判例全文 | ||
【事件名】ベイコムへの発信者情報開示請求事件 【年月日】令和6年4月25日 大阪地裁 令和5年(ワ)第11319号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和6年2月26日) 判決 原告 P1 訴訟代理人弁護士 田中圭祐 同 吉永雅洋 同 蓮池純 同 鈴木勇輝 同 村松誠也 同 神崎建宏 被告 株式会社ベイ・コミュニケーションズ代表者代表取締役 訴訟代理人弁護士 野間督司 同 伊藤芳晃 訴訟復代理人弁護士 下原絢菜 訴訟代理人弁護士 林一弘 同 大谷俊彦 同 梶井規貴 (本判決では、標準的に用いられる字体を使用している。) 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本判決で用いる主な呼称 (1)本件投稿:別紙投稿記事目録記載の投稿 (2)本件画像1ないし4:別紙作品目録記載1ないし4の各画像 本件画像1ないし4を総称して本件各画像 (3)本件発信者:本件投稿を行ったアカウントにログインをした氏名不詳者 (4)法:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 (5)本件サービス:インターネット上の短文投稿サービス「X」 (6)本件サイト:本件サービスが提供されるウェブサイト 2 訴訟物 本件各画像に係る著作権(複製権及び公衆送信権)侵害を理由とする法5条2項に基づく発信者情報開示請求 3 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実) (1)当事者 ア 原告は、本件各画像の作成者である(甲15)。 イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社であり、法5条2項の関連電気通信役務提供者に該当する。 (2)本件投稿 株式会社ラウンドワンは、令和4年6月15日及び同年12月20日、本件サービス上の同社のアカウントにおいて、クレーンゲームの景品として使用するラウンドワン限定のキャラクターを募集する投稿(以下「本件募集投稿」という。)を行った(甲7、8、11)。 本件発信者は、同年12月22日、本件サービスに開設したアカウント(別紙投稿記事目録のユーザー名欄記載のアカウント)を通して、本件各画像を添付して、別紙投稿記事目録の投稿内容欄記載の内容の本件投稿を行い、本件募集投稿に対する返信をした(甲2)。 (3)被告による本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。 4 争点 本件の争点は、本件各画像に係る原告の著作権が侵害されたことが明らかであるといえるかである。 第3 争点に関する当事者の主張 【原告の主張】 1 本件各画像が著作物であること 本件各画像は、いずれも原告が画像編集ソフトで作成した漫画であり、そのイラスト、セリフ等に原告の個性が現れているから、美術の著作物(著作権法2条1項1号、10条1項4号)に該当する。 2 原告の著作権が侵害されたことが明らかであること 本件投稿は、原告に無断で、本件各画像をインターネット上に掲載するものであるが、かかる行為は、サーバへのアップロードを必然的に伴うものであることから、当該サーバに本件各画像を有形的に再製するものとして、本件各画像に係る原告の複製権を侵害する。 また、サーバへのアップロードは、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録するものであるから、送信可能化に該当し(著作権法2条1項9号の5イ、同項9号の4、同項7号の2)、本件各画像に係る原告の公衆送信権(同法23条1項)を侵害する。 3 引用に該当しないこと 著作権法上の「引用」に当たるには、その目的として、他人の著作物を引用して利用することを正当化する程度の事情があることが必要である。本件投稿は、私企業に対してプライズ化を希望するという目的でされており、かかる事情に該当しない。特に、本件投稿は原告を揶揄する挑発的な意味合いで行われたものであって、公正な慣行にも合致しない。 【被告の主張】 1 本件各画像が著作物でないこと 本件各画像のうちイラスト部分は、白色の円や星等の模様が入った目、山形の眉毛、ギリシャ文字オメガ「ω」のような形をした口、桃色楕円形の頬等のありふれたデザインのパーツを、ありふれた組み合わせで構成したものにすぎず、また、本件画像3及び4のセリフやシナリオ部分は、ありふれた表現である。 したがって、本件各画像は創作性を欠き、著作物に該当しない。 2 引用に該当すること 本件各画像は、原告の作品である「おんねこ」の補足説明資料として添付されており、「引用」されている。 また、本件投稿はプライズ化の是非に関する「批評」目的でなされたものであること、出所が明示されていること、さらに、本件投稿によって原告に経済的打撃は生じていないことから、本件投稿は、公正な慣行に合致したものである。 