示されておらず原告の氏名表示権が侵害され、その精神的苦痛を慰謝するために350万円の支払を請求する旨の内容証明郵便を送付し、同月21日、被告らに到達しており、その6か月以内である令和4年2月10日に第2事件の訴えを提起しているから、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが主張する平成30年12月末日を起算日とする消滅時効は完成していない。
 したがって、被告が主張する消滅時効はいずれも完成しておらず、その援用による債務の消滅は認められない。
7 争点5(被告ハピネットは、氏名表示権侵害並びに頒布権及び複製権侵害の責任を負うか)について
(1)前記3(1)の認定判断のとおり、第2事件各商品における複製行為は被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが行っており、被告ハピネットは商品完成後に被告フィールドワークスと販売のための契約を締結したにすぎないから、被告ハピネットは第2事件各商品の製造による本件各字幕の複製行為について、客観的にも主観的にも関与していないといえる。また、被告ハピネットは、被告フィールドワークスから交付された商品を独占的に販売する契約をしたものであるから、被告ハピネット自身は被告スティングレイ及び被告フィールドワークスから頒布を受ける顧客であり、その頒布行為には関与していない。したがって、被告ハピネットは、本件商品5から本件商品8までの複製権侵害及び被告スティングレイ及び被告フィールドワークスの頒布権侵害については、客観的な行為の共同はもちろん、主観的な行為の共同も認められないというべきであるから、これらについては、共同不法行為が成立する余地はない。
 他方で、前記3(1)の認定判断のとおり、被告ハピネットは、本件商品5から本件商品8までについて一般消費者やレンタル事業者に頒布していて被告ハピネットによる頒布行為が問題となる。
 また、前記5のとおり、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までについては氏名表示権侵害が成立するところ、被告ハピネットの販売時点において「公衆への提供」がされて氏名表示権侵害が生じている。そして、氏名表示権を侵害する本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までを制作したのは、被告ハピネット及び被告フィールドワークスであるから、氏名表示権侵害行為については、被告ハピネットも被告スティングレイ及び被告フィールドワークスとの客観的な行為の共同性が認められる。
 以上を前提に、被告ハピネットの責任を検討する。
(2)前記3(1)のとおり、被告ハピネットは、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスから購入した本件商品5から本件商品8までを購入しているのであって、被告ハピネットが購入した際、既に本件商品5から本件商品8までは既に完成していた。
 本件各商品は字幕付映画であって、被告フィールドワークスが、海外で製作され公開された「ゾンビ」の日本国内での独占販売権、独占放映権及び翻訳権を得て、新たに日本語の字幕を原告に作成させるなどして制作したものである。このような映画を制作し広く販売するに当たっては、その制作者が権利関係の処理を適正にしているのが一般的であるといえる。そして、前記第2の1(1)のとおり、被告フィールドワークスは、映画DVDやブルーレイ等の開発・販売等を業とする株式会社であり、映画製作の専門家であって、映画という多数の著作権等の権利の許諾を得ることが必要な商品を扱うことを専門とする業者である。被告フィールドワークスは、従前から専門業者として映画制作を行っていたところ、従前、専門の業者として必要な注意を欠いたことがあったなど、被告フィールドワークスにおける権利の処理に疑問をいだかせるような事情があったとは認めるに足りない。なお、被告フィールドワークスは、被告ハピネットに販売する際、商品の製造に必要な著作権その他の権利を保有していること及び被告ハピネットによる商品の販売が著作権及び著作者人格権侵害とならないことを保証していた(前記第2の1(4)ウ及びオ)。本件商品5から本件商品8までについて、原告から頒布の許諾を受けていないことについて、被告ハピネットが被告フィールドワークスとの契約内容や完成された本件商品5から本件商品8までを確認しても、被告フィールドワークスが原告から適切に許諾を得ていないことについて疑問を生じさせるべき状況はなかったといえる。以上のような事実関係の下においては、被告ハピネットについては、上記商品の頒布権侵害について過失があったとは認められない。したがって、その余を判断するまでもなく、被告ハピネットが頒布権侵害の損害賠償責任を負うことはない。