したがって、仮に、本件各画像が美術の著作物に該当するとしても、本件投稿は、「引用」(著作権法32条1項)に該当する。 第4 当裁判所の判断 1 争点(本件各画像に係る原告の著作権が侵害されたことが明らかであるといえるか)について (1)本件各画像の創作性について 本件画像1は、フード付きの上着を着て、後ろ足で直立する猫が、前足を腰に当て、後ろを振り返った様子をイラストにしたものであり、全体的に丸みを帯び、頭部を大きく後ろ足を太く短く描くなどすることで、その表情に強い印象を持たせるとともに、親しみやすく愛らしい印象を与えている点等において、選択の幅がある中から作成者によってあえて選ばれた表現であるということができる。 本件画像2は、机上に置かれたタルト様のお菓子を三体の動物が見つめる様子をイラストにしたものであり、全体的に丸みを帯び、頭部や顔のパーツを大きく曲線で描くなどすることで、お菓子を見つめる動物の表情に強い印象を持たせるとともに、愛らしい印象を与えている点等において、選択の幅がある中から作成者によってあえて選ばれた表現であるということができる。 本件画像3及び4は、本件画像1及び2と同様の特徴を有するイラストに加え、登場人物のセリフ等が挿入された漫画であり、同イラストのほか、セリフ部分についても、選択の幅がある中から作成者によってあえて選ばれた表現であるということができる。 したがって、本件各画像は、作成者の思想又は感情が創作的に表現されているといえ、美術又は言語の著作物(著作権法2条1項1号、10条1項1号、4号)であると認められる。 (2)本件各画像に係る著作権侵害について 前提事実(2)のとおり、本件発信者は、本件サービスを利用して、本件各画像を添付して、本件投稿をしたところ、この行為は、本件各画像を有形的に再製するとともに、インターネットを通じて本件サイトないし本件投稿にアクセスした不特定又は多数の者に、本件各画像を閲覧できる状態に置くものといえる。 したがって、本件投稿は、本件各画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであると認められる。 (3)引用の抗弁について 被告は、本件投稿において、原告の作品である「おんねこ」の補足説明資料として本件各画像が添付されていることなどを指摘して、適法な引用に該当する旨を主張する。 しかし、証拠(甲2、8ないし11、13、14)によれば、本件投稿の文章部分は、原告が本件募集投稿に対して行った投稿の文章部分、具体的には「自薦ですが応募させてください。温泉が好きなネコの漫画を描いています。温泉×ネコという究極の癒しがプライズ化されたら、たくさんの人を笑顔にできると思います。ROUNND1様と一緒にぜひ癒しと笑顔を届けられたら嬉しいです!」という内容に一部改変を加えた形で本件募集投稿に原告の意に沿わない形で応募するという内容になっていることが認められる。 この事実に弁論の全趣旨を総合すると、本件発信者の行為は、原告の作品や原告の応募を揶揄ないし茶化すものと評価できるのであって、本件投稿において本件各画像が利用されたことが、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われたとは認められず、その他、これを認めるに足りる事情はない。 したがって、本件投稿における本件各画像の掲載が、著作権法32条1項に定められた適法な引用に該当するとは認められない。 (4)以上に加え、本件の全証拠によっても、その他、違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情は見当たらないことからすると、本件投稿により本件各画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかであると認められる。 2 正当な理由 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定していることが認められる。したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 第5 結論 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 峯健一郎は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 松阿彌隆 (別紙)発信者情報目録 別紙ログイン情報目録IPアドレス欄記載のIPアドレスを、同目録ログイン日時欄記載の各日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げる情報。 1 氏名又は名称 2 住所 3 電話番号 4 電子メールアドレス 以上 (別紙)投稿記事目録
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