 他方、氏名表示権侵害については、前記(1)のとおり、侵害行為自体は被告ハピネットが行ったこととなる。そして、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から9までのジャケットに翻訳者の氏名が表示されていなかったのであって、前記5(2)のとおり、字幕翻訳者として生計を立てている者は、通常、自身の翻訳した作品に字幕翻訳者として氏名を表示されることに利益があるのであるから、被告ハピネットとしては、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から9までについてジャケット以外に字幕翻訳者の氏名が表示されているかどうか、仮に表示されていないとすれば字幕翻訳者が望まなかったのかどうか、疑問を生じさせるべき状況であったといえ、少なくとも、一般消費者又はレンタル事業者に販売する前に、これらの疑問について被告フィールドワークスの担当者に対し確認し、その回答に疑問があればさらに原告に確認すべき注意義務があったといえる。しかし、被告ハピネットがこのような義務を履行した事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告ハピネットは、氏名表示権侵害については過失があるといえる。
(3)したがって、被告ハピネットについては、複製権及び頒布権については損害賠償義務を負わないが、氏名表示権侵害については損害賠償義務を負う。
8 争点6(損害及びその数額)について
(1)同一性保持権侵害について
 原告が侵害された同一性保持権の範囲は、本件字幕4の全体が少なくとも1600行以上あるうちの1行分であり(乙A21、乙B28)、著作物である本件字幕4の全体と比較すると、欠落部分はごくわずかな部分にすぎない。また、その表示される期間も3秒程度の短い間であって、一般の消費者が理解できない範囲も限定的である。そのほか、本件の同一性保持権の侵害が被告スティングレイ及び被告フィールドワークスによる過失により生じたものであり、その態様も単に欠落しただけであり、原告が制作した字幕自体に付加訂正等がされたものでなく欠落部分以外は原告の制作した字幕が維持されていることなどを踏まえると、原告が被った精神的苦痛を慰謝すべき金額は1万円であると認めるのが相当である。
(2)氏名表示権侵害について
 本件商品2、本件商品6及び本件商品9は本件字幕付映画1を、本件商品3は本件字幕付映画2を、本件商品4及び本件商品8は本件字幕付映画3を、本件商品7は本件字幕付映画2及び本件字幕付映画4をそれぞれ収録したものである。そして、本件字幕付映画3に付された本件字幕3は、本件字幕付映画1に付された本件字幕1を短縮して作成されたものであり、本件字幕付映画2に付されている本件字幕2も新たに翻訳された部分(10分)があるとはいえ、その大部分が本件字幕1と同一の翻訳部分である。そして、一般の消費者においても、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品9は本件商品1の各ディスクと同一の商品であり、本件商品6から本件商品8までは本件商品5の各ディスクと同一商品であることが理解できるところ、本件商品1のジャケット及び本件商品5の小冊子には、原告の氏名が表示されていた。これらの事実関係を踏まえて考えると、本件商品2から本件商品4まで及び本件商品6から本件商品9までの各商品の販売により原告の氏名表示権が侵害されたことにより生じた精神的苦痛を慰謝すべき金額としては、商品ごとに7万円であると認めるのが相当である。
(3)複製権及び頒布権侵害について
 本件では、ブルーレイである本件商品5から8までについて、原告の承諾なく、複製及び頒布がされた。そこで、原告は、その著作権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」を請求することができる。
 ここで、原告は、本件において、翻訳対象の映画の時間当たりの単価で定まる翻訳料の支払を受けた上で、本件各字幕を利用したDVDの制作、販売について黙示的に承諾した(前記3)。また、原告は、平成24年11月20日、Cから、「チキン・オブ・ザ・デッド」の翻訳料を定める際、オールライツ込みで10分1万7000円と定めた(甲21、乙B10、11)。
 もっとも、本件においては、ブルーレイの制作、販売については許諾がなく、それに関して著作権侵害があったといえる以上、原則として、その部分について著作権者が「受けるべき金銭の額」があるといえるし、原告が黙示的に許諾したDVDの制作、販売とその許諾がないブルーレイの制作、販売とは別の行為であり、被告フィールドワークスらがブルーレイの制作、販売により本件各字幕を利用し利益を得たといえることなどからすると、「受けるべき金銭の額」がないといえる特段の事情があるとも認められない。
 そして、許諾について当事者間に合意がある場合、対象映画の時間当たりの単価その他の一定の基準で許諾の対価も含めた翻訳料が定められることがあるとしても、許諾がない以上、「受けるべき金銭の額」を著作物が利用された商品の販売額に応じて定めることができるというべきである。
 もっとも、本件商品5から本件商品8まではいずれも映画であるところ、映画は監督や俳優、衣装、照明、美術等の多数のスタッフが関与して制作されるものである上、字幕だけでなく音楽等についての権利も含まれる商品であること、原告はDVDについては本件各字幕の利用を黙示的に許諾していたといえるところ、それも踏まえた本件の翻訳の費用が69万1000円であったこと(前記第2の1(3)エ)、他方、ブルーレイについて事前の許諾がないまま、制作、販売されたという事情があることなどを併せ考慮すると、本件における「受けるべき金銭の額に相当する価格」は、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが被告ハピネットに出荷した出荷数に販売価格を乗じた価格の1%程度と認めるのが相当である。そして、本件商品5の税抜価格は1万3500円、本件商品6から8までの税抜価格は4700円であり、その出荷数量は本件商品5が4200セット、本件商品6が2880枚、本件商品7が800枚及び本件商品8が880枚である(争いがない事実)。そうすると、被告スティングレイ及び被告フィールドワークスが被告ハピネットに出荷した出荷数から算出される売上金額の1%の金額は以下のとおり合計78万1320円であるから、複製権及び頒布権侵害についての損害は同額と算定するのが相当である。
ア 本件商品5について
1万3500円×4200×0.01=56万7000円
イ 本件商品6について
4700円×2880×0.01=13万5360円
ウ 本件商品7について
4700円×800×0.01=3万7600円
エ 本件商品8について
4700円×880×0.01=4万1360円
(4)弁護士費用相当額について
 各損害額の10%相当額が、相当因果関係のある損害であると認められる。
(5)小括
 以上をまとめると、本件各商品に関する損害額は以下のとおりとなる。
ア 本件商品1(同一性保持権侵害の慰謝料及び弁護士費用相当額)
1万1000円
イ 本件商品2(氏名表示権侵害の慰謝料及び弁護士費用相当額)
7万7000円
ウ 本件商品3及び本件商品4(氏名表示権侵害の慰謝料及び弁護士費用相
当額)
合計15万4000円
エ 本件商品5(頒布権侵害の損害及び弁護士費用相当額)
62万3700円
オ 本件商品6から本件商品8まで
氏名表示権侵害の慰謝料及び弁護士費用相当額合計23万1000円
頒布権侵害の損害及び弁護士費用相当額合計23万5752円
カ 本件商品9について(氏名表示権侵害の慰謝料及び弁護士費用相当額)
7万7000円
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文の限度で理由があるが、その余は理由がないから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 杉田時基
 裁判官 仲田憲史は差支えのため、署名押印できない。
裁判長裁判官 柴田義明


別紙 映画目録
1「ゾンビ ディレクターズ・カット版」
2「ゾンビ ダリオ・アルジェント監修版」
3「ゾンビ 米国劇場公開版」
4「コメンタリー」
5「特典」
 以上

別紙 商品目録
1 DVD「ソンビ 新世紀完全版5枚組DVD−BOX」(品番STDX−0007)
2 DVD「ゾンビ ディレクターズカット版」(品番BBBF−8624)
3 DVD「ゾンビ ダリオ・アルジェント監修版」(品番BBBF−8625)
4 DVD「ゾンビ 米国劇場公開版」(品番BBBF−8626)
5 ブルーレイ「ゾンビ 製作35周年記念究極版ブルーレイBOX」(品番BBXF−9409)
6 ブルーレイ「ゾンビ ディレクターズカット版」(品番BBXF−2061)
7 ブルーレイ「ソンビ ダリオ・アルジェント監修版」(品番BBXF−2062)
8 ブルーレイ「ゾンビ 米国劇場公開版」(品番BBXF−2063)
9 DVD「ゾンビ ディレクターズカット版」(レンタル用)(品番50DRT−20707)
 以上

(別紙)対比表
1 本件字幕4(一部)
 1151 そうだね
 1152 テレビはいつも討論だ
 1153 もはや政府がこの事態を
 1153.01 収拾できないことが明らかになり
 1154 駄弁を弄している(「弄」に「ろう」とルビを振っている)
2 本件商品字幕4(一部)
 1511 そうだね
 1152 テレビはいつも討論だ
 1153.01収拾できないことが明らかになり
 1154 駄弁を弄している(「弄」に「ろう」とルビを振っている)
